プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
(・大・)<正月三が日最終日、今年の初投稿でございます。
(・大・)<正月はプリコネでモニカを星6にしたり、プリコロやリトリリトリオ手に入れたりと、色々ありました。
(・大・)<本年度も、このプリンセス・アート・オンラインRe:Diveを宜しくお願いします。
12/31 シェフィのプロフが明らかになったのでそれに合わせて本文を調節しました。
――あの事件が始まってから2度目の6月の中頃。梅雨時にも関わらず、その日は珍しく降り出しそうな曇天だった。
真っ白い部屋のベッドの傍の小さな机の上に、新しく買ってきた花を生ける。
ベッドの上にはナーヴギアを被ったままのあたしのお兄ちゃん――桐ヶ谷和人が今も静かに、まるで死んでいるかのように眠り続けている。
「
心電図の単調な電子音と、点滴の水音しかしないような静かな部屋に聞こえてきたあたしを呼ぶ声に振り返る。
ベッドを挟んでそこにいたのは、少年とも見間違いそうな風貌の女の子――
彼女と出会ったのはお兄ちゃんが8歳の頃、厳格な祖父が昔からの付き合いと言って彼女の祖父が務める御久間流剣術道場に通わせたことがきっかけだった。その時はまだ3つの舌っ足らずの赤ん坊みたいだったのは良い思い出だ。
けどお兄ちゃんが10歳の頃に突然辞めると言い出し、祖父からは烈火の如く怒鳴られて殴られた。あたしが『自分がお兄ちゃんの分も頑張るから』って言わなければ、きっとお兄ちゃんは殺されていたかもしれない。
とはいえ今は、兄弟子ならぬ姉弟子――姉かどうかはともかく――としていいとこ見せたいと思ってる節もあるにはあるけど。
「今日はどうするの?三日連続でお見舞いに来てるでしょ?」
「心配してくれてありがと。もうほとんど日課になっちゃってるだけだから」
お兄ちゃんは今もゲームの中で戦い続けている。
そのタイトルの名は――ソードアート・オンライン。
お兄ちゃんが夢中に語っていたゲームは、夢のフルダイブVRMMOになるどころか、最悪のデスゲームになってしまった。
2年前の12月。その1ヶ月の間に2千人近いプレイヤーがナーヴギアからのスパークによって脳を破壊され、死んでしまったのは今でも悪夢として鮮明に覚えている。病室から鳴る死亡を知らせる甲高い心電図の音。遺族の嘆き――当然あたし達も他人事じゃなかった。
その時のあたしは、多分あたしじゃなかったと思う。近しい人達もお兄ちゃんが亡くなった人達と同じように死んでいくのかと毎日気が気じゃなかった。毎日学校の帰りにこの病院に足を運んでは、何もできない自分を呪いながら泣いていた。
だけどある時、お母さんとお見舞いに来た時に《SAO対策本部》という組織の人から、お兄ちゃんが懸命に攻略を行っていると知らされてから、あたしも泣くのを止めた。
智ちゃん達も、あたしと同じ気持ちのはずなのに、そんな気持ちを隠してあたしを励ましてくれたことに関しては、本当に感謝してもしきれない。
「私も暇だしさ、一緒に行っていいかな?」
智ちゃんの提案をあたしは快く承諾した。元々、後は家に帰ろうと思ってただけだし。
お兄ちゃんの病室を出た時、同時に隣の部屋から誰か出てきた。
「あぁ。直葉ちゃん」
「遠野さん。また例の事を?」
「まぁね」
この糸目のほんわかそうな女性は
「それで、進展はありそうですか?」
「進展?そうね……
帆稀さんは智ちゃんの質問に少しだけ考えるような素振りをして……。
「無理☆」
満面の笑顔で答えやがった。
思わず私も智ちゃんもずっこける。
「そんな満面の笑顔で答えても困るんだけど!?」
「まあ落ち着いて。構造的には私も理解できないわけじゃないの。ただ、問題はシステムのほう。2人とも、システムとかプログラムについての知識はどれくらい?」
「……剣道少女2人、片方は小学生ですよ?
