プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
前回までのあらすじ
74層ボスグリームアイズ戦の最中、白ローブのプレイヤーの集団の集団PKによる妨害に遭い、絶体絶命の窮地に立たされる。
その時キリトがユニークスキル《二刀流》を解放し、ボスを撃破。
翌日ヒースクリフに召集されたキリトは、ノゾミ、ラジラジと共にアスナの【血盟騎士団】からの引き抜きか、自身が入団するかの決闘に応じるのだった。
その1回戦、ノゾミの相手はケダモノと化したシズルだった。
(・大・)<仕上がったので投稿します。
「ノゾミさんッ!?」
思わずティアナが叫ぶ。
まるで大量のダイナマイトを爆破させたような衝撃と轟音でその威力を物語っていた。
あの一撃で死んだかもしれない。観衆の誰もがそう思い青ざめていると、
「――ぃやあああああああああああ~~~~~~!!!!」
「生きてた!」
土煙を突っ切ってノゾミが姿を現すと、ほっと胸を撫で下ろした。
しかしまだ終わりじゃない。
「…………!!!」
標的をノゾミに移したシズルが、猿轡越しにくぐもったケダモノの様な呻き声を上げ、突進する。
《シャープネイル》にも似た動きでノゾミに迫る。
「わっひゃあッ!?」
間一髪横にダイブする形で回避。標的を失い、そのまま観客席へと突っ込んでいった。
「うわああああッ!!」
「ぎゃああああッ!!」
「どわああああッ!?」
「うそでしょ!?」
それでもシズルは観客をなぎ倒しながらUターンする。中には重装備のタンクプレイヤーも交じっていた。
「………………!!!!!!!」
猪――いや、もはやダンプカーもかくやの勢いのまま、シズルはノゾミに向かって突進する。
「うぐっ……!?」
今度は避け切れなかったのか、止むを得ずファルシオンで突進を逸らそうと構える。一瞬だけガキン!と甲高い金属音が鳴ったかと思えば、剣同士が火花を散らし、ノゾミの直撃から力が逸れていき、遥か後方の壁に激突した。
「ふぅ……うわっ!?剣が!?」
剣を杖代わりに起き上がった所で自分の剣を見てみると、今の一撃で刀身にひびが入ったようだ。恐らく耐久値がほとんどなくなったのだろう。
安全性を考慮してヒースクリフが初期装備を渡したのに、防御したうえでの武器のダメージがこれである。恐らく攻略用に使う武器で直撃したら、確実に半分――最悪、本当に一撃死もありえたかもしれない。
「…………!!!!!」
「いやあああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?」
猿轡が噛み砕かれるほどのくぐもった雄叫びを上げて、シズルが迫る。
その殺気と希薄に気圧されて――ノゾミは逃げ出した。
そこからは時間いっぱいまでの鬼ごっこが始まった。ノゾミが逃げ、シズルが追うように攻撃を仕掛け、避けた先にいる観客が巻き添えを喰らう。
そんな長いようで短い3分間を繰り返し、必死に逃げた。リザインする暇なんて無い。というか、今の彼女がリザインを受け入れるかどうかも怪しい所だ。
そして――、
『タイムアップ~!勝者はシズル選手だああああ!!団員の皆さん、早く拘束して!』
ダイゼンが叫ぶが、闘技場はそれどころではなかった。
ぶっ飛ばされたプレイヤーは死に体に鞭といった様子で起き上がり、【血盟騎士団】の面々は今も暴れるシズルの拘束に手一杯である。挙句被害を受けなかったプレイヤーも、シズルの狂気に全員血の気が引いて心なしか全身が青白く見えていた。
一方、死に物狂いで生還したノゾミは覚束無い足取りでキリト達の所に戻り、ばたりと倒れた。
「おい……大丈夫か?」
「…………コロサレソウニ、ナタヨ」
「相当酷い目に遭ったようですね。無理もない」
間近で暴走するシズルの相手をしていたノゾミは既に目が死んでいる。
流石のラジラジもノゾミの有様に引いていたようだ。
『さあ最初の興奮も冷めやらぬうちに、次に行きましょう、次に!』
「興奮冷めやらぬって、全員ドン引きだっただろ……」
「あの人、近いうちに逆恨みで殺されるかも……」
無理矢理次の試合に持っていくダイゼンに、キリトとアスナは揃って彼の未来を心配するのだった。
