Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス) 作:新月
直ぐ後に後編更新です。
【ムーンセル・一回戦・闘技場】
「ここって……船?」
エレベータを降りた僕達を待っていたのは、大きな木造船のだった。
周りをよく見渡してみると、深海の底のような空間でその中にぽつんと一隻。
いかにも何百年も前に朽ちたような、古びた帆船が存在していて、その上に僕達はいた。
「へえ……成程、沈没船か。決戦の舞台にしては、いい味出してるじゃないか。セラフもなかなかいいセンスを持っているね」
「ああ、こいつはいいねえ。アタシらにピッタリの戦場さ」
前に向き直ると、先に降りていた慎二達が待ち構えていた。
既にライダーは二丁拳銃を構えていて、いつ戦闘が始まってもいいように待機していた。
「ライダー。分かっているとは思うが、手加減なんかするなよ。この僕に歯向かったんだ、かける情けなんて一つもない」
「はん、情けなんざ持ち合わせてないっての。アタシにあるのは愉しみだけさね。出し惜しむのは幸運だけさ。命も弾も、ありったけ使うから愉しいのさ! ましてやコイツは大詰め、正念場って奴だ」
向こうのそんな声が聞こえてくる。
完全にやる気満々と言った所で、自分達が負ける未来など一切無いという自信が感じられる。
「うむ。大丈夫だ奏者よ、余等が付いておる!」
「あんなワカメ、さっさとぶっ飛ばしちゃって下さい!」
「何、今の君なら十分戦えるはずだ。気張っていけ」
でも、それはこっちも同じこと。
僕が前に出ると、セイバー達の応援が後ろから聞こえてくる。
前回アリーナで戦った時は、手も足も出なかった……
けれど、今は情報も対策も十分できる限りして来た。
こっちも負けるつもりなんて、さらさら無い!!
「破産する覚悟はいいかい?………一切合財、派手に散らそうじゃないか!!」
「お生憎様……こっちはすでに破産してるようなもんだよ!!」
僕達は互いに前に出て……次の瞬間、爆発したように飛び出す!!
「行くよ――――今度は、負けないっ!!」
「はっ! 返り討ちにしてやるよ、坊やぁっ!!」
一回戦決戦が、始まった――――
★☆★
「ホラホラァッ!!」
ダンダンッ!! とライダーの二丁拳銃から弾丸が数発放たれる。
走りながらにも関わらず、その弾丸はすべて僕に直撃の狙いだった。
前回は、この攻撃を回り込みながら回避をして、隙を付いて接近しようとした。
けど……
「このまま、押し切る!!」
今回は下手な遠回りより、最短距離の正面突破だ!!
そのまま僕は走り続け、弾丸が当たりそうになった瞬間に木刀でギンッっと弾き飛ばす!
「っうわ!? 手応えが全然違う!?」
前は一つ弾き返すだけで、腕に結構な負担が掛かってしまっていた。
けど今はまるで、浮かんでいるビー玉を弾き返すかのような手応えしか掛かってこない!!
これが、マトリクスシステムの力!?
「行けるっ!!」
そう確信した僕は、さらに踏み込みを強くして一気にライダーに接近する!
「ッチイッ!」
前回のようにうまくいかなかった事にイラついたのか、舌打ちをしてさらに連射を上げて弾幕を張ってくるライダー。
けれど、僕はそれらの中で確実に自分に当たる弾だけを判断し、それだけを捌きながら走る!!
今度はもうあの大砲を出す時間も与えない!!
ダンッ!
「捉えたよ!!」
僕は完全にライダーに肉薄して、大きく踏み込んで木刀を振り下ろす!!
「甘いさねえ!!」
その攻撃を、ライダーは銃を上で交差させて防ぐ。
くそっ、まあ簡単にはいかないか!
「ホラよォ!!」
「つあっ!?」
防いだまま、ガードががら空きなボディを回し蹴りで蹴り飛ばそうとしてくる!
それを僕は左に転がるようにして飛んでやり過ごした。
が、これは向こうにとって大きな隙になってしまう!?
「そこぉっ!!」
転んだまま振り返ると、追い打ちをかけるようにライダーの銃撃が鳴り響く!
起き上がる暇はない、なら!
「っえい!!」
クラウチングスタートの要領で、姿勢を低くしたままライダーに向かってダッシュ!
銃弾を潜り抜けるようにやり過ごし、そのまま木刀で足払いをする!
