プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(・大・)<かなり襲いながらもあけましておめでとうございます。


(・大・)<本年度一発目はチカの星6記念として彼女メインのお話にしました。


※1/22 本文を編集しました。


「リズベット武具店へ行こう」

2023年、6月18日。

49層の主街区を川伝いに3人の少女が歩いていた。

その目的は武器の調達である。前回最前線に飛ばされる罠でそこのモンスターと遭遇して武器を壊してしまった。チカに至っては盾すら破損してしまったのだ。

新たな武器をどうするか考えていた矢先、ツムギが職人の伝手で武器職人の店を伝えて今に至る。

 

「……確か、この辺りよね?」

 

「はい。ツムギさんの話では園内のこの辺りだと言っていました」

 

「……あっ!あれじゃない?」

 

カオリが指す方向。小さな石橋の先に確かに水車を取り付けたレンガ造りの家を発見する。

 

「……『リズベット武具店』。間違いないですね」

 

目的地に辿り着き、チカが扉を叩いて店に入る。

店の中は様々な売り物の武器が陳列されていた。ダガーや小振りな剣など、比較的小さいものはショーケースの中に、両手剣や両手斧など大きな得物は壁に掛けられている。どれも丁寧に陳列され、職人の気質がうかがえる。

 

「リズベット武具店へようこ……そ……」

 

周りの武器に目を奪われていた3人は店主の声で漸く我に返る。

パフスリーブの上着とフレアスカート、純白のエプロンと言うウェイトレス風の服装にベビーピンクのショートヘア、顔に僅かながらのそばかすを携えた童顔の少女だ。年齢はノゾミ達と同い年か1つくらい年下だろうか。

店員らしい接待をしていたが、ノゾミの顔を見た途端その表情が引きつった。

 

「あのー、もしもし?」

 

固まった店主の目の前で軽く手を振ったその時だった。がっちりと両手を掴まれる。

 

「あっ、ああああなたッ!ひょっとしてノゾミさん!?黄昏の歌姫さん!?」

 

「えっ!?え、あ、はい。そうだけど……」

 

「ひょっとして、ファンの方ですか?」

 

「そうなのよ!まさかあたしの店に来るなんて思ってなくて!……って、あ……」

 

そこで店主はようやく気付く。自分が商売をそっちのけに少女のファンとなって勝手にしゃべり散らしていることに。

店主だけ気まずい空気が包まれる。客の3人はまだ疑問符を浮かべたままで気付いていない。しばし沈黙が流れた後、店主が咳払いをして、

 

「り、リズベット武具店へようこそ!」

 

「流しましたね、今」

 

「ご、ごめん……つい興奮しちゃって……改めて、ご用件は?」

 

「私は盾の修復。チカとノゾミは武具の購入さー。金額はこれくらいだよー」

 

「……確かに。では店にある武器から気に入ったものをお選びください。まずは盾の修復をしますので……」

 

3人とも護衛やレベリングで所持金は十分にある。

リズベットの催促にカオリは早速ボロボロの盾を渡す。

 

「えっ?」

 

受け取った途端、リズベットはダークブルーの目を白黒させた。

 

「どうかしたの?」

 

「いや……これ買ったのっていつ?」

 

「大体2週間くらい前だった気がするさー。私、【ブレイブ・フォース】に所属してるから」

 

「なるほど……。でも後の2人は中層域プレイヤーでしょ?この盾、48層のNPCショップよりも良い性能をしてるじゃない。それなのにたった2週間の護衛とかでここまで消耗する?もう10分の1にまで減ってるじゃない。もう片方は今にも壊れそうよ?」

 

リズベットとしては盾の異様な消耗に対して率直な疑問をぶつけただけだろう。しかしその質問で3人の表情が僅かに曇ったのを見て、思わず「またやっちゃった!?」と息を詰まらせる。

 

「それは……」

 

言い辛そうだったが、説明したほうが良いと判断したのか、ノゾミは先月の事故をかいつまんで話した。

 

「……そう。ごめんなさい、嫌な事思い出させちゃって」

 

「いえ。あんな場所に罠があったなんて思いもしなかったこともあるのですから……あ。この短槍、手に取ってみても?」

 

「構わないわ。それと、【鑑定】用のアイテムがあるからそれも使ってみて」

 

早速武器の新調の為に【鑑定】で調べたり、時に手に取ったりして感触を確かめるノゾミとチカ。カオリも片手爪を新調できるかショーケースの中の片手爪を踊りながら見て回っている。そうしていく内に30分。ノゾミは思った武器が手に入ったらしい。オレンジ色の握り手を持つファルシオンを、チカは直径30センチの盾を手にカウンターに向かう。

