プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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「一時の宴」

 

 

エギルからキリトとアスナの結婚のメールを受け取った翌日の夜。昼間は2人の引っ越し作業でいっぱいいっぱいだったらしく、結婚祝いのパーティは夜に行われることとなった。

そして――、

 

 

 

 

 

「よーっし!それじゃあ今回は無礼講だ!キリトとアスナさんの結婚を祝して、乾杯!」

 

クラインの音頭で一斉に全員がクラスを掲げる。

エギルの店の2階で行われたパーティには当人のキリトとアスナ、主催者のエギルとクライン、来客のウィスタリア、ユイ、マコト、テンカイ、ノゾミ、チカ、レイン、カオリ、マヒル。そしてリズベットとユナとフィリアの計16人だ。

 

「いやー、おめでたいね。やっと結ばれたんだもん。こっちは内心いつになるかじらされてるような気分だったんだよ?」

 

「ええっ!?そうだったの!?」

 

「うん。アスナさん、オフの時はキリトさんの事ばっか言ってたし。キリト君が【血盟騎士団(うち)】に入ってからただでさえ近かった距離が一気に縮まったって感じだったなぁ」

 

「やめてよそこ!護衛の癖に!!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶアスナにユナは「はいはい」と素知らぬ顔で返す。

 

「そういやツムギはどうしてる?あいつは来なかったんだろ?」

 

「はい。ツムギは決闘の件で有名になったようで、オーダーが増えて顔を出せないそうです」

 

「そんなことはどうでも良いですわ。――キリトさん!!」

 

「うひゃい!?」

 

いきなり声を荒げたウィスタリアにキリトは若干上ずった声が出てしまう。

 

「どうして結婚の報告を私達にしてくれませんでしたの!?報告の一つくらいしてくれたら、大々的に結婚式の計画を開こうと思ってたのに酷いですわ!」

 

「お前に知られると大ごとになりそうで嫌だったんだよ!ただでさえアスナはノゾミ達と並ぶ人気プレイヤーの上位の常連だぞ!そんなアスナと結婚したなんて周囲に知れたら、逆恨みするプレイヤーに囲まれて攻略どころじゃないって!」

 

実際、キリトが《二刀流》を74層の階層ボスで披露する前に開かれた人気投票の女性プレイヤー部門ではアスナ、ノゾミ、ユナ、レイン、クリスティーナは上位に鎮座している。とはいえクリスティーナは「グリーン限定でヤバすぎる人部門」では堂々の1位を飾っており、企画者(ダイゼン)相手に本気で斬りかかろうとしたといおう事件はキリトもよく覚えている。

因みにその部門ではラジラジが2位、ウィスタリアは6位だったりする。

 

「あっ、ツムギから2人の結婚について話したらこんなメッセージが返ってきたの」

 

 

 

『キリトさん、アスナさん。結婚おめでとうございます。まさかお二人が結婚するなんて予想できていませんでした。

それとは別に!どうしてそのことを黙っていたんですか!少しくらい報告を早めてたら結婚式用のウェディングドレスを用意しておいたのに、2人とも酷いです!

それはともかく、服が欲しいのであればいつでも来てください。その時は黒一色しか興味の無いまっくろくろすけさんを服のセンスを上げさせてあげますから、覚悟してくださいね!』

 

 

 

「ツムギの奴、本気でキリトを着せ替え人形にしそうだな」

 

「勘弁してくれ……」

 

ツムギやアスナに目まぐるしく着替えさせられる光景に、思わず遠い目をするキリトだった。

 

「それで、マコトちゃんはあの後どうだったの?テンカイさんとは順調な訳?」

 

「ぶっふぅ!?」

 

アスナに矛先を向けられて飲んでいたジュースを吹き出すマコト。

 

「マコト、大丈夫か?ああ、さっきの質問?テンカイとは順調だべ」

 

「おまっ!何言いだしやがる!?」

 

「それに、最近は1層にいるよりもオラ達ん所にいる時間が増えてる気がするべさ」

 

「いい加減にしろよマヒルぅ~!!!」

 

「んで?そのテンカイさんはマコトのどこが好きになった訳?」

 

同じく顔を真っ赤にしてマヒルの肩を揺さぶるマコトを他所に、リズベットがテンカイに質問を投げかけた。

 

「そうだな……うまい料理を作ってくれるところ、かな?農業を継ぐのが嫌で上京したってのに、ここに来てその大切さを知らされてたんじゃ本末転倒って奴だな。それに、アイツがスゲェ笑顔でうまい料理を作ってくれるなら、生産者冥利ってやつだろ?」

