プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
( ・大・)<……お待たせしました。
( 剣斧・大・)<ライズでスラアクの楽しさに目覚め、今の今まで更新が遅れてしまいました。
( 狩人・大・)<27日から
17時20分:ホルンカの村
ここは、第1層の次なる目的地ホルンカの村。
SAO第1階層の始まりの街から小一時間ほど離れた小さな、第1層の2つ目の園内村である。
そこに男女混合のパーティが訪れる。
「着いたー!」
「始まりの街に比べりゃ随分小せぇトコだな」
10代半ばの少女『
「まぁ!これが村と言うものなのですね!」
「ウィスタリアさん、初めて見るんですか?」
「ええ。幼い頃から都会暮らしでしたので」
「まったく、都会だのどうだの、私には関係ありませんよ」
2人に続き真っ赤な衣装に身を包んだ20代前半の女性『
その傍で幼い少女『
「んじゃあ、とっとと武器を新調してクエストを進めちまおうぜ」
「ああ、待って下さい。ここで売ってるブロンズシリーズは耐久値が低いから、3番目の街まで我慢してくれますか?」
武器屋へと足を進めようとしたマコトを、白衣を着た少女、『
この6人はサービス初日に、発案者であるユイが声を掛け、集まった6人がパーティを組み、ウィスタリアが早速次の街へ行こうと切り出したのがきかっけである。
最も、ホルンカに着く前に興奮気味のウィスタリアが縦横無尽に探索しまくった所為で、本来30分もあれば到着できるようなホルンカに、4時間も掛かってしまったが。
「ああ、悪いな。にしても流石ベータテスター。なんでも知ってるんだな」
「よして下さい。ベータテスターって言っても、私は3層で攻略から脱落したんですよ。最前線も8層くらいまでがやっとだったし」
「8層、ですか。確かアインクラッドって……」
「100層だから、10分の1にも満たないね」
ユイの言葉にチカは思わず天を仰いだ。
たった10分の1までしか攻略できなかったことに、これは相当大掛かりな攻略が繰り広げられそうだと思った。
「……ん?悪い。今日はもう落ちる」
「あら、そうですの?」
「ああ。仕事柄夕方から夜は無理なんでな。時間はひねり出すつもりだ」
「そっか。じゃあ私達もそろそろ上がる?」
「えー?私は次の街に用があるんですよ?明日まで待ってる必要ありません!」
「生意気言ってんじゃねぇよ」
文句を垂れ流すツムギにマコトが彼女の頭頂部に軽いゲンコツと共にツッコミを入れた。
「それでは今回はここまでにしましょう。明日からは本格的に攻略を目指しましょう」
ウィスタリアの一言に一同も賛成し、その場でログアウトしようとして――その手が止まった。
「……ん?」
「マコトさん?どうしたの?」
「……なぁ、ログアウトってどうするんだ?」
「どうって、簡単じゃないですか。右手でこうしてメインメニューの一番上を――」
素っ頓狂な質問をするマコトに、ユイが呆れ半分で右手でメインメニューを開く。
だが、次の瞬間自分の目を疑った。
「……あれ?」
「ユイさん?」
「ログアウトボタンが……無い」
ユイに続き、他の4人もメインメニューを表示する。
その4人のメインメニューにも、同じように【ログアウト】の項目だけが失せていたのだ。
「ど、どうなってるんですの!?何かのバグ!?」
「解りませんよ!」
突然消失したログアウトボタン。
6人がパニックになっているにも拘わらず、音が聞こえてくる。
ゴォーーーン……――
ゴォーーーン……――――
ゴォーーーン……――――――
「なんだ、この音?」
「これって、始まりの街の鐘だよね?」
「は?なんでこんなに遠い場所に?」
聞こえるはずの無い地にて、始まりの街の鐘が鳴り響いた。
†
始まりの街。
「……あれ?」
6人は、いつの間にかへホルンカとは異なる場所に転送されていた。中世ヨーロッパを思わせる場所は、始まりの街の転移広場だった。
