プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(・大・)<今回は恋愛もの成分があります。

(・大・)<あと、タグを色々編集しました。




『初めてのデート』

「……」

 

マコトは今、かつてないほどに緊張していた。

61層主街区――セルムブルクの転移門広場を待ち合わせにした時、早朝から今か今かと心臓をバクバクさせんばかりに待ち続けた。時間は12時3分前。

無論、デートなど彼女は今日が初体験である。この男勝りな性格はマコト自身自覚していて、女っ気が無いと思っていた。そんな彼女がいきなりデートなどを行うのであれば、緊張しないはずがない。

 

そして3分後、転移の光が現れる。その内の一つの光が晴れ、テンカイが現れた。

 

「悪い悪い、待たせたか?」

 

転移してきたテンカイは、ワイシャツにジーンズと非常にラフな格好だ。

対してマコトは一昨日ツムギの店から買った薄紫のノースリーブにグレーのミニスカート。丈も調節し終えてへそ出しスタイルではなくなっている点を除けば一昨日と同じ格好だ。

 

「い、いややややや!!だいじょぶです!ホント、今来たばかりなので!」

 

嘘である。

実を言うと前日は碌に眠れなかった上に待たせない為にも5時間も前に転移門で待っていたのだ。

 

「……」

 

「あ……あ、あはは。やっぱこの服似合わなかったよな?やっぱ今日のデートは……」

 

「そうじゃねぇよ。ただ、いつもと雰囲気が違うから……正直ちょっと見惚れてた」

 

その一言に思わずマコトも赤面しつつ口を噤む。

 

「じゃあ行こうか?」

 

「お、おぅ……おぉう?!」

 

早速デート開始と言わんばかりに、マコトの手を掴んで離れ小島行きのボートに乗り込むのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか5時間も前に来てたなんて……」

 

「気が早いってレベルじゃないでしょ……」

 

転移門から少し離れた路地の影から、3人が顔をのぞかせた。アスナとユナ、そしてユイ(髪色は戻した)だ。

アスナとユナは一昨日のデートが気になり、ユイはマコトを心配して先にセルムブルクに来たのである。

因みに3人が来た時にマコトが目の前に――とはいえ窓に映る自分の姿を見て身だしなみを整えていたから気付いていない――いたのに驚いたのは全くの余談だが。

 

 

 

 

あれからショップに入り高すぎる値段に絶句したり、商人仲間にデートの事をからかわれてマコトが赤面したり、初めてのセルムブルクの構造に道に迷ったりと色々あり、いつの間にか2時間も過ぎてしまっていた。

 

「遅くなっちまったけど、そろそろ昼にするか。えーっと……」

 

「あ、それならあたしが良いとこ知ってるよ。昨日下見に行ったから」

 

地図のウィンドウを見ながら路地を歩く2人。

そこから10メートル以上離れた場所で尾行する3人。

 

「良いとこって?」

 

「私が昨日教えたの。デートスポットに最適な場所もね」

 

「詳しいんだね。マコトちゃんと一緒に下見したの?」

 

アスナの的確なアドバイスに感心するユイ。しかし、当人から返ってきた言葉はユイの思いもしないものだった。

 

「ううん、下見も何も私ここに住んでるから」

 

「そうだったの?」

 

「確か、あの路地裏の通路を通った先にあったはず」

 

アスナの言われる通りのルートを通ると、2階建てのNPCレストランを見つけた。

テンカイとマコトが中に入った後で遅れて中に入ると、木造のアンティークな造りの内装に目を奪われながらも、テンカイとマコトがいる2階の、2人のテーブルから死角になる席に座る。

 

食事の注文でマコトはハンバーグセットを、テンカイはサラダと鮭のムニエルを注文する。

数分後に運ばれた料理を一口ほおばり、途端に驚いたように目を少し見開いた。

 

「結構旨いな」

 

「だな」

 

