前話(「虫の知らせ」)に出て来た「アメリカミズアブ」がメインの話になります。
ので、虫嫌いな人はもしかしたら読みたくないかもしれません。
前話でも少し「アメリカミズアブ」の説明をしておりますが、今回は更に詳しい説明をしておりますので。
ちなみにこれは去年の話です。
毎年大抵この時期(夏頃)になると、何故か必ず昼食時に一匹だけやって来る虫がいる。
それは見た目が「腰の括れていない黒い蜂」といった感じなので、私は長年地蜂(ジバチ)の類いだと思っていた。
地蜂というのは「ジガバチ」に代表されるような、地面に穴を掘って巣にする蜂の総称の事である。
どう見ても蜂に見えるのに腰が括れていない、という事にいつも違和感を持ってはいたのだが、そういう種類もいるのだろうと、気にはなりつつも長年調べる事まではしていなかった。
が、ふと気になって最近調べてみたら、どうも「アメリカミズアブ」らしいと分かったのだ。
つまり「蜂(ハチ)」ではなく「虻(アブ)」の仲間だったわけである。
名前の通りアメリカ出身の外来種で、日本には第二次世界大戦後に入って来たとの事。
不衛生な環境で繁殖する(幼虫が増える)ため、水洗便所が普及していない時代には身近に見られ、蜂に似た姿から「便所蜂」などと呼ばれていたらしい。
コンポストなどにも幼虫が湧くという事なので、うちにあるコンポストが発生源なんだろう。
確かに芋虫でもない蛆でもないような気持ちの悪い幼虫がコンポストにいるなと思っていた。
蛆虫が暗灰色の鎧を着たような姿をしているため、私はそれを「鎧蛆」と呼んでいた。恐らくハエではなくアブの仲間の子だろうとは思っていたのだが、そうか、その子たちの親だったのか。
ちなみに衛生的な環境で養殖した幼虫は、良質なたんぱく源として乾燥させて、魚や鶏などの餌として重宝されているんだとか。
ミズアブの仲間は日本、つまり在来種もいるらしいのだが、幼虫が水田や温泉などの比較的暖かい水質を好むのと、アメリカミズアブの方が繁殖場所も繁殖率も断然上なのとであまり見掛けなくなったらしい。
さて、虻の仲間と分かっても、蜂だと思い込んでいた今まで同様一度も刺された事が無いのでちっとも脅威ではない。
何の目的で来るのかサッパリ分からないが、とにかく食事中にただ目の前をブンブンと飛び回って鬱陶しい。
だが生き物好きな私は邪険にする気にはならず、いつも来るので逆に友達のような感覚になって、来るたびに「いらっしゃい」などと声掛けしては放っといていた。
そんな中、ある日食事を終える頃、右手の甲側にとまってじっとしていた事があった。
手乗りみたいだと思って追わずにそのままにしていたのだが、あまりに動かないので前話(「虫の知らせ」)の時のように何かを知らせようとしているのかと、少し不安になった。
結論から言うと幸いその日に誰かが死ぬとかペットが死ぬとかいうような不幸は無かったのだが、相手が満足したかのように飛び去った後、ふと人差し指の腹を見た私はギョッとした。
そこに数ミリの、無数の白くて細長いものがくっ付いていたからである。
つまり、どうやら卵を産み付けていったらしい。
とまった時に指の間に尻を入れたままじっとしているなぁとは思っていたのだが、まさか尻先を人差し指の裏(腹)に回してそんな事をやっていたとは!
まったく感覚が無かったのもあって、驚きを通り越して固まってしまった。
これはまさか、託されたという事なんだろうか!?
だ、だがいくら私が邪険にしていないとか、殺さなかったとかいっても、卵(命)を託す程、虫が信頼するとでも!?
そう焦った私であったが、そのまま生活して幼虫を育てるわけにもいかないし、人差し指の腹はよく使うから卵を潰してしまうし、かといって他に移してまで育てようとも思わないし……、と色々考えた結果、「彼女」にはすまないと思いつつ、断腸の思いで洗い流してしまった。
手洗いはしているつもりなんだが、もしかして臭かったのだろうか。
【挿絵表示】
↑これがその時撮った写真。
卵を産み付けられる経験など前代未聞だと思って洗い流す前に撮影したのですが、マクロ撮影が上手く行かずにボケまくってます。
写真の日付が九月三日になっておりますので、その頃に卵を産むのかもしれませんね。虫自体は夏頃になると毎日のようにやって来るので。
今年は幼虫が発生する時期に雨が多いなど環境が悪かったのか、それとも託した命を育てもしないで洗い流してしまった事を分かっているのか、一度来たくらいでまだあまり見かけておりません。
同じ個体が来るはずはないので毎年代替わりをしているはずなのですが、種族間でそういう連絡がされてしまったのでしょうか。
恐らく梅雨が明けたら頻繁に来るようになるんだとは思うんですが。