プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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前回までのあらすじ。
保護した少女ユイ(Yui)を連れて始まりの街へと向かったキリトとアスナ。
しかしそこは【剣文録】の卑劣な罠によって支配されかけていた。
罠に嵌ったウィスタリアとユースを助けるべく地下ダンジョンに向かう。
MHCPである正体を明かしたストレアの決死の行動で危機は免れ、フレッグの足掻きもキリトが【ゴスペル・メルクリウス】に加入宣言をして撤退。
しかし、フレッグの捨て台詞にキリト達は撃退した喜びよりも一抹の不安が残るのだった――。

(・大・)<ようやく……漸く最終決戦です。

(・大・)<多分2つ3つで終わるかもしれませんが……今ん所、どんだけ長くなるか不明です。

(・大・)<それでも見たい方はどうぞ。





「最終決死戦線:1」

 

「ごめん。少し遅れちゃった」

 

「いつものアンコールか」

 

「まぁね」

 

【ゴスペル・メルクリウス】のギルドハウスでは、キリトとアスナを加えた面々がテーブルを囲んでいた。

いつものライブを終えたノゾミが来たことを確認したウィスタリアが、部屋全体に響くように声を張り上げる。

 

「これより、攻略組防衛作戦会議を開始しますわ!目的はただ1つ!【笑う棺桶】の襲撃から攻略組を守り抜く事!可能ならば【笑う棺桶】を捕らえたいところですが……」

 

「前回は彼らにまんまと裏をかかれてしまいましたからね。今回はあの男が余計な事を喋ってくれたおかげで対策を行うことができる」

 

「それで、作戦はどんな感じですか?」

 

呼び出されたツムギが促され、アスナが立って説明を始める。

 

「今回は前回の討伐戦とは違って防衛が目的だから、戦闘をする必要性は殆ど無いわ。けど、相手は殺す気で掛かってくるから、もしもの時は……」

 

「自分達の命を優先してくれ。【ゴスペル・メルクリウス】はこの街に必要なギルドだ」

 

2人のその言葉に、ウィスタリアを含めた全員が頷いた。

彼女らの決意の籠った様子を見たユイ(Yui)が立ち上がって説明をする。

 

「パパとママの経験から【笑う棺桶】のレベルを推測すると、彼らの平均レベルは50層の安全マージンを越えていると思われます。中層や準攻略組には少し厳しいようですが……」

 

「それでも麻痺させたり、スクラムの要領で壁役(タンク)を並べたり、バリケードを作ったりとか、アイツらと戦闘しない手もアリだ。それこそ門の前に瓦礫でもぶちまけてしまえばいい」

 

「はい。その為にユイさんを筆頭に調合師プレイヤーがアイテムを生成中ですわ。《限界重量拡張》のプレイヤーの方々も必要な素材を集めて貰っています」

 

「となると、問題は人数ね。攻略に割く分も考えると……」

 

「そこは問題ありません。討伐戦は私とカオリだけで挑みます。ノーチラス、残る【ブレイブ・フォース】の指揮は任せますよ」

 

アスナが考えていた所をラジラジが横槍を入れる。その言葉に思わずラジラジの方を二度見した。

 

「正気なの!?たった2人でボスに挑むつもり!?」

 

「何も我々2人だけじゃないでしょう、どこぞのソロプレイヤーじゃあるまいし」

 

皮肉めいた返答の後のラジラジの目線は的確にキリトを捕らえていた。

 

「大丈夫なの?」

 

「ご心配なく。うちのギルドマスターにしごかれてあの時以上にレベルアップしていますよ」

 

妙に死んだ目のノーチラスが問題ないと返す。

だがアスナとユナは察してしまった。

 

――多分ラジラジさんのしごきのほうがきつかったんだ……。

 

「罠にアイテム……これらはまず問題ないだろうな。あとは……」

 

「時間と人数、ね」

 

深刻な顔持ちでアスナがウィンドウのカレンダーを見る。

11月7日。その日、75層のボス攻略が行われる日だった――。

 

 

 

 

フレッグを追い返した後、アスナとキリトは急いで【血盟騎士団】の本部へと向かい、《始まりの街》で起きた経緯をヒースクリフに報告した。

その後、ヒースクリフは重い口を開き、重大な知らせを2人に伝える。

 

「調査隊が半壊……!?」

 

