プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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 8/14:本文の内容を少し改修しました。



「討伐戦:前日譚」

 

 

「これより、【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】討伐作戦と、傘下ギルドの一斉検挙の作戦会議を開始する」

 

 56層にある【聖竜連合】の本部に早朝から集められた攻略組プレイヤー達が、リンドの声に応じて視線を一斉に彼の方へと向ける。これから始まるのは【笑う棺桶】と、その傘下ギルドの一斉検挙の会議。

 これまで【笑う棺桶】のアジトに関する情報が掴めず、末端プレイヤーを捕えても拠点は知らないという一点張り。そんなもどかしい状況の中、【笑う棺桶】に所属していたプレイヤーが情報を流してきたという。

 そのプレイヤーは自分のギルドの行為に耐え切れず、彼らを止めてほしいと懇願。彼から【笑う棺桶】の本拠地はデザイナーすら忘れて板であろう下層の末端にあるダンジョンの安全地帯であるという情報が送られた。

その地点に向かった時、確かに特徴と合致するプレイヤーが出入りするのを目撃し、早急に叩くべきと判断した結果今回に至ったのである。

 

 髑髏の仮面の男ザザ、黒服に頭陀袋が特徴のジョニー・ブラック、ポンチョの男の【笑う棺桶】のリーダーPoHの写真が貼られた後、更に2人のプレイヤーの写真が貼られる。

 

「更に、新たに判明した《スカーネイル》と《サムソン》の2人。彼らの情報だが、これはある下層域ギルドから情報を受け取り、【ALS】の尽力により最近判明した」

 

 説明と共に大柄の男と小柄な男の写真を貼る。

 

「《スカーネイル》は双爪使い。その相棒と目される《サムソン》は鞭の使い手だ。この2人に対しての情報は殆ど無く、未知の部分も多いので警戒を怠るな」

 

 この2人の情報はかつてノゾミ達がシリカとシズルと共に《思い出の丘》に行った際、【タイタンズハンド】を捕縛――最も、生き残ったのはロザリアのみだが――した【ALS】が彼女を尋問した時に出てきた名前だ。

 

 閑話休題。

 

 

 そして、作戦の内容は明朝寝静まっている時を狙って周囲を包囲し、無血投降を呼びかける。だが、最初からそれに応じないのはこの会議に参加したプレイヤーは知っている。故にメインは戦力を削ぎつつ捕縛になるだろうと釘を刺した。

 続けて【ALS】の作戦内容は情報屋が突き止めたギルドの居場所に場所に向かい、麻痺毒ガス入りの瓶を投げつけ強襲。動けなくなったところを一斉に確保すると言うものだ。

 両者の作戦会議の内容は以上だ。会議に参加したプレイヤーが皆表情が真剣なものになる。彼らの表情を一通り見渡したシュミットの口から「だが」といった途端、再び静寂に包まれた。

 

「もし、奴らのHPが危険域になっても続行する意思を見せてきた場合、そして、自分や仲間を道連れに殺そうとした時……その時は躊躇うな。このことは肝に銘じておくように。それでは――」

 

「一つ、よろしいでしょうか?」

 

 解散する直前、静聴していたラジラジが口を開いた。

 

「【笑う棺桶】の所在を通報したプレイヤーの件ですが、そのプレイヤーに会わせることはできますか?」

 

「え?いや、掲示板に書き込みがあったんだ。『この情報を送ろうにも攻略組は話を聞いてくれないかもしれない』とか『この情報を吐いたと知られたら殺される』とか書いてあっただけだが……」

 

「掲示板に書かれていた。それだけの曖昧な情報で突き止められたとは、妙だとは思いませんか?」

 

「なんだと?」

 

「本当に彼らの行動を悔いているのなら何故姿を見せないのか?何故明確に情報を公開できたのか?何故今の今まで無事でいられたのか?少し考えればこれらの疑問が出てきます」

 

「――何が言いたいんや、自分」

 

【ALS】ギルドリーダーのキバオウがギラリとラジラジを睨む。

 

「罠、という事です」

 

 ラジラジの返答に、部屋がざわめきだす。そんなどよめきに構わずラジラジは続ける。

 

「これだけ我々に有利な情報が届いている。それなのに情報提供をしたプレイヤーは誰も姿を見たことが無い。不明瞭な相手がである以上その情報と裏にある意図があるとすれば……【笑う棺桶】が討伐隊を返り討ちにするために考案した罠」

 