6人だけではない。困惑したプレイヤーが右に左に……そう、SAOのプレイヤー全員が招集されているようだった。
「な……なんだよこれは!?」
「私達、さっきまでホルンカに居たんだよね?」
「落ち着いてください。でも、プレイヤーを集めて一体何を……?」
パニックになりかねないノゾミやマコトを落ち着かせるチカだったが、彼も内心パニックの限界値が錯乱寸前にまで高まっている。
周囲を見回していると、突如空から液体が垂れ流れた。
粘度の高い液体のようにドロリ、と落ちたそれは空中でグラスに受け止められたかのように一点に集まり、やがてローブを纏った巨人へと変えていく。
『――プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私は茅場明彦。この世界、ソードアート・オンラインを創造した者だ』
「茅場……明彦!?ナーヴギアの開発者ではありませんの!?」
『諸君らは既に、メインメニューからログアウトボタンが消失していることに気付いていると思われるが、これは不具合ではない。これがソードアート・オンライン本来の仕様なのだ』
ローブの巨人はプレイヤーと同じように操作してログアウトボタンの無いメインメニューを見せる。
そして困惑するプレイヤーたちを他所に続ける。
その内容は、自発的なログアウトや外部からの強制切断が不可能ということ。そして、それらが試みられた場合、高出力マイクロウェーブによって生命活動を停止させるということ。
『十分に留意してもらいたい。今後、ゲームのあらゆる蘇生手段は機能しない。アバターのHPが0になり消滅した瞬間、同時に脳はナーヴギアによって破壊される――』
――それは即ち、現実の死。
その意味を知ってしまった者たちが、残らず息を呑む。
「じょ……冗談だよな?ナーヴギアって、たかがゲーム機だろ?」
『わかりやすく言うなら、電子レンジと同じ要領だ。君らのHPが0になった瞬間、ナーヴギアの内部システムが電子レンジと同様のマイクロウェーブが発生し……後はもうわかるだろう?』
まるで見透かしていたように、ローブの巨人が告げた。そして、現時点で180人が犠牲となっていること。ニュース映像を見せていることから、ハッタリの類ではない事が嫌というほど思い知らされる。
全員が残らず顔面から血の気が引いている中、ローブのアバターは続きを語る。
『諸君らが助かる方法はただ一つ。第100層に存在する最終フロアボスを討つことだ』
「100層って……!?ベータでも10分の1も登れなかったのよ?それに、とんでもなく強くてまともに攻略できた試しが無かったんですよ!」
ユイを含めたベータテスターの言葉を無視し、ローブの巨人は右手を操作しながら続ける。
『では最後に、諸君らのストレージに私からのささやかなプレゼントを用意した。確認してくれたまえ』
その言葉に一行は訝しさを露わにしつつ操作すると、アイテムの中にはこれまで集めたアイテムに交じって一つだけ、『手鏡』が入っていた。
ストレージ内での説明文を見ても何の効果もないただの道具。取っ手の無い長方形のそれを実体化させたユイがそれを良く調べようとした瞬間、周囲から悲鳴が上がる。
「うおわぁぁッ!?」
「マコトさん!?」
鏡を出現させたプレイヤーが青白い光に包まれ、次第に連鎖爆発の如くプレイヤーを、ユイを包む。
やがて光は広場全体を覆いつくし、一瞬で霧散していった。
「な、なんだったんだ今の……?」
「ねえ、みんな無事?」
「あ、ああ。なんとか――」
不意に呼ばれた声に振り返ったマコトが、振り返った先にいるユイの姿に絶句する。
ユイの姿はアバターとしてのロングウェーブの少女――ではなかった。
ショートヘアの、あどけなさを残す少女。それは、マコト自身が良く知る人物と重なって……いや、違う。
「――優衣……?」
「ま、真琴ちゃん?」
鏡に映っていたのは歴戦の戦士とも呼べるような厳つい男――ではない。
