プリンセス・アート・オンラインRe:Dive 作:日名森青戸
( ・大・)<……旧作のプリコネ×SAOの執筆がなかなか進まん。
デスゲームが開幕が、
始まりの街の広場から脱出したユイ、マコト、ノゾミの3人は、謎の声に導かれるままに裏路地にやって来た。
「お前らも来てたのか」
路地裏に着くと、ツムギにチカ、ウィスタリアが3人より早く到着していた。
「よかった、みんな無事だったんだね」
「良かった……?何の冗談で言ってるんですか!?」
蹲っていたツムギが、ユイに反論するように、彼女の胸ぐらを掴んでつっかかってくる。
「私は……私はただ、SAOの中に裁縫関係のスキルがあるって聞いたからだけですよ!それなのにッ!!どうしてこんなことに巻き込まれてしまったんですか!?」
「ツムギちゃん、落ち着いてってば!下手にパニくっても解決しないって!」
人一倍激しい動揺を見せるツムギに、ユイが彼女の肩を掴んで落ち着かせる。
彼女だけではない。他の5人――勿論ユイであっても――もデスゲーム宣告のショックは小さくはない。
「おーい、そろそろ良いかー?」
何とも場違いな声の主が、6人を我に返す様に手を叩きながら訊ねてきた。
そのプレイヤーは金褐色のショートウェーブの少女だ。だが彼女には他のプレイヤーとは異なる特徴がある。それは両頬に描かれたペイント。一見するとまるで――鼠。
「お久しぶりです……アルゴさん」
「おう、久しぶりだナ。ユーチャン」
「知ってるのか?」
「うん。ベータ時代からの知り合いで、よく私の作ったポーションを買ってくれたんだ」
「要はお得意様だヨ。それよりも、現状を整理するのが先ダロ?」
アルゴの言葉にユイとウィスタリアは思わず身を強張らせる。
「現状、デスゲーム化したこのSAOから出られる方法は、茅場明彦の言った通り最終ボスの討伐だけだろうナ」
「100層……」
マコトが頭上を見上げながら呟く。
上空には暁に染まった空のほかに、第1層の天井――第2層の地面が広がっている。
ここから100層までの間、自分達は出られず、HPが尽きた瞬間に現実の死が待っている。
自分にも降り注ぐかもしれないその瞬間に、仮想空間だというのに思わず悪寒が走る。
「あ、あの!ひょっとして外部から救出できるんじゃないんですか?こんな事態になった以上、政府も黙ってはいないはずです。だから――」
「チカちゃん……だったか?悪いけど外からの救出は諦めたほうが良い。こんなことしでかす奴がそんな状況を見越せないマヌケって訳じゃ無いダロ?」
「そんな……!」
チカが思いついた提案は、無情にもアルゴの手によって潰される。
崩れる彼女を他所に、アルゴは再び続けた。
「んで。これからの事なんだケド、オレっちは情報屋を開こうと思っている」
「情報屋?アルゴさんって、昔は私と同じでフロントライナーでも無かったんでしょ?」
ユイの疑問にアルゴも「ああ」と肯定し、
「けどナ、ベータとそうでない奴との情報量の差は、そのまま生死のリスクに繋がる」
アルゴが理由を告げた。
8層までとはいえ、ベータテスターは確かにそこまでの情報を有している。
ひいては7層までの情報は確かなものを覚えている。
対して今日正規品を購入した一般プレイヤーは、事前情報しか持ち合わせていない。いや、事前情報すら持ち合わせていないプレイヤーも存在する。
危険なルート、モンスターの行動パターン、フィールドやダンジョンのトラップ――。
情報の有無だけで、死亡するリスクが段違いだ。
「当然、情報の差を理由にベータテスターに食ってかかるプレイヤーも現れるはずダ。もしそれが深く、広がっていったら――」
「――まさか、一般プレイヤーのベータテスター狩りが始まるかもしれないってことですか?」
「……そういうことダ。それが実現したらもう攻略どころじゃない、全員詰む」
「だからこそ、自分が持つ情報を本にして出したいということですのね」
「ああ。だからユーチャンにはオレっちに無い情報を提供して、欠落の補填を――」
そこまでアルゴが話した時、一行の横を一人のプレイヤーが横切った。