「馬鹿な!それにはこの会議の内容を奴らに伝える役割が必要不可欠!それは俺達攻略組の中に裏切り者がいると遠回しに言っているのと同じだろう!?」

 

 シュミットの反論にざわめきが一層波紋が広がるように攻略組プレイヤーに伝わる。

 

「可能性としては高いでしょう。ここまで末端の構成員のみとなると、幹部には事前に伝えられているという事でしょう」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 その時、クラインがプレイヤーをかき分けて割って入り、興奮気味に訊ねる。

 

「じゃああんたは知ってるのか?その……内通者の正体が!」

 

「……いいえ。大体、この場でその正体をバラす馬鹿がどこにいるのですか?」

 

 冷ややかな目で言われてクラインも頭が冷えたのか、ハッとした表情を晒す。

そして「良いですか?」と前置きをしたラジラジが全員に分かるように伝えた。

 

「少なくともこの場にいる全員、彼らに通じている内通者の可能性が等しく存在します」

 

「おい!これから討伐しに行くっていうのにみんなの足並みを乱すような真似は止めろ!」

 

「私はその情報提供者が信じられないと言っているのですよ。流石に殺す気満々で待ち構えている場所に自分からノコノコやってくるほど思考が死んでるとは思えませんけど」

 

「……まだ一つ残っているぞ。可能性が」

 

 リンドの鋭い指摘にラジラジを除く全員が彼を注目する。その中でリンドは、すっとラジラジを指した。

 

「【ブレイブ・フォース】が【笑う棺桶】の内通者だって可能性だ。こうして和を乱して討伐戦での連携を崩すつもりだろう?」

 

「……その可能性も、十二分にありえますね。我々も疑うのであればどうぞご勝手に」

 

「ともかく、内通者の事より今は【笑う棺桶】だ!開始は明後日!それまで準備を進めておくように!」

 

 半ば強引なリンドの怒声と共に、討伐戦作戦会議は終了した。

 

 

 

 

 午前10時。ラジラジが帰って来た時、【ブレイブ・フォース】のギルド本部前にノゾミは足を運んでいた。

 

 

「お話があります」

 

「カオリさん、あなたが連れてきたのですか?」

 

 ギルドマスター――ラジラジがほとんど表情を変えずに対応する。

 ノゾミの傍にいるカオリに目線を向け、なんとなく察した。

 

「うん。私もリーダーのこの方針にだけは、ちょっと話があると思ったよ。ノゾミがリーダーに話があるから、私も付いて来ただけさー」

 

「何故、《生命の碑》を封鎖するような真似をしてるんですか?」

 

 キッと眼を鋭くし、目の前のラジラジを睨むノゾミ。

 

「……何かと思えばそんな話ですか。言ったはずですよ、《生命の碑》に行きたければ私の許可が必要と」

 

「そもそもあの場所は封鎖する必要はないでしょ?【MTD(MMOトゥデイ)】がやってる犯罪者プレイヤーの食事供給の代役をやっているとはいえ、攻略組でも通さないなんてやり過ぎじゃないですか?」

 

「だとしても今はまだ解放する必要はありません」

 

「少しだけ確認するだけでも?」

 

「当然駄目です」

 

 互いに譲らぬ姿勢のまま、会話を進める2人。

 

「貴方の言いたい事は解ります。テンカイの死亡確認ですね?」

 

「……!」

 

 ラジラジの一言に、虚を突かれたように黙るノゾミとカオリ。そこから追い討ちと言わんばかりにラジラジが言葉を続ける。

 

「あれはあの時私自身が確認し、名前は消されていたということを証明しています。仮にマコトを落ち着かせるため、などと言いたいのであれば、なおさらあなたを通す訳には行きません」

 

「じゃあなんで確認させてくれないの?あなたが言ってるだけじゃ信憑性も何もないじゃない」

 

「確認してそれが事実だったとして、それを彼女になんて報告するのですか?閉じこもってる今でも相応に厄介だというのに、これ以上傷を抉り広げるような真似をすれば……」

 

 一瞬だけ目線をノゾミから外周へと向ける。

 その意味にノゾミは背筋を肉食獣か何かに舐められたような悪寒ると同時に脳裏に映像が浮かぶ。

 何もかもに絶望し、外周から身を投げるマコトの姿が――

 

「それでも見たいというのであれば、私を下すことです」

 

「下すって……決闘で勝てって事で良いのね?」

 

