プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
(・大・)<ええ、ここまででやっと体感旧作の1/3くらいですよ。
(・大・)<まだまだ旧作に届いていない……。悔しい。
(・大・)<因みに9千字強ですよ。
「主街区以外への足掛かり?」
【ゴスペル・メルクリウス】が本部としている屋敷の執務室。
その日の提案に、ユースは頭に疑問符を浮かべた。
「ええ。最近になって主街区以外にも拠点を置くギルドが増えてきました。彼らとの商売も視野に入れておこうと思っているのですのよ」
提案者、ウィスタリアが出した提案は主街区以外での商売を計画していた。
アインクラッド攻略も5ヶ月が過ぎ、生産職を生業とするプレイヤーや、攻略以外の目的を持ったギルドが数多く作られている。
彼らとの商売をするという計画をウィスタリアは起ち上げていたのだが、それには大きな壁が立ちふさがっている。
「ですが、主街区以外の拠点への道中はモンスターも多いのでは?」
「ええ……一番の問題はそこですわ」
ティアナの指摘に立ち上がっていたウィスタリアもがっくりと力が抜けたように椅子に座る。
エギルのような攻略組と二足の草鞋を履く商人プレイヤーたちは自衛の手段も持ち合わせている。
が、【ゴスペル・メルクリウス】にそんなプレイヤーはいない。無理にこの事案を通せばいたずらに死者を増やすだけに終わる。
ノゾミやチカと言った戦闘プレイヤーに護衛を任せるというのも手だが、戦闘経験のあるプレイヤーはこの始まりの街には数人程度しかいないので、圧倒的に人数が足りない。
「もっと戦闘慣れしたプレイヤーが、彼らに戦闘の手ほどきを教えてくれれば少しはマシになるのですが……」
始まりの街周辺のフィールドでのフレンジーボアとの戦闘でも、住民の戦闘はHPを危険域にまで減らすほど
死者が出なかっただけマシだが、彼らを護衛に着けたら……。結果は言うまでもない。
3人が頭を抱えていると、扉からノック音が聞こえてきた。
「ウィスタリアさん、少しいいですか?」
「どうかしましたの?」
「なんか……とんでもない人たちが転移門から出てきたんですけど……」
来客、ユイの顔は信じられないものを見たように引きつっていた。
†
転移門から現れた予想外のプレイヤー達に、住民たちは困惑していた。
「おい、あれって攻略組だろ?」
「なんでこんな所に来たの?」
「わかんねぇよ。俺に聞くなよ……」
始まりの街に来るはずの無い攻略組ギルド【ブレイブ・フォース】の面目に、動揺を隠せない住民たち。
遠巻きにひそひそと喋り、誰一人彼らに近づこうとしない。
「いちゅたーゆさんがやー?」
「ひゃいッ!?」
「あれ?――あぁ、ちょっといいさ~?【ゴスペル・メルクリウス】って場所、どこにあるかな~?」
「えええ、えぇっと……、そ、そこの大きな屋敷でぴゅっ!?」
「あはははは!君ら、喋り方が面白いさ~♪」
褐色の少女は気付いていないようだが、道を聞かれた相手は攻略組だった自分に対して下手に対応したらシバかれるのではないかと不安だったのだ。お陰で震えが顕著に表れ、思い切り噛んでしまった。
「何事ですの?」
そこに、ユイから事を聞きつけたウィスタリアがラジラジの前にやって来た。
「あなたは?」
「私はウィスタリア。【ゴスペル・メルクリウス】のリーダーを務めていますわ」
「あなたが……では丁度良いですね」
すたすたとギルドリーダーの男、ラジラジが彼女らに歩み寄ってくる。
「ッ……!」
ただ歩いている。それだけなのに彼女らが感じる、全身が万力で締められているような圧迫感が距離が縮まっていくごとに強くなっていく。
そして、わずか数メートルの間にまで近づいてきた。
「あの、何か……?」
「上で少々トラブルに巻き込まれましてね。少々こちらに厄介になります」
「あ……待って下さい!」
それでは、と話す事を話して今回の宿を取ろうとした矢先、ユイが彼らに声を掛けた。
