プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
「おぉぉ~!」
「凄いですね。まるでお店に並んでも違和感ないレベルですよ」
ユイなどを含めた7人のポーション製作者が【調合】や【錬金術】を使う為のプレイヤーホームで、感嘆の声を上げるウィスタリアとティアナ。
テーブルには軽く30は超えるケーキが陳列し、イチゴのホールケーキ、フルーツケーキが並べられ、どれも現実のケーキ店のショーケースに並べられても違和感を感じないほどの出来栄えだ。
「ふふーん!エリザベス2世から採れた生乳で作った生クリームと、【養鶏】を持ったテンカイが採れた卵を使ったケーキだべや!他にも小麦を売ってた所もあったから、【加工】のスキルで小麦粉にしてここまでケーキが作れただよ~!」
「果物はこの街で取れる物や、上で果物の採れる木を見つけたりして、今まで備蓄してたのが幸いしたよ。子供たちにも味見はしてもらったから本番でも行けるよ」
「味見したのではサプライズの意味は無いのでは?」
クリスマスのサプライズの一つとして、プレゼントの代わりにケーキを配るサプライズがあるのだ。サプライズの相手に味見なんてティアナの呆れた声も納得な気もするが。
「邪魔するぞー。また例の奴から素材が届いてた」
「またか?これで3回目だぞ」
丁度その時にテンカイが来店。カウンター席まで歩くとマスタークラスの細工師しか作れないという永久保存トリンケットをストレージから取り出した。それも3つも。中身を確かめるとやはり食糧品が積載限界ギリギリまの食料の詰め合わせだった。
この永久保存トリンケットは備蓄用に【ゴスペル・メルクリウス】や教会などの主要な建物に幾つか倉庫代わりに用意してある。無論【エリザベスパーク】も備蓄用に幾つか大きめの物を使っている。
が、このトリンケットは元からテンカイが所持している訳ではない。差出人不明のトリンケットの贈り物は、今回を含めて3回も行われているのだ。1ヶ月に一度の10日の朝、転移門広場の前にトリンケットが毎回1つから3つ放置状態で置かれていて、中身は決まって食料が詰め込まれている。
件の【笑う棺桶】の活動開始の宣言が録音結晶を通じて大体的に告知され、アインクラッド全域が震撼した。
子供たちやウィスタリアはその贈り物を素直に喜んでいたが、大人達は対照的にその贈り物を薄気味悪がった。もしかしたら何かの罠かもしれないと疑心暗鬼したが、《解析》スキルで調べてみた所、異常は無いと判断されたが、早々にこの件は解決すべきという声もあり、クリスマスのイベント終了後に【ブレイブ・フォース】の面々が大体的に調べる予定である。
「今回も異常はありません。問題ないです」
「……食料の配布はこちらとしてはありがたいがな、送る側の意図が掴めない限りは不安でしょうがねぇよ」
「それでも食料を持ってくるのはありがたいことですわ。今も収入の足しに他なりません」
「それでも、今日のイベントが終わり次第調べるべきだろう」
呑気に食料を別のトリンケットに移すウィスタリアに対し、テンカイは警戒を強めるように注意する。
「ふふ。これで準備万端。あとは時が来るのを待つばかりですわ」
†
同時刻。【ブレイブ・フォース】本部、応接室。
ラジラジの案内の元、【ブレイブ・フォース】本部のリビングを訪れたクライン。
そこに居合わせたノーチラスやそこで資料を纏めていたユースも交えて簡易的な会議を開いたのだった。
「それで、話と言うのは?」
「まあ、そこは単刀直入に言おうか。――35層のボス攻略にお前ら【ブレイブ・フォース】の力を借りたい」
「……本当にバッサリ言い切りましたね。それにしても35層ですか」
【風林火山】は攻略組の中では人数が6人と小規模ギルドだが、その堅実な戦いぶりはトップクラスのギルドと引けを取らないと言われている。
元からそんな風では無かったのだが、ツムギの話によれば、第1層が解放されるまでの2か月間は周辺で狩りを行、地道にレベリングなどをこなしていたらしい。
ともあれ35層は既に攻略済み。彼らのレベルは全員55以上で、アルゴの攻略ガイドからも粗方クエストの出現条件などは公開されているので、上を目指す攻略組としては妙に低い階層だ。
「言伝に聞いた話だが、なんでも今日深夜0時に現れる限定ボスを討伐すれば、蘇生アイテムを手に入れられるそうだ」
蘇生アイテム。その一言で部屋の空気が二分化された。
ひとつは期待。もしそれが本当なら、今までに死んだプレイヤーを蘇らせることができるかもしれない。
ひとつは疑念。茅場明彦の言葉が本当なら蘇生システムは機能しないはず。なのになぜ蘇生アイテムがドロップされる?
