プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(・大・)<ようやく……。漸くバトルシーンラフコフ討伐戦終盤です。

(・大・)<バトルシーンはここまでです。結構苦労した……。


「討伐戦のその裏で:4」

 

 

その頃、別の階層にて。

 

「――!カオリ」

 

リーテンとオコタンのグループで活動しているカオリ以下4名のグループ。丁度犯罪者ギルドを捕らえた所で、【回廊結晶】を使って連行するところだ。

 

「どうしたさー?」

 

「GOサインが出た」

 

「――!2人とも、ちょっと来て!」

 

ただ一言、それを聞いたカオリは残る2人を呼び集める。集まったギルドメンバーに二言三言言葉を交わすと、踵を返して主街区へと走って行く。

 

「……?おい、お前達どこに行く?」

 

「ちょっとした野暮用で、5層に降りるさー!」

 

「5層に?あそこに傘下ギルドは無いはずですよ!」

 

「私達のリーダーから、黒幕の確保に向かえって命令があったさー!そっちはお願い!」

 

止めようとするオコタン達を振り切り、5層を目指すべくその場を後にするのだった。

 

 

 

 

第1層《始まりの街》【白鳥の抱擁】本部。

 

 

「……誰もいない、か……」

 

「ノーチラス君、いったいどうしたんだ?」

 

「危ないから下がってくれ」

 

困惑するユースを他所に【ブレイブ・フォース】の面々を伴って【白鳥の抱擁】のギルドハウスに突入したノーチラス。こちらも状況はカオリたちと同様もぬけの殻だった。

 

(……【白鳥の抱擁】のギルドメンバーは、推定60人弱。あれだけの数を今から避難させたっていうのか?いや、時間や状況からしてあり得ないはず。事前に情報が流されていたのか?)

 

「ノーチラス、どうする?」

 

「……ここにいても仕方ない。ラジラジさんに連絡を」

 

やむを得ず、ノーチラスは現状報告のメールを送る。

 

 

 

 

同刻、51層の森エリア。

 

 

「むぅん!」

 

サムソンの鎖が擦れる音を上げ、鉄球が空を裂いて迫る。

 

「くっ!」

 

標的となったチカは盾で防ぐ――否、正面から受け止めず、盾をずらして攻撃を受け流すことで防ぐ。

 

「たあああッ!!」

 

その隙にウィスタリアが迫る。

 

「甘いな」

 

伸ばした鎖を横に振るう。生きた蛇のように左右にうねり、ウィスタリアを阻む。そしてぐい、と引っ張られた鉄球がウィスタリアの背後から迫る。

 

「ウィスタリア、後ろッ!」

 

「――きゃっ!」

 

寸での所でストレアの呼び声で気付いた鉄球に体勢を崩しかけ、踏み止まった所に鉄球が襲い掛かる。それを首を傾けて回避し、背後の岩に直撃。紫色の破壊不能を告げるウィンドウが表示された。

 

「ウィスタリア!――っと!」

 

振り向きざまに叫んだストレアに【笑う棺桶】のメンバーが襲い掛かるも、大剣で軽々といなす。

 

「……忌々しいことこの上ありませんわね。下手に近づくことさえできないとは……!」

 

「《鉄球術》……単なるごり押しタイプかと思ってたけど、むしろ《鞭》や《連接棍》系スキルみたいなものに圧倒的な重量の鉄球を加えたことによる、遠心力を伴った破壊力が付与ようなものかしら?」

 

「良く分かってるじゃないか。このスキルは確かにスキルに《両手連接棍》と《鞭》の複合スキルだ。しかし、それだけでは手に入れられられないのだよ」

 

余裕な態度を崩さず、説明を続ける。

 

「あら。スキルを説明してくれるとは随分と余裕ですのね?」

 

「知らないまま殺されてしまっては不公平だろう?――さて続きだ。このスキルはその2つの武器スキルを最大まで上げ、膨大なSTRを必要とする扉を開ける事。これがこの超EXスキル《鉄球術》の解放条件だ」

