プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
(・大・)<(原作で)ラフコフ討伐戦開始になります。
2/25第3部の開始に伴いプレシアの喋り口調が部分的にとはいえ判明したので書き直しました。
「よぉーっし、全員集まったみたいやな」
44層の【ALS】本部前。
【ALS】、【ブレイブ・フォース】、【血盟騎士団】に所属プレイヤーと依頼を受けたウィスタリアとチカ、カオリとシズルとユナ等を含めた有志の攻略組プレイヤー達が集まっていた。その数はざっと数えて50人弱といった所だろう。
「これより作戦の内容を再確認するで。これから6人パーティ3隊に分け、情報屋から得た【笑う棺桶】の傘下ギルドを強襲。本隊のように定期的な集会はあらへんから、ギルドにおるところで連中にこの麻痺毒瓶を浴びせて行動不能にした後、監獄に設定した【回廊結晶】で奴らを送り付ける。ええな?」
「因みに、志願者はここにいる調合師達ともパーティを組んでもらう。調合師達はここに待機し、合図のメールの後トレードにより実働隊に麻痺毒瓶を送る。実働隊は麻痺毒瓶を受け取り次第、直ちに行動に移るように!」
それぞれが班分けされ、ウィスタリアとチカにストレア、カオリとシズル、ノーチラスとユナの4人はそれぞれ同じグループに分けられたようだ。
「それと、念のために有志の連中は比較的危険度の低いギルドを担当してもらうで。あとのその他細かな指示は同行する攻略組のメンバーが行う。各班は我々の指示に従うように。ほな出動!」
グループ分けが済んだところで発破をかけた一声を合図に、各メンバーは参加ギルド捕縛の為に動き出す。
†
その日、目を覚ましたノゾミはウィスタリアを始めとした【ゴスペル・メルクリウス】のギルドメンバーが数人いないことに気付く。
「とうとう……始まっちゃったんだね……」
その日は【
本隊への攻撃は明朝夜明け前。それに対し傘下ギルドへの襲撃はそれから2時間後。遅くとも午前3時から4時の辺り行われている。
今は午前9時。既に出発しているだろう。
「おはようございます」
「今日は随分と早起きだったんだね」
リビングに出ると、そこのキッチンではすでにユースとティアナが朝食の準備をしていた。
「おはようございます。3人とも早いね」
「なに、今の私達にはこれくらいしかできないからね」
沈んだ表情になるユース。それを察したのか、ノゾミもそれ以上言う事は無く朝食の準備を手伝った。
3人でてきぱきと進んでいき朝食を作り終えた頃、ノゾミが不意に呟いた。
「……本当に、大丈夫かな……?」
「大丈夫だ。彼女らならきっと――」
「いえ、そこじゃないんです。昨日の事で……」
「昨日の事?」
ティアナの疑問を交えた返答に、ノゾミは静かに頷いた。
「……ウィスタリアさん達だって、できれば園内で大人しく討伐戦の成功を祈っていれば良いと思っているはずです。なのにどうして……」
ノゾミが口にするのはあの時、転移結晶を手に取らなかったことに対しての後悔。
ぎゅっとスカートの裾を握り、絞り出すように呟く声に、途轍もない後悔を抱いていることがノゾミには嫌でも理解できた。
死への恐怖と使命。板挟みになった中で恐怖を抗えず手を伸ばすことができなかった事に対して、今更になってどっと押し寄せてくる後悔。
「……君の判断は、私には間違っていないと思うよ」
俯くノゾミに対し、ユースが優しく頭を撫でるように声を掛けた。
「確かに、彼らの非道は誰かが止めなければならない。それも一様は事実ではある。だが、ことが終わった時に彼らを迎え入れてあげることも、また大事な役割だ」
「迎え入れる……?」
「そう。それはこのゲームの中にいるすべてのプレイヤーに対して言えることだ。全員で向かい、全員が傷ついてしまった時に、誰が彼らを励ます?誰が慰める?」
「……」
「確かに君は、自分の中にある死への恐怖に負けたかもしれない。けど、同時に傷ついた誰かを癒す為の行動を託されたと、私は思うのだがね?」
その言葉にノゾミはハッとした表情になる。
月に2度のライブは、今ではおなじみとなったものの、ファンの間では人気のイベントだ。
だが、当初はそうでも無かった。すべてが始まったあの日、自殺をさせまいと行ったライブでも、子供たちを除けば純粋にライブを楽しめたことは――彼らの傷を癒す事はできなかった。その証拠に、ライブを終えた後の自殺者も出たことを聞いた時、胸の内にぽっかり風穴を開けられたような虚無感に襲われた。
――これじゃあ、まるで意味が無いじゃない。
――自分がしてきたことは何だったの?
