プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(・大・)<ギリギリ書き上がったああああぁぁぁぁぁっ!!!!!

(・大・)<2022年最後の投稿です!!

( ・大・)<因みに今回初めて楽曲コードを使用したんですけど……これで大丈夫なんですかね?一応知ってる作者さんの真似をできる限りしてみたんですが……。


「ライブ・イン・アインクラッド(前編)」

 

キリトとの邂逅から数日後。ノゾミは今までの不調が嘘のように歌詞を完成させた。

そして、準備も進みいよいよライブが明後日に迫った日。

 

「ウィスタリアさん、ステージのほうは……うわぁッ!?」

 

最終調整の為にウィスタリアの元を訪れたノゾミが息を呑む。

木工職人数人がかりで手掛けたステージはデュエルでの斬り合いでもできるような広さに加え、飾りも相まって大掛かりなものとなっている。

 

「あらノゾミさん。どうか致しまして?」

 

「え?あ、うん。ステージで通しをしたいから進み具合はどうかなって……これならもう大丈夫そうだね」

 

「当然ですわ!何せ木工職人の方々に依頼して、彼らの情熱と技術を総動員して創り上げた、彼らの傑作でしてよ!!――で、通しというのは?」

 

「要するに本番みたいに進めていく練習の事。実際に進めてどんな所を改善したほうが良いか意見を出したりするの」

 

「なるほど!――って、そういえば音楽は?歌だけでこのステージは殺風景ではありませんこと?」

 

「そこは大丈夫」

 

そう言ってレインは3つの立方体の水晶を取り出す。【録音結晶】だ。

 

「これに音楽を入れてステージで再生すれば、私達の動きを阻害することなく音楽を流せるってチカさんが言ってたんだ」

 

「なるほど。最大限にノゾミさん達の魅力を生かすには良いアイデアですわ。けど、他にも楽器を使える人がいたんですの?」

 

「主に私とチカが。他にも何人かは空いた時間を縫って練習に参加してくれたんだ」

 

「そうでしたのね。テンカイさんを含めた【エリザベスパーク】の皆さんも屋台の準備を進めていますわ。ならば早速――」

 

「おーい!みなさーん!」

 

早速通し稽古を開始しようとした時、ツムギが声を上げながらこちらに駆け寄ってくる。

 

「3人とも、ひょっとしてライブの練習ですか?」

 

「うん。通しでどんなふうになるか見ておこうと思って」

 

「でしたらこれを使ってください」

 

早速ウィンドウを操作し、3つの衣装を取り出す。

その出来栄えに3人はおろか、ウィスタリアも「うわぁ……」と感嘆の声を漏らす。

 

「どうですか?私の渾身の出来ですよ!」

 

「すっごい……初めて見たかも」

 

「何せ苦労しましたよ。皆さんも手伝って手に入れた素材もそうですが、3人をより生かす為にのデザインの塩梅とかが本当に……」

 

「けど、たった1週間でこれだけ作れるなんてすごいよ」

 

「苦労はありましたけど、その分やり応えもあって、今までで一番の仕事だと実感していますよ!」

 

「じゃあ早速これを着て通しをしてみよう!」

 

早速衣装を着てステージへ上がろうとした時だった。

突然近くの家の扉がばたんと空け放たれ、ストレアとチカが飛び出してきた。

 

「待って下さい~!」

 

「ちょっとチカ、どうしたの!?」

 

「皆さん、ストレアさんを止めてください!」

 

チカに言われて慌てて逃げるストレアを捕まえる。

その時、彼女の手に何か握られているのを見つけた。

 

「これは……?」

 

「ああああああっ!返してくださいッ!!!」

 

すぐさま顔を真っ赤にしたチカに取り上げられて良く見れなかったが、五線譜と音符の譜面。恐らくこれは……。

 

「……楽譜?ん?なんかどこかで見たような……?」

 

「それ、自作の歌の歌詞らしいんだよ。部屋の中で見つけたんだ」

 

「言わないでください!!」

 

