プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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「再会と動き出す奴ら」

 

姉と母に連れられ、あれよあれよとお茶の水地区のある病院へと連れて行かれた。

途中、眼鏡をかけた男性と擦れ違い、訳の分からないままの希留耶を他所に、母が病室のドアを開く。

整然とされた病室のベッドの上で、頭にヘルメットの様な装置を被った少年が、上体を起こしていた。

 

「……久しぶり、かな……?」

 

痩せ細ったその少年の申し訳なさそうな言葉に、姉も母も感極まって少年の元へと駆け寄った。

 

(こいつが……和人……)

 

希留耶は一人だけ病室には入らず、ドアの傍でじっとそのやり取りを見ていた。

やがて少年――和人も気付いたのか、きょとんと希留耶を丸くした目で見る。

それに気付いたのか、母は希留耶の方を向いて紹介する。

 

「ああ、忘れてたわ。この子は希留耶。私達の家族になった子よ」

 

「……は?」

 

再び目を丸くする和人に、希留耶はバツが悪そうな顔をするのだった。

 

 

 

 

「そうだったのか……」

 

母、桐ヶ谷翠からの話を聞いた和人は納得した。

 

「ええ。親は警察に逮捕されて、それでお父さんが希留耶の親権を取ったの。ほら、希留耶。お兄ちゃんに挨拶して――」

 

すっと翠が差し伸べた途端、希留耶はその手を払いのけた。

本気で払い落すかのような力のこもった振り払いに思わず目を瞠る。

 

「……あっ、ごめん……なさい……」

 

どうやら希留耶も無意識だったらしく、すぐに謝る。

 

「あ、あのねお兄ちゃん。希留耶ちゃんはちょっと元親の事情で、その……」

 

「あ、ああ。気にすんな――。改めて、桐ヶ谷、和人だ」

 

「も……ううん、桐ヶ谷、希留耶……よろしく……」

 

互いの自己紹介が終わった時、病室の外からバタバタと騒音が聞こえてくる。

 

「カズ兄ぃ~~~~~!!!!」

 

「「和人さ~~~~ん!!」」

 

双子の少女と少年がドアをぶち破らん勢いで飛び込んできた。

 

「おおぉっと!それ以上はストップ!お兄ちゃん今弱ってるんだよ?今飛び込んだら確実に骨折れるからね~?」

 

「ンだよ!邪魔すんなスグ!」

 

「そうだよ!和人さんが起きたっていうから、2年ぶりにあかりの感触をゆっくりたっぷり思い出させようと……」

 

「あかり!親御さんもいるんだから少しは自重しなさいよ!」

 

直葉に突っかかった少年、狩崎座太郎。

妙に意味深な発言をした双子の妹、風宮あかり。

赤面しつつもあかりを注意する姉、風宮より。

3人の少年少女がギャーギャー騒ぐ中、少し遅れてもう一人の少女がやれやれと言った様子で眺めている。

 

「はいはい。気持ちは分かるけど相手は病人同然だからね?暫くは筋肉とか色々治さなきゃいけないところが山ほどあるんだから、今日は我慢だよ。和人さん私達はこの辺でお暇しとくから、後は家族団らんを満喫してね~」

 

少女、三久間智は後ろからギャーギャー騒ぐ3人を引いて去っていくのだった。

 

「……アンタ、こんなのと一緒で疲れないの?」

 

「まあな。それでも一緒にゲームをやったりした腐れ縁だよ」

 

キャルにそう返した和人は、あはは、と呆れた声を上げる直葉に穏やかな視線を向けてあの時の決戦を思い返す。

 

 

 

 

 

ヒースクリフとの最終決戦の時、確かにキリトの意識は無かった。いや、正確にはほぼまどろみの中だった。夢の中にいると言ってもいい。

あのまま意識を取り戻さなければ、きっとキリトは首を撥ねられて終わっていただろう。

その時、突然誰かに背中を押された気がした。

 

 

――お兄ちゃん!

 

――和人さん!

 

――カズ兄!

 

 

耳を打った懐かしい声に、思わずハッとした表情を浮かべた。

生きて帰ってほしいと願う声。

もう一度、声を聞かせてほしい願う声。

一緒にいたいと願う声。

もう一度、一緒に遊びたいと願う声。

その声たちに導かれるように、キリトの意識は覚醒していった。

そして――。

 

 

 

 

 

――君の事を心配している人は、君が思っているよりも近くで沢山いるんだから。

 

 

アスナの言葉が頭をよぎる。

あの時はそんな人物に対して心当たりはないと思っていたのだが……。

 

「案外近くにいたんだな。心配してる人って……」

 

 

 

 

別の病院のとある病室。

 

 

「どうして、私の所に……?」

 

「渡したいものがあるんだ」

 

横たわったつむぎの疑問を怜が答える。

そしてポケットから何かを取り出した怜はつむぎの手にそっと渡す。強い力でやぶれた所を不器用に縫い合わせたハンカチだ。それをつむぎはまじまじと見つめる。

 

「これって……」

 