それから虚無感に襲われる日々が続き、ついには歌えなくなるほどにまでになってしまったのだ。
そんな日が続いたある日、ノゾミはふとベランダ状になっている高台へと足を運んでいた。そこから見る夕焼けの景色を見て、ノゾミは幼い日を思い出した。
かつて椿ヶ丘で両親とはぐれてしまった。心細さに泣いていると、アイドル――もといアイドルの卵ではあるが――の3人組の練習風景を目撃した。テレビの中でしか見たことの無い当時のノゾミにとっては、3人のその練習風景は心に強く刻まれるほどの刺激だった。いつの間にか不安も涙も消し飛び、夢中で彼女らを応援していた。
そこから
原点へと立ち返ったと同時に第1層の攻略が完了したという知らせを受け、残ったプレイヤー達は歓喜に包まれた。その中の一人だったノゾミに、ある可能性が浮かびあがった。
――助かるかもしれない。クリアできるかもしれない。
ノゾミはそれからレベリングの傍ら、園外で少しずつ歌やダンスの練習をしていき、録音結晶の存在を知って《演奏》スキルを持ったプレイヤーの協力の元、様々な音楽を録音した結晶を使い、ライブを盛況させるのに一役買うこととなった。
「……私、ユイちゃんを起こしに行ってきます」
ユースの言葉を聞いたノゾミは、早速ユイの部屋に足を運ぶ。その顔は、先程の落ち込んでいた空気が嘘のように晴れていた。
†
「ユイちゃん、良いかな?」
「……何?」
「少し良いかな。部屋に入っていい?」
ユイの部屋の前を訪れたノゾミ。しかし、当の本人は声を返すだけでこちらに応じる様子は無い。
が、次の瞬間ノゾミは強引に扉を開けて部屋に入る。
「ちょっ……!?」
「ごめんごめん。返事が無かったから」
いきなり入って来たノゾミに驚くユイだったが、ノゾミは気にせずユイのベッドに腰掛ける。
「……」
「どうしたの?なんか暗いけど?」
「……ううん。なんでもないよ」
「いや、明らかに無理を通してますって顔してるよ?」
ユイは朗らかな笑顔を浮かべたが、明らかに表情を無理矢理動かしたかのような不自然さにノゾミは声を上げた。
この間からずっとこんな調子だ。事情を聞いても「なんでもない」の一点張り。だが時折部屋の外に出るユイや真琴の表情からは辛さを感じ取れるような沈んだ顔になる。
「……~♪~♪~♪」
「……え?」
沈黙が続く中、沈黙を破ったのはノゾミの歌だった。
ギルド発足の為に奔走していたあの時のように、【録音結晶】も何もない、シンプルなボーカルだけの歌だ。
突然始まったミニゲリラライブにユイは呆然とノゾミを見ていた。
「――……どうだった?」
「えっ?あ、うん。びっくりしちゃった。普段仕事に集中したいからって聞き流していて良く聞いてなかったけど、凄く上達したよ」
歌い終わった後の感想でユイはそう言い、拍手を送る。
「……ユイちゃん。あの日、あなたとマコトちゃんに何が起きたのかは今はまだ聞かないでおくよ。心の準備とか、そういうのとかも必要だと思うから。だけど、その時は多分必ずやってくる。もしその時が来たら、ちゃんと私達の事を思い出してほしいの。【ゴスペル・メルクリウス】っていう、私達にとって最高のギルドのみんなを」
「……うん。ありがとう、ノゾミちゃん」
「私はその顔を見れただけでも十分だわ」
久々に少しだけ明るくなったユイの顔を見て満足げな顔をするノゾミ。
「よし、じゃあ次はマコトちゃんの番ね」
そそくさとユイと共に隣の部屋に行ってノックする。だが、返事はない。
「……?ユイちゃんみたいに引きこもってるのかな?」
「マコトちゃん?聞こえる?私だよ、ユイだよ。ドアを開けてくれるかな?」
ユイもノックをするが、返事はない。
「マコトちゃん?まだ寝てるの?――!?」
扉を開けた途端、ユイは目を瞠った。
部屋の中にその主たるマコトの姿は――影も形も無くなっていた。
「嘘……っ!?どういうことなの!?」
「ユイちゃん、どうし――なにこれ!?」
「分からないよ!わたしもつい来たばかりで……!とにかく、《追跡》を使ってみる!」
すぐさまスキルを使いマコトの居場所を探る。が、次の瞬間『《追跡》に失敗しました』と表示されたウィンドウだった。
