プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(・大・)<今日もまた1万字近いデス。

(・大・)<6千字にまとめることはできないのか?




※次回タイトルを変更しました。


「凶刃」

 

 

25層。100もの階層を重ねた浮遊城アインクラッドにおける最初のクォーターポイントである。

この階層は他と異なりフィールドのモンスターでさえ一桁代の階層のフロアボス級の強さを持つ。それだけでも厄介なのにフィールドは迷路のように迷いやすく、様々な罠も行く手を阻んでいる。

当時最前線だったこの階層は、罠やモンスターによる犠牲者も多く、攻略組にとっては真の試練と言っても過言ではなかった。

マコトとユイがこの階層で印象に残っているのは、やはり『4分の1地点(クォーターポイント)の惨劇』だろう。【ALS】、【ブレイブ・フォース】、そして【剣文録】の3ギルドが偽情報に引っかかり、多大な犠牲――【ALS】は一足遅れたことで難を逃れたが――を出してしまった事件。

マコトはまだしも、ユイではこの階層のモンスターに1対1では敵わないだろう。しかし、この階層には1ヵ所だけモンスターに遭遇せず、迷う事無く特殊なルートが存在する。それは、南側に沿って中央へと進む一本道のルートである。

 

「テンカイさん!どこだー!?」

 

「マコトちゃん、待って!」

 

駆け足で大部屋のフロアに入るマコトとユイ。大部屋は身を隠せるほどに隆起した岩が数個点在している以外は何も無く、大部屋には2人が入った場所のほかに3か所も通路が伸びている。

この場所は元々大型のフィールドボスが鎮座していた。

このボスは最前線だった当時、モンスターにまったく出会わないと思い込んだプレイヤーがこのボスと鉢合わせてしまった。そのまま引き返せば何とか生き残れたものの、そのボスは初手で突進を仕掛けてくる。そして主街区に戻るルートに鎮座してしまうのだ。そしてこの3か所はそれぞれ強力なモンスターの群れ、様々な罠、1対1を強いられる細い通路の3種類のルートに分断させられ、そのまま生還できなかったプレイヤーは20人に及ぶ。

今はこの大部屋の主は既に討伐され、余程の事が無い限りはこの場所を訪れない。

 

そう、余程の事が無ければ――。

 

「マコトちゃん……。もう帰ろう?あの人が生きてるなんて、私には……」

 

「ふざけんなよ!あの人が直接生きてるって手紙を書いて来たんだ!間違いねぇ!」

 

マコトを宥めようとするも、当の本人は全く聞く耳を持たない。

泊まろうとしない幼馴染に辟易してしまう。こうなってはもう気が済むまで探させた方が彼女の為になるだろうとユイは思った。

その時だ――。

 

 

 

――ドシュッ!

 

 

「……え?」

 

探していたマコトが突然倒れた。

一瞬何が起きたのか理解できなかったユイはたまらず彼女の元へ駆け寄る。

 

「マコトちゃん!?いったいどうしたの!?」

 

彼女のHPバーを見てみると、黄色の下地に黒の雷を現すマークが現れている。

 

「これは……麻痺!?」

 

「ユイ……!逃げ……ッ!」

 

次の瞬間、振り返ったユイが何者かに殴られ大きく飛ばされる。その直後に首筋に何か針のようなものが刺さった感覚を受けた瞬間、ユイの身体も動かなくなる。麻痺針による麻痺だ。

 

「ツー、ダウーン」

 

状況と場所に合わない無邪気な声がして顔を上げると、頭を頭陀袋で覆い隠した男性プレイヤーが立っていた。

そのプレイヤーを、ユイは良く知っていた。いや、実際に出会ったかと言えば今回初めて顔を合わせることになる。

知っていた、というのは【MMOトゥデイ】が発行する新聞でその情報を知っていたからだ。

 

「ジョニー……ブラック……!?」

 

「へぇ。俺を知ってるなんて光栄だねェ?」

 

