プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(・大・)<手術とか色々あったけど書き溜まったので久しぶりの投稿。

(・大・)<とりあえず3話分、1日置きに投稿します。


「討伐戦のその裏で:RESULT」

 

 

56層に付いた一行が見たのは、満身創痍の攻略プレイヤー達だった。壁に寄り掛かる者、座り込む者。窓から遠くを眺める者。

その彼らの表情は、見るからに生気が抜け落ちた抜け殻の様な表情をしていた。生還したプレイヤーを見るに、討伐戦には成功したらしいが、「勝った」というよりは「終わった」という雰囲気が近い。

だが、今は彼らに構っている暇はない。メールの内容にあったテンカイが生きているという確証を得るべく、生気の抜けた人混みをかき分けて【血盟騎士団】の本部の奥へと向かう。

その時――、

 

「本当にすまなかったッ!!!」

 

テンカイの張り裂けんばかりの謝罪の言葉に気付き、振り返る一行。

そこには頭を下げて謝罪するテンカイと、彼を前に呆然と佇むマコトと【エリザベスパーク】の面々だった。

 

「……本当に、生きてたんだ……」

 

メールだけでは半信半疑だったノゾミも生きていたテンカイを見て呆然と立ち尽くしていた。

 

「――……馬鹿野郎ッ!!」

 

そんな中、マコトがテンカイの元に近付き、襟首をつかむ。突然の行動に【エリザベスパーク】の面々はどよめく。

仲裁しようとウィスタリアが駆け寄ろうとしたが、ユイが彼女の肩を掴んで止める。

 

「……なんて……なんで言ってくれなかったんだよ……!アンタが死んだと思って、あたしは……!あたしはぁ……!」

 

ぐっと握る拳がわなわなと震える。それと同時にポタリとマコトの足元に雫が零れ落ちる。

テンカイがマコトの顔を見ると、彼女の双眸から涙が零れ落ちているのが見えた。

次の瞬間、マコトはテンカイの襟首から手を離し、抱き着いた。

 

「ま、マコト……?」

 

困惑するテンカイを他所に、マコトは更に強く抱き着く。

ハラスメント警報のアラートが鳴ってもお構いなしに、もう二度と離さないようにきつく抱きしめる。

 

「良かった……!良かったよぉ……!生きてて、本当に……!」

 

「――……ああ。ありがとな。心配かけてごめん」

 

一応は丸く収まったようで、マヒルを始めとした【エリザベスパーク】の面々。

遠目に見ていたノゾミ達も安堵したらしく、唯一信じていたユイも「大丈夫だったでしょ?」と声を掛ける。

 

「――すまないが、そろそろ話をさせてくれないか?」

 

早くしろと狐顔の青年が空いていたドアをノックして促す。

ともかくあの場はユイとマコトたちに任せ、ノゾミ達はその場を後にするのだった。

 

 

 

 

「――40人!?」

 

ヒースクリフの口から告げられた討伐戦の結果に、ノゾミ達は言葉を失った。

テーブルの向かいに座るヒースクリフは、いつになく深刻な顔でクリスティーナからの報告を簡略的に告げる。

 

「その通りだ。我々討伐隊が【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】のアジトに突入したのだが、どうやらどこからか情報が洩れていたらしい。奇襲を仕掛けるはずが、奇襲を受ける形となってしまった。その結果、【笑う棺桶】側は40人。こちらも11人のプレイヤーを喪ってしまった。生き残った者達も、冷静さを欠いた者は最低でも2人は手に掛けている。勝ったというのは単なる建前。私はこの戦闘を辛勝、もしくは掌で踊らされた結果と言っても差し支えない」

 

そう報告した後、「彼らも一撃で危険域までHPが減少するとは思っていなかっただろう」と付け加えた。

 

「お待ちなさい!確か【笑う棺桶】のギルドメンバーは総勢30人前後と聞きましたわ!何故(なにゆえ)40人もの犠牲者が出たことになっていますの!?」

 

そこにウィスタリアが待ったをかけた。

30人と言うのは去年の大晦日にパーティをしていたプレイヤー達を全滅させた際、ギルドリーダーのPoHから告げられた人数であり、プレイヤー達はそれが彼らの人数であると思っていた。それで10人もの差が生じるのはおかしい。

