プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(;・大・)<ようやく投稿……。

(;・大・)<一度手違いで消す羽目になって、一からやり直したのはやはり苦労する……。


※2/26 本文を一部編集しました。


「思い出の丘」

ノゾミ達がシリカとシズルに出会ったその夜。とある主街区。

そこは、これといった特徴の無い街だ。強いて特徴を挙げるとすれば、外周を見渡せるほどのベランダ状の広場があるだけといった所だろう。

その広場の木製ベンチの一つに、街灯に照らされている少年が誰かを待つように静かに座っていた。

 

「――こんな夜更けに呼び出すなんて、大したことじゃなかったら許さないゾ?」

 

「安心しろ。十分大したことだ」

 

暗闇から独りのプレイヤーが少年に声をかけてきた。

その少女が被るフードから覗く顔の頬に、鼠のようなペイントが施されている。少女の名は『アルゴ』。アインクラッド内で《情報屋》を営むプレイヤー達の筆頭だ。元ベータテスターだった当時の記憶を基に、1層から8層までの攻略情報を『攻略本』として無償で配布していたこともある彼女は、呼びつけた少年、キリトともそれなりの交流がある。

 

「明日、【タイタンズハンド】と俺が47層に出るって情報を【ALS】に流してほしい」

 

「おい正気カ?あいつらが最近犯罪者の逮捕に尽力してるのは聞いた事あるダロ?自首なら自分で行けヨ」

 

「捕まる気も自首する気もねぇよ。奴らが来たらトンズラするさ」

 

「大体、小規模のオレンジギルドなんテ今更珍しくもないダロ?」

 

「連中のマスターがアイツらとつながってたら?」

 

キリトのその言葉に、アルゴも一瞬だけ目を見開いた。が、すぐにキッと眼光を鋭くする。

 

「冗談のつもりならマジで怒るゾ?」

 

「実際に見たから間違いない。これ、情報料な」

 

淡白な返事でトレードを使いコルを渡す。渋々といった感じでアルゴがそのトレードに応じると、キリトはもう用はないとベンチから腰を上げた。

 

「オレっちにはどうしても考えられねぇヨ。キー坊」

 

去り際に背後から声を掛けてきたアルゴに、キリトは足を止めた。

 

「あの事件、オレっちにはどうしても理解できねぇんだヨ。あいつら、傍から見てもかなり仲が良かったじゃないカ。ケイタって奴がキー坊が殺したって思いこんだのも妙ダ。ひょっとしたらあの事件は、オレっち達が気付いてない何か――」

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

振り返ってアルゴを睨むその目から、威圧にも似た殺気が感じられる。

その殺気に圧され、数歩身を引いたアルゴだったが、直後キリトから殺気が消え失せ、諦観の念を感じる虚しさを携えた眼差しになる。

 

「あれはもう終わったんだ。あいつらの為にもこれ以上引っ搔き回すのは止めてくれ」

 

「キー坊!」

 

悲鳴に近いアルゴの呼びかけにも応じることなく、キリトは裏路地へと消えていく。

その黒い衣装が、街灯の灯りから外れた裏路地の闇に溶け込むように。アルゴがすぐに駆けつけるも、既に闇の中に消えたかのように少年の姿は影も形も無くなっていた。

 

「……キー坊め、今に見てロヨ……!」

 

キュッと唇をかみしめるアルゴ。今の彼女は失意に呑まれていない。むしろ情報屋としてのプライドに火が点いた。

 

 

――是が非でも、この事件の真相を掴んでやる、と。

 

 

 

 

 

「うわぁ……」

 

翌朝、47層主街区『フローリア』に足を踏み入れたシリカは感嘆の声を上げた。

彼女の視界一杯に広がるのは色とりどりの花、花、花――。花壇狭しといっぱいに広がっている。

 

「ここがフラワーガーデン……凄い花畑ね」

 

「こんな所でライブしたら、絶対に盛り上がるわよ!」

 

