「反省と後悔は違う」だとか
よく聞く言葉だよな。
でも、そんなことはどうだっていいんだ。
大事なのは、間違いに気付いた時に正すことを躊躇わないこと。
後悔したっていい。
反省したっていい。
俺はもう躊躇だけはしたくない。
事故の翌日。
金木は「念の為に安静に」という医師の言葉通り、学校を休んで自宅にいた。
安静にしているとはいっても、そもそも身体に不調を感じていない。
それに、学校に行っても家にいても、やることはほぼ変わらない。
起き抜けにそんなことを考えつつも、せっかくの休みだと頭を切り替え、今日はベッドの上で本でも読んでいようと決意した。
そんな、いつも通りの日常をいつも通り
今読み進めているのは、ヒーローの
家族を殺され、ヴィランを憎むがあまり、法のもとで裁くことに限界を感じて殺人者へと堕ちていくヒーロー。
自由気儘に個性を使って悪事を働いていたが、ある日、自分のせいでヴィランに大切な人を殺され、ヴィジランテとして人を救うことを決めたヴィラン。
2人の主人公の分かりやすい対比と、痛々しいまでの心理描写が話題を呼んでいる。
そんな2人がどう交わり、どう変わっていくのか………
いよいよストーリーが終結に向かっていきそうな展開に、金木はページを
—————ノックの音が聞こえた。
「研、入るぞ。」
ノックの相手は父だった。
父は部屋に入ってくるなり、金木の部屋をキョロキョロと見る。
部屋に入ってきたのは、いつぶりだろうか。
そもそも、こうして父から会話を試みてきたのはいつぶりだろうか。
そんなふうに考えながら、金木は父に尋ねる。
「父さんだったんだね、てっきりおばあちゃんかと。どうしたの?」
「いや、…身体は大丈夫なのか?」
「あ、うん。もう全然なんともないよ。自分でもよく分からないんだけど、個性で治ったみたい。」
「そうか…。」
金木は正直に言って、自分と会話を試みる父に面食らっていた。
だが、考えてみれば当然だ。
息子が事故にあったと聞いて、無視するほど薄情な人間ではないのだ。
自分を心配してくれていたことを素直に嬉しく思う。
「あまり無理はするなよ。お前は母さんに似て他人に優しすぎるところがある。」
「…うん、ありがとう。父さん。」
少しぎこちなくも、二人は微笑み合う。
自分も父も溝を埋めようと思っていない——金木はそう考えていた。
だが、それは間違いだ。
父との距離の測り方が分からなかった自分が、自分にそう言い聞かせて逃げていたのだ。
その溝を今、父は埋めようとしている。
ならば自分も歩み寄りたい、そう思う。
その後も、少し言葉を交わした。
数分ほどそうして実のない会話をした後、父は「仕事に戻る」と言って出て行った。
父を見送って、金木は一度だけ頬を緩めたあと、本の続きを読み始める。
そして、数時間後。
(これ…完全に何作か続編出るやつだ。)
一応、ストーリーは結ばれているが、根本の問題は何も解決していない。
続きが気になる終わり方に読了感があまり感じられず、金木はひとつ溜息をついて身を起こした。
(話題作なだけあって、すごい惹き込まれる作品だったけど、続きいつ頃発売されるんだろ?)
