プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
【
しかし……。
「参加者が少ない?」
「ええ。これを見て」
沈んだ表情を見せるレインが新聞を見せる。
「『現在69層攻略のプレイヤーは、現在23名で挑戦する模様。通算5回目のボス偵察戦』……確か最初の攻略って……」
「聞いた話じゃ40人くらいだったよ」
「ほぼ半分って事!?なんで――」
攻略に参加していないノゾミでも、余りの少なさに声を上げようとして言葉を失った。
その理由は簡単だ。先の【笑う棺桶】討伐戦。クラディールなどの『蜥蜴隊』という諜報員の手により情報が漏洩され、血みどろの殺し合いとなったあの最悪の事件。たった5日で人を殺したという事実から立ち直るには、余りにも時間が無さすぎる。
「参加しなかった攻略組も、メンタル低下が著しいみたい。討伐戦の結果が伝わった影響だね……」
溜息を吐くレインにつられて、自分も落ち込んでしまいそうになる。
だが首を振って沈みゆく気分を振り払うと、改めて尋ねる。
「でもさ、そろそろ突破できるんじゃないかな?ほら、クラインさんにエギルさんもいるし!それに、ラジラジさん達が『蜥蜴隊』を捕まえたんでしょ?」
ラジラジ率いる【ブレイブ・フォース】も最近は階層攻略に参加していない。
というのも『蜥蜴隊』プレイヤーの捕縛に尽力しているのだ。現状捕縛は順調に進んでおり、【聖竜連合】のメンバーの協力の元、既に3分の4を捕えている。
その陰の功労者はルクス、グヴェン、プレシアから――主にグヴェンによる――提供された『蜥蜴隊』に所属するプレイヤーのリストをまとめたものを提出した。その中にはラジラジが捕らえたクラディールは勿論、アインクラッド攻略初期に【解放隊】や【聖竜連合】に所属し、キリトとアスナも遭遇したモルテと言うプレイヤーも記されていた。2つのギルドはそのリストを元に、次々と『蜥蜴隊』のプレイヤーを捕らえていった。残った『蜥蜴隊』も、もう数える程度しか残っていないだろう。
とはいえ、中には有力な攻略組プレイヤーもいたのでそのことも攻略のペースダウンに拍車をかけているのだが。
「【笑う棺桶】の奇襲は、参加したプレイヤー以外にも多くのプレイヤーの心に傷をつけてしまった……このまま放っておけば、いずれ攻略そのものへの意欲も失ってしまいますわ」
顔を伏せたウィスタリアの呟きにユリエールとノゾミは思わず彼女の方に顔を向けた。
普段強気な彼女がここまで弱気な発言をするのは初めて見る。
「だからこそ……」
次の瞬間、バン!と机を叩いて顔を勢い良く上げて宣言する。
「だからこそ私の計画が輝く時ですわッ!!!」
「けっ、計画ぅ?」
突拍子もない宣言に思わず素っ頓狂な声を上げる。
「ええ!その為にノゾミさん、ユナさん、レインさんの力が必要不可欠!!」
「わっ、私達の?」
「そう!名前を付けるのであれば――」
「ライブ・イン・アインクラッドですわ!!」
†
56層【血盟騎士団】本部。
「――と言う事ですわ」
早速【血盟騎士団】本部へと乗り込んだウィスタリアは、ユイとノゾミとレインを連れて【血盟騎士団】上層部を務めるプレイヤー達に対して直談判した。
無論、呼び出されたユナも同行している。
「君の話は分かった。なかなか面白いプランじゃないか」
「でしょう!?だったら「だが」え?」
「我々は一刻も早いデスゲームの解放を目指して攻略を続けている。先の討伐戦で深い傷を負い、攻略組から脱落する者もあらわれる中、ライブなどという途方もない計画に付き合う時間も人員も無い」
指摘するヒースクリフだけでない。クリスティーナを除く【血盟騎士団】の上層部のプレイヤー全員の表情が難色を表していた。