「昨日行われた5ギルド合同20名のパーティでのボスの情報収集の為に行われた。だが、前衛に割り振られた10名がボス部屋に入りボスが出現した途端、入り口の扉が閉じてしまったのだ」

 

「まさか――」

 

思わずアスナが呟く。

その不穏な呟きを耳ざとく聞き逃さなかったヒースクリフは肯定するように頷いた。

そして閉じ込められてから5分後、扉が開け放たれた時には突入した10人の姿も、ボスの姿も影も形も無くなっていたそうだ。あとで確認した所、突入した10人全員に横線が引かれ、死亡したことが明らかとなった。

 

「結晶無効化に加えて、75層は最後のクォーターポイントだ。おまけにラフコフの襲撃があるのを知っててみすみす奴らの思い通りにするつもりなのか?」

 

「狐に虎の威を貸した君に言われたくないな。【血盟騎士団】を抜けている間に別のギルドに入ってしまうとは嘆かわしいよ。アスナ君、君は正式に【血盟騎士団】の副団長補佐の立場であることを忘れたのか?」

 

「あ……あれはああしなきゃ奴がとやかく言ってくると思っただけだ。今はアスナ共々抜けてる」

 

「団長、私からもお願いします。今はラフコフの迎撃に対策するべきかと」

 

キリトに続きアスナも進言する。

 

「――こればかりは、プレイヤーの士気に関わることだから言いたくは無かったのだが、致し方あるまい」

 

暫くの沈黙の後、ヒースクリフが残念そうに口を開く。

 

「どういうことだ?」

 

「君達は始まりの日から数週間後の出来事を覚えているかね?」

 

その日、《大移動事変》と呼ばれる事態だった。

大半のプレイヤーが一時回線切断の状態になってしまい、意識を失っていたことだ。幸い街や安全地帯にいたプレイヤーはそのまま助かったものの、戦闘中のプレイヤーはパーティメンバーが救出したりと被害は少なかったものの、ソロプレイヤーはそのまま……。

終息後、プレイヤーの間で一時期論争が飛びかい、結局結論が出る事は無かった。

だが、ヒースクリフの言葉はその正体を射抜いていた。

 

「あれは、俺達の現実の身体があちこちの病院に移されたのか……?」

 

「現実の身体が点滴のみで何年も耐えられるはずがない。と言う事だ」

 

それは即ち、ゲーム攻略の有無に関わらず、制限時間が存在すると言う事。いつになく神妙な顔持ちのクリスティーナの表情はそう語っていた。

それを知ったキリトとアスナは、信じられないと言った表情を浮かべていた。しかしよくよく考えればその通りだ。与えられる栄養は点滴のみで補い、そして姿勢は寝たきりの状態。果たしてそんな状態でこれから先生きていけるのだろうか?

――答えは、否だ。

 

「理解してくれたかね?例え罠だったとしても、我々は歩みを止めることはできない。攻略開始は7日だ。君達の勇戦を期待しているよ」

 

 

 

 

「いっその事、中層域や準攻略組のプレイヤーにも打診してみたらどうかな?」

 

「あなた、何を考えてますの!?」

 

会議の最中、アスナが声を上げた。

だが次の瞬間、ウィスタリアが噛みつかんばかりに反論する。

 

「モンスターでさえ死ぬリスクがあるかもしれないのに、こともあろうに殺人者(レッド)プレイヤーを相手にしてくれなんて、口が裂けても言えるわけがありませんわ!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「場所も時間も分かってんのに、連中の思うつぼってのがなんかなぁ……」

 

そこまで言いかけて、テンカイがハッとした表情を浮かべて言葉を呑んだ。

 

「カイカイ?」

 

「……なぁ。今回はこっちがラフコフの情報を掴んでるんだよな?」

 

「ああ」

 

「ボス部屋の扉はボスが討伐されるか、プレイヤーが全滅しなきゃ開かないんだよな?」

 

「はい。基本ボス部屋やその扉は破壊不能オブジェクトなので、現実で言う扉爆破(ブリーチング)マネはできません」

 

「……つまり、いっそのことバリケードみたいなものを作っちまえばどうだ?」

 

「なるほど……え?」

 

ユイ(Yui)がテンカイのアイデアに納得したように頷いた。だが、ふと先の台詞を分析して……叫んだ。

 

「……バリケードぉ!?無理言わないで下さい!《大工》や《木工》のスキルでもそんなのを作るのは不可能です!」

 