ユイを見下ろすジョニーはまるで子供のようま無邪気な態度を崩さず、まるで蜘蛛の巣に絡まった蝶でも見ているかのように嗤い、見下ろしていた。

 

「テメェら……いったい何の用で……!?」

 

「おいおいおいおい。何の用だは野暮じゃねぇのか?そうだろ?」

 

得物であるナイフでユイの頬をぺちぺちと軽く叩く。

軽口をたたいているジョニーに対して、ユイの頭はもうパニックでいっぱいだ。

2人にとってジョニー・ブラックだけでも最悪と言っても過言ではないのに、更に彼は振り返りながら訊ねてきた。

 

「そうだよなぁ。折角のショウタイムだってのに、まさかお前ら、俺らが何もしないで帰るとでも?」

 

そこから次々とボロボロの布を使ったようなフードを被ったプレイヤーが現れる。その数は合計10人弱。彼らの共通点はギルドタグにしていそうなマーク。

カリュカチュアライズされた棺桶に描かれた不気味な笑み。白骨化した腕が手招きしている様は、まるで「お前も仲間だ」と共犯者になろうと誘うっているのか、はたまた「次はお前だ」と次の犠牲者を自らの棺桶に収めようとしているみたいに感じる。

 

「【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】……!?」

 

「よう嬢ちゃん達。覚えていくれたとは光栄だなぁ?」

 

この男の名は『PoH(プー)』。名前だけ聞けば愛らしいイメージも湧くが、当然彼にそんな和やかなイメージは無い。

なぜなら彼は、最悪のPK集団【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】のギルドマスター。即ち、アインクラッドで最も危険なプレイヤーだからだ。

彼らの存在は2年前の6月にPoH自身の口から告げられ、当時は人数集めをメインにすると言っていた。当初下層や中層域のプレイヤーの殆どは「そんなイカれたギルドに入る奴はいない」と断言し、頭の片隅に置く程度のこともしていなかった。

そして成りを潜めていた昨年の大晦日の日、園外でパーティを行っていた2つのパーティを壊滅。そして情報屋を通じて本格的な活動を宣言した。情報屋が手に入れたギルドの総数は、およそ30人以上。

それからは次々とシステムの穴を突いた手口を考えては実行。その数は現在3ケタにも及ぶと言われており、全プレイヤーの恐怖の象徴として恐れられている。

 

「てっ、テメェら……!テメェらァ……!」

 

麻痺されて動けないマコトが、PoH達を目にした途端怨嗟の声を漏らす。

 

「よくも……!よくもテンカイさんをぶっ殺しやがったなァ……!」

 

「あ?テンカイ?」

 

「とぼ、けんな……ッ!テメェらが突き落として殺したんだろうが……!」

 

「あぁ?何言ってんだ?」

 

PoHはまるで本当に知らないかのように声を上げる。

思い出す様に指を目の前でくるくると指を回しながら記憶を遡る。やがて思い出したのか、「ああ」と声を上げた。

 

「そういや奴が言ってたっけな?それで?」

 

「それで……だと……!?ふざけんじゃねぇ……!」

 

「そんなリアクションをするって事は、そいつはテメェにとって相当大事な人だったんだなぁ、うん」

 

マコトに同情するように頷く。しかし直後、含み笑いを浮かべたPoHは続ける。

 

「だがな。くたばった奴がああだったとかこうだったとか言っても、俺らには全く興味がねぇよ」

 

「……ッ!」

 

「そもそもの話、テメェは今まで食った家畜の話を聞かされてどうするんだ?同情するのか?ンなもん答えは決まってる――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『そんな話をされても知らねぇよ』って思うだろ?」

 

「……ッ!!」

 

下らないことを抜かすな、と言わんばかりの台詞にマコトの怒りが頂点に達した。

 

「――ふっざけんなテメェらぁッ!ゲーム感覚で人を……あの人をぶっ殺しやがってぇぇぇぇ!!」

 