SAO攻略組はPvE、モンスターNPCをメインに相手取っているのでプレイヤー同士の戦いというものに圧倒的な経験が足りていない。中には訓練と分かっていても決闘に参加するのを渋る者がいるくらいだ。
相手を手に掛けた負い目、モンスターとは異なる、狂気を孕んだプレイヤーへの恐怖。それらを拭うことは決して容易ではない。
「ですが、ポテンシャルの面では今は最悪の状態。いつ戦線が崩壊してもおかしくはなくて?」
「そのために攻略組は攻略を一時中止しろと?下手をすれば他の攻略組や下層、中層のプレイヤーが暴動を起こすかもしれない」
「それは攻略組の方々に死んでも良いから攻略を続けろと仰っているのではなくて?」
時間と人員の問題を指摘するヒースクリフと、攻略組のメンタル問題を指摘するウィスタリア。白熱していく議論に両者は一歩も引かない。
「待って下さい。私も彼女の提案に賛成です。攻略組全体のメンタルは今著しく減っています。それに、攻略組は今まで残ったプレイヤー達の為にも全力を注いできました。こういう時だからこそ、攻略組には一度英気を養うべきではないでしょうか?」
そこにユナも一歩前に出て反論する。
「私も同じ気持ちです。私達居残り組はこれまで攻略には何もしてこなかった……。だからこそ、攻略を頑張っている皆さんの為にこのライブを成功させたいんです!」
ノゾミも一歩前に出て堂々と言う。
「私だって同じ気持ちです。攻略組に参加できなかったけど、歌でみんなを元気にできるんだったら、私もウィスタリアさんの計画に乗る価値はあると思っています」
続けてレインも前に出る。
両者とも一歩も引こうとしない状況で膠着する中、意外な方向から助け船が入った。
「団長殿。ひとつよろしいですかな?」
「どうしたんだ?ダイゼン」
「私としても、彼女らの計画を頭ごなしに否定するのはどうかと思います。【血盟騎士団】内でも有名なユナ。《始まりの街》で圧倒的な支持を得るノゾミさん。中層プレイヤーの中で着実に人気を得ているレインさん。彼女らが一堂に集まり、このSAO始まって以来のライブ大会、これを物にしない手はありません」
タマネギの様な太い胴体を揺らし、熱弁するダイゼン。
思わぬ助け舟にノゾミ達は目を丸くしながらも彼の熱弁を見守る。
「なるほど。チケット代で儲けてうちの財政状況を立て直そうという腹か」
そこに微笑を携えたクリスティーナの一言で、ダイゼンの脂ぎった顔から脂汗が大量に流れ出る。
「――!その手がありましたのね!」
真剣な表情で重要な事に今気付いた様に思わず言うウィスタリアを横目に呆れるノゾミを他所に、クリスティーナは彼女らの元へ歩み寄る。
「だが私もその案には一理ある。無理矢理行軍したところで大した成果が得られるとは思えない。一度立ち止まって呼吸を整えたほうがより長い距離を歩けるとも言うだろう?」
「しかし、我々が総出でライブの準備をするとは、周りから見れば滑稽ではないのかね?」
「そこは大丈夫です。ライブの準備は私達だけで行いますから、皆さんは攻略を続けても問題ありません」
レインが補足を付け加える。
「なるほど。ライブは自分達の――いや。《始まりの街》全員の手で成功したいと言う事か。どうやら下層を拠点としているギルドマスターは相当生意気なようだな、ユナ?」
おちょくるような口調でユナを見る。
「でも、ライブの開催自体は文句は無いって事ですよね?」
「ああ」
「よっし!じゃあライブに向けて――」
「――お待ちなさい」
気合の入ったノゾミに水を差す様に口を開いたのは、以外にもウィスタリアだった。
「ライブを開催した所で、目玉となるイベントが無ければ観客も興ざめではありませんこと?」
「そりゃあ……そうですけど……?」
「ふっ。どうやら同じことを考えていたようだな」
