プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(・大・)<長いと思ったので2分割しました。


※2/14:本文を一部編集しました。


黒夜の聖夜(ブラック・クリスマス):黒の剣士の休日(1)」

「なんだよ……これ……」

 

降りしきる雪の中、絶望に染まったキリトが力無く膝をついた。

息も詰まるような空気に、誰も声を掛けられず、ただ聖夜の鈴の音だけが、静かにプレイヤー達の心情など関係ないと言わんばかりに沈黙に沈んだBGMを奏でていた。

キリトの手から零れ落ちた、事の発端たる蘇生アイテム【環魂の聖晶石】は確かに実在した。ただし、それには重大な欠点が存在していた。その欠点を知ったがために、このような状況になっている。

 

 

 

《背教者ニコラス》の4本のHPバーが最後の1本に差し掛かったところでキリトが乱入。仰天するクライン達を差し置いてソードスキルを使って瞬く間に撃破したのだ。

そして現在の状況に繋がる。

 

(最悪だ……)

 

クラインは内心キリトが起こす次のアクションに気が気でない。息をするのも忘れてしまいそうだ。

クラインの真の目的。それはキリトを止める事だった。数か月前にキリトを見かけた時、彼の深刻な顔に一抹の不安を感じ取った。尾行してみた所で彼の無茶なレベリングを知り、その目的が蘇生アイテムにあると知った時、彼らも必要以上にレベリングに時間を割き、キリトに及ばずながらも攻略組の中では頭一つ抜けたレベルに到達している。

先回りでボスを討伐し、蘇生アイテムを餌にキリトと決闘を行い、勝利してキリトを一時期【風林火山】に加入させる。その後、彼の見張りをしつつ少しずつ彼の精神を安定させていくつもりだった。

だが、肝心のアイテムの詳細を知らされてしまい、完全に状況はクラインの想像する中で最悪に近いものになってしまった。

キリトが掴んでいた剣を、ゆっくりと自分の首に添えようとする。

 

「やばい……!やめろキリトぉ!」

 

自分の首を斬る――キリトが自分の命を消そうとするのを見たクラインが必死に叫ぶ。

もう【風林火山】の面々では誰もキリトを止めることはできない距離にいる。あと数秒もすればキリトはポリゴン片となり、現実でも命を落とすだろう――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼」

 

「えっ?」

 

彼がいなければ。

ただ一人動じずに近付いていたラジラジは、一瞬の隙を突いて剣を叩き落とした。不意を突かれたキリトが剣に隙を取られていた瞬間、

 

「――ッ!?」

 

キリトの無防備な頬に僅かな爪の痕が刻まれる。次の瞬間、キリトはそのままラジラジの肩に正面から寄り掛かるように静かに倒れた。HPバーを見ると、麻痺を示すマークが表示されている。

《体術》スキル抜きの素手による攻撃は対象が同格以下の時、いかなる場合でも1ダメージしか与えられない。無論、それでも他プレイヤーへの攻撃でカルマ値に判定され、ラジラジのカーソルがオレンジに変わる。

 

「ら、ラジラジ……おめぇ……!」

 

「申し訳ありません。この依頼は失敗です。ドロップ品は全てそちらにお譲りします」

 

「あ……待ってくれ!」

 

キリトを放置してラジラジが去ろうとする中、クラインが声を掛ける。

少しの沈黙の後、クラインは言葉を続けた。

 

「キリトを……どうするつもりだ……?」

 

「そうですね。ノーチラス達からの話を聞けば、彼は犯罪者も同然。黒鉄宮に送るのは当然でしょう」

 

麻痺で動けないキリトを担ぎ上げたラジラジが踵を返し、主街区へと戻ろうとする。

その時後ろでカチャカチャと金属音が鳴る。

 

「……何の真似ですか?」

 

尻目に背後を見ると、【風林火山】の面々が武器を構えていた。

放っておけば恐らく、【ブレイブ・フォース】と刃を交えるつもりだろう。

 

「アイツは……あいつは決して利己的な目的で人を殺したりするはずがねぇんだ!」

 

「それはあなたの勝手な感情論では?」

 

「んなこたぁ分かってる!分かってるけどよぉ……!」

 

