プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
【始まりの街】
「ノゾミちゃん達、大丈夫かな……?」
空を見上げている
「大丈夫です。ノゾミさんはまだ名前に横線は引かれていません」
「いや、そういう意味じゃねぇんだよ……」
「でも、さっき3人も名前が……」
「……恐らく、危惧していたことが起きたのだと思います」
「PoHやラフコフの上層幹部が来たって事か……」
「――勝てる、のか?」
「勝てるさ」
不安そうに、戦線へと向かった一行の無事を祈るようなマコトの言葉に、テンカイが心強い返答を返す。
ともあれ、街に残っている自分達ができることがあるなら、それは無事に帰還することを祈る事だけだ。
†
「あの2人、勝手に戦ってるとはいえ逆に好都合だ。総員、先の陣形を形成し直せ!ラフコフプレイヤーに対応しつつ後退!合図と共に撤退するぞ!カオリはその間、構成員の無力化を頼む!」
攻略組がボスを討伐した以上ここに用は無い。後の脅威を少しでも減らす為に、下っ端のプレイヤーを捕獲してラフコフの戦力を削り落とす。攻略組も戦いで疲弊したらしいが、早く次の街に行ってくれと内心焦りも見える。
その一声と援軍に冷静さを取り戻した【ブレイブ・フォース】のプレイヤー達は陣形を組みなおす。
剣を手に襲い掛かるラフコフのプレイヤーの両側を盾で押さえ、鞭のソードスキル《ホールド》で捕え、その上から盾持ちの一人がロープで拘束する。
「失敗から学ぶことは実に良い事です。ですが我々もいつまでも同じと思われているのは心外ですね」
リーヴがウィンドウを操作し、トリンケットを取り出した。それを頭上へ放り投げた直後、投げられたピックが突き刺さり、破壊されたトリンケットの中から無数の槍がノゾミとリーヴを取り囲むように突き刺さる。
「何、これ……?」
「ちょっとした下拵えですよ。まあ、あなたを始末するにはこれだけあれば十分でしょうね」
ノゾミがその異様な光景に呆けていた瞬間、眼前に突撃槍の穂先が迫ってきた。
間一髪身体を後ろにそらして回避したのも束の間、突進した先の槍を空いた左手で掴み、短槍二刀流になると再びノゾミへと槍を投げ飛ばす。
今度はその槍を弾こうとファルシオンで弾き返す。その途端突撃槍の穂先に亀裂が走り、砕け散った。
「!?」
「何してるんだノゾミ、早く逃げろ!」
ノーチラスの声にすぐに逃げようとするも、投擲された槍に阻まれ、直後に繰り出してきた短槍系突進スキル《コメット》で回り込まれる。
「簡単には逃がしませんよ?」
「ッ……、邪魔しないで!」
急いでノーチラス達と合流したいのに、リーヴはまるでノゾミと遊んでいるかのように軽やかな身のこなしで回避していく。
「どうしました歌姫?ダンスパフォーマンスにしては少々ぎこちないですよ?」
(この人、私の攻撃を最小限の動きで避けている……!まるで私の動きを読まれてるみたいじゃない……!)