2人の口から出た評価は以外にも高評価だった。

元から味覚エンジンの研究で色々な調味料を開発してきたのだが、NPCレストランにはプレイヤーが作る料理とは異なる趣がある。

ランチの移動販売が軌道に乗った今では、利用者の間でNPCレストラン派か【エリザベスパーク】派に意見が分かれているとか。

 

「さて、まだ時間があるな……。どうする?もう一度街中うろついてみるか?」

 

「そうだな~。釣りとかできればいい時間つぶしができるんだけど……」

 

「暫くここで駄弁ってく、ってのもアリじゃないのか?」

 

テンカイが望んでいる時間にはまだ早いらしく、それまでの時間をどう潰そうかふと窓の外を覗いた時、外に62層へと続く迷宮区の塔が目に入った。

しばらくじっと見ていると、何を思ったのかいきなりテンカイが噴き出した。

 

「どうしたんだよ?」

 

「いやな。22層でキリトがやらかしたことを思い出してな」

 

笑いを交えたテンカイの説明を聞いてマコトは納得する。

 

22層は基本モンスターが出現しない。攻略組も何もないこの層を平均をはるかに下回る日数でクリアした。

その攻略開始から攻略組が22層でモンスターが現れなかったことを知ってから数時間後。つまりテンカイが試しにと22層に乗り込んだ時、偶然にもキリトが突如「外周をよじ登って上の層に行けるんじゃないのか?」などとトンチンカンな事を思いついた現場と鉢合わせした時だった。エギルやリンドなど一部のプレイヤーが止めたにもかかわらずキリトは敢行したのだが……途中で力尽き転落して空中に放り出されて、必死に転移結晶でワープ。

結果としては転移結晶1つを失うという散々なものだった。

 

「ははははははッ!なんだそりゃ!」

 

「だろ?あんときは本当に笑ったよ!」

 

そんな話を聞いたマコトは見事に爆笑。つられてテンカイも笑い出した。

 

一頻り笑った後、会計を終えた時だった。

 

「……ん?」

 

「どうした?」

 

店を出る直前、視界の隅に映った3人に気が付いたマコトが振り返る。

ついさっきまで自分達が座っていた席から丁度死角になるテーブルに3人。ケープで頭をすっぽり覆い隠した女性プレイヤー2人と、最近髪をピンクに染めた顔を見知った少女プレイヤーが、揃って笑いをこらえているのかプルプル震えている。

 

「……何やってんだお前ら?」

 

「いや、だってあの時のことを本当に面白そうに笑ってるんだもん。こっちもつられて笑っちゃ……あ」

 

マコトに訊ねられた瞬間を皮切りに笑いだしたアスナ。だがすぐに我に返ると、呼ばれたほうを向いて……固まった。

冷たい目線を向けている相手は、自分達が尾行していたカップルの片割れ。それがこんな形でバレてしまうとはアスナも思っていなかっただろう。

そして、この状況でマコトが取る行動と言えば……。

 

「……逃げるぞッ!」

 

テンカイの手を握り、そのまま弾かれるように逃げ出した。

 

「ああっ!2人とも笑ってる場合じゃないよ!会計済ませてすぐに追うよ!」

 

「ふぇっ?えっ?何?」

 

置いてけぼりの状態のユイとユナにそれだけ言うとアスナも2人を追わんと店から飛び出した。

 

 

 

 

「ったくアイツら、余計なことしやがって……」

 

アスナたちから逃げ出してきたマコトとテンカイ。

周囲を見渡すと、いつの間にか路地裏に迷い込んだらしく、右も左も高級そうな建物だらけの迷路に迷い込んでいたようだ。

 

「……どうしよ。マジで迷ったかも……」

 

「マップがあるだろ。すぐに戻ってこられるよ」

 

マコトが焦りだす前にテンカイがマップを表示し、現在地と表通りの場所を見出して歩き出す。

今度はテンカイがマコトの手を握りながら。

 