「よっと!! 食らいなあっ!!」
けれど、それを読んでいたのかライダーは大きく飛び上がり躱す。
そして空中で逆さまになりながらも、立て続けに僕に狙いを定めて連射をして来た。
それを僕は連続前回り受け身の両々でゴロゴロしながら躱していく。
「うわっととっ! 危なかった……!」
「ふーん、やるようになったねえ……」
銃撃がやんだ後、僕達は互いに三十メートルほど離れた地点で睨み合いに入った。
「おお! 奏者、いけるぞ! ライダーに一歩も退いておらん!!」
「これがマトリクスの効果か……! 前回とは完全に違って、攻撃を完全に対処が出来ている!」
離れた所から、セイバー達の声が聞こえてくる。
確かに、今回は一方的な展開ではなく、ちゃんとした勝負になっている。
直ぐ勝てるとは言えないけど、このままならまず負ける事は無いと言い切れる。
「チッ! 何やってんだよ、ライダー! さっさと倒せ!」
「まあ、そう急かすなってシンジ。まだこっちは出して無かったんだからさあ!」
「っ!?」
ライダーのその声と共に、彼女の後ろの空間が歪み出す!
そこから出て来たのは、忘れもしない、前回それにやられそうになった……
「カルバリン砲……!!」
「そうさ! 砲撃用ー意!」
そのライダーの掛け声に、後ろの四つの砲台が完全に僕をロックする。
「藻屑と消えな!」
ゴウッ! っと四つの砲撃音が鳴り響く。
あの時と殆ど同じ状況。
それを僕は……
真正面から突っ込む!!
僕はそのまま、ライダーに向かって先ほどのようにダッシュしていった!
「なっ!? まっすぐ突っ込んでくるってのかい!?」
「はははっ!! 馬鹿の一つ覚えか吉井!!」
僕のトチ狂ったような行動に、敵味方含めてみんな驚いた。
けど……
「ご主人様、正面突破ですかあ!!? それじゃあ前回の二の舞にっ」
「いや、これでいい!!」
「む?」
「え?」
そう、アーチャーの言うとおり、ここは正面突破でいい。
カルバリン砲は、ライダーの背後の四つの砲台から同時に発射され、僕を狙ってくる。
けど、対抗策が全く無い訳じゃない。
よく見てみると、砲台自体は少しだけど地面から浮かんでいて、斜め上から僕を狙撃してくるようになっている。
つまり……
「砲台に近づけば近づくほど、下を潜り抜けるスペースが出来るって事だ!!」
僕は飛んでくる砲弾をギリギリまで引きつけて、スライディングをして躱した!
紙一重の差で、砲弾は僕の頭すれすれをチッと音をたてて掠っていった。
危なっ!? けど、狙ったかいはあった!!
「何っ!!?」
向こうはあわてて次弾を装填して、標準を直そうとしてるけど、もう遅い!
一見無謀に見えるこの行動が、実はライダー戦で一番の攻略法だったんだ!
これで……!
「【コードキャスト・shock(32)】っ!!」
ピシィッ!!
「なっ!?」
あともう少しでライダーに近づけた所で、いきなり僕の体が痺れて片膝をついてしまった。
これって、予選の時のあの男に掛けられたのと同じ……っ!?
「はん。頭のいい勝ち方っていうのは、こういうこと」
「いいタイミングさシンジ。ナイスアシストだ」
ふと横を見てみると、少し離れた所で慎二が僕の方に向けて腕を伸ばしていた。
まさかこの痺れ、慎二の仕業!?
「奏者っ!?」
離れた所から、セイバーの悲痛な声が聞こえてくる。
ヤバい!?
この痺れ、すぐに動けない!?
「さて……今度こそ終わりさね」
そう言って、ライダーは後ろのカルバリン砲の一つを僕に標準を向け直す。
ゴウッ!!
そして、僕に止めの一発が放たれた!
「ご主人様ぁっ!!」
「マスターッ!!」
今度こそ、僕の負け――――
――――に、なってたまるかっ!!
「っつ、うぅああっ!!」
僕は痺れる腕を無理やり動かし、木刀の端同士を持って構えなおす。
ただし、今度は真横に持つんじゃなくて……木刀を抱えるようにして、左手で握っている方を前に出す。
そして、砲弾が飛んでくるルートと平行になるように、かつ少し後ろを斜めに上にずらすように構える。
……思えば、前回の僕の戦い方は、僕らしくなかった。
文月学園で試験召喚戦争のとき、観察処分者の僕は、上位クラスの人たちとどう戦ってきた?
敵の攻撃をわざわざ受け止めていた?
真正面から力比べなんかをしていた?