ウィスタリアの言葉の真意にクリスティーナも気付いたのか、納得したように頷く。
「ところでユナ。お前確か次の曲に対してオリジナル曲を作りたいと言っていたな?」
「え?ええ。それが……」
ユナもクリスティーナからの問いに気付き、遅れてノゾミ、レインもその言葉の意味に気付く。
「それって……ひょっとして?」
「ああ。貴様らの言うライブ・イン・アインクラッド。条件を一つ付け加えよう。それは――」
一呼吸おいて、ズビシ!とでも効果音が付きそうな勢いで3人を指したクリスティーナが、宣言した。
「――次のライブは、これまでにないお前達だけの歌をそれぞれ作って見せろ★」
†
「――で、連中の話に乗る形でライブを開催することが決定した、と……」
あれから3日後。上層から帰って来たストレアはティアナから事情を聞いて納得したように頷いた。
その後、ユナはギルド本部に休暇届を出して【ゴスペル・メルクリウス】のギルド本部の部屋を借り、ノゾミとレインと共に作詞に当たっていた。最も、彼女は前々から新しい歌詞を書いていたのでタイミング的には丁度良かったのかもしれない。
「ライブの演出とか、ステージの場所とか。色々大変そうです。私達も協力しようにも、ライブの開催に関しては素人同然ですから」
「そんなの、ここに居るみんな同じだと思うよ?」
頷いたティアナが続ける。
現状、ウィスタリアとユースはステージに関して木工職人達と交渉が終わり、現在は場所決めの最中。ツムギはアシュレイと共に3人のステージ衣装の製作。ノーチラスと前々から書いていて、先に仕上がったユナは共に集めた楽器のチューニング。サーシャは子供たちと一緒にステージ飾り作り。それぞれライブへ向けてできることを行動に移している。
「作詞に作曲って……3日でできるものなの?」
「ユナさんは大体は仕上げてるので問題は無いと言っていますが、後の2人は……」
その時、ティアナの言葉を遮って扉が開かれた。
ぎょっとしてその方向を見ると、ぐったりとした様子のノゾミ。そしてその奥で心配するチカとレインの3人の姿があった。
「大丈夫ですか!?」
「な、なんとか……」
げんなりとした様子のノゾミの手から紙が滑り落ちる。
ストレアが返そうと拾い上げて……目を丸くした。
「……白紙じゃん!」
「ごめん……オリジナルの作詞は経験はあるけど、ここまで難しかったっけ?」
「作った経験はあるんですか?」
「1回か2回くらいは……けど、今回は全然思いつかなくて……ひょっとしてスランプ?」
脇を抱えられて立ち上がったが、未だに作詞用の紙は真っ新なまま。
「うーん……3日も部屋に閉じこもっていたんでしょ?なら、気分転換で外に出て見たら?他の街に観光しに行くとか」
「そんな!皆がライブの為に準備をしてるのに私だけなんて……」
「だからこそだよ」
ノゾミがチカとレインを振り払ってストレアに抗議しようとしたが、ストレアにられ遮る。
「そんな調子じゃライブでも成功しない。根を詰めすぎると本来のポテンシャルも引き出せないよ?」
「ぅ……」
「それに、頭もすっきりすれば作詞のアイデアも出てくると思うよ」
ユナの正論にノゾミも反論する余地が失せ、ついに折れる。
「……ごめん。ライブの事で頭一杯だったかも。あ、でもバレないようにしないと……」
すぐに装備品のウィンドウを操作するノゾミ。
厚手のコート、サングラス、マスク、そして兜……。傍から見ても不審者以外の何物でもないような姿に早変わりする。
「じゃ。行ってくるね」
不審者感全開ファッションに絶句する3人にサムズアップし、ノゾミは気分転換へと向かうのだった。
「……私が警備兵だったら、間違いなく牢屋にぶち込んでたわ」
呆れるレインのその言葉に、ストレアもチカも激しく同意するのだった。
次回「曇り空の君に、晴れ渡る笑顔を」