「あ……あのさ。前から気になってたんだけど、どうしてあたしをそう気に掛けてるんだ?」

 

表通りへと向かう途中、マコトが質問を口にした。

昔から自分のガサツさや女っ気の無さに自覚を持っていて、今着ている服も恥を忍んでいる。

【ゴスペル・メルクリウス】には――もっと言えば《始まりの街》には自分よりかわいく、美人な女性プレイヤーがいるはず。それでもなぜ自分を選んだのか、マコトには解らなかった。

 

「ん?あぁ~……。現実の話もするが、構わないか?」

 

一応のテンカイの呼びかけにマコトは頷いた。

それを見たテンカイはぴたりと足を止め、語りだした。

 

「俺の地元は結構な田舎で、契約農家の産まれだったんだ。俺はそれが嫌で都会に移り住んだ。地元に無いものに強い刺激があって、SAOもそのひとつだったんだよ」

 

自分の昔話を語るテンカイの声は、どこか懐かし気だった。

都会の様々なものは彼にとっては刺激的であり、新鮮だった。

SAOに惹かれたのも当然なのかもしれないとマコトは胸中で納得する。

 

「そんな時にあの宣言がなされて……。その後はお前らと出会ったんだ」

 

「それで?」

 

「お前らと協力していく内に、ガキの頃爺さんが言ってのを思い出してな。『誰かが自分の作ったものを喜んで食べてくれるのを思い浮かべるのが嬉しいんだ』って。その時は訳が分かんなかったが、ここで過ごして、お前が料理を作ってる姿を見て、ようやくわかったかもって思ったんだよ。」

 

そこまで言うとくるりと振り返り、

 

「だってさ、お前が楽しそうに料理作ってる所が、すっげぇ綺麗だって思ったんだ」

 

マコトに向けた笑顔に、マコトは虚を突かれたように頬を赤く染めた。

 

(こ、この人本当に狙ってやってんじゃねぇだろうな……!?この人の好意の向けかたって、どストレート過ぎるんだよぉ~……)

 

その間にも路地裏を移動していた2人の目の前には、既に表通りが目の前に映っていた。

 

「あ、出口……」

 

「なんだ、すぐに帰れたな。よしっ、続きと行こうか」

 

振り返った際の先へ行こうと促すその顔にマコトは数瞬気を取られていたが、改めて頷いた。

 

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけた!――って、なんかいい調子じゃない」

 

表通りを散々駆け巡った挙句、裏通りにいないかと思い立って探したところをやっと見つけることができたアスナ。

見つけた時には既に表通りに戻ろうとした所で、傍に会った樽の影に隠れて様子を伺っていた。

 

「……もうこれ以上は必要ないかな?」

 

「ほほー。【血盟騎士団】の副団長様ともあろうお方が、64層の攻略をお休みしてストーカーの真似事ですか」

 

「仕方ないじゃない。あんなホラーな層私は二度と行きたくありませんからね?――……えっ?」

 

これ以上の後ろからかけられた声に返答した直後に気が付いた。

油の切れた歯車が無理矢理回転するかのようにゆっくりと振り返って……ぞっと血の気が引いた。

 

「あ……き、キリト君……。居たんだ?」

 

「ああ。ついさっき、な……」

 

表情を伏せたままの黒衣の少年にアスナの顔もどんどん青くなる。

 

「で、キリト君はどうしてここに?」

 

「64層のマッピングを終わらせて情報屋にここに来るよう言われてたんだよ。それで追いかけてる3人を見つけて……だ」

 

キリトのすぐ後ろを見ると、す巻きにされたユイとユナが死んだ目をして捕まっていた。

2人の変わり果てた姿に絶句していると、キリトはす巻き状態の2人をアスナの両隣りに無理矢理座らせるように位置や姿勢を調整する。

やがて2人がす巻き状態のまま正座をさせられる形に収まると、アスナと向かい合って言い放つ。

 

