短い文で綴るエピソード集   作:沙希斗

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あったら怖い(フィクション)シリーズ、第一弾。
続けるかどうかは未定です。


夜中に蠢くものは

 

 

 

 いつからだろう。

 夜中にふと気が付くと、カサカサという微かな音が家の中から聞こえて来るようになったのは。

 最初はネズミだろうと思った。

 だがここは高層マンションの十二階である。そんな所にネズミなどいるだろうか?

 一応オーナーに連絡し、ネズミ捕り業者やその他漏電、スズメバチや鳥の巣関連なども色々調べてもらったが、家の中にもベランダなど周囲にもそれらしき痕跡は無いとの事。

 風のせいなのか?

 だが風が強くない時にでもその音は聞こえるような気がする。

 ならば気のせいだろうという事にして、そのまま何食わぬ顔で過ごすしかないのだろうか。

 

 気にしないようにして生活していたがやはり気になるので、取り敢えず音の出所を探ろうと試みる。

 よく耳を澄ませてもそれらしき場所に近付くと音が止んで失敗する、という事を何日か繰り返し、どうやら台所付近が怪しいのではないか? という結論に達した。

 という事はゴキブリか!?

 有り得なくはない。が、ゴキブリって微かとはいえ聞こえる程音を出すものだろうか?

 あいつらは音で気付くというよりは、壁や床を走っているのを見付けて初めているのが分かるというものではないのか?

 しかも夜中限定とかではなく、朝とか昼間でも走り回っているものではないのか? 

 

 まあ良い。

 ゴキブリならば対処が分かる。

 という事である日の夜中、例の音が聞こえたために、殺虫スプレーとたまたま無くなって捨てようと思ったがゴキブリを叩けるのではと取って置き、いつでも使えるように身近に置くようにしていたラップの芯を持って、台所に忍び寄った。

 

 まだ音がしているのを確認し、いきなり電気を点けてみる。

 案の定というのか、音が止んでしまった。

 やっぱりか……。

 想定していたががくりと肩を落とす。

 それでも、忍び足で台所内を点検してみる。

 物が散乱しているとか、戸棚や冷蔵庫が開いているとか、食料品や調味料などが移動していたり中が零れていたり穴が開いていたり食べられた跡があるとかいうような、変わった事は特に無さそうである。

 今までもそうだったが、今時点でもやはり変わっていない、と思う。たぶん。

 なんか自信無くなって来たな、と少し不安になって、流し場あたりを見てみる。

 こっちも洗剤が散乱しているとか、中身が零れているとか、かけてある調理器具などが落ちたり鍋の類いが移動していたりとかいうような変化は無い。

 

 うーん、やはり気のせいなのだろうか……。

 そう思って踵を返そうとしたまさにその時、カサッという音がした。

 

 気のせいじゃ無いのか!?

 若干ビビりつつも、音がしたと思われる方へ向く。

 恐らく三角コーナーあたりから聞こえたはず。そう思って流しの隅に置いているそれに恐る恐る近付く。

 そこにあるのはスポンジと、(かな)だわしと、たわし。

 生ごみ入れとして使ってないからそれらの物を放り込んでいるのだが、でもそれらにも変化が――!?

 

 今、僅かにたわしが動かなかったか?

 

 思わず動きを止め、息も忘れた目の前で、たわしは確かに「身動ぎした」。

 そうして、痺れを切らしたかのように、三角コーナーから這い出て来た。

 え、ええぇ!?

 声を出してはいけない気がして叫ぶのをどうにか抑え込む。

 それは少しずつ、流しの中を移動し始めた。 移動する度に、微かにカサカサという音がする。

 あの音の正体は、「これ」だったのだ。

 流しの中を這う様を、固まったまま目で追う。

 しかし何をするでもなく、ただカサカサと満遍なく移動しているだけである。

 そうして行ったり来たり、ぐるりと回ったりを繰り返し、しばらくすると満足したかのように元の三角コーナーに帰って行った。

 帰るともう、二度と動かなくなった。

 それが当たり前なのだが、何とも気味の悪い光景だった。

 

 もう動かないのを長い間確認し、再び忍び足で移動して電気を消して部屋まで戻る。

 今のは何だったのだろう。

 動悸が止まらない。嫌な汗で背中がべっとり濡れている。

 こんな事が、時々夜中に繰り返されていたのか……。

 

 

 まんじりともせずに夜を明かし、実は夢だったのではないかとおっかなびっくり三角コーナーを覗いてみる。

 いつもと変わらず同じ場所にたわしは鎮座している。

 だが、なんとなく流しの中が若干綺麗になっている気がした。

 

 

 

 

 




「亀の子だわし」という商品名があるくらいですから、なんとなく生き物に見えなくもないような気がします。
ので、こんな話を思い付きました。
このたわし、本気で流し内を掃除する気ならもっとごしごし擦るので這う音も大きくなるはずなんですが、きっと掃除をする気は無く、たまたま這っている時に這い跡が汚れを取る形になっているだけなんだと思います。

今回は実験的に、「私」「僕」などと書く主人公視点の「一人称」にも名前を出して書く「三人称」にもしないように書いてみました。
多分短い文だから出来たと思います。長くなったら主人公がどこの誰べえかというのを出さずにはいられなくなると思いますから。
でも視点的には一人称なのかも。
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