プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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「かくして、物語の幕は再び上がる」

 

望と重村の邂逅から数日後。1月12日。とある輸入会社――。

 

「部長、確認お願いします」

 

「おう、次はこっちな」

 

「えーっ?部長、昨日も結構激務じゃなかったッスかぁ?」

 

「よく言うよ。2年間も無断欠勤してたもんだろうが。クビにしなかっただけまだマシだろ?」

 

文句を垂れるクラインこと壷井遼太郎に部長が皮肉交じりに突っぱねる。

とはいえその皮肉を言う様子も、やれやれと言った様子で悪意は感じられない。

対する遼太郎も文句を垂れながらも捨てなかった会社には感謝している。事件前に雇われていた会社を解雇されたなんて社会人生還者も少なくはないそうだ。

 

(ま、SAOがデスゲームにならなかったら有休全部使ってでもゲームしてただろうな……)

 

文句を垂れつつも仕事にとりかかろうとした時、部長のデスクの電話に社内着信が入る。

 

「はい。……え?本当ですか?はい。はい……。わかりました。おい壷井、仕事は一旦後回しにしとけ」

 

「え?じゃあ……早退って事っすか?」

 

「違うわ馬鹿。今すぐ応接室に行くんだ。相手がお前を名指ししてたそうだ」

 

相手の呼び出しに首を捻る遼太郎。異動などの呼び出しなら分かるが、普通なら社長室へ呼ぶかその旨が書かれた書類を部長経由で渡すはず。それなのに応接室に呼び出しを喰らったのはどういう事だろうか。

 

「で、誰なんです?俺を名指しした相手って」

 

「お前、風間グループって知ってるか?」

 

「ええ、風間交易って大きな会社が中心となったグループで、ここもそのグループの一つっスよね?」

 

「ああ。来客はその風間交易のお嬢さんらしくてな。お前にだけ話したい事があるとのことだ。間違っても手ェ出すなよ?」

 

「流石にグループ中枢の企業の娘さん相手にナンパする気はありませんよ」

 

「そこまでしない馬鹿と信じてるよ。あと、その悪趣味なバンダナは外しとけ」

 

部長に言われる通りに応接室の前でバンダナを外した遼太郎。

応接室に入るとボブカットの金髪の少女が高価な創りのソファに座っている。その向かい側にはテーブルをはさんで50代近い男性が落ち着かない様子で座っている。

遼太郎と部長に気付いた少女はにこりと笑みで対応すると、

 

「それでは専務、後は彼との話と言うことで」

 

「は、はい……」

 

緊張した顔持ちのまま専務と部長が出ていく。これで応接室に残ったのは少女と遼太郎のみ。

静かで重さを感じる空気に耐え切れなくなった遼太郎は早々に向かい側のソファに座る。

 

「風間交易風間社長の娘の風間ちえるです。どうぞよろしく」

 

「え、ええどうも。そりゃそう……ですよね。一応初対面だし。おれ……ああいや、私は――」

 

「SAO生還者で、なおかつ1年以上の最前線攻略を続けた通称攻略組プレイヤーの一人……」

 

自己紹介する中でつらつらと述べるちえるに思わず呆ける。

 

「わずか6人程度と言う少数精鋭にも拘らず、個人のスペックは大型攻略ギルドにも引けを取らず、攻略組ギルドで唯一の死亡者ゼロを成し遂げた、黒の剣士や閃光と並ぶ実力者――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですよね、壷井遼太郎――いいえ。【風林火山】ギルドマスタークラインさん」

 

「!!?!?!?」

 

そして確信を突いた言葉にクラインの形相が驚愕へと豹変した。

 

「は、ははははは……な、何言ってんですか?自分がそのクラインって人と同じ理由がどこに……(おいおいおいおいおいおいどーなってんだ!?プレイヤー(俺達)の情報は外部に漏れないはずだろ!?なのにどうしてこんな子に伝わってんだ!?個人情報漏洩してんぞ仕事しやがれ対策本部!!)」

 