 

「あら?意外と簡単ですのね?」

 

サムソンの説明にウィスタリアが意外そうに声を上げる。

それもそうだ。ノゾミの場合は可能な限りの被弾及び完全アイテム縛りでのボス討伐。シズルは無数にも思えるモンスターの大群から規定時間生き残る。それに比べれば彼の条件は聊か簡単すぎる。

 

「最も、達成しなければ一生閉じ込められてしまうのだがね」

 

やはりそううまい話では無かった。失敗はそのまま永遠に閉じ込められ、脱出にはクリアを待つか自ら命を絶つしかないというえげつないクエストである。

 

「……ついでに聞くけど、あなたのSTRってどれくらいあるの?」

 

「ん?そうさな……700を超えた辺りから覚えてないな」

 

思い出す様に返って来た返答にウィスタリア達は絶句した。

リズベットから聞いた話、自身の最高傑作である《ダークリパルサー》でも要求STRは300はあったらしい。それを軽く倍以上上回る数値と言うことは、もし直撃でもしたら致命傷は免れない。

 

(ガードをしてもHPが2割近く削られるとなると、スキル込みの攻撃なら、攻略組の壁役でもほぼ即死は免れませんわね……)

 

両手剣を構えなおし、サムソンを見据えるウィスタリア。

 

「来ないなら……こっちから行かせてもらおうか」

 

鉄球の付いている鎖を引き戻して鎖を腕に巻き付け、まるでハンドボールやドッジボールのように鉄球を掴み、直接殴りかからんとウィスタリアに迫る。

咄嗟に両手剣を構えて防御する。

ガキン、ガキィンと音を立てつつ、盾代わりの両手剣で的確に鉄球を受け止める。が、それでもじわじわとHPが削れていく。

 

「鉄球を近接武器みたいに!?」

 

チカが驚く中でサムソンが鉄球を離して鎖を振り回し、側頭部目掛け攻撃は伏せて避ける。

 

「ふっ!」

 

「!――チカ、お願いッ!!」

 

その遠心力を殺さず、真上からルクスたちを狙った攻撃は、咄嗟に声を上げたストレアが指示を出し、チカが割り入って鉄球を盾で防ぐ。

 

「――うぐぅ……っ!!――このっ!!」

 

真上からの攻撃を盾を着けた腕と槍を地面に刺して空いた片手で、バレーのトスのような構え直撃し、腕がひしゃげるような衝撃が襲う。

それでも何とか中層プレイヤーの最低限のVITと、防御技術で自分の正面の足元に受け流した。

 

「くっ……!一撃一撃が重すぎる……!」

 

小刻みに震えている手が先程の鉄球の威力を物語っていた。

 

(受ける度に骨が軋むみたい……!このまま受け続けたら、HPが尽きる前に腕が折れる……!)

 

「おや?奥の彼女は随分疲れているみたいだね」

 

「あら。殺す相手の心配とは、随分と親切ですわね?」

 

「殺す相手とて、礼儀をわきまえるのは私の主義でね。そして、余計な苦痛を与えないというのも、私の主義なのだよ!!」

 

そう言った瞬間、鉄球に光が灯る。ソードスキルの発動に警戒して引き締めるウィスタリア。

次の瞬間、鉄球が野球のナックルボールの要領で放たれる。咄嗟に剣を盾にしたウィスタリアの横を抜け、チカに迫る。

 

「……ぅ……うあああぁぁッ!!!」

 

腕が悲鳴を上げているという中での追い討ちにも果敢に鉄球を防御。だが、その一撃は今までで最も重く、チカを吹っ飛ばして木に激突する。

 

「――ッ!?」

 

倒れた所に【笑う棺桶】のメンバーが逃がさないようにチカの腹を踏みつける。

 

「チカ――ッ!?」

 

