プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
前回までのあらすじ
シリカの素材集めに誘われたユイとノゾミは、その途中フィールドダンジョンのトラップで分断されてしまい、落下地点でラフコフのスカーネイルと遭遇する。
なんとスカーネイルも準ユニークスキルの持ち主だった。
何とか逃れた2人はユイと合流して回復。シリカの案で
シリカがスカーネイル捕縛の策を思いつく。その時間稼ぎとして残ったノゾミは、一人スカーネイルと対峙するのだった。
(・大・)<巡り巡って全話から1週間。その日の翌日に挙げられるとか言った奴はどこのどいつだ。
(・大・)<……俺だよ。
狩るように双爪が閃く。
踊るようにファルシオンが舞う。
「驚いたねぇ!ここまで俺に食らいついてくる奴なんて初めてだよッ!!」
「そりゃアイドルで鍛えてるからねッ!!」
攻撃をいなしながら、叫ぶように言葉を交わす。
しかし完全に捌き斬る事は出来ず、双爪の攻撃が掠り、次第にHPが削れていく。
(最初に掠ったものと比べてダメージが大きい!これも《獣王武刃》のスキルなの!?)
「悲鳴を聞きたいからってだけで理由だけでPKギルドに入ったの!?」
「ハハッ、ギルドに入る理由なんてそんなもんだろうがッ!!」
茶化す様にスカーネイルが笑った途端、またぐっと身を縮めてノゾミ目掛けて飛び掛かる。
腰から下を狙う下段攻めに、《体術》を絡めた足払い。それらをノゾミは集中して捌いてく。
双爪の攻撃を防いだ瞬間、ファルシオンに重いものでも乗ったようにぐん、と体勢が前のめりに崩れる。そして迫るスカーネイルの、緋色の光を纏った牙。間一髪身体を無理矢理捩じって回避し、壁に手を着いて体勢を立て直した。
「……噛みつきも《体術》に含まれてるの?」
「ンな訳あるか。これも《獣王武刃》のスキルの一つだ。条件に生物系モンスターに噛みついて殺せなんて条件、聞いた事ねぇよ」
まるで当時を思い返す様にケラケラ笑いながら語るスカーネイル。
対してノゾミは思わず渋い顔をした。目の前のスカーネイル……というより、条件を考案した茅場明彦に。
(どうしてこんな無理ゲーみたいな条件を作ったんだか……)
「それにしてもお前、随分噂になってたよなァ。アレだろ?『ライブ・イン・アインクラッド』だったか?」
距離を取り小休憩と言わんばかりに訊ねてきた。
「それがどうしたの?」
「良いもんだよな。大勢のファンに囲まれて。歌を披露して。そしてライブは大成功。おかげで最前線トッププレイヤーにも並ぶ有名人だ」
「……何が言いたいの?」
「そして解放されたら現実でもアイドルになろうってのか?」
途端、滑稽だと言わんばかりに大笑いする。
その態度に苛立ちを感じたノゾミの、ファルシオンの柄を握る手が強くなっていく。
「……何がおかしいの!?」
「なぁに。ここに閉じ込められる前にいたある音楽家とパターンが似てたんだよ。まるっきりな」
「音楽家……?」
「そいつは音楽の才能は確かにあった。アンタや他の連中にもそういう点はあったんだろう。だがな、その音楽家は思うように突き進んだある時、一気に暗闇が襲った」
「暗闇?」
「その闇に男は当然抗った。だが結果としてそのまま闇に呑まれ、世間からはその名は消えてしまったそうだ……」
舞台で台詞を言うかの如く大げさな身振りで語る。
が、次の瞬間《疾走》スキルを発動し瞬く間にノゾミに肉薄する。
「お前もいずれそうなるんだとしたら?」
吐息が届くほどの接近に、ノゾミは思わず呼吸を忘れてしまうほどだった。
「この世界で調子に乗って、アイドルとしてステージに駆けあがる夢でも見てたのか?そりゃいいよなぁ?夢を持ってて。だがそれがいきなり暗闇に呑まれたらどうする?必死に抗っても、どこまで足掻いても真っ暗闇の只中。次第に圧迫されて、潰されて、次第に自分の感覚が失っていく。ずぶずぶと底なし沼に沈んでいくようにな……」
「……ッ……そ、そんなことは……」
「ならないってか?そんな保証はどこにある?」
纏わりつくスカーネイルを振り払うように剣を振るう。
「まぁともあれ。俺の攻撃も粗方対処できるようになっちまったようだな……こりゃ、厄介だ」
「じゃあ諦めてくれる?」
ノゾミの挑発的な言葉に「いいや」と一言否定して返す。
そして、じゃり、と石畳を削る双爪が赤く閃く。豹や虎が獲物に飛び掛かる前のようにぐっと身を屈める。
「とっておきで仕留めるんだよ!」
瞬間、身を捻って飛び出した。
擦れ違い様に双爪で斬り裂こうとノゾミ目掛けまっすぐに突き進んでいく。
(――速い!)