「……いえ、お待ちください。屋根だけを造って、屋根の装飾代わりに武器や棘を設置すると言うのはどうでしょうか?移築と言う技術はそう言った方法が使われるとお伺いしましたわ!」

 

「あ、それなら可能――って、だから無理ですって!!ダンジョン内に建物なんて建設できるはずがりません!大体どうやって巨大なバリケードを運ぼうなんて……」

 

「あら、小さなユイさん。移築と言うものをご存じなくて?全員で持って行って、現地で組み立てれば問題ありませんわ!」

 

「だー、かー、らー!ダンジョンの中でバリケードの設置は不可能です!もっと言えば、迷宮区を含めた市街地の特定の土地以外への移築もシステム的に不可能です!!」

 

「あら、そうでしたの?……あ、それなら岩や木材をそのままダンジョンに放置、ってのもアリではありませんこと?ほら、キリトさんが仰っていた全アイテムオブジェクト化というシステムで!」

 

会議の方針が罠の設置へと方向転換した所で、ユイ(Yui)が置いてきぼりにされてしまう。

 

「な、なんか滅茶苦茶ですね……これが【ゴスペル・メルクリウス】……」

 

「ユイには早すぎたか。この混沌とした会議は……それより、その線で行くなら瓦礫を運べるくらいの筋力ステータスを持った奴が必要だな。アニキ軍団に話を通してみるかな?それから……」

 

「キリト君も慣れてるね……」

 

アスナも慣れた様子で会議に参加するキリトに、呆れた眼差しを向けるのだった。

 

 

 

 

そして、来たる11月7日。

転移してきたキリトとアスナに、攻略組のプレイヤーが物々しい目つきを向ける。

 

「よう、キリト!」

 

「エギル、クライン。お前らも来てたのか」

 

「そりゃねぇだろ?先遣隊が半壊したんだ。黙ってられるか。この無私無欲の精神を見習ってもらいたいもんだな?」

 

「ならこのボス戦の取り分からお前の分は抜いとくよ」

 

皮肉な言葉にエギルが狼狽える。

そんなやり取りを交えた後、ヒースクリフを筆頭に【血盟騎士団】の重鎮プレイヤーが転移してきた。その瞬間に集まったプレイヤーの空気が張り詰める。

周囲を見渡し集まった攻略組を一瞥し、ある一団を見つける。

 

「集まってくれたようだね。しかし、何故【ゴスペル・メルクリウス】の面々がここにいるのかね?」

 

視線の先、本来攻略とは関係ない【ゴスペル・メルクリウス】を中心としたプレイヤー達の集まりがヒースクリフの質問に声を詰まらせる。

当然彼らのレベルではボスはおろか、道中のモンスターすら倒せないのは明白だ。

 

「安心しろ。彼女たちは攻略とは関係ない。道中まで同行するだけだ」

 

「……まあ、良いだろう。どういった風の吹き回しが起きたのか知らないが、邪魔をしないならこちらも邪見に扱うつもりは無い」

 

かばうように立つキリトの説明に、ヒースクリフも一応は納得したようだ。

改めて回廊結晶を取り出し、起動した。

 

「さあ、行こうか」

 

その言葉と共に【血盟騎士団】のプレイヤーを筆頭に攻略組プレイヤー、そして【ゴスペル・メルクリウス】と【ブレイブ・フォース】のプレイヤーが入っていく。

門をくぐった先は、ボス部屋の前だった。

緊張感が走る中、キリトはノーチラス達の元へ駆け寄る。

 

「で、大丈夫なのか?戦闘になったら向こうは確実に殺しに来る。そうなったら……」

 

「あくまで戦闘は最終手段だ。いつでも回廊結晶で帰れるように準備は怠っていない」

 

「その通りですわ。妨害が目的なら戦闘を行う必要はありません。それならギミックによる足止め、そして回廊結晶のゲートを使えばいいだけの事。万事抜かりはありませんわ!」

 

自信満々に語るウィスタリアに、キリトも心配するだけ杞憂と思ったのだろう。アスナたちの元に戻っていく。

彼が戻ったと同時に攻略組側も作戦会議が終わったらしく、一同扉の前で構える。

 

「死ぬなよ?」

 

「へっ、言われるまでもねぇ!」

 

「今日の戦利品で日と稼ぎするまで、死んでられるかよ!」

 

重厚な扉が音を立てて開く。

 

「――突入!」

 

ヒースクリフの合図と共に突入していく。攻略組が全員ボス部屋に入った所で開けた時と同じように扉が閉じていく。

 