ストレアが駆け付けようとした途端、背後から別の【笑う棺桶】のメンバーに羽交い絞めされる。その正面には別のメンバーが剣を手にゆっくりと迫ってくる。

 

「チカさん!ストレアさん!」

 

「叫んでいる暇は……ない!!」

 

ウィスタリアが叫ぶ間にサムソンが再びソードスキルを発動。真上へと鉄球を放り投げる。大げさすぎるが、おそらく《ジェット・アンプリファイア》だろう。鉄球が繋がれた鎖に操られ、勢いと落下速度を増して標的へと迫る。

その標的は【邪な蝙蝠(バッティ・バット)】の生き残りの3人の一人、ルクスの頭上から鉄球が迫る。

 

「ククッ、さあどうするかねウィスタリア!」

 

振り上げた鉄球を目で追い、そして背後を見て戦慄する。

このまま鉄球が落ちれば真下のルクス達は確実に死ぬ。動けないチカとストレアも、このままでは殺される。

気付けばウィスタリアは選択を迫られていた。

ルクス達を見捨ててチカ達を助けるか。

チカ達を見捨ててルクス達を助けるか。

両方をを見捨ててサムソンの捕縛に当たるか――。

 

「ぐううぅぅぅ!!!」

 

唸りながら、弾かれるように踵を返してチカたちの元へと駆け出す。

しかしそんな彼女の精一杯の足掻きも最早間に合うはずがない。サムソンの確信と共に、鉄球が地面に激突して激しい衝撃音と土煙が上がる。

 

「……ぁ、…あぁ……!」

 

立ち上る土煙を見て、ウィスタリアは膝から崩れ落ち、サムソンは懐からアイテムを取り出す。それはシンプルな装飾が手掛けられた銀十字だった。特別な効果などは一切無い、ただの装飾アイテムでしかない。

 

「――主よ、我は汝の道具とならん。恐怖ある所に安らぎを。光ある所に蔭りを。生命ある所に終焉を。悲しみある所に安寧を。絶望ある所に希望を。主よ、慰められるよりも慰める事を求めさせてください。なぜならば、奪われることで人は求め、忘れられることで人は見出し、死によって人は永遠の命に復活を果たさん――」

 

それを自分の正面に掲げると、祈りを捧げるように呟く。

 

「――あの。誰に祈りを奉げてるのかは知らないけど、勝手に殺されたみたいに扱うのは止めてくれるかな?」

 

「――えっ?」

 

「何?」

 

その時、土煙の中からの声に思わずウィスタリアもサムソンもハッと我に返る。

土煙がやがて晴れていき、そこには4つの人影が確認する。

 

「けほっ、けほっ。あー、死ぬかと思った。ありがとう、リズさん」

 

「何言ってんのよ。あなたがソードスキルで威力を殺したからでしょ?」

 

一人はダメージを受けたのか、右腕を抑えている。もう片方は盾を装備した腕が外側に曲がっている。

 

「――ノゾミさん、リズベットさん!!」

 

「ゴメン、勝手に来ちゃった」

 

「……って、そんな場合じゃありませんわ!早くチカさんとストレアさんを!」

 

「その必要は無いわ」

 

咄嗟に我に返ったウィスタリアが叫ぶも、確信していたようにリズベットは返す。

その間にも気に留めなかった【笑う棺桶】のメンバーの一人が、斧でチカの首を断とうと斧を振り上げた。が、振り下ろされる直前に何かに阻まれて振り下ろされない。思わず自分の武器に視線を移すと、斧の刃の付け根に鎖が巻き付いていた。隙を突いてチカはラフィカの補強部分を握って喉を狙って突き出す。顎に当たった衝撃でよろめき、その隙に脱出に成功した。

再び狙おうとしたそのプレイヤーの身体に、今度は縄が生きた蛇のように巻き付き、瞬く間にす巻きにして動きを封じ込める。

 

「クルァァァァアアアアアーーーーッ!!!」

 

