プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
(・大・)<2話連続投稿だ。
前回までのあらすじ。
20層で【月夜の黒猫団】と活動を共にするキリトを発見する。
同時にノゾミにスキルの解放を知らせるメッセージが入る。
【月夜の黒猫団】と共に《十戒の寺院》に向かった所、ノゾミがその1つの部屋の中に閉じ込められてしまった。
脱出には目の前の仏像を倒し、試練を突破しなければならない。
今、ノゾミの死闘が始まる――。
(・大・)<なんか物足りないと思って付け加えました。
(・大・)<かなり難易度高めの設定になってしまったが……。
(種が分かれば、倒せないことはないはず……)
先程のパニックから一転、冷静になったノゾミは目の前の仏像と対峙する。
相手は細身の仏像――《The Trial Statue:Saber》。得物は剣先から3分の1ほど逸れた曲刀に分類される刀剣のシミター。
HPバーは3本あるが、1本は今の攻撃で9割ほど削れている。防御力はノゾミの体感的に1層の《フレンジーボア》並みに低い事から、HPバーは外の30層レベル程度の雑魚モンスターに近いと考える。
「――シッ!」
先に動いたのはノゾミだ。
先手必勝と言わんばかりに間合いを詰め、攻撃を仕掛ける。
仏像への攻撃は8割がた防がれるものの、残った2割の攻撃で1本目のHPバーが全損して消滅。2本目も1割削り落ちた。
(……このままだったら行けるけど……)
距離を置き、腰を据えながら思案する。
そんな僅かな期待を簡単に壊す様に、今度は仏像が動き出した。
くるりとシミターを回転させて肩に担ぐように構えた瞬間、間を置かずに《ディパルチャー》で一気に迫って来た。
咄嗟に防御して事なきを得たが、次の瞬間には片足立ちのままシミターを持つ手の腕を口元へと近付ける。
(この技は、確か……)
ノゾミもその回転斬り――《カットダウン・シックル》を知っていた。【ブレイブ・フォース】からも2、3度模擬戦を頼まれてこの技を繰り出してきたプレイヤーもいる。
ソードスキルで弾く時間も無い。防御の構えをした途端、彼女が今まで受けた中で余裕で1位に入るほどの衝撃が襲った。思わず1メートルほどまで離される。
(よし、後はこのまま――)
仏像の硬直よりもソードスキルの硬直時間のほうが早く解除される。先に動けるようになったノゾミがソードスキル《ディパルチャー》を叩き込もうとした。
が、次の瞬間、仏像がぐるりと硬直した体勢から立て直し、振り上げたシミターで《サーブ》を叩きつけるかのように繰り出した。
「ふぎゃッ!?」
叩きつけられ、ボールのように跳ねる。
再びくるりとシミターを回転させると、湾曲した切っ先をピックのように突き立てる。
その攻撃は間一髪転がって回避し、斬撃を放って無効化カウントを再び0にする。
(嘘でしょ、あの状況で反撃!?それに、なんでソードスキルの後の硬直が起きないの!?)
「おい、何があった?」
一瞬パニックになりかけたがキリトの声で我に返る。
「――ソードスキルを使った相手が、いきなり動き出した。これってあり得る事なの?」
「……ありえない。刀身に光を出した攻撃は基本スキルごとに存在する硬直時間がある。下位ならまだしも、中位以上でそんなことはできないはずだ」
目撃していないキリトも声から困惑の色が見える。
その間にも再び仏像の攻撃が始まり、先程よりも激しい剣戟に防ぐだけで精一杯になる。
そんな中、仏像が斬り上げと斬り払いの2連撃を繰り出す。
(ん?今のって……)
先程の攻撃の違和感に気付いたノゾミが一旦距離を取り、扉越しのキリトに情報を伝える。
「ねぇ、ソードスキルって刀身が光るんだよね?」
「え?ああ。それはSAOのシステムにおいて絶対だ」
「だったらソードスキルの
「……はぁ?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
少し考えて思考を巡らすと、答えを告げる。
「……理論上は可能、かもしれない」
「つまり……あれはフェイントってこと?」
SAOのボスにはHPがある程度減少すると行動パターンが変わることは多々ある。
この仏像もそれと同様に、数回に1回の確率で『ソードスキルの動きを完全再現した通常攻撃』の行動を行うのだ。
再現ソードスキルには当然硬直も無い。刀身の光は外部でも判断できるものだが、一瞬の間にソードスキルか否かの判断は難しいだろう。
(だったら、私が確実に弾けるタイミングで……!)