噛みつきの飛び掛かりよりも早い突進に対し、寸での所で回避するが、掠り傷を受けてしまう。
突進したスカーネイルは速度を落とさず壁へと走る。そして軽く跳躍し、弾かれたボールのように壁を蹴って再びノゾミへと突進する。
(壁を蹴った!?)
再び双爪の斬撃がノゾミの身体を掠める。反射神経でもちゃんと追える。だが、それでも攻撃スピードは目に見えて速くなっていく。
速さに比例して受け止める攻撃の重さも増してくる。ノゾミの反射速度でも追いつけるレベルだ。しかしAGIの差か、次第に速くなっていく。
(戦闘中にスピードを上げるバフでも掛かってるの!?)
――《縦横無尽》。
準ユニークスキルとも呼べるスキルの熟練度を上げていくと、あるスキルが手に入る。
それは《狩猟の血潮》と《獣の傷痕》という。
《狩猟の血潮》は戦闘中、双爪で相手にダメージを与えた時、1回与えるごとにAGIが1%上昇し、最大100%まで上昇する。
《獣の傷痕》はダメージを与えた個所に特殊なダメージエフェクトを残し、そこを的確に攻撃することで3%ダメージを上乗せする。更にアバターの身体欠損の修復時間を遅らせる能力を秘めている。
ダメージを与え続けるほどに俊敏になり、刻まれた傷痕を攻撃して相手の命を削り落とす。
高まるAGIと予め持っていた《軽業》により、文字通り縦横無尽に戦場を駆け巡り、獲物の命を刈る獣。それこそが、《獣王武刃》である。
そしてスカーネイルのステータスの場合、最高速度に達した時はアスナと同等の速度を誇る。
次第にスピードが高まり、壁や床にすら双爪の痕が刻まれるように火花の様なライトエフェクトが散る。ノゾミの身体も、紅いダメージエフェクトで全身が真っ赤に染まっている。
(ヤバい、そろそろ目で捉えるのがやっとになってきた……!シリカちゃん、まだなの……!?)
HPはギリギリ危険域を保っているが、あと数十秒もすれば尽きるだろう。
未だに来ない合図に焦燥しつつも、見えなくなったスカーネイルの斬撃を死に物狂いでいなす。
「クアアァッ!!」
その時、ノゾミの背後からピナの鳴き声が通路に木霊した。
――合図だ!
確信したノゾミは再び向かってきたスカーネイルの攻撃を《カーム》で弾くと、バックステップでその場から退くと、ピナを小脇に抱えて《疾走》を発動。一目散に逃げだした。
「逃すかよッ!!」
《狩猟の血潮》で上がったAGIはモンスターやプレイヤーが消滅や逃走などで、一定の距離から離れると強制的にリセットされる。
だがそれでも、高いAGIではノゾミに追いつくのは造作も無い。彼も《疾走》を使い、地を蹴って標的へと駆け出した。
†
一方、罠を張ったシリカとユイはノゾミが戦闘をしていた少し先の小部屋となったエリアで待機していた。
「ノゾミさん、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫。まだ死んでないよ」
不安げなシリカにレインが不安を取り除くように優しく返す。
マップで確認すれば緑と黄色の光点が素早くこちらに向かってきている。
時間は午後18時59分。19時まで残り20秒。
シリカの計画は1秒でも遅れればアウト。厄介なモンスターと殺人者プレイヤーの挟撃を強いられる形になる。そうなれば3人揃って死亡してしまう可能性が非常に高い。
「――来るよ!」
緊張感と、もし失敗したらという不安に呑まれそうになった時、レインの張りつめた言葉に我に返った。
手を見ると危うく縄を放しそうになっていたので慌てて握り直す。
入り口を見ると、ピナを小脇に抱えたノゾミがスカーネイルに追われるノゾミの姿が視認できた。
「ちょっとまずいかも……!ノゾミさん、もっと速く走ってください!」
「これでも全速力なんだよ!?」
「だったら風よりも速く走ってください!!」
「「無茶言わないでッ!?」」
「じゃあゲネプロでどうにかしてください!!レインさん!」
シリカの張りつめた声にレインもシリカの方を向く。
シリカも同様にレインと向き合い、同時に腰を据えて、ぐっとお互い縄を強く引っ張った。
瞬間、浅く土をかぶせた縄が姿を現し、綱引きの要領でピンと張った縄は高速で迫る2人の足を引っかけてやろうと言う古典的な罠になる。