ストレアを突き刺そうとした別の【笑う棺桶】の顔面に水色の毛並みを持った小型のドラゴンが剣を持ったプレイヤーの顔面目掛け炎ブレスを放つ。

炎で怯んだ隙に、ストレアが自分を拘束していたもう一人の【笑う棺桶】のメンバーの右わき腹に肘鉄を叩き込み、よろけた所を脱出。その際に麻痺毒を塗った投擲ダガーで切りつけ、麻痺に陥らせる。同時にどこからか飛んできた縄が2人のメンバーを同じくす巻きにして拘束した。

 

「皆さん、大丈夫ですか!?」

 

「シリカさんに……ツムギさん!?」

 

「どうやら間に合ったみたいね。さて、そこは置いといて……そこのデカい奴!もう【解放隊(ALS)】には連絡を入れておいたわ!大人しく逃げたらどう!?」

 

「――ほぅ?」

 

啖呵を切るリズベットにサムソンの眼光がぎらりと光る。

 

あなた達まで!!これがどれほど危険なことか分かっているんですの!?」

 

「勝手に来てごめんなさい!けど、いてもたってもいられなくて……」

 

「…あなた達は……!」

 

勝手に参加した同時に感謝してもしきれないでいた。だが、今は駆け付けてくれたノゾミたちに感謝をしてる場合ではない。

零しそうになった涙を目じりに留め、最後の一人たるサムソンへと両手剣の切っ先を向ける。

 

「ここから先、もうだれ一人死なせたりしませんわ!さあ、お覚悟はよろしくて?【笑う棺桶】サムソン!!」

 

「……なるほど。どうしても我らの救いを拒むのか」

 

しかし、孤立無援も同然のサムソンはそんな状況でも逃げるようなそぶりは全く見えない。むしろ、「残念だ」と言わんばかりに悲しい表情を浮かべ、鉄球を自分の元へと引き戻す。

 

「……ならば生を過ごす時を、己の後悔をもって死の世界へと旅立つと良い。すまないが、懺悔は主の前で行ってくれ」

 

くるりと軽く振って、遠心力を利用して鉄球を振り回す。

 

「ストレアさん、ツムギさん、シリカさん。あなた達の実力を軽視する訳ではありませんが、ルクスさん達の護衛をお願いします」

 

「わかったわ。けど、簡単に死なないでよ?」

 

ウィスタリアの一言にストレアが応じる。シリカとツムギも納得したように頷いた。

 

「……で、あれは何なの?」

 

「ノゾミさんと同じ超EXスキルの持ち主らしいです。STR700以上で、彼の攻撃を直撃したら、私達なら一撃で死んでしまいます」

 

ポーションを呑み終えたチカからの返答にノゾミは構えつつもサムソンをまじまじと見つめる。

自分やシズル以外に超EXスキルを持つプレイヤーがいたことに驚きを隠せないでいた。同時に気を引き締めなければならないとぐっとファルシオンの柄を握る力をさらに強める。

 

「どうする?あれだけの攻撃力と範囲だと、近付くだけでも一苦労するよ?」

 

「そうだね。近付いて、はたき落して、拘束。これをやるにも、まずあの鉄球をどうにかしないと」

 

まともに食らえばここに居る面子では一撃死は免れない。むしろ、ここは【解放隊】が来るまで時間を稼ぎ、彼らが来たら後は任せるのが定石かもしれない。

 

「あの、一つ良いですか?一つ気になったんですが、あれって両手武器なんですか?」

 

シリカの素朴な疑問に全員「えっ?」と間の抜けた声を上げ、思わずサムソンから目を逸らしそうになる。

確かに彼自身《鞭》と《両手連接棍》が必要と言っていた。

 

「つまり、片手剣とかみたいに盾を使えない、って事ですよね?」

 

「……シリカ。なんとなく分かってきたわ、アンタの考えが」

 

「……なら、それで試してみる?」

 

身を寄せてシリカの提案から作戦を立てる。そしてストレア、ツムギ、シリカが下がり、ノゾミとチカが前に出る。

 

「……行くよ!」

 

ノゾミの合図で、チカとノゾミがサムソンに向かって駆けだした。

 

(突進してきただと?何の真似だ?)