仏像がノゾミを斬り裂かんと駆けだす。一気に間合いを詰めての剣戟の応酬。そしてソードスキル発動を合図するかのように刀身が光る。
(ここだッ!!)
同時と言っても良いタイミングで、ノゾミもシミター目掛けて《ディパルチャー》を発動。シミターを
(ようやくラスト……!)
いよいよ終わりが見えてきた。
電子の世界なのに口に溜まり始めた唾液を飲み込み、改めてファルシオンを構える。
仏像は弾き飛ばされたシミターには目もくれず、代わりのサーベルを鞘から引き抜き、剣舞の如くサーベルを躍らせる。
2合、3合と剣を交え、仏像が《サーブ》を繰り出そうと振り上げる。
チャンスと言わんばかりにノゾミもその振り下ろしに合わせ、斬り上げで迎え撃つ――はずだった。
「……えっ?」
思わず声が出た。
迎え撃つはずの袈裟斬りが消え、いつの間にかシミターによる斬り上げが無防備な脇腹に迫っていた。
――今のは幻覚?いつの間に?
ノゾミの混乱を他所にサーベルは迫り――1撃目、2撃目が剣にぶつかってなお攻撃を受ける。
「きゃああああッ!!」
再び斬撃をまともに食らい、吹っ飛ばされるノゾミ。HPバーが一気に削り落とされ、危険域を示す黄色を通過し、赤に差し掛かる。
心臓が早鐘を打ち、目の前に迫る死に呼吸も荒くなる。
HPがだんだんと減っていき、減って、減って――止まった。
「……ふぅ」
一先ず危機が去って安堵するノゾミ。
今の攻撃は無意識にファルシオンで受けて攻撃を逸らし、直撃とまではいかなかった。そのおかげで1割弱残して生き残ることができたのだ。
が、そこで止まるはずの仏像ではない。倒れているノゾミに止めと言わんばかりに跳躍からの振り下ろしが迫る。
攻撃を避けてポーションを飲もうとした瞬間、飲み口が鋭い一閃と共に両断され、地面に落ちて消滅する。
仰天するのも束の間、今度の剣戟の応酬は今までよりも桁違いの激しさだ。ノゾミも反撃する暇も無く逃げに徹する。
「あんなのどうやって崩せっていうのよ!?」
彼女が見たことも無い最上級ソードスキルの応酬は、まるで暴風雨が形になったような激しさだ。
時間にして数十秒の応酬のあと、仏像が再び《ディパルチャー》のような構えを取る。
(今度は本気?それともフェイント?というか、さっきの攻撃で最低でも3回は攻撃を当てなきゃいけないの!?)
問題は仏像の行動パターンだけではない。今の攻撃で更に2回受けたので2回分のダメージ無効化の強化が付与されたのだ。早い話、最低で3回は攻撃を当てなければ攻略不可能な状況に置かれているのだ。
トドメに仏像の行動パターンに、『《ダンス・マカブレ》の使用率が3割上昇』、『相手が武器以外のアイテムを手にした時、そのアイテムが破壊可能ならそのアイテムのみを破壊する』というシステムを発動し、フェイントに加え、結晶系どころかポーションの類のアイテムすら実質使用不可になった。難易度は格段に上昇したと言える。
(《アドマイアー》を使う?いや、下手したら硬直時間の間にやられる。別の剣や投剣は……無理。そもそも投剣は持ってないし。大体3回もソードスキルを当てる方法なんて……)
頭を掻きながら思考を巡らすノゾミ。
その時、一つのアイデアが閃いた。
(……ん?ちょっと待って。攻撃を当てるだけなら、わざわざソードスキルでなくても十分なんじゃない?)
ソードスキルを携えた突進が迫る。
それを見計らい、ノゾミはファルシオンを右手に持ち替え、逆手で左肘に充て木のように添えて身体を左に僅かに傾ける。
次の瞬間シミターとファルシオンがぶつかり、火花を散らしながら突進を逸らす。
仏像とノゾミがすれ違い、背中合わせのようになった瞬間、ノゾミはくるりと回転して2連撃もかくやと錯覚しそうな速さの連撃を叩き込み、無効化カウントを0にした。
(あとはHPを削り落とすだけ!)