その疑問にはヒースクリフではなく、入室した狐顔の青年が答えた。

 

「下部組織だ」

 

「下部組織って……?」

 

「奴らは本隊の他に、情報操作や物資調達を主立った活動としている下部組織が存在していたことが調査の結果判明した。件の作戦に対して対策ができたのも、攻略組の中にその組織のプレイヤーがいたことが今回の原因だ」

 

「皮肉にも、ラジラジ君の忠告が現実となってしまった形という訳だ。【聖竜連合】のリンド君も、相当ショックを受けているようだったよ。彼の忠告を無視した結果、3人も有力なメンバーを亡くしてしまったのだから」

 

「だけど、40人なんてどこからそんな人員を……そのギルドから引き抜いたとか?」

 

ノゾミの推測に青年は首を横に振る。

 

「いや。その下部組織にはもう2つ役割が存在する。――下層のプレイヤーをターゲットにした人員確保の組織と、その育成」

 

「……え?」

 

その言葉に、ノゾミ達は言葉を失った。

下層のプレイヤーを【笑う棺桶】のメンバーに仕立てた?自分達の思いもよらない事を思いつく、常軌の逸した輩が存在するのか?

俄かには信じられないが、狐顔の青年の報告はえてして的を射るようなものだった。

 

「彼らは現実に帰れない不安、そして帰った後に待ち受ける現実、仲間を喪った傷心に漬け込み、人心掌握術をもって完全にコントロールし、命令を救いと信じ込ませる兵士を量産する組織が存在した。大方、本隊の何人かをあの場に残し、残りはその急ごしらえの兵士で代用。その後、育成組織が引き取り彼らを殺人プレイヤーに育て上げる。その結果が……」

 

――あとは言わなくてもわかるだろう?

目線から念押しされたノゾミは、思わず身体がふらついた。

VR空間の中だと言うのに、後頭部をガツンと殴られて眩暈を起こしたような気分だった。

自分達の知らないところでこんな非道な方法を思いつく輩に下層域プレイヤーが毒されていたなんて思いもよらなかった事実に、思わず目がくらむ。

 

「――待ってくれ!」

 

そこにユースが信じられないと言った様子で叫んだ。いきなり叫んだことで部屋にいた全員から一斉に注目される。

 

「私は先程、【ブレイブ・フォース】が【白鳥の抱擁】の本部に強行突入した場面に立ち会いました。それはつまり……」

 

「その通りだ。【白鳥の抱擁】こそが、その人員補給の為に作らされたギルド。加入者の大半はその方針を鵜呑みにしたただの手駒――いや、捨て駒と言っても良いだろう。だがギルドマスターのアイリーンを含めた上層部は全員が黒と言っても過言ではない」

 

再び信じられない事実が判明した。プレイヤー救済を謳うギルドが、最悪の殺人ギルドの手先となって、プレイヤーの洗脳染みた真似をし続けていたのだから。

ノゾミも彼女らとはそう交流している訳ではないが、そんな人物だったとは信じられない。

 

「……彼女らの確保には失敗してしまったが、全階層の掲示板に定期的に彼らの顔写真を公開している。少しは彼らの活動に支障が出るくらいの成果が出せれば上々だと思うがな」

 

「迅速な対応に感謝します。これで彼らも容易に人員を確保することはできなくなったと思います」

 

ヒースクリフに変わりアスナが、狐顔の青年の対策案を聞いて軽く頭を下げる。

 

「……あの。キリト君はどうしていますか?」

 

ノゾミからの質問にヒースクリフとアスナは一瞬目を丸くした。

 

「えっ?あなた達の所に来てないの?」

 

「今後の攻略の為の編成中に彼女が少し目を離した隙にどこかに消えたらしいのよ」

 

「え?」

 

「どうやら君達の所にも来ていなかったようだね。次の攻略会議には顔を出してくれればいいのだが……」

 

次の攻略を心配している様子のヒースクリフに対し、ノゾミは彼の奥の窓から曇天に覆われた空を眺める。

 

「キリト君……」

 

 

 

 

「よう、キー坊」

 