「さてアスナ。そこに正座」

 

「え?いや、だってここ地面――」

 

「正座しなさい」

 

「いやさ、ここ地面だよ?膝も脛も滅茶苦茶痛いじゃない?せめてほら、そこの建物にでも――」

 

「正座」

 

顔を伏せていてもどんどんキリトの威圧感は静かに、まるで万力が締まるかのように徐々に重くなっていく。

――これ以上刺激したらヤバい。

そう直感したアスナは静かに隣の2人同様正座する。見届けたキリトも同様に正座し、そこでようやく表情が明らかになった。

目は星の光すら飲み込まれたかのようなハイライトの失せた漆黒。そしてそんな状態からでも嫌でも分かってしまう怒りに満ちたオーラ。

はっきり言おう。今のキリトはアスナからすればアストラル系のモンスター以上に恐ろしいのである。

 

「さて、お前らにはストーカー被害者の心情を教える必要がありそうだな……?」

 

(嗚呼。終わったわ、私)

 

その後。小一時間も続いたキリトの説教は3人の精神をガリガリと削り尽くし、改めて今日の尾行は終わりになった。

 

 

 

 

その後、慣れない61層の街並みに迷いかけたがなんとか湖一帯を見渡せる展望塔の付近に到着した2人。

夕焼けの日を浴びながら、テラスまで一直線に階段を駆け上がる。

 

「おぉ!ベストタイミング!」

 

丁度テンカイが待ち望んでいたタイミングらしく、事情を知らないマコトは引っ張られながら塔に足を踏み入れた途端、夕焼けの眩しさに目を細めた。

そして目が光に慣れたのか、改めて広場からの景色を見て……。

 

「――うわぁ」

 

遠くの山脈が太陽を遮る頃、夕日の輝きと湖に反射した光でセルムブルクが朱に染まっていた。

 

「いやぁ間に合った間に合った。前に見た景色が凄かったからな。マコトにも見せようと思ってたんだよ」

 

「あ、ああ……ホントすげぇな……」

 

想像以上の光景にそれ以上の言葉が見つからなかった。

あの宣言の日も、この世界に閉じ込められてから同じ夕焼けを、同じ朱を見てきたのに、彼と共に見た朱はこれまで見てきた朱よりも鮮明に、より美しいとマコトは感じた。

ふと横を見ると、子供のように無邪気な笑顔を浮かべるテンカイの横顔が、夕日に照らされていた。それがマコトには魅力的に見えて……。

 

(……そっか。あたし、この人に惚れてたんだな……)

 

妙に素直で子供っぽく、表裏がなさそうな人にマコトは次第に彼に惚れていった事を自覚する。

こんな女っ気の無い自分が恋愛だなんてバカバカしい。

中学に入ってそんな考えが浮かんでいたのに、彼のストレートな好意に振り回されつつも、胸の内に喜びを感じていた。

 

「テンカイさん」

 

ふと、マコトが隣で眺めていたテンカイに言葉を放つ。

 

「今日の事、あたし忘れないよ。ずっと」

 

言葉が出ない中で、精一杯紡いだ言葉。月並みなセリフではあっても、それが今のマコトがテンカイに対しての精一杯の気持ちの伝え方だった。

 

「そういう顔見せてくれただけでも十分だよ」

 

「ふふっ、ありがとな」

 

「んじゃ、そろそろ帰るか」

 

くるりと満足そうな表情で踵を返したテンカイの後を追うようにマコトも帰路につく。

――現実に帰っても、必ず彼のリアルを探し出してもう一度付き合おう。

言葉を紡いだマコトは、同時にそんな決意を秘めていた。

 

 




次回『棺桶の影』


(・大・)<プリフェスオンラインの間に、今後の展開の為に今まで書いた所をいくつか編集し直すかもしれません。
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