「――ッ!」
ノゾミは地面から10センチ程度の高さの位置に張った縄をハードル飛びの要領で跳び越え、すぐに壁際に身を寄せる。
「罠のつもりか!?舐めんじゃねぇ!!!」
スカーネイルはさらに加速し、ノゾミと同様に跳んで縄を回避。勢いそのままに壁に飛びつき、壁に着地する。
顔を上げたその先には、3人と1匹の獲物。
「――終わりだ」
勝利を確信し、次の瞬間に聴覚を刺激する着地した勢いを反動に、縮み切ったばねの如く飛び掛かった。
その時、スカーネイルの目の前の空間が渦を巻くように歪んだ。
「――あ?」
思わず呆けた声が出る。
空間から球体の水晶が現れ、それを纏うように半透明の、薄紫色の古びた布切れをローブにしたような亡霊型のアストラルゴーストが現れる。
「なっ、なんだこいつは!?」
勢いは止まらず、アストラルゴーストはスカーネイルに気付き、何かを放とうと腕を伸ばす。そのままアストラルゴーストをすり抜けたスカーネイルの身に異変が起こる。
身体が鉛のように重くなり、思うように動かない。
「こっ、これは……!?」
簡易ステータスには剣と盾、靴のアイコンに下向きの矢印が合わさったマークが現れる。
これらは攻撃、防御、移動速度減少のデバフを受けた証だ。
このアストラルゴーストの名は《ウィーカーズ・アストラル》。アストラルゴーストと呼ばれる、所謂幽霊型モンスターと呼ばれるものだ。
その中でもこのモンスターは触れた相手に3種類の弱体化デバフを与えるスキルを持ち、当時の攻略組からはかなり嫌な相手だったらしい。因みにこの《ウィーカーズ・アストラル》は基本このエリアのみ、そして19時から翌朝5時までの間に出現するだけだ。
シリカの作戦はこうだ。まず単調な即席の罠を展開。だがそれは罠にかける為ではなく、破られる前提の囮。
本命は出現した《ウィーカーズ・アストラル》のスキルで弱体化した所を捕らえるというものだ。
「今です!」
シリカの合図に3人が動き出した。
レインがスカーネイルを縄で拘束。
ノゾミとシリカがアストラルゴーストがこちらに気付いた瞬間にピナのバフによって上昇した攻撃力による《連刃剣舞》のソードスキルの連撃と、短剣のソードスキルで的確に水晶を切り裂く。
「まだ来るよ!」
すかさずアストラルゴーストが鎌を召喚し、ノゾミとシリカを狩り取らんと振るう。
大ぶりの攻撃をシリカに当たる前に回避。すかさずダガーでコアを斬り付ける。
「てぇい!」
更にノゾミの《連刃剣舞》の追撃の3連続剣舞ソードスキルで斬り付ける。
悲鳴が上がり、コアが砕け散った《ウィーカーズ・アストラル》はポリゴンとなって消滅した。
「……ふぅ。やりましたね」
「ナイス作戦勝ちだったよ、シリカちゃん♪」
「シリカちゃん、ここが時間帯で出るモンスターが変わるって知ってたのか?」
戦闘を終えてハイタッチをしたところでスカーネイルが訊ねてきた。
縄で縛られているにも関わらず武器を構えてしまう中、シリカが答えた。
「ここを教えてくれた情報屋さんから教えて貰ったんです」
「情報屋?……山高帽を被った男か?」
「そう――え?何でそのことを知ってるんですか?」
「あー……だとしたらヤバいな」
「え?」
次の瞬間、《ウィーカーズ・アストラル》の消えた場所に黒い旋風が渦巻く。
旋風の中で漆黒の水晶が現れ、それを上半身のみの白骨と赤黒いローブが纏う。手には幾人もの命を刈り取ったかのように、黒く変色した返り血を浴びた
「な……何なの、コイツ……!?」
「あ……あたし、こんなの知りませんよ!?」
シリカが知らないのも当然。このモンスターは《ブラッドカーズ・ファントム》と呼ばれる、このフィールドダンジョンのボスクラスのモンスターである。
触れた相手をスカーネイルと同じ状態異常にするだけでなく、突撃槍による刺突攻撃を用いる。
そのレベルは……55層クラス。
「――やばっ……!」
プレッシャーに圧倒されて、《ブラッドカーズ・ファントム》の攻撃のアクションに一瞬遅れてしまった。
まるでボクシングのストレートパンチを繰り出すかの如く放たれた突撃槍は、まっすぐノゾミを狙う。
――ドガァァン!!