一瞬目線を後ろのチカ達に向け、叫ぶ。
「ごめん、手間取りそう!先に逃げて!」
「――ク……ッ!総員、追撃を警戒しつつ退避!奴の槍の投擲に気を付けろ!」
「お待ちなさい、ノゾミさんを見捨てるつもりですの!?」
無論ノーチラス自身見捨てるつもりは無い。
しかし前線を下げている以上、これ以上耐えるのも時間の問題だ。
「何をしている!撤退すると決めたのなら迷うな!退路はもう結晶しかない!幹部が足止めされてる間に退避しろ!このまま全滅が一番最悪な結末だ!」
ノーチラスが怒鳴るように説得する。
数瞬の沈黙の後、苦心した表情でウィスタリアがポーチから回廊結晶を取り出した。
「コリド――」
結晶を砕く直前、飛来した槍が回廊結晶を貫く。
ガチャンと音を立てて地面を転がった回廊結晶がポリゴン片となって消滅する。
「結晶がっ!」
「おいおいどこに行くんだ?折角のパーティをテメェらが勝手に切り上げるなんてねぇよなぁ?」
クリスティーナとの剣戟を繰り広げつつ、PoHは脱出手段が立たれた一行を煽る様に嗤う。
「どうした?私を前に別の相手に現を抜かすなんて許されると思っているのか?それとも私以外に目移りするほどこのダンスが退屈なものなのか?私は楽しんでいるぞ!一瞬一瞬の刹那に散るやもしれぬ命の奪い合い!肌がひりつくような感覚!高鳴る鼓動!貴様らもこのPK――殺し合いという麻薬に侵された中毒患者だろう!?」
「Hah!だったら俺らのギルドに入ったほうが良かったんじゃないのか!?」
「お生憎様!私はこう見えて良識人なのだよ。合法的な殺人が許されるという点はさておいて、たった一度しかない人生の主役は私だ!どこに付こうが私自身が決めたことだよ。最も、団長の代わりに貴様という極上の獲物を狩れるチャンスが思いもよらない形で巡って来たからな!ああ、勿論団長も可能であれば本気で狩るつもりだよ」
「正義に酔いしれてる奴の戯言だな!」
「私が正義に身を置いたのはたまたまさ。だが、私が正義に酔いしれる者ならお前は私に生の渇きを潤してくれる存在を作り上げてくれた!感謝しているよ!退屈で作られた殺意しかないモンスターとの相手は実に退屈だった!本物の狂気!本物の殺意!殺し合いはこうでなければなぁ!」
激しい剣戟の合間を縫うように会話を繰り広げる。
一方で、ラジラジとジョニーブラックの戦闘は、既に決着していた。
「ふがはぁ!?」
地面に叩きつけられるジョニー。一方のラジラジは掠り傷一つ負っていない様子だ。それもそのはず、彼と戦闘になった時から一度もダメージを負っていないのだから。最も、ダメージ=毒のデバフとなる訳で、一度でも喰らえばそこから悲惨なリンチが待ち構えている訳だが。
「――悪くないですね。あの出来損ないよりは幾分かマシです」
「悪くないって、終始圧倒してた奴が言う台詞か!?」
「毒針毒ナイフ毒煙。毒物劇薬取扱資格試験でも受けてみたらどうですか?」
「小粋なジョークありがとよ!」
地面に押さえつけられた状態から体術スキル《待臥》で反撃する。回避されたものの反動で起き上がると投擲ダガーを投げつける。
しかし、そのダガーを回避と同時に持ち手を掴む。くるりと180度回転させると一瞬でジョニーの右掌に杭を打ち付ける様に突き刺した。
反射的に悲鳴を上げる間も無く、ラジラジに腕を後ろに回され地面に叩きつけられる。
「テメッ――!離せ!何しやがる!?」
「中々楽しめましたよ」
まるでゴミをゴミ箱にでも投げ捨てる様にジョニーを放り投げた。
成す術無く
「凄っ……あのジョニー・ブラックが相手にならないなんて……」
そのあっけない幕切れよりも、ラジラジの強さにユナは唖然とするのだった。
†
一方、ノゾミとリーヴの戦闘も、状況の変化が訪れようとしていた。
「いい加減にしてよッ!」