「へぇ。そういや前にもユナとの合同ライブを嫌がってたよね?思い切って歌ってみたら?」

 

「無数の観客……大舞台……ライブの本番………………きゅう」

 

「うわわわっ!チカ、大丈夫!?」

 

ポン、と肩を軽く叩くレイン。

単なる誘いだったがそれを聞いた途端、本番の風景を想像したのかチカの顔がさぁっと青ざめる。

限界に達して倒れそうになるところをノゾミが寸での所で支える。

 

「だ、大丈夫です。ちょっと想像したらくらっと……」

 

「でもさ、ノゾミやユナのライブを見てる時のチカって羨ましそうにしてたよ?それに、朝早い時間から景色の見える広場で歌っていたのも見たことあるし」

 

「うぐっ?!ま、まあ確かに、そう言う風に見ていたことも、そういうことをしていたことも認めます。けどいきなり人の楽譜を持っていくのは良くないと思いますよ?」

 

ストレアの指摘に息を呑みながらも、肯定するチカ。

 

「思い切って参加してみては?案外うまくいくかもしれませんわよ?」

 

「それができたら苦労しませんよ……」

 

アドバイスするウィスタリアにため息交じりにそんなことを言ったチカは、俯きながら「でも……」と続ける。

 

「いつまでもこのままじゃ……行けないと思うのは分かっています……」

 

「……」

 

「……あ、すみません。私の事は良いですから早くライブに向けて準備してください。あとで音楽の編集をノーチラスさんと一緒にしておきます」

 

そそくさと客席に座るチカに、言葉を失った3人だったが、すぐにライブの通しを行う。

そこからチカとノーチラスがノゾミ達の意見をもとに細かい編集を行い、ライブの準備は着々と進んでいった。

そうして準備を進めていき、ついにライブ当日を迎える。

 

 

 

 

 

「うわっ、大盛況じゃないか……」

 

久しぶりに訪れた《始まりの街》は、キリトの想像以上の賑わいを見せていた。

【血盟騎士団】のが主立ってチケット販売をしていたのを見て、ノゾミとのやりとりの事もあって購入したキリトは、精々100人前後だろうと思っていたが、集まっていた面々は千人を超えている。存外、犯罪者プレイヤーを除いたほとんどのプレイヤーが集結していると言っても過言じゃないかもしれない。

 

「よぉキリト!おめぇも来てたんだな」

 

「クライン。お前も来てたのか」

 

「おうよ!ノゾミちゃんとはあの時に知ってな。前にノゾミちゃんのライブを見に行ってファンになった奴もいるんだよ。しかも今回はユナちゃんとレインちゃんとの合同ライブ!絶対スゲェ事になるだろ!!」

 

「わかったわかった。そう興奮すんなって。鼻息が荒い」

 

やけにテンションの高いクラインを抑えてキリトは周囲を見渡す。

 

 

 

「串焼き出来立てだよ!今なら150コル!」

 

「ライブ前にドリンクはいかが!?今なら冷えてるよ!」

 

「能力度外視のアクセサリーだよ!デートのオシャレに一つ!」

 

「中層プレイヤーの皆さんの冒険の必需品のポーションはいかが?味にも拘ってみたよ!」

 

 

 

ライブは18時。現在は15時。ライブ開始までまだ3時間近くあるというのに街はまるでお祭り騒ぎだ。転移門の前では訪れたプレイヤーが一瞬余りの賑わいにぎょっとした顔をしたものの、すぐに祭りの雰囲気に溶け込んでいく。

キリトも一度、クリスマスの翌日に来た――正確には【ブレイブ・フォース】に連れてこられたが正しい――ことはあった。その時はプレイヤーの活気があって、賑わいだけなら50層と負けず劣らずといった所だろう。それだけ【ゴスペル・メルクリウス】が今回のライブに熱を入れているということだろう。便乗して通路の端で商人プレイヤーが露店を出している。よく見たらエギルまで商人プレイヤーに交じって商売に精を出している。

 

「エギルもすっかり便乗しているな……」

 