 

「そ、そういうもんなのかよ?あたし、割とガサツなところもあるし……ユイみたいな奴が合うんじゃねぇのか?」

 

「それも魅力の一部だろ?今更そんな自虐ネタで俺が離れる訳ねぇだろ」

 

「テンカイさん……うぅ、この人の好意ストレート過ぎるんだよなぁ……」

 

「マコト、なんくるないさ~。これだけの事を言えるんだから、本気で惚れてるんだよ」

 

顔をこれでもかと真っ赤にして蹲るマコトに、クラインが棒読み染みた台詞でやっかみを掛けてきた。

 

「おーおー、見せつけやがって。エギル、俺とお前、そしてユースさんは同じ独りモンだろ?ここはひとつ独身者同士――」

 

「あ、悪い。俺現実で結婚してんだ」

 

「ユースさんもティアナさんと向こうで結婚してるって」

 

「チクショウ!なんだよテメェら!ハナッから裏切ってやがったのか!!」

 

「いや、テメェが勝手に勘違いしただけだろ」

 

一転、雪崩の如く崩れ落ちたクラインにエギルが容赦ないツッコミを入れるのだった。

 

「見事なジャブで沈んだな」

 

 

 

 

崩れ落ちたクラインがようやく立ち直ったころ、アスナが隣のキリトに声を掛けた。

 

「ねぇ、キリト君。話は変わるけど……『レジェンドオブアストルム』って知ってる?」

 

「ん?アスナがゲームの事を言うなんて珍しいな。やってたのか?」

 

「ううん。ユイさんから名前を聞いただけだよ」

 

「アストルムっつーと、SAOができる前にブームになってたオンラインゲームの事か?」

 

「ああ。写真のデータで自分の顔や体格の大体のサイズをアバターに転写して、そこから4つの種族を選ぶっていうシステムが話題になっていたんだ」

 

「それで。本当に知らないの?ユイちゃんの事」

 

「は?」

 

がしっとユイの頬を両手で挟み、キリトへと向ける。

キリトはその言葉の意味が一瞬分からなかったが、じっとユイの顔を見る。

時間にして数秒、思い出したように声を上げた。

 

「――――ああっ!お前【トゥインクルウィッシュ】のユイか!?」

 

「やっと思い出したんだ……」

 

「2人とも、知り合いだったの?」

 

「うん、アストルムでね。メンバーの一人がよくキリト君と決闘していたからね。それもあって割とよく交流してたんだ」

 

ユイの口から語られる思い出話に意外そうにフィリアが声を上げた。

 

「それで、他の3人は?」

 

「ううん。来たのは私だけ。多分3人とも向こうにいると思う。そこに関してはラッキーと言うか、なんというかって感じかな……」

 

「その3人ってユイさんのお友達ですか?」

 

「うん。レイちゃんはアスナさんと同じ細剣の使い手で、クールで凄く強かったよ。ヒヨリちゃんは私達のギルドマスター。人助けが好きで、元気いっぱいな明るい子なんだ。ナオくんはプリンセスナイトっていうジョブを手に入れて、私達の強化や陣形の指示とかの指令役で、あの人がいると動きが凄く楽になったの」

 

「個性的な仲間がいたもんだ。ユイ、そいつらの為にも絶対に生きて帰らないとな」

 

「ん……そう、ですね……」

 

口ごもりながら頷いたユイに一瞬眉を顰めるエギル。彼女に質問しようとした所で、

 

「あのさ、みんなは現実の方で待ってる人がいるのかな?」

 

突如手を挙げたユナが意図せず横槍を入れる形で中断された。

 

「ごめん。こういうのってマナー違反かもしれないけど、ユイの話を聞いていたら思い出して……」

 

「確かにノゾミとユナさんとノーチラスさんが幼馴染と言うのは聞いた事ありますね」

 

「うん。録画とか映像の投稿とか機械系がちんぷんかんぷんだった私達にとっては救世主みたいなものだよ」

 

「ありがとね、エーくん……」

 

感涙するんじゃないかという勢いで過去を振り返るノゾミとユナ。その2人に「いや、流石に大袈裟だろう」と内心ツッコミを入れる一行の中でリズベットが思い出す様に語る。

 

「あたしンとこは初音と栞かしらね。初音は同じ学校の後輩で、栞はその妹。昔っから病弱で心配だって初音が心配してたのよ」

 