レインと興奮気味のノゾミが周囲を見渡してそんな感想を漏らす。

この47層は通称フラワーガーデンと呼ばれる、園内はおろか園外ですらその大半を花壇が占めている。しかもご丁寧に四季ごとに咲く花の種類が微妙に変わるので、来訪者を様々な花で歓迎してくれている。

菜の花、ジャノメエリカ、シクラメンに現実では図鑑にすら乗ってなさそうな花……。花に関する図鑑を手にしていても、この主街区の花壇を全て調べるには数日日を跨いでいるだろう。それほどまでに広大なのだ。この層に咲き誇る花々は。

そしてその光景はカップルのデートスポットとして人気を博しており、右も左もカップルが自分の世界を作り上げてイチャついている。ここの素材が少ないのも、カップルの甘い雰囲気に独身プレイヤーが現実に耐え切れずに逃げ帰ったのが多いとか。

 

「さあ。プネウマの花を手に入れましょう。時間は待ってちゃくれないぞ!」

 

シズルが率先して思い出の丘へと進んでいく。5人もそそくさと進んでいくシズルを慌てて追いかけていった。

 

 

 

 

「「きゃあああああああああッ!!」」

 

思い出の丘への道中。不意討ちを食らったシリカとツムギが植物モンスターのツタに宙吊りにされてしまった。

涎まみれの口をぱっくり開けたモンスターに2人とも顔を蒼くする。

 

「ひっ!?」

 

「いやあああああッ!ノゾミさんッ!助けてええぇぇぇ!!」

 

数秒後には食われる未来を想像したのか、パニックになって逆さづりのまま得物を振り回す2人。

 

「待ってて。今助――」

 

 

――ゴォウッ!!!

 

――パキィィン!

 

 

「――おぉっと!?」「――きゃっ!」

 

 

「……け?」

 

ノゾミ達が助けに行こうとした瞬間、シズルが一撃でモンスターを屠り、落下したシリカを受け止める。そしてツムギは自力で着地する。

 

「リノちゃん大丈夫?もう、無茶しちゃダメでしょ?お姉ちゃんに任せてって言ったじゃない」

 

「あ……はい。――って!降ろしてください~!」

 

今のシリカの状態はシズルにお姫様抱っこ状態である。流石にシズル達4人以外いないとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

「……私達、いなくても良かったんじゃない?」

 

「……確かに」

 

武器を構えたままのノゾミに、同じ状態のレインもうなずくのだった。

 

 

 

 

「あの、シズルさん」

 

「何かなリノちゃん?」

 

「どうしてあたしをリノって呼ぶんですか?」

 

道中。モンスターを――ほとんどシズルが一撃で――倒しながら進む中、シリカ今まで抱えていた疑問をぶつけてきた。

 

「え?リノちゃんはリノちゃんでしょ?当たり前なこと聞かないで――」

 

「誤魔化さないでください。あたし、本気ですよ?」

 

いつになく真剣な目にシズルも思わず黙ってしまう。1分間も沈黙した後、静かに語りだした。

 

「……あなたがリノちゃんじゃないのは、最初から分かっていたよ」

 

「じゃあ、妹さんと弟さんは?」

 

「……ここには、いない……」

 

「それって……」

 

「あ、ううん。いないっていうのはSAOの事件の外――巻き込まれてすらいないの。あのデスゲームが始まった日、何度も《生命の碑》を見て確認したから」

 

巻き込まれていない。つまり、現実世界に取り残されたということだろうか。それはそれでラッキーだったんじゃない?とノゾミが思わず言いそうになったが、シズルが話しだしたのでその言葉は引っ込んでしまった。

 

「私だけ取り残されて、2人に会えないなんて考えたら、死ぬ以上の怖さを感じたの。それでもなんとかやっていけたんだけど、自分が自分でなくなっていくにつれて疲れて行ってね……。あなたを見かけた時、リノちゃんの姿と重なったの。だから……」

 

「だから、代替行為でしかない、って言いたいの?」

 

シズルが言葉をしおらせながら呟いた言葉の続きを、レインが続けた。

暫く黙った後に、シズルは静かにうなずいた。

 