「【ゴスペル・メルクリウス】!!」

 

閉じゆく中で、キリトが声を張り上げる。

完全に閉じるその瞬間、振り返ったキリトはノゾミに――【ゴスペル・メルクリウス】に言い放つ。

 

「――死ぬな、絶対に!!」

 

願いを込めた言葉と共に、扉は閉じられた。

短い沈黙が走る中、ただノゾミはその言葉に応えるように、サムズアップした。

そしてウィスタリアは扉を背に言い放つ。

 

「さあ!行動開始ですわ!」

 

 

 

 

ボス部屋は壁に等間隔に掛けられた松明以外、何もない円形の部屋だった。

 

攻略組全員が周囲を警戒しつつ中央へと歩みを進める。

 

「――、上だ!」

 

いち早く気付いたキリトの声と共に、一斉に天井へと向ける。

 

体長10メートルを超す長大な姿、ムカデの下半身に人間の胸部と頭蓋骨を合わせ、両腕は肘から先が鋭利な妖刀を思わせる一対の長大な鎌。

その名を骸骨の刈り手。――またの名を《The Skullreper》。

 

「ヒースクリフ、タンク隊、前へ!」

 

その異様な姿に誰もが凍り付く中、いち早く前に出たクリスティーナが指示を飛ばす。

硬直するプレイヤーをかき分け、ラジラジとヒースクリフが駆けるとともにスカルリーパーも天井から落下する。

 

「私は右を」

 

「なら左だ」

 

「間を取って真ん中」

 

逃げ遅れたプレイヤー数人とすれ違うように前に出て、クリスティーナが左の鎌を、ヒースクリフが右の鎌を盾で、剣でそれぞれ受け止める。直後にラジラジがスカルリーパーの人間で言う人中の部分に拳を叩き込む。

その一撃を喰らったスカルリーパーは悲鳴のような苦悶に満ちた醜悪な雄叫びを上げる。

 

「どうやら顔にダメージを受けるとノックバックを起こすようですね」

 

「それは良い事を聞いた。タンク隊前へ!まずはヒースクリフを中心に半円状に陣を取れ!他の連中は遠巻きに下半身の動きに注目しろ!」

 

一歩遅れてシズル率いる【血盟騎士団】のタンク役のプレイヤーも次々と前に出て指示に従った陣形を組む。

そしてスカルリーパーの一撃が襲い掛かる。シズルは体勢を崩して後ろに弾かれたが踏み止まり、ヒースクリフは微動だにしない。それ以外のタンクプレイヤーは大きく後方へ弾き飛ばされた。

 

「みんな大丈夫か!?」

 

吹き飛ばされたシズルにキリトが駆け寄る。

 

「平気だよっ!それより……」

 

片膝をついたシズルはすぐに立ち上がるとクリスティーナに向けて声を張り上げる様に報告する。

 

「副団長!今ので私は半分、他のみんなはもう1割も無い!」

 

「遠巻きに見た感じ、両手の鎌以外は目立った動きはしていません!多分側面の脚は迎撃用かもしれません!」

 

「そうか。――よく聞け!!」

 

アスナとシズルの報告を受けたクリスティーナは、張りのある声を部屋中に行き届かせるほどの大声を上げる。

 

「あの鎌は直撃すれば即死の可能性が高い!間違っても正面に立つな!ヒースクリフと私が右の鎌を、左の鎌は【聖竜連合】と【ALS】のタンク隊で防ぐ!防ぐ際は受け流す様に、だ。間違っても正面から受け止めるなよ?」

 

「はっ、誰にもの言うとるんや!」

 

「お前達、【聖竜連合】の意地を見せてやれ!」

 

「勇ましくて結構!シズルと攻撃を受けた連中は全快次第右側面に防御を集中させろ!側面は迎撃しかしないのなら、片方を集中的に叩くのが得策だ!アタッカーは攻撃直後のタイミングで一撃離脱!逃げ遅れれば串刺しにされて終わるぞ!ユナは後方に下がり、届く範囲で全体にバフを掛けまくれ!!」

 

的確な指示を飛ばす中、ラジラジは投擲用ダガーを用意する。

 

「あの巨体で暴れ回られたら厄介です。私は奴の頭を投擲で狙います」

 

「貴様には指示を出しても無駄だからな。私も奴の向きが変わりそうになったらすぐに妨害してやるさ」

 

そうして指示の元、プレイヤー達が骸骨の借り手へと挑んでいく。

 