主街区の路地裏で壁に背を預け独り佇むキリトを、アルゴが呼び止めた。

声に反応してアルゴに見せたキリトの表情は、一言で言えば抜け殻、と呼んでも相違無いほどに生気を感じられないものだった。

 

「……何の用だ?」

 

「件の事件についてだ。あれは「もういい」――は?」

 

アルゴが言いかけた時、キリトが横槍を入れる。

 

「もういいよ。お前は事件の真相を知ることができた。それで十分だろ?」

 

「十分って……キー坊!」

 

「それを聞いて、俺に何のメリットがある?俺がその原因となった奴を殺して敵討ちをしろっていうのか?それでアイツらが帰ってくるのか?そんなことはない。アルゴ、お前は俺の濡れ衣を晴らすって名目で自分の好奇心を満たしたかったんじゃなかったのか?」

 

立ち去ろうとしたキリトを呼び止めるが、容赦ない事実と言う名の言葉を並べ立てられ、次第に反論も失っていく。

 

「……俺は、あの時のクリスマスで思い知らされた。後悔した所で、もう俺が望んでいたものは手に入らない。俺の思い上がりが、サチたちを死なせてしまったんだ……」

 

「キー坊!」

 

今すぐにでも彼の肩を掴んで止渇してやりたい。だが足が動かせない。

裏路地を出ようとするキリトとの距離はほんの数メートル。たったそれだけなのに、まるでアルゴの目の前に見えない壁に阻まれているようで。

引き留めるための1歩が、鉛や鋼鉄などという揶揄では足りないほどに重く。引き留めるべき相手の姿が果てしなく遠い道の先にいるようで。

 

「じゃあな」

 

「あっ!」

 

街の方へと路地裏を抜けたキリトを抜けた瞬間、アルゴも駆け出す。表通りへと出た時には、既にごった返す人混みの中で、キリトの姿は見えなかった。

 

「キー坊……」

 

 

 

 

とある層の主街区の路地。

時刻は夕刻でもあると言うのに、その日は天候設定により空は分厚い鉛色の空に覆われていた。

降り注ぐ小雨に打たれながら、キリトは路地裏の前で一人佇んでいた。

 

「……!」

 

否定するように耳を塞ぐ。

キリトの耳に、頭に響きわたるのは雨音ではない。

あの討伐戦の騒乱の中で彼のみに囁かれた、悪魔の言葉。

 

 

 

 

 

――【月夜の黒猫団(彼ら)】は実に良い働きをしてくれました。

 

 

 

――あなたが居たことであの計画を思いついたのです。

 

 

 

――おかげで最高の見世物を独り占めすることができましたよ。

 

 

 

――そのお礼として、最後の一人に情報を手渡しました。「仲間があなたに殺された」と。

 

 

 

――そしたら彼は貴方への殺意がみるみるうちに湧き上がらせました。いやぁ、あの時は実に滑稽だった。

 

 

 

――折角のチャンスも失敗したそうで、その時に彼にメールを送ったのですよ。

 

 

 

――「私の退屈を紛らわせてくれてありがとう。あなた達の死は彼に消えぬ悔悟として遺るでしょう」とね。

 

 

 

――本当に、彼が騙されたと知った時の顔は最高でしたよ。

 

 

 

――あなたは、どんな顔をするのでしょうか?キリト君?

 

 

 

騒乱の最中で真実を告げられた途端、キリトは囁いた悪魔への殺意が一瞬で最高潮に達した。

怒りと殺意に駆られ、前に出た【笑う棺桶】のプレイヤーを構わず10人以上も斬り捨てた。

 

「……うぅ……うぐっ……ぅあぁ……!」

 

嗚咽が雨音に消える。

今思えば、あの囁きの主は自分が誰かを斬り殺すさまを見たくて、そして自分が誰かの命を奪ったという否定し難い事実を刻み込む為だったのだろうか。

既に答えはあの声の主以外分からない。ただ残ったのは、激情の赴くまま人を殺してしまった事実のみ。

 

雨は、キリトの涙の如く未だに降り止むことはな無い。

 

 

 





次回「交渉」


(・大・)<次回から作者が書きたかったものアインクラッド編。
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