嗚咽交じりに叫ぶクライン。怒りか、それともやるせなさの表れか、刀の切っ先が僅かに震え、束を握る手も力を籠められる。

短い沈黙の後、ラジラジはクラインと向き合うように向きを変えて言い放った。

 

「確かに彼は犯罪者です。が、同時に攻略組としても大きな戦果を挙げています。攻略組全体から見ても、彼の損失は今後の攻略に多大な支障を出しかねない……」

 

「つまり、どういうことだ……?」

 

「投獄は一応保留です。真相が明らかになるまで、彼には攻略組として働いて貰いますよ」

 

「それじゃあ……!」

 

「それから、彼の身柄は一時的に1層で保護します。自殺でもされたらそれこそ大問題ですからね」

 

「それに……」とラジラジは続ける。

 

「彼の拘束は依頼に入っていませんからね」

 

「……頼む。俺らじゃ、キリトをどうすることもできねぇ……!」

 

クラインの消え入りそうな声を聴き、モミの木エリアに入って来たギルドメンバーに簡単に報告をして、そのまま《始まりの街》へと去って行った。

最悪の結果にならないように祈っているのか、それともこんな残酷な現実を間接的に突きつけてしまった事への慚愧なのか、膝をついたクラインの、次第に遠ざかっていく嗚咽を耳に入れながら――。

 

 

 

 

 

「彼を一時的に保護する!?」

 

【ブレイブ・フォース】が帰還して数時間後。あの場所の報告の後、一人の男が声を荒げた。

彼は【ゴスペル・メルクリウス】とも【ギルドMTD】とも異なるギルドに所属しているプレイヤーであり、かなりの地位を得ていた。

今現在、カルマ回復クエストに出たラジラジの代わりとして出ているノーチラスのほかに【ゴスペル・メルクリウス】ウィスタリアとユース、【ギルドMTD】からシンカー彼の補佐たる男性プレイヤーが出席し、簡易的な会議を行っている。

 

「落ち着いてください。何もギルドに加える訳じゃない。少しメンタルが安定するまで療養させるだけですわ」

 

「だが、部外者をホイホイと受け入れる必要はない!」

 

「確かにそこは一理ある」

 

ウィスタリアにも全く引こうとしない男に対してノーチラスは頷く。

そして、

 

「リーダー曰く、あの場に放置した場合モンスターに襲われる可能性もあった。そうでなくとも自殺していただろうと」

 

そう返した。

 

「ならば放置しても構わない!彼が【月夜の黒猫団】というギルドを()()()()()()()のは、一説にはレアアイテム狙いだったという噂もある!そんな男はとっとと黒鉄宮に放り込むべきだ!」

 

「攻略組全体からすれば、彼の喪失は大きい痛手になる。ずっとここに居たいともとれるが?」

 

「なら貴様らは彼による犠牲者を出しても攻略を優先するという事か?ハッ、支援ギルドが聞いて呆れる!」

 

攻略――こと階層ボス戦ではラストアタックを掻っ攫うことから大抵の攻略組から邪険に扱われているが、その実力はトップクラスと言っても差し支えない。

だがこの男は、攻略組の要に対して容赦なく牢獄へ放り込めと言う。そんなことになればかなり攻略のペースが落ちるのは目に見えているのに。

次第に語調を強め、ノーチラスとの言い争いに発展していく。

 

「……つまり、彼が積極的に犯罪を犯すかどうかを知ったのであれば、文句は無いということと言っても差し支えないのだな?」

 

「うん?」

 

シンカーがおろおろする中、ユースが男に質問染みた返しをした。

 

「何か妙案でもありますの?」

 

ウィスタリアの質問にユースはしっかりと頷いた。

 

 

 

 

キリトが目を覚まして視界に入ったのは、久しぶりに見る天井だった。

視界の隅にあるデジタル時計の時刻を見てみると、既に時間は15時を過ぎていた。

 

「気が付いた?」

 

声がして頭を右に傾ける。

ひょっこりと顔を覗き込んだレインと目が合った。

 

「……どこだ?」

 

「【ゴスペル・メルクリウス】の本部よ。丸1日寝ていたのよ」

 