「ええ。カオリさんも言いたげでしたから、折角ですので2対1で相手になりますよ」

 

 かかって来いと手を動かすラジラジに、2人は応じるように武器を構える。

 それを見たラジラジは自ら建物の壁に背を向ける位置に移動すると、ストレージを操作して1枚の金貨を出現させる。

 

「ルールは初撃決着の変則ルールです。クリーンヒットを一撃受ければ終了。カウントダウンの代わりにこのコインが地面に落ちた瞬間が合図です」

 

言い終わった瞬間にコインを弾く。

くるくると回転しながら宙を舞うコインに目もくれず、ノゾミとカオリは初手のソードスキルを発動する為に構える。

 

「カオリちゃん。まず私が突っ込んで左に避けさせるわ。そしたら――」

 

「そこを私が狙うって事だねー。わかったさー」

 

 宙を舞ったコインが重力に従って落ちていく。

 緊張が張り詰める中、石畳にコインが落ちた瞬間――ノゾミが突進系中位ソードスキル『ディパルチャー』をラジラジ目掛け放ち突進してきた。

 

(さあ避けて見なさい……!そしたらカオリちゃんの攻撃で決着が着く……!)

 

 だが、ノゾミはその攻撃を当てようとは思っていない。元から避けさせるための攻撃。背後は壁、ノゾミから見てラジラジの右側には自分のファルシオン。残る左側にわざと逃げ道を残し、そこへ避けた所をカオリの追撃が待つ。

 即興で組んだとはいえ、ノゾミはこの連携には自信を持てた。幾ら相手が壊滅的被害を受けてもなお立ち上がり前線で攻略を続けている【ブレイブ・フォース】のリーダーだとしても、そう簡単に回避できるものではない。

 

 

 

 

 

 刹那、ノゾミの鳩尾に膝蹴りの一撃が叩き込まれる。

 

 

 

「――げふぇあッ!?」

 

 その一撃は身体に当たる直前障壁によって防がれるが、衝撃で後ろへ弾かれるように吹っ飛ばされる。

 

「――え?」

 

 カオリが呆けた声を上げた瞬間、ラジラジが地面を踏み抜き、一気にカオリへと肉薄。勢いそのままにカオリの腹に拳を叩き込んだ。当然障壁で防がれるが、衝撃で吹っ飛ばされ、後ろの壁に叩きつけられた。

 

「なっ……何が……?」

 

「馬鹿正直に真正面から突進してきたので、《疾走》と同時に突きを一発」

 

「ま、まさか……!?」

 

 起き上がるノゾミとカオリは理解が追い付いていない。だが、あっけらかんと答えるラジラジにカオリはやっと理解が追い付いた。

端的に説明すれば、高速で突進するノゾミの剣を避けつつ鳩尾目掛け、膝蹴りを叩き込んだのだ。更にそのまま膝蹴りを入れた脚で踏み込み《疾走》を発動。勢いそのままにカオリに拳を叩き込んだ、と言う事である。

 

「さて、これで終わりです。この件にはこれ以上関わり無いように」

 

「ま、待って……!」

 

「いくらやっても無駄ですよ。それとも、今度は『完全決着』で勝負しますか?」

 

「ぅ……」

 

「カオリさんも、私のこの方針には口を出さないように」

 

「……わかったさー」

 

 言葉を詰まらせたノゾミを背に、ラジラジはカオリに釘を刺して去って行く。

 残された2人――ノゾミは、ただその場で項垂れるしかなかった。

 

 

 

 

 44層の喫茶店にて。

 

 

「――なんですって?私が楽譜を?」

 

「やはり違っていたのですね」

 

 喫茶店で会話をしていたユナは、チカから知らされた出来事に息を呑んだ。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「いえ。ただ……私達の使っていた手紙でこんなことになってしまったのが信じられなくて……」

 

 目を伏せて呟くチカにユナも感化されたように俯く。

 暫くの沈黙が続いて、ユナが目の前の飲みかけの紅茶を一飲みにすると、勢いよくティーカップをソーサーに叩きつけるように置く。

 

「確かに暗号を解読したのはチカだよ。だけど、チカ自身があの楽譜を作った訳じゃ無いんでしょ?」

 

「ですが、私が解読してしまったばかりに……」

 

「だー、かー、らー!何でもかんでも自分を責め過ぎなのよ!」

 

 未だに愚痴るチカにぐいっ、と身を乗り出すユナ。席に戻ると再び口を開く。

 