「俺らも正直蘇生アイテムの件はガセに近いと考えている。ま、【解放隊】や【DDR】はそうは思ってないらしくて、今も血眼で探してるだろうな」
「クライン殿。なぜその情報を我々に?百歩譲ってその話が本当なら、下手をすれば大ごとに巻き込まれないのでは?」
ユースの言う事も納得できる点はある。
旧友、家族、恋人……。この浮遊城で出会ったギルドメンバーなど、蘇らせたいプレイヤーは相当な人数なのは明白。
蘇生アイテムの権利をめぐってギルド同士の対立が激化するかもしれない。更に言えば、所持しているプレイヤーが殺されたり、アイテムを盗まれる可能性も考え得る状況なのだ。それが各地で勃発すれば、最早攻略どころではない。最悪詰みかねないということも考えられる。
「確かにな。トップギルドは1ヶ月前から血眼になってたっし、確かに問題はありそうだが、俺らはあくまで中立を貫く。どこのギルドにも譲る気はねぇ」
「なるほど。それで、アイテムや報酬はどうするつもりですか?」
「報酬を取るつもりですか?」
「当たり前です。我々とて慈善事業ではないのですよ?」
報酬を示唆したラジラジにユースが思わず口を出してしまった。ユース自身知らないだろうが、【ブレイブ・フォース】の護衛は単に善意によるものではなくれっきとした仕事として扱ってもらうと、《始まりの街》に降りた初日にラジラジがウィスタリアに提示したのだ。
対してクラインは予想していたように作戦と報酬を提示する。
「俺ら6人は例のイベントボスの討伐に全力を注ぐ。お前らはその間に他の連中の横やりを阻止してほしい。報酬は均等分配した金と蘇生アイテム以外のドロップアイテムの6割の譲渡。どうだ?」
「8割」
さらっと告げた要求にクラインはおろか、ノーチラスでさえ息を詰まらせた。
「いきなり吹っ掛けてきやがる。7割でどうだ?」
「……良いでしょう。吹っ掛けすぎると決裂しかねませんからね」
「いきなり8割要求してくる奴がいるかよ。とにかくこっちも頭数が欲しいけどよ」
根負けしたのか、赤髪をガシガシと掻きながら交渉に応じたクライン。
了承と受け取ったラジラジは後ろにいたノーチラスに指示を出す。
「ノーチラスさん。カオリさん達に連絡を。他の皆さんにも一斉メールで招集させてください」
「もうやってます」
「俺らの方も準備を進めねぇとな。35層のボスとはいえ、できる限りしておかねぇと」
クラインも椅子から立ちあがり、メールでメンバーに報告する。
それを終えると、すっとラジラジに手を差し伸べた。
「今回は頼むぜ」
「ええ。あ、でも握手をするほどの事ではないでしょう」
「えぇ……」
さらっとキツイ返しをしたラジラジに、クラインも思わず気の抜けた声を上げることしかできなかった。
†
準備が整い、35層に到着したのは午後9時の事だ。15人強ものプレイヤーが一斉に転移広場から現れる。
「準備は良いな?行くぞ」
クラインが振り返って確認を取ると、そのまま目的地へと足早に歩きだした。
準備が揃うまでにここまで時間がかかったが、まだ十分時間はある。しかしこの層のフィールドエリア《迷いの森》は、他のフィールドダンジョンのように広い1つのエリアを使っているのではなく、小さなエリアが複数連接している状態で構成されている。5分ごとにエリアがランダムに変化し、もたもたしてたら自分がどの場所に居るのか見当もつかないほどに迷ってしまう。おかげで遭難するプレイヤーもしばしばいるのだとか。
その対策としてこの層ではそれなりに値の張る専用マップが必需品となる。最も、わかるのは地図の全域であってどこに飛ばされるかはわからない。これでも無いよりはマシだ。
【風林火山】は勿論【ブレイブ・フォース】もこのマップの事は知っている。そのことも計算に入れて、あらかじめ早すぎると思うほどの時間に行動を開始した。