轟音と共に土煙が立ちのぼる。
「の、ノゾミ……!」
レインもシリカも、逃げ遅れたノゾミが居たであろう土煙を愕然とした様子で見ていた。
スカーネイルとの戦闘でのダメージはまだ回復しきっていない。あの一撃を喰らえば、49層の安全ラインを越えているプレイヤーですら致命傷は免れない。今のノゾミなら死亡もあり得るだろう。
次第に土煙が薄くなり、人影がはっきりする。
「……え?」
完全に煙が晴れてそこにいたのは、突き飛ばされたように倒れたノゾミと、突撃槍に胴体を貫かれたスカーネイルだった。
プレイヤーを貫いた《ブラッドカーズ・ファントム》は貫いたスカーネイルを、槍を振るい放り捨て、ノゾミの近くに落下した。
「あ、あなたなんで……!?と、とにかく回復を……!」
急いでポーチからポーションを取り出し、スカーネイルを回復しようとするが、飲ませようとした直前、当人から払いのけられた。
「必要ねぇよ……あの野郎、俺ごとテメェらを殺すつもりだったみたいだな……」
彼から発せられた言葉の衝撃に、ノゾミは声を失った。
彼の生命を知らせるHPバーは、既に赤く染まり、あと数ミリしかないにも関わらず今も徐々に減っていく。
「おい。仮にも俺を捕まえたんだ。最期にふたつ伝えといてやるよ」
「伝えてって……何言ってるのこんな状況で!?」
「良いから黙って聞け。良いか?一つ目はさっきの戦闘中での会話を、そいつとあとの2人に伝えろ」
「あの2人……チカとユナの事?でも、なんであなたがあのライブの事を……」
「そりゃ噂になってるからな。もう一つは今攻略組が躍起になって攻略してる75層に存在する階層ボスの攻略時に、俺達は事を起こす」
「事を……」
「起こす……?」
「ああそうだ。それが成功すれば、クリアは永遠に不可能となる」
最後の一言は、最初は2人には意味が分からなかったが、すぐにその真相に気付いて目を見開く。
表情から察したスカーネイルは立ち上がり、まるで舞台に立った俳優のように叫ぶ。
「Menschen, wisst, dass Arroganz Ruin ist!!!」
己の最期を悟ったが故か、狂笑を交えたその言葉の直後、《ブラッドカーズ・ファントム》に叩き潰されてポリゴンとなって消滅した。
「「「……!」」」
その壮絶な最期に、3人とも言葉が出ず愕然としていた。
――オオオオォォォォォォ……!
《ブラッドカーズ・ファントム》は、まるで魂が足りない、もっと寄越せと言わんばかりに雄たけびを上げる。
そして次の標的たるノゾミ達に視線を向けた。
「……レイン、転移は?」
すっと立ち上がったノゾミの問いに、レインは静かに首を振る。
「……じゃあ、アイツを倒すしか生き残れないって事だよね?」
「さらっと言ってるつもりだけど、一応相手は格上だよ?」
「それでも、生き残るにはそれ以外に方法が無いならやるしかないよ。それに……私達は、死んだスカーネイルのあの言葉を伝えなきゃならないの」
「ノゾミさん……」
すっと切っ先を《ブラッドカーズ・ファントム》へと向けるノゾミの後ろで、レインが溜息を吐きながら剣を抜き、彼女の左隣に立つ。
「――まったく。呆れるくらいにどこまでもまっすぐなのね。まあでも、その無茶に乗るしかないんだよね、現状こいつをどうにかしないと脱出できないのも事実だけど」
「レインさん……」
前に立つ2人の背を見るシリカ。そんな彼女の傍にピナが一声鳴く。
そのひと鳴きに意を決したのか、立ち上がって短剣を逆手持ちで構える。
「「「――ああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」」」
3人の少女が呪いを振り撒く赤き亡霊へと挑んでいく。
まだ死ねない。たったそれだけの理由で、目の前の彼女らにとっての理不尽へと挑む。
†
その後――。
「お前ら、どこ行ってたんだよ!?」
「「「ごめんなさい……」」」
《始まりの街》へと帰って来た2人に待っていたのは、マコトからの叱咤だった。
「――ったく。無事なら無事って言ってくれよな?」
「こっちもこっちで色々立て込んでてね。まぁ、シリカちゃんとの狩りでそれなりにこっちの取り分もあったから」