「そうだね。正直、狂いそうだった。誰かをリノちゃんの代わりとして……もっと言えば弟君の代わりも欲しかった。この世界でお姉ちゃんとしていられないのが……私には、死ぬより怖い」

 

ふと視線を移すと、シズルの腕が僅かに震えていた。その言葉に含まれる感情は、恐怖。表面上は大丈夫だと言っているのであれ、本心は恐怖でいっぱいだったのかもしれない。

 

「……このままクリアできずに二度と現実に戻れないような夢も一度や二度じゃない。ひょっとしたら、本当に永遠に帰れないんじゃないかって……」

 

「……大丈夫です。きっと帰れますよ」

 

不安を慰めるように、シリカが遮った。

 

「アインクラッドを半分も突破したんですよ?残りの半分なんて、今年中に全部クリアしちゃいますよ!」

 

シズルを元気づけるようにシリカが答える。

むん、と気合を入れるような仕草にシズルも最初目を丸くしていたが、次第に笑みがこぼれだした。

 

「あははっ、ありがと。おかげでちょっと元気が出たよ」

 

「えへへっ。じゃあ、先へ進みましょう」

 

シリカも笑顔で答えて、一行は先に進む。

暫く戦闘をこなして歩いた後、思い出の丘の頂上に到着。

 

「あれじゃない?」

 

ノゾミが指したのは、花畑が見渡せる小さな広場。シリカがそこへ駆け足気味に行くと、石の台座から一輪の花が咲く。まるでシリカが来るのを待っていたみたいだ。

ユリにも似たその花を摘むと、《プネウマの花》とアイテム名が表示される。

 

「シリカちゃん」

 

シズルに言われて、シリカはすぐに《ピナの心》を取り出す。それに花から零れた一滴を垂らすと、《ピナの心》が輝きを増した。眩い輝きに思わず目を覆うが、その光は数秒で収まる。

 

「――きゅる?」

 

「……ッ!」

 

光が収まるとそこには水色の体毛を携えた小さな竜がいた。その姿を見た途端、シリカは感極まってその竜を抱きしめた。

 

「……どうやら、蘇生に成功したようですね」

 

「ふふっ。頑張った甲斐があったわね。さ、戻ろっか」

 

「うぅ……正直あの体毛をモフりたいけど……」

 

その愛らしい姿にノゾミらもその毛皮を堪能しようと思ったのだが、折角の感動の再会に水を差す訳にもいかないと堪えるのだった。

 

 

 

 

ピナを蘇生させた帰り道。シリカの足取りは行きの時よりも数段軽く、一行の先頭を歩いていた。

モンスターと遭遇することも無く、石橋まで辿り着いた。

石橋を渡ろうとした時、木の陰から赤い女性が姿を現す。

 

「よくやったじゃない、シリカ」

 

「ロザリアさん……?」

 

「何しに来たの?」

 

 

途端にシズルの彼女に対する態度が一変。敵意をむき出しにして前に出る。ピナも同様に唸り声を上げて警戒している様子から、ノゾミ達は目の前の女性が昨日話していたロザリアだと知る。

 

「決まってるじゃない。シリカの持ってる《プネウマの花》を……って!?」

 

そこまで言ってロザリアが目を見開いた。

シリカが頭に載せているのは自分を警戒するように唸り声を上げる、例のフェザーリドラであることに。

そして同時に気付いたのだ。彼女が自分の目的である《プネウマの花》を既に使ってしまった事を。

 

「ア……アンタまさか《プネウマの花》を使ったのか!?」

 

「だからどうしたのよ?」

 

「こッ、この……ッ!アンタたちッ!!」

 

淡々と返すシズルに逆ギレに似た怒声を合図に次々と木の陰から男性プレイヤーが現れる。誰も彼も見る目は完全にこちらを下手に見ており、武器を手に厭らしい顔を浮かべている。

咄嗟にシリカを除いた一行も武器を構えるが、シズルがある点に気付く。

 

「……こいつ等、オレンジね」

 

「嘘でしょ……、なんでこんな所に!?」

 