「いいねぇ、その怨嗟の声!表情!事情はどうあれ大切な奴を殺されたプレイヤーの表情ほどそそるものはねぇよなぁ!?そいつの殺される直前の面を見れなかったのは残念だったよ!」

 

マコトの怒声さえもPoHには――いや、【笑う棺桶】にとっては殺人は一種の快楽。そして被害者の恐怖に染まった表情はスパイスとなるのだ。

ユイが動けない身体でどうにか首だけを動かすと、他の【笑う棺桶】のギルド員は、フードの中で表情は見えないが、その口角は上がっていた。その光景に一瞬でユイは理解した。

――楽しんでいるのだ。この殺人を。

 

「さぁて今回のメインイベントだ。おい」

 

PoHの合図で構成員の一人が暗がりからプレイヤーを連れてくる。そのプレイヤーもフードとコート、更には籠手にブーツ。フードから覗く顔も、ミイラ男宜しく包帯でぐるぐる巻きにされていて判断材料が限りなく少ない。手を鎖で繋がれてまるで奴隷のようだ。

背中を突き飛ばされたプレイヤーはマコトから数メートルのところまで歩かせると、PoHが鎖を掴んで動きを制する。

 

「さぁさぁ賭けの時間だ!これからコイツとそこで寝転がってる女の殺し合い!どっちが相手を殺すか、全員で賭けてみようじゃないか!!」

 

「――なッ!?」

 

PoHの口から放たれたとんでもない言葉に思わず目を見開くユイ。

その間にも構成員たちは次々と挙手をしてアイテムやコルを賭けていく。

常人なら考えようともしない殺人を使ったギャンブルに、ユイは戦慄する。

 

「因みにこの賭けは全員強制参加だ。お前も賭けて貰うぞ」

 

「……そ、そんなの……」

 

――そんな賭けに乗る気なんて無い。

そう言いかけたユイの目の前に巨大な中華包丁が突き刺さる。

この武器は《友切包丁》。PoHの愛用する魔剣級の短剣である。その特徴は友切の名が示す通りプレイヤーを斬るほどに性能が上がり、逆にプレイヤー以外を斬れば性能が下がるという性質を持っている。噂ではモンスターを斬り続ければダガーから刀に変貌すると言われているが、目の前の男がわざわざそんなことをするとは考えられない。

 

「ノーならお前が先に死ぬだけだ。そうだ、お前が賭けに勝ったら2人とも解放しようじゃねぇか」

 

「……!」

 

参加しなければ殺される。実にシンプルな話で……実に複雑だ。

この賭けに応じなければこの場でユイは殺される。しかしそれは、彼らの殺人に間接的に加担するという意味も含んでしまうということだ。

 

「…………わ、私、は……」

 

か細い声で、迷いながらも言葉を紡ぐユイ。その答えは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マコトちゃんは、死なないほうに……賭ける……」

 

「……決まりだな」

 

口角を上げたPoHは奴隷のようなプレイヤーの耳元に何かを囁く。そして手首に巻き付いていた鎖を外した。

 

「今から10秒後、麻痺が解ける」

 

「それじゃあ……」

 

「ああ。ゲーム……」

 

すっと左手を上げ、親指と中指の腹を合わせる。ぐっと力を籠め……、

 

「――スタートだ」

 

指を鳴らした瞬間、奴隷風のプレイヤーが真っ先に片手剣を手にマコトに襲い掛かる。

 

「マコトちゃん!?どうして!?10秒後にスタートんじゃ……!?」

 

「あぁ?誰が悠長に10秒後にスタート何て言った?」

 

悲痛な叫びをあげるユイに対して、何事も無いような反応を返す。

その間にも奴隷のようなプレイヤーは倒れているマコトに馬乗りになり、素早く右手首を掴んで動きを封じる。そして左手でナイフを引き抜き、マコトの胸に突き立てた。

 

「あぐっ!?」

 

短い悲鳴と共にHPが減少する。

それでも構わずプレイヤーは何度もナイフを突き立て、更にHPが減少していく。

 

「マコトちゃん!」

 

起き上がろと腕を立てた瞬間、異変に気が付いた。

――身体が動かせたのだ。麻痺で動けないはずなのに。

 

(……まさか、麻痺が解けるって言っていたのは……私のほう!?)

