王のビレイグアカデミア   作:INANO

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『その笑い方をやめろ』
そう言ったあなたたちは、周囲の人間に向けて
コピー機で量産したような同じ笑顔を振り撒く。
人に合わせて、自分という人間を殺す。
それが普通に生きるということならば
この世界に私が生きる意味はあるのだろうか。
私にとってはそんな量産された笑顔の方が異常に映る。
その笑い方を、やめろ。




惹起

 

 事件後、病院へと運ばれた金木は、医師の診断と精密検査を受けた。

途中、憔悴(しょうすい)しきった様子で飛び込んできた祖母に事情を説明すると顔を蒼白(そうはく)にさせていたが、元気そうな金木を見て、いくらか冷静さを取り戻していった。

 

そして、現在は精密検査の結果待ちのために、待合室で祖母とともに自動販売機で買ったカップのコーヒーに口をつけている。

 

「…あら、美味しくないわね。このコーヒー。」

 

「うん、あんまり美味しくはないね。」

 

顔を(しか)める祖母に対し、金木は苦笑して応える。

 

「…あの、心配かけてごめんね。」

 

「孫の心配なんて毎日でもしていたいくらいよ。心配できなくなるより何倍もいい。でもね、無茶をしてほしいわけじゃないのよ?…自分の身体を大切になさい。」

 

祖母の切なくも優しい言葉に、「ありがとう」とだけ返した。

 

ほどなくしてアナウンスで自身の名を呼ばれた。

祖母とともに医師の待つ診療室へと向かう。

 

「金木くんの身体には異常は見当たりませんね。至って普通!健康体と呼ぶには些か貧弱ですが!普通のもやしっ子ですな。」

 

 ガハハハハと豪快に笑いながら、医師が告げる。

金木も祖母も、あまりにもあっさりとしていて拍子抜けしてしまった。

 

「今回は本当に個性に救われましたね。少々貧血気味ですが、身体の組織には普通に何の問題も認められませんでした。ただ、金木くんは個性の影響か血液型が“特殊型”でしょう?」

 

「ほかの特殊型の患者さんにも普通に勧めてるんですが、自分の輸血用にたまに貯血(ちょけつ)しておいた方がいいと思いますねぇ。幸い、うちの病院は貯血に適した個性持ちの医師がいます。金木くんの場合は、多少の怪我は普通に治せるでしょうが、大怪我や大病なんかで輸血できないと、普通に手術すら受けることができませんからね。」

 

 

 この超常社会において血液型は大別して5種類に分けられている。

A、B、AB、O型という従来の分類に加え、特殊型という血液型が存在する。

特殊型といっても、ベースは従来の4種類と変わらない。

だが、例えばA型であっても個性の影響で血液中に特殊な成分を持っていたりすると、特殊型に区分される。

輸血などの時に、同じA型の血液でも拒絶反応が出ることがあるのだ。

金木の場合、血液型はAB型だが、血中に特殊な成分を含むため、特殊型に分類されている。

 

この世界において特殊型は珍しいことではない。

だが、A型の特殊型同士なら輸血できるかといえば、それは不可能だ。

ベースの血液型が同じでも、特殊型は多くの場合、自身の血液のみしか受け付けない。

だからこそ、貯血が必要になるのである。

個性のなかった時代は、自己血であっても、献血で募ったものであっても、血液は長期の保存ができなかった。

だが、個性がそれを可能にするのが、この世界だ。

もちろん、ヒーロー免許のように特別な資格が必要だが、病院などの医療機関はその認可がおりやすいらしい。

 

「これまでも何度か勧められてたんですが、どこか他人事のように考えてしまってました。貯血、してみます。」

 

「うん、普通にそれがいいね!まぁ異常なしとはいえ貧血気味なので今日はやめときましょう。金木くんが来られる時に来て、受付で自己血の貯血って言えば、いつでも普通にできるから。」

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

「はい、ではお大事に〜!」

 

金木は大事なかったことに胸を撫で下ろし、「フランクな医者だったね」と談笑しながら、祖母とともに病院を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渡我(とが)さーん。渡我被身子(とがひみこ)さーん!」

 

 2人が病院のロビーを出た頃、先程まで金木がいた診察室に新たな患者が呼ばれた。

名前を呼ばれて診察室に入ってきた少女は、先程の事故で金木が救った少女だった。

金木と同じように病院に搬送され、別々に精密検査を受けていたのだ。

 

 

「渡我さんも身体に異常は見当たりませんねぇ。至って普通の健康体!普通の健康優良女子!ほんのちょーっと内出血してるのと、膝が擦り剥けちゃってるけど、全然問題なし!」

 

「そうですかぁ、ありがとうございました。」

 

またもガハハハハと豪快に笑いながら告げる医師に対し、渡我被身子はニコニコと笑いながら応える。

 

「ところで、私を助けてくれた少年は何ていう名前なんです?」

 

「お、助けてくれた少年に恋しちゃったのかな!?くぅー、青春だね!普通に羨ましいね!」

 

楽しそうにサムズアップして応える医師だが、さすがに患者の個人情報は言わなかった。

渡我もしつこく追求はせず、病院を後にしたのだった。

 

 

(普通普通うるさいお医者さんでしたねェ。)

 

(お名前教えてくれなかったからフルネームは分からないけど……)

 

(制服からして同じ学校だねェ———カネキくんっ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は事故が起こる少し前に戻る。

 

渡我被身子は下校中、横断歩道を渡りながら膝から血が出ていることに気づいた。

どうやら体育の授業中に擦り剥いてしまったようだ。

彼女は個性の影響で、血に強い執着心を持っている。

両親からは普通であれと抑圧されてきた。

だが、もう己を抑えるのは限界寸前だった。

 

(もう自分の血でもいいからチウチウしたい。)

 

そう考えた時には、もうしゃがみ込んで膝の血を吸おうとしていた。

だが、それとほぼ時を同じくして後ろから大きな悲鳴が聞こえた。

 

ふと顔をあげる。

すると、眼前には大きなトラックが迫っていて、血のことも忘れて呆然としてしまう。

悲鳴もトラックの走行音も消えて、急に激しさを増した自分の鼓動の音だけが聞こえる。

身体はピクリとも動かない。

 

と、そんな彼女の身体に、突如、衝撃がきた。

 

衝撃がきたのは、トラックが迫る方向からではなく、真横から。

訳が分からないまま飛ばされていく視界の中で、ほんの一瞬、少年の微笑みを見た気がした。

微笑んだと理解するには短すぎる時間で、少年の姿は見えなくなった。

 

そして、その代わりに鮮血が舞う。

 

まるでスローモーションだ。

血の一滴一滴まで見えるようで、渡我にとってそれはもう幻想の世界のようだった。

大きな衝突音がしてスローモーションが終わり、アスファルトに背中から着地した。

そこでようやく、自分が少年に蹴り飛ばされて助けられたことを理解した。

 

そして、このあと渡我は生涯忘れることのできない光景を見た。

 

血で彩られた一帯の中、少年の左眼を彩る より一層の赤。

周囲の赤を統べる王様みたいだ。

超常の社会でありながら普通を強いるこの混沌の世界で、これほど美しい光景に出逢うことはこの先ないだろう。

 

渡我被身子は、カネキと呼ばれていたあの少年に恋をした。

 

 




血液関連の話は本作独自の捏造設定です。
あと、読み直すと序盤の話は駆け足感がすごいですね。
すみません。
だって、私は、早く明るい話が書きたいんです!
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