王のビレイグアカデミア   作:INANO

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恐怖を乗り越える。
それは詭弁だ。
得てして恐怖とは毒である。
恐怖に飲まれれば人の身体は強張り、
平時のパフォーマンスは発揮できない。
もしも、それでも
それを乗り越えることができる者がいるならば
それは恐怖を飲み込んだ者だ。
恐怖を飲み込み、己の糧とした者だ。
毒を薬に変えられる者だ。


人はそんな者を指してヒーローと呼ぶのだ。


變櫬

 

「探したぜぇ!まんまと同じ場所に戻ってるとはなぁ!」

 

 先程より何倍も状況が悪い。

謎の苦しみに喘ぐ渡我(とが)を凶悪なヴィランの前に(ほう)って逃げることもできない。

さらに、傷は塞がったものの、戦闘不能と言っても過言ではない自分の現状。

まさに最悪の状況である。

 

(あのヴィランは僕を狙ってくるはず…。なら、まずトガさんから離れないと…)

 

自身の不調を悟られないよう、ゆっくりとした動きで渡我から離れて、飛び降りてきたヴィランと対峙する。

ヴィランは歪んだ愉悦(ゆえつ)を感じさせる笑みを浮かべながらジリジリと距離を詰め、金木はそれに合わせて少しずつ後ずさる。

そうやって、お互い一足で仕掛けられる、()わゆる間合いのギリギリ一歩外を保つ。

 

(この状況で何ができる…?)

(考えろ!考えることを止めるな!)

 

 この状況にあって、金木は感情は過去最大に焦っていても、思考は冷静だった。

こうまで最悪な状況が重なれば、逆に冷静になってしまう。

祖父の遺した大量の本の中にあった、犯罪心理学の本や様々な個性についての本の内容を思い出す。

 

(あの体格から考えて肉体強化系の個性だとは思うけど、異常なほどの筋肉量じゃない…)

(肉体強化って決めつけるのは早計か?…でも特殊な個性なら、すでに発動していてもおかしくない。……くそっ、本当に最低な日だ…!)

 

思考を巡らせるが、内心で悪態をつく。

焦りを浮かべる金木に、ヴィランは笑みを深めた。

そして、一瞬。

眼前へと距離を詰め、拳を振るった。

それを間一髪で避ける。

だが、ヴィランは次いで右脚を振り上げ、金木に目掛けて(かかと)を振り落とす。

ビュッ!という風切り音の後に、轟音(ごうおん)粉塵(ふんじん)が辺りを包んだ。

 

「…ッ!」

 

 またもギリギリで金木はその身を(かわ)していたが、あまりの威力に肝を冷やした。

先程まで自分がいた場所をヴィランの踵が砕いていた。

 

(っあぶなかった…!僕の予想より速い。)

(それにあの力…地面がありえない壊れ方してる。)

(コンクリートの地面をあんなに簡単に…やっぱり肉体強化系で間違いない。)

 

この場合、単純な肉体強化が一番厄介な個性だ。

背を向ければ一瞬でやられかねないし、先程と違って逃げ切れるとも思えない。

そして、戦うという最後の選択肢は、もはや自殺と言い換えても同じだ。

そんな大量に汗を流しながら顔を歪める金木に向かって、ヴィランは耐えきれないと言わんばかりにゲラゲラと笑い始めた。

 

「こえぇか、ガキ?」

 

「………そりゃ、こわいですよ。」

 

「だろうなぁ、お前の恐怖はちゃぁんと分かってる。まぁ数字で言うなら70ってとこだ。並みの中坊にしちゃ必死に恐怖を抑えてる、ってとこかぁ?」

 

「70…?」

 

「そうさ!俺の個性はなぁ!相手に恐怖を与えれば与えるほど自分の肉体の能力が上がるって個性だ。『恐喝(きょうかつ)』っつってな、相手の恐怖の度合いもだいたい分かる。」

 

 

 

個性/恐喝(きょうかつ)

相手に与えた恐怖の分だけ自分の戦闘力を上乗せする。

上乗せなので元々の地力から下がることはない。

相手の心象次第で戦闘力が変わるので、相手の恐怖を引き出すため、適度な体格や筋肉は維持し、乱暴な言葉遣いをして派手な見た目にしている。

恐怖を測ることができる対象は一人だけなのでタイマン勝負が好き。

 

 

 

 

(…僕が恐怖すればするほど強くなる?)

 

(……っ!!?そんなの反則じゃないか!!)