狼のような毛並みを思わせるウェーブのある肩までのロングヘアの少女。
マコトの現実の姿である――
「な……なななななななな……!?」
思わず叫びそうになったが、寸での所で悲鳴を飲み込んで周囲を見渡す。
集められた全員が自分達と同じ状況だった。
アバターが解除されたことにより、女性が男物の装備品を着ていたり、男性が女性ものの装備品をしていたりとパニックが生じている。
「ちょちょちょ、ちょっと待て!いったん集まれ!」
慌ててパーティメンバーを集める。
マコトの号令により集まった5人は全員女性だった。
「と、とりあえず確認だ!チカ!」
「は、はい!」
紳士風の男性――もとい腰まで伸ばしたロングヘアを揺らす少女が答える。
「ツムギ!」
「いますよ!」
小柄な少女――ではなく幼さを残すツインテールの少女が答える。
「ウィスタリア!」
「いますわ!」
真っ赤な20代の令嬢――否、色合いの特徴をそのままに10代半ばの少女が答える。
「ノゾミ!」
「ここだよ!」
ショートヘアの剣士――じゃない。腰まで伸ばした濃い目の茶髪の少女が答える。
「……でも、どういうこと?」
「確か、ナーヴギアってヘルメットみたいに頭をすっぽり覆っているから、ひょっとして起動した時にスキャンされて、顔を把握できたのかも」
「で、でも身体は?潜水服じゃあるまいし、どうやって?」
「確か、キャリ……なんたらで自分の身体をあちこち触ったんですよね?その時のデータを基にしたのでは?」
それでも6人の理解に及ぶものではなかった。
広場の困惑は未だに収まることは無く、渦中のローブの巨人をただ見上げるだけだった。
何故、自分達はこのデスゲームの虜囚にされたのだ?
何故、開発者たる茅場明彦はこんな真似をしたのだ?
様々な疑問が渦巻く中、ローブの巨人は彼らの胸中を見透かしたように答える。
『私の目的は既に達せられた。この世界を作り出し、干渉する為にこの《ソードアート・オンライン》を創造したのだ。そして今、全ては達成せしめられた』
「……」
巨人の言葉に困惑が渦巻く中、彼らはローブの巨人をただ見上げる。
『以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君、健闘を祈る――』
直後、けたたましいノイズと共にローブの巨人から煙が上がる。
次第に巨人の姿が崩れていき、煙が中空に吸い上げられた。
後に訪れるのは、現実を直視できないことに困惑しているプレイヤーたちの沈黙。
全員が石化でもしてしまったかのように、水を打ったかのような沈黙が、広場を支配していた。
「嫌……嫌ぁ!」
手鏡を落とした少女の悲鳴が、純白のシーツにワインが浸み込んでいくように混乱を拡散させた。
次々と起こる、そこにしないGMへの罵倒。現状を受け入れられない者の悲鳴。出してくれと懇願。ありとあらゆる負の感情が広場に渦となって混沌を産み出していく。
「ヤバい……パニックが半端じゃない……!」
「ねぇ、真琴ちゃん……私達、死んじゃうの……?」
へたりと座り込んでいるユイが、乾いた声でつぶやく。
その声は周囲の喧騒にかき消されそうな、弱弱しい声だった。
「ばッ……馬鹿野郎!死ぬ訳ねぇだろ!!クリアして、絶対に生き残る……優衣だけでも絶対にあたしが……!」
マコトの叱咤でユイを立ち直らせようとするも、彼女も内心不安や困惑でいっぱいだった。
もし茅場明彦の言葉がすべて真実なら、強靭なボスどもを打ち倒し、100層のラスボスを倒す以外方法は無い。
そしてHPが0になった瞬間、訪れるのは――死。
「ユーチャン!こっちダ!」
「え?」
喧噪の中、ただひとつだけ自分達を呼ぶ声が届いた。
声を発したのは誰なのか。何の目的で自分に声を掛けたのか。そんなことは解らない。
ただ、この混沌とした喧噪の中に放心するユイを除いた2人には本能的に突き動かされた。
この声の主に会えば、何か解るかもしれない、と。
2022年11月6日――SAO事件、開始。
次回「鼠のアルゴ」