短い文で綴るエピソード集   作:沙希斗

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これは、私(作者)が一昨日の晩に見た夢を元に書いております。


苗床

   

 

 

 

 仲良しの三人が日取りを合わせ、花見に出かける事にした。

 そこは山桜が沢山生えているという有名な山地で、平地に植えられたソメイヨシノとの共演も相まって、それはそれは見応えのある桜並木が山の上の方まで続いていた。

 

「綺麗だねぇ!」

「うん。来て良かったな!」

「うんうん、ジジイを死んだ事にして忌引き休暇を取って良かった」

 

 そう言った一人に「お前勝手に爺さん殺すなよぉ!」と残りで突っ込みつつ、山道を登る。

 少々険しいが観光用に整備されており、三人は時折花びらが掛かるのをはしゃぎながら、登りやすそうにスイスイと上がって行っている。

 が、やはり長距離を登ると疲れた様子で、途中の広場になっている所で一人が「少し休まないかぁ?」と情けない声を出した。

 

「もう少しで頂上だから頑張ろうぜぇ」

 

 もう一人がそう言ったが、彼もかなり疲れた表情をしていたため、ゆっくり休む事にした。

 

「ついでだからおやつ食おうぜ」

「どうせなら昼御飯にしようよ。俺お腹空いたぁ」

「そうだな。時間的にも丁度良いから休憩がてら食っちまおうぜ。あそこに休む所もあるしな」

 

 三人目が指差した場所に、屋根付きの見晴台があるのを見た二人は今にもしゃがみ込みそうな様子はどこへやら、競走するかのように嬉しそうに走って行った。

 

「いっちばーん!」

「あ、オレの方が速かったって!」

 

 そんな二人に「餓鬼かおめぇらは」と苦笑しつつ、残った三人目がゆっくり近付く。

 そこはまだ途中ながら、今まで登って来た距離分の景色が見渡され、もうそれだけで疲れが吹っ飛ぶように思えた。

 

「すっげえぇ!!」

「うっわぁ、綺麗だねぇ!」

「やっぱ通称『桜山』とか言われてるだけあるな。見渡す限りほぼ桜じゃん」

 

 感動しつつ、弁当を広げる。

 コンビニで買っただの嫁さんの手料理が羨ましいだのと喋りつつ、美味そうに三人は食べた。

 

 景色を堪能しながらもう少し休み、落ち着いたから再開しようと話していた時である。

 ふいに風が吹き、盛大に花吹雪が舞って彼らを包み込んだのだ。

 三人は思わず目を瞑った。

 そして風が止んで目を開けた時、一人がいなくなっていた。

 

「おい、あいつ何処行った!?」

 

 愕然としつつ見回し、それでもいないのを見て慌てて探す。

 もしや高台になっている見晴台から落ちたのでは!? と下を覗き込んだが、遠くまで見渡せるように高い木が切られているこの場所からは、目の届く範囲にはいないようだった。

 

「先に、行ったりはしてないよな?」

「まさか! もしそうだとしても、黙って行くような奴じゃねぇだろ」

「……そうだよなぁ」

 

 何度も名前を叫んだが、角度によってか山彦が応えるぐらいで返事がない。

 来た道を引き返したり、時折登って来る観光客に聞いたりしてみたものの、それらしい人物を見たという情報は無かった。

 そうこうしている内に日が陰り始めた。

 

「下山しよう」

「そんな! どこかに落ちて怪我してたらどうすんだよ!」

「……山は暗くなるのが早い。そうなると俺らも遭難し兼ねない。食糧ももう無いし、軽装で来たから冷えたら動けなくなっちまう。ここは一旦下りて、プロに任せよう」

「…………」

 

 一人はそれでも言い寄っていたが、最後は説得されて、渋々二人で下山した。

 

 

 

 それから捜索隊も出て捜してもらったが、彼は一向に見付からなかった。

 打ち切られ、それでも諦められずに捜していた二人は、再び彼がいなくなった見晴台に来ていた。

 桜の花はとうに無かったが、緑が遠くまで見渡せ、相変わらず景色は素晴らしい。

 しかし二人の目には、鮮やかな緑も沈んで見えていた。

 

「何処に行っちまったんだよぉ……!」

 

 一人が半ば泣くように呼び掛けたその時、あの時のように再び風が吹いた。

 今度は花吹雪ではなく葉が舞い散り、二人はまた目を瞑った。

 

 目を開けると、何故か景色が一変していた。

 