「え?なんで?」
「まさか、ダンジョンの中にいるって事?でも、朝っぱらから誰にも言わないなんて……」
《追跡》を行う場合、相手の現在地がダンジョン内にいる場合は追跡が失敗するシステムだ。
だが、当てもないのにいきなりダンジョンに、それも単身で飛び出すだろうか?そんなことを考えているノゾミに対し、思い当たる節があるかのようにユイが震える唇で呟いた。
「……まさか」
「どうしたの?心当たりに何かあるの?」
「あの時、マコトちゃん真剣な目で【血盟騎士団】の人達を見てたの。ひょっとしたらマコトちゃん、テンカイさんの仇を討つために……」
そこまで聞いていたノゾミの顔から、さぁっと血の気が引いた。
「……!?それって、【血盟騎士団】に【笑う棺桶】のメンバーが紛れてるって事じゃない!?」
それが本当なら、マコトはそのプレイヤーを殺しに行ったに違いない。だが相手は攻略組兼プレイヤーキラー。十中八九返り討ちに遭って殺される。
「私、ウィスタリアさんに知らせてくる!ユイちゃんは【血盟騎士団】の所に!」
「う、うん!」
マコトの部屋から弾かれるように飛び出した2人。彼女の死と言う、最悪の結末にならないよう胸中で必死に祈りながら。
†
マコト失踪から1時間。51層のとある森林エリア。
ウィスタリア、ストレア、チカ、レインの4人はこのエリアでしか取れない素材アイテムの調達に来ていた。
「レインが言ってた素材、これだけあれば十分かな?」
「案外取れてたのが不幸中の幸いでした。あとは主街区で待ってる調合師の皆さんにトレードで渡せば終わりですね」
幸い、【笑う棺桶】に遭遇することは無く目的のエリアに辿り着き、戦闘経験豊富なストレアとチカが居たので邪魔なモンスターを掃討。ゆっくり採取に専念できたおかげで当初の目的である素材アイテムの収集は思いの外楽に済んだ。あとはこのアイテムを調合師たちの元に送れば仕事は一旦終わりだ。
「トレードも終わったわ。みんな、転移結晶は持ってるわね?」
「はい」
「こっちも大丈夫よ」
「ウィスタリアさん、こっちは準備OKみたい。そろそろ――」
ウィスタリアに報告しようと振り返った時、当人の姿は影も形も無くなっていた。
「――あれ?」
「ちょっと待って!?あの人何処に消えたのよ!?」
まさかと思い、フレンドリストを見てみると、死亡及び登録解除の証であるグレーにはなっていない。つまりまだ生きている証拠だ。が、改めて《追跡》を行うと、目を疑う場所に光点を発見する。
「ここから真逆の位置じゃない!?」
「はぁ!?採取に夢中になったって言っても無理あるでしょ!?どうやったらそこまで迷うのさ!?」
「とにかく、一人だと危険です!早く助けに行かないと!」
まるで弾かれたように駆け出す3人。
その道中、最も【ゴスペル・メルクリウス】に長く所属していたレインは心の中で「そういやあの人、《始まりの街》でもよく迷子になってたなぁ……」とぼやく。同時に「先に言っておけば良かったかなぁ……」と後悔もした。
†
「……3人とも、どこに行ったんですの?」
一方、ウィスタリアは一人目的地のエリアとは真逆の方角――西側の森林エリアを一人彷徨っていた。
行きは他の3人の案内で目的地に着いたが、採取の時に見当違いのアイテムを採取してしまい、ここには無いのか、もう採り尽くされてしまったのか、と勘違いしてしまい、次第に3人から離れていき――いつの間にかこうなってしまったのだ。
「早く合流しなければ……。迷子になった所を襲われでもしたらシャレになりませんわよ?」
自身が迷子であるにも関わらず3人の安否に不安が募る。
兎に角行動しなければとエリアの中を彷徨い歩く。
「あの、ひとつ良いかな?」
転移結晶を使おうかと迷っていると、背後からの声に振り返る。
声を掛けた相手は自分より歳が1つ2つ低いと思われる少女だった。カーソルへ視線を移すと緑のカーソルが示されている。
「あら、どうかしまして?」
「えと……すまない。北の森に狩りに行く途中であなたが一人でいたのを見かけたんだ。ソロで挑むにしたら」
「まあ。私も麻痺毒瓶を作る素材を求めていたら、いつの間にか仲間がはぐれてしまいましたのよ」