「やれやれ。これが七冠の能力と言う事か……」

 

鎌を受け止めつつ遠巻きに見ていたヒースクリフは遠巻きにそんなことを呟いていた。

 

 

 

 

ボス戦が始まって暫く、75層の迷宮区をプレイヤーの集団が駆けていく。その数は、ざっと60は下らない。

全員が黒いフードを着こんでいるせいか、金属鎧らしきものはほとんど見られない。

集団は時に鉢合わせたモンスターに一撃与えて油断した所を駆け抜け、またモンスターの集団には一人が囮となりその隙を突いて通り抜けていく。

60人の人数が半数近くまで減少したころ、ついにボス部屋前まで到達したが……。

 

「なんだこれは?」

 

ボス部屋の前に到着した時、その異様な光景にフレッグは目を丸くした。

目の前にあるのは岩石の山。まるで岩盤崩れでも起きたかのように岩や丸太が組み込まれていた。

横を抜けるのは当然不可能。崩そうものなら武器の耐久値だけでなく、下手に崩してこちらに崩れてくる可能性も無くは無い。

 

「何故こんなものが……」

 

当然、フレッグがそれを知ることは無かった。

 

 

 

 

本来、身の丈ほどの岩を持ち歩くことは相当なSTRステータスが無ければできない仕様となっている。

当然《建築》などでバリケードをダンジョン内で設置することは不可能である。

ではどうやってこれだけのバリケードを設置できたのか?その理由は受注中のクエストにある。

 

「皆さん、『プライズフォーク砦防衛線』というクエストを受けましたか?」

 

ユイ(Yui)の質問に攻略組を除いた全員が首を横に振る。

 

「確かそれって、27層で受けられる防衛クエストだよね?」

 

アスナの言葉にユイ(Yui)は頷いた。

『プライズフォーク砦防衛線』とは、27層で受けられるクエストの一つだ。

『プライズフォーク砦』と呼ばれるインスタンスダンジョンの中で、襲い来るモンスターから砦を守るクエストだ。

砦に押し寄せる数十体のモンスターから砦を守る為に、砦でモンスターの通るルートにバリケードや砲撃手NPCを設置し、時に自らがモンスターを迎え撃つクエストだ。

メインとなるモンスターの襲撃の前に受ける納品クエストで、防衛隊長のNPCから特殊なアイテムを2つ渡される。

その名は『巨人の腕輪』と『収集の麻袋』だ。

この2つは基本的にステータスに影響は与えないが、代わりに『巨人の腕輪』は《限界重量拡張》を一時的に2倍にするスキルが与えられる。

『収集の麻袋』には出現させてる間《所持容量拡張》を一時的に2倍にするスキルが与えられると同時に、専用のストレージが解放される。ただし、対象となるのは岩や大木のバリケード素材のみ。しかもそれらは売却不可のオマケつきだ。

ただし、このアイテムが借りられるクエストには『隠し要素』がある。

 

「この収集クエスト、実は全階層で適用されるのです」

 

ユイ(Yui)の言葉に全員が冷水を浴びせられたような顔をする。

実を言うとこのクエスト、納品する素材が多ければ多いほどより強固なバリケードを造ることができるのだ。

製作スタッフも、「上層が解放されて受ける奴なんていないだろう」と思ったのか、このクエストに階層制限と日数制限を施さなかったとのこと。

要するに、このクエストで集める素材は、どの階層の、どんな場所かを問わないというものである。

無論、普通のアイテムのようにストレージから取り出すことも可能である(ポーチに移し替えることは不可能だが)。

 

「じゃあ、そのアイテムを75層のボス部屋前に積み上げようって算段か」

 

「その通りです!そして回廊結晶を利用すれば、ボス討伐完了から18分の時間が稼げます」

 

18分。時間にしてみれば長いか短いか微妙なところだが、攻略組の防衛には十分な時間かもしれない。

 

「とはいえ、通路を完全に塞ぐのは不可能です。特定の高さまで積み上げられたらブロックがかかってしまいます」

 

「となると、上から侵入する相手に対しての対策を考えなきゃいけないのか」

 

マコトの質問にユイ(Yui)は頷く。

 

「定番は《麻痺毒小瓶》で動きを封じるのが定番です」

 

「それなら今はユイさん達が急ピッチで生産していますわ。生産量からして、そろそろ十分な量に達するかもしれません。そろそろ生産を終えても頃合いかしら?」

 

