プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
(・大・)<一応この話は書き上げたけど、途中でミスって本文が台無しになって書き直したり、現実での仕事が一気に4時まで増えたりと……。
(・大・)<……正直、モチベとか色々削られてます。
「……ここ、どこ?」
少女が目を覚ますと、そこは無機質な白い部屋だった。白地のカーテンに、白いベッド。そして引き戸式の扉。部屋の何もかもが無機質な白地で覆われたシンプルな部屋の中。その中央で一人、少女は佇んでいた。
なぜこうなったのか、頭で整理しようにももやがかかったようにすっきりしない。
「……あぁ、そっか。夢だったんだ……」
その頭で何とか判断した少女は呟いた。
あのデスゲームと化したSAOも、閉じ込められた現状も、全てが夢と判断した。
ふぅ、と息を吐いた少女の視界の右端――扉の窓から人影が通り過ぎる。
「あれは……弟君!?」
まるで探し求めていた人を見つけたかのように目敏く見つけた少女は、一瞬で扉へと近づく。
そして、扉に手を掛けた所で異変に気付いた。
「……あれ?」
扉に手を掛けても、まるで鍵でも掛かったように動かせない。力を込めてもビクともしない。
その間にも、少女が弟君と呼んだ人影はどんどん遠ざかっていく。
「ま……待って弟君!私だよ!お姉ちゃんだよッ!!」
必死に扉を叩き、叫ぶも向こう側にまるで届かない。
『――そして、全ては達成せしめたのである』
その時、後ろからの声に少女に全身に悪寒が走る感覚が襲った。忘れるはずが無かった。その声の主は、デスゲームの開始を告げた諸悪の根源とも呼ぶべき存在の声だったのだから。
「いや……いやぁ……!弟君ッ!!リノちゃんッ!!私はここだよッ!!お姉ちゃんを一人にしないでッ!!!」
手の骨が砕けんばかりに叩き、喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。それでも扉はビクともせず、そして声も届かない。
少女のパニックが激しくなるにつれ、白い部屋がガラガラと音を立てて崩壊していく。
『プレイヤー諸君、健闘を祈る――』
「お願い……帰して……!」
「お姉ちゃんを独りにしないでえええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッ!!!!!!!」
†
「――ッ!?」
目を覚ますと、そこは深い森の中だった。悪夢からついさっき解放された少女は荒い息遣いで周囲を見渡す。
部屋も扉も、例の声の主も無い。右も左も木々が乱雑に立ち並ぶ森の中だ。
呼吸も落ち着き、すっと右手を振る。すると、軽やかな音と共にメニューウィンドウが現れる。
「あぁ……そっか……これが、現実……」
最早、現状に打ちひしがれたあまりに乾いた笑いすら出ない。
立ち上がり、片手剣を手に歩き出した。
(私は……もう、お姉ちゃんじゃいられないの……?)