「俺ン所は無駄に正義感が強い奴だったんだよ。学生ン時も不良共に堂々と喧嘩売って来たからな。おかげでこっちは巻き添えでケガするのが恒例なんじゃないかって思っちまったよ」

 

「じゃあ次はマヒルだな」

 

リズベットとクラインが順に語っていき、そして次はマヒルの番となる。

 

「おっ。オラの番だべか。そうさな……レンレンとミユミユだな。実を言うとオラ、その2人と同じクラスだっただよ」

 

「なるほどな。にしても中学上がりたての奴が農業するなんて思い切ったことをしたもんだよな」

 

「こんなにちっこいのに今じゃ【エリザベスパーク】や【ゴスペル・メルクリウス】の経営を担うようになった食品販売をしてんだろ。実際すげぇことだからな。もっと胸張っとけ」

 

クラインとエギルがマヒルの功績を思い返しながら彼女に称賛の声を浴びせるが、当人はまるで不服そうに頬を膨らませている。

 

「……なぁ、あんちゃん達。オラがいくつか知ってるべか?」

 

「は?女性に年齢の話をするのはマナー違反じゃねぇのか?――見た所、13歳前後だと思うけど?」

 

代表してエギルが答える。マヒルとマコトとユイ、テンカイ以外も彼に同意と言わんばかりに頷いた。

対してがっくりと肩を落としたマヒルは、その酷く沈んだ表情で現実を突きつける様に答えを呟くように。

 

「……オラ、今年で18だべ」

 

『……はぁ!?』

 

告げられた事実に3人以外が一斉に信じられないと言わんばかりに声を上げた。

 

「あたしらも最初に聞いた時は驚いたよ。こんな見た目してて年上なんだからな」

 

「エーくんと同い年って……マジ?」

 

「ああ……。レンレンはオラとは逆に初めて会った時にはもう身長が文字通り頭一つ飛びぬけていたべさ。それに、オラを見る目が時々嫉妬が混じったもんを感じてな……あれは怖かっただよ……」

 

「大きすぎるのも小さすぎるのも考え物だね……」

 

思わぬ暴露に意外な形で露出した悩みに、アスナはただ苦笑するのだった。

場の空気も改める為にも、次はウィスタリアが名乗り出した。

 

「私の番ですわね。咲恋さんという方ですわ」

 

「咲恋……あれ?どこかで聞いたような……」

 

ウィスタリアが上げた名前に記憶を探るように頭に手を当てるアスナ。そんな彼女に意外そうに声を上げた。

 

「あら?アスナさんも咲恋さんの事をご存じでしたの?確か今から……3年位前だったかしら?」

 

「ああ!大人の人達の前でスピーチをしたあの子ね!確か少し前にメイドの女の子がケーキに顔を突っ込んで……」

 

「ええ。それが彼女の緊張を解すきっかけになったのでしょう、素晴らしいスピーチだったのを今でも覚えていますわ。それに、彼女の積極的に学ぶ姿は私も感銘を受けました……」

 

ウィスタリアは一息つくと、天井を見上げる。

いや、天井ではない。この空の向こう――現実世界で帰りを待っているであろう咲恋という少女の顔を思い浮かべているのだろう。

 

「この世界に捕らわれた時は最初、絶望しかなかったのに、今や観光地として名を上がるほどの活気を取り戻した……」

 

そして、目を閉じて数度呼吸を繰り返すとまっすぐにキリト達を見て、

 

「未来を切り開く戦いはあなた方にお任せします。だから、この場は私達にお任せください。今を生きる手助けをすることが、私達【ゴスペル・メルクリウス】の戦いです」

 

「……ああ。任せろ」

 

了承のハイタッチと言わんばかりに拳を突き出すキリト。

ウィスタリアは最初戸惑ったものの、すぐに意味を理解して彼の拳と自分の拳を合わせるのだった。

 

「じゃ、次は私の番ね」

 

そして次はフィリアが挙手をした。

 

「私は近所に冒険家がいてね。そのお子さんと一緒に冒険話を聞いてるうちに仲良くなったのよ」

 

「ああ、その話は聞いた事ありますわ。悪戯好きな女の子がいたと仰っていましたわね?」

 

「そう。その子の悪戯がね、公園に落とし穴作ったり、びっくり箱仕掛けたり……本当にやんちゃ盛りで困ったものだったわ」

 