「そうか……」

 

短く返事をしたキリトは起き上がり、部屋を後にしようとする。

 

「ま、待ちなさいよッ!どこに行くの?」

 

「別に。介抱してくれたのはありがたいけど、もう用はないだろ?」

 

「いやいや、はいそうですかって許可すると思ってるの?」

 

「大体介抱してくれって一言も言ってないんだけど?」

 

「クリスマスに雪原のど真ん中に放置するバカがどこにいるのよ?」

 

咄嗟にキリトの手を掴んだレインも引き下がる様子は無い。

引き下がる事の無い拮抗状態になり、進展が着かないまま……。

 

「どうやら目が覚めたようですわね!」

 

バァン!とけたたましく扉を開けて、闖入者(ウィスタリア)が現れた。

彼女を見るなりキリトは、またうるさい奴が現れたなと思いつつ声を掛ける。

 

「あんた、なんのつもりだ?」

 

「どうもこうもありませんわ。事情はラジラジさんからお伺いしましたわ」

 

「そうかい。それでどうするんだ?俺を黒鉄宮にぶち込むのか?」

 

黒鉄宮――正確にはその地下――。ダンジョン扱いの公共のエリアであり、犯罪者プレイヤーを閉じ込める為に始まりの街に用意されている、この世界における監獄だ。

ダンジョンと同様メッセージの送受信、位置情報のサーチが不可能かつ共有ストレージ、共通アイテムウィンドウを使うこともできない。ゲームクリアまで文字通り缶詰めにされるのだ。それまでの精神が保てるかどうかは保証しかねるが。

そんな中に放り込まれかねないとキリトは自覚している。だが、相手は首を横に振る。

 

「いいえ」

 

「じゃあなんだよ?」

 

「気分転換がてら、街を見て回りますか?」

 

沈黙。

予想外の言葉に流石のキリトも言葉を失った。

 

「今日はクリスマス当日。攻略の事を忘れてこの始まりの街を物見遊山したらどうですの?」

 

「バカ言え。それで何の得が――」

 

「アイテムウィンドウを見てみなさい」

 

言葉を遮ったウィスタリアに首を傾げつつもウィンドウを見て、今度は言葉を失った。

予備の剣以外の自分のアイテムが軒並み全部なくなっていた。

わなわなと肩を震わせて、それでも怒りを抑えるように震える声でウィスタリアに訊ねる。

 

「……おい、どういうことだ?」

 

「眠っている間に全アイテムオブジェクト化を使って街のいたるところに隠しましたわ。よって、街のいたるところを巡らなければアイテム抜きのままで向かうことになりますわよ?」

 

思わず手で顔を覆ってしまった。

要するに「アイテム全部置いてここから去るか、大人しく休むか選べ」である。大方、眠っていた自分の腕で操作してアイテムを具現化して幾つかのトリンケットに集め、それぞれの場所に隠したのだろう。

最早脅しに近い要求にこの上ないほどの深いため息を吐く。

 

「わかったわかった。半日だけ付き合ってやるよ」

 

今回ばかりは彼女らの要求を受けなければならないと、両手を上げて降参するように応じるのだった。

 

「それなら、こちらをお受け取りくださいな。ここを去るまで開けてはなりませんよ?」

 

キリトが応じたことでウィスタリアが笑顔で1つの【永久保存トリンケット】を差し出した。最後の方を聞いてキリトは「誰が浦島太郎だ」と心の中でツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

「うわぁ……」

 

【ゴスペル・メルクリウス】の本部の建物から出て広がる光景に、キリトは思わず声を上げた。

武器を手に近場の狩りで作戦会議を内輪で繰り広げる男達。ベンチに座って談笑を繰り返す者達。降り積もった雪で雪合戦をする子供たち――。

 

「これ、本当に第1層か?」

 

この広場でデスゲームの宣言を受け、パニックの渦中となった時は今でも覚えている。が、今ではその影響が嘘のように消え失せ、活気に満ちていた。

すぐさまクラインと共に広場の喧騒から脱出。その後一人でホルンカへと向かったキリトは知らない故に、呆然とするのは無理もない。

 