†
「……」
深いの中、ふらふらと少女が歩く。覚束無い足取りと虚ろな目は、さながらゾンビだ。時折左右を見て、再び歩みだす。当ても無く、ふらふらと。
「……ぁ」
進んだ先に巨大なモンスターの群れが、一人の小さな少女を襲っているのが見えた。あと数秒もすれば少女のアバターはポリゴンとなって消滅るだろう:
「……助けなきゃ。妹を、助けなきゃ……」
刹那、少女は駆け出した。
引き抜いた剣の刀身にブラックグリーンの禍禍々しいオーラが、僅かに纏っていた。
†
35層:主街区《ミーシェ》
黄昏時。大通りの一角に立つ屋台。その後ろの壁では【トレブリング・オックス】がうつらうつらと首を僅かに上下させている。
「お待たせしました。目玉焼きサンドです」
「ありがと。これ、代金ね」
屋台の店員――ユイが客に商品であるサンドイッチを渡す。
屋台の看板に貼られている店売りの商品は、ベーコンとレタス、トマトのサンドイッチだけではない。イチゴとホイップクリームのスイーツ系、ハンバーグとオニオンのハンバーガー風――様々なものが売られている。これもひとえに【エリザベスパーク】――もとい、マコトやユイ、そしてアスナの功績によるものだ。
元々、SAOには現実世界の調味料と言うのは存在しない。甘味、酸味、苦味、塩味、旨味の五味と、辛味と渋味という大雑把に分けられた7つの味を、それぞれの食材アイテムの味覚再生エンジンが起動し、それを食べた時の味が出る、と言うことだ。
それでもユイやマコトたちは去年の8月辺りから現実世界の調味料を再現できないかと【調合】を利用しまくり、現在に至るまでにソースとマヨネーズは完成することができた。クリスマスの翌日にキリトが食べたのも商品の一つである。
「ふぅ……マヒルさん。店売りの奴は全部売れました」
「おぅ。んじゃあもう今日は店じまいだな」
商品が全て売り切れたことで早々に店じまいをする【エリザベスパーク】の商人たち。
今回はこのミーシェの北と南でそれぞれサンドイッチの販売に回っている。
「んじゃあ、俺らは先に行ってるからな」
「あんがとな」
他の2人は荷車を押して宿屋へと向かい、残ったマヒルとマコトは共に主街区の大通りを歩いていく。
「攻略のほうは進んでるだか?」
「お客さんから聞いた話よると今は……大体52層ってところです」
「おぉう……。始まったばかりは到底無理って思ってたけども、案外やればできるんだべな」
ユイの答えにマヒルは僅かに希望を見出していた。今年の初めに入って50層ボス討伐の知らせを受け、いよいよアインクラッド攻略は折り返しに突入した。
2年前までは現実に帰還できないと絶望し、自らアインクラッドの外周に飛び降りたプレイヤーも居たのだが、折り返し地点に突入したことで「帰還できるかもしれない」という希望を持ち、下層、中層のプレイヤーも活気づいてきた。
「……おっ」
大通りにを数分歩いていると、聞きなれた声の歌が聞こえてきた。音に導かれるまま歩いていくと、小さな広場で人だかりができていた。彼らは何かを聞いているように立ち尽くし、喧騒から少し離れたこの広場は、彼女の歌が良く聞こえる。声の主はレインだった。いま彼女が来ているのは普段の軽装も兼ね備えた赤いものではなく、フリルドレスにカチューシャ、そして首元に大きな薄ピンクのリボン。その衣装も合わさって、さながらメイドのゲリラライブのようだ。
歌っているのは『血○戦○』の2期のOP曲だが。
「レイレイでねぇか。お――」
「待って。演奏中に声を掛ける物じゃないですよ」
見かけたマヒルが声を挙げようとするところをユイが彼女の口を押さえて制す。
その後、曲は終了しレインに拍手が送られる。緊張が解けたのか、彼女は笑顔で観客に向けて手を振った後路地裏へ去って行った。
「お疲れ」
「あっ、ユイちゃん。マヒルさんまで」
「どうも。でも、思わず聞き入っちゃって。あんなに演奏をするなんてすごいです。それに、なんだか私が見た中だと一番生き生きしてるようにも見えました」
「えっへへ。私もユナやノゾミには負けてないわよ?」