移動し、道中のモンスターを倒し、5分おきに地図を確認。現在地を確認して移動。これを繰り返して目的地――巨大なモミの木の一つ前の場所、イベント個所以外で唯一の固定エリアへとした到着。時間を見た所なんと午前0時10分前――2時間50分はかかってしまっていた。
「よし。じゃあ改めて作戦内容だ。俺達【風林火山】はラジラジと一緒にこの奥のボス《背教者ニコラス》の討伐に専念する。戦闘開始から2時間――つまり25日の0時から2時までの間だ。その時間を過ぎたら失敗と見なして脱出。お前らも午前2時になったら転移結晶なりなんなりで35層の主街区に帰ってくれ。【ブレイブ・フォース】は俺らの討伐の間、他の連中の介入を防いでもらいたい」
「あれ?時間が決まってるの?」
HPを回復し、耐久値を確認して【風林火山】の面々が最終調整に入る中、カオリが呑気な声で質問してきた。
「知り合いの情報屋から聞いてみたところによるとだな。規定タイムを過ぎると一気に報酬のランクが下がるらしい。例の蘇生アイテムを狙うなら、その規定タイム以内にクリアしなきゃならねぇそうだ」
「随分鬼畜だな。攻略組が出てくるとなるとそのボスも35層程度っていう訳でもなさそうだ」
剣を素振りしているノーチラスが6人の身を案じるかのようにクラインに言う。
「無茶でも何でもやるしかねぇんだよ……」
まるで、自ら退路を断ったかのように言葉を絞り出したようなかすれた声。
【風林火山】の面々のストレージには大量の回復結晶が羅列している。ポーチにも幾つか回復結晶を入れ、準備は万端だ。
全ての確認を終えた時には0時まであと3分を切っていた。
「その前に一つよろしいですか?――あなたの目的は蘇生アイテム以外にありますね?」
最終調整を終えた所で出てきたラジラジの質問。
その言葉に、ひゅっと息を呑むクライン。
「目的って、ただ大型ギルドの衝突とか、攻略ペースの停滞を避けるためじゃないの?」
事情を呑み込めないカオリが疑問符を浮かべる。
そこにノーチラスが彼にも分かりやすく説明を入れる。
「今俺達の被っているナーヴギアは、マイクロウェーブのリミッターが解除されていることは知っているよな?仮に茅場明彦の話が本当だとすれば、その蘇生アイテムは焼かれた脳をその前の状態――ダメージを受ける前の状態に戻せるかという疑問に直結する。もっとわかりやすく言うならレンジに生卵を入れて、中で爆散した卵を基の生卵に戻せるかって話だ」
「……無理、だね。けど嘘だったってことは?デスゲーム自体が茅場明彦の嘘で、本当は二度とSAOにログインできないってだけでしたって……」
「ないですね」
バッサリとラジラジが否定。
まるで見てきたような一言に思わずカオリも目を丸くする。
「私もあの宣言の後、ナーヴギアのスパークが発生して息絶えたプレイヤーを見てきました。蘇生といってもスパークが発生する時間までの僅かなラグ程度の短い時間が蘇生猶予と思うのが普通でしょう」
「……待った、スパーク?アンタ、なんでそんなこと知ってるんだ?」
カルーが思わずラジラジに訝し気な声で尋ねる。
【風林火山】の面々も、ラジラジに疑念を含めた視線を向けている。
「……失礼、この話は後回しにしましょう。ノーチラス、この場の指揮は一任します」
「了解。総員、準備を急ぐぞ」
「んじゃ、頼むぜ」
【風林火山】の6人とラジラジがモミの木のエリアへと進む。
彼らが消えた所で自分達も防衛の準備を進める中、カオリが訊ねてきた。
「蘇生アイテム以外の目的って、何なの?」
「さあな。あの様子だとそのボス限定のドロップって可能性も薄い。考えられるとしたら……」
「したら?」
「そのアイテムを餌に、誰かを誘っている――」
そんなことを呟いた時、集団の後ろで青白い光が現れる。
「あれは……」
その来訪者は、一言で言えば黒だった。灯りの無いこの森の中で見失いそうな黒一色に統一された服に黒髪。背中に差した片手直剣――。
「キリト!」
(キリト……確か“ビーター”とか“黒の剣士”とかの二つ名を持ってたソロの攻略組だったな。ひょっとしてクラインの目的はこいつか?)
