プリンセス・アート・オンラインRe:Dive   作:日名森青戸

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(・大・)<今回は旧作の中にあったギルド農業ギルド【エリザベスパーク】のお話。

(・大・)<今回の話は旧作アインクラッド編をベースに肉付けをしたものとなっています。


「食糧生産を確立せよ」

 

デスゲームが始まって、新年度3が日を終えた1月4日。

 

「ただいまー」

 

帰ってきたノゾミが扉を開ける。

 

「お帰りなさい」

 

「あれ?ツムギじゃない」

 

いないはずの相手の言葉に疑問符を浮かべる。部屋を見回してみるが、ツムギ以外には誰もいない。

たが、すぐにその原因に気付く。

 

「――あ、そっか。他のみんな2層に居るんだっけ」

 

「ええ。ちなみに私は休暇です」

 

【ゴスペル・メルクリウス】のギルド活動は、早々に問題に突き当たった。

その最たるは「食糧事情」だ。

デスゲーム開始から1ヶ月、周辺の狩場は混沌としていた。

ギルド活動を始める前から獲物を奪い合うプレイヤー達によるイモを洗うような状態と、飢餓による苦痛から逃れんと投身を図ったプレイヤーで、死者が100人を超えたこともあった。そんな中でウィスタリアの言葉に乗れるほどの余裕は無かっただろう。余程の精神異常者だったに見えたかもしれない。

それでも自分達より少し前にシンカーと言うプレイヤーが掲げた『資源の均等分配』という理念により食料の配布が行われ、ウィスタリア達もその活動に協力していった。

第1層が攻略されてから、攻略組もその活動も軌道に乗りはじめていたが、安堵すると同時に【ゴスペル・メルクリウス】――もといマコトやユイはもう一つの懸念が生じた。

それは「食料供給の限界」。

 

この始まりの街にはまだまだ数千人以上のプレイヤーが残っている。シンカーが言う全員に均等分配するとしても、何年も続けるならば1コルで購入可能な黒パンくらいしかない。

周囲にはフレンジーボアがいて、ドロップ品にはボア肉と言うものがあるが、それでも不測の事態に陥ればHPを全損する恐れがあるし、複数人の内誰か1人のみにドロップしたのならそこからプレイヤー同士の争奪が始まる。

そのことを告げたユイとマコトの話を聞いて、ウィスタリアは早速チカと2人を連れて主街区を中心に食料調達の当てを探しに行った。そして2022年の12月28日。ついに当てを2層で発見した。そこで彼女らはツムギとノゾミ以外の4人で28日から泊まり込みを続けている。

治政に関しては【ゴスペル・メルクリウス】の外部協力者、ユースとティアナを中心に取り仕切っており、ここ1層攻略の件もあって自殺者が格段に減っている実績があるので任せても問題はない。

 

一方のノゾミも不定期に開かれるミニライブで下層プレイヤーの励ましになっていた。

元々幼馴染とアイドルになろうと語り合っていただけあって、歌唱力は高い。オマケにチカのアドバイスで前より歌唱力が上がったと自負しているとか。

彼女らの頑張りやギルド活動もあって、現在死亡する下層プレイヤーはほとんどいない。

ツムギも《裁縫》スキルを手に入れてから中層、下層で暮らすプレイヤーとの服飾を手掛けている時に、アシュレイというプレイヤーと出会ったのだ。自分以上の《裁縫》スキルに見惚れ、思わず弟子入りを志願したらしい。

閑話休題。

 

それでも眼前の問題は早急に解決する必要がある。

そんな折、一行の視界の右上の隅にメールを知らせるウィンドウが現れた。

 

「これは……あ、ウィスタリアさんからのメール」

 

メールの内容を見たノゾミは、早速ウィスタリアが捜索していた場所――2層の主街区へと早々に足を運んでいった。

 

 

 

 

第2層主街区【ウルバス】

 

 

早速主街区へ訪れたノゾミは、ウィスタリアの示した場所へと向かった。

歩いてものの数分、目的の場所に到着した。

 

「……これがSAOの畑なんだ」

 

第一声はノゾミの間の抜けた声だった。

100メートル四方の土地に等間隔で均一に耕された畑が一面に広がっている。その片隅の畑には植物の生った葉が風に揺らいでいる。

ここに居るNPCに話しかけてクエストをクリアすると晴れて《農耕》関連のスキルが手に入る。

この畑は傍に居るNPCの管理下にあり、土地の管理を行ってくれるので、レンタル料金さえ払えば初心者でも農耕を行える。

その広さに呆けていたノゾミだったが、我に返って自分のギルドマスター達を探す。

 

「そうだ、ウィスタリアさん達どこ行ったんだろ?――って、うわぁッ!?」

 

「どうしたんですかノゾミさ――んなぁッ!?」

 

結論から言うと、探していた4人は見つかった。

地面に手を着け、がっくりと撃沈された状態で。

 

「ど、どうしたのよみんな揃って!?」

 