 

PoHはどちらかの麻痺が解ける、とは一言も言っていない。ただ『麻痺が解ける』と言っただけだ。

ユイは視界の左上にあるマコトの簡易ステータスを見ると、減り続けるHPのほかに麻痺を示すマークが未だ存在していた。

 

(急がなきゃ、急がなきゃ……!早くし何とかしないとマコトちゃんが……マコトちゃんが殺される!)

 

必死に頭を働かせようにも、身体は再び麻痺にでも陥ったかのように動かない。

 

(かっ、身体が……!?なんで……!?)

 

意思とは反してまるで固定されてしまったかのように動かない身体。簡易ステータスに視線を向けても麻痺の状態異常を示すアイコンは見当たらない。

その間にもマコトのHPはイエローゾーンの半分を切り、更に減り続けている。

 

「――クソッ!」

 

刺され続けたマコトがようやく麻痺が解けたのか、振り下ろしてきた手を掴んで抵抗する。

筋力パラメータの差で次第にマコトが押し返していく。

 

「……を……」

 

「……え?」

 

「邪魔をするなああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

奴隷プレイヤーの張り裂けんばかりの雄叫びと共にマコトの手を振り払い、切り落とす。

 

「生き延びる。生き延びる。生き延びる……!私はッ、私はぁ……!」

 

雄叫びと共にナイフを突き立てるプレイヤー。唯一空いている左手を切り落とされ、最早マコトに成す術は無い。

 

「…ダメ……ダメ……やめて……お願い………!」

 

荒くなる呼吸。見開く目。その一つ一つがユイの中で焦燥を掻き立てる。

無意識にユイの手が、採取用の鎌を手にしていた。

そして―――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目エエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェッッッッ!!!!!!」

 

 

 

刃に光を灯し、戦闘経験がロクに無いユイが信じられないスピードで地面を蹴って突進し、鎌を振り下ろす。片手鎌の最初期ソードスキル《ダイバー》である。

ユイが駆け出したその先、奴隷風のプレイヤーの背中に刃を突き立てた。

 

「あがっ!?がぎいぃあああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

背中に鎌を突き立てられたプレイヤーは金切り声を上げて腕を振り回す。

マコトを刺し貫いていた短剣を引き抜きやたらに空を裂き、それが数秒続いた後突然動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――パキィィィン……。

 

 

動きを止めたかと思った次の瞬間、その身体をポリゴン片となって消滅した。同時にユイの頭上のカーソルが、緑からオレンジに変わる。

 

「……え?」

 

ユイの呆けた声と、プレイヤーが消えたと同時に宙に放り出された片手鎌がからり、と地面に落ちた音が静寂に包まれた大部屋に木霊した。

 

「あーあ。死んじまったよ」

 

まるで興ざめと言わんばかりのリアクションのPoHは、すたすたとプレイヤーのいた場所へと歩き、落ちていた鎌を拾い上げる。

 

「……誰が殺した?」

 

「……!」

 

「あのプレイヤーは、誰が殺した?」

 

「……ぅ……あぁ……!」

 

大げさに両手を広げ、この大部屋にいる全員に聞こえるように大声で訊ねる。そして事実を知り、わなわなと震えだすユイを指し、高らかに叫んだ。

 

「そう、この女だ!この女が自らの手で、可哀想なあのプレイヤーの命を奪い取ったんだ!」

 

「――……いや。いや、いや……いやぁッ!!いやあああああっ!!!!!」

 