男たちの頭上のマーカーは、ノゾミやシズルのグリーンカーソルとは異なる色――オレンジ、即ち犯罪プレイヤーだった。

予想だにしない相手の登場に、ノゾミも思わずギョッとする。

 

「そのガキ以外を全員殺しちまいな!そのトカゲももう一度殺して、あのガキに花を取らせに行くんだよ!!」

 

ロザリアが声を荒げるように叫んだ瞬間、オレンジプレイヤーが一斉に襲い掛かってきた。

 

「おらぁッ!!」

 

「死ねぇッ!!」

 

「ぅ……ッ!?く……ッ!」

 

ノゾミ達も応戦するが、思うように攻撃ができない。

その理由は単純だ。相手はモンスターではなくプレイヤー、即ち人間。これまで相手にしていたデータの塊ではなく、実際に生きたプレイヤーが殺意を露わに襲い掛かってくる。

オレンジを傷つけてもこちらが犯罪者になることはないが、人間への攻撃の抵抗が強く前に出て、攻撃の躊躇いで相手の攻撃をなんとか捌く程度しかできない。

 

「人間相手になっただけでこうもやり辛くなるなんて……!」

 

「……下がってて」

 

「シズルさん?」

 

ノゾミとレインが苦戦する中、シズルが前に出る。彼女らから5メートルほど離れた場所で音を立てずに鞘から片手剣を引き抜き、切っ先を地面に向けたまま微動だにしない。

 

「へぇ、あんたがそんなに死にたがりなんて思わなかったわ。昨日殴られた分もあるからね……。あの女をぶち殺しな!!」

 

ロザリアの一声でオレンジプレイヤー達が一斉にシズルを標的とする。数秒後には彼らのソードスキルでHPが削り落とされ、ポリゴン片となって消滅する。

――はずだった。

 

「……ふっ!」

 

正しく、一瞬の出来事だった。

襲い掛かってきたオレンジプレイヤーの武器がシズルの片手剣の一薙ぎですべて破壊され、プレイヤー達も吹っ飛ばされた。

 

「な……ッ!?」

 

「さぁ、お友達は全員倒したよ?次はあなた?」

 

軽く払った後、剣をロザリアに向ける。

先程のお姉ちゃん然とした振る舞いから一転。冷淡と呼ぶべきかのような眼差しに、味方であるノゾミ達ですら若干戦慄する。

 

「ちょっと待って下さい!ロザリアさんはグリーンですよ!なんでオレンジなんかと……!?」

 

未だ現状を飲み込めないシリカが思わず待ったをかける。本来オレンジのプレイヤーはグリーンから恐れられている。アインクラッドで最恐と言われるギルド【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】――最も、システム上はオレンジだがレッドと名乗っている為カウントして良いのか微妙だが――然り。普通にオレンジとグリーンが同行するはずがないのだ。

――普通なら。

 

「大体、どうしてシリカちゃんを狙うの?さっきあの人殺すなって言っていたけど……」

 

「その《プネウマの花》が希少なレアアイテムだからだよ」

 

レインの質問にロザリアが答えるより早く、彼女の後ろからの声が答えた。

その声の主の姿は黒いフードと灰色の裾の長いズボン。背中に差した片手直剣。ノゾミ達とさほど年も離れていなさそうな少年。

 

「……キリト?」

 

「キリトって……まさか《ビーター》の!?どうしてこんな所に!?」

 

「どうしてって、お前それしか言えないのかよ?」

 

シリカに一言指摘すると、目線をロザリアに戻したキリトは続ける。

 

「あのアイテムはパートナーを亡くしたテイマーにしか手に入れられない。そのテイマーから奪い取り、裏ルートに流せば高値で売れるって寸法だ」

 

「高値でって……じゃあ、まさかこの女ッ!」

 

「ああ。オレンジギルドの中じゃ常套手段だ。グリーンが獲物を見つけ、肥えた所をオレンジの元へと誘導する……そうだろ?【タイタンズハンド】のリーダーさんよ?」

 

「おっ、オレンジギルドのリーダー……!?」

 

