短い文で綴るエピソード集   作:沙希斗

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不思議な事もあるもんだ第一弾。実話です。


虫の知らせ

 

 

 

 突然だが、「虫の知らせ」という言葉を知っているだろうか。

 なんとなく良くない事が起きる予感がする、というような意味なのだが、この虫の知らせを私は文字通りの意味で体験した事があった。

 

 それは五年程前の事だったろうか。

 しかしその話をする前に、その当時の年から二十年前に遡らなければならない。

 

 生後半年の頃にうちにやって来て飼われ始めた「ごんた」という雄猫がいた。

 ちなみに「やって来た」というのは文字通り「彼」の方からふらりとやって来た(迷って来た)という意味で、誰かから貰うとか拾うなどしてやって来た、という意味ではない。

 それまでに飼っていた(というよりは野良が勝手に居ついて一緒に住むようになった)猫は全て三毛、雉、黒ぶちなどの日本猫だったのだが、「彼」は珍しくペルシャの血が入ったような雉毛の長毛種で、なのでその時に初めて洋猫を飼う事となった。

 長毛種の猫は大人しい性格が多いらしいのだが、大人になった「ごんた」は去勢しても環境がそうさせるのか今までの猫と同じように狩りが上手く、なので時折ネズミやら鳥やらを捕って来ては見せびらかせつつ食べていた。

 その頃、どうやってここまで辿り着いたのか疑問に思える程の、生後三ヶ月経っただろうかと疑うくらい小さな子猫がやって来ていた。

 「彼」は子供には興味が無いのか、近付くと「寄るな!」と怒っていた。

 だがその子が成長して狩りに興味を示し始めると、捕ったネズミをわざわざその子用の食器に入れてやる、という世話好きな面も見せていた。

 

 五年程前に戻る。

 そんな「ごんた」が生後二十年で寝た切りになり、その(猫にとっては)長い生涯を終えようとしていた頃の出来事である。

 

 今でもそうなのだが、毎年六月頃になると、何故か必ず昼食時に一匹だけやって来る虫がいる。

 それは見た目が「腰が括れていない黒い蜂」といった風情で、なので私はずっと地蜂(地面に穴を空けて巣にする蜂の総称)だと思っていた。

 蜂にしては腰が括れていないのに違和感はあったが、そんな蜂もいるのだろうと、長年調べもしなかった。

 しかしどうにも気になってある日ふと調べてみたら、「アメリカミズアブ」だと分かった。

 つまり「蜂(ハチ)」ではなく「虻(アブ)」の仲間だったらしい。

 どちらにしても刺された事は一度もないし、何をするでもなくただブンブンと忙しなく飛び回るだけである。

 何のために来るのか目的はサッパリ分からないが、とにかく昼食時になると一匹だけ、必ずやって来ては私が食べている間中、目の前を飛び回る。

 それが目まぐるしいのと時々顔にとまったりするのとで鬱陶しいのだが、それでも生き物が好きな私は邪険にせず、今でも来る度に「あ、いらっしゃい」などと声掛けしては放っといている。

 

 さてその虫が、その日は私の傍らの、飯台の端にとまったまま、じっとしていた。

 あれだけ忙しなく目の前を飛び回る虫が、その日に限ってじっととまったまま、しばらく動かなかった。

 そしてまるで何かを訴えかけるかのように、触覚だけをゆっくりと動かしていた。

 

 その時、何故か私は覚ってしまった。

 あぁ、今日「ごんた」は死ぬんだなと。

 

 するとその五時間後ぐらいに、「彼」はその生涯を閉じたのだ。

 私と母が交代で見守っていたのだが、家族全員がたまたま用事が出来て見ていない時間帯だった。

 それを済ませた私が見に行った時には既に死んでいた。ので、誰も死に目に会えなかった。

 外出先から帰って来、それを知った母の嘆きたるや悲愴な事この上なかったのだが、私は「前以って虫が教えてくれていた」ので既に覚悟が出来ていた。

 

 単なるこじ付けかもしれない。

 でも、こういう事もあるんだなと思った出来事だった。

 

 

 

 

 




「アメリカミズアブ」は今でもたまにやって来ます。
でも、何故昼食時に限っていつも一匹だけ来るのかは謎のままです。
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