「このライブのお祭り騒ぎに乗じて荒稼ぎか?」

 

「商人としてこのチャンスを逃す気は無いんだろうな。じゃ、俺はちょっと街をぶらついてるから」

 

そうクラインに告げてキリトは去って行く。

背中から聞こえたクラインからの「遅れんじゃねーぞ!」と釘を刺した言葉に手を振って応えた。

 

 

 

 

一方、キリトより一足先に《始まりの街》に来ていたアスナは露店の並んだ街路を歩いていた。

2年ぶりに訪れた最下層の街の賑わいは、アスナを呆然とさせるには十分すぎた。

チケットを受付に渡して進むうち、人だかりに交じって見知ったプレイヤーを見つける。

 

「リズじゃない。あなたもライブを見に来たの?」

 

「まぁね。実を言うと、あの時にノゾミの歌を聞いたから今のあたしがいるって感じかな?」

 

リズベットが当時を思い返す様に言って、アスナは街並みを往来するプレイヤー達を見る。

最初に彼女らと会った時、始まりの街の治政は不可能と思っていた。しかし、【血盟騎士団】に入って余裕ができた時にユイとマコトと出会った。彼女らの話から、治政はうまくいっていると聞かされた時は信じられなかった。

ざっと数えても1ヶ月で2千人死んだという事実に、3千人に近い人数が一つの街でひしめき合い、彼らを励ますライブだけで活気が取り戻せるとは到底思っていなかったからだ。3層で出会った時にも、ウィスタリアの考えは荒唐無稽な夢物語でしかないと思っていた。

マコト達との再会した時の話を聞いてもどこか半信半疑で、今日まで始まりの街を訪れたことは無かった。

しかし、今日訪れたこの街の人達の活気を見て、それが事実だと漸く受け取ることができた。それに、リズがノゾミのファンだということも良いオマケつきである。

 

「いらっしゃい!」

 

「マコトちゃん、ユイさん。久しぶり」

 

「あ。アスナさん……」

 

リズとの談笑もそこそこに、【エリザベスパーク】が出店している屋台の一つでユイとマコトがやっている屋台で早めの夕食を購入。

サンイッチを食べつつアスナはユイに訊ねた。

 

「ところで、ユイさんは大丈夫なの?」

 

「あ……うん。大丈夫だよ」

 

ユイの方は少し上の空だったが、すぐに笑顔を作って問題ないと告げる。

しかしアスナは人の感情を察せないほど馬鹿ではない。明らかな作り笑いと言うことは察しがついた。

 

「会場の方はもう席決めを始めてるぞ。見たいんだったらそろそろ会場に行ったほうが良いぞ」

 

「マジ!?アスナ、とっとと一番良い席取るわよ!!」

 

マコトのアドバイスでリズベットはすぐに手にしたサンドイッチを平らげ、アスナを引っ張って会場の方へと人混みをかき分けながら走り去っていった。

2人が走り去るのを見た後、マコトは心配そうにユイに話しかける。

 

「ユイ」

 

「私なら大丈夫だよ?」

 

「けど……」

 

「心配してくれてありがとう。だけど本当に大丈夫だから」

 

頑なに大丈夫と言い張るユイにマコトは表情を曇らせる。

 

(……どのみち、今のあたしじゃユイをどうすることもできない……立ち直らせるにはあいつらのライブが必要だ。頼むぞ……)

 

 

 

 

ライブ会場は、かつて茅場明彦からデスゲームの開始を告げられた広場だ。

 

「うわぁ……凄い人ですよ。これ全部ライブを見に来てくれた人ですか?」

 

ライブまで残り30分を切った頃。

ステージ裏から覗いた人だかりにシリカは息を呑んだ。

既にライブ会場には2千を超えるプレイヤーがひしめき合い、ライブを今か今かと待ちわびている。

 

「残り30分。いよいよですね」

 

「う、うん……」

 

楽屋代わりの部屋ではノゾミ、ユナ、レインの3人が緊張した顔持ちで座っていて、今か今かと待っていた。

 

「……緊張、してますよね?」

 