「ついでに言うなら、お前らの犯罪の裏は取ってある。小規模ギルド2つを潰し、非所属プレイヤー14人を殺害。因みに総被害者数は28人……で、合ってるか?」

 

剣を抜き、その切っ先をロザリアへと向ける。剣を受けられたロザリアはきっと歯ぎしりする。

 

「ハッ!それがどうしたんだよ!どうせ消えてった奴らが本当に死んだかどうかわからないじゃない!ここで誰を殺そうが勝手だろうが!!大体、グリーンのアタシを傷つけたらアンタらがオレンジになるんだよ!それでも()ろうっての!?」

 

「言ってくれるな。俺は単独(ソロ)だぞ。一日二日犯罪者(オレンジ)になろうとも構わない」

 

最後の悪あがきと言わんばかりに半狂乱で叫ぶが、キリトは我関せずといった様子で返す。

 

「大体、俺はその子が使った《プネウマの花》も、その子についてきてる連中も、お前ら小物にも、全く興味は無いんだよ」

 

「え?」

 

キリトの口から放たれた予想外の返答にノゾミ達は思わず呆気にとられた。

 

「――そこの木の陰にいる奴ら、かくれんぼは終わりだぞ?」

 

キリトが声を飛ばしたのは彼から見て左側に立つ木だった。

その影から、2人のプレイヤーが姿を現した。片方は大柄で、もう片方はレインより頭一つ背の高い細身だった。

2人とも男性であり、ボロ布をフードにしたような衣服を身に着けているだけで防具らしい防具は一切身に着けておらず、大男は腕に籠手代わりのバンテージを巻いている。

小柄な男性は腰を落としているのか、より一層背が低く見える。そして、その2人にはもう一つ共通点があった。――頭上のカーソルがオレンジであることだ。

表れた2人にノゾミ達の表情は驚愕に染まり、ロザリアは逆に待ってましたと言わんばかりに表情が明るくなる。

 

「嘘、何時の間に……?」

 

「最初からだ。大方【タイタンズハンド】の様子を見てたんだろ?」

 

いつの間にかキリトは剣を2人の男に向けていた。その様子は、傍から見ても警戒しているということを明らかだ。

 

「ほぅ。随分鋭い所があるじゃないか少年。確かに私と彼はそこの女達の様子を見て……救済するつもりだったのだよ」

 

紳士的な態度で言う大男に

 

「な、なんだ……そういう事……。だったら手を貸しなッ!あのガキ以外の連中を全員消してやるッ!」

 

「なるほど。それなら……。スカーネイル、後は頼みましたよ」

 

大男にそう言われて小柄な男が動き出す。

それと同時に、【タイタンズハンド】のオレンジプレイヤーも水を得た魚のようにケタケタ笑いだした。

 

「ヒヒヒヒヒッ、残念だったなぁッ!オメェらはもう死んだんだよ!命乞いする暇すらなくなったんだ!」

 

「どういうこと?」

 

緊張感に潰されそうになるも、虚勢を張るかのように剣を構えるレイン。

 

「いいかッ!?あの2人は犯罪者じゃねぇ!今巷を騒がせている殺人(レッ)――」

 

 

――ドシュッ!!

 

 

「……()?」

 

鋭い効果音に、ノゾミ達の思考は置き去りにされた。

スカーネイルが一瞬でレインと話していた男に近付き、背後から双爪でそのプレイヤーの胸を貫いたのだ。

 

「なッ……何、を……ッ!?」

 

「ノンノンノンノンノン。そ、こ、はぁ……」

 

スカーネイルは腕を引き抜くとそのプレイヤーをくるりと反転させ、自分と対面させる。そして、先程まで胴体を貫いていた手とは反対の手を大きく掲げ――。

 

「悲鳴を上げなきゃダメでしょッ!!」

 

「ぎゃあああああああああッ!!!?」

 

振り下ろされると同時にオレンジプレイヤーのHPが削り落とされ全損する。そしてシステムに沿ってプレイヤーの身体が一瞬ブレを起こし、割れるような音と共にポリゴン片となって飛散した。

 

「……え?」

 