「それなら俺がメッセージで伝えておくよ。ノーチラス、《投擲》スキルを持ってる奴らがいるか確認を頼む」

 

「ああ」

 

キリトとノーチラスがそれぞれメッセージを送る。

会議も(つつが)なく進み、いよいよボードの前に2枚の写真を貼る。

 

「あとの問題は……」

 

「ギルドマスターのPoHと、正体不明のライアーマン……」

 

 

 

 

「どうする?このまま耐久値が尽きるのを待つか?」

 

「そんなバカなことをすると思うか?上ががら空きだろう!そこから乗り込め!」

 

命令を受けたラフコフのメンバーの中で、身軽な数人が昇っていく。

 

「投擲隊、準備!」

 

瓦礫越しにそんな声が聞こえたのはその時だ。

同時に何かが割れた音がした直後、何かが転がり落ちる音がした。

 

「なんだ?どうした!?」

 

瓦礫の山の奥。転がり落ちたラフコフのプレイヤーを拘束している所だった。

 

「《投擲》のスキルで麻痺瓶を投げつけて、麻痺した所を一網打尽か」

 

「そうですわね。小さなユイさんのシュミレーションが役立ちましたわ♪」

 

「よし。全員下手に前に出ず待機。焦らずに上がって来たラフコフのメンバーに対して投げつけるんだ!」

 

指示を受けてポーチから新たに麻痺瓶を取り出し、次の襲撃に備える。

 

「チッ、何をしている!これはこの奥にいる連中が作り出したものだ!上って殺してしまえ!これは理想郷を崩壊する者達を粛清する戦いなのだ!」

 

苛立ちを含めたフレッグの指示が指示を飛ばす。

ラフコフのメンバーが次々と瓦礫の山を昇っていく。さながら砂糖を求めて石の山を登っていくアリの群れのようだ。

 

「来たぞ!」

 

「狼狽えるな!さっきと同じ手順で迎え撃て!」

 

瓦礫を昇っていき、上り切った所でラフコフに出合い頭に麻痺瓶を投げつけていく。

転がり落ちたメンバーを手早く縛り上げていく。

 

(準備と待ち構えていた時間も加えて、体感的に1時間は経ったか?今の所幹部がいないのは不幸中の幸い。このまま連中が来る前にケリが着ければ万々歳だが……)

 

「ノーチラス、メッセは!?」

 

「まだ来ていない!」

 

「そうか。なら後方の奴らはトレード申請!ポーションとアレを引っ張り出して、長期戦に持ち込むぞ!」

 

一方で、フレッグは怒りが頂点に達しようとしていた。同時に彼らの行動に困惑が強く出ていた。

攻略組に紛れ込んだメンバーはボス攻略のふりをしつつ、ボス討伐が終わればパーティを組んだフレッグへとサインが送られる。それを機に一斉に雪崩れ込み、疲弊した攻略組プレイヤーを皆殺しにするはずだった。

それなのに、たかが第1層で攻略から外れた者達を保護すると言う名目で統治しているだけのプレイヤーの集団が、弱小攻略組の手を借りて自分達の行く手を阻んでいる。計画自体は元を正せば彼が逃げる直前に自分から口にしてしまったのだが、そこに関してはすっかり忘れてしまっている。

 

「なんだなんだ?随分と手古摺ってるようだなァ、フレッグさんよォ?」

 

「「「「ッ!!?」」」」

 

フレッグをおちょくるような発言に、フレッグどころかこの場にいた全員が凍り付いた。

ダンジョンの奥――入り口方面からポンチョに身を包んだ男が現れる。黒いフードに隠れて顔は見えないが、その声に含まれるどす黒い悪意に恐怖を抱かずにはいられない。

手にしている得物は、刃にべっとりと赤い跡を残す巨大な中華包丁だ。

 

「ショーの邪魔をする連中には、とっとと帰ってもらわねぇとなァ?」

 

「この声……!」

 

無論【ゴスペル・メルクリウス】が彼と直接の面識した者はいない。もっと言えば、ユイ(YUI)とマコトくらいだろうが、その2人は《始まりの街》で待機中だ。

だが、この場にいる全員が発せられた声で理解してしまった。

 

――「この男が、SAO最悪の男……PoHだ」ということに。

 

「さぁ、前座ももうこの辺で良いだろう!?ここから先は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺戮の……ショータイムだ!!」

 





次回「最終決死戦線:2」

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