プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
(・大・)<本当なら前後編になるつもりだったけど、話の構造的に3部作になってしまった……。
(・大・)<SAO10周年、新作映画とかゲームってマジ?
あらすじ
突如異世界に飛ばされたムイミ、カスミ、イオの3人。
この世界のルールに戸惑う中、情報屋アルゴの案内でキリト達と出会い、そこで妖精王オベイロンのクエストを受けていることを知った3人は、彼らと行動を共にする。
そこでキモイ行動をする自称妖精王オベイロンにムイミが「オクトーと声が似ている」という理由で激怒。彼女につられるままに戦闘を開始するのだった。
「うらぁ!」
ムイミとストレアの両手剣が妖精兵士を両断する。
キリトとユウキの斬撃が兵士を切り裂く。
アルゴのスピードに兵士は翻弄され、生じた隙を逃さずエギルとクラインが倒す。
リーファの魔法が竜巻を起こし、吹き飛ばす。
妖精王オベイロンを自称するNPCの呼び出した妖精兵士は、次々と倒されていく。
「おいオベイロン!なんでアスナを狙うんだ!?」
「なんだと……?ティターニアは私と結ばれるべくして産まれた存在!当然だろう!」
「んだとぉ!?だったらなんで他の女の子にもベタベタしてやがったんだ!?しかもついさっき!」
当然だと言わんばかりのオベイロンにクラインがヤジ交じりに叫ぶ。
「王たるもの、複数の妾を持つのは当然であるべきだろう!?」
「お前最低だな!」
などと素のツッコミを交えての戦闘は、妖精兵士を次々と倒すキリト達にオベイロンの表情から余裕が消えていく。
「こうなったら……異界より現れよ!黒鉄の魔獣!」
悪あがきと言わんばかりに赤黒い宝玉を掲げる。そこから紅い光の輝きを放ち、正面に巨大な光の門が現れる。
扉が開くと、中から身を屈みながらぬぅっと巨大な怪物が現れる。
「なんだこのデカいのは!?」
エギルが思わず悪態を吐く。
オベイロンが召喚したのは全長3メートル級にも及ぶ黒曜石のような色合いの巨体を持った牛の怪物だった。幾何学模様の紋章が幾つも刻まれており、それらが淡く光っている。
そして頭上には固有名とHPバーが現れる。【THE SMASHING KINGBULL】。直訳すれば粉砕する雄牛の王だ。
「このミノタウロスはかつて人間界を滅ぼしたと言われる究極の巨人だ!その力に恐れ慄くがいい!おっと、ティターニアには手を出さないようにしてあるから安心してくれたまえ。残りは……徹底的な蹂躙だ!!」
ずしりとミノタウロスが歩を進める度に地面が揺れる。目の前のミノタウロスがボスクラスであることは間違いないだろう。
一行が狙いをミノタウロスに向けた時、最前線で妖精兵士を斬り伏せていたムイミが、すっと剣を腰を据えて構える。同時に天楼覇断剣の刀身に光が宿っていく。
刹那、弾丸の如き勢いで飛び出した。
「ムイミちゃん!?危険すぎるよ!」
アスナが叫ぶがもう遅い。
弾丸もかくやの勢いに乗ったムイミはミノタウロス目掛け一直線に向かう。
「馬鹿め、小娘一人でどうにもできる訳があるまい!叩き潰せ!!」
オベイロンの命令を受け、ぐわりと拳を振り下ろす。
隕石の落下を彷彿とさせる一撃が地面にめり込み、衝撃波が部屋いっぱいに駆け抜ける。
確実に潰された。誰もが確信したその時、立ち上った土埃を突き抜けたムイミがダン!と地面を踏み込む。
「うぉぉんどぉぅりぃぃいやあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
自らも大きく跳び上がるほどの斬り上げでミノタウロスの身体を切り裂く。そのまま続けて眉間目掛け、天楼覇断剣を深々と突き刺した。