「あ、あははは……確かにこれだけのお客さんを相手にライブをするなんてことはなかったから……」

 

空元気を振り撒くノゾミだが、その手は震えている。

 

「私もだよ」

 

そっとユナがノゾミの手に触れる。

 

「でもね。私、同じくらいにワクワクしてるんだ。私の歌をこんな多くの人に聞いて貰えるんだもの」

 

「私も。こんな風にライブを開いてくれたみんなに感謝しないと」

 

「ユナ……レイン……うん。そうだよね」

 

レインもユナも、きっと自分と同じように緊張しているに違いない。

2人の言葉にノゾミも緊張がほぐれてきたのか、手の震えがいつの間にか消えていた。

 

「よっし!来てくれたみんなの為にも、このライブ絶対成功させるよ!!」

 

「「おーっ!!」」

 

「大変ですッ!!!」

 

その時、シンカーが切羽詰まった様子で楽屋に突っ込んできた。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「それが、マヒルさんが会場でいきなり漫才をやらかしてしまったんです!!」

 

「「「「「……はい?」」」」」

 

 

 

 

事の発端は10分前に遡る。

屋台をたたんでライブを見に行こうとした【エリザベスパーク】の面々だったが、ステージを見たマヒルが何を思ったのか、勝手に裏側から侵入してステージに上がり、漫才を始めてしまったらしい。

それに感化されたのが意外にも【聖竜連合】のリーダーのリンドもノリノリで参加。最初観客はドン引きしていたが、次第に笑いの渦が巻き起こっていったという。

その後、他のプレイヤーも飛び入りで参加。シンカーやユリエールが止める暇も無く事態は大きくなっていったという……。

 

「いやー。あのステージ、オラが子供の頃見た漫才番組のステージに似てたもんだから、ついやってみたくなっただよ。あれ?これって隠し芸大会とかじゃなかったべか?」

 

「なんでライブをやろうって時に漫才をやろうって思ったんですか!?馬鹿ですか!?馬鹿なんですかッ!?」

 

「まーまー、そうピリピリしてたら折角の可愛い顔が台無しさ~。こういう時は楽しい気持ちが一番だよ~。楽しい気持ちになるには踊るのが一番さー♪」

 

「マヒルさんの次に参加して隠し芸大会にしちゃった張本人の片割れが何言ってるんですか!!」

 

混乱の張本人、マヒルとカオリがシリカとツムギの前に正座して彼女の説教を受けている。普段上げない怒号を上げるシリカに、付近を飛んでいるピナも困惑している。

しかし当の2人は、完全に「やってやった。後悔はしていない」といった感じでどこ吹く風である。

 

「申し訳ありません。このバカ2名は後で私から言っておきます」

 

「あら、盛り上がってるなら良い事ではありませんの?」

 

「全ッ然良くないですよ!!このままじゃノゾミさん達の歌が、隠し芸か何かと一緒にされちゃうじゃないですか!!!」

 

「いやでも、お客さんも喜んでるんだしこのままでも――」

 

「ライブはライブ、隠し芸は隠し芸で楽しんでください!大体、お客さんはライブを観に来たのに隠し芸って……」

 

「お祭りのようなテンションが仇になってしまったみたいですね……」

 

ステージを見れば今度は攻略組のメンバーが傘回しを披露している。番傘なんてどこで用意したんだと言いたい所だが、今はそれどころではない。

どうにかこの隠し芸の空気を一変させなければならない。

 

「……不味いわね」

 

「ストレアさん?」

 

「なんか、不満な顔をしてる人がいる。多分ライブじゃないイベントになってイラついてるんだと思うよ。下手したら、爆発するかも」

 

「想像以上にヤバそうな状況だった!?」

 

ストレアが深刻な事を呟く。もしそれが本当ならライブ云々の問題どころじゃない。

シリカが青ざめる中、仕方ないと溜息を吐いたラジラジが腰を上げる。

 

「仕方ありません。私が事態を納めますので、その間にお願いします。少しばかり脅して清聴させれば問題ないでしょう」

 