いや、違う。
みんな僕以上に点を取っていて、強力な召喚獣ばかりを使っていた。
そんな人たちに、馬鹿正直に力比べなんかしても勝てる訳がない。
だから、僕の一番の強みは……“召喚獣の操作性”。
つまり、力に対して、力がないなら……技術!!
構えた木刀に、ライダーの打った砲弾がぶつかる!!
「く、ああああーっ!!!」
重い……衝撃が強すぎる!
けど、これを受け止めたり、弾き返したりするんじゃなくて……飛ぶコースを、少しずらす!!
ギ、イィィィィィッ!!
木刀にぶつかった砲弾が、甲高い金属音を鳴らしながらその上を滑るように移動して、僕の後ろに流れて行った!
てか、金属音って!?
この木刀めちゃくちゃ頑丈なんだけどっ!?
「何っ!!?」
躱されるとは思わなかったのか、ライダー達のそんな驚いた声が聞こえた。
勝ちを確信して、一発しか撃ってこなかったのが幸いした!
さっきのも四発同時で撃ってこられたなら、僕は捌き切れずにそのままやられていた!!
向こうは慌てて構えなおすけど、遅い!
もう痺れは完全に解けた!
「はああぁーっ!!」
僕は一気に残りの距離を詰め、ライダーに対して両手で切り上げるように木刀を振った!
「くっ!!」
それに対して、向こうはさっきと似たように、今度は銃を下に向けて交差して防ぐ。
「つあああああああああぁぁぁっ!!!」
が、それは想定の範囲内!
今度はさっきと違い、両手で木刀を持っているから十分力が込められる!
マトリクスで確認したとき、ライダーの腕力はD、対して僕はB!!
唯一、この腕力だけは僕はライダーに勝ってる!!
今この時だけ、単純な力比べなら僕が負ける道理はない!!
「ぶっ飛べぇっ!!」
「つ、ああっ!?」
ガキイィンッ!! と甲高い音が鳴り響いた後、ライダーは競り合いに負け後方に吹っ飛んだ。
何回かバウンドしたあと、落ちたのはこの船の甲板の真横ギリギリ!
完全に端に追い詰めた!
「とどめ……っ!? うわあ!?」
追い打ちを掛けようとした僕の前に、何かが光走ったように飛んできて、ギリギリでそれを避けた。
まさか、さっきの痺れる奴!?
飛んできた方を見ると、慎二がライダーに向かって走って行ってる所だった。
くそ、あともうちょっとだったのに!
「ライダー! 何やってるんだよ!? 吉井なんかに押されやがって!!」
「あー、悪いね船長。あの坊や、思ったよりこの短期間で成長の度合いが半端ない。全く……喜望峰はまだ遠いねぇ」
「何を言ってるんだ!それでも僕のサーヴァントか!!」
よっと、と言いながら彼女が立ち上がる。
その顔に浮かぶのは、追い詰められた人の浮かべるようなものでなく……この状況で、全く臆していないような表情だった。
「ま、しょうがない……シンジ、そろそろ勝ちに行っていいかい?」
「ちっ。吉井なんかにはもったいないと思っていたけど……ああ、見せてやれよ、エル・ドラゴ。僕の力の程ってやつをさ」
……っ!?
明らかに雰囲気が変わった!
何かくる!?
「アタシの名前を覚えて逝きな!」
ゴゴゴッ……っと地鳴りが鳴り響く!
一体何が……って!?
「テメロッソ・エル・ドラゴ! 太陽を落とした女、ってな!」
ライダーのいる後ろに、横から大きな船が浮かび上がってきた!?
その船に、ライダーは慎二を抱えて一っ跳びで乗り込む!
彼女達を乗せた船は、そのまま僕達のいる沈没船から離れて行き、その後ろを他の小型船が追いかけて行くようについて行った!
「奏者! 大丈夫か!?」
「セイバー! みんな!」
ライダー達が離脱したのを見て、離れた所で見ていたセイバー達がこっちに向かってきた。
「ねえ、あれってもしかして……」
「ああ。恐らくあれが、ライダーの切り札……【
あれが……!?
あの何十隻もの船の大群が、ライダーの切り札!?
「離れたのは、逃げたわけじゃ……」
「ありませんよねえ、当然。それじゃあ、切り札の意味がありませんし。第一、この決戦場はどちらかが倒れるまで出られません」
「だよね……」
既にライダー達を乗せた船は、ここからかなり離れた場所に移動していた。
どうあがいても、此方からの攻撃は届かない距離だった。
「むう……確か、マトリクスに載っていた情報だと、“無数の小船を展開、圧倒的火力を持って敵を殲滅する”……であったか?」
「不味いぞ……あの大量の船で遠距離狙撃などされたら、こっちの攻撃が届かない以上、対抗策が全くなくなってしまう!」
アーチャーの言うとおり、こっちの攻撃手段は僕の木刀のみ。
遠距離攻撃法なんて、一切持っていない!