「クク。相当頭に来ているようですね」
次々と片手槍を手に取っては投げるリーヴに、ノゾミは時に回避、時に槍を弾いて防戦していた。
だが、ノゾミはまだ諦めていない。
「そろそろ槍も尽きてきたんじゃない?」
「ほう。それを見越していたのですか」
見ればリーヴの周囲の槍は1本のみ。残ったほとんどの槍はノゾミの背後の扉に突き刺さっていたり、地面に転がっている。トリンケットに入れた槍があれだけとは限らないが、それでもノゾミには次のトリンケットを取り出す暇を与えない自信があった。
「自分は残って回避とパリィに専念し、割り込む見方が巻き添えを喰らわないように自分に集中させた、と言う訳ですか。中々通して結構」
「これでもう槍は投げられないよ!」
「そうですね。それでは奪い取ることにしましょうか」
次の瞬間ノゾミとの間合いが一気に縮まった。スキル《疾走》だ。
虚を突かれたノゾミは反射的に後ろに下がり、リーヴが袖から何かを投げた。ぷすりと刺さった感触がした途端、ノゾミの身体ががくりと崩れた。
「――しっ、痺れ毒!?」
「おや。余程予想外だったようですね?これくらいは予想していてもおかしくないのに」
「こ、こんな……!」
「卑怯、と呼ばれる筋合いはないですよ。人間は嘘をつかなければならない生物ですから」
「それって……どういう……?」
「これから死ぬ相手に何を言っても無駄でしょう?」
傍にあった槍を引き抜き、それがノゾミの顔面に振り下ろされる――
「間に合ったやっさ~!」
――直前に割り込んできたカオリが槍の防壁を跳び越え、振り下ろされる矛先を蹴り飛ばした。
倒れたノゾミをかばうように前に出て、拳を構えるカオリ。
「ノゾミさん!これを」
駆け付けたツムギが解毒ポーションを呑ませ、麻痺を解除する。
「ありがとう。他のみんなは?」
「後方にいるけど……回廊結晶を壊されて、逃げる方法が……!」
麻痺から回復し立ち上がったノゾミにユナが知らせる。
それを聞いたノゾミは生きた心地のしない表情を浮かべてしまう。
「なんだなんだ、自分の葬式の相談か?」
その時、鍔迫り合いを中止して距離を取ったクリスティーナがこんな状況にもかかわらず、PoHとの戦闘を楽しんでいる様子で背後のノゾミ達に声をかける。
「流石に手を焼かせるな。【KoB】副団長」
「お褒めにあずかり恐悦至極、とでも返そうか?」
一歩も引かない両者。
完全に拮抗しているのか、それともお互い切り札を温存してこの実力なのか――。
「――Hey、GUY’s!」
膠着した状態になった状況で、PoHが声を張り上げる。
「今から【笑う棺桶】最後の命令を下す!」
「最後の命令、だと?」
「お前ら、今からこの場で――」
「殺し合え」
「……………………………え?」
PoHの命令に硬直するノゾミ達。
今何て言った?殺し合え?あのラフコフのプレイヤー達が?この場で?
到底信じられないようなPoHからの命令に、ノゾミ達はブラフだろうと思った。
一人のラフコフプレイヤーが付近にいたプレイヤーの肩を短剣で突き刺した。刺されたプレイヤーもお返しと言わんばかりにメイスで殴り返す。
一人一人から始まったそれは、いつの間にか本当の殺し合いへと発展していく。
「さあ最後のショータイムだ【ゴスペル・メルクリウス】。ギルドの理念を貫いて死ぬか、そのまま逃げだすか」
「そんな……!」
否定するように首を弱弱しく振ろうと、目の前の殺し合いは止まらない。現実は変わらない。
「ほらほらほらぁ!急がないとどんどん犠牲者が増えてくぜぇ?とっとと助けて見ろよ【ゴスペル・メルクリウス】!Halley!Halley!Halley!!!」
恐怖に立ち尽くす少女たちを急かし、嗤うように声を荒げる。
「……これで、良かったんじゃないか?」
