プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
※22:08 名前を修正しました。
(・大・)<名前間違えるとか何やってんだよ俺……。
3月31日。
25層主街区【ギルドシュタイン】。広大な都市の一角にある広場へとレインは足を運んでいた。カーペットの上に幾つものアイテムが並べられており、中東のバザールにも似たそこは、城塞都市と呼ばれるこの街には不釣り合いに見える。
「エギルさん」
「よぉ、嬢ちゃんか。いらっしゃい」
「ええ。私達も商売を始めたんだし、熟練のプレイヤーから商売のツテってのを教えて貰おうってね」
【ゴスペル・メルクリウス】もポーションを中心とした商業で中層域のプレイヤーから着々と収入を増やしている。
それでも商業に関してはてんで素人なので、そこは先人のアドバイスや自分らのアイデアを出し合ったりしているのに苦労している。
エギルも攻略の傍ら商業を始めたのは今年の初め辺り。客入りもそこそこといった所である。
提案を出し合ったり、提案の調整で話し合ったりしているうちにふと時刻を見たら、1時間ほど経っていた。
「おっと、もうすぐ時間か。じゃあな」
「いえ。こちらもありがとうございました」
ベンダーズ・カーペットを仕舞ってその場を後にする。
数分もしないうちに集合場所である広場へと到着したのだが、そこに待っていたのはキリトと、エギルと共に戦った曰くアニキ軍団の数人しかいない。
「エギル!」
「……おいおい、遅刻はしてねぇぞ?」
「悪い、何が何だかわからないみたいだけどすぐ迷宮区に行ってくれ!」
矢継ぎ早に説明するキリトは言い終えるや否や、すぐに駆け出した。
次いでアニキ軍団、エギルと続いて彼の後を追う。
「一体何があったんだ?」
「それが【
エギルが訊ねたアニキ軍団の1人の話はこうだ。
【ALS】と【
双方のリーダー、キバオウとリンドはどちらも最小限の被害で攻略を進めていくことを信条としていたが、お互いの仲は非常に悪く、自分のギルドにも少なからず影響を受けていた。
そこに火に油を注ぐ要因になったのがモルテとジョーというプレイヤーの存在である。2人はまるで計ったかのようにお互いのギルドの溝を深めていったのだ。今では穏健派のプレイヤーは双方合わせて5人足らずにまで減っている。
そして25層のボス攻略。なんとキバオウは本来の時間から30分早くボス攻略へと向かったという情報がアルゴの口から告げられた。なんでも、モルテから25層のボスの情報が提出されたらしい。
【DKB】はキリト達数名を残して救助へと向かっていったのだ。
「おいおい……ボスに挑戦ったって相手はクォーターポイントのボスなんだろ?そんな簡単に行くのか?」
「……いや、5層でも相当強力だったんだ。その5倍の階層って事は、ざっと見積もっても1つ前のフロアボスの5倍以上は強いって事になる……!」
エギルの質問にキリトは焦りながらも経験から推測を立てる。
「それに、情報源がモルテってのが気になる……!」
キリトはこの時告げていなかったが、あるプレイヤーの姿が浮かんでいた。
3層で【アインクラッド解放隊】と【ドラゴンナイツ・ブリゲード】が対立するきっかけになったプレイヤー、モルテ。彼が両方のギルドに入って偽情報を送ったが為に一時期混乱を巻き起こした。
ポンチョのプレイヤーキラーとも接点があった為に、下手に口外することができなかった。そのツケがこんな形で出てくるとはと、キリトは胸中後悔した。
†
走る速度そのままの勢いで迷宮区へと突入。脇目も振らずに突き進んでいく。
モンスターとの戦闘は極力避けての最短ルートで最後の安全地帯へと到達して、一行は目を見開いた。
【解放隊】らしき30人近いプレイヤーと担がれたり、横倒しになっているプレイヤーが8人ほど。
キリトが一瞥して見渡してみたが、全員――とまで彼らと交友は深くないのだが、ざっと見積もって【ALS】の犠牲者はいないようだ。
「お前ら、何やってたんだよッ!!幾らなんでもレイド5つ分でもクォーター・ボスに挑むなんて無茶にもほどがあるだろ!!?」
キリト達の合流と同時に強い口調でリンドが叫ぶ。
『す、すまない……』
「まあ良いじゃないですか、リンドさん。【ALS】の面々も犠牲が無かったみたいだし」
食って掛かるリンドに対して、全身重装備の鎧で身を固めたリーテンがしぼむような声で謝罪。
そこに【DKB】のシヴァタがリンドを宥める。
「……ん?おい、そこの奴らは……ひょっとして【ブレイブ・フォース】か?」
リンドが改めて気が付いたのは、【ALS】の後ろで満身創痍の体でへばっていたプレイヤー達だ。
彼らは【ブレイブ・フォース】。10層から攻略組に参加した中規模ギルドだ。目覚ましい活躍はしていないが、攻撃力の高さで一目を置かれていた。
普段は血気盛んな彼らだが、普段の雰囲気とはうって変わって水面を打ったように静まりかえって――いや、黙り込んでいる。
「なんでお前らがここに?」
情報をもって抜け駆けした【ALS】はまだわかる。だがなぜ【ブレイブ・フォース】までここにいる?そう思うのも無理はない。
【解放隊】と【ブレイブ・フォース】はお互い接点が無い。何がどうしてこうなったのか、誰も思い当たる節が無いのだ。
「そこからは説明を入れておく必要がありますね」
集団に割り行ってきたのは褐色肌の男性だった。
歳は大体リンドやシヴァタと同じくらいだが、銀髪の細身の身体、そして装備品はグローブ以外何も装備していない。
その男性はすたすたと集団をかき分け、彼と似たような褐色肌の少女の元に近づく。
「り、リーダーさん……あたし――」
――パシッ!