衝動的だった。咄嗟の事で何も思いついてなかった。けど、このまま何もありませんでしたとユイの口から言えるはずも無く……。
「……もしよかったらお話でも……どうでしょうか?」
†
「そう。攻略で仲間を……」
あれから【ゴスペル・メルクリウス】のギルドホームに案内したユイとウィスタリア。
紅茶を淹れながら、ラジラジは【ブレイブ・フォース】の事実上の崩壊を説明した。その隣ではサブリーダー代理の褐色少女カオリが身を縮こませて紅茶と共に出されたクッキーを齧っている。
「クォーターポイントのような異常な強さは、今後はそうはいないでしょう。とはいえ、ギルドメンバーの収集にレベリングとなると今すぐの復帰は不可能でしょうけどね」
「そうですか……」
「何で自分の事みたいに心配しているのです?元を正せばロクに裏取り調べなかったサブリーダーや、流された彼らも悪いのですよ。最も、止められなかった私にも責任がありますけどね」
紅茶を飲みながら語るラジラジは、犠牲を出してしまった事に責任を感じていたようにも見える。
最も、彼らは再び攻略組として最前線に戻るだろう。この始まりの街にいるのもそう長くはないかもしれない。
「――そうですわ!!」
が、それをよしとしないのがウィスタリアだ。
執務机で仕事に励んでいた所、突然バンと机を叩きつけて声を上げた。
「ど、どうしたんですかッ!?」
「あの計画が現実味を帯びてきましたのよ!」
「まさか、あの計画を?」
「え?」
「計画?」
目を丸くするユイに続き、話についていけないでいるラジラジとカオリが揃って声を上げる。
「なんですか、その計画って?」
「主街区以外での商業についてですわ。そこを拠点とする人たちとも商売相手にしようと思っていますの」
「ただ、そこへ行くまでの道中の護衛のできるプレイヤーが少なすぎて、一旦は頓挫してたんです」
「せめて、住民の大半が周囲のモンスターだけでも安全に狩れる程度の実力をつけておきたいんですけどね」
そこまでの説明でラジラジも理解できた。
要するに自分達の戦力を護衛に使いたい、とのことだ。
【ゴスペル・メルクリウス】からすれば商業範囲を広げられ、ニーズも増える滅多に無いチャンス。
「ちょ、ちょっと待って!」
が、そこに待ったをかけたプレイヤーがいた。先程まで大人しくクッキーを食べていたカオリだった。
「私らは攻略に勤しんでるのに、どうして呑気に護衛をしなきゃいけないの!?すぐにでも攻略に戻って、攻略ボスを斃していくべきなんじゃないの!?」
「あなたは黙っていなさい」
反論するカオリをぴしゃりと黙らせ、そして続ける。
「確かに彼女の言う通り、護衛の仕事を受けると攻略組としてのレベリングの頻度も減ってしまいます。そうなると攻略組との二足の草鞋を履くのも困難でしょう」
「あ……確かに考えてなかったかも」
「最も、我々のギルドも攻撃一辺倒な傾向が目立っていました。この際丁度良いでしょう」
「え?」
否定的ではあったが、今度は自分のギルドに関しての弱点を述べた。
彼女らは知らないが、【ブレイブ・フォース】の戦略は攻撃重視。Potローテ中のプレイヤーを守る為の壁役も相手モンスターの注意を惹き、攻撃を回避スキルを中心にしており、防御役はほとんどいない。
それに、全員がボスへの攻撃を重視していて、他者との連携はせいぜいスイッチという、ソードスキル直後の前衛と後衛の交代程度。
端的にいえば、構成員のほとんどが脳筋集団といった所だ。
「それに護衛を含んだ戦い方なら、攻撃一辺倒の戦い方も少しは変わるでしょう。守りながらの立ち回りは、攻撃するだけの時より頭を使いますからね」
「うへぇ……私には向きそうにない仕事だね~……」
「でも、メンバーにはどう説明するんですか?独断で決めたらそれなりの反発もあるんじゃ……」
「心配には及びません。事情はできる限り説明しますし、聞かない相手は叩きのめして黙らせますから」
「あ、そう……」
温厚な口調から零れた呟きに流石のウィスタリアもドン引き。同時に彼女とユイ、カオリが同時に思った。
――この人、案外物騒な性格してるんじゃ?