「良いから良いから。最初はこっちだよ」

 

レインの声に従いつつ、キリトも街の移動を始めた。

ウィスタリアによれば【永久保存トリンケット】は全部で3つ。先程手に入れたものと、教会と広場の2つ。

受け取ったトリンケットをストレージに移すと、まずは東にある教会へと向かっていった。

 

「それにしても、見渡すと子供もいるよね~」

 

「そうだな」

 

SAOの推奨年齢は13以上。しかし先程雪合戦をしていた子供たちはどう見ても10歳前後――SAO開始時点で9歳辺り――だった。

大方、親にねだって買ったのは良かったものの、直後にGMからデスゲームを言い渡されてパニックになっていたのだろう。

内心キリトは「半分自業自得だろ?」と思ったが、すぐに切り替えて教会へと向かっていく。

 

「さ。第1チェックポイントだよ」

 

「ノリノリだな……」

 

くるりと協会の扉に注目させるかのように手を広げるレイン。

彼女に呆れつつもさっさとアイテムを回収してしまおうと扉を開ける。

 

「あいたたたたたた!ちょっ、そこはダメだって、やめて」

 

「……おい、いきなりいい大人が子供らにしてやられてるんだけど」

 

「……げんきいっぱいなだけだよー」

 

いきなりユースが教会で暮らす子供たちに成す術なくおもちゃにされている光景に思わずレインも思考が止まった。

教会には7人以上の子供たちが教会の部屋を所狭しと騒いでいる。

椅子やテーブルの数を見るに、30人近い人数が暮らしていると予想が着く。残った子供たちは教会の外にいるのだろう。

 

「いらっしゃい2人とも」

 

「あ、こんにちはサーシャさん」

 

眼鏡の女性が現れて、ようやく我に返ったレインが返す。女性、サーシャの案内で教会の奥へと上がる。

その部屋で、数人の子供がキリトを興味を込めた視線を送っている。

 

「兄ちゃん、ゲーム進める人?」

 

「ああ。どうしたんだ?」

 

「って事は、剣士?」

 

意外にも食いついてきた子供に多少たじろぐ。

そこに待ったをかけたのは、食いついてきた子供とは異なる子供だ。

 

「そんな訳無いよ。この人剣の一本も持ってないじゃん」

 

「でも、街じゃこの人見なかったよ?」

 

「見かけなかっただけじゃないの?」

 

「そんな訳ないよ!僕、よくサーシャさんと一緒に見て回ってたもん!」

 

続けて現れた子供が最初にキリトに話しかけた子供とちょっかいを出してきた。

 

「こらっ、お客さんの前でしょう?」

 

「だってサーシャさん……」

 

「予備で良いなら、持ってるけど……」

 

「本当!?見せて見せて!」

 

子供にせがまれ、早速キリトが剣を実体化する。園内でなら間違ってもHPが消滅することはないと判断したのだ。手に取った剣を長机の上に置いた。

 

「わぁ!凄ーい!」

 

「うわっ、重い!本物だ!」

 

「カッコいい!」

 

予備の剣とは言え、本物の剣を目の当たりにして随分と興奮気味だ。

わらわらと四方八方から見たり、触ったりして収集がつかない。

 

「……すみません。お騒がせしちゃって」

 

「いえ。お気になさらずに」

 

騒がしい子供たちの傍ら、ティーカップの紅茶を一気に飲み干した。

 

「ここに住む子たちは、アンタが一人で?」

 

「いいえ。確かに起ち上げたのは私ですが、有志の方達の協力もあります。ここに閉じ込められた子供たちが放っておけなくて……」

 

サーシャが一旦話を終えると、教会の庭にいる子供たちを眺める。

愛おしそうに目を細める彼女をキリトは眩しく感じたのか、気付かれない程度に首を動かして目を背ける。

 

「私、現実(リアル)で教職課程を取ってたんです。学級崩壊とか長い事問題になっていたでしょう。それを私が何とかするんだーって燃えていたんですよ」

 

「優しそうな見た目してるのに、案外熱い人なんですね」

 

レインの冷やかしに思わずサーシャが顔を赤くする。咳ばらいをして改めると、説明の続きをした。

 

「と、ともかく。私が起ち上げたこの保護施設なんですけど、あの子たちと出会って一緒に暮らし始めたら、何もかもが見るも聞くも大違いで……頼られるどころか、私があの子達に頼って、支えられてる部分が大きいと思っています。けど、それで良いっていうか……それが自然な事なんだって思えるんです」

 

「……それは良い事だ」

 

「でも、最近子供たちの中にも上の層にお手伝いに行ってる子もいます」

 

「えっ?」

 

思わず声が出てしまった。上の層に手伝い?狩りでもやってるのか?