「落とし穴って……割と重労働じゃなかったっけ?幾つだよその娘さんってのは」

 

「そうね……多分今年で7歳くらいじゃ無いかしら?会ったのはあの子が4歳の頃よ」

 

「……随分タフなガキもいたもんだ」

 

「じゃあ次はキリトの番ね」

 

「俺かよ!?あー、えーっと……」

 

いきなり矛先を向けられたキリトは口ごもりながら目線を逸らす。

ちらっと一行を見てみるが、全員期待に満ちた目でこちらを見ているので、誤魔化しが効きそうにない。

やがて観念したのか、腹を括って語りだした。

 

「近所の子共3人と、妹の妹弟子1人。俺の知ってる奴でみんなと被ってないのはこれくらいだ」

 

「妹っつーと、初日に言ってた運動部系の子か?」

 

思い返す素振りをするクラインに、キリトが「ああ」と頷く。

 

「近所のって、なんか意外だね。キリトって年がら年中パソコンの前にかじりついてネットゲームとかやってそうなイメージなのに」

 

「お前ら……まあ事実ちゃあ事実だけどさ。その3人とはアストルムで出会って、そのうちのひとりがオフで会おうって言ってきて、それでお互い近所同士だってわかったんだよ。それに……」

 

「それに?」

 

「《始まりの街》の教会に保護されてる子供たちがいてさ。その子達を見てると、なんかあいつらの事を思い出しちゃって。何度か足を運んだことがあったんだよ」

 

「おやおやぁ?黒の剣士ともあろうお方が、ゲーマーを取り除いたら最早保育園や小学校の先生みたいな言い方してるじゃないですかぁ~」

 

「もうリズ、からかわないでよ。そんなことある訳――」

 

にやけ面で揶揄るリズベットをアスナが嗜めようとした時、不意に脳裏に教師姿のキリトの姿が浮かび上がった。

そして教室を舞台に小学生たちが元気に挨拶を――。

 

「――あれ?以外に似合う?」

 

「おい」

 

「いや認めちゃダメでしょアスナさんまで!」

 

思わず突っ込んでしまったクラインに頷きかけたが、そこは堪えて続ける。

 

「それに、シリカは知ってるだろ?シズルさんとリノもな」

 

「シズルさんも知り合いだったの?」

 

「ああ。まぁな……」

 

少し気まずそうに言葉を濁したキリトが気になったが、ともかく大トリはアスナだ。

彼女は昔を懐かしむように天井を見上げて語りだした。

 

「まずは、京都の子から話すね。おじいちゃんの代からの付き合いで出会ったんだけど、人形遊びやメルヘンチックなお話が好きで、遊びに行った時は毎回突き合わされてたんだよね。ぬいぐるみも沢山あったよ」

 

「メルヘンチック……女の子なら誰だってそういう妄想を抱かずにはいられないよね」

 

「あんまり舐めないほうが良いよ?あの子のは筋金入りだから」

 

一旦小休憩をはさむように、思いを馳せるようにグラスの中のジュースの水面を見ながら続きを語る。

 

「それに……本当はクラスメイトと一緒に入る予定だったんだ。その子は私の知る限りキリト君と同じくらいゲームが上手だったんだよ」

 

「アスナの学校にもキリトみたいな奴がいたのか。なんか意外だな」

 

「そうかな?勉強も優秀で、中間テストなんて1位だったんだよ。この髪も、SAOの前にその子が結ってくれたんだ」

 

「絵に描いた完璧超人なのに、フレンドリーなところもあるのね」

 

「最初の頃この街を探し回ってその子を探してたけど、結局見つからなかった。多分その時はSAOの外――ログインしてなかったんだと思う。時々、今頃どうしてるのかなって思って……。それに、今は生き残る目的も増えたのよ」

 

「目的?」

 

「うん。あの子もSAOを本当に楽しみにしていたの。だから帰ったら、あの子にSAOで私が見たこと、感じたこと、出会った人のこと――。それを伝えたい。だから、生き残るんだ」

 

無意識にグラスを握る手に力を入れて、希望を宿した目で語るアスナを見て、キリトは感慨深く彼女を見つめた。

嘗ての彼女は、この世界に自分の生きた証を刻む為に数日間ダンジョンに潜り込んで死に掛けたりと、自分の命を試みない部分が目立っていた。

56層の攻略もNPCを囮にしようと無茶苦茶な面も見られたが、ラフコフ討伐戦後からの彼女は明るい部分も見受けられるようになった。

そして、自分を愛してくれたあの笑顔も――、

 