ほぼ同時に振り返り、ほぼ同時に刀身が光る。
上段の横薙ぎと上段への突き。2つの刃がぶつかり合う――ことは無かった。同じように《ダンス・マカブレ》のフェイントだ。
「――それは、読んでいたわよッ!!」
くるりと回転し、下段の斬撃で実態のあるシミターを弾いた。
《ダブルムーン》による2段構えの弾きを直撃し、仏像が三度体制を大きく崩す。
――今だ!
正真正銘のラストチャンスと言わんばかりに、ノゾミは必殺のソードスキルを発動する。
ファルシオンの刀身が朱く閃き、舞い踊るように仏像を斬り裂き、万華鏡の光景の如く舞い踊る。
ノゾミが持つソードスキルの中で最強の終曲剣舞《カレイド・スコピック》。
最後の一閃を直撃し、仏像の動きが止まる。数拍の後に最後の一閃を当てた胸から生じた亀裂が次第に全身を駆け巡る。
次の瞬間、仏像は赤いポリゴンの欠片となって爆散した。
(……終わっ……た……?)
仏像が居た場所で大きく、『CONGRATULATION!!』という文字が浮かび、そこでノゾミは戦いが終わったことを知る。
いつの間にかHPの赤いバーは、距離からすれば1センチも満たない。
ノゾミは戦いの終わりに安堵と共に全身から力が抜け落ちるのを感じながら、倒れ伏した。
手から落ちたファルシオンが、ノゾミ以外誰も居なくなった室内でからりと金属音を響かせた。
†
キリト達は【十戒の寺院】周辺を捜索を続けていた。
何か隠し通路みたいなものがあるのかもしれないと思い、総出であちこちを穴が開くほど探し続けた。ダッカーとケイタは引き続いて扉の破壊を試みるが、何度攻撃しても傷一つ憑かない扉に次第に焦燥が募っていく。
「くっそ……!全然壊せない!」
「ダッカーさん、ケイタさん。そっちはどうでした?」
「駄目だ。そっちは?」
駆けあがったツムギはダッカーからの問いに首を横に振る。
「それより、ノゾミさんは無事なんですか?」
「とりあえず、HPはまだ残ってます。でも、うかうかしてたら……」
視界の左上にパーティとして表示されているノゾミのHPから、まだ死んではいない。
しかし未だにHPバーは赤である為、いつ消えてしまうかと気が気でない。
「ああもう!どうやったら助けられるんだよ!!」
痺れを切らしたケイタが思わず扉に拳を叩きつける。その時だった。
突然扉が一瞬だけブレを起こした。モンスターやプレイヤーが消える直前と同様に。
「え?」
3人が呆けている内に扉のブレは激しくなり、ついにはポリゴン片となって消滅した。
「こ、これって……!?」
状況に頭が追い付いていないものの、武器を抜いて内部を探るケイタとダッカー。
外見から見た光景と内部の広さが比例していないことに驚きつつも内部を見渡す。
壁に掛けてあった松明以外には何もない。
――まさか、死んでしまったのか?