 

自らの攻撃力ならノゾミ達を一撃で屠るのは容易い。

それを承知で突っ込んでくるとは、気でも狂ったのかと一瞬思った。

 

「……その信心深さは認めよう。ならば一撃で消えるがいい!!」

 

鉄球をナックルボールの要領で前方へと飛ばす。回転しながら唸りを上げて空を裂く。

 

「――今です!」

 

チカが叫ぶ。

瞬間、ノゾミとチカ、そして後方にいた8人も鉄球の通過ルートから左右に避ける。

 

「やはり左右に避けたか!」

 

鉄球は誰も粉砕することなく木に直撃。ウィンドウが出る間も無く鎖を横に振って近くに居たノゾミから倒さんと右手でぐいと引っ張る。

 

「ツムギ!!」

 

ストレアの合図にツムギが鞭のソードスキル《ホールド》を放つ。鉄球の付け根に巻き付いた瞬間、ツムギ以外の7人がそれぞれ綱引きの要領で鞭を掴む。

 

「せぇー……のッ!!!」

 

「うおっ!?」

 

綱引きの要領で引っ張られ、思わず体勢を崩しそうになる。

ピンと張られ、宙に浮く鎖は均衡を保っている。幾ら筋力値700以上のサムソン相手に単独は無理でも、8人の合計筋力ならそれに迫るかもしれない。

 

「はああぁッ!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

だがそれを相手が呑気に待っていられると思ってはいない。その隙にノゾミとチカがサムソンの背後に回り込み、体勢を崩すのが目的だ。

迫るチカとノゾミに、初めてサムソンが唸り声を上げた。

鎖鉄球は分銅などのように武器の分類としては《両手連接棍》として扱われている。つまり、盾と併用することはできず、《体術》スキルの「片手、もしくは両手が非武装状態」という条件を達成できない。つまりこの状況になった今、完全に丸腰も同然である。

後はサムソンの体勢を崩し、一気に縛り上げるだけだ。得意の曲刀でノゾミはサムソンの脚を狙う。

 

「チィッ!」

 

「おっと!」

 

ぐるりと状態を捻った上段回し蹴りを放つも、それをしゃがんで回避。残る支えである左足を斬り付ける。

続けてチカがラフィカに光を灯しながら突っ込んでくる。狙うは右腕。腕を切り落とし、無力化した所を麻痺毒で完全に押さえつける算段だ。

 

「――……ッ!!」

 

槍のソードスキルを使おうとした瞬間、チカが一瞬だけ恐怖に支配される。同時にラフィカに灯っていた光が消え失せる。

SAOに閉じ込められてから今まで、相手にしてきたのはモンスターばかりで対人戦での経験は全く無かった。カオリやラジラジから対人戦の相手を承諾した時の事だった。決闘で対戦相手の胸を貫き、そのショックで戦意を失ってしまい決闘が中止されてしまった。

それ以来、チカの中に対人戦に対する恐怖心が生まれてしまった。対峙し、盾でしのぐことはできる。しかし武器で攻撃することはできなくなった。

その恐怖が、最悪のタイミングでぶり返してきたのだ。

 

「――ッ!!」

 

すぐにチカは槍の攻撃を中断。盾を前に翳す。そして走る速度を更に早めていく。《疾走》のスキルによるものだ。

 

「いやあぁぁーーーッ!!!」

 

裂帛の叫びと共に、弾丸の如きスピードで突進。サムソンの顔面に叩きつける。

 

「ぶへっ!?」

 

顔面からの衝撃にサムソンの体勢が更に崩れ、ついに唯一の支えだった左足がずるりと滑り、巨体がほんの僅か宙を舞い、ずしりと巨体が地面に沈んだ。

 