その光景を見た誰かが、ふと呟いた。
「――そうだよ。あいつらはこれまでにも散々人を殺してきたんだ。これは罰なんだよ」
「ええ。その通りよ。あいつらは、誰かにとっての大切な人を殺しておいて今も平然と生きてるのよ。そんなの、間違ってる……」
「これは当然の結末なんだ……そうだ、自業自得なんだよ……」
「……ッ!!」
武器同士のぶつかり合う金属音、地を踏み鳴らす音、正気を失ったプレイヤーの雄叫びがまじりあう戦場の中ではそれはいかに小さいか。
だがそれでも、ノゾミはその呟きを聞き逃さなかった。
同時に乱戦へと駆け出した。
「ノゾミさん!?」
「な、なんで!?このまま放っておけばいいのに!」
ノゾミの行動にプレイヤー達は困惑する。
【ゴスペル・メルクリウス】の主要メンバー達やノーチラス、カオリも一瞬他のプレイヤー達と同じようにノゾミの行動に目を瞠っていた。が、僅かに見えた表情に自然と「ああ」と納得したような声を漏らしてしまう。
「……なるほどね~。ノゾミはこれ以上、死なせたくないって思ってるんさね~」
「死なせたくないって、何言ってんだ?相手は殺人ギルドの奴らだぞ、助けたって何の得も――」
「損得よりも、自分がそうしたいんじゃないかな~?」
困惑して訴えるプレイヤーにカオリがいつもの調子で返して騒乱へと駆けていく。
「確かに、彼らのしてきたことは許されることではありません。この場は退く事が最も得策――ひいてはボス部屋に一時避難という手も可能ですわ」
「だったら!」
「まあ最も、個人的な意見を述べるならこの場で彼らを見殺しにして、後の自分に誇れるかどうかは別問題ではなくて?」
今この場で彼らを見殺しにして、夢を叶えた後の自分が、今の選択をして後悔していないと胸を張ってい言えるのかどうか。
彼らの言う通り、ラフコフのプレイヤーを見殺しにしてしまえば余計な犠牲は出さずに済む。
だが、そうやって平然と切り捨てた選択をして、目の前の助けられるものを捨てて、それが最善の選択かと迫られては――。
「――私は、例えそれが愚かな行為だったとしても、それが最善と思えませんわ」
それがただの我儘であったとしても、それで納得いくかどうかは別問題だ。
ノゾミもウィスタリアも、それを許容しなかった。それだけである。
「――ったく、尻拭いするこっちの身にもなれっての……ウィスタリア、ちょっと待て!」
騒乱を止めるべく駆け出そうとしたウィスタリアを見たノーチラスが頭を掻きながら溜息と共に思いの丈を吐露する。
そしてウィスタリアを呼び止めると同時にユナが呼びかける。
「エーくん、何人か連れてくけどいい?」
「ああ。丁度良かった。チカ、《吟唱》中断して防御に専念しろ」
「ウィスタリアさんは数人を連れて捕まえたプレイヤーをボス部屋に連行して!それから攻略組にも応援要請を!」
「お待ちなさい、ここは私が先陣切って「その件じゃ取り回しづらいでしょ!」ああそういうこと」
「ウィップ隊は敵の妨害だ!手や武器を中心に狙え!」
「はい!」
「ちょ、ちょっと待てよ!助けるつもりか?!」
指示を出すノーチラスに戸惑っていた一人のプレイヤーが割り込んできた。
「あんな奴らを助ける必要なんてない!」
「そ、そうよ!ボス部屋に行かせないことが目的なんでしょ!もうアイツら、ここで自滅するつもりだからこれ以上手を出す必要なんてないんじゃないの?」
「もうこれで終わりだろ!?これ以上危険を冒す必要なんてないじゃないか!」
彼らの言う事は最もだ。既にボス部屋に突入して攻略組を始末するというラフコフの計画はとん挫。ならば死者を増やそうという策は、こちらを煽って冷静さを欠かせるのが狙いだろう。
現にノゾミが彼らの策に嵌ったように、今も殺し合いの只中で一人でも死者を減らそうと孤軍奮闘している。