 

「これをお願いできるかな」

 

「毎度。中々いい武器を選んだわね。カオリさん、盾の耐久値フル回復よ」

 

「ありがとー!これ、代金だよー。――って、チカ?どうしたさー?」

 

代金を渡し、盾を受け取るカオリ。だがチカはまだ渋い顔である。

 

「いえ……盾はともかく、槍がしっくりくるのが無くて……」

 

「……そっか。槍は店にあるので全部だけど、素材さえあるなら一から作ることはできるわよ」

 

「なるほど。それではお願いできますか?」

 

「OK。素材なら、この48層で受けられる【アルヴェラ侯爵のコレクション】を受けると良いわ。北側の洞窟で手に入るアイテムと鉱石を交換してくれるのそれがあれば行けるかも」

 

リズベットのアドバイスにぱぁっと顔を輝かせる。

 

「よしっ!じゃあ早速行こう!」

 

「ああ、待った待った!気持ちはありがたいんだけどさ……」

 

テンションが高くなったノゾミに対し、リズベットはどこか煮え切らない表情だ。

 

「どうかしました?」

 

「いやね。そのクエスト……」

 

チカの質問にも歯切れ悪く言葉を濁す。

 

「実はソロ限、つまりチカ1人でやらなきゃいけないのよ」

 

 

 

 

48層、北側の洞窟。

 

 

リズベットの案内で洞窟の入り口にやって来た3人。

あれから主街区で〈アルヴェラ侯爵のコレクション〉を受注して北側の洞窟にやってきた。

 

「私とカオリはここで試し切りをしながら待ってるからね。あまり難易度は高くないって言ってたけど、油断しないでね?」

 

「はい。2人もお気を付けて」

 

「いってらっしゃーい!」

 

カオリの言葉を受け、予備の片手槍を手にダンジョンへと潜る。前回の反省点を踏まえて周囲や床に警戒を怠らず、それでも足早に進んでいく。道中のモンスターも1人では苦戦はするものの、勝てない相手ではない。

 

(そういえば、ソロなんて初めてですね……)

 

戦闘を終えたチカがそんな感想を漏らす。普段からパーティで商人プレイヤーの護衛を務めていて、それが当たり前だった。単独で戦う経験なんて数える程度しかなかった。

 

(こんな寂しい戦闘を、キリトさんは2年間も……)

 

今も最前線で戦う剣士の後ろ姿を思うと同時に、胸の中を物寂しさが支配する。

パーティやギルドのメンバーがいる日常で過ごしたチカにとって、今回の戦闘は仲間に頼れない。

ふいに、昨日の戦闘を思い出して身体が震えた。あの時のようなことが無いわけでもない――。

が、頬をきつめに叩いて気合を入れ直すと奥へと進む。

 

(けど、今は入り口にノゾミもカオリさんもいる。こんな所で逃げてたら、2人やリズベットさんに申し訳ありませんからね)

 

モンスターの足止めを2度3度喰らった後――体感3時間程度で最奥まで辿り着いた。

 

「素敵……」

 

思わず声をこぼした。

広い空間となったその洞窟は中央に湖を作り、彼女たちから見た湖の右側が小さな岩の丘を作っている。周囲の石の隙間にまばらに生えているような水晶が、天井の隙間から差し込む光を反射し幻想的な風景を作る。

感動もそこそこに、肝心なものを探そうと湖の丘の上を見る。水晶と間違えそうなクリスタルブルーの細い木を見つけた。早速そこへ行くと、その木から3メートルほど離れた場所にステージのような平石が埋め込まれている。木の幹には何度も打ち付けられたのか、チカの腹の部分にあたる位置に幹が剥がれた跡があった。

 

「これがクリスタリアの木……」

 

クエストの受注者、アルヴェラ侯爵が欲している《クリスタリアの細枝》はこの木を打撃武器、もしくは【体術】で叩けば手に入れられるという。スキルを要する必要も無い簡単なクエストで当時の攻略組もこぞって手に入れたという話だ。ただ、このクエストは景観維持の為に余計な破壊をしないでほしいという訳でクエストを受ける際には1人で受けなければならないという。

これを叩けばクエストはクリアしたも同然。そう思っていた。

 

「……」

 

だがチカは木槌をストレージに戻し、ゆっくりと平石の上に立ち、歌い出した。

 

「~♪~♪~♪」

 

胸に浮かんだ歌詞に、自分の歌を添えてメロディにする。無人のコンサートホールでチカの歌声が響き渡る。

結晶や水面に反射した光が歌に合わせて乱反射を繰り返し、残響が無人のホールにBGMを奏でる。

 