「今だよッ!」

 

ストレアの合図にグヴェンが鞭から手を放してサムソン目掛けある物を投げつけた。ひゅん、と空を切ったそれ――クナイ型の投擲ナイフ――はサムソンの肩に深々と突き刺さる。

 

「これは……!」

 

自分の肩に刺さったそれを引き抜くより早く、全身が鉛のように重くなるのを感じた。

 

「……倒、した……?」

 

「……そう、みたい……」

 

戦闘の終わりに全員気が抜けたように脱力する。

 

「あとは縛ってしまえば終わりですね」

 

命がけの死闘の終わりで全員身体が重く感じている中、ツムギだけはロープを取り出してサムソンに近づく。

 

「ぐぅ……」

 

「……え?」

 

縛ろうとし時に麻痺しているにもかかわらず、サムソンの手が僅かに動く。快復したという割にはいくらなんでも早すぎる。

――まさか、麻痺が効いていない?

一つの予感が頭をよぎった時、全員の顔が蒼くなっていく。

 

「は、早くありったけの麻痺毒を彼にぶつけなさい!!あの筋力で暴れられたらひとたまりもありませんわよ!!」

 

「「「「う…うわあああああぁぁぁぁぁ!!!」」」」

 

すぐさま縄だけでなく自分達が持っていた残り少ない【麻痺毒瓶】や【麻痺ナイフ】を使いサムソンに更に麻痺を重複させた。

そんなことがあって数分後、

 

「こっちです!早く!」

 

「またんかい!こっちはそんなに足速ないで!」

 

レインの先導で【アインクラッド解放隊】が駆け付けてきた。

元々、ノゾミが先にレイン達にマコトが居なくなったことを連絡。レインもウィスタリアが時間になっても来ないことが気になってキバオウに連絡しようとした所だった。

《追跡》を行えないマコトより、場所の知れてるウィスタリア達を追ったほうが早いと判断したらしく、まずウィスタリアの捜索に出てほしいとノゾミに言った。そしてキバオウに改めて連絡し、今やっと51層にやってくることができたのだ。

 

「で、あのドアホはどこに……」

 

出しゃばったウィスタリアに一言文句を言ってやろうと息巻いていたキバオウだったが、それ以上言葉は出なかった。

何故なら彼の視界には縄と鎖です巻きにされたサムソンと、彼を囲ったノゾミ達が見下ろしていた。だが、彼女たちは揃って肩を上下に荒い呼吸をしており、目も見開き、手にはナイフ。まるで犯罪を犯した直後の犯人のようだ。

 

「――なんでや!幾ら仲間殺されたからってなんでここから突き落とす必要があるんや!」

 

「そんな訳ないでしょう!あまりにも高い筋力値で暴れない為にもああしたまでですのよ!?叫ぶ暇があったら彼を今すぐに連行しなさい!!」

 

ツッコミと同時に否定してきたウィスタリア。すぐにサムソンを連行するよう促す。

キバオウはそんな態度に「なんで指揮っとんねん」と文句を垂れるが、すぐに【回廊結晶】を使ってサムソンを連行する。

 

「あの……」

 

「ん?なんやジブンら」

 

「私は【邪な蝙蝠】のリーダーよ。最も、私達3人以外全員そいつに殺されちゃったけどね」

 

「なんやと?そいつらがワイに何の用や?」

 

「……要するに自首だよ自首。あれ?これって自首になるんだっけ?出頭になるんだっけ?」

 

「わたしたちもれんこうして。ラフコフのメンバーだから」

 

プレシアの一言に【解放隊】の全員が唖然となる。内通者がいるかもしれないという話は前日ラジラジから聞いていた。だが、自分達も【ブレイブ・フォース】が自分以外に目を逸らしたかったのではと勘繰っていて深くは信じていなかったからだ。

 

「ところで、あのゲートの先って同じ牢屋?できれば私達3人と別々の奴をお願いしたいんだけど」

 