言い終わる前に、少女の頬を男性が叩いた。
いきなりの行動に全員思わずギョッとする。
「カオリさん、何を考えていたんですか?私は言いましたよね、その情報は信憑性に欠けると。あんなデマを真に受けた結果がこれです。サブリーダーは犬死。情報提供者はこぞって全滅。まともに生き残っているのは【解放隊】の皆さんだけですよ?」
「ご、ごめんなさい……」
細身の男の口から放たれる厳しい口調による重圧と正論で、カオリと呼ばれた褐色少女はどんどん反論する機会を奪っていっている。矛先であるギルドメンバーには声は荒げていないものの、発せられる威圧は尋常じゃない。彼女はおろか、キリト達ですら男性の威圧に圧されてしまっていたかのように割り込むことはできなかった。
「そ、それで何があったんだ?」
「おっと、失礼しました。それは――」
ようやく我に返り、切り出したリンドの質問に銀髪の男性、ラジラジは威圧を消して話を進める。
昨日、情報屋を名乗るプレイヤーが彼らの前に現れ、25層のボスデータを格安の、ほぼ無償と言っても過言ではない値段で交渉してきた。
ギルドメンバーはその情報に嬉々として穴が開くほどに目を通していたが、ラジラジだけは妙にその情報を疑っていた。ギルドメンバーにも釘を刺していた。
が、今朝になってみればギルドメンバーの殆どとの連絡が取れなくなっていたのだ。残ったメンバーは、【剣文録】も同じ情報を得てボス攻略に行くと誘われたらしい。
その結果がこれである。
「……その情報ってのは確かだったのか?」
「……いいや。まったくのデタラメやった」
ジト目で尋ねたエギルに、【ALS】のギルドリーダー、キバオウは重く首を振った。
【ALS】が到着したのは【剣文録】と【ブレイブ・フォース】の面々よりも5分後だったという。
準備を終えた彼らは、既にボス討伐――いや、ボスによる蹂躙が始まっている光景に目を丸くした。意気揚々とボス戦に挑むつもりだった彼らも困惑していたが、何より自分たち以外に情報が漏洩していたこと、更にその情報とは全く違うパターンの行動をするボスに困惑はさらに深まっていった。
キバオウは討伐よりも救出を優先して撤退戦を開始。モルテからの情報とは全く異なる行動パターン、そして尋常じゃないステータスのボスを相手の撤退戦は、
『それで、【剣文録】は6パーティ全滅で全員死亡。【ブレイブ・フォース】も指揮を執っていたサブリーダーを含めた14人がやられて生き残りは7人。我々も人的被害は無いものの、装備品の大半をやられてしまったよ』
見れば、壁役は全員盾を装備しておらず、鎧も亀裂や破損が酷いものが多い。恐らく盾は救出の際に全損してしまったのだろう。リーテンの防具もかろうじて原形をとどめているものの、亀裂やへこみの跡が25層ボスの尋常じゃない力を物語っていた。
そして同時に25層のボスが、これまでの死闘が児戯に等しいレベルにも思えるほどの壮絶な戦いが待っているということを、攻略組は嫌でも理解した。
「最低でも50人以上って……おい、誰か【剣文録】の奴らの事で何か知ってるか?」
「そ、それは……」
「なんだ?」
「【剣文録】の誰かが、ギルドリーダーが情報を得たってのを聞いて……」
「【剣文録】が?」
【剣文録】。
4層から参戦したギルドであり、一応攻略組である。
一応、というのはまるで宗教の狂信者のようにギルドのリーダーに心酔している者が多い。キリトも遠巻きに【剣文録】のスピーチを聞いていたのだが、「汝らは選ばれた解放者である。汝らの力は必ずこの天空の牢獄から人々を解放するだろう」という宗教染みたスピーチが耳に残っている。
攻略会議に顔を出しても「指揮は我々のギルドが行う」と第一声を上げてきたくらいだが、新しくギルド入りしたプレイヤーに戦闘のコツを教えるなどの面を備えている。
しかしその反面、自分の命をものともしない特攻染みた作戦や、プレイヤーへの執拗なギルド勧誘を絶えず行っており、攻略組も止めるよう注意喚起はしていた。