「あれは……センセーの時と同じ……」
カスミの呟く中、ミノタウロスの目から光が消える。直後にポリゴン片となって消滅した。ムイミが地面に着地した直後、牛の角を模した鍔が施された剣が地面に深々と突き刺さる。
強力なソードスキルを食らった上に弱点にでも直撃したのだろうか、HPが一撃で尽きてしまった。
「ば、バカな……!?究極の獣王が、こうもあっさりと……!?」
「次はテメーの番だ!」
「うぐ……!くそおおおおおおおおおおお!!!!!」
大きく叫ぶオベイロンが紋章のある壁へと逃げ出した。紋章をすり抜け、さらに奥へと進んでいく。すぐにその姿が闇に呑まれたかのように消えると、紋章が静かに消え、そこに奥へと続く通路が姿を現した。
「逃げたか……」
敵の気配も無くなり、武器を仕舞う一行。
「センセー、大丈夫っすか~?」
クラインが鼻の下を伸ばしながら女性陣――特にイオに対して声を掛ける。
「……」
「センセー?まさか、さっきのクラインさんが原因で……?」
「ちょっ、シリカ!?なんで俺が原因でセンセーが気分悪くならなきゃいけねぇんだよ!?」
「ち、違うの……クラインさん、シリカちゃん……」
口を抑え、顔が蒼白のイオは震える手でクラインとシリカに待ったをかける。
「……さ、さっきの……」
「さっき?オベイロンの事?」
シノンの返しにこくこくと必死に頷くイオ。もう吐く寸前なのかもしれない。
「あ、あんな気持ち悪いのを目の当たりにして……もう、限界……」
「うわわわわわ!タイム、一旦タイム!センセーこっち!」
※しばらくお待ちください。
「うぅ……」
「……センセー、もう使い物になりませんね……」
「むしろよく頑張ったほうだと思うよ。アスナもセンセーも」
「あはは……ちょっと休憩しようか」
壁にもたれかかるイオの顔はこれ以上ないほどにやつれていた。
オベイロンのキモさにやられて既に精神力を大幅に削り落とされたのだろう、正直今まで耐えてこれたのが奇跡に近い。
アスナも見た目では気丈に振る舞っているが、流石にオベイロンを目の当たりにして相当気力を削られたのだろう。態勢の整いがてら2人の気力の回復の為に休憩する。
「あの野郎、後でぶった切ってやる……!にしても、さっきはノリでやっちまったけど何だったんだ?」
「今のは両手剣スキルの一つヨ。本当に何も知らないのね」
「「……」」
「ユイ?ストレア?どうしたんだ、さっきからセンセー達をじっと見て?」
休憩中、ユイとストレアが3人を見続けているのをキリトが尋ねる。
その質問に答えるより、ストレアが小妖精姿のユイを肩に載せて近づく。
「3人とも、ちょっといいかな?」
「なんだ?」
「――あなた達はどこから来たんですか?」
「……えっ?」
ユイの隠すつもりの無い単刀直入な一言に、カスミは思わず茶を濁すタイミングを呆けた声を上げるだけで逃してしまった。
「ゆ、ユイ?どこからってどういうことだ?」
思わずキリトが質問する。彼らもユイの質問に頭が追い付かないようだ。
「理由としてはいくつか存在します。一つ目はムイミさんが言っていた《天楼覇断剣》というアイテムです。検索してみた所、そのようなアイテムはALOのみならず、現在展開されているVRMMOには存在しませんの中には存在しません」
「でも、それって私のように別のゲームからコンバートしてるって可能性も捨てきれないんじゃない?」
そこにシノンの指摘にストレアは一度頷く。
「それはそう言っちゃえばその通りなんだよね。けどあたし達の確信はもっと別の所にあるの。3人のアバターの構成がこのALOのキャラデータとは全然違ってるんだ」