事実にPoHは喚起に狂い、ユイが絶望の悲鳴を上げる。

そこで漸くマコトが麻痺から立ち直り、泣き叫ぶユイの元に駆け寄る。

 

「ユイ、しっかりしろ、ユイ!」

 

「おーおー麗しい友情だねぇ。良いのか?そいつは今や俺らと同じ人殺しになったんだぜ?同じ人殺しなら俺らとも仲良くなりてぇな?」

 

「ふざけんな!誰がテメェらのような人殺しと仲良くなれるか!!それに、ユイはテメェらの罠に嵌められたんだぞッ!!」

 

「ご都合主義も良い所だな。そいつは良くて、俺らはダメってか?何の違いがある?」

 

「こんの……ッ!」

 

へらへらとした態度を崩さないPoHに逆上したマコトが大剣を振るう。

その剣をPoHはダガーを真一文字に振るい剣を叩き落とす。

 

「悪いな。今ここでぶっ殺すのも悪くないが、ウチは女日照りが酷くてな。連中のお楽しみの為にここで殺す訳には行かねぇんだよ」

 

「なっ……!?ユイが勝ったから解放するんじゃ……!」

 

「あー、あれな。俺は『どっちが相手を殺すか』を賭けたんだ。なのにその女は『死なない』方に賭けた。結果はどちらの負け。あの約束も無効って訳だ」

 

背後にいるギルド員が絶望のあまり泣き叫ぶユイに迫ってくる。

マコトは今すぐにでも彼女の元に駆け付けようとするが、PoHの友切包丁を突き立てられて身動きが取れない。

 

「まあ安心しな。お友達もつれてくし、連中が飽きたって言い出したらしっかり殺してやるよ。そこにいる――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――3人目も一緒になぁ!!」

 

ぐるりと振り返った次の瞬間、くるり友切包丁を回転させて背後から来た攻撃を受け止める。

その瞬間を逃さなかったマコトはチャンスと言わんばかりにユイの元に駆け付け、予備の大剣を装備して【笑う棺桶】の構成員に向けて構える。

 

「っ……!」

 

「――スト、……レア……さん……?」

 

「ほぅ、お姫様のピンチに駆けつける王子様――いや、女騎士、といった所か?」

 

「……2人を、返しなさい……!」

 

「随分と殺気立ってるなぁ?だがよ、女騎士様。この数を相手にするってのはちょいと無謀じゃねぇのか?」

 

余裕ですと言わんばかりのPoHに対して、ストレアは内心焦っていた。ユイの頭上のアイコンはオレンジに変色し、マコトのHPもほんの僅か。彼女が予期していたものとは違う最悪な事態が起きていたことを理解した。

【笑う棺桶】の構成員はPoHを含めても10人以上は下らない。しかもユイとマコトまでの距離は約10メートル強。このまま2人の元に駆け付けさせるほど彼らが甘い存在ではないと言うことはストレアも良く分かっている。かといって何もしなければ2人が袋叩きに、ストレアも下手に行動すれば自身が袋叩きにされかねない。

 

「――ぅぐっ!!」

 

「ストレア!?」

 

「はっ、頭痛か?そんなんで返せだなんて良く言ったもんだなぁ!」

 

「……私だって、バカじゃないわ……。もうすぐ、【血盟騎士団】がここに来る。30人近いプレイヤーなら……流石に不味いんじゃないの?」

 

米神を押さえながらも不敵な笑みを浮かべるストレアに、PoHの口角が下がった。

ほんのわずかな静寂の中、PoHが指を鳴らす。次の瞬間、【笑う棺桶】の構成員が一斉に武器を仕舞う。

 

「――命拾いしたな」

 

それだけ言い残すと、【笑う棺桶】の面々が闇の中へその姿を消していく。全員が消え、ストレアが《索敵》スキルを使い構成員が居なくなることを知ると、2人の元に駆け寄る。

 

「良かった、無事みたいね。ほらポーション」

 

「……ありがと。でも、どうしてここに?」

 