慌てて笑顔をとりつくろう遼太郎だったが胸中はそれどころではない。

SAO対策本部――やっていることは既に事後処理のようなものだが――によって個人情報は秘匿されている。これはSAOに捕らわれていた人々がアインクラッドでのいざこざを種に現実での報復を防ぐ為の措置だそうだ。

それなのに目の前の少女は自分に関するSAOの時代の情報を直接見たように言い当てている。

 

(まさかコイツも、SAO生還者!?いやこんな子見かけたら嫌でも印象に残るし、そもそもお礼参りなら白昼堂々こんな所に呼び出すか普通!?いや、グループ企業の娘ならアリか?っつーかこの子に何しやがったんだ俺!?全然見当つかねぇぞ!?)

 

「あ、言っときますけど私は生還者じゃありませんよ。ある情報筋から特別にデータを見せてもらったんです」

 

「あ、そーですか……」

 

とりあえず報復の線は無い事と情報の出所は分かった。いや、それにしてもそのデータはどうやって集めたんだ……。

 

「まあ、本題に入りましょう」

 

一安心した遼太郎を他所に、ちえるはスマホを操作してSNSのある画像を見せる。

それを見た遼太郎は更に眉を八の字に歪めた。

 

「アスナさん?」

 

「やっぱり面識があったんですね」

 

ちえるの質問に、遼太郎はええまあ、と軽めに頷く。

 

「では彼女が――彼女を含めた300人が未だ目覚めないことも知っていますか?」

 

そう言われて記憶を辿る。リハビリ中の病室のテレビで聞き流していたが……その中にアスナもいたとは思ってなかった為に、信じられないといった表情を浮かべている。

 

「そしてこれはある伝手からの情報ですが、あるゲームの中で撮影した写真を解像度の限界ギリギリまで引き延ばしたものだそうです。SNSに上げたらそれはもう大反響。あの後レクト・プログレスのお偉いさんが『SAO事件の前から当人からの正式に許可が下りたものを使用しています』って返答が出されたそうです。その時の契約書とかはプライバシーに関わるから見せられないって掲載してませんが」

 

「当人からって……」

 

運営にかかわる人間が言ったのであれば問題は無い。しかしクラインにはどうも画像の少女がアスナに似ているだけのただのNPCとは思えなかった。

 

「そこで私からの依頼です。クラインさん、このゲームの真実を探ってきてくれませんか?」

 

そこでちえるが本題を切り出した。

 

「ゲームの……真実……?」

 

「偶然撮った写真を拡大して確認できた女の子にわざわざレクトの代表が『他人の空似です』って言って無理矢理事態を納めたんですよ?それに眠ったままの300人のプレイヤー……何かあると思いません?」

 

誘うような声に遼太郎は再度アスナの画像をまじまじと見る。

偶然と片付けてしまえばそれまでだ。この画像の少女も、言われた通り本人から許可を貰ったうえで使用しているなら何ら問題は無いが……。時期を考えると

だがクラインの勘は彼女は本物だと告げている。

それに……

 

(それにキリトがこれを見たら、真っ先に助けに行くだろうな)

 

あれだけアスナと仲睦まじい雰囲気を見せていた黒の剣士。彼女の異変に彼は真っ先に行動するだろう。

自分達を閉じ込め魔王の役割を全うした創造主茅場明彦に勇者として立ち向かい、勝利と共に自分達を開放してくれた大恩がある。そして目の前の少女から提案された、恩に報いる好機を翳してきた。

ならば自分の取る行動は――

 

「……その依頼、快く受けさせてもらうぜ」

 

「必要なものは既にあなたの自宅に配送済みのはずです。簡単な説明を書いた手紙も同封したのでそれを参考にしてください」

 

「ありがとよ。それじゃあ――」

 

「仕事は終わらせてからにしてくださいね?」

 

ちえるの一言で行動を起こそうとした遼太郎はずっこけるのだった。

 

 

 

 

その後、気合で膨大な仕事を定時で終わらせた遼太郎は帰宅して早々に夕食を軽く済ませると、ちえるの言う通りに届けられた手紙に目を通す。

件の画像――アスナが捕らわれているであろうVRMMO、妖精卿『アルヴヘイム・オンライン』、通称ALOの設定とシステムについて大まかな説明が記されているものだった。