「……あ、ノゾミちゃん、ツムギちゃん。いらっしゃい」

 

「いらっしゃいじゃないですよ!?何がどうなってこの状況になったんですか!?」

 

「く、クエストを終えた直後で栽培に失敗して……」

 

《農耕》などの基礎スキルを得るNPCのクエストは、チュートリアルのウィンドウが表示されるので、指示に沿って行動すればだれでもクリアできるようになる。

確かにウィスタリア達もチュートリアルをクリアしたのだが、直後の農耕で見事に栽培に失敗してしまったのだ。その結果を知ったのは今日の昼頃。つまりノゾミがメールを受け取った数分前の事だ。

 

「なにをどうやったら失敗するのよ?」

 

「色々あって……」

 

目線を逸らしながらチカが言葉を濁す。その色々の殆どがウィスタリアの好奇心によるものだが、全員産業なんて現実でもVRでもやった試しが無い。

しかし、全くの無知でも植物が全滅するというのはこれは如何に。

 

「一応、野菜の種や苗はありますわ。……1回分だけですが」

 

「1週間の間に何があったの!?」

 

本当に何をどうやったらそうなったのだ。

このクエストの報酬は最低でも初級食材になる種子の袋と、野菜の苗がそれぞれ5個ずつ得られるもの。

農耕のスキルが低ければ失敗する可能性も当然あるのだが、初心者用の畑でここまで失敗するのは滅多に無い。逆に奇跡と言えよう。

 

「……あれ?じゃああそこの畑は誰のですか?」

 

「ああそれ?どうも他の誰かがクエストを受けていたみたいで、そこは関係ねぇ場所だよ。NPCから聞いた」

 

隣の芝生は青く見える、と言う言葉があるが、ここまでの差が出るとは思わなかった。

しかし、ひょっとしたらそのプレイヤーは……。

 

「……とりあえず、今日は上がりましょう。下の階層での食事の配布も行わないと」

 

ウィスタリアが起き上がって早々に退去していく。

残る5人も後に続いて、畑を去って行った。

 

 

 

 

 

そして、NPCの畑の管理人だけが残ると、物陰から一人のプレイヤーが現れる。

 

「ったく、なんだったんだあいつら……?」

 

黒髪の青年のプレイヤーは、彼女らの去った方角を見ながら訝し気な言葉をこぼす。

この男が畑に来たのは、アルゴと言うプレイヤーの攻略本の片隅に《農耕》に関するスキルを見つけたからだ。

当初はこの男も著者がベータテスターだったために信憑性を疑っていたのだが、試しにこの層に行ってみたら、その攻略本通りにスキルを会得できるクエストを見つけたのだ。

そこから他の利用者の目を避けるようにスキルを会得し、今やっと収穫を迎えたのだ。

 

「さて……」

 

「確保ーー!!」

 

「なっ!?」

 

さて収穫に取り掛かろうとした途端、女性の声と共に自分の身体に衝撃が2度走る。

倒れた彼が振り返ると、先程の5人の内2人――ノゾミとか言う少女と狼のような風貌の少女が自分に抱き着いていた。

 

「なっ、なんなんだオメェら!?」

 

「悪い悪い。ちょっと荒事でごめんよ。ちょっと話を聞いてくれ」

 

「は、話!?」

 

起き上がったプレイヤーは、改めて5人と話を聞いてみる。

 

「初めまして。私はウィスタリアと申します。この畑は、貴方がお育てに?」

 

「ああ。ちょっと弄ってみたが、簡単にできたぞ。むしろこの畑で失敗するお前らがおかしいよ」

 

男の言葉にノゾミ以外の4人にグサリと突き刺さる。

 

「なるほど。では単刀直入に言いましょう」

 

「なんだ?」

 

「要点は2つ。私達に農耕のアドバイスを教えて貰いたいですわ」

 

「なるほど」

 

「もう一つは農業産業を築いていこうと思います」

 

「……なんだって?」

 

予想だにしなかった言葉に彼は思わず聞き返した。

 

「これから先、攻略と並行して捕らわれた人々の食料の確保も重要になりますわ。コルを稼ぐ手段が限られている下層域の人たちにも食料を配分するには、生産業のプレイヤー達の協力が必要なのです」

 

「……その先駆者になれってのか?」

 

問いかけにウィスタリアは静かにうなずいた。

沈黙。

数分間の長いようで短い沈黙の後、彼は口を開いた。

 

「……悪い。少し考えさえてくれ」

 

「ええ。こちらも今すぐに答えを要求するほど、切羽詰まってはいませんわ。ですが、答えは出させて貰いますわよ?」

 

そこまで言ってウィスタリアは他の4人を連れて帰ろうとして――、

 

「あ、そうだ」

 

ぴたりと足を止めて振り返った。

 

「あなた、お名前は?」

 

「――テンカイだ」

 

 




次回「生産ギルド」

(・大・)<長くなりそうになったと思ったのに、

(・大・)<蓋を開けたらこっち側は3千5百程度しかなくてちょっと驚いた。
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