男口調で喋る相手に目を丸くしながらも、ウィスタリアも自身の現状を話す。
その話を聞いた途端、少女は「えっ?」と意外そうな声を漏らしたが気付かない。
「それで、君は何故こんな所に?ここは碌なアイテムが出ない場所で有名なんだが?」
「まあ、そうでしたの!?アイテムを求めていたのに中々でないから妙だと思いましたわ。でしたら、貴女とお仲間も一緒にどうです?」
「……いや、遠慮しとくよ。仲間が探してるなら《追跡》を使ってると思うし、しばらく近くの安全な場所で待っていれば来るだろう。それじゃ」
そそくさとその場を立ち去る少女。
その後ろ姿を見ていたウィスタリアは首を傾げていたが、直後に彼女にメールが届く。
「ティアナさん?何事ですの――なんですって!?」
その内容――マコトの失踪の報告を受けてウィスタリアは目を疑った。
ここに残るか、それともマコトを探しに行くか――メールを見た彼女の答えは、一つしかなかった。
「――よし!」
すぐさまマコト捜索へと頭を切り替えて駆け出すウィスタリア。が、向かった先は先程の少女とほとんど同じ方角だった――。
†
「はっ…、はっ…、はっ……」
49層の樹海エリアで、ツムギは一人は知っていた。
理由は至極簡単。彼女の後ろからモンスターが追っているからだ。
(ヤバいヤバいヤバい!無理をして狙い目のモンスターを倒したら余計なモンスターにまで狙われた!)
相手はツムギが自身の依頼で何度も倒したモンスターだ。だが少なくとも、こういう相手はノゾミやストレアとパーティを組んでいたからこその相手。ソロでは手に負えない。
「――きゃっ!」
追いかけっこの途中、躓いて転んでしまう。次の瞬間にツムギを追っていたモンスターが強烈な突進をぶちかます。
「――うぐぁ!」
宙を舞い、地面に叩きつけられる。一気にHPが危険域にまで減っていく。
やっとの思いで起き上がるが、目の前にモンスターが迫る。ずさり、ずさりと足で地面を掻く。
「ひっ……!」
狙い澄ました様に自分を見据えるモンスター。それに対し、ツムギは直面する自分の死に身体が思うように動かせない。
「い、いやッ!来ないで!来ないでぇッ!!!」
パニックに陥り、傍にある石やアイテムを投げつける。しかし、そんなことをしても逆に相手を逆上させる事でしかない。
「――ゴアアアアァァァッ!!!」
「いやあああああああああああああああッ!!!!!!」
雄叫びと共に突っ込むモンスター。確実に迫る死にツムギの悲鳴が森の中で響く。
――その時だった。
「クアアアアッ!!」
どこからか飛来した水色の小さな竜が、モンスターの顔面に張り付いた。
いきなり視界を封じられたモンスターは小竜を振りほどこうと頭を振り、突進がブレてツムギの真横すれすれの位置を通り抜ける。そして、勢いそのままに樹木に顔面から激突した。
「――せぇい!」
ふらつくモンスターへの追い討ちに、メイスの打撃が叩き込まれる。十字を切るように1撃、2撃と繰り返し、3撃目で踏ん張りを生かした打ち上げ打撃でモンスターを吹っ飛ばす。片手戦棍の上位ソードスキル《コンソレーション》だ。
「――シリカ!」
「はいっ!」
2人の少女の掛け合いが聞こえると、メイスのプレイヤーの物とは異なるプレイヤーが駆け出した。手にした短剣は光を放ち、まるで矢のように跳んでモンスターの腹を貫いた。
モンスターがポリゴンとなって消失すると、ポーションを差し出す。
「ほら、大丈夫?」
「あ……ありがとう、ございました……リズさん、シリカさん」
未だに助かった事実と殺されかけた事実で腰が抜けたまま、ツムギはポーションを受け取って嚥下。次第に増えていくHPを見て安堵しつつ、助けてくれた相手――リズベットとシリカに礼を言うのだった。
†
命からがら生き延びたツムギが聞いた所によると、リズベットとシリカがここに来たのは、シリカのレベリングの為だったらしい。シリカとはあの事件の後、いつものようにピナと共にレベリングに勤しんでいる中で素材収集途中のリズベットとばったり会い、そのまま意気投合したらしい。
HPが回復しきった所で一息ついたツムギは昨日の出来事を打ち明けた。