「アーチャー! あなた“アーチャー(狙撃兵)”何ですから、何か遠距離攻撃法持っているんじゃないんですか!!」
「無茶を言うな!? 魔力があるならともかく、ステータスほぼHランクの今のオレに、そんな力ある訳ないだろう!!」
まあ、そうだよね……
というかそんな力があるなら、初めから一緒になって戦ってるよね。
「しかし、それなら奏者に弓矢か何かを渡して、代わりに射ってもらうというのはどうだ? 奏者のステータスなら……」
「僕にそんな技術あると思う? 弓矢なんて、一回も触った事すらないんだけど」
「しかも、あの艦隊相手に普通の弓で対抗できるなど思えん……」
もう完全に、こっちからの攻撃方法は一切無いって事か……
「だったら、あの攻撃を何とか防いでそれにやられた振りをして、向こうから降りてくるのを隠れて待ってるっていうのはどう?」
「確かに、一番現実的なのはその方法だが……」
「むう……しかし奏者よ、あの艦隊の攻撃をどう防ぐつもりだ? こっちには防御手段すらないのであろう?」
だったら、これを試してみようよ……
そう思いながら、僕は片腕につけている、黒光りする腕輪に目を向けた。
★☆★
「さぁて、おっ始めるかねぇ!」
「ああ、ライダー! あいつらに、目に物見せてやれ!!」
アタシの真横で、ウチの船長が意気揚々とした表情でその指令を出す。
正直アタシも、初日で簡単に倒せそうだったあの坊や相手に、宝具の開帳を許すとは思わなかったんだけどねぇ……
予想より、向こうさんの実力は高かったってことさね。
こりゃあ、完全にこっちの油断だ。
まあ、だからこそ、この攻撃で完全に仕留めるさぁ!!
「野郎ども、時間だよ!!!」
他の小船達が船体の向きをあの坊やのいる沈没船に向ける。
「嵐の王、亡霊の群れ……」
そして、全ての大砲の標準が、一点に集中する!!
「さあ、ワイルドハントの始まりだぁっ!!!」
――――――ゴゴオオオオオオォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!
そのアタシの掛け声とともに、轟音と爆音が響き渡る。
この嵐のような砲撃の爆炎と衝撃のせいで、狙い打たれた沈没船は煙と砂埃まみれになって、此処からじゃ確認できなかった程だった。
食らったら、まず誰も生き残ってはいないと言い切れるほどの、最高の切り札。
「く……はは……アハハハハハハハッハハハハハハハハッ!!! 凄いじゃないか、ライダーッ!!」
アタシのマスターは、勝利を確信したのか、上機嫌でそう笑い声を上げる。
いいねえ……いかにも悪党っぽい笑いじゃないか!
……しかし、
「流石は僕のサーヴァントだ! ああそうさ!! 僕は最強なんだ!! あんな奴なんかに負ける訳なんか無かったんだ!!!」
ウチのマスターは、どうやら気づいて無いっぽいけど……
なーんか、引っかかるんだよねえ……
「ざまあみろ吉井!! この僕に楯突いた時から、こうなる事は運命だったんだ! これで僕の勝ちさ!!」
「いや、シンジ。念のため、最後まで気を抜かない方がいいよ」
「あん?」
上機嫌な所を水を差すようで悪いが……
万が一、というのもあり得るからねえ。
「何言ってるんだライダー。こっちは宝具まで使ったってのに、あいつらが生き残ってるとでもいいのか!?」
「アタシもそうは思わないけどねえ……けど、気になる事があるんだよねえ……」
この距離じゃあ、アーチャーみたいな“千里眼”のスキルを持たないアタシじゃよく確認できなかったが……
砲撃が当たる瞬間、あの坊や達の周囲に、立方体的な何かが展開されたような気がしたんだが……アタシの気のせいだったかい?
★☆★
【ステータスが更新されました】
■マスター:吉井明久
<スキル>
・心眼(真):D
Fクラスでの暮らしと、観察処分者としての戦闘の経験によって鍛えられた能力。敵の攻撃を受けるのでは無く“いなす”技術に特化している。
普通の学生生活をおくっているなら、まず習得することは無いはずなのだが……