「――ふぅ」

 

ひとしきり歌い終えたチカが改めて木槌をストレージから取り出し、細枝を手に入れようとした。

その時、クリスタリアの木が日差しにも似た光を放ちだした。困惑するチカを他所に、クリスタリアの木から何かが飛び出し、反射的に差し伸べたチカの手の中にふわりと納まった。木から光が消え、呆けていたチカが自分の掌を見ると、結晶の花冠(かかん)が一本、収まっていた。

 

「これは……?」

 

 

 

 

『こっ、これはッ?!』

 

あの後、困惑するチカと合流したノゾミとカオリ。事情を説明しようとアルヴェラ侯爵に花冠、【クリスタリアの花冠】を見せた所、侯爵の顔がこれでもかと驚愕の色に染まり、感極まって立ち上がった拍子に椅子が音を立てて倒れる。

 

「あの……ひょっとして失敗ですか?」

 

『とっ、とんでもない!この【クリスタリアの花冠】は、今では入手できないとまで言われているのですよ!』

 

「入手できない?でもちゃんとここにありますよ?」

 

『はい。このリンダ―スは、水車のシステムができる前は細々とした村と聞いています。今でいう6月の18日、すなわち今日です。今年1年間の息災を願い、去年無事年を越せた感謝を神に送るべく、ある舞踊の巫女が祭事の供物として、これが奉納されていたと言われています』

 

「6月って……無病息災ならお正月じゃないの?」

 

『まあそれは風習それぞれって奴です。ともかく、代々奉納をしていた一族は既に滅び、それを悟った長から祖父に伝えた方法も、祖父が亡くなって断絶……私もその存在に気付いたのは2年程前でした。この絵と“清らかな者の歌”というのが関係していると思ったのですが……』

 

「つまり私が、それを基に歌ってしまった、と……?」

 

アルヴェラ侯爵の背後の壁には五線譜と音符を綴った、楽譜にも見えるかなり古い絵画だ。恐らくそれがアルヴェラ侯爵の言うキーワードと関係があったのだろう。

チカ自身、それを思わず歌にした所でこの花冠を手に入れてしまったという事か。

 

『冒険者達に依頼を出したのもこれを手に入れる為ですが、こんな形で手に入るなんて……』

 

「じゃあ報酬は――」

 

『いえ。それは無理です』

 

「はい!?」

 

告げられたアルヴェラ侯爵の言葉に素っ頓狂な声を上げた。

 

「ちょっと待って!どうしてあげられないの!?」

 

『いえ!無理というのは報酬が割に合わないという意味です!本来ならこの【バナジウムインゴット】を差し出すつもりでしたが、それでは割に合いません。ですので……』

 

そう言い、アルヴェラ侯爵が手を叩く。すると従者が豪華な装飾が施された箱を持ってきた。ふたを開けると、エメラルドグリーンのインゴットが一つ、宝石の装飾品のように丁寧に入れられていた。

 

「これは?」

 

『これは【タイムインゴット】。これを使った武具を身に着けたものは無頼の勇気を宿すと言われている貴金属です。これならその花冠と報酬として釣り合うでしょう』

 

「あ……ありがとうございます!」

 

こうして、予想外のアイテムの入手でクエストは終了し、3人はリズベット武具店へと足を運んだ。

 

 

 

 

「で、それが件のインゴット?」

 

3人から事情を聞いたリズベットは、物珍しそうに【タイムインゴット】を見ていた。

 

「うん。あの時歌ったみたいで、多分私も持ってる《吟唱》や日付とかが関係してると思うんだけど……」

 

「そんな裏ルートがあったなんて正直信じられないわ。けど、こうして現物がある以上本当だったってのが現実よね」

 

頭で納得させつつ、インゴットを掴み上げた。

 

「!?」

 

「どうしました?」

 

「いや……と、とにかく作ってみるわ!」

 

若干キョドリつつも、リズベットは早速店の奥の工房にインゴットを運ぶ。

金床に置いたそれを前に、いつになく興奮している自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。

 

(な、何なのよこれ……?持った瞬間、ただの金属じゃないって心の底から感じた……!今までこんな感じなんてしなかったのに……!)

 

何故こんなにも興奮したのはリズベット自身わからない。ただひとつだけ、直感したものがある。

――この金属を使ったら、とんでもない事になる。

この2年近い間、鍛冶師として武具を作り、強化し、腕を磨き続けていた彼女の直感がそう告げていた。

 

(……この金属に対して、手加減は許されない。3日……いや、3ヶ月はハンマーが振るえないくらいに……!)