 木々が生い茂ってはいるものの、ぽっかりと開けた場所がある。

 二人は顔を見合わせつつも、そこに進んだ。

 遠目でも分かっていたのだが、そこには一つだけ大きな木の根があった。

 それは切り倒された切り株、というものではなく、木の根が絡まり合って根っこだけ残っている、というような感じだった。

 その上に本来あるはずの、木の幹や葉っぱなどは無い。

 代わりのように「あった」ものは、裸で、胸から上あたりを露出している人間だった。

 乳房が無い事を考えると恐らく男だろう。 

 それが頭を垂れたまま、木の根に取り込まれるようにして「生えていた」。

 

 驚愕した二人は声も出ず、見てはいけないものを見た面持ちでただ「それ」を凝視していた。

 そうする事で初めて、心臓の位置あたりに芽のようなものが出ている、という事が分かった。

 と、「それ」がびくりと動き、悶えながら頭を上げた。

 そうする事で顔が見えた。苦し気に歪んでいる。

 無精髭になっているその顔は、いなくなった彼のものだった。

 愕然となりながら彼の名を呼び、近付こうとする二人。声が聞こえたのか苦痛に呻きつつも、男はこう言った。

 

「……げろ……!」

「なんだって!?」

「逃げろ……、たの……っ!」

「何言ってんだよ! 今すぐ助けてやる!!」

 

『無駄じゃよ』

 その時冷たい、(やいば)のような声が聞こえた。

 

 二人がその方を見ると、雅な着物を着た者がいた。

 見た目で言えば十歳になるかならないか、という程度だろうか。

 顔付きから多分少女だろうと思われるのだが、あまりにもあどけなく、幼女と言っても差支えない程の年齢にも見える。

 が、白、かと思ったがほんのり赤みがかったおかっぱの髪、色白の幼い顔立ちには似合わない異常な程赤い唇、目の縁に赤い化粧を施した、黒目がちだが妖艶さが漂う瞳などを見ると、とても普通の人間とは思えない雰囲気があった。

 

『大人の男二人がかりでもその根からは抜けやせん。じゃがせっかく〝我が子〟を宿せたのじゃ。万が一でも連れて行かれては困る』

「……。〝我が子〟だと!?」

「そ、それは……、それは、どういう……?」

 

 気圧され、少々怯えつつ、二人は聞いた。

 

『ほれ胸のあたりに芽が生えておるじゃろう』

「これが、〝我が子〟だと言いたいのか?」

『そうじゃよ。今彼の者の心臓に宿った種がの、ようやく成長を始めたところなのじゃ』

 

 彼女が言い終わるとそのタイミングを見計らったかのように、芽が少し伸びた。

 それに伴って苦痛があるのか、「宿主」と化した彼が呻き、身もだえる。びくりびくりと痙攣するかのようなその様子を見るに見かね、一人が「こんなもの抜いてやる!」と芽に手を掛けた。

 

『それは困るが、抜いてもその者は助からんぞ? 抜くや否や芽が通った場所と心臓内に蔓延った根とで大きく抉れてしまうじゃろうの』

「……、そんな……!」

「クソが……っ!」

 

 そうなれば大出血してしまう。恐らく即死するだろう。

 『それよりもな』と、彼女は嬉しそうに切り出した。

 

『そなたらを呼んだのはそういう事をさせるためではない。ようやく芽が出た〝我が子〟のお披露目をしたかったのじゃ』

「お披露目?」

『そうそなたらの言葉で言う〝誕生会〟というものじゃな。共に祝ってたもれ』

 

 彼女は嬉しくてたまらないとでも言いたげに、徳利と杯の乗った盆を持って来た。

 予め用意したのか人数分あるそれに注ぎ、『ささ、一杯』などと言いながら差し出して来る。

 

「ふざけるな!」

 だが激昂した一人が飲むどころか引っ手繰り、彼女にぶちまけた。

 

『つれないのぉ、祝うた後そなたらも同じ目にあうというのに……』

 

 妖しく微笑んだ様に引き攣った顔をした二人だったが、既に遅し。逃げる素振りをする間も無く、彼と同じように根に絡まれた。

 もがけばもがく程に絡み付くそれが下半身を取り込み、腕もそうなって服が引き裂かれ、胸から上だけが露出される。

 

『ほら、あなたのゆりかごですよ……』

 

 なおももがいていた二人は、そう言いながら近付いて来た彼女の手に、サクランボの種のようなものがあるのを見た。

 

 

 

 

 




実際に見た夢は「木々が生い茂ってはいるものの、ぽっかりと開けた場所がある。」の下り当たりから。
それより前のものはその夢を元に想像して書きました。
桜の根に取り込まれた青年と心臓あたりから芽が出ているのを見て、夢の中で「気持ち悪っ!」と思ってました(笑)
で、桜の化身のような彼女を見て、「綺麗だけど怖ぇ」と思ってました。
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