せっかく学校を休んだのに読む作品のチョイスを間違えたな、と思う。
素晴らしい作品ではあるが、これは金木としては完結してから一気読みしたい作品だ。
でも、続編が出たらすぐ買っちゃうんだろうな…と苦笑する。
時計を見やると、時刻は14時前。
朝食も昼食も摂らずに部屋に引きこもってしまったことに気づき、祖母がいるであろうリビングへと足を向けた。
「これ以上降りてこないようなら様子を見に行こうかと思っていたところよ。どうせずっと本でも読んでたんでしょう?」
いつもの悪戯っぽい表情でリビングから祖母が声をかけてくる。
金木は笑ってそれを肯定しつつ、遅めの昼食の準備のためキッチンへと向かう。
金木家は、基本的に祖母と金木の二人で家事を分担している。
当番制ではなく、気がついたら気がついた方がやる、というスタンスである。
といっても、金木は学校もあるので、まぁほとんどは祖母がやってくれる。
そもそもここは祖母の持ち家で、父は母と暮らしていた別宅に住んでいるため、ここには二人しか住んでいない。
だから、そこまで家事は大変ではないが、小学生の頃からそうしてきたので、金木の家事スキルは高い。
慣れた手つきでオムライスと簡単なスープを作ると、ダイニングで遅めの昼食を
食事を終えると、祖母がコーヒーを淹れてくれた。
「父さんが心配して来てくれたよ。」
「…そうかい。」
そのコーヒーを飲みながら、テーブルで向かい合っている祖母にポツリと伝えた。
もちろん、祖母も家にいたから父が来たことは知っているだろう。
それでも金木は祖母に伝えたかったし、祖母もまた金木が照れ臭そうにそう伝えてくれることを嬉しく思った。
翌日、金木は何事もなかったかのように登校した。
だが、教室のドアを開けた金木を見ると、クラスメイトは一様に目を逸らした。
その僅かな動作で、金木は彼らの心中を察した。
自分が轢かれた後のあらましは聞いている。
個性の影響とはいえ、化け物じみた肉体再生を目の当たりにした生徒は気味が悪いだろう。
父との関係が少し改善できたと思っていただけに、少しだけやるせない気持ちになる。
だがまぁ、普段から関わりが薄いクラスメイトとの関係が、さらに希薄になっただけだ。
イジメに発展しなかっただけマシだ、と金木は自分を納得させた。
幸いもうすぐ冬休みで、進級もすぐだ。
関係の改善にやっきになることもない。
そうして、クラスメイトと一切会話することなく、学校復帰1日目は終わった。
帰り道。
少し寂しそうに歩く金木に黒塗りの車から声が掛けられた。
「研、今帰りか?家まで送ってやるから乗りなさい。」
声をかけてきたのは父だった。
職務中だろうに大丈夫なのだろうか、と苦笑しながら金木は車へと乗り込んでいった。
車内は冬だというのに暖房もついておらず、先程まで吸っていたのだろう煙草の匂いが漂っていて、父の車だなぁと感じる。
少しだけ車を走らせたところで、「ちょっとコーヒーでも飲んでくか?」という父の提案にのって、少し家から離れた喫茶店へと場所を移す。
祖母も金木もコーヒー好きということもあって、たまに二人で喫茶店巡りのようなことをしているが、初めて入る喫茶店だった。
店内は程よい暖房が効いていて、焙煎した豆の香りとジャズの音色がゆるやかに流れている。
純喫茶然とした雰囲気に、金木は穴場を見つけたと心の中でサムズアップを父に贈る。
注文したブレンドコーヒーを口に運びつつ、父は少し目を泳がせながら口を開いた。
「……実は、今日は研に伝えたいことがあって、通学路で待っていたんだ。」
その言葉に金木もカップを置いて、父の顔を正面から見据えて相槌を打つ。
「今まで………、すまなかった。」
「…研も薄々気づいていただろうが、俺はお前のことを少し避けていた。実の息子なのにだ。何を言っても言い訳にしかならないし、この謝罪ですら俺の自己満足の
父の苦しげな謝罪を、金木は右手をかざして止める。
「ストップ! 父さん、謝るのは僕も同じだ。父さんと距離をとってたのは僕もだ。」
「…おばあちゃんが昔言ってたんだ。父さんは母さんを大切に思いすぎて、周りが見えてなかったんだって。だから、僕はそんな父さんを恨んでない。」
「いや、だが…」
「そんな謝罪の言葉なんかより、もっと話したいことがあるよ。今日あったこととか、おばあちゃんと話したこととか、最近読んでいる本のこととか、父さんに伝えたいこといっぱいあるんだ。それに母さんのことも、もっと知りたい。聞きたいことだって山積みだ。」
父の言葉を遮って、困ったように眉を下げながら金木は微笑む。
そんな金木を見て、父は心にこびりついて
ああ、自分はなんて情けない父親だ。
本来なら父親を名乗ることすらすべきではないというのに、この子は自分を父親であり続けさせてくれる。
親がいるから子どもが生まれる、だが同時に子どもがいるから親でいられるのだ。
なんと立派に育ったことか。
もうすでに上がらないが、義母には本当に頭があがらないな。
そんなことを思い、一筋頬に涙がつたった。
涙を流す父を見て金木は少し慌てたが、父はただ一言「ありがとう。」と、深々と頭を下げながら言った。
次に顔をあげた父は憑き物が落ちたように朗らかに、「母さんの話をしようか。」と笑った。
「母さんも俺も、昔はヒーローをやってたんだ。」
母と父の話は、そんな言葉から始まった。
何が言いたいのか分からない回。
繋ぎ回。何も起きない回。
そしてカネキ…そんな達観した中2男子はいない。
だいたいの中2男子は部活と邪気眼とエロいことの3つしか考えてない。(自社調べ)