プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
前回のあらすじ。
75層ボス討伐当日にラフコフが襲撃する――その情報を聞きつけた【ゴスペル・メルクリウス】の面々は、逆に攻略組を守るべく迎撃を計画。
クエストを継続したままの状態でアイテムをバリケードにすることで時間を稼ぐことで攻略組のボス討伐の時間を稼ぐ持久戦に持ち込む作戦に打って出た。
クォーターボス《スカルリーパー》の討伐の裏で行われる防衛線は、PoHの参戦で事態は最悪なものへと変わろうとしていた……!
ボス戦開始から1時間。
クリスティーナの作戦が見事にハマり、大ダメージを受けたプレイヤーはいたものの未だ犠牲者ゼロのまま5本の内4本目のHPバーが尽きた。
「ラスト1本だ!気を抜くな!」
クリスティーナの掛け声に攻略組が奮起する。
一人のプレイヤーの攻撃で5本目が僅かに削られた直後、呻くような鳴き声を上げてスカルリーパーがもがきだした。
「やべぇ、暴れ出すぞ!!」
「全員退避~!」
最期の力を振り絞り、一人でも多く道連れにしてやろうと鎌をやたらに振るい暴れ出す。
エギルとシュミットの声に応じてすぐさま退避していく。
「退避には及びません」
が、そんな中で一人スカルリーパーへと駆けていく者が。ラジラジだ。
銀髪を靡かせ予測できない鎌の軌道を見抜き、最低限の動きで回避しつつスカルリーパーの顔面へと迫る。
「スタンさせてしまえば、ただの白骨……!」
振り下ろされた鎌の上を走り、そのままスカルリーパーの顔面を殴りつける。
殴りつけられたスカルリーパーはまるで痙攣をおこしたかのようにびくりと体を震わせると身体が硬直する。
「ッ!スタンが起きた!速い奴は畳みかけろ!!」
キリトが反転攻勢に出る。続けてアスナ、クラインを筆頭にAGIの高いダメージディーラーがスカルリーパーへと走っていく。
「総員、突撃!シズル君、《狂剣士》を!」
「了解!」
ヒースクリフ達タンク隊も攻勢に前に出る。
シズルも《狂剣士》を発動してスカルリーパーを討伐せんと駆けていく。
キリトの《二刀流》。
アスナの《細剣術》。
クラインの《カタナ》。
シズルの《狂剣士》
カオリの《双爪》。
ラジラジの《体術》。
他にも様々なソードスキルを無防備なスカルリーパーに叩き込んでいく。討伐まであと僅かの赤いバーに差し掛かった時、スカルリーパーのスタンが解除される。
「「はあああああぁぁぁぁぁーーーッ!!!」」
スタンが解除されるその瞬間、キリトとアスナの連携攻撃が叩き込まれた。
それが決定打となり、ついにスカルリーパーのHPが完全に尽き、骸の刈り手は、その両手の鎌で誰一人の命も狩ることも敵わず断末魔の悲鳴を上げて消滅した。
「ふっ……中々刺激的な戦いを楽しめたよ。ありがとう」
クリスティーナの手向けの言葉と共に表示されたCONGRATULATION!!のウィンドウが表示される。
死闘の終わりを漸く体感した攻略組プレイヤーの反応はそれぞれだった。
勝ったんだという歓喜の雄叫びを上げる者。
死闘から解放され、思わず地面にあおむけに寝そべる者。
この先生き残れるのだろうか、クリアできるのだろうかと先の未来に希望を見いだせず座り込む者。
手に入れたドロップアイテムを確認し、レアアイテムをゲットして思わずガッツポーズを取る者。
ウィンドウを表示してなにやら操作をしている者。
そんな中、ラジラジは寝転がっているカオリを蹴り起こして、入口の方へと向かっていくのを目撃する。
「……?」
†
遡る事7分。
攻略組防衛戦線の前に、【
(最悪だ……!想定した中で一番最悪のパターンだ……!)