「脅しって、お待ちなさい!」

 

物騒な提案をしたラジラジにウィスタリアが待ったをかけた。

 

「どうかしましたか?」

 

「どうかも何も、脅してしまうなんてとんでもありませんわ!折角高まったボルテージを不意にするつもりですの!?」

 

「だったらこのまま続けさせて暴動を起こせと?」

 

「そこまで言ってませんわ!脅されて大人しくなった状態では、本当に観客を喜ばせることはできないと仰っていますのよ!!」

 

こんな状況だと言うのに力づくで大人しくさせるラジラジと、本当に楽しませたいというウィスタリアが真っ向から対立してしまう。

 

「――あの!」

 

そんな時、チカが手を挙げた。

 

「私はラジラジさんの提案で進めたほうが良いと思っています」

 

「チカさん!?」

 

意外なチカの発言に驚きの声が上がり、一斉に彼女に注目する。

 

「あ、落ち着いてください!何もそのまま通すのではなくて――」

 

 

 

 

「おいおい……肝心のライブの時間過ぎてるぞ……」

 

キリトは困惑していた。

観客がひしめき合うライブ会場に来たのはいいが、マヒルとリンドの漫才を皮切りに、次々と観客の一部が隠し芸を披露し、すっかり隠し芸大会へと変貌していった。

肝心のライブの時刻はとっくに過ぎているものの、未だにライブになるという空気にはならない。

 

「こらーっ!ライブの時間になったぞー!とっととライブ始めろー!」

 

ざわつきの中で一際大きなブーイングが飛ぶ。リズベットの声だ。

それを皮切りに観客のあちこちでブーイングが飛ぶ。

そんな時、笠間和紙を披露しているプレイヤーの後ろから銀髪の男が姿を現す。

すっと右手を動かし、彼の腰まで届きそうなドラを取り出す。そして――。

 

 

 

ぐわあああぁぁぁぁぁん!!!

 

 

 

下段回し蹴りでドラを叩き、ドラゴンの咆哮の様な低い音が観客の一切合切を黙らせた。

 

「なっ、何すんだよ!?」

 

「失礼。そろそろ本番に行こうかと思いまして」

 

「ふざけんな!これからって時に邪魔すんじゃねぇよ!!」

 

「そうだそうだ!」

 

傘回しをしていたプレイヤーがラジラジを包囲する。彼らに乗じて観客席からもラジラジへのブーイングが飛ぶ。

 

「……そうですか」

 

静かに観客を一瞥した瞬間、若干トーンの落した声で訊ねた。

 

「……つまり、『俺達をここの外周へ放り投げてくれ』と言う事ですね?」

 

「「「すいませんでしたぁッ!!!」」」

 

「わかればよろしい」

 

土下座した。秒で土下座した。文句を言ったか否か関係なく全員が土下座した。

 

「では、後は願いします」

 

再び一瞥するとステージの奥へと消える。そして入れ替わりにチカがステージに立つ。

 

 

 

 

(……自分で言いだしたとはいえ、凄いプレッシャーですね。こうしてステージに立つのは)

 

チカが提案した考え。それはラジラジの計画の後、チカ自身のサプライズライブを行うと言うもの。

提案した当人にすらかなり無茶苦茶と思える作戦だが、彼女の目的は少しでも場の空気をライブ側に傾ける事。

 

(……!)

 

向けられる目線は、期待なんてものは微塵も感じられない。

どうせこいつも同じ隠し芸を披露するんだろう――。

失望しているプレイヤー達の目線とプレッシャーで、息が詰まりそうな感覚に襲われる。

 

(……無謀だった?やっぱり、私にはこんなこと……)

 

 

 

 

「――チカッ!!」

 

 

 

 

諦めそうになったその時、背後からの声で反射的に振り返る。

同時に跳んできたそれを受け取めた。マイクだった。

なんでこんなものが?不思議に思ったチカがステージの奥、袖の裏に視線を移すとそこからノゾミとレイン、ユナが顔を覗かせていた。今のマイクは3人の誰かが投げたのだろう。

ユナは親指を立て、レインは口の動きだけでがんばれと伝えている。

 

「……!」

 

3人を見たチカの胸から、すっと閊えが下りたように息苦しさが消えた。

 

(……そうだ。後に繋げると言っても、私が独りで歌う訳じゃない。ノゾミがいて……レインさんがいて……ユナさんがいる……そして、ユイさんやマコトさん、ツムギさんに【ゴスペル・メルクリウス】や協力してくれた皆さんがいる……なら後は、私自身を最大限に引き出すだけ……!)