†
『1/4階層の惨劇』と呼ばれた潰滅する事態が起きた1週間後。EXスキル《神聖剣》を持つヒースクリフ率いる【血盟騎士団】と刀使いクライン率いる【風林火山】の参入により、攻略組は再び破竹の勢いで階層を突破していった。
対して【ゴスペル・メルクリウス】も【ブレイブ・フォース】を迎え入れてより活動に忙殺されていた。
【ゴスペル・メルクリウス】は念願だった主街区以外の園内エリアにまで足を伸ばして商業を行っていき、ノゾミ自身のライブもストリートライブ風のものが主流だが、ファンも着実に増やしていっている。
【ブレイブ・フォース】は攻略組としての経験から、武器の構えや取り回しの説明や手ほどきで大人も子供も関係なく最低限の戦い方を教えていった。護衛の任務も今まで公表していた安全ルートを使っていた功もあって大した被害を出していない。また、攻略ギルドとしての目的も忘れておらず、何人かは最前線のモンスターの情報をアルゴから買ってレベリングを続けていた。
【エリザベスパーク】も今はメンバーが30人くらいに増え、農産に力を注いでいる真っ最中。最近では味に不満を抱いた者が現実での調味料を再現できないかと試行錯誤を繰り返しているとか。
【ギルドMTD】は相変わらず支援を続けてはいるが、新聞業を中心に旨を置き、下層プレイヤーの支援のほか娯楽代わりの新聞製作に尽力していった。
各々のギルドが活動を続けて約50日。
中層ギルドの支援の為のポーションの生産と、その素材確保の為の採集とその護衛。始まりの街に残ったプレイヤーの心のケアの為のライブ。6人前後しかいない小規模ギルドにはかなり無理のある活動内容だった。だがそれでも、治政はギルドメンバーではないとはいえユースやティアナとの相談を重ね、サーシャもはぐれた子供がいないかと街の見回りを行うプレイヤーとの助力を経て、一層始まりの街はより活発さを取り戻していった。
そして、ノゾミとレイン、チカ、ウィスタリア、そしてマコトを含めた十数人は18層に足を運んでいた。
「うわぁ……でっか」
「まあ、ここは椅子や机も5メートル台が普通だからな」
彼女らの目的は素材収集と、園内村にいるプレイヤーとの商売。場所はここから西にまっすぐ向かった先の園内村だ。
「今日はよろしくお願いしますわ」
「では、ここらは我々の案内に従ってください」
【ブレイブ・フォース】のプレイヤー掛け声と共に、他のプレイヤーも「おー!」と拳を突き上げて出発した。
†
18層:園内村。
【ブレイブ・フォース】の4人の護衛とノゾミとチカ、マコト、ウィスタリアは地道なレベリングをこなして既にこの階層の安全マージンを達成している。おかげで村までの道中は何ら危険に陥ることは無く、すんなりと目的地に到着した。
そこからはウィスタリアを筆頭にした商人プレイヤーの出番だ。商品を詰め込んだストレージを確認し、ウィンドウを閉じる。
「それじゃ、ギルドやプレイヤー達と商談してくるから、みんなは適当に時間を潰しててね」
それだけ言って商人プレイヤー達は、この村を拠点とするギルドへと向かっていった。
そして残されたのは職人プレイヤーのレインを含めた7人。
そこから2人の護衛も観光がてらの自由行動となり、5人になる。
「……あら?」
「どうしました?」
「……声が」
「声?」
これからどうしようかと思った時、ノゾミとチカに続いて、マコトとレインが耳に意識を集中させる。
風と木々の葉擦れの音の中に交じって、僅かだが場違いな声が聞こえてくる。
「……こっちよ」
ノゾミが突如――おそらく声のするほうへと――駆けていく。
後に続いてチカとマコト、カオリ、そしてレインも続く。
この村はさほど大きくはない。数分もしないうちに声の主のいる場所を突き止められた。