「それもそうね。じゃあ2人とも、鉄塔をイメージしてみて」
そう言われて目を丸くした。あたしたちがなんのこっちゃと顔を合わせてる間にも帆稀さんは「ほら早く」と促すのみ。
あたしたちは目を閉じてイメージする。
「その鉄塔の好きなところから鉄骨を1本抜いたら、鉄塔が崩れちゃった」
導かれるように帆稀さんの言葉に従い、その光景を脳裏に浮かばせる。
ただの鉄骨の山へと成り果てた鉄塔をイメージの中で見届けたあたしたちは目を開けた。
「とまあ、2人がイメージした通りよ。ナーヴギアには、幾つかのシステム的な穴が見つかったわ。けど、それらは全て一度解除しちゃうとピタゴラ装置のように次々と他のプログラムを起動していって……最終的には電磁波を引き起こして殺してしまう罠だったの。他の穴も同様にね」
「じゃあつまり、その穴から電磁波のシステムとかを弄ったりしたら、途端に死ぬって事?」
「智ちゃん正解~。こんな事件を起こした当人も、外部からの攻撃は前々から織り込み済みだったみたいね」
無理とか言っておいて関心しちゃってるよこの人……。
「って、ちょっと待った。それって警察は知ってるの?」
「それは無いわ。私もやっと昨日今日で
それはつまり、あたしが今すぐ警察に呼び掛けてもあしらわれるって事。その事実に軽い絶望があたしを襲った。
それにしても、茅場明彦が何を求めてこんなことをしたのかあたしには理解できない。けど、2年前の夏頃のベータテスト期間中、一緒にご飯を食べてる間、お兄ちゃんは興奮気味に茅場明彦やSAOについて語っていた。その時のお兄ちゃんの目はあたし達に向ける時よりも目を輝かせていた。あれは、憧れの人に向けるものと一緒なのかもしれない。あの人のようになりたい、あの人と同じ世界を見たい――。そんな憧れを口にしていたお兄ちゃんはまるで剣道道場に通う前のようだった。
「それじゃ、私は用件があるから。またね~♪」
終始ほんわかした態度を崩さずに、帆稀さんは廊下の反対側へと去って行った。
「……私、やっぱあの人苦手だ……」
その背中を見ながらぼやいた智ちゃんのぼやきに、あたしは心の中で大いに頷いた。
†
智ちゃんを連れ、あたしは1階の中庭に移動した。
白色が中心の室内から芝生の緑と青空の青に彩られ、中心には細い木が植えられていて、レンガを積み上げ、まるで絵本の中の煉瓦造りの家の煙突のように造られた花壇や付近にあるベンチに腰掛けた人達が集まっていた。
「直葉さん……」
「
集まっているうちの2人はあたしも良く知る
紫布菜ちゃんはあたしの
何でも、幼い時に家族と出かけた冬季オリンピックのフィギュアスケートに感銘を受けたらしく、そこから小学校の間はスケートの練習に勤しんでいた。今もジャンプからの1回転くらいは余裕でできるらしい。あたしでも滑る程度がやっとよ?
彼女や彼女の少し年の離れた兄、
「ちょっと彼女に誘われてね。今日はオフにしとこうと思ってたし」
「わざわざありがとう」
「璃乃さん。あなたほぼ毎日ここにお見舞いに来てますよね?まさか学校を休んでまで来てるんじゃないですか?」
「流石にそこまでしてませんって。ちゃんと学校には行ってますよ」
からかい交じりの智ちゃんの言葉に璃乃ちゃんは笑いながら返すが、あたしにはそれが空元気だというのが分かる。
璃乃ちゃんは最近、お兄ちゃんが当時通っていた中学校に入学したと聞いている。
「……みなさんに伝えたいことがあります」
そんな中、口を挟むように黒髪の女の人――士条怜さんが口を開いた。
この人はSAO事件が始まった時、
「少し前に、警察が全国のナーヴギアのバッテリーを強制的に外す計画を立ち上げたそうです」
その言葉にあたしたちは揃って息を詰まらせた。
ナーヴギアが使用者を殺す条件は2つ。アバターのHPが0になるか、ナーヴギアが強制的に取り外されるか――。
それに、ナーヴギアの強制取り外しはあたしもニュースで見たことがある。なんでも、バッテリーを一瞬で破壊すれば電磁波は起こらないと結論付けていそうだとか……。
「そんなことをして……助かる見込みはあるんですか?」
紫布菜ちゃんの震え気味の声で絞り出した疑問に怜さんの代わりに、あたしが口を開く。その時どういう訳か、口が鉛のように重く感じた。