「おい。モノで誤魔化してんじゃねぇよ?――ってか、なんでそいつがいるんだ?」
首を傾げながら目線を向けている先には、頬に特徴的なペイントを施した女性プレイヤー、情報屋の鼠のアルゴだった。
攻略に関わる情報を生業とする彼女がこんな場違いな場所にいることに違和感を感じたのだろうか。
「シーチャンから聞いたヨ。山高帽の男の情報屋の事」
「はい。まさか、あんなトラップがあったなんて思わなくて……いまさら言っても言い訳にしかなりませんよね。こういうの」
「それもそうだが、オレッチが追ってる件にも情報PKが起きてたんダヨ」
「情報PK?」
聞きなれない言葉にレインが首を傾げた。
「このSAOが始まった中で、提供した情報の中に嘘の情報を交えるやり方はこれまでにもあったんダヨ。犯罪者ギルドの中には、グリーンプレイヤーが有益な情報を送って他の面子が待ち伏せし、そこにきた獲物共を一網打尽にするって具合にナ」
「酷い……」
「ダケド、今回シーチャンのケースはちょっと違う。あえて危険な情報を秘匿した状態で売りつけて殺害するってパターンだ。キー坊の件もこれにそっくりダ」
「同じ状態で?でもアルゴは攻略情報の本を出してるから、早々に引っかからないんじゃないの?」
「それに、どうして他の情報屋よりも安くしようとは思ってないんですか?」
頷いた所でマコトとシリカが疑問を口にした。
その2人にアルゴは肩を竦めながら言う。
「オレッチはこう見えてもソロだぞ?最前線の情報も集めなきゃだし、どうしてもそういう所には穴ができちまうからナ。それニ、情報屋の交渉では安すぎると逆に疑われやすくなるから、あえて同じ価格で情報を売ってるんダヨ。危険なトラップとかの情報を伏せてナ。その手の被害で死者は10人以上も出ている」
「……ん?キー坊?確かそれって、キリト君の事だよね?まさか――」
「そのまさかサ。【月夜の黒猫団潰滅事件】も、同じ手口でやられたんだろう。危険性を秘匿して提供する未必の故意。それを情報屋の間で【情報PK】と呼称していル」
「じゃあ、あのビーターのキリトって人も、騙されたうえで罪を擦り付けられたって事ですか……!?」
「オレッチはそう睨んでイル。みんなもソイツから買った情報には気をつけろヨ?」
「あっ、待って下さい!」
じゃーナ、と手を振って去って行くアルゴをシリカが思い出したように呼び止める。
「どした?」
「あの。正直自分でもこれが本当かどうかわからないんですけど……」
半信半疑の様子でシリカはスカーネイルの最期の言葉の2つ目をアルゴに話す。
「――なるほど。確かに聞き捨てならない情報ダ。知り合いに連絡して、情報の真偽を確かめるとするヨ。」
「ありがとうございます。それじゃああたしも帰ってラストスパートを掛けていきたいのでこの辺で」
「2人とも、今日はありがとう」
改めてアルゴとシリカが去った後3人の元に一斉にメールが届く。
訝し気にメッセージの送信者を見ると、エギルからのようだ。
「エギルさんから?何々……は?」
マコトの口から間の抜けた声が上がる。
他の2人も同様に思わず目を丸くして顔を合わせている。
――当人から聞いた話だが、キリトとアスナが結婚したらしい。そこでクラインが俺の店であいつらの結婚祝いをしようって言うもんだからお前ら、参加してみるか?
「結婚って……あの結婚、だよね?」
「うん。――マジで?」
付き合うという過程を経て結婚する、というならまだわかる。エギルも詳しい話は聞いていないが【血盟騎士団】に入ってから2人の距離が急激に縮まったらしい。
余りの急展開に頭が追い付かなかったが、やっと思考が追い付いたようにノゾミの顔が笑顔になる。
「……そっか。キリト君、アスナさんと……」
「なんだか、狙ってた男に本命の別の女がいたのを知ってフラれたみたいに聞こえるわね」
「誰がフラれたのよ、誰が」
レインへのツッコミを入れて再びメッセージに視線を向けるノゾミ。
「うし、じゃあユイ達も誘おうか。男子三日も合わざれば刮目してみよって言うしな」
「「賛成♪」」
マコトの一言に、レインとノゾミも大いに賛成するのだった。
次回「
(・大・)<やっとアインクラッド編も終わりに近づいてきました。