秋に移り変わる今頃の時期は、昼から夕方にかけては蝉の合唱、夜には虫の合唱とけっこう賑やかである。
(ちなみに梅雨の時期の夜は蛙の合唱で賑やかだった)
今頃鳴いている蝉は「ツクツクホウシ」で、この蝉が一番遅く鳴き始めるため「秋の蝉」と言われているくらい。
ところで鳥たちが歌う「恋の歌(ウグイスならホーホケキョなど)」と同じように、虫の「恋の歌」にもそれぞれが決まった歌詞(鳴き方)が存在しているのをご存知だろうか。
それは蝉にも言える事で、その歌詞が分かりやすいのは「ミンミンゼミ」と「ツクツクホウシ」あたり。
ミンミンゼミの場合は『ミーンミンミン』から歌い始めて最後に『ミーン↓』と疲れたかのように語尾を下げて終わる。
夏の暑い盛りにこの歌を聞くと、私は最後の語尾で余計に気持ちがだるくなる。
たまに途中の『ミンミン』の数が増える事があるが、必ずこのフレーズを繰り返すので、どうもこういう「恋の歌」の歌詞になっているらしい。
ツクツクホウシの場合は『ホーシツクツクホーシ』から歌い始めて途中で『ツクツクヒィヨー』と聞こえる高めの歌詞が入り、最後に『ジィー』と伸ばして終わる。
こちらも途中の『ツクツクホーシ』の数が増える事がある(正確にはその中のツクツクの部分。ツクツクツクホーシになる場合がある)が、このフレーズを繰り返して歌う。
そんな話を家族としていたら、父がこう言った。
「わしには『もう良いよ、もう良いよ』と鳴いてるように聞こえる」
どうやら父の耳には『ツクツクヒィヨー』の部分が『もう良いよ』と聞こえるらしい。
つまり一フレーズに二回か三回繰り返すその部分で、父は毎回『もう良いよ』と言われ続けている訳だ。
ならツクツクホーシが「恋の歌」を歌っている間中、毎年何度『もう良いよ』と言われ続けるのだろう。
そう思ったらなんだか面白かった。
蝉といえば、日本人の耳にはうるさくとも季節を感じて風流に聞こえる鳴き声が、外国人(白人?)の耳には雑音にしか聞こえない、という事を知っているだろうか。
ある有名な日本人の監督が時代劇の映画を撮ってそれを外国に見せに行った時、情感を煽るようなとても大切なシーンで蝉の鳴き声が効果的に使われていたのに、「このノイズはどうにかならんのか」というような事を言われたのだという。
監督は困惑しつつも「日本では蝉の声は情緒を煽る効果がある」というように説明して、納得してもらったのだとか。
個人的で勝手な想像だが、日本には「十七年蝉」のような、十年以上も幼虫のままで土の中にいて、周期が来たら何兆匹もが一斉に羽化して鳴くような蝉がいないのもあるのではと考えている。
そんな大規模なものが一ヶ所で鳴くんだから、それはそれは喧しいだろうと思う。
もうとてもじゃないが風流などと言ってはいられないだろう。それこそ鼓膜が破れかねない程不快な声のはずである。
日本人(特に女性)は奥ゆかしいとよく言われるが、そう思うと野生動物も、環境の違いとはいえ外国のものに比べたらもしかしたら奥ゆかしいのかもしれない。
監督の話はテレビでその方が喋っているのを見たので事実です。