「よぉ、俺らの為にこんなに生贄を用意してくれたのか?随分大盤振る舞いしてくれるじゃねぇか、【ゴスペル・メルクリウス】さんよぉ?」
「そんな訳無いでしょう?」
「はっ、そうかよ」
ウィスタリアの否定の言葉を聞いたPoHはつまらなそうに返すとフレッグを尻目に見る。
「お前は失せろフレッグ。テメェはもう用済みだ」
「なんだと?貴様、何を勝手なことを……!?」
喰いかかるフレッグの喉元に巨大な中華包丁が付きつけられる。
「お前は結局何ができた?攻略組の壊滅を狙った25層の件はお前が独断で行動して
「道化だと……!?こ、この私を……道化……!?」
「お前ら、道化様をこの場から追い出してやれ」
突き飛ばされたフレッグを受け止めたラフコフの兵士は彼に転移結晶を手渡す。
どこかの街の名を呟いた途端、喚き散らすフレッグはどこかへと転移された。
一方、瓦礫の奥では――
「や、ヤバいよ……!よりによってラフコフの幹部が出て来るなんて……!」
「い、いや……!逆にチャンスだ。あいつらを捕まえればもう怖いものなんて……!」
「おまっ、正気かよ!?相手はマジで人殺しを楽しんでるイカレ集団のリーダーだぞ!」
PoHの登場にやや前のめりになる者、怯え逃げ出そうとする者――様々な反応が。
「落ち着きなさい!私達の目的はあくまで攻略組がこの場を離れるまでの足止め!この門が開いた時が撤退の合図ですわ!」
ウィスタリアの一喝に我に返る。
我に返った所でノーチラスが矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「盾持ち2人と中衛1人の3人1組の魚鱗陣形!間違ってもこっちから動くな!囲まれて潰されるぞ!」
「敢えてこちらから動かず出方を伺うか。まあいい、来ねえなら……こっちから行くまで……だッ!」
刹那、瓦礫を一閃。瓦礫の一部が耐久値を切り、消滅する。
その途端瓦礫の山が崩れ落ち、門への一本道が曝される。
「嘘、たった1撃で!?」
「別に驚く事じゃねぇだろ?耐久値ってのは10分後には10秒おきに減っていく。あとは攻撃で耐久値を削れば消滅するって訳だ」
「瓦礫の山の根元を攻撃して総崩れにしたって事ですのね……!それにしては威力が高すぎませんこと?」
「この
その破壊力は、どれだけ彼がプレイヤーを葬ったのかを暗に語っていたも同然。
頼みの綱のバリケードは瓦解し、残るは壁側に落ちた岩や巨木のみ。
正面にはPoHとフレッグを含めた20人以上のラフコフのプレイヤー達。
「おーおー、生きの良い連中がゴロゴロいやがるな?」
「くっ……!」
「――おっ、そこのお前」
いきなりPoHが親しい友達に呼び掛けるようにあるプレイヤーに呼び掛ける。
「お前、確か数か月前に仲の良かった奴が殺されたって言ってたよな?」
「そ、それがどうしたんだよ……?」
「ありゃあ楽しかったなぁ。泣き叫んでるアイツの面が最高だったぜ!何度も助けてくれって命乞いするアイツの顔に、この友切包丁を叩き込んだ瞬間の悲鳴や顔は今思い出しても笑いが止まらねぇよ!」
「――……ッ!!」
「そこの奴もそうだ。俺らが仕掛けたモンスターにリンチにされるのを高みの見物するのは最高だったよ!そうそう、そこの奴は助けてやるって言って嬉しそうにしてたよ。外周に突き落とした時の顔がたまらなかったぜぇ?」
次々と嗤いながら殺人の記録を語るPoH。
ケタケタと語るPoHに【ゴスペル・メルクリウス】や【ブレイブ・フォース】の面々は、怒りがふつふつと湧き上がっていく。
それでも動かない事にPoHは、鼻で笑った。
「へっ、結局は腰抜け共か。あいつらが死んだのも、ひょっとして腰抜けのテメェらに見殺しにされたからなんじゃ無ねぇの?」
――その瞬間。弾けた。
「テメェェェェェェェ!!!」
激昂して叫ぶプレイヤーを筆頭に、数人のプレイヤーが飛び出した。
「ッ!!――ウィップ隊!!」
反射的にノーチラスが叫ぶ。岩陰から鎖が伸びて突出したプレイヤーを絡め捕らえる。
まるで獲物を捕らえた触手が自らの巣穴へと引きずり込むように幾つもの鎖が飛び出したプレイヤーの四肢に絡みつき、ウィスタリアの陣営に引き戻す。
「……伏兵が居たか」
「……ッ!」
その陰にいた一人、ツムギがPoHが向けた目線に射抜かれ、身体が委縮する。
「なるほど。突っ込んできた我々を鞭のソードスキルで捕らえると言う算段でしたか」
リーヴの目立てはまさしくその通りだ。
本来なら《鞭》のソードスキル《ホールド》でラフコフのプレイヤーを拘束し、そのまま高STRのプレイヤーが引っ張り捕らえるという計画だった。
主釣りの時にやったニシダとキリトの釣竿のスイッチを捕縛用に応用したものだ。
「さて、切り札は失せた。ここからがショータイムだぜ?――なあ?ジョニー、ライアー」
「――え?」
瞬間、集団の陰から飛び出した影が前衛を任されていたプレイヤーを切り裂いた。
幸い一撃死と言う事にはならなかったが、麻痺の状態異常を受けてしまう。その直後に投擲された槍が膝をついた一人の胸を貫き、倒れた2人はジョニーの短剣に首を刺されて消滅してしまった。
(――ヤバい、PoHに気を取られ過ぎて隊列にもぐりこまれた!)