「ちっ、偉そうに……おい、別の【回廊結晶】や」

 

舌打ちしながらもリクエストに応え、先に開けた牢屋とは異なる転移先に設定した【回廊結晶】を使う。あとはこの先に進めば罪を償うまでの牢獄生活が待っている。

しかし、【解放隊】に連行されていく2人の顔は俯くことは無く、堂々と歩みを進めた。

 

「そうだ。――チカさん!」

 

直前で、何か思い出したようにルクスが振り返ってチカを呼ぶ。

 

「2つ頼まれても良いかな。一つは後で私達の牢屋に来てほしい。重要な情報を提供したいんだ」

 

「分かりました。もう一つは何ですか?」

 

「ロッサ――いや、ブロッサムと言うプレイヤーを探してほしいんだ。もしもう一度出会えたら、『あの時の行動は間違ってなかった』って伝えてほしい」

 

それだけを伝え、3人はゲートを潜り抜けた。

彼女らを見送ったノゾミは、ハッと用件を思い出した。

 

「……そうだ、マコトちゃんがいなくなったのよ!多分、仇討ちに行ったんじゃないかって……」

 

「……ううん。心配はないみたいだよ」

 

「え?心配ないって……?」

 

最初その話を聞いたストレアを除く全員が驚いたが、ただ一人冷静だったストレアが自分に届いていたメールの文面を見せる。

発信者はラジラジだ。内容は短く、「56層に来てもらいます。テンカイからの弁明もありますよ」とだけ書かれていた。

 

「テンカイって……えっ、生きてたの!?どういうこと!?」

 

「あたしに聞かれても分からないよ!とにかく56層に来いって言ったんだから、すぐに言ってみたら?」

 

リズベットの催促にノゾミは頷き、急いで56層へと向かう為に踵を返す。

 

「私は一旦《始まりの街》に戻ります。ルクスさんが伝えたい事があると言っていたので」

 

そんな中、チカが一人《始まりの街》に戻ると言い出す。

特に止める理由も無いので、ウィスタリアはそのことを承諾。直に56層へと向かうのだった。

――因みに余談だが、56層に行く際、ウィスタリアが二度と道に迷わないようにストレアが自分と彼女の身体に縄を結び付けていた為にプレイヤーの注目をかなり集めたらしい。

 

 





次回「討伐戦の裏側で:RESULT」


(・大・)<かなり無理矢理な感じがしましたが、とりあえず討伐戦は次でラスト。


※《鉄球術》

(・大・)<成人男性の頭大の大きさの鉄球を扱うことができるようになる。

(・大・)<SAO2のアニメシーンで分銅持ってた奴がいたので思いついたスキルです。

(・大・)<能力は専用装備【鎖鉄球】が装備可能になる他、鎖鉄球装備時のみSTRが3倍。DEXも10%上昇し、AGIが25%減少。

(・大・)<条件は『1:《鞭》と《両手連接棍》の熟練度MAX』。これだけで十戒の寺院に入れます。

(・大・)<そして『2:十戒の寺院のある一室の中にある石扉を開き、奥へ進む』です。この2つをクリアしたら手に入れられます。

(・大・)<ただし失敗したら自殺するかゲームクリアするまでずっと閉じ込められたまま。マジで密閉空間の中なので牢屋のほうがまだマシなレベルです。普通なら発狂しても可笑しくない。

(・大・)<因みにクリアのラインはキリトの《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》の合計。単純なSTRだけなら最低でもサムソンはキリトと同等と言うことになる。

(・大・)<ソードスキルとしては鞭のスキルの一部と両手戦棍の全てが使用可能。ただし通常の2種より発動までのラグが長引くので基本牽制には使えない。

(・大・)<弱点としては筋力極振りを要求する為、他のステータスが他のラフコフメンバーよりも一回り低い事。単発ソードスキル一撃食らっただけで致命傷になりかねません。また、通常攻撃&ソードスキルも結構大振りなので小回りが利かない。
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