「異なっている?それって、コンバートとかそういうのとは違うの?」
「はい。まるで全く異なる――それこそ私たちの知らないVRMMOの世界から正規のコンバートを行わず連れてこられた、みたいな……そんな感じです」
「確かにオレッチも一理あるナ。ソードスキルも飛行方法も、ましてや魔法すら知らないなんて、ド素人にしても妙ダ。現実で話を聞くくらいはできたはずだゾ?」
ユイに続き、アルゴも疑惑を持った目でカスミを睨む。
「……参ったな。そういう観点からの追究は、全く予想していなかった」
思わぬ推理にカスミも白旗を上げる。
カスミに目配せをして彼女が頷くと、ムイミがゆっくりと口を開く。
「推測通り、あたし達は別の世界――いや、別のゲームから来たんだ」
†
ムイミが説明を始めてから30分ほど経った後。キリト達は話を聞くうちに目を丸くしていったり、深く相槌を打ったり呆けたりと、リアクションは様々だった。
「ゲームの中に閉じ込められて……それで、実際にはその記憶は夢として扱われてる、か……」
「前者はともかく、後者は俺達の時代じゃ考えられないな」
「で、その原因はエリスっていう人が原因で、ムイミ達は彼女を倒す為に計画している、と……改めて聞くと凄いことになってるんだな」
「でもどうしてアンタたちがALOにコンバートしてきたの?というか、ゲームの中って自覚が無いのにコンバートとかできるの?」
リズの疑問にも納得がいく。しかしカスミはさらっと答えを返してきた。
「そこに関しては見当がついている。さっきオベイロンが喚いていただろう?召喚の魔石。あれは十中八九私達がここに迷い込む原因になった物だ。そして恐らく、私達が帰還するにも必須と呼べるものかもしれない」
「どのみち、その魔石を手に入れないと元の世界には帰れないって事よね?」
そこにようやく回復したイオが合流する。心なしか、一回りやつれたように見えるが、あえてそこは問うまい。
「人数の規模からすれば、ある意味SAOよりも深刻ダナ」
「そうそう、そのSAO事件って、いったい何だよ?」
ムイミの質問にキリト達は黙ってしまう。
事情を察したのか、カスミが謝罪する。
「すまない。話したくない事情があるのなら、無理に話さなくても……」
「いや。君達の話だけ聞いたんじゃ不公平だ。俺達側も話すよ。SAO事件の事を……」
重々しくキリトが口を開く。
――今から2年半前。ゲーム業界を揺るがす新星が誕生した。
世界初のVRMMO《ソードアート・オンライン》。通称SAO。
サービス開始初日、世間を圧巻したVRMMOは開発者、茅場明彦の手によって脱出不可能のデスゲームへと変貌した。
HPが0になった瞬間現実でも命を落とすというゲームは、クリアされるまでの2年半もの間、約5千人に迫る犠牲者を出した。
リーファとシノン、ユウキもその事件の中で別のゲームから巻き込まれ、その後キリト達とクリアを目指したという。
「……そちらもそちらで、大変だったんだね」
「ああ。辛い事。悲しい事。恐ろしかった事……色々あった。けど、あの世界で過ごした2年半は無駄なんかじゃない。俺は――俺達はそう思っている」
「うん。確かに良い思い出ばかりじゃなかったけど、それでもあの世界で生きていた時の全てが、私達にとってかけがえの無い物なんだよ」
キリトとアスナに続き、他の仲間たちも頷く。
そんな彼らを見て、カスミは感心したように目を細めた。
(彼らは、そのSAOに捕らわれていた時間の中で絆を育んでいったのか。存外、私達もこの事件が終わって、『現実』に帰る日が来て、それが遠い過去のものになったら……彼らのように笑い合えるのかな……?)