「おーい!」
久しぶりの再会と駆け出したカオリが顔を上げたと同時に見えたキリトの目を見て絶句した。
彼の目から光が消えていた。暗黒と見間違うほどの黒。
全ての希望を絶たれ、絶望と孤独の渦中に生きていたかのような黒。
全てを飲み込む、一筋の光すら塗りつぶす黒。
何をどうしたらこんな目になる?キリトと知り合ったカオリはその目に背筋を凍らせた。
「キリト、何が――」
「そこまでだ!」
言いかけたその時、次々と青白い光が現れる。
そこから青と銀のフルプレートに身を包んだプレイヤー達がこぞって現れ、瞬く間にキリトを包囲する。
この統一感のある全身鎧集団はカオリも知っている。前にウィスタリア達が商談に出かけた【聖竜連合】だ。攻略組最大のギルドと名高い彼らは、最近は【笑う棺桶】らしきプレイヤーの目撃情報が相次いだのを知り、警備がてらに犯罪者狩りも活動に含めている。
それに伴い強引な点も目立ってきていて『末端プレイヤーは軽度ならば犯罪に手を染めても構わないと思っている』という黒い噂も絶えない。彼らがここに来たということは、つまりキリトは彼らに目を着けられることをしたということになるが……。
「“ビーター”キリト!貴様を拘束する!」
「大罪人だと?グリーンなのに?」
「……どういうことだ?」
興奮するカオリに対し、ノーチラスはあくまで冷静にリーダーらしき男に訊ねる。
「奴は一つのギルドを壊滅に追いやった。これはまごう事無き殺人だ!」
「どれくらい前に起きた?」
「……半年前だ」
リーダー格から引き出した情報から整理すると、皮肉にも大罪人という名も納得せざるを得ない。
カラー・カーソルはプレイヤーの状態を示す簡易情報アイコンであり、通常は緑色で表示される。しかし犯罪行為に手を染めたプレイヤーのカーソルはオレンジ色に変わり、犯罪者プレイヤーと呼ばれるようになる。犯罪者になると園内に入ると凄まじい手練れのNPC、通称《憲兵》に追いかけまわされるなどの様々なデメリットを被ることになる。
そんな救済措置として、各階層の園外村には教会が存在し、そこで受けられるカルマ回復クエストをクリアすればカーソルの色をまた緑に戻せる。半年もあればカーソルを戻すだけでもお釣りがくる。
「奴を拘束しろ!抵抗するなら殺せ!」
その一声で、解放隊メンバーが雄叫びと共に、剣を手に襲い掛かる。
「ど、どうする!?」
「アイツの目的がこの先だっていうなら止めるべきだ。ここを陣取って迎え撃て。あくまで止めるだけだ、殺すなよ」
ノーチラスの指示で【ブレイブ・フォース】も武器を構えて迎撃の準備を整える。
その間のキリトの行動は、こちらの予想を超えていた。
急に踵を返して針葉樹の一つに駆け出し、木の幹を踏んで宙返りしつつ一番前のプレイヤーの肩の上に着地する。そのプレイヤーが驚く間もなくくるりと反転するとその頭を足蹴にし、また別のプレイヤーの頭を踏み抜く。まるで稲葉の白兎の話にある鮫を使った対岸への移動のようだ。
「槍だ!槍を使え!」
すかさず槍使いの2人が前に出て、キリトを串刺しにしてやろうと突き出した。
キリトは自分に迫る2つの穂先を掴み、逆立ちすると同時に交差した刺突を避けて簡易な足場となった穂先で跳び、着地地点にいたリーダー格の顔面を踏み抜いて更に跳ぶ。
「キリト」
後ろでリーダー格のプレイヤーが倒れる中、カオリが声を掛けてきた。
次の瞬間にはキリトの前に決闘受理のウィンドウが現れる。