足取りは重く、覚束無い。
そしてその先は始まりの街の端――城の外周。
「……あいつを止めろ!!飛び降りる気だ!!!」
アルゴの悲鳴に反応してノゾミとマコトがすぐにそのプレイヤーへと駆ける。2人とプレイヤーの距離は3メートル弱、相手は既に手すりに手をかけ、身を乗り出そうとしている。
なけなしのAGIで飛び降りる前に手すりに到達し、手を伸ばして――、
その手がプレイヤーを掴む寸前で、プレイヤーが飛び降りた。
勢いで手すりから身を乗り出し、そのプレイヤーを目撃する。
プレイヤーの姿はそのまま小さくなっていき、やがて何かが割れる音と共に、そのプレイヤーはポリゴンとなって消えた。
「――――ッ!!!」
「嘘……だろ……!?」
プレイヤーの最期を目の当たりにしてしまったノゾミは崩れ落ち、マコトは絶句する。
今のは単にアバターが消滅したというのではない。消滅と同時にナーヴギアが作動し、あのプレイヤーを操作していた人物が死んだということ。目の前のアバターの消滅は、本物の死を知らしめていた。
目の当たりにした2人だけでなく、この場に居合わせた5人にもそれがひしひしと伝わっていく。
「外周の外に身投げしても終わり、か……こりゃ急いだほうが良いナ」
正直、アルゴとて平静を保っている訳ではない。
もたもたしていたら今のプレイヤーのように身投げする者が増えるだろう。
そうなる前に、持ちうる情報を公開して死亡するプレイヤーを一人でも減らさなくては。
「……アルゴさん、少しよろしくて?」
「ウィーチャン?」
そんな折、ウィスタリアが声を掛けた。
「今後攻略するとして……ここに残る人々はどうなりますの?」
「どうって、そりゃあ……攻略されるまで大人しくしてる、とか?」
「それでこれから先、普通に暮らしていけますの?」
ウィスタリアの疑問は、いわば「攻略を行う間、この街はどうなるのか」というものだった。
考えてみればユイもアルゴも盲点だったし、考えたことも無かった。ベータ版でも上への階層が解放される度に始まりの街に赴く頻度が減っていき、3層が解放された時からは全くと言っていいほど赴くことは無かった。
この第1層はいわばSAOの最初の安全階層であり、攻略に参加しないプレイヤーの安全地帯でもある。だが、安全だからとてプレイヤーの精神状態が快復するとは思えない。
現状、さっきのような自殺者が出ない可能性は限りなく低い。
「……長い目で見ても、攻略はすぐにどうにかなるレベルではありません。だったら、攻略に参加しない人のメンタルを保つための活動が必要になるのではなくて?」
「おぉう……案外考えてるんだ、ウィーチャン。ぶっちゃけオレっちも考えてなかった……」
「でしたら私達は、攻略以外の視点での活動をしていきましょう」
「……攻略以外?」
「ええ。下層や中層での死者を減らすこと。これも活動としては悪くないのではありませんの?」
ウィスタリアの言葉にアルゴは、いや、彼女を含めた6人は彼女がこれから先に起こることを予期しているかのように感じていた。
勘なのか、それともあてずっぽうなのか。
(…確かに犠牲者を減らすってのも重要ダナ。今のアインクラッドで蘇生は不可能。攻略に赴く――いや、外でモンスターと戦闘をすることも恐れているなら、この始まりの街に留まるほうがずっと安全ダ。けど、ただ待つだけでメンタルが快復する訳じゃナイ。さっきの自殺者みたいに身投げする奴がこれから先も出てくる可能性が高イ。そうならないようメンタルを快復させる奴も必要になるということになるから……)
それでもアルゴは冷静に考えてみる。
これから先、アインクラッド攻略の陰で忘れ去られる運命にある始まりの街でひっそりと暮らすプレイヤーも居るはず。そんな彼らを野放しにしておけば……いずれさっきのプレイヤーのように身投げする可能性が膨らんでくる。
「面白そうだなその話。ケドその話には箔や強いリーダーシップが必要になるケド?」
「ご心配なく。それを承知したうえでの発言ですわ」
自信に満ちたウィスタリアの顔を見て、アルゴは沈黙する。
一息吐いた後、アルゴは静かに伝える。