ユイの感想にレインもどや顔で返す。とはいえレインの腕前はお世辞ではない本物。ファンがいるのがその証拠だ。ポーション生産との二足のわらじではなく、ライブに一極化していればすぐにでもノゾミやユナと並ぶレベルとなるだろう。
†
「――のです」
「……あれは……」
レインを加えて3人になって宿屋に向かう途中、転移門広場であるプレイヤーを見つけた。
修道服に身を包み、白髪に黒のメッシュを付けたショートヘアという、サーシャとはまた違ったタイプの女性プレイヤーだ。
「あの人って……確か始まりの街を拠点にしているギルドマスターですよね?」
「んだ。確か名前は……」
「【白鳥の抱擁】、でしょ?」
「今、世界は変わりつつあります。天へと昇る会談は着々と解放されつつ、我々の解放の時も近付いてまいりました。故に、我々もまた未来への福音を得る時が来たのです。願い、祈りを捧げ、日々に感謝を」
「祈りを捧げよ。解放の救済は、我らにある!」
【白鳥の抱擁】のギルドマスター、アイリーンの後にギルドメンバーの男性が声を張り上げる。
実際、【白鳥の抱擁】の活動は宗教のようなスピーチを繰り返すだけで、具体的な活動はほとんど行っていない。しかしその言葉とギルドマスターの美貌に虜にされ、彼女を聖女や女神と例えるプレイヤーも多く、今や【白鳥の抱擁】のギルドメンバーは100人を超すという。
そして件のクリスマスの際、キリトの保護に反論をしていたのもこのギルドに所属していたプレイヤーだったりする。
閑話休題。
「おろ?」
「どうしたの?」
「メールが来ただよ。テンカイから」
「どんな内容なの?」
「オラに話したい人がいるからって。場所はオラたちの泊まる宿屋だべ」
その人が指定した、もといマヒルたちの宿泊先は他の宿屋と比べて割高ではあるものの、中型から大型のテイムモンスターも同伴できるようになっている。
その場所はユイやレインも泊まる予定なので、2人も乗り掛かった舟と同行することにした。
†
「……あ、マヒルさん」
「リカリカでねぇか。どうしたんだべ?」
宿屋に戻ると、ツインテールの少女と白い団員服の少女と鉢合わせた。
彼女ら2人だけでなく、テンカイと先に帰った【エリザベスパーク】ギルドメンバー。そして素材収集にこの層に来ていたツムギとノゾミとも鉢合わせた。
(……あの団員服、【血盟騎士団】のものね)
「改めて紹介しとこうか。彼女はシリカ。そっちは一応【血盟騎士団】所属のシズルさん。シリカと俺らは同じテイマーのマヒルから知ったんだ」
「初めまして、レインよ。こっちは同じギルドメンバーのユイさん。それでなんでマヒルさんを?」
「それは……」
「あの女よ……」
訊ねようとした瞬間、不意にシリカの隣の少女が憎々し気に呟いた。
「あのロザリアとか言う女……リノちゃんに意地悪な事を言ってて……ただでさえピナちゃんが消えた直後だっていうのに……!」
思い返すだけでも腹立たしいのか、次第にカップがミシミシと音を立て始める。
「今度会ったら絶対にタダじゃ置かないッ!!」
風船が破裂するような怒声と同時にカップが握り潰された。ぎょっとする一行を他所に、ポリゴン片となって消滅していく。
改めてテンカイから話を聞いてみた所、シリカのパーティメンバーだったロザリアという赤い女が彼女に言い寄っていたのだが、シリカの隣にいたシズルが耐えかねて激昂。暴力沙汰となって周囲のプレイヤーが止めに入るほどにまで至ったという。
砕け散ったカップを引き気味に見た後、ノゾミが訊ねる。
「た、確かに友達が死んでる時にそんな嫌味言われて、良い気はしないわね」
「けど、テンカイさん達のお店を見て思い出したことがあったんです」
ちょっと見てください、とシリカはアイテムストレージを操作してあるアイテムをオブジェクト化する。
それは、1枚の羽根だった。淡く優しい光を放っている。
「これは?」
「……《ピナの心》、です……」
「……そうだべか」
俯き気味に説明するシリカにつられて、マヒルの表情も暗くなる。