「君を、止めるよ」
「……そうか」
影を含むように小さく呟くと決闘を受諾。そして……カウントが0になる。
先に動いたのはカオリだった。一気にキリトに迫り、半身の構えからの突進。片手爪ソードスキル《ラガマフィン》。初撃で決着を着けようとしたが、それを剣でいなすキリト。そのままくるりと回転し、背中目掛け剣を振るう。
「なんのッ!」
倒れ込む体制のまま、浴びせ蹴りで剣戟を防ぐ。素早く起き上がり、左の盾を前に、右の戦爪を引いて構える。
「ちぃ……ッ!」
「ステータスもあるかもだけど、技術ならこっちが上さ!」
「……空手か」
ステータスの差ならキリトのほうが断然有利。それでも張り合えたのは彼女の現実での経験がある。
彼女は
剣の攻撃を盾で、戦爪で防ぎ、体術の攻撃を同じく体術で防ぐ。まったく互角の戦いが繰り広げられる。
「このまま押し切って――」
体力的に考えてもすぐに乗り込んだキリトのほうが少ないと踏んだカオリは、攻めの姿勢を崩さず畳みかけようと距離を詰める。
しかし、この戦いはあくまでSAOの中の「決闘」。現実の空手ではない。初撃決着と言うルール以外はほとんどの手が許される。
得物を雪に突き刺し、カオリとの距離が1メートルを切った瞬間、自分の剣の持ち手を思いきり後ろに傾けた。
てこの原理で倒れた剣は雪をかき上げ、カオリの顔面に命中する。
「――ぶっ!?」
一瞬の隙を突かれ、そのまま脇腹に逆袈裟斬りを受けて決着。キリトの頭上に決闘の勝者を示すウィンドウが現れた。
「……俺の勝ちだ」
倒れ伏したカオリに興味は無いと言わんばかりに、冷めた口調でモミの木へと向かう。
「総員、迎撃準備」
「お、おい……殺すつもりか?」
ノーチラスの言葉に左隣にいたプレイヤーが困惑を含めた声で訊ねた。
彼とてSAOの暗黙のルールは知っている。無論殺害は度外視している。
いや違う。度外視しているのではない。
だがそれでも通す訳には行かない。依頼主の本命が彼に関係しているのなら、彼がこの奥に行けば依頼主にとって最悪な展開になるのは目に見えていた。
緊張感が走る中、【ブレイブ・フォース】の面々が一歩にじり寄った瞬間、キリトがあり得ない速度で駆け出した。
(《疾走》!?)
キリト自身がまるで黒い弾丸のようなスピードに虚を突かれ、集団の間を縫って後ろのモミの木へと突入する。
「しま――ッ!?」
気付いた時にはもう遅い。自分達を通り抜けた黒衣が転移の光を見届けることしかできなかった――。
「い、いったい何があったの?キリトに……」
「さあな。それよりも問題は……」
駆け寄るカオリの背後で、【聖竜連合】の集団が武器を手にこちらを睨んでいた。
この場合、自分達は彼らにとって『大罪人を逃がした、彼の共犯に当たる者達』という認識だ。
そうでなくとも彼らはキリトを追うだろう。その奥にはまだ【風林火山】が相手にをしているボスとの戦場にかちあってしまう。そこに巻き込まれたら死者を出すのは安易に想像がつく。
「とりあえず、こいつらだけでも止めとくか」
防衛線の第2ラウンドを感じ取ったノーチラスを筆頭に、次々と武器を構える。
「貴様ら、何の真似だ!?」
「こっちも依頼で邪魔しないでって言われただけだよ。それに、ボス戦に巻き込まれて死んだら、元も子もないんじゃない?」
挑発的に戦爪をくいくいと向ける。
今ので完全に堪忍袋の緒が切れた集団が、一斉に襲い掛かってきた。
次回「