「な、何とか生き残ったようだが……大丈夫か、彼女……?」
1回戦の逃走劇を見て、ユースが心配そうに感想を漏らした。
「あー。シズルさんの事もあるけどね……」
見ると、暴れながらも鎖で雁字搦めに縛られ、布を被されるシズル。《狂剣士》のSTR強化による凄まじいパワーで団員を振り回す様はさながらボスモンスターだ。
「ツムギ?どうしたの?」
シズルから視線を移すと、今度はどこかに行こうとしたツムギに声を掛ける。
「あの……今すぐノゾミさんのところに土下座しに行ってきても良いですか?」
「はぁ?」
「シズルさんがああなった原因……多分私とシリカさんの所為です……」
顔を蒼くしながら呟くツムギの言葉にフィリアはただ首を傾げるだけだった。
†
『さぁ次の対戦カードはこの2人!赤コーナー、我らが【血盟騎士団】副団長!その傍若無人な振る舞いなのにいつも戦果を果たすのはどういうチートだ!?クリスティーナ!』
「随分私情が入りまくった企画者だな?」
『青コーナー、かつて脱落した【ブレイブ・フォース】を立て直し、今や我らと肩を並べるまでに復活!不死鳥の如き復活を遂げたギルドマスター、ラジラジィィィィィィィ!!!』
「ふざけた紹介だ」
お互いの商会は双方気に入らなかったらしい。
だが今度は手早くクリスティーナが、先程と同じように決闘を申請する。
Christina
VS
Rajiraji
【完全決着モード】
「!?クリスティーナ君、設定が違うぞ!!彼を殺す気か!?」
決闘ルールを見たヒースクリフが叫ぶ。完全決着とは文字通り、相手のHPが全損させた方が勝つ――SAOの中で唯一の合法的な殺し合い。SAOでは最もやってはいけない暗黙の了解の一つだ。
さらっと禁忌のラインを跳び越えたクリスティーナは……笑っていた。
「何を言っている?私は坊やと戦いたいのを我慢して3番目を選んだんだ。これくらいのワガママくらい通しても問題はあるまい?」
「そういう意味じゃありません!ただの前哨戦だっていうのに本気の殺し合いなんて……!」
「安心しろ。制限時間は着けてやった。これくらいの条件でなければ私もイマイチ燃えないからな。最も、この程度で怖気づく程度ならば私の『最も戦いたいプレイヤー個人ランキング』TOP3に名を連ねることはできないからな」
「それ、団長やキリト君にも同じ条件で挑もうとしたって事ですよね!?」
「その通りだ。勘が鋭くなったな、アスナ?」
「まさか、こんな所で彼女に振り回されようとは……!」
余りの理不尽な理由にアスナも思わず叫んで抗議する。が、クリスティーナは依然として態度を崩さない。その態度に流石のヒースクリフも苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「ダイゼンさん、今すぐ決闘を取りやめさせて!」
『ええっ!?いや、システム上受けちゃったからもう……「誰が断ると言ったのですか?」は?』
しかし、困惑するダイゼンに待ったをかけたのはラジラジ本人だった。
パキパキと指を鳴らし、すっと拳を構える。
「私も、正直フラストレーションが溜まりっぱなしなんですよ。脳死同然のモンスター、お遊びの決闘ごっこ、
「うっそぉ!?」
「まじかよ……?」
まさかの承諾にカオリとラジラジを筆頭に、【ブレイブ・フォース】の面々が驚愕する。そりゃそうだ、自ら殺し合いに参加するなんて全プレイヤーからすれば正気の沙汰とは思えない。
観客席の一部から「バカヤロー!」や「早く誰か止めろー!」と叫ぶが、虚しくカウントは0になる。
瞬間、轟音と衝撃が観客席を襲った。
「――んなぁ!?」
誰かが叫ぶ。
彼らの目の当たりにしているのは拳のラッシュに、両手剣の応酬。ラジラジに至っては両肩から先が見えないスピードで拳を繰り出し、クリスティーナは重量武器に類する両手剣をまるで小枝でも振り回すかのようにラジラジの拳を的確に捌いていく。
次の瞬間、クリスティーナが地面を蹴ってラジラジの顎目掛けて蹴り上げる。それをコンマ数ミリ当たらない距離という僅かな回避をする。直後に回し蹴りでクリスティーナの腹を狙う。が、それは逆手持ちに握り直した両手剣で阻まれ、そこでお互い距離を取った。