「――……なるほどねぇ。その計画に参加したかったけど、怖気づいちゃったって事」
「それは……言われると、否定はできませんね。ウィスタリアさんも怖いはずなのに、どうして……?」
「だけど、ストレアさんはツムギさん達に無茶をさせない為だと思いますよ?」
「え?」
「多分なんですけど、攻略組としての矜持だとか、そういうのに関係なく危険な目に遭わせたくないって思ったんじゃないでしょうか?」
「確かにね。人を殺しかねない、逆に殺されかねない状況になりかねない所に行きたくない奴を放り込もうとは考えたくないわ。そういう点に関してはウィスタリアは良いギルドマスターよね」
リズベットとシリカの率直な感想をツムギは口をはさむことなく聞いていた。
「あたしも初心者時代にある友達がいてね。莫大な鉱石を手に入れたことに相談してきたのよ。その時に言ってやったわ。『このゲームは生き残ることが最優先。次にゲームをクリアすることなんだから使えるものは何でも利用しなさい』って。その事でアイツも吹っ切れたらしくてね、今じゃ攻略組のタンクを任されてるわ」
「そうだったんですか」
「ウィスタリア達も、自分達が生き延びることを優先して《始まりの街》に残った人達も生き残る方法を考えて行動してるんでしょ?考えてることは一緒じゃない。だからこそ、その選択が間違いがだったってあたしは思わないわ。だからツムギも、アイツや街に残ってる人の為にもアンタも頑張んなさいよ?」
見かねたリズベットは頭を掻きながら立ち上がり、ビシッとツムギを指して言い放つ。
そんな姿に口をぽかんと開けたまま固まっていたツムギだったが、やがてクスリと笑いだす。
「ありがとうございます。おかげでなんか、吹っ切れた気がしました」
「そりゃどうも」
皮肉めいた笑顔でわざとらしく肩を竦めた時だった。
ツムギの目の前に突如ウィンドウが現れる。
「どうしたの?」
「一斉メールみたいですね。相手は……ティアナさん?――ハァ!?」
内容を見た途端、思わず声を上げる。
いきなりの声に一瞬カタを震わせたシリカが訊ねる。
「ど、どうかしたんですか?」
「ウィスタリアさんが遭難したらしいんです。場所は……51層。ここよりも上です」
「遭難って……雪山や樹海ならまだしも、あそこって北側以外そう深くないんでしょ?どうやったらそんなところで遭難するのよ?」
「とにかく、ウィスタリアさんのところに行かないと!」
「待って!」
すかさずウィスタリアの元に行こうかとした瞬間、シリカが呼び止める。
「あたし達も行きますよ!」
「え?でもあそこ、私達のレベルより上のモンスターが出ますよ?」
「すぐに駆けつけるようなことみたいですし、探すんだったら《索敵》を持ってる人が一人くらいいればぐっと楽になりますよ。あたし、そのスキルを中心に上げてるんです。今じゃ大抵のモンスターの気配も察知できます!」
「あたしも行くわ。こうなった以上、乗り掛かった舟って奴よ」
「……ありがとうございます!」
一言礼を言ってツムギは51層へ向かう。次いでリズベットとシリカも彼女の後を追うのだった。
†
「場所からすると……ここみたいだね」
一方、ウィスタリアと別れた女性プレイヤー、ルクスはギルドメンバーと共に北の森を訪れた。
「それにしても、さっきの一般プレイヤーに会った時は生きた心地がしなかったよ。咄嗟とはいえ彼女の《索敵》の熟練度が低くて助かった」
「ひとりでこうどうするのはきけん。しんぱいした」
「すまないプレシア。流石に彼女たちと一緒にいる所を見られたらまずいと思ってね」
ルクスと呼ばれた少女に別の女性プレイヤー、プレシアがロングウェーブの金髪を揺らしながら注意する。
「おーい、どこだー?」
「どう、グウェン?」
「……ダメだ、さっぱり返事も無い。回復アイテムを本拠地に残してここに来いって言ったのアイツらなのに、何やってんだか……」
そこに金髪ツインテールの少女、グウェンが頭を振りながらぼやく。ルクスも彼女の言う『アイツら』からの指示に疑問符を浮かべながらも、大人しく『アイツら』の来る時を待っていた。
――シャッ!