「見学会の後、私と初めて出会った時に君が持っていたものだ。すまない。すぐに返すつもりだったのに、2年も待たせてしまって……」

 

見学会の後、不良に絡まれていた所を怜が助太刀に入って彼女を助けたことがある。

それより少し前に不良の手によって作ったハンカチを破られてしまった。つむぎはそれを捨てるよう怜に行っておいたが、それがSAO事件の前日の事だった。

 

「可愛くできていたから、捨てるのが可哀想で。前に家庭科の授業のついでに縫っておいたよ」

 

「わざわざ2年近くもとっておいたんですか……?」

 

「君の大切なものだろ?あの時私が元の状態で取り返せなかったのも――って、どうしたの?」

 

自然と、つむぎの双眸からぼたぼたと涙が零れ落ちてきた。

いきなり大粒の涙をこぼす彼女に怜も思わずたじろぐ。

 

「怜様……ありがとうございます……」

 

「……え?」

 

「ありがとうございます……大切に、取っていてくれて……」

 

必死に伝えた言葉は、感謝の意だった。

自分が懸命に作った大切な物を怜は捨てることなく、それどころか彼女なりに修復して保存してくれた。いつ死ぬかもわからない、解放されるのか分からないデスゲームの外で。ただただ助かるのを信じて待っていてくれて。

つむぎはこれ以上ないほどに嬉しかったのだ。

 

 

 

 

また別の病院では――。

 

 

「まさか、SAOで商売をしてたなんてね」

 

「ええ。ゲームの中とは言え、商売の難しさを痛感しましたわ」

 

見舞いに来た咲恋の言葉に思い返す様に返すのはウィスタリア――藤堂秋乃。

 

「だとしても、始まりの街の統括はうまくいってたんでしょう?」

 

「ユースさんやティアナさん。それに多くの方々の尽力もあってのこと。私だけでは、どうすることもできなかったと思いますわ……」

 

咲恋に対してしおらしい秋乃は自虐を交えて返す。

しばしの沈黙の後、突如秋乃は気合を入れる様に頬を叩く。

 

「決めましたわ。全快した暁には商業を徹底的に学びます!」

 

「大きく出たわね。けど、ゲームと現実の商業って全然違うでしょ?」

 

「全然違うとしても、ゲームでの商業の経験は現実に生かす事も不可能ではないはずですわ!現実での商業を学び己の商業を確立させる。ただ財閥を引き継いだだけで商業が成り立つわけではない。その事をSAOに――茅場明彦に教わった気がしますわ」

 

揺らがない決意を胸に秘めた秋乃の瞳に、炎のような情熱を感じた咲恋はそれ以上何も言えなかった。いや、言わなかった。

一度決めたことは何が何でも貫き通す。SAO事件に巻き込まれる前と変わらないその令嬢としては似つかわしくないスタンス。

 

(やっぱり秋乃さんは、こうでなくっちゃね)

 

改めて秋乃の帰還を実感した咲恋は目を細めて彼女を見ていた。

 

「そうですわ。咲恋さんに聞きたい事がありますの」

 

「聞きたい事?」

 

「ええ。ニュースで見たのですけれど、まだ300人ほどSAOから帰還されていない方がいるようですわ」

 

神妙な顔持ちの秋乃の質問には咲恋も心当たりがある。

昨日のニュースでSAOの終了でてんやわんやだったが、昨夜のニュースでは未だに目覚めないプレイヤーも存在しているとのこと。

時差的な問題だろうとコメンターはそう言っていたが、咲恋はその時妙な不安感を感じていた。

 

「まさか、茅場が自分の保身のために……?」

 

「それはあり得ませんわ。彼は大々的に私達にゲームのクリア条件を提示していますのよ。そんな方が最後の最後で保身に走るとは到底思えませんわ」

 

「じゃあ帰還者の意識が戻らないのは他の誰かの仕業って事?」

 

咲恋にはそんな相手見当もつかない。秋乃の気のせいと一蹴される可能性もあるが、アキノの性格を知る咲恋が彼女が嘘を吐くとは考えられなかった。

 

「なら、私が――」

 

「秋乃さんは回復に専念して。ここからはあたし達の番よ」

 

「咲恋さん!?」

 

「どうせ自分が確かめようって言うつもりだったんでしょ?貴女のお父様から娘がVR関係に手を出させないでほしいって釘を刺されてたからね」

 

「……わかりましたわ。大人しくしています」

 

お見通しと言わんばかりに悪戯っぽく笑みを浮かべる咲恋。

自分の父親の差し金と分かり顔をしかめながら渋々受諾する。その直後思い出した様に「あ」と声を上げた。

 

「そうですわ。連絡をつけたい方がいらっしゃいますの」

 

「それならいいものがあるわ」

 

連絡したいという秋乃に咲恋が持ってきていた資料を差し出した。

 

 

 

 

そして、2か月後――都内某事務所。

 

 

「いやぁ~ノゾミちゃんが復帰できて本当に良かった!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

やけに食い気味に望をねぎらう派手な服の男は望のマネージャーだ。彼に対し望は礼を言いつつも表情は引き気味だった。

彼は望がSAOに捕らわれた後でも解雇せずにしておいてくれたらしい。

 