今度こそ、ラフコフの男2人以外の全員が呆気にとられた。

端的に説明すれば、スカーネイルが近づいたと思ったら、あっという間に一人のHPを削り落とした、と言うことだ。

その中でプレイヤーを始末したスカーネイルは手を耳に添えていた。

 

「んんん~~~。男の悲鳴は幾度となく聞いてきたが、断末魔の悲鳴は何時聞いても飽きることは無いねぇ」

 

「……え?おい、ちょっと待てッ、何やってんだお前!?」

 

いち早く我に返った他のオレンジプレイヤーが愕然とした様子で叫ぶ。

 

「え?何って、お前達が()()()って言ったんだろ?俺はそのまま助けてやっただけだけど?」

 

「助けろって……どこが!?あ、貴方自分のしたこと解ってるの!?」

 

思わずノゾミが半狂乱気味に叫ぶ。それだけはあってはならないと。

しかし、

 

「何が?」

 

けろっと返すその言葉にノゾミ達は大きなショックと共に思わず悪寒が走った。

この男には、殺人という行為に対しての罪悪感と言うものが致命的なまでに欠損している。人の命を奪うことに、まるで朝起きて朝食を食べるのは当たり前だというのと同じ感覚のようにも聞こえる。そして、彼の言う『助ける』や『救済』――それは言い換えれば、『デスゲームから手っ取り早く解放される方法』を行使しただけの事にしか思っていない。

人の命を奪うことは至極当たり前――そんな価値観は、傍から見れば狂っているとしか言いようがない。

 

「チィッ!」

 

すぐさまキリトが駆けようとするが、次の瞬間彼の足元付近の地面に鞭が叩きつけられた。

 

「邪魔をしないでもらおうか」

 

「野郎……ッ!」

 

睨み合う形として足止めされるキリトを他所に、スカーネイルが【タイタンズハンド】にゆっくりと歩み寄る。

 

「ふっ……ふざけんなぁッ!!アンタらッ、俺らを散々暴れさせといた挙句最後はゴミのように捨てるってのよぉ!?」

 

「捨てる?馬鹿を言っちゃいけないな。我々は今君たちの救済をしているのだよ」

 

大男が喚き散らす他のオレンジプレイヤーの悲鳴に静かに反論する間にも、そのプレイヤーの胸をスカーネイルは切り裂き、HPを削り落として全損させる。

2人目が消えると、大男はふむ、と顎に手を添えて黙考し、思いついたように呟いた。

 

「『このゲームで本当に人が死んだかどうか分かる訳がない』。君たちの言葉を借りることになるが、今この時の行為こそ救済ではないか」

 

「ふざけんなよぉ!そんな身勝手な事――」

 

激昂した他のオレンジプレイヤーの叫びはそこで途切れた。逃がさないとスカーネイルに足を切り落とされ、うつぶせに倒れた所を馬乗りされ、挙句嬲り殺すかのように何度も背中を双爪で突き刺されてHPが尽きる。

その後も、淡々と作業のように【タイタンズハンド】のオレンジプレイヤーのHPを全損させていく。

 

「んんんんん~~。解放を理解しない者達による悲鳴も、これまた良いスパイスだ。しかし……」

 

最後の一人を始末した後、露骨にがっかりしたように肩を下げながら溜息を吐く。

そして、ゆっくりと石橋の向こう側――丁度シリカたちのいる場所を向き、言い放つ。

 

「……そろそろメインディッシュに行きたいよねぇ?」

 

歪に曲げた目が4人を射抜く。

あからさまな悪意と歪んだ愉悦に染まった目に、シズルでさえも仮想世界の身体だというのに背中に悪寒を感じざるをえない。

 

「さぁ~~~~~て、と……」

 

ゆっくりとノゾミ、ツムギ、レイン、シリカの順で指さしていくスカーネイル。その様子はさながらテーブルに並べられたケーキを、どれから食べようか決めようとする子供のようでもある。

しかし、悪寒はまるで背中に張り付いているかのように未だ消えず、その恐怖で足がすくみ上がって動けない。

やがて指差しルーレットは4人を2巡した後――シリカを指して止まった。

 