「……多分、失敗する……。あたし達、さっき帆稀さんに会ったの。その時にバッテリーにも仕掛けをしてあるって……」
「やっぱりね。僕ならバッテリーを不用意に弄るとすぐ電磁波を起動する仕掛けを用意すると思ってたし、バッテリーを外すことくらい想定してないほうがおかしいでしょ」
怜さんに同意するように男の人――
この人はお兄ちゃんのクラスメイトで、プログラムなどにも強い。単なるクラスメイト程度の認識しかないけど、あたしからすれば結構お兄ちゃんとは仲が良さそうだ。
あたしも、その程度の事で解決できるとは到底思えない。
次第に話す事が無くなっていき、沈黙が中庭を包み込む。同時に気まずい雰囲気もあたし達の周りを包み、ずぶずぶと底なし沼にはまるように気が落ち込んでいく。
「……みそぎ、やだよ……」
そんな中、小さな女の子が呟いた。まるで不安に潰されそうな声色で。
「やだよ……ことねーちゃんが、みそぎからいなくなっちゃうのなんて……そんなのッ、そんなのやだよぉ……!」
ボタボタと大粒の涙をこぼし、女の子が嗚咽交じりに泣き出して、ついには大泣きしてしまう。
「あたしも……もし……もしお姉ちゃんが死んじゃったらって思ってる今でも気が気じゃないし、本当にお姉ちゃんが死んじゃったら……そんなのッ、耐えられないよおぉぉぉ……ッ!」
女の子の涙に、璃乃ちゃんも泣きだしてしまう。
あたしも泣くことを許されてるのなら、思い切り泣きはらしたかった。けどあたしは目じりに滲む涙をぐっとこらえて……。
「大丈夫。お兄ちゃんも静流さんも、ことねーちゃんも絶対に帰れるから」
あたしは強く泣きじゃくる2人に言い聞かせた。
「ほんと?ほんとに帰ってこれる?」
「うん。ひょっとしたら、あたしのお兄ちゃんがゲームをクリアしちゃうかもよ?」
「……そうだね。うん。その通り」
怜さんがあたしの言葉に同意するように頷いた。
すっとベンチから立つと、振り返って行動を伝える。
「私はこれから真行寺さんと一緒に重村教授の元を尋ねようと思います。ナーヴギアの構造を知って罠が組み込まれているのを知れば、計画も中止するかもしれません。相手が相手だから、警察もそう易々と無下には致さないでしょう」
「じゃあ僕はもう一度、別のアプローチができるかどうか。君らはその子を親御さんの所に送ってってね?」
「あっ、じゃああたしが送りますね!『幼女引きつれ情けねぇ』って奴です!」
同じく花壇から立ち上がった御狗刀さんも肩を回す。璃乃ちゃんもさっきの言葉が効いたのか、勢いよく挙手をしてきた。
けど璃乃ちゃん、それって「旅は道連れ世は情け」って言うんじゃない?そもそもここで使うべきシチュエーションじゃないし。
そう心の中で璃乃ちゃんに対してツッコミを入れたあたしは、窓越しに壁掛けの時計を見る。既にあれから1時間過ぎ、帰るには丁度良い時間かもしれない。
「じゃああたし達もそろそろ帰りますね」
「そうだね。2人とも、後の事はお願いしますよ」
「ええ。任せて」
「色々大変だけど、やるしかないよね~」
智ちゃんのエールに怜さんは笑顔で返し、御狗刀さんも若干だるそうに返すのだった――。
†
直葉たちが病院を後にした後。中庭に残った御狗刀と怜。中庭から5人が去ったのを見ると、ほっとしたように御狗刀が息を吐く。
「……さて。人払いも済んだね」
「どういうこと?」
「この手の話は、できれば言いふらす人がいないほうが都合がいいからね」
頭上にまで上った太陽を受けた植木が作る木漏れ日の下で、御狗刀が顔をこわばらせて呟く。
「それで、いったい何なの?」
「……単刀直入に言おうか」
御狗刀の口から彼の考えを言葉にする。
その言葉は吹き抜けるそよ風に乗って怜の元へと届き……彼女の表情を驚愕の色に染め上げた。
†
一人の少年が病院のロビーを足早に進む。腕時計を見てやや焦り気味なのか、進む足もだんだんと早くなっていく。
「不味いな。少し遅れちゃったかも……」
少年の名は
椿ヶ丘中学校の生徒で、当時そこに通っていた草野優衣と安芸真琴のクラスメイトであり、キリト――桐ヶ谷和人とも何度か顔を合わせている。
「いたいた。おーい、怜!」
中庭にいた待たせていた人物の名を呼び、中庭に入る。
肩を上下させながら佇む彼女の背後に声を掛けるが、まるで反応が無い。
「怜……?」