キリトの頭の中で疑問が渦巻く中、サーシャが続けた。

 

「あ、でも。狩りとかそういうのじゃ無いんです。同じようにここにいた大人の人が開いたお店のお手伝いなんです」

 

「手伝い?」

 

「ええ。例えばギンは、武器を作るのを初めて見た時凄いって騒いでいたから、あるプレイヤーが開いた鍛冶職人の鍛冶場を見る為に時々足を運んだりしてます。ミナは動物のお世話をしたいって言っていたから、22層の【エリザベスパーク】で動物のお世話をしてます。シエナも実家がパン屋だったものだから、時々パン作りのお手伝いとして22層に。他の子も、ここを拠点としている生産職ギルドのお手伝いをしている子もちらほらいるんです」

 

「……意外だな。始まりの街(ここ)が一番安全じゃないのか?」

 

SAOは例外なく園外に出ればモンスターとの会敵は避けられない。碌な戦力も無い子供がそこに出れば、数分もしないうちに消されてしまうだろう。そんなところに足を運ばせる真似はできないだろう。

最も、唯一の例外である22層は園外でモンスターと会敵することはないから心配はない。

 

「まあ、確かにそうですね。上に行く時は必ず大人も同伴しています。多分、あの子たちも待ってるだけじゃなくて、誰かの力になりたいと思ったのかもしれません」

 

『誰かの助け』。その言葉を聞いたキリトはほんのわずかに俯いた。

彼らと関わったのは、複数のモンスターに囲まれたのを助けたのがきっかけだった。

それだけだったのに――。

 

「将来的には、ここでの経験があの子達の為になってほしいっていうのが私の願いです。その為にも、私達がしっかり彼らを死なせない努力をしないといけません」

 

「……頑張ってください」

 

「ありがとうございます。それではこれを」

 

お礼を言った後、サーシャは自分のストレージから【永久保存トリンケット】の一つをトレードでキリトに渡す。

受け取ったキリトはそれをストレージに入れるとレインと共に教会を後にした。

 

「ひとつ良いかな?」

 

教会を出ようとした矢先、子供たちに遊ばれていたユースがキリトに声を掛けてきた。

 

「何か?」

 

「……いや、少し呼んだだけだ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……現実に残した、娘の事を思い出しましてな」

 

ふと窓の外の空へと見やる。まるで現実に残した家族に向けているようにも見える、切なさと望郷の思いを乗せて。

 

「丁度君と同い年くらいだ。私と妻はあるイベントの代表としてナーヴギアを使ったのだよ。キャラネームで困ってる時に2人で娘の名前を分けて使おうと

妻が考えたのだが……まさか、こんなことになろうとは、な……」

 

「……少なくとも、誰も予想できなかったと思います。誰もがこの世界に憧れた。俺は、この世界であるプレイヤーに会いました。彼はVRの中では視界が悪く、仲間にも迷惑を掛けていたと言ってました。あの後色々あったのですが、噂で上位ギルドになっているとのことです」

 

世界初のVRMMOというジャンルは世間を圧巻した。キリトもベータテスト時代に初めてのログインで、他を軽々と凌駕する世界に感動すら覚えた。

剣を手に戦い、上を目指して――。その果てを見に行こうと心が躍動していたのだ。

 

「そうか……。引き留めて悪かった」

 

「いえ。こちらこそ」

 

沈黙。

だが2人にはどことなく……ユースの目にキリトを自分の娘と重ね、キリトもユースを自分の父親のような感覚を感じた。

だからこそ、この言葉は自然と出たのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いってらっしゃい」

 

「行ってきます」

 

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