「ナラ、ギルドを結成できる3層が解放されてからが本格的なスタートダ。それまでに少しでもレベルを上げておけヨ」
「ありがとうございます」
アルゴに頭を下げて礼を言うと、5人に振り返って告げる。
「これからの事をお伝えしますわ!私はギルド結成の協力者を募ります。ツムギさんも手を貸してください。ユイさんはアルゴさんと共に情報を提供を。他の3人は3層の適正レベルになるまでのレベ上げですわ!」
「……待って」
活動の為に今できる範囲での行動を伝えた時、ノゾミが待ったをかけた。
「どうしたんだよ急に?」
「死なせないために活動するってのは良く分かったわ。それでも時間は掛かるでしょ?」
確かにそのことは否めない。
今もこの始まりの街のどこかの外周で、絶望に呑まれて身投げしているプレイヤーがいるはず。
ギルド活動が本格的に波に乗るまでに、一人でも多く自殺者を減らさなければならないことも重要だ。
「けど、今自殺を躊躇わせるってどうやって……?今すぐできるのか?」
「……私なら、なんとか行けるかも」
「何するんですか?」
「あの混乱を少しでも鎮めに行くのよ」
あっけらかんと答えたノゾミに、全員が息を呑む。
「おい待て正気カ!?園内じゃ突き落されない限り死ぬことは無いが下手すりゃ奴ら総出でボコられるゾ!」
アルゴが思わずノゾミの手首を掴んで制止しようとする。
確かに普通なら、彼女の選択は正気の沙汰とは思えないだろう。
それでもノゾミはアルゴの手を振り払うことなく、彼女のほうへ振り替える。
「大丈夫よ。こういうのには憧れてたから」
「あ、憧れ?」
「ちゃんと見ていてね」
「あ、おい!」
制止を振り切ってノゾミが広場へと行く。
そんな彼女の顔は、無謀と呼ぶには明るく、楽観的と呼ぶには決意に満ちていた――。
†
「おい……本当に自殺したのか……?」
始まりの街の縁、宙へと身を投げたプレイヤーが消滅する様を目の当たりにして、誰かが呟いた。
「ふざけんなよ……あの野郎の言った事が本当だっていうのかよ?」
「あぁ!?冗談じゃねぇよ、ただログアウトしたんだろ!?」
「ログアウトできないのにどうしてそんなことが言えるんだよ!!」
「嫌よ、私死にたくない!!」
一人が呟いた途端、まるで飛び火していくかのように怒声、罵声が集団に感染していく。
言葉での罵声の飛び交いから、誰かが手を出し、ついには殴り合い蹴り合いの乱闘へと発展していく。
「――何、この声?」
路地裏に隠れ、乱闘から避難していた少女が突然声を上げた。
声――というよりは歌に近い。
少女は声を頼りに路地裏を通って広場へと戻る。
「~♪~♪~♪」
夕焼けから夕闇へと変わる広場の中心で、歌っていた。
広場に残っていたプレイヤー、少女のように歌に釣られてふらふらと足を運んだプレイヤーは、思わずその歌に聞き入っていた。
声を伝えるマイクも、バックに歌を彩る音楽やそれを奏でる楽器も、ステージを飾る演出も無い。
それでも、少女たちはノゾミの歌に聞き入らずにはいられなかった。
「~♪~♪」
「何だ?あれ……」
「綺麗……」
後ろからの声にふと我に返った少女は振り返ると、乱闘をしていたプレイヤー達も、喧噪を忘れて歌につられて広場にやってきた。
やがて歌が終わると、静かな拍手が少女に送られる。
「みんな!私の歌を最後まで聞いてくれてありがとう!」
拍手を受けてノゾミが深々と礼をする。
「確かに、今この状況は最悪かもしれません。だけど、私のギルドマスターはゲームクリアの他に犠牲を減らす方法を今考えています。私には歌うことしかできないけど、これからここに残る人たちに、攻略に進もうとする人たちに、この街にいるみんなに、これだけは心に留めてください」
「生きるのを、諦めないで――」
それだけを言い残し、ノゾミは広場から去って行った。
――彼女は知らない。このアインクラッドに、自分を含めた3人の歌姫が閉じ込められていることを。
――彼女は知らない。このアインクラッドで、とんでもない事が始まりの街で起きることを。
――今はまだ、何もかもが始まったばかり。
次回「ギルド結成」