切り株をステージに見立て、草原を観客席に見立てた自然の広場。切り株に立っているのは一人の少女。吟遊詩人のような純白の衣装に身を包み、同じく白い弦楽器を手に歌を披露している少女は、大体ノゾミと同年代だろう。周囲には彼女の歌に聞き入るギャラリーのプレイヤーもちらほら見かける。
「「……」」
ノゾミもチカも、マコトの感想は右から左に流れていったかのように立ち尽くしている。
やがて歌が終わると、彼女に拍手が送られた。そしてプレイヤー達が少女に感想や感謝を述べるよう彼女の近くに集まってくる。
「いい歌歌だったな。ノゾミはどう――あれ?ノゾミー?チカー?」
「2人とも、どこに行った?」
隣のノゾミの意見を聞こうと振り返ると、ノゾミだけでなく、チカもいつの間にかツムギの隣から消えていた。慌てて周囲を見渡すといつの間にか感想を述べている観客の集団に交じっていた。
「いつの間に!?」
そんなマコトの叫びもさておき、観客たちは少女に「ありがとう」や「歌が聞けてラッキーだった」などの感想を口々に述べている。
そしてあらかたの観客が去って行った後、ノゾミが少女と対面する。
「綺麗な歌だったよ」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「本当、前より上手くなったんじゃない?」
「ねぇ。悠那」
「……え?」
ノゾミの一言で悠那と呼ばれた少女は顔をひきつらせた。
硬直した少女は自分の記憶を探るように目線を泳がせ、たっぷり1分間の沈黙の後、思い出したように叫ぶ。
「ノゾミ!?」
「やっぱり悠那だったんだ!」
「え、嘘!?本当にノゾミなの!?」
「ホントにホントだって!」
はしゃぐノゾミに未だ信じられない様子の悠那と呼ばれた少女。
下手をすればパニックになりかねない状況で、今度はノゾミの隣にいたチカが口を開いた。
「私の事も知ってますよね、重村先輩」
「え?あ、三角さん!?あなたまでSAOに来てたの!?」
どうやらチカも悠那の事を知っているようだ。相手は思いがけない再会に羽目を外しているかの如く取り乱している。
慌てふためいている悠那、再会に喜んでいるノゾミ、そして再会に喜びつつも何故こんな所に居るのかと疑問を残すチカ。今観客を前にはしゃぐ3人はその場に呆然と立つ観客を完全に置いてきぼりにしていることに気付いていない。
「……」
「……」
「……どういうことなのこれ?」
「……さぁ?」
無論、それは外野から歌を聞いていたマコトとレインも例外ではなかった。
†
「みなさん、戻りましたわ――って、あら?そちらの方は?」
「あ、ウィスタリアさん」
あれから5分後、商談も終わり集合場所へと戻ったウィスタリアは、一行と広場で談笑をしている見慣れないプレイヤーに首を傾げた。
「じゃあ改めて紹介するわ。彼女は重村悠那――」
「ウェイト、ウェイト。プレネよく見てプレネ」
「え?あーごめんごめん。えーっと……《YUNA》、か。これがSAOこっちでの名前なのね?」
ウィスタリアも合流して、ノゾミ達が改めて吟遊詩人の少女、ユナ自己紹介を行った。
「私とユナは幼馴染でね。いやー、小さい頃はよく歌って家族に披露してたっけねー」
小さい頃の事。ユナの家に招かれたり、自分の家に招待したりした時には決まってライブもどきのカラオケ合戦をよく繰り広げていた。
過去の思い出に懐かしさを感じながらも、ふと気づいたノゾミがチカに訊ねる。
「……で、なんでチカはユナの事知ってるの?」
「ああ、その事はちょっと現実の事に触れることになるんですけど、私と重村先輩――いや、ユナさんは元々花乃丘中学に通っていたんです」
「花乃丘中っていうと、音楽の教科に力を入れてる学校ですよね?となると高校は蝶ノ森にですか?」
「ええ、そうだったんですけど……」
だんだんとチカの声から力が抜けていく。
流石に申し訳ないと思ったのか、マコトが話題を現実の話から逸らせる為に切り出した。
「あ、あのさ!ユナさんはどうしてSAOを?」