「……今日の攻略は中止だ!!」
リンドが荒げた口調で告げる。
「リンド、どうするんだ?」
「決まってる!【剣文録】のリーダーに話を着けてくる!」
ずかずかと怒りを露わにして迷宮区を後にする。
【解放隊】がこの有様では数日のうちに戦線復帰するのも難しいだろう。
ボスを目の当たりにしたリーテン達からの情報整理もあって、当初予定していた25層ボス攻略は中止するのだった。
後に25層でのこの惨劇は、『25層の惨劇』として語り継がれることになる。
†
「何てことをしてくれたんだ!!」
ギルドシュタインの一角の建物に単身乗り込んだリンドは、【剣文録】の制止も聞かずにフレッグのいる部屋に雪崩れ込むように訪れた。
リンドの怒りの矛先は、執務室で使うような大きなテーブルに豪華な作りの椅子にふんぞり返るように座っていた。
「何てこと、とは一体何かね?」
「25層のボス攻略の事だ!!アンタ、デタラメな情報をメンバーに送っただろ!?」
勢い任せに怒鳴り散らすリンドに対し、フレッグは狼狽える様子も無く高価な椅子にふんぞり返ってリンドの怒声を聞いて、いや、聞き流すような様子だった。
「デタラメとは心外だな。私のギルドもあのデマ情報で被害を被ったんだ。いうなれば被害者ではないのか?」
「それでも他のギルドでも犠牲者が出たんだぞ!」
「しかし、君の発言はまるで私にだけ非があるように思えるな」
「それはあんたが得た情報をロクに調べもしなかったのが原因だろ!?」
「なら【ALS】や【ブレイブ・フォース】はどうした?彼らもその情報の真偽を確かめもせずに突入したではないか」
「それでもアンタはアイツらの命をいたずらに奪っていったのは事実だ!!」
「いたずらに命を奪った?フッフフフフフフ……」
怒りをまき散らすリンドのその言葉に、なぜかフレッグは笑い出した。
「何がおかしい!?」
「彼らは攻略の前に、私への忠誠は絶対だと告げてくれたのだよ。私の命に彼らは服従し、時に命をも奉げることも厭わないのだよ」
「自分の死も厭わないだって?お前、本気で言ってるのか……?」
リンド達が攻略組が攻略の際に掲げていること――それは【犠牲者を極力減らす】事。
元々アインクラッドから解放されるために戦っているのに、犠牲者を増やした無茶な戦いをしたら本末転倒である。
しかし目の前のこの男は、犠牲を伴った――それ以前に犠牲を前提とした采配をしても構わないと言っているのだ。冗談などではなく、本気で。
悪意しか感じられない、人をただ己の所有物としか見ていない目の前の男に、リンドは思わず憤慨した。
「彼らの死は我々の解放の糧となる。それを叶えるための犠牲とあれば彼らも喜んで命を差し出すのだよ」
「ふざけるな!ギルドのメンバーはお前の消耗品じゃない!」
「全く……。口やかましく怒鳴る事しか能が無いのか?」
この男と話しても
「おい!なんでこんな奴の為に命を落とす必要がある!?こんな奴のギルドに居たら今度はお前らが死ぬかもしれないんだぞ!お前らだって死にたくは無いんだろ!?今からでも遅くない、コイツのギルドを抜けるんだ!!お前らの身の安全は俺達【DKB】が、それが嫌なら他のギルドにも掛け合ってでも、お前らの安全は保障する!お前らは騙されているんだ!目を覚ませ!」
必死に捲し立てるリンド。
無理もない。このまま【剣文録】にいたら、また今回のように無謀な犠牲者が増えてしまう。
これ以上無駄な犠牲を出さないためにもまともなプレイヤーならこの話に乗らないはずはない。
そう――、
「何を、仰ってるのですか?」
「……は?」
思わぬ返答にリンドは言葉を失った。
「フレッグ様は我らを解放へと導く存在。そして我々は特別な存在としての力を解放させたのです。そして、この世界でHPが尽きたとしても、それは外の世界への解放へと通じるのです」
「そのフレッグ様をどうして裏切らなければならないのですか?」
「それではまるで、我々の特別な力をあなた方が欲しているようにしか聞こえませんよ?」