その時、バン!という轟音と共に扉が力強く開け放たれた。

唐突な事態にレインとユナは思わず飲んでいたジュースを吹き出す。

 

「シリカ!?」

 

飛び込んできたのはシリカだった。肩を上下させて荒い呼吸をしている彼女と肩に乗っているピナは、まるで強力なモンスターから命からがら逃げ延びたかのようだ。

 

「す、すみません……!少し、かくまわせてください……」

 

「は?かくまってって……」

 

その時、再びバタン!と扉が先程よりも勢いを増した、破壊しかねない勢いで扉が開け放たれた。

 

「……シズルさん!?」

 

「う゛う゛う゛ぅぅ……」

 

来客――シズルの様子は完全に呑まれていた。

最後に見た闘技場の様相よりも獣らしさがより強まり、もう完全に人の姿をしたケダモノと呼ぶに相応しい有様である。

その姿を見たノゾミは「ひぎゃっ!」と悲鳴を上げてユナに抱き着く。先のトラウマが蘇ったらしい。

 

「……お、おい。なんか俺らの声なんか届きそうにないレベルでヤバい事になってないか?」

 

「……もう完全にプレイヤーの皮を被ったフロアボスだろ!?しかもクォーターポイントの!」

 

「最近ずっとこうなんだよね……。フラストレーションの限界って奴?」

 

「完全に堕ちた姿ですね。獣に……」

 

キリトとエギル、ユナが身を寄せ合ってそれぞれ口にする。

そんな時、クラインがずけずけと前に出た。

 

「おいシズルさん。人ンちのドアをそんな乱暴に開けてんじゃねぇよ」

 

「ちょっ、クラインさん!?」

 

シリカが慌てて止めようとするがもう遅い。

 

「うがあぁッ!!」

 

クラインの頭を掴み、壁へ投げつけた。片手で。一応園内なのでHPが減る事はないが、それでも地面に落下したクラインは死んだように動かない。KOされてしまったようだ。

 

「し、シズルさん落ち着いて!?ってか止められるのこれ!?」

 

「無茶言わないでよ!ギルドでも4、5人がかりの壁役プレイヤーを押し退けるくらいなのよ!?」

 

「じゃあどう止めろと!?下手したら店を滅茶苦茶にしかねないわよ!?」

 

フィリアとリズベットがアスナを突き出して問答をする中、シリカが前に出る。

 

「シリカ!?殺され――る事は無いけど、危ないぞ!?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

脚が震えてるが、それでも懸命に獣と化したシズルの前に立ちふさがる。

メニューウィンドウを開き、あるアイテムを出現させる。リボンでラッピングされた小さなプレゼントボックスのようだ。

 

「シズルさん。これ……」

 

震える手で差し出されたそれを開けて、目を瞠った。

小さくデフォルメされた紺色のマントを掛けたファンタジー風の衣装を着たぬいぐるみの人形だった。

 

「お誕生日……おめでとうございます!」

 

『――……ええっ!?』

 

シリカの口から告げられた言葉に、シズルとシリカ以外の全員が仰天する。

 

「誕生日って……じゃああの時集めてた素材ってこれを作る為だったの?」

 

「はい。前にあたしが記憶喪失になった妹と勘違いしていたシズルさんが色々話してくれてたのを覚えていたんです」

 

「それがあの素材だったんだね」

 

「はい――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとおおおぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!リノちゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああん!!!!!」

 

「ごぶぇ!?」

 

レインが納得した途端、シリカの背後からガバリとシズルが覆いかぶさった。

 

「この弟君人形ずっと大切にするからね!じゃあ今からお姉ちゃんのお誕生日パーティする?お姉ちゃんリノちゃんの好きなもの何でも作ってあげるよ!何が良い?あっ、それともどこか高めのレストランでお食事のほうが良いかな?色々スポット知ってるよ!」

 

「わ、わがっ……ばがびッ……べべべべべべ……」

 

ただのハグであるはずなのにシリカの身体からメキメキと骨の軋む音が聞こえそうだ。顔も青くなり、ピナもシズルに「早く離せ」と言わんばかりに喚く。

 

「あっ、みんな何の集まりか知らないけど、明日も早いからそろそろお開きにしたほうが良いよ?それじゃあ私はリノちゃんとお姉ちゃんの誕生日パーティをするからね。それじゃっ!」

 