 

「とりあえずサラマンダーかな。SAOン時も赤一色だったし」

 

同梱されたALOのソフトカートリッジをナーヴギア後継機のアミュスフィアに装填。それを被って布団に横になる。

そして――

 

「リンク・スタート」

 

かつて捕らわれた世界と同じ言葉と口にした。

 

 

 

 

アカウント情報登録ステージとプレイヤーネームを手早く終わらせ、種族選択も考えてたサラマンダーに選択。

暗闇に空間が溶けていき、遼太郎――クラインの視界に広がるのは広大な砂漠と風化した岩を利用して創られた街。首都ガタンだ。

 

「あんなことがあったってのに、良く戻ってこれたもんだなぁ……」

 

自分自身に呆れる様にひとりごつ。

ともあれ再びフルダイブVRMMOに入ったのであればまず最初にやるべきことがある。

そのまま右手を縦に振るが何も起きない。

今度は左手で同じように振ると聞き慣れたシステム音と共にメインメニューが表示される。それを操作していの一番にあるものを確認する。『Logout』のボタン表示、それに触れて清浄であることを確認したクラインは安堵の溜息をついた。

 

「クラインさん!?」

 

今度はギョッとしたような驚きの声。声のした方へ視線を移すと、ツーサイドアップにしたオレンジの髪に、琥珀色の瞳。初心者用装備に身を包み、ALO特有の尖った耳ではあるが、その容姿は酷く心当たりがある。

 

「君……ノゾミちゃんか!?なんでこんな所にいるんだよ!?」

 

「それはこっちの台詞ですよ!?」

 

よもやお互い二度と会う事は無いだろうと思っていた2人が驚きつつも互いの近況とALOにダイブした経緯を伝え合う。

 

「なるほど。そっちも似たような理由でダイブしてきたのか」

 

「うん。ノーチラスは別件でこっちに来れないけど、知り合った相手も似たような理由がある人と出会って、その人に協力を仰いだって聞いたけど……」

 

「とにかく俺らはあの画像の場所へ行くことだな。俺の方でも案内人が来てるって言ってたけど、まだ来てないのか?」

 

手掛かりはあの画像とALOのパッケージの裏面に描かれた簡易マップの中央の世界樹。マップの通りなら北方へ直進していけば迷うことはまずないだろう。

SAOとは違いゲーム内で死んでも本当に命を奪われる心配は無い。装備とアイテムを揃えて出発しようと思った矢先だった。

 

「……なんか、あっちのほう騒がしくないですか?」

 

「そうだな」

 

何かもめているような喧騒に気付いた2人が騒ぎの元へ向かう。

一際大きいコロッセオのような造りの建物の前で言い争っているのが見えた。

門番らしき相手は赤い鎧に身を包み、突撃槍を装備したプレイヤー。その向かいにはティアラと右肩にのみ肩当を着け、夕日色の髪の少女が必死な様子で声を荒げて叫んでいた。

 

「だから、何度も言ってるだろ!お前みたいな初心者がこの作戦に参加できるわけないだろうが!!」

 

「そんなのは分かってます!だけど……どうしても私は、世界樹に上らなければならないんです!!!」

 

その少女との邂逅は、彼らに新たなVRMMOの冒険の始まりを告げるものだった……。

 





 次 回
 予 告

「終わりを迎えたSAO事件。帰って来たプレイヤー達」

「不満をあらわにする国民。未だ眠り続ける300人の未帰還者」

「あの事件は、まだ終わっていないんです」

「次章ALO編:果て無き空を目指して」

「私は……私は……!」




(・大・)<と言うことで、次回からALO編に突入します。

(・大・)<原作はリーファの協力もあってシルフ領からスタートでしたが、拙作ではサラマンダー側からスタートになります。

(・大・)<そしてホマレさんの容姿についてですが、竜妖精(シャナ)と呼ばれる特殊な種族によるものです。詳しくは本編内で。

(・大・)<それとキリト側も変更点があるので、どのみちキリト編も書いてからGGOに意向する予定です。

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