こちら側からすれば、もうこれ以上命を懸ける必要性はどこにもない。
「……確かに、これ以上命をかける必要はないな」
ノーチラスも底は納得したように頷く。
その中の一人が「そうだろ!?」と興奮気味に頷いて続きを言おうとして――
「だが、もしここでノゾミが死ねば、二度と彼女のライブが開催さ入れないし、お前らは彼女のファンに恨まれることになるぞ?」
「「「!?」」」
「いやー、これから苦労するだろうなー。街の連中からヘイトを一心に背負って、街中でも園外でも闇討ちする輩で取り囲まれるんだからな」
説得、いや、最早脅迫の類だった。
何気に在り得そうな事を言っている分
「お前……!ロクな死に方しねぇぞ……!」
「そうだな。だがそれは今じゃない。さあ、もう一発反撃に出るぞ!」
「だあああッ!!!お前ら行くぞ!!!」
最早半分ヤケクソの絶叫と共に、反対意見を出していたプレイヤー達も騒乱の最中へと突入するのだった。
「みんな……!」
「これ以上死なせるな!ウィップ隊は敵の武器か腕を狙って《ホールド》を仕掛けろ!他は動きが止まった所を拘束しろ!」
「うるせェッ!!」「言われなくても分かってらァ!!」
ノーチラスの指示に罵声で返すプレイヤー達。それでもお互いを殺し合うプレイヤーの武器を叩き落そうと敵の武器目掛けて武器を振るい、鞭を武器にするプレイヤーは《ホールド》を使い相手の武器を奪い取る。
「……チッ」
面白くないのはPoHだ。
同士討ちを命じてノゾミ達を煽り、突出した彼女を袋叩きにして殺す算段が完全にお釈迦である。
「おっと、どこを見ている?私の相手をしている最中で余所見とは感心しないな」
「テメェ……!」
「言っておくが通らせる気は無い。これがこの世界での最後の戦いになるかもしれないんだ。思う存分この私に殺意と怒りをぶつけて見せろ!!」
まるで羽か小枝のように軽々と振り回し、宣言するクリスティーナ。
彼女の実力ならば、PoHであっても彼女の背後の争乱に手を伸ばす事は難しいだろう。
その一方、カオリとリーヴの戦闘は……。
「そら、そらそらそら」
「ぐうううぅぅッ!!」
短槍を振るうリーヴの攻撃を、カオリが回避や
(この人の槍、一発一発が重いさー!距離を取りたいけど、下手に下がったら《投擲》をされてみんなが危ない!)
時に槍を突き立てて、それを軸に跳び上がると同時に放ってくる回転蹴り、槍を放したと思ったら明らかに状態異常を与えそうな刀身の短剣による斬撃。
「――スイッチ!」
その時、背後からの声で反射的に身を引くカオリ。
生じた隙を逃さず《投擲》のモーションを取ろうとして――すぐに下がった。
直後、リーヴの頭があった個所に蹴りが空を裂いた。
「――頭を蹴り飛ばされるところでした」
「残念です。頭を蹴り飛ばそうとしていたのに」
「リーダー!」
「彼との戦闘では物足りなかったのでね」
「とんだ戦闘狂だ」
「そこは自覚してますよ」
拳を構えるラジラジ。
一方のリーヴはちらりと奥の喧騒を見た後、ウィンドウを操作。取り出したのは、手に収まる青色の長方形のクリスタル――転移結晶だ。
「何の真似ですか?」
「少々分が悪いので一足先にお暇させていただきますよ」
「な……ッ!?自分から仕掛けてきたくせに、そんなこと「転移」」
あっさりと手を引く発言をしたリーヴにカオリが困惑と怒りを混ぜ合わせたような声で抗議するも、我関せずと言わんばかりに早々に転移してしまった。
「に、逃げちゃったさー……」
「逃げた相手にかまけてる暇はありませんよ」
逃げたなら逃げたで最優先事項を帰ればいいだけの事とラジラジは呆けるカオリの肩を叩いて奥の騒乱へと向かう。
カオリもワンテンポ遅れて後を追うのだった。
「これで3人目ェ!」
「縄、いや、鎖で縛れ!」