「あー、それもそうね。さっきは興奮して気付いてなかったけど、ユナって音ゲー中心だった筈でしょ?」
このSAOは、今はデスゲームと化してはいるが、ゲームとしてのジャンルはVR、それもMMORPGだ。明らかに音ゲーとは異なるジャンルである。普通ならユナはプレイヤーとしてこのSAOには存在してはいないはずというのが普通だ。
「確かにそうだけど、実はエーくんからこのスキルの存在を知らされてね。それがこっちに来る動機だったのよ」
「スキル?」
「《楽器演奏》と《歌唱》」
「「「……え?」」」
ユナの口から告げられたスキルの存在に、ノゾミがとチカ、レインまでもが固まった。
「ん?どうしたの?ラグった?」
「ゆ……ユナ……そのスキルがあったって…、本当?」
「そうだけど?今のも熟練度上げに利用してるのよ」
「嘘でしょ……!?」
「さっきからどうしたんですの?」
首を傾げて近づいたユナが、チカとノゾミとレインから両肩をがっちり掴まれた。
いきなりの事に頭がついていけていないユナに、3人が顔をずいと近付けた。
「「「なんでそれ教えてくれなかったの!?」」」
「はぁ!?」
「なんでそんな面白そうなスキル使っていたの!?私そんな話聞いてないよ!?」
「私もそんなスキルがあったのなら真っ先に所得してたよ!」
「そうですよ!!」
ノゾミやチカはおろか、レインまで怒号を叫ぶ。
普段の明るい雰囲気をしいているレインがこのように叫ぶのは初めてだ。
「え、あ、いや。私もこのスキル取ったばかりだから……あ、じゃあそのお詫びとして2人にも所得する場所教えるから!ね?」
「「「是非に!!」」」
目を爛々と輝かせる3人。この2人は現実でも音楽関係をしていたから、そのスキルに興味を持っているのは無理もないだろう。
半ば呆れたウィスタリアとマコトのジト目も、3人からすればさほど気にするような点でもない。
「よし行こう!今すぐに!」
「興奮するのは良いのですが、護衛の仕事はどうなさるおつもりですの?」
ウィスタリアの冷静なツッコミに《歌唱》スキルを要求した3人は同時に「あ…」と間の抜けた声を上げ、ユナから笑い声が零れるのであった。
†
8層主街区《フリーベン》
幾多の巨木が大地の役割を担う第8層。
商談を終えた商人プレイヤーとユナを連れて主街区に戻って本日の仕事を終えた6人は、すぐさま8層のフリーベンへと向かった。無論、ユナの言う《歌唱》と《楽器演奏》のスキルを得る為である。
この街には大規模な創りの物が多く、北端の広場もちょっとしたステージに見える。
「ふっふ~ん。とうとう《歌唱》と《音楽》を手に入れたわ!」
その広場からほど近い場所の建物の中から、ご満悦な笑みを満面に浮かべたノゾミが出てくる。
そこから続けてレイン、チカも同様の様子で建物を後にする。
「私も手に入れました」
「以下同文!」
「にしても意外だよな。レインも歌に興味があったなんて」
「え?あはは、ちょっと昔から興味があってね……」
「それじゃ、早速熟練度を上げてく?ほら、あそこなんて丁度良くない?」
「……はい?」
ノゾミが指すのは右手にある広場。野外劇場のような創りをしている広場は、ライブを行うには丁度良いだろう。
早く使いたくてたまらないノゾミとレインとは対照的に、チカは顔を青ざめている。
「ま、まさかあそこで……?」
「そうだけど?」
しれっと答えるレインにチカの顔がますます蒼白になる。
「むっ、無理です!無理無理無理!!人前で歌を披露なんて私やったこと無いですよ!?楽器演奏ならまだしも、あの人だかりで歌えなんてハードルが高すぎます!!」
「そう?じゃあユナ、久しぶりに一緒に歌う?」
「――いいですとも!」
「私も混ぜて!」
人だかりに怖気づいたチカに代わり、どや顔でノゾミの提案に応じるユナと、乗じるレイン。
早速石造りのステージの上に立つ。突然始まったゲリラライブに道を行くプレイヤーは足を止める。ユナとノゾミ、2人の歌に惹かれて次第に観客も集まってくる。