「起きてしまった事を後悔してる暇があるんだったら、今自分がどうすべきかを考えるべきじゃないの?」

 

「自分が、どうすべきか……?」

 

「あの2人がどんな目に遭ったかは知らないし、平気そうって思っていても、多分心の奥底に傷跡が残っていると思うの。例えばその傷を癒す方法を考えるってのはどう?」

 

「癒す?と言っても、私は歌ったり音楽を弾いたりするくらいしか……」

 

 卑下するように言った途端、チカが「あ」と間の抜けた声を上げる。

 その顔を見たユナは確信したように笑みを浮かべると席を立つ。

 

「ユナさん」

 

 その時、店を出ようとした彼女をチカが呼び止めた。

 振り返るとそこには暗い顔をしていてもなお何かを掴んだような顔をしていた。

 

「ありがとうございました」

 

 ただそれだけ、一言だけの言葉を聞いて、ユナは改めて店を後にしよとして足を止めた。

 

「そうだ。今度会ったら一緒にライブをしましょう」

 

 

 

 

 

 

 一人、暗い部屋の中であおむけに、ベッドの上に身を投げていた。

 

「……」

 

少女、ユイは眠るという訳でもなく、虚ろな目はただただ代わり映えしない天井を見るばかり。

 

「……私、が…」

 

 手を目の前に翳す。小刻みに震える手が止まらない。

 今でも脳裏に、あの時殺したプレイヤーが消える瞬間がリピート再生されるように脳裏に再生される。

 

「私が……!」

 

 纏わりつく恐怖を振り払うように蹲る。

 だがそれでも、ユイから恐怖が消えることはない――。

 

 

 

 

「皆様。今回は出席してありがとうございます」

 

「いや、ウィスタリアさんが呼び集めたんでしょ?」

 

 【ゴスペル・メルクリウス】のリビングに集められたノゾミ、チカ、ツムギ、カオリ、シンカー、ユリエール、マヒルの7人。

 呼び出した当人、ウィスタリアは真剣な顔持ちで7人の顔を見渡すと、話を切り出した。

 

「それで、話と言うのは何ですか?」

 

「実は、【ALS】の方から依頼を受けたのです。確保用アイテムの一つである麻痺毒瓶数ダース分の注文ですわ」

 

「麻痺毒瓶って、堅い地面や壁にぶつけると麻痺毒のガスを放出するアレ?」

 

「ええ。レインさんも他数名と協力するなら可能と仰っていたので、その商談は受けましたわ」

 

 どうやら話の内容としてはアイテムの発注を受けたことらしい。

 犯罪者ギルドを捕縛する為のアイテムを用意するとはいえ、1ギルド1個では事足りないだろう。

 

「ですが、問題が一つあります」

 

「問題、と言うと?」

 

「最近園外での活動を控えていた反動で、素材アイテムのストックが不足しているのです」

 

「元々犯罪者狩りと二足のわらじで活動していた【ALS】の依頼以外で作っていなかったのですが、ここ最近の【笑う棺桶】の活動に加え、傘下ギルドの動きも活発化。犠牲者を増やさないために園外への外出を最低限にしていたのが裏目に出てしまったようです」

 

 足りないというその素材は今現在51層でしか手に入ることはできず、他のポーションの調薬にも重宝するアイテムだ。

 戦闘経験の薄い調合師プレイヤーは、戦闘経験の豊富なプレイヤーという護衛と共に採取を行っていた。

 殺人を躊躇わないプレイヤーが増えつつある中、下手に調合師プレイヤーを送る訳には行かない。

 

「そこで、調合師プレイヤーは【ALS】本部で待機。戦闘経験が豊富なプレイヤーは、最低でも3人1組で行動し、採取の後転移結晶で帰還。すぐに合流してアイテムを渡す、という方針を行います」

 

 説明の後に暫くの沈黙。

 その沈黙を破り、レインが質問を切り出した。

 

「……もし、【笑う棺桶】に遭遇したら?」

 

「その時は転移結晶で逃げの一手です。1人1つポーチから取り出して、いつでも逃げられるようにしてください」

 

「ですが、こちらもストックとして考えると……4人が限界ですね」

 

 そう言ってユリエールが4つの転移結晶を取り出す。これが今現在【ゴスペル・メルクリウス】が所有している転移結晶の全てだ。転移結晶はNPCショップで売買されておらず、フィールドボス級のモンスターからのドロップ品でしか入手できない。幸いフィールドボスは再出現するし、ドロップ率も上の層に行くほどに比例してドロップ率も上昇する。最前線の69層から先は通常のモンスターにもドロップする可能性があるだろうと言われている。

