短い文で綴るエピソード集   作:沙希斗

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世の中には、似て非なるものがいるものです。
(実話というよりはうんちくです)


家を守るもの、井戸を守るもの

 

 

 

 うちの家は、というより山に近い田舎の家なら大抵はそうだと思うのだが、窓ガラスにヤモリが張り付いている事がある。

(といっても蛙もよく張り付いているのでヤモリに限った事ではないのだが)

 夜にも来るので恐らく電灯に誘われて窓で遮断される虫を目当てにしているものと思われる。

(むしろ昼よりも夜に見掛ける事が多いので、その可能性が高い)

 つまり蛙もヤモリも外側に張り付いており、部屋から見ると腹側だけしか見えない、という状態になる。

(外に出れば当たり前だが背中が見えるので、どんな奴が来ているかを見る事が出来る)

 このヤモリ、いつも同じ場所に張り付いている事が多いのと、可愛いので飼ってる訳でもないのに名前を付けている、と新聞の一般投稿欄に載っていた程田舎では馴染みのある奴である。

 このヤモリについて話すと、友人でも「ヤモリとイモリの区別が付かない」と言って来る。

 確かに名前がよく似ているし、姿も同じトカゲ型なので生き物に興味の無い人から見たら区別が付かないのだろう。

 だが、漢字で書くとその意味が一目瞭然になるのだ。

 

 ヤモリの漢字は「家守」。つまり「家を守るもの」という意味である。

 昔から家の付近に生息し、指裏の構造上壁に張り付いている事が多いため、害虫を食べて家を守ってくれるという事でこういう名前になったのだ。

(ちなみに先が丸くなっている指裏は吸盤ではなく、マジックテープの仕組みと同じとの事。その構造はとても細かく、顕微鏡でしか見えない程の、鱗が変化したと思われる毛のようなものがびっしり生えているのだとか)

 対してイモリの漢字は「井守」。つまり「井戸を守るもの」という意味である。

 指は細く、裏もヤモリのように張り付くような構造になっていないので、井戸(水場)にいて井戸を守っているかのように見えるためにこういう名前になった。 

 

 名前がよく似ていて間違えられやすい両者だが、決定的な違いがある。

 どちらも同じようなトカゲ型だがヤモリは爬虫類でイモリは両生類(サンショウウオ)である。つまり種類が全く違う。

 遺伝子も違うので両者を掛け合わせても交尾出来ないし子供も出来ない。

 いくら似ているからといって、水場でしか生きられないイモリをヤモリの傍に置いておくような事をしたら死んでしまうし、逆にヤモリを水場に入れてしまっても水中で息が出来ないのでこれも死んでしまう。

(泳ぐ事は出来るが水中では生きられない)

 あとヤモリは全体的に白っぽいがイモリは黒いので体色は真逆である。

(ただし「アカハライモリ」というくらい腹側は鮮やかな赤なので、ひっくり返すとそのギャップにビビる事がある)

 「ヤ」モリ、「イ」モリとただの一字違いでも、これだけの差があるのだ。

 

 だがどちらも田舎では昔から馴染みのある生き物で、日本の風景というのか「日本らしい」景色の演出に役立っている。

 つまり農家の、田んぼのあるような所の家には必ずと言って良い程ヤモリが張り付いており、もし井戸のある家庭では井戸に、そうでなくても田に水を引く用水路や田の中にはイモリが住み付いているものである。

 しかし近年稲に使う農薬の影響か、イモリのいない田もあるのが生き物好きな私としては心苦しい。

 そういう田は蛙もいなくなるので可愛らしい「彼ら」が見られないのはとても残念である。

 幸いにもうちの近くは毎年喧しい程蛙の大合唱が聞かれるし、家にもいつも来るので私としては幸せである。

 

 

 

 

 




ここ三日ぐらいから急に寒くなったので見掛けなくなりましたが、残暑がある時にはヤモリも蛙も窓に張り付いてました。
イモリは水田になってる頃に見掛けてました。
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