「良いのか?お前はこっちで」
「うぅ……彼女らの大胆さが少し羨ましい……」
「まぁ、そこはゆっくり治していくしかありませんわね」
突然のライブを観客に交じって2人の歌を聞くチカ。
自分も混ざりたいように唸り声をあげるチカを尻目に周囲に目を向けた。
周囲のプレイヤーは突然のことで呆然と立っていたが、聞いているうちに彼女らの歌に惹かれていき、ステージの客席へと集まってくる。
「まあ、彼女も人気があるのですね」
「そんなリアクションは無いですよ!ユナさんの歌は、学校でも人気だったんですから!」
「へぇ。そんなにすげぇのか」
「当然ですよ!」
いやにユナの歌を推すチカに若干引いてはいるが、マコトも納得した。
ノゾミだけでなく、ユナの歌も人を引き寄せる力があるかのように、道行くプレイヤーが次々に足を止めて聞き入っている。
それに意外だったのはレインだ。歌に興味があるというのも初耳だったし、飛び入りの初ライブだというのに物怖じ一つしていない。それでもノゾミやユナに負けず劣らずというレベルの歌唱力には舌を巻いた。
「……ライブ、ですか。――ええ、これは行けますわ。けれどここでは少し殺風景ですわね……」
「あの……ウィスタリアさん?何考えてるんですか?」
「またとんでもねぇこと考えてるんじゃないだろうな?」
一人何かをたくらむウィスタリアを怪し気に見るマコトとチカだった。
それから暫くして。歌い終えた3人が見るからに満足した様子で帰ってきた。
「お疲れ様。で、思いっきり歌ってどうだった?」
「「最ッ……高ッ……!」」
3人の内、レインとノゾミは完全に感極まった表情である。
久々に歌えたのがそんなに気持ちよかったのだろう。
「まさかまたノゾミと歌える日が来るなんてね。あー、楽しかった!」
「私もだよ。あ!だったらユナも私達のギルドに入る?」
「え?」
ノゾミからの予想外の言葉に思わず聞き返すユナ。
「あのさ……なんかその人もうギルドに入ってるっぽいぞ?」
「マジで!?」
「マジだよ」
彼女――正確にはノゾミ達にも――のHPバーにはギルド団員の証であるマーカーが付けられている。
実を言うと既にユナは攻略ギルド【血盟騎士団】に入団しているのだ。肝心のノゾミは全く気付いていないだけである。
マコトに言われてがっくりと膝をつくノゾミとチカ。
「酷い……!」
「こんなことって……!」
「えぇ……ガン泣き……?」
「あはは……。誘ってくれてありがと。でも、私にもやることがあるのは事実だよ。それは捨てられないし、エーくんも置いていくこともしたくないし……」
「エーくん?そっか、エイジもここにきてるんだ」
「うん。同じ【血盟騎士団】にね。あんなことがあって不安だったけど、ノゾミは相変わらずみたいでよかった。それじゃあ私、これからギルドのみんなの所に戻るから、フレンド登録しとこうか」
戻る前に、ユナは一行とフレンド登録をする。全員のフレンド登録を終えるとすぐに通路の先へと走って行く。
ふと足を止めると振り返り、ユナは一行に――ノゾミに向けて声を張り上げた。
「ノゾミ!レイン!いつか3人で最高のステージにしましょう!」
ユナの声に、ノゾミとレインもお返しと言わんばかりに声を張り上げた。
「うん!その時を楽しみに待ってるよ!」
「私も!3人で最高のステージにしましょう!」
返された返事にユナも手を振りながら去って行った。
「アインクラッドでのライブ計画……ふふ。これはさぞ盛り上がりますわよ……!」
ただ一人、企むウィスタリアに誰も気づかないまま――。
次回「月夜の黒猫とEXスキル」
(・大・)<1回目のワクチン接種を終えてきましたー……。
(・大・)<今年の夏はSAO×プリコネの小説をメインにしていきたいので――。
(・大・)<防振り×デンドロは今しばらくお待ちください。