「ノゾミが速攻で暗号を解いたのよ。ここに来る前に【血盟騎士団】に連絡を入れたからもうすぐ……」

 

言い切る前に主街区に通じる通路からどたどたと複数の足音が聞こえてくる。それから数秒も経たずにアスナを先頭に【血盟騎士団】のプレイヤー十数人が現れた。

 

「――どうやら一足遅かったみたいね。各員は周囲の捜索を」

 

団員に指示を下したアスナはそこで未だ呆然自失のユイに視線を移す。

 

「……!ユイさん、いったい何が――」

 

恐らくアイコンを見たのだろう、思わず声を上げて尋ねそうになった所でマコトに肩を掴まれ遮られる。

 

「マコトさん?」

 

「……察してくれ。頼む」

 

短く、切に願う呟きにアスナも事の重大さを理解したらしく、それ以上の追究は控えることにした。

 

「……?」

 

「どうしたの?」

 

その時、何かに気付いたらしいマコトにアスナもつられて振り返る。だが、そこには団員だけで何も変な所は無い。

 

「……いや、なんでもない」

 

「……そう。それより早くカルマ回復クエストに行ってきて。それじゃ園内にも入れないし」

 

「……ありがとう。ユイ、行くぞ」

 

アスナから《転移結晶》を受け取り、18層の園外村へと転移する。

その後、団員達に二言三言会話を交わすと、ストレアもウィスタリア達に数日遅れるとメールを送り、アスナと共に18層の園外村へと向かった。

 

 

 

 

マコトとユイの転移先でもある18層の園外村。その宿屋で事情を聞いたアスナは、静かに息を吐いた。

 

「【笑う棺桶】がそんなことを……」

 

「ええ。おかげで《始まりの街》は不安でいっぱいよ。みんな、次は自分じゃないかと疑心暗鬼に陥ってるみたい」

 

「そう。今朝の事でウィスタリアさんに伝えようと思っていたけど、こっちもこっちで手一杯だったから」

 

「伝えたい事って?」

 

「園内事件って知ってる?」

 

「ああ。知ってる知ってるわ。どこかの誰かさんが、ボスにNPCを襲わせようって提案した日の夕方に起きたことでしょ?」

 

ストレアの皮肉にアスナは苦い顔をしつつ気を取り直して説明を始めた。

 

 

 

――園内事件。

57層主街区で起きた事件で、『園内では絶対にHPが減少しない』という常識をぶち壊した事件はストレアも覚えている。が、アスナはキリトと共にその事件を解決しているので、そこからはアスナの説明を清聴することに。一方のアスナも、細部まで説明すると今後この事件の根幹にいた3人の立場も考えてある程度細部を伏せて説明する。

事の発端は事件発生から半年前、【黄金林檎】というギルドが高スペックのアイテムを手に入れたことだ。ギルドの面々はその指輪を売るか使うかで口論になり、結局多数決で売却を決定。ギルドマスターが最前線へ向かったその夜中、睡眠PKに遭って帰らぬ人となってしまったのだ。リーダーの死を受けてギルドは解散。メンバーもバラバラになってしまった。

その後、一人はある攻略ギルドに入り、ギルドリーダーの夫だったプレイヤーは消息不明となったころ、リーダーの死に不信感を抱いた残りのメンバーが自分と同じ名前でスペルが違うプレイヤーの情報を見て、あるプレイヤーの脅迫を敢行。園内での殺人をでっち上げた。

それからもう一人も同じトリックを使い消滅し、攻略組プレイヤーを追い詰めて自白させることに成功。だが、そこに【笑う棺桶】が現れあわや皆殺しにされそうになった所を真実を知ったキリトが間一髪駆け付けたことで撤退。アスナも副リーダーを発見したところで睡眠PKの事実が発覚。アスナが彼を論破し元【黄金林檎】の3人が彼の処遇を決めると言った所で事件は完全に解決した。おかげで『園内殺人』もシステム的に不可能と言うことでプレイヤーの間から次第に忘れ去られていったという。