「うっ!?」「きゃっ!?」「づぁッ!?」
その時、何か鋭いものが彼女らの頬や腕など、露出した個所を掠める。何事かと疑問に思った一行だが、ステータスを見てすぐに顔を蒼くした。
「――出血毒!?」
【出血】。刃物などに肌を斬られた際に起こる傷痍系状態異常の一つで、受けると傷口の損傷度合いに応じて時間経過でダメージを受ける。軽度なものなら数分で塞がり大したダメージも受けない。が、重症レベルでは傷口を塞がない限り【ダメージ毒】よりもダメージ蓄積量が多くなる上に、腕や脚に負った場合、器用さ、俊敏性、筋力に悪影響を及ぼしてしまう。ある種、【麻痺】に次ぐ厄介な状態異常だ。また、【出血毒】は【毒】の一種であり、出血判定を出した傷跡の出血を促しダメージを増加し、更に時間経過による自然回復を阻害する効果がある。僅かな傷でも毒が強力なら致命傷になりかねない。
しかし、【出血毒】の状態異常を与えるモンスターはこの層には存在しない。その証拠に、地面や木の幹に投擲用の短剣が突き刺さっている。
「な、なんでこんなのが……!?」
「いやぁ、来てくれてよかった」
訳が分からずパニックになる中、一人の男が安堵したように言いながらやってくる。
「……サムソン……!?」
ボロマントに身を包んだその2メートル級の体躯の男が現れる。
白髪交じりの40代近い男性だ。その表情はまるで孫を見守る祖父のように穏やかだが、その目から感じる狂気にグウェン達は身体を硬直させる。
腕には包帯が巻かれ、更に右腕には黒く鈍い光を放つ鎖が巻き付きついている。
「お前、どういうつもりだ……!?」
流血エフェクトを流し続けながら、驚愕に染まった表情でグウェンが訊ねる。
それに対し、サムソンはさも当たり前のように返す。
「どういうつもり?決まっている。君らの《救済》だよ」
「救済?救済だって!?――何を言ってるのッ!!」
その返答にグウェンが叫ぶ。
「何が救済だ!そんなの、アンタらが行う殺人に対しての免罪符として扇動してるだけじゃない!!」
「なら君らに質問だ。君らの行ってきた犯罪も、免罪符に甘んじた行為故ではなかったのか?――犯罪ギルド【
その一言にグウェン達一行――【邪な蝙蝠】のギルドメンバーは押し黙る。
「そこで、だ。実はジョニー君から提案があってね」
怒号を物ともせず、穏やかな態度を崩さないスカーネイルはポーチからアイテムを取り出した。
緑色の液体が入った手のひらサイズの瓶――【解毒ポーション】だ。
「ここに1つの【解毒ポーション】がある。君達には簡単なゲームをしてもらうんだ」
「ゲーム……?」
「なに、簡単だ。今から君達で――」
「最後の一人になるまで殺し合ってもらう」
次回「討伐戦のその裏で:2」
(・大・)<次はノーチラス側になります。