「良いね良いねぇ!こんなにも獲物がやって来てくれたなんて最高じゃねぇか!!」
頭陀袋から開けられた穴から覗く狂気的な眼光がチカを睨む。
「まずは……テメェからだァ!!!」
「――ッ!!」
反射的に盾でガードするチカ。
ジョニーの一撃は軽いものの、手数の多さで防戦一方になる。
「お前らも続け!相手は人を殺せないパンピーどもだ!袋小路のこの状況で全員地獄に落してやれ!!」
PoHの一言でラフコフのメンバーが襲い掛かってくる。
背後はボス部屋の扉。それ以外に逃げ道はない袋小路。
「ヤバい……!ウィスタリア、回廊結晶を――」
「できたらやっていますわよ!!」
ウィスタリアもラフコフのメンバーの凶刃をいなすのに精いっぱいで回廊結晶を使う暇がない。
戦況が混沌としていく中、ボス部屋に続く扉が開かれる。
「今度はなんだ!?」
「なんだ?潜り込ませた奴らか?」
突如開いた扉にラフコフのメンバーすらも手を止める。
人一人分が開け放たれた直後、何かが飛び出し、PoHにぎらりと光る何かを手に迫る。寸での所で愛用の中華包丁――
その相手は……獲物を見つけた獣の如く眼光をぎらつかせたクリスティーナだった。
「――クリスティーナ!!」
「最後のクォーターポイントでの死闘を終えたと思ったら、こんな所でPvPの宴が開かれているとはなァ!!!」
直後に回し蹴りがジョニーの側頭部に直撃。吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。
「――ってぇなテメェ!!」
「
「みんな、遅れてごめんさー!」
「カオリ!って、ラジラジさんは分かるけどなんでクリスティーナさんまで?」
「なんかバレちゃったみたいなんだよね~」
「そういう事よ!」
開け放たれた扉の奥からユナも駆け付けてきた。
少し呼吸を整えるとノゾミに向かって声を張り上げる。
「ノゾミッ!あなたまた勝手にこんなことをして!」
「ユナには言われたくないよ!でも、ユナが無事って事はそっちは倒せたんだね!?」
「うん!」
いきなり現れた助っ人に【ブレイブ・フォース】の面々もノゾミ達も頼もしさを感じずにはいられない。
「みんな大丈夫だった?」
「……ごめん。3人……やられた……!」
ユナの質問にノゾミが表情に影を落としながら答える。
その隙を突いたラフコフのメンバーの攻撃を割り込んだノーチラスが盾で防ぐ。
「悔やむのも落ち込むのも後にしろ!」
「エーくん!?」
「誰にだって間違ってしまった事の一つや二つ、経験した事はあるはずだ!だけど、それを受け入れてどうやって次に生かすのかが大事じゃないのか!?」
「ノーチラス……」
必死に攻撃を防いでいるノーチラスも鍔迫り合いを制して盾で取り押さえる。
その好機を逃さなかったのはウィスタリアだった。
「あの2人が幹部を押さえてる今の内ですわ!手下どもを捕らえなさい!2人……いいえ、3人1組の陣形を組み、着実に捕まえて数を減らすのです!ダメージを受けた方は後方に下がって回復に専念!もし向こうの増援が来たら、無理せず【回廊結晶】で撤退しますわ!」
「ユナ、歌えるか?」
「1時間も歌ってるけど、まだ大丈夫!~♪~♪」
ユナの歌声が響き、味方にバフがかかる。
助っ人と2人の歌姫のバフを受けて、士気が高まった【ブレイブ・フォース】のメンバーも、再びラフコフの兵士たちに立ち向かっていく。
「ノゾミさん、私達も行きますわよ!」
「うん!」
ファルシオンを引き抜き、くるりと回して刃を上に、峰を下に向ける。
「どうやら、本気で邪魔をしたいようですね。我々を潰して英雄にでもなるつもりですか?」
「そんな気は毛頭ないよ」
リーヴの言葉にノゾミは静かに否定する。
「私達は、この閉ざされたアインクラッドで今日を生きる希望をこの世界で生きる人たちに与えて、明日を生きる力に繋げるギルド。あなた達のしてきたことは個人的にも許せないけど、あなた達を潰すのは、解放の日を目指して突き進む攻略組の誰かがしてくれる……」
眼を閉じ、すっとファルシオンをリーヴに向ける。
そして目を見開き、誓いを立てる様に言い放った。
「だから、今必死に戦ってこの扉の奥で次の戦いの場所へ向かう人達の明日を奪わせないために、今私達があなた達をここで止める!」
「でしたら、ここで死んでくれましょうか。希望を消し去る為に――!」
次回「最終決死戦線:3」