 

「……んで?そのギルドと今回聞きたい事と、何か関係があるの?」

 

「ええ。その時のプレイヤーが使ったのは――」

 

その時のプレイヤー、カインズとヨルコはオブジェクト消滅とプレイヤー消滅のエフェクトが良く似ていることに気付き、鎧だけを貫いて耐久値を減らし、消滅すると同時に転移結晶で離脱という、傍から見ればデュエル以外でのPKによる殺人トリックを説明した。

 

「現に、そのテンカイさんが目の前で消えたって誰も言っていないじゃない。多分だけど……」

 

「……ごめんなさい。その話はここではしないでくれるかしら?もし違っていたら、マコトを更に傷つけちゃうから」

 

アスナもストレアの言葉を理解してそれ以上は言う事は無かった。

もし、その可能性が外れていたらマコトは更に傷つき、それこそ再起不能になってしまうほどに打ちのめされるかもしれない。

目に見える事態を避けたい気持ちも、分からないでもない。

 

「それよりも、もっと重大なことがあるわ。あいつら、ハッタリかどうか知る前にすんなり立ち去ったのよ。あなた達が来る前に」

 

「え?でも、《索敵》のスキルで見つかった、って事は……」

 

「いいえ。まるであらかじめ知っていたみたいに姿を消したわ。それに2人がここに来たのも、楽譜の暗号の罠に嵌められた。つまり、あの暗号を手に入れてなおかつ解読できたってこと――」

 

「……!?それってつまり、内通者がいるって事?それも【ゴスペル・メルクリウス】と私達【血盟騎士団】の中に」

 

「流石にあの人たちのギルドの中にってのは信じたくないけど……むしろ、第1層を拠点としている全員、じゃないかな?」

 

そこまで聞いて、アスナはストレアの言葉の重大さに気が付いた。

2つのギルドに潜む内通者が【笑う棺桶】に情報を故意に流している。そう考えなければあんな罠を仕掛けることも、マコトの行動を予期して待ち伏せることも、ストレアのハッタリですんなり撤退するのも不可能なはずだ。

 

(なんてこと……!私達が必死に探しても幹部が捕らえられないのは、情報が流れていたから……!そうでなければここ1ヶ月で数人の構成員しか捕まらないのも、ちょっと強引だけど説明がつく。けど、いったい誰が……?)

 

「アスナ?」

 

「あっ……。と、とりあえず私はこれで。マコトちゃん達によろしく言っておいてね」

 

それだけ言い残してアスナは【血盟騎士団】の本部へと去って行った。

内通者の存在と言う、一抹の不安を残して。

 

 

 

 

それから数日後の早朝。カルマ回復クエストを終えたユイとマコト、ストレアを待っていたのはウィスタリアの第一声だった。

 

「お二人とも、いったいどこに行っていたんですの?」

 

「あ、ああ……ごめん。勝手に飛び出して」

 

「……」

 

「……?何かあったの?」

 

数日前と様子の違う2人にノゾミが思わず疑問を口にする。その瞬間2人は肩をビクリと震えた。

 

「……ごめんなさい。そこは聞かないでくれるかな?」

 

「そう。ならいいわ、変な事聞いてごめん」

 

「……ううん、こっちも何日も帰らなくてごめんなさい。ちょっと部屋に戻って休んでるよ」

 

気丈に振る舞っているとはいえ、その表情は暗いものが見えた。

 

「それじゃあ、私も少しばかり休んでくるね」

 

ストレアも手をひらひらさせてそういうと自室へと戻っていく。

その表情は、誰の目から見ても疲弊しているということは明らかだった。

 





次回「討伐戦の前準備」

(・大・)<討伐戦は次の次かと。

(・大・)<ただしキリト達のほうは原作と同じになりそうなのでその裏側、傘下ギルドの捕縛に回ります。
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