ケイタの脳裏に不安がよぎったその時、突き立てられているファルシオンとその傍で倒れているプレイヤーが視界に入った。
「ノゾミさん!」
慌てて駆け寄ると、ノゾミは完全に意識を失った状態だった。同時に2人は察する。彼女は試練を突破したのだと。
絶え間なく続くと思われる死の舞踏を制し、死の恐怖から解放されたノゾミは安堵と疲弊で一気に意識を刈り取られたのだろうと。
「おーい!無事だ!早く外のみんなにも知らせてくれ!」
担ぎ上げたケイタが声を張ってツムギに知らせた。そのことを聞いたツムギは、急いで寺院の階段を駆け下りるのだった。
†
「……死ぬかと思った………」
あれから更に10分後。目を覚ましたノゾミがポーションを飲み干した直後の感想はそれだった。
次第にHPが回復するのを見守る中、サチが辺りを見回す。
「外のモンスターがうろついてるのに、モンスターが全然襲ってこないね」
「そういえば、調べてる時にも襲うどころか近づこうとすらしてませんでしたね」
忘れてしまったようだが、ここは園外。モンスターに襲われる可能性もあったが、モンスター達はここから30メートルほど離れた場所に屯していて襲う気配はない。
この場所はダンジョンで言う安全地帯と言った所だろうか。
「あのクエスト、どうやら先着限定って訳じゃなさそうだ」
見回りに出ていたキリトが一行と合流する。
ノゾミが入った扉は一度消滅したと思ったらノゾミを外に連れ出した瞬間に再び生成された。試しに開けようとした所、クリア前と同様固く閉じられていた。
「で、何か報酬は無いのか?」
キリトに促され、何十倍にも重たく感じる腕を動かして操作する。スキル欄を見て、口に出して説明をした。
「《連刃剣舞》……見た感じは、曲刀のスキルを自由に繋ぎ合わせたり、曲刀のダメージ上昇と剣舞系ソードスキルのクールタイムの短縮ね」
「凄い……良い事尽くめじゃないか」
「《連刃》は剣舞系限定かつ、繋げられるのも2つか3つが限界だ。下手に長々とソードスキルを使うような真似をしなければ相当強いぞこれは」
理不尽なクエストに見合ったスキルだ。しかもクエスト自体再び受けられるという利点が証明された。理論だけなら攻略組全員が《連刃剣舞》を含めた8つのEXスキルを手に入れる日も来るかもしれない。
ただし、それは完全な初見殺しを持つ8つのクエストと、理不尽なまでの達成条件をクリアしなければならないという問題点も抱えているが、キリトもケイタも興味津々だ。
「あ、待って。これ盾関係のスキルが全部0になってる。他の武器どころか投剣系も、もう装備できなくなったみたい」
「えー……」
前言撤回。
盾と言うのは重要な防御手段であり、同じく防御手段の《武器防御》に比べれば攻撃手段の武器の耐久値を考えることなく
スタイル重視で盾を装備しないプレイヤーも居るが、言い換えればこのスキルを得たプレイヤーは盾で防ぐこともできなくなり、防御手段が
強力な分、相応のデメリット。クリアした後もまだ使いこなせるか否かの試練がプレイヤーには立ちはだかっているようだ。
「パーティでもクリア可能なくせにクエストはソロ限定か。ちゃんと言っとかないと下手に犠牲者が出かねないな。アイテムも使えないとか鬼畜だろ」
寺院を忌々しく見るキリトに実体験したノゾミも同意するようにうなずく。
他にもあのレベルの難易度があるのであれば、下手にクエストを受けないほうが身の為だ。幸い先着限定という訳ではないが、これ以降のクエスト報酬を入手するのは、相当骨が折れるだろう。
「これはアルゴさんに情報を渡して、公開しておきましょう。条件は……あった。これで良いかな?」
「ああ。確かにそれが条件だけど……おい、パーティでも難しくないかこれ?」
「ええ。私はパーティでクリアしたけどね……」
ノゾミの返答にキリトも「そうか……」とうなずいてそれ以上の詮索はしなかった。
「それじゃあ俺らもそろそろ帰ります。今日はありがとうございました」
【月夜の黒猫団】は彼女らとフレンド登録を交わし、その場を後にしていった。
(あれ?そういえば……)
(十戒って、仏教でいう10ヶ条の戒律だったよね?なんであの寺院には
ふと振り返ったユイは建物の構造に疑問を持ったが、この場にそんなことを気に留める人物はいなかった。
次回「棺は嗤う」
(・大・)<例の話から4ヶ月も間があるのでちょっと付け加えたかった話を入れました。
(・大・)<ええ、あいつらです……。
おまけ
《The Trial Statue:Saber》について。
(・大・)<HPと防御力無振りというレベルの低さに対して、『相手に攻撃を当てた回数分ダメージを無効』、『3回に1回はソードスキル完全模倣の通常攻撃』、『《ダンス・マカブレ》の使用頻度上昇』『アイテムの破壊』という4つのスキルを持つ。
(・大・)<プレイヤーからすれば、攻撃を受ければ受けるほどどんどん不利になり、HPを削っても大技の硬直のふりや幻影効果のフェイントを多用し、回復しようとしても阻止される状況で戦わなければならない。
(・大・)<しかも結晶無効化エリアなので、どちらかが消えるまで脱出不可の鬼畜クエストである。
(・大・)<拙作では原作に出た2つと、残った8つのユニークスキルにはとんでもない難易度の条件があるEXスキルとなっています。