 

 そう、この個性は、相手に自分の個性を教えた方が効果的なのである。

自分の恐怖が相手に力を与えると分かっていても、人は恐怖を完全に忘れることなどできない。

怖がるな、と思えば思うほど、現状を考えれば考えるほど、恐怖の数値は上がっていく。

 

「お、80に上がったな!理解しちまったんだなぁ、頭良くて助かるぜ。」

 

「ガキ、もうひとつ教えといてやる。恐怖の度合いが90を超えるとなぁ、俺のパワーアップは1上がるごとに倍以上になってくんだよ。ケハハッ、相手が俺に100ビビっちまったらどうなるのか、分かるか?ヒーローだろうが、何だろうが、俺に(かな)う奴なんかいねぇんだよっ!!」

 

 ヴィランはそう叫びながら、先程までの慎重な動きと打って変わって、ただただ力任せに腕や脚をふるう。

その一撃ごとに壁や地面にはヒビが入り、避ける金木は神経をすり減らす。

 

「っ……!!…あぶなっ!…くっ!!」

 

今はまだかろうじて避けられているが、相手が落ち着いてきっちり狙ってきたら…。

こうやって相手に恐怖して相手をさらに強化してしまったら…。

 

そんなことを考えながら、金木は痛みも倦怠感(けんたいかん)も忘れて個性を全開にして避けることだけに徹していた。

そもそも、自分の今の状態を考えれば、そんなチート性能がなくても地力で負ける。

どうすることもできず、ただただ避けることにのみ徹する。

だが、これは解決策にはなりえない。

相手が最悪の一手を打ってくるまでの、時間稼ぎにしかなりえない。

 

 

「ちょこまかうぜぇな…なら、これは———どうだっ?」

 

 歪に笑いながらヴィランがとった行動は、金木が想像した最悪の一手だった。

ヴィランが振り返り、爆発的な加速で走り出す。

その先にいるのは。

先程から浅い呼吸を繰り返し、虚ろな目をしている渡我。

つまり人質。

もしくは、ただの破壊衝動。

 

「…っ!!」

 

「おぉ!90まで一気に上がったぞ!」

「お前あれか、友達とかが傷つく方が怖ぇってやつか?ヒーローらしくて最っ高だな、オイ!」

 

ヴィランが渡我の目の前までに着いた。

金木はそれを必死に追う。

———間に合わない。

 

ヴィランはニタニタと笑いながら、金木を見る。

———あと2歩。

 

先程までと比べ物にならないほどに肥大化したその拳を振り上げる。

———あと1歩。

 

そして、物理法則を感じさせないほどのスピードで振り下ろした。

 

 

 

 

 

ごばっっっ!!!

 

 

 およそ肉と肉がぶつかり合ったとは思えない破壊音が響く。

金木は個性を限界以上に引き出して鼻血を噴き出させながら、渡我へと向けられた拳に自分から突っ込み、その身を(てい)して渡我を庇い切った。

そして、ヴィランの拳は、金木の脇腹を貫いていた。

 

ヴィランはその拳を引き抜くと、腕を振るって、びしゃりと血を払う。

金木は、ごぷりと僅かな気泡とともに血を吐き出し、そこで膝をついて動きを止めた。

 

「はっ!マジでヒーローじゃねぇか少年よぉ!!!ハハハハハハハッ!!」

 

「こんなになってまで人助けする奴、本職のヒーローでも見たことねぇよ!!」

 

「ヒーローっつうのはなぁ、ただの人気商売なんだよ!自分でも勝てる弱いヴィラン相手に、派手に個性振りかざす奴のこと言うんだよ!そんなもんに憧れて無様に死ぬとか…ハハハハハハハ!」

 

動かなくなった金木に対し、ヴィランは目尻に涙を浮かべるほど心の底から愉快そうに嘲笑(あざわら)う。

 

 

 

 

 

 

 

 

—————ちがう。

 

 

「……ち…ァ………う。」

 

「あ?」

 

「ちが…う。…ほん当の ヒーローは…ァ」

 

腹に風穴を空けられた金木が俯いたまま言葉を返してきたことに驚愕して目を見張る。

 

その瞬間、金木の腹の穴が塞がった。

ギュルリと肌色の肉が傷口の風穴を埋める。

継ぎ目もなく、健康そのものの血色で完全に治癒している。

 

 

「は…?」

 

俯いたまま驚異の肉体修復を見せた目の前の子どもに、ヴィランはただただ驚くことしかできない。

 

———何なんだ?こいつ…

……なんだこの回復力。

それに「恐喝」の数値がゼロになって、俺の身体が素の状態に戻っちまってる。

どういうことだ…?

それに何より—————

 

 

「…なんだお前っ…なんだ?その眼…?」

 

 左眼を真紅に染め、ゆらりとその身を揺らしながら金木は立ち上がった。

そして、緩慢な動きで右手を上げると、人差し指を親指で押さえる。

 

パキリ。

 

 

(なんだ…こいつっ!やべえ!恐怖がないだと?あの傷の再生、あの眼…なんなんだ?)

 

冷や水をかけられたかのように慌てふためくヴィランに向けて、金木は穏やかに告げた。

 

「僕は…人を傷つけるくらいなら傷つけられる方がマシだって思ってました。」

 

「……でも。人を傷つける人がいるなら、僕はそれを許さない。」

 

「僕は、人を救える人になりたい。」

 

 

だから——————

殺しません。

 

 

 その言葉を最後に、ヴィランは一瞬で意識を刈り取られた。

同じく腹に一撃を受けたのだと理解するまで、意識は保っていられなかった。

 

 




金木きゅん覚醒。
『恐喝』強すぎなんだよなぁ。
早よ話進め。
はやく雄英メンバーと絡んでくれないと、登場人物少なすぎて会話のテンポが悪すぎる。
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