反応しない相手に思わず眉を顰め、思わず彼女の肩に手を置こうとそっと手を伸ばす。
直人はここで怜は自分の手を払い、厳しめの口調で「何をするの?」と鋭く問い詰めるだろう。
しかし、彼の考えは予想だにしない形で裏切られることになる。
「うわっ!ちょっ、怜!?」
触れる直前、ぐらりと自分の元へと倒れ込んだ。慌てて彼女の身体を支えるが、そこで漸く彼女の異変に気付く。
ほんの僅かだけ、彼女の体が震えていた。
「――どうしよう」
「何かあったの?」
「御狗刀から、話を聞いて……」
「それって警察がナーヴギアの破壊を試みるって計画の事?それなら……」
「違う。そんなことよりも……もっと不味いことだよ……」
「どういうこと?」
要領を得られず困惑するナオに、唇を震わせながら怜は続ける。
「…例えナーヴギア破壊計画が中止したとしても、捕らわれた人達がいつまでも点滴だけで平気でいられるはずがないって……。3年目、4年目と攻略が長引けば……いずれ衰弱死してしまう人が現れるかもしれないって……!」
その言葉にナオは全身が凍り付くような感覚を覚えた。
御狗刀曰く、意識の無い患者が点滴と電気運動だけではそう長く持ちこたえられない。攻略が長引けば、いずれ次々と身体に異常を出し、最悪衰弱死してしまう被害者が現れる。
最初は幼少者や高齢者を筆頭に、いずれ優衣や真琴と言った若者までもが……。
「……怖い…、怖いよ……。優衣は捕らわれて……ひよりは連絡がつかなくて……アストルムで出会った絆が、こんな形でバラバラになるのなんて……そんなの、嫌だ……!」
僅かな嗚咽を交えて呟く。
今の怜に、凛々しさは感じられなかった。人前では見せない、寂しがりな少女の姿だった。その恐怖は、直人も痛いほど共感できる。今までクラスメイトだった2人が、SAOに捕らわれ、自分の前から消えてしまった。そのことを知った途端、直人は胸にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われた。今でも塞がらないそれが、永遠に治らないものになるかもしれない可能性に身を震わせる。
そんな直人は震える怜の肩に手を添え、抱きしめようとした。
「……待って。これ以上は優衣に怒られる」
「そ、そうだね……」
それより早く、怜が自らパッと直人から離れた。
少しだけ深呼吸を繰り返して落ち着いたのか、改めて凛々しい顔で直人に言う。
「それで、あの男――茅場明彦の人間関係は分かったの?」
「ああ。咲恋とすずめちゃん達が頑張ってくれてね」
そう言いつつ直人は一枚の紙を渡す。
「貴方は咲恋さん達と一緒にこのままこの2人の足取りを追って」
その紙を見た怜の指示に直人は言葉を出さず親指を立てて応じる。
(そう……私達の役目はあくまで攻略を中断させないこと。外部から救助ができない以上、攻略は彼らに任せるしかない……)
足早に病院を後にした怜が天を仰ぐ。
空はあの時と同じように曇天に覆われていた。
(お願い。誰か……誰でもいい……。早くこのゲームを……クリアしてくれ……)
分厚い曇天に埋もれるとわかっても、怜は願うしかできない。
何もできない無力な自分を呪いながら――。
次回『リズベット武具店へ行こう』
※坂井直人と御狗刀詠斗。
(・大・)<坂井直人は言わずと知れたプリコネの騎士クン。大体第2部3章13話からの騎士クンと旧作の騎士クンを足して2で割った感じ。バブついてない(ここ重要)。
(・大・)<1学年下だけど
(・大・)<オクトー先輩は和人とクラスメイト的なポジ。ノウェムとはまだ会ってない。
(・大・)<ハッカーの腕は健在で、帆稀とは異なりある人物に腕を買われて救出作戦に手を貸している。
※春咲ひより。
(´・大・)<今回は名前のみ。GGO編まで出番はない。作者の推しの一人なのに。
(・大・)<何らかの事情によりレイ達とは喧嘩別れしてる模様。
※阿賀斗兄妹。
(・大・)<プリコネRじゃゼーンが大変なことになってるのに、こっちは普通に現実の姿で登場。兄の方は名前のみ。
(・大・)<ゼーンはALO編で重要な役割を担うようにしたい。
(・大・)<というかゼーンさん、あんた21やったんか……。クラインと同い年くらいと思ってた……遅すぎるけど、ほんとゴメン……。
(・大・)<一応拙作ではシェフィは作品時間で15に設定しています。