 

この金属に対していつもの鍛冶はできない。全身全霊にこの金属を鍛えることが、鍛冶師としてこの金属に対しての最大の礼儀だと直感していた。

再び神経を集中する為に深呼吸を何度か繰り返し、そしてハンマーを振り上げて――。

 

「……!」

 

全身全霊の気を込めるように、ハンマーを振り下ろした。

 

 

 

 

「――できた!」

 

リズベットが工房に入って30分。店でひとしきり《作曲》ウィンドウを開いていたチカが感極まって立ち上がった。

 

「何か書いてたの?」

 

「はい。実はあのアルヴェラ侯爵さんの絵画を見た時から曲が思い浮かんでしまって……忘れる前に書き留めたいと思い、それがついさっき完成したんです」

 

「着いて早々ウィンドウを開いたのはそれかー」

 

「リズベットさんには迷惑を掛けてしまったかもしれませんね。ってあれ?リズベットさんは?」

 

「もう30分も工房に入りっぱなし。私はカオリとさっきまでデュエルで練習してたわ。新しい武器の感触に慣れておかないとね」

 

その時だった。突然工房の扉が乱雑に開かれ、満身創痍のリズベットがそこから這いずるように現れる。

 

「リズベットさん!?なんか、かなりやつれてるみたいだけど大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫よ……。ちょっと集中力が……切れて……」

 

ぐったりとした様子のリズベットが大事そうに抱えている一本の槍。

10センチにも満たない穂先。その刀身はタイムの花が彫られている。刃と棒を合わせるかのように継ぎ目にはツタが絡まったような装飾がされている。

 

「それの、名前は……《突風勇槍ラフィカ》。今まで作った短槍じゃ、トンデモない傑作よ」

 

肩を上下するリズベットからその槍、ラフィカを受け取った瞬間、チカは他の短槍にはない感覚を受けた。

 

「凄い……」

 

「ここまでの性能なら、攻略組も買い付けそうなレベルね。ここまで神経すり減らしたのは初めてよ」

 

「す、凄いですっ!初めて触れるのに、まるで手に吸い付くような感触で……!とっ、とりあえずこれ料金ですっ!本当に……本当にありがとうございましたっ!!」

 

感極まって半分パニックになっているチカは所持金の殆どを差し出し、足早に去って行った。ノゾミとカオリも慌てて武具店を後にして、バタバタと騒がしい3人の客はそのまま立ち去って行った。

 

「まったく……騒がしい奴らだったわね」

 

倒れたままのリズベットは、騒がしい客が去って一息ついた。

先程まで騒がしかった店内は、客が消えて想像以上に静まり返っている。水車の音は聞こえるものの、今のリズベットには無音同然だ。

 

「そういや、あんな風に話したのって何時以来だろ……?」

 

昔から、無意識に自分の感情を蓋をして、『明るくて面白い篠崎里香』を演じ続けてきた。

だが、あの時広場で歌っていたノゾミと間近にコンタクトしたせいで興奮し、つい演じることを止めて、ついに演じることは無かった。

素の自分を表にすることのできない自分が、いつの間にか素の自分を曝け出していた。アスナやリーテンといった数少ない知人以外で、こんなことになったのは今でも信じられない。

 

「……ありがと。アインクラッドの歌姫さん達」

 

 

 

 

それから1週間後、とある攻略組の依頼で片手剣のオーダーメイドを請け負うこととなり、曰く『最高傑作』を作り上げた。

それを機に腕前は驚くほどに上達していき、浮遊城にその名を轟かせた。しかし、その名を轟かせた今でも『最高傑作』と『ラフィカ』を超える武器は作れた経験は無いという。

しばらくして手の空いた時間に顔を出したティータイムの最中、質問をしたアスナに対し彼女はこう言った。

 

 

――あの時も、あの槍を作った時も。多分自分の中の何かが吹っ切れたのかも、と。

 




次回『浮遊城の恋、かつての大地』



※突風勇槍ラフィカ

(・大・)<おっかなびっくり風にしてみました。


《アイテム名》突風勇槍ラフィカ
《種別》片手槍
《射程》1
《タイプ》斬撃・刺突
《要求筋力値》43
《強化値》0
《残り試行回数》30
《攻撃力》320
《攻撃SPD》400
《命中力》500
《耐久値》1300/1300
《装備重量》70kg
《その他プロパティ》俊敏+22
《製作者》made by Lizbeth

※無頼の勇気を与えると言われている【タイムインゴット】から作られた短槍。この城が遥かに広がる大地に在りし時代、今は失われし祭事の儀式にて神具として使われていたと言われている。

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