まるで矢継ぎ早かマシンガントークか。凄まじいスピードで喋りまくったシズルは、ぐったりと糸の切れたマリオネットのように動かなくなったシリカを連れて去って行った。

 

 

 

 

シズルが去った後、キリが良くなったのか宴会は解散となった。

 

「キリト」

 

キリトとアスナもログハウスへと帰ろうとした時、クラインに呼び止められた。

 

「どうしたんだ?まだ飲み足りないのかよ?」

 

「ちげぇよ。――ほれ」

 

放り投げられたそれを受け取ったキリトは、思わず目を丸くして受け取ったそれとクラインを交互に見るのだった。

 

 

 

 

 

50層の宿屋にて。

 

 

「それで、話って?」

 

宿屋に泊まったノゾミ、レイン、チカ、そしてユナ。

レインとノゾミから話がしたいと言われて呼び出されたのだ。

 

「実は私達、昨日スカーネイルと遭遇したの」

 

ノゾミの一言に2人の顔が険しくなる。

2人のリアクションを見たノゾミは続ける。

スカーネイルと戦闘を繰り広げたこと。

彼が《縦横武刃》という超EXスキルの持ち主だったこと。

そして、彼の殺人の動機と最期の言葉を――。

 

「――『人間よ、傲慢は罪と知れ』ですか」

 

「え?」

 

「彼の最期の言葉を日本語に訳したものです。そして、これを使った人を私は知っています」

 

「使った人?」

 

「――ネルソン・スカージット」

 

チカの口から告げられたその名前に3人のリアクションはそれぞれだった。

 

「あのネルソン・スカージット!?」ノゾミは驚愕に顔を染め、

 

「……?」心当たりの無いユナは疑問符を浮かべ、

 

「あれ?その名前どっかで……」レインはその名前に記憶を探る。

 

「――かつて、『早咲きの天才』と呼ばれた作曲家です。主にクラシック音楽の作詞や作曲で17歳で音楽界に名を馳せた……」

 

「けど、4年後に大スランプを拗らせて、それ以来めっきり表舞台に出る機会も減ってきたんだ……それで、最後に出たインタビューで言ってたのが、さっきの台詞なの」

 

「でも、そんな人がなんでラフコフなんかに……」

 

チカが信じられないと言った顔持ちで視線を落とす。

レッドギルドと言う常軌を逸したギルドメンバーは幹部等の一部を除き、総じて殺人に快楽を得たり人心掌握術で手駒にされた被害者で占められている。

有名な音楽家が何故レッドギルドに入ったのか、何故あの言葉を遺したのか、疑問が残っていた。

 

「――ひょっとしたら……警告、なんじゃないかな?」

 

「警告?」

 

「あの人は若い時に名声を得たけど、それが傲慢のきっかけになった。それが原因で転落していった……私達はライブ・イン・アインクラッドを成功させて有名になったけど、現実でもそうなるとは限らない……だからこそ、その事に高を括ってたらいずれ自分と同じように潰れてしまうぞって、音楽に携わる人として、私達のずっと先輩としてのアドバイスだったんじゃないかって私は思うんだ」

 

「うぬぼれるな、か……。スランプっていう地獄を味わった人物だからこそ、そんな言葉を残したのかもね」

 

「もし……もしもの話なんだけど、スカーネイル――ううん、ネルソン・スカージットさんが【ゴスペル・メルクリウス】に入ってたらどうなっていたんだろうって思ってさ……案外、楽しくやれてたかもしれないかなって……」

 

天井を見上げ、起こり得たかもしれない空想をノゾミが語る。

 

「水を差すようで悪いけど、たら、もしの話を今曝しても意味無いわ」

 

だが、それを否定したのはレインだった。

ノゾミは一息吐いて「わかってるよ」とから返事気味に返すと続ける。

 

「あの人がどうしてラフコフに入ったのか、もう誰にも分らない。今の私達ができることは、彼の最期の言葉をしっかりと胸に刻んで生きる事だからね。耳が痛くなるような話ばっかりしてゴメンね?」

 

「大丈夫だよ。私達にとっても他人事とは思えない内容だったし」

 

「彼の言葉を忘れないためにも、まずはしっかりと生き残ってゲームから脱出する事ですからね」

 

「……ありがとう」

 

こうして、キリトとアスナの結婚祝いの後の小さな女子会は、幕を下ろすのだった。

 







次回「《始まりの街》の異変」


(・大・)<作者、28歳最後の投稿でした。
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