「はっ、挨拶は十分できるようだな」
「その言い草……はらわたを引きずり出して握り潰したほうが良かったですか?」
「ははは!お前は意外と冗談が好きなようだな!」
「とっとと終わらせたいだけですよ。私は彼の招待でこのゲームに乗り込んだあなたとは違うんです」
「フン、連れない奴め。だが今は本部からの下らん任務を忘れて楽しもうじゃないか!あの時くたばったのがお前でなくて助かったよ!おかげでこの決闘、退屈せずに済みそうだからなぁ!!」
「私はうまい話にホイホイ飛びつく能無しの連中とは違うんです……よッ!!」
会話を交わした後、動いたのはラジラジだった。マントを右腕に包み、距離を詰めていく。
単調な動きとクリスティーナは右に避け、空振りした拍子にラジラジが大きく体勢を崩す。が、次の瞬間ライトエフェクトを纏った左脚が視界に入り、バックステップで避ける。直後に前転の要領で着地したラジラジが地を蹴ると同時に《疾風》を発動。弾丸の如きスピードで放たれたラリアットがクリスティーナの首を捉えた。
「……ッ!」
「甘いな!」
が、それは咄嗟に前に翳した両手剣に防がれた。束を両手で掴むと両手剣がライトエフェクトを纏いだす。次の瞬間、周囲を薙ぐソードスキル《サイクロン》が放たれた。
文字通り旋風でも巻き起こしそうな勢いのそれの直後、周囲を見渡すとラジラジの姿は無い。
「隠れたつもりか?お見通しだ!」
逆手で両手剣を握り直したクリスティーナが再び自分の背後へと剣を振るう。次の瞬間、足への衝撃と共に視界がぐらりと揺らいで倒れた。
「何!?」
倒れて状況を確認する前に、ラジラジがクリスティーナの頭を潰さんと踏みつけてきた。転がって回避した直後、ラジラジが手刀スキル《スライサー》でクリスティーナの首を切り落とさんと振り下ろす。
「――舐めるなよ?」
呟いたクリスティーナが剣を手放した。次の瞬間ライトエフェクトを纏った右手を強く握りしめる。そしてラジラジの手刀とぶつかり合う。
まるで剣同士のぶつかり合いの如く弾かれて両者が後退する。
「……ここまでやるとは、流石ですね」
「はっ、お前もな」
立ち上がったクリスティーナがガン!と剣の剣先を踏む。てこの原理で飛び上がった柄を握ると、切っ先をラジラジに向ける。
「そろそろ温まってきた頃だ。精々私を楽しませてくれよ?」
「良いでしょう。こっちも半分程度で調整が難しかったんです。本気で、とことん付き合ってやりますとも」
再び構えるとともに、2人の周囲の空気が一変する。
僅かな沈黙の後、互いの空気が触れてスパークを起こした様に、駆け出した。
『そこまでぇぇぇ!!!両者HP満タン、引き分けですッ!!』
が、同時にダイゼンのその叫びでお互いの手が止まる。
ラジラジの手は《エンブレイザー》がクリスティーナの眼前に迫り、クリスティーナの剣はラジラジの胸の寸前で止まっていた。
「……ぶはぁ!あ、あれがリーダーさんの本気?初めて見た……!」
「うちのメンバーでも同じ条件で5対1だったとしても、半分も持たずに全滅してるぞ……というか、あれで本気の半分程度!?」
【ブレイブ・フォース】の面々もラジラジの本気を目の当たりにして呼吸する事すら忘れてしまったらしい。
他の攻略組プレイヤーも、2人のバトルに圧倒されて言葉も出ないようだ。
「あ、あの2人はいくら何でも強すぎだろ……ほんとに攻略組……つーか、人間か?」
「あの人だけでも100層まで行けるんレベルじゃねーか……!?何者なんだ、あいつら?」
テンカイとマコトも顔を引きつらせてそう言う。思わずそう言ってしまうほどに、2人の戦闘の激しさを物語っていた。
『さ、さあ!皆さん!唖然とするのもそこまで!次はいよいよメインイベント!!2つのユニークスキル持ちのプレイヤーの激突だあああああああ!!!』
「……さ、後はあなた達ですよ」
「あ、ああ……」
「つまらん戦いをしたら、今度は私のダンスに付き合ってもらうぞ、団長?」
「……善処はしよう」
対戦した両社からバトンタッチされ、ついにユニークスキル持ちの2人が対峙する……。
次回「二刀流と神聖剣」