「決~めた」

 

次の瞬間、石橋を蹴ったスカーネイルがまるで弾丸の如きスピードでシリカに迫ってきた。

 

「そいつを止めろッ!」

 

「止めろって、でも……!」

 

鞭を避けながらキリトが叫ぶも、ノゾミ達は先程の殺人の瞬間を目の当たりにしてすっかり足がすくみ上がっていて動けずにいた。無理もない。彼女らはこのゲームの『死』から遠い場所で、それとは無縁とも近い売買を中心とした活動をしていた。素材収集やレベリングの際には園外に出るが、それは十分な安全マージンを取っている状態であれば、だ。こんな自分達のレベルと同等の場所、ましてやプレイヤー同士の殺し合い(PvP)なんてことは全くの未経験の彼女らにPKを生業としているプレイヤーを止めろなんて、土台無理な話だ。

唯一前に出ていたシズルの横を抜き去り、瞬く間にシリカの正面に飛び掛かる。

 

「ヒャッハハハハハハハッ!!!!!」

 

「ひ……っ!?」

 

狂った笑いを上げながら、双爪が陽光を反射して光る。あと数秒もすれば、着地と同時に爪を振り下ろし、シリカのHPを全損させるだろう。

 

「くるああぁぁぁーーッ!!」

 

「ピナッ?!」

 

迫る瞬間、ピナがシリカの前に躍り出る。同時にシリカはその光景にデジャヴを覚え、身体が凍り付くような感覚に襲われた。

あの時、ピナを一度喪った際に《迷いの森》でモンスターの群れと遭遇した時、モンスターの攻撃をピナが自分を守る為に身を挺し、消えていった光景に――。

 

「駄目ぇッ!!」

 

ピナをかばうように抱きかかえ、スカーネイルに対して背を向けて蹲る。その行動は、シリカ自身理解できなかった。

必死だった。また唯一の友達であるピナを喪う。そんなことが再び起きたら、今度こそシリカは折れてしまう。

本来、テイムモンスターであれど身を挺して主を守るという行動はSAOのプログラムには入れられていない。このような事態は、おそらくは茅場明彦ですら想定していないだろう。しかしそんなこと、シリカにはどうでもいいことである。再び友を失う事こそが、シリカにとって耐えがたい事だった。

だがそれも数秒の事だ。その間にスカーネイルの双爪がシリカを切り裂き、彼女を死に追いやるだろう。

 

「――ッ!!」

 

攻撃が通るその直前、シズルに変化が起きた。

あり得ないような速度で振り返り、ブラックグリーンのオーラを纏わせた剣の刺突を放つ。

 

「――うごっ!?」

 

刺突が直撃する直前にスカーネイルが気付いてくるりと右手の戦爪を盾代わりに刺突を防いでものの、その衝撃で大きく吹っ飛ばされる。

全くの予想外の出来事に、1人を除いた全員が吹っ飛ばされた方角を見て呆然となる。

 

「……ィ」

 

呆然とスカーネイルが吹っ飛ばされた方向を見ていたシリカの耳に、獣の唸り声が混じったような声が聞こえてきた。

不思議と彼女の胸の内は恐怖でいっぱいになっていたが、振り返らずにはいられなかった。

 

「許……サナイィ……!!」

 

「……なんだあれ」

 

シズルの足元からブラックグリーンのオーラが激しい炎のように揺らめく。

腹の底から唸るような声は、仮想世界であるはずなのに、空気の震えでも起きているかのように錯覚させる。

この凄まじい気迫だけでもキリト達は圧倒されているのに、彼女の表情も威圧される一因だった。

目は見開いたうえで血走っており、獣のような唸り声を上げる口はギラリと光る牙が見える。その全体の雰囲気はさながら闘争本能をむき出しにした獣のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――るぐぅああ嗚亜アあああAAAAA阿あああああああ亜ああaaあ吾あアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――雄叫びが、花弁を吹き飛ばした。

 




次回『狂剣士(バーサーカー)

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