唯一、事情を知らないノゾミは取り出したアイテムに目を丸くしていて、急なマヒルの表情の変化もついていけない様子で隣のツムギに訊ねる。
「どういうこと?ピナって子、プレイヤーじゃないの?」
「どうやら、テイムモンスターのようですね。マヒルさんのエリザベス2世のように」
そこでノゾミも、沈んだ理由を理解した。
その直後、
「けども、方法が無いわけじゃないだよ」
「本当ですかッ!?」
それでも顔を上げて告げたマヒルに、シリカは思わず身を乗り出した。
「んだ。チュートリアルで聞いたけども、47層の思い出の丘って場所に咲く《プネウマの花》ってのを使えばピナを蘇えらせることができるべ」
「47層……やっぱり相談に来て正解でした。今からでも頑張ってレベリングをして――」
「ちょ、ちょっと待った!その《ピナの心》は今日手に入れたのか?」
「え?そうですけど……」
「そのアイテムは丸三日経っちまうと、もう二度と蘇えらせることはできなくなるべさ。おめぇ、レベルは幾つだ?」
「うっ……40、です……でも、皆さんとパーティを組んで――」
「悪いが俺らも一番高い奴で18程度だ。足手まといが増えるだけだぞ」
「私も、40くらいね」
さらっと告げられた事実に再び空気が重くなる。特にシリカのダメージは計り知れないだろう。先程までピナの蘇生の手掛かりを掴んでいたというのに、こんな形で障害が見つかってしまうなんて。
一行の周りが沈黙に包まれていき――、
「――大丈夫!お姉ちゃんがついてるよ!」
――短い沈黙をぶち破ったのは、シズルの一言だった。
なんとも場違いな彼女の言葉に一行は彼女へと視線を向ける。
「要はその場所へ行ってピナちゃんを蘇えらせればいいんだよね?大丈夫!お姉ちゃんレベルは70は行ってるから!リノちゃんと一緒なら大丈夫だよ!」
「えぇっ!?」
「本当!?だったらいけるかも!」
「うん!私もリノちゃんと一緒にピクニックに行けるんじゃない!?」
「ねぇ、ちゃんと、聞いてたべか!?確かに強いプレイヤーと一緒ならリカリカも死ななくなるかもしんねぇけど……」
「お姉ちゃんがついてるよ!」
「いや、だから……」
「お姉ちゃんがついてるよ!」
「……」
意地でも譲らないと言わんばかりのお姉ちゃん宣言を続けるシズルにマヒルも次第に反論を失ってどんどん閉口していく。
「と、とりあえず私は明日用事があるから、ノゾミさん様子を見てもらえますか?」
「う、うん……」
「やった!じゃあ明日は姉妹とノゾミちゃんたちでピクニックだね!お姉ちゃんお弁当作ろっか?それとも買ってく?場所はどこがいい?帰ってから主街区でじっくり?それとも安全域?嫌いなものとかある?頑張って作っちゃうから!リノちゃんの好きなもの作ってあげるね!」
シズルもマシンガンさながらの口調でシリカに詰め寄ってくる。当のシリカはもう慣れてしまったのか、死んだ目で聞き流すしかなかった。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
だが一人、マヒルだけが唸っていた。
「どうしたの?」
「今の台詞……『お姉ちゃん』と『ねぇ、ちゃんと』って掛けたつもりだったんだけどな~……」
【エリザベスパーク】のやりとりとはまったく異なるやりとりに、レインは思わず閉口してしまうのだった。
彼女は放っておくべきが吉と判断したのか、レインはシリカに気になったことを訊ねてみることにする。
「そういえば、なんであの人あなたの事リノって呼んでるの?名前違うじゃない」
「そうなんですよ。なぜかあたしの事、リノって呼ぶんです」
自己紹介したんですけどね、とシリカは疑問を抱きながらカップの中のジュースを飲み干した。
その後、シズルに連れられてシリカが部屋に行くのを境に、テンカイ達も今回はお開きとなってそれぞれ部屋へと戻っていった。
――2つ離れたテーブルに座っていた、一人のプレイヤーの耳に先程の会話が全て聞かされていたことに気付かずに。
次回『思い出の丘』
(・大・)<一応3話分で終わる予定です。