武器を持った手に鎖が巻き付き拘束された所を盾持ちプレイヤーのタックルで体勢が崩れた所を更に数人のプレイヤーのタックルを受けて倒れ込む。
そこに鎖を取り出し手早く拘束する。
これで合計12人目。半数近くが拘束された。
「よし、行ける……」
ノゾミもみんなが駆け付け協力して末端メンバーを確保していく現状を見て安堵するように息を
このまま確保が続けば流石に撤退を余儀なくされるかもしれない。
そう思っていた矢先だった。カラン、と金属音が静まりゆく喧騒の中で聞こえた。
1つじゃない。複数の場所で次々と。
「お、おい!こいつら何で自殺をしてるんだ!?」
「知るかよォ!」
「喚いてる場合じゃありません!早く止めさせて!」
阿鼻叫喚の地獄絵図に仰天する間に次々とラフコフのメンバーは自殺を敢行していく。
そんな中、クリスティーナは冷静な態度を崩さずPoHへと声をかける。
「――自殺するよう仕込んだのか」
「ああ。3分間殺し合いを妨害された場合、速やかに自殺するようにな。二の手は用意するべきだろ?」
「酷い……人の命を消耗品みたいに使うなんて……!」
「早くしないとどんどん死んでいくぜぇ?」
煽り立てるPoHの言葉を肯定していくように次々と自傷ダメージを受けて消滅していく
迷っている暇はない。すぐさまノゾミは自殺を妨害すべく走り出す。
「余所見してる場合かよッ!」
一瞬左上に目線を逸らしたクリスティーナの隙を突いてPoHが突出してきた。
クリスティーナは迎撃姿勢を取って……剣を手放した。
通り過ぎる瞬間PoHは諦めたものと割り切り、まっすぐに自殺の妨害をしているノゾミにタックルをかまして、そのまま迷宮区の壁に押し付ける。
「うぐっ!」
「ノゾミ!!」
「Hah!正義の味方を気取ってて嬉しかったか?」
引きはがそうにもあからさまと言っていいほどの腕力の差――もとい、筋力ステータスの差で、まるで万力のような力で押さえつけるPoHの腕を振りほどけない。
「折角のShowを邪魔しやがって。おかげであのボス部屋で起きる大惨事が全部パーになっちまったじゃねぇか。雑魚の分際で分別をわきまえずに俺達に挑むなんざ、テメェら英雄にでもなったつもりか?その
周囲に宣言するかのように高々と声を上げる。
助けに行こうとしても強化された友切包丁で一蹴されるだろう。それ以前に自殺をするプレイヤーを放って行くわけにもいかない。
つまるところ、完全に八方塞がりだ。
「これは調子に乗ったテメェらへの罰だ。お前達の最高の
勝ち誇ったように高笑いを上げて友切包丁を振り上げる。
今から駆け付けようがもう間に合わない。
友切包丁の刃がノゾミの命を散らさんと迫り――弾かれた。
「……は?」
周囲のプレイヤーが困惑する中、PoHも呆けた表情で硬直している。これは彼ですら予想だにしなかった事態らしい。
「どういう……こと……」
ノゾミもこの状況に困惑していた。
彼女を守る様に友切包丁の刃を阻んだのは5センチ四方の紫の障壁。そこに表示されているのは『Immortal object』――システム的不死。
当然ノゾミ自身そんなシステムが何故発揮したのか知る由も無いし、何故こんなシステムが働いたのか見当もつかない。
困惑に包まれる中、突如としてシステムアナウンスが彼女らの耳を打つ。
――11月7日14時55分。ゲームはクリアされました。
――ゲームはクリアされました。
それはノゾミ達にとって唐突な、そして全てのプレイヤーが待ち望んだその言葉を浮遊城の全てに知らしめるように、透き通ったシステムアナウンス音声がどこまでも響いていった。
次回「決着」
(・大・)<アインクラッド編も後2話くらいで完結です。
(;・大・)<ってか、振り返って見たら50話強も載せてたんか……。