何を言っているんだと言わんばかりの返答に、リンドは思わず戦慄した。
彼らは騙されても、脅されている訳でもない。神を崇拝する信者のように、
戦慄するリンドを他所に、フレッグは机の上に置いてあったベルを鳴らす。
甲高い音が鳴った直後、入り口の扉から2人のプレイヤーが現れ、リンドの羽交い絞めにして拘束する。
「おい、何をする!?」
「お客様のお帰りだ。丁重にな」
「畏まりました」
まるで人形のような受け答えで頷き、そのままずるずるとリンドを入り口へと連れていく。
「私もこう見えて忙しい身でね。新しく人員を補給しなければならないのだよ」
「クソッ、離せッ!いいかフレッグ!俺はお前のやり方は認めない!いや、攻略組の誰も認めない!このツケはいずれお前に返ってくる!覚悟しておけ!!」
引きずられながらも怒声を張り上げるリンドの声は次第に遠ざかっていき、完全に聞こえなくなった頃にフレッグは扉を閉めた。
「フレッグ様、我々は――」
「君らも出て行ってよろしい。我々のギルドの人員の補給は任せる」
「畏まりました」
部屋にいた2人も、恭しく礼をするとそのまま部屋を後にした。
「まったく口やかましい輩だ」
「彼は実に頭が固い。あなたの崇高な攻略に文句を垂れるとは」
フレッグに続いて吐き捨てたのは、第3層でフレッグを
「人々の解放と言う崇高な目的は誰も同じだ。目的の道中の過程など、選んでいる暇などないのだろうに」
「その通りです。我々のギルドは崇高なる魂に導かれた人間達です。その誓いは死の恐怖を乗り越え、一騎当千の武勇を沸き立たせる。彼らの犠牲は残った者たちの魂の力となるのです」
「だが、質を高めても数で劣ってしまっては意味が無い。リーヴよ。再び頼むよ?」
「御随意に」
フレッグに対し、男――リーヴは芝居がかった礼をして、部屋から立ち去った。
†
「それで、アンタらはどうするんだ?」
同じ頃、転移門前のキリトと【ブレイブ・フォース】の面々。
「そうですね。一旦【始まりの街】にまで戻って、今後の身の振りを考えるつもりです」
【ブレイブ・フォース】が再起するには莫大な時間を要する為、すぐに行動を起こすことは不可能だろう。
リーダー以外の大半が勝手に行動した、半ば自業自得とはいえキリトは強く糾弾する気は無かった。
「そうか。また攻略組として再起するなら、その時はしっかり頼らせてもらうぜ?」
「ええ。それがいつになるかわかりませんが、なるべく早く立ち直って見せますよ」
キリトから約束を交わすかのように拳を突き合わせた後、【ブレイブ・フォース】は転移先を宣言して消えていった。
次回「歌が紡ぐ再会」
(・大・)<【解放隊】、まさかの最前線続投ルート。
【ラジラジというプレイヤーについて】
(・大・)<参加者だが、フロアボス攻略以外は別行動。何かを調べている様子らしい。
(・大・)<本来はALO辺りに登場予定だったけど、出したいキャラもいたから急遽彼をギルマスにしたオリジナルのギルドを出した。
(・大・)<得意武器は……彼を知ってる人なら多分言わなくてもわかるでしょ?聖夜イベ辺りに公開予定ですが。
【ブレイブ・フォース】
(・大・)<最大で30人規模の攻略ギルド。攻撃力が高めで主な火力要員だった。リーダーはラジラジ。因みに命名はサブリーダー。
(・大・)<リーダーの不在と(デマ)情報提供によってサブリーダーが独断で編成して出発。
(・大・)<結果、サブリーダーを含めた半数以上が死亡する大惨事となり、攻略組から脱落せざるを得ない事態になってしまった。
【剣文録】
(・大・)<今回最も被害を受けたギルド。一応攻略組。リーダーは3層でスカウトを吹っかけたフレッグ。サブリーダーはリーヴ。
(・大・)<デマ情報に流され挑んだ6レイド全員が死亡するという事態に陥ってしまった。
(・大・)<何らかの方法で参加プレイヤーを狂信者化させ、自分の命も顧みない特攻もさせるほどにさせている。