「パパ、ママ。先程の戦闘であのNPCについて分かったことがあります」
鈴を転がすようなユイの声で、カスミは現実に引き戻された。
「どうやらあのNPC、強い自我を持っているそうなんです」
「強い……」
「自我?」
ユイの話ではこうだ。
NPCとは基本的に簡易的なナビキャラか、もしくはAIを組み込まれた高度なタイプの2種類に分けられている。なんとユイとストレアも後者、即ちAIであることだ。
そしてそのAIが強い意志を持つ場合があると言う。プレイヤーとのやり取りで知識が溜まり、自我が強くなるパターンが見受けられていて、オベイロンが正しくそれだと言う。
「けど会ったばかりの妖精王が、どうしてあそこまでアスナに執着してたんだ?」
「これは推測ですが、カーディナルの自動クエスト生成の際、別アバターデータのAIを流用、アレンジして使ったという可能性が高いです」
「つまり素体となる別アバターの誰かが、アスナに強い思い入れがあったって事か?キーリ達の言うエリスのように」
「キリトさん、流石にエリスとアレを同一として見るのはどうかと……」
「元凶に肩入れする日が来るとはな……」
ムイミが呆れている傍でストレアが続ける。
記憶は消され、あくまで妖精王の設定の下で無意識のうちにアスナを想っていたという。
「シチュエーションとしてはロマンチックだけど……相手がアレだと……ねぇ……?」
さしもの恋愛ものの小説や映画を見ている天然教師も、相手がアレでは萎えないほうがどうかしている。
「どのみち、私達が元の世界に戻るには、彼から召喚の魔石を奪い取る事だけだ。アスナさん、センセー、悪いがもうしばらく付き合ってくれないだろうか?」
「うん、私は大丈夫……。でも、できるだけみんなの後ろに隠れてるね……」
「私も平気よ。ただ、私も流石にアレと正面切って戦うのは……」
多少げんなりとした様子でもあらかた回復したイオとアスナ。
2人を最後尾に近い位置に編成し、キリト達はオベイロンが逃げたとされるダンジョンの最奥へと進んでいった。
†
現れた通路は意外と短く、すぐに隠し通路の奥の部屋に辿り着いた。
「追い詰めたぞ、オベイロン!」
「おのれ……!ティターニアはどうした!?我が愛しの姫はどうしたのだ!?」
「アスナなら後衛に控えてるよ!キミがキモいからね!」
ヒステリックに叫ぶオベイロンに臆さずユウキが返す。
「き……貴様らぁぁッ!!もう許さん!この剣……アルヴヘイム最強のエクスキャリバーで葬ってくれる!」
完全に逆上したオベイオンが鞘から抜いたのは、柄から剣先までが黄金でできた荘厳な剣だった。その鍔にはめ込む様な窪みがあり、そこに赤黒い宝石――召喚の魔石をはめ込む。すると剣に対して禍々し過ぎるどす黒いオーラを纏う。
戦闘の為に全員が剣を構えた――その時だった。
――どぉぉぉぉん!!!
「ッ!?」
いきなり地面に何かが落下したような衝撃と轟音。
落ちたのはキリト達の中央に落下し、丁度前衛とアルゴとリーファ、シリカと後衛と分断される。
「みんな無事か!?」
「大丈、夫……」
立ち上る土煙の中から姿を現したそれに、アスナは言葉を失った。
先程のミノタウロスよりも巨大な全長。しかしそれを構成しているのは樹木を彷彿とさせる太い骨。下半身は蜘蛛のような4本の節足を持ち、刀のように研ぎ澄まされている両腕の代わりだ。その姿と顔はかつてSAOで戦った階層ボス【スカルリーパー】を彷彿とさせた。
その固有名は、『THE DAEMON REAPER』。
「これが、悪魔……」
「デモンリーパーよ!ティターニアをかどわかす愚劣な妖精共を皆殺しにしてしまえぇぇぇぇぇ!!!」
金切り声に呼応し、剣を携えた幾多の妖精兵士が現れる。
「ッ!シリカたちはそいつを頼む!」
一言だけ告げてキリト達は妖精の兵士たちとオベイロンへと駆けていった。