 尤も、下層のプレイヤーにとってはかなり高価なものではあることには変わりないが。

 

「2組……そのアイテムって、《採取》のスキルがどれくらいあればいいんですか?」

 

「レインさん、ツムギさん、そして調合師プレイヤーの方々なら装備品のブースト抜きでも手に入れられるのですが……」

 

「じゃあ私は確定だね。他のみんなは行きたがらないわ」

 

そう言ってレインは転移結晶の一つを手にする。

 

「私自身も参加します。事の発端は私が依頼を受けたが故。私自身も自らこの作戦に出るべきですわ」

 

 間髪入れず、ウィスタリアも結晶を手にする。残る結晶は2つ。

 

「……」

 

 残った2つの転移結晶を前に沈黙するノゾミ、チカ、ツムギの3人。

 

「……わ、私も《採取》スキルはそれなりに高いです。だったら私も行くべきです」

 

「ツムギ……」

 

 若干声色が上ずったツムギも結晶に手を伸ばす。しかし、途中まで伸ばしたところで腕がそれ以上動かない。

 

「わ、私が……私が……」

 

 震える手で伸ばそうとしているのに動かない。

 その時、ツムギのすぐ隣から細い腕が伸びて結晶を2つ取った。

 

「えっ?」

 

「なるほど。確かに非戦闘プレイヤーには荷が重いわね」

 

 その相手、ストレアは納得したように結晶を見ながらそう言うのだった。

 

「ストレアさん!?寝たきりだって聞いたけど、もう大丈夫なの?」

 

「うん、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」

 

「あ、あの!」

 

 一言ノゾミに謝った時、不意にチカが勢い良く立ち上がって声を上げた。

 

「チカ?」

 

「私も……私も参加させてください!」

 

「えっ!?」

 

 いきなり言い出したチカの言葉に、ノゾミは素っ頓狂な声を上げる。声は出さずとも、ウィスタリア達も驚きを露わにしている。

 それに対し、唯一驚かなかったストレアは、何時になく真剣な眼差しをチカに向けて訊ねる。

 

「本気?そう高くは無いけど、PKと鉢合わせる可能性もあるんだよ?」

 

「分かっています。ですが、カオリさんでは《採取》レベルは低すぎるし、ツムギさんは恐れて万が一の事態に対処できないかもしれない。それに、ノゾミさんはこの街の人々にとってなくてはならない存在となっています。だから、私がレインさんの護衛に適していると思ったのです」

 

そこまで言って、更にチカは「それに……」と続ける。

 

「自分がこれからどうするべきか。その一つとして今回の作戦に志願しました」

 

 ただまっすぐに、ストレアを見据えながら言い放った。

 沈黙が走る。

 数秒後、ストレアは手にした【転移結晶】の1つをチカに渡した

 

「あっ……」

 

「これで全員に行き届きましたわ。皆さん、明日の捕縛作戦には細心の注意を払ってください」

 

 ウィスタリアのその一言で会議は締めくくられた。

 しかし、ノゾミもツムギも、本当にこれで良かったのかと言う疑問で顔を曇らせたままだった――。

 

 

 

 

 その夜。《始まりの街》。転移門広場。

 

 明日の為にと誰もが寝静まった中。ケープを纏ったプレイヤーが転移門を訪れていた。

 

「……」

 

 そのプレイヤー、マコトは転移する前に一度振り返る。

 

(……みんな。今まで世話ンなった。最初は二度と現実に帰れないんじゃないかって不安だったけど……お前らと出会って、色々な事を考えたり……レベリングに出たり……色んな主街区や園内村に行って作った飯を売ったり……今まで過ごした時間は、凄く楽しかったよ。それから――。ごめん、ユイ……あたし、もう二度と帰ってこれないかもしれない……)

 

【ゴスペル・メルクリウス】への感謝と、少しだけユイへの謝罪を心の中で呟くと、転移門に触れる。

 

「――転移……――」

 

 一言だけ呟いて、その姿が転移の光に包まれていき、転移されていった。

 





次回「討伐戦のその裏で:1」


(・大・)<いよいよラフコフ討伐戦です。

(・大・)<一応3編に纏めようと思っているのですが、長くなりそうなんで次回予告は前編とかじゃなくてこういう風にしました。
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