 

ふと思い返すのは、幼少の頃。

初めてのピアノコンクールで自分の番になった時、緊張とププレッシャーで金縛りに遭ったように動けなかった。しかし観客席から見守る家族を見つけた時、自然と緊張がほぐれていった。

結局、そのコンサートは入賞は逃したものの、彼女にとって大きな一歩を感じることができた。

 

「皆さん。先程は私達の仲間が失礼致しました。ここからは、真のライブ・イン・アインクラッドの始まりです。まずは先の毒抜きとして最初の曲をお楽しみください」

 

ステージの後ろにある台座に《録音結晶》を取り出し、再生する。

 

 

 

 

曲の始まりと共に淡い緑色の光がスポットライトのようにチカを照らす。

 

 

「――風の精よ

この歌に今宿り給え

蒼穹の加護 纏う(たましい)

我らと共に

 

嵐産み 草木を揺らす

待機に流る力

星の営みの護り手となれ

 

生命の巡る音が思いをつなぐこの空

祈りの調べ 永久に 奏で続けたい

世界の景色(すがた)さえも 移ろう時の彼方に

希望を紡ぐための誓い 今ここに」

 

 

観客は先程のざわめきが嘘のように水を打ったかのように静まり返る。

誰もが、祈りを捧げるかのようなソプラノボイスで紡がれる歌に聞きほれていた。

 

 

「大切な気持ちを 今すぐに伝えたい

ずっといまつまでも 傍にいて

 

生命の巡る音が思いをつなぐこの空

祈りの調べ 永久に 奏で続けたい

世界の景色(すがた)さえも 移ろう時の彼方に

希望を紡ぐための誓い 今ここに――」

 

 

 

 

曲が終わるとともにふわりと風がチカの髪を薙ぐ。

数分間の沈黙の後、拍手が観客の中からして、やがて喝采が巻き起こる。

 

「すっごい!あの子誰!?」

 

「ユナちゃんやノゾミちゃんレインちゃんとも違う、なんて神秘的なんだ!天使か!?天使でもいたのか!?」

 

「前座でとんでもないダークホースが出たぞぉ!情報屋はなんでこの子を秘匿してたんだ!?」

 

観客の中のざわめく中、我に返ったチカが顔を真っ赤にしてステージから去って行く。

 

「やったじゃない!本当に会場の空気がライブ一色になっちゃった!」

 

「さっすがチカちゃんだよ!あんな歌どこで思いついたの!?」

 

「こんな近くに思わぬ伏兵がいたなんて思わなかったわ……」

 

楽屋でもチカの歌は絶賛の嵐だった。

 

「ふしゅうぅぅ……」

 

「……あらら、刺激が強すぎたみたい」

 

肝心のチカは倒れ込むように椅子に座るや否や、口や頭から煙を噴いている。

 

「じゃ、次は私の番ね。チカが空気を作って、私がボルテージを高めて、最高潮になった所でユナとノゾミが決める!どう?」

 

放心するチカからマイクを取り、レインがステージに上がる。

 

「レイン」

 

「……正直に言えば不安だけど、チカがここまでやってくれたんだ。私も全力を出し切ってやらなきゃ!」

 

振り返ったレインは、ぱちりとウィンクをするとステージへと駆け上がった。

 

 






次回「ライブ・イン・アインクラッド(後編)」


【使用楽曲】

「プリンセスコネクト!Re:Dive」より「風の誓い」

使用楽曲コード:722-0191-6
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