「そ・れ・で!2年間のブランクを埋めるべきプランはもうあるんだ!SAOに捕らわれてもなお解放へ向けて攻略を続け、解放へと導いたアイドル!これは人気も爆上がりするよ!!」

 

「はい……はい!?」

 

嬉々としてプランを語るマネージャーに流しそうになったが、聞き捨てならない台詞に思わず呼び止めた。

 

「ま、待って下さい!!私が攻略組?何言ってるんですか!私は――」

 

「いーのいーの。どうせ外にいる連中は分かりっこないから。大事なのは望ちゃんがSAO生還者(サバイバー)として人気になる事。茅場明彦の被害者で生き残った人間ってだけで十分な名声が入ってくるし、それが攻略プレイヤーなら猶更。こんなチャンス、新人アイドルじゃ早々に――」

 

「……いで」

 

「え?」

 

「――ふざけないでッ!!!!」

 

マネージャーの妄想を遮った望がバンと机を力強く叩き、怒り交じりに叫ぶ。

思わず彼女のほうへきょとんとした表情を向けるマネージャーを鋭く睨みつけて捲し立てる。

 

「何も分かっていないのはマネージャーの方よ!!あの世界で過ごした人たちが、どんな思いで攻略していったのか、どんな思いで戦っていったのか何もわかってない!!誰も名声を得たくて戦った訳でも、生きていった訳でもない!!みんな必死に生きて、必死に戦った!帰りたくても死んでいった人もいた!そんな人たちを、被害者の一言で片づけないで!!」

 

叫ぶその気迫にマネージャーは面食らった表情で押し黙る。

荷物の肩下げバッグを持つと早々に席を立つ。

 

「私は生還者のみんなにも、私の歌を聞いてくれる人にも、嘘は吐きたくありません。短い間でしたけど、お世話になりました」

 

乱暴にドアを閉めて後にしていった。

 

 

 

 

「ああもう腹立つ!何が攻略組よ!何が爆上がりよ!そこまでして人気が欲しい訳!?」

 

ずかずかとした足取りで不満を吐露するノゾミ。

そんな時、彼女を呼び止める様に携帯の着信音が鳴る。

 

「もしもし?――重村先生?」

 

電話の相手は重村。悠那の父親だ。悠那と裕二の交流の際、彼とも面識は少ないがあったほうだ。

そんな彼からの内容は、指定のファミレスに今すぐ来てほしいとのこと。

早速そのファミレスへと足を運ぶ。

入って早速白髪交じりの40代の眼鏡をかけた男性が目に入った。

 

「重村先生」

 

「2年ぶりだね、櫻井君。既に退院したと聞いていたが、もう仕事とは思わなかったよ」

 

「いえ、あの事務所にはもう……半分学生って感じです。それに病院から仕事よりも落ちた筋肉量を取り戻す方に専念しろって言われてます。あっ、サイドのグリルチキンをお願いします」

 

ついでに軽食を頼もうと会話の間に注文する。

注文を待つ間、真剣な顔持ちの重村が口を開いた。

 

「君は、SAOからの未帰還者を知ってるか?」

 

「えっ?」

 

本題らしき話題を切り出されて、一瞬きょどった望は記憶をたどる。

確かに数日前のニュースでそんなことが流れていたのを見たことがあったが……。

そこまで思い出すと、望も察したように顔を引きつらせる。嫌な予感が止まらない。

 

「ま、まさか……!」

 

どうか気のせいであってほしい。

そんな切実な願いを打ち砕くかのように重村は重々し気に口を開いた。

 

「ああ……。悠那が……そしてレインと言うプレイヤーも戻ってきていない」

 

告げられた言葉にさらに言葉を失った。悠那だけでなく、レインまでもSAOから帰還していないなんて。

 

「ど、どうして2人が……!?」

 

「大体の想像は付いている。だが私はそれに関して動くことはできない」

 

「動けない?」

 

「悠那は恐らく私に対しての人質だ。手を出すなと暗に伝えているのだろう」

 

「……あの、重村先生は犯人に心当たりがあるんですか?」

 

「……ああ。話は変わるがこれを見てくれ」

 

重々しく頷く重村がスマホを取り出し、少し操作して望に見せる。

SNSに投稿された画像らしいが、画質はかなり荒く、解像度の限界ギリギリまで引き延ばしたようなものらしいが、はっきりとその姿が映されている。

鳥かごの様な場所に麻色の髪に赤いリボンと白いレース姿という露出の多い服装になった少女の画像だった。

 

「この人は……?確か、アスナさん……?」

 

「彼女を知ってるのか。なら話は早いな」

 

丁度注文したグリルチキンが望の前に置かれた。店員が去ると同時に再び重村が口を開く。

 

「櫻井君。君はこれからあるゲームをプレイし、彼女を――そして300人の未帰還者を救う手掛かりを探して欲しいんだ」

 

 

 





次回『かくして、物語の幕は再び上がる』
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