私はいつもあの人の前を歩いた。
振り返ってあの人の顔を見る、それが幸せだった。
でもヒーローになってからの私は
自分のことで精一杯で、振り返ることをやめた。
あの人に救けを求めて振り返った時
あの人はもうそこにはいなかった。
絶望した私は、前だけを見ることにした。
長い長い時が経って、
私には隣で一緒に前を見てくれる人が現れた。
きっと私もそうすべきだった。
ごめんね、さようなら。
今から20年以上前、金木の父・
彼はヒーローとして活躍していた。
シンプルな肉体強化の個性を用いて、日々ヴィランと戦っていた。
ある大規模な爆発を伴う災害現場で、彼は人々を治療している女性のヒーローと出会った。
彼女は細胞を活性化させる個性を持ち、その個性で、負傷した人の治療にあたっていた。
まだ20代にもなっていないのでは?という幼さでありながら、その姿はまるで女神のようで、彼はその姿にしばし見とれてしまった。
それが、のちに彼の妻、つまり金木の母となる女性との出会いだった。
彼女の名は
それ以降、現場でたびたび顔を合わせるようになった二人は互いの距離を縮めていった。
だが、ある事件で、彼女が決して軽くない怪我を負うほどの激しい戦闘を経て、ようやく彼が拘束したヴィランを彼女が治療をしたことで、口論へと発展してしまう。
「なぜヴィランを治療する必要があるんだ!君をそんなになるまで傷つけたヤツだぞ!?」
そう
「命は命ですから。」
その言葉と顔にハッとさせられたが、それでも、納得などできない。
そんな彼に向けて、彼女はなおも言葉を紡ぐ。
「私の個性、知ってますよね?『
「細胞の活性は何も治療だけに使える個性ではないんです。触れなければ発動できませんが、触れることさえできれば私の個性は人体を破壊できます。」
いつもの悲しみを含んだ微笑みではなく、感情の込もらない瞳に少し背筋が冷える。
「ヴィランは倒すもの。ヒーローはヴィランを倒すための存在。強敵を相手にする時は個性の手加減も出来ませんでした。そうやって来る日も来る日もヴィランを倒しているうちに、すごく悲しくなったんです。」
「私の個性は人を壊すことしかできないのか、って。……ヴィランを倒すことはもちろん必要です。でも、罪を犯した人間でも命は命なんです。ヴィランを更生させることだって必要なんです。」
「…私ね、ヒーロー辞めてカウンセラーになろうと思うんです。」
そうやって何かを振り切るように笑った彼女を見て、何も言えなくなってしまった。
しばらくして、彼女は宣言通りヒーローを辞めてカウンセラーに転職した。
個性に悩む子どもたちや、災害や事件で心に傷を負った患者を癒し、そしてヴィランの更生に努めるその姿は、彼にとってはさらに
だが、彼はヒーロー業に忙殺されていた。
彼女に会いに行く気概もそんな暇もなく、ただ遠巻きに彼女を何度か見かけただけ。
そんな風に日々を過ごしていると、いつの間にか彼女と最後に言葉を交わしてから2年の月日が経過していた。
そんなある日、彼はヴィランを追い詰めすぎてしまう。
追っていたヴィランが、目の前で自ら命を絶ってしまったのだ。
涙をボロボロと流しながら「お前のせいだ」と笑って死んでゆく。
そのヴィランの姿が頭から離れず、彼の心は引き裂かれ、ノイローゼになってしまった。
そんな彼を見かねた上司が連れて行ったのが、彼女のいるカウンセリングサロンだった。
「事情はお聞きしました。」
「こんな形になってしまいましたが、私はあなたと再会できて嬉しいです。」
慈愛を感じさせるその優しい笑顔に、彼は年甲斐もなく涙を流した。
実は、彼は2年前のあの口論のあと、納得がいかず、先輩ヒーローに愚痴った。
その先輩に教えられたのだ。
彼女が昔、個性で倒した覆面のヴィランが、実は彼女の婚約者だったと。
そして、治療中に亡くなってしまい、彼女もまた心を病んでいたと。
それで治療にのみ個性を使うようになったのだと。
自分と同じような境遇にあって、いや婚約者が相手だったのだ、もっと苦しかったに違いない。
だが、彼女はそれを嘆くだけに止まらず、自分のやるべきことをちゃんと見据えて、今こうしてまた人を救っている。
あまりに眩しくて、自分が霞んでしまいそうだ。
「君の言う通りだった。…“命は命”だ。俺は…ヴィランを倒すのがヒーローだと思っていた。でも…違った。ヒーローは………人を傷つけるだけの人間でも、傷つけられるだけの人間でもない。人を傷つけようとも自分が傷つこうとも、人を救ける人間だ。」
数ヶ月にわたって、二人はカウンセリングを重ねた。
そして、彼はやっと過去と決別し、前を向くことができた。
カウンセリング初日に自嘲気味に吐いた言葉だが、真実だったと思う。
人を救ける人がヒーローだ。
人を救けるためには、敵を倒すのも必要だ。
だが、目的を履き違えたヒーローは、ただヒーローという肩書きを持っているだけに過ぎない。
「ヒーローを辞めても、個性を使わなくても、君は俺にとってヒーローだ。」
最後のカウンセリングの日、彼はそう言って笑った。
そして後日、ヒーローを辞めて警察官となった。
もう個性を人に向けて使う気にはなれない。
それに、自分ではどうしても勝てないヒーローが目の前にいる。
今の自分は、この人を守ることに全力を尽くしたい。
そして、二人は夫婦となったのだった。
「…と、まぁ馴れ初めはこんな感じだ。」
照れ臭そうに話し終えた父に、金木は微笑む。
自分の個性のこともあり、両親の個性のことは知っていたが、両親ともにヒーローをやっていたのは初耳だった。
母のことも父のことも、初めて聞く話ばかりだ。
だが、金木は二人の生き方を素直にかっこいいと思った。
少し、自分の生きる指針が見つかった気がした。
「ありがとう。母さんのこと知れて良かったよ。父さんの若い頃のことも。」
そのほかにも、子どもができたのは結婚して何年か経ってからだとか、最初は祖母に結婚を反対されたのだとか、辺りが暗くなるまで二人は会話を楽しんだ。
そして、店を出て家に向かう車内で、父は金木に向けて最後に言った。
「母さんは俺を含めて多くの人間の命と心を救ったヒーローだ。そんな母さんの子なんだ、きっと研は強くなる。」
「…ありがとう。ヒーローになるかどうかは分からないけど、僕は母さんと、父さんの子だ。人を救けられる人になるよ!」
“父さんの”という部分で少し照れ臭そうに自分の目を見つめてくる我が子を見て、
(…
母さんの名前の語呂悪すぎ。
でも思いついちゃったんです。
思いついた時は、ハイセっぽくてリゼっぽい!ええやんこれ!ええやん!ってなったんです。
ちなみにおばあちゃんの名前は細包 向晴(さいぼうこはる)です。
こっちのがママ感あるよね。
そのうち設定集とかあげます。