Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス) 作:新月
アーチャーが壊れた。
アルバイト
「……へ? “休み”?」
一回戦決着の次の日。
二階の掲示板の前に、対戦相手の確認をしようと向かったら、何も貼られていなかった。
それで、近くにいた藤村先生に事情を聞いたら、そんな返事が返ってきた。
「そうなのよね~。ほら、昨日エレベーター前で参加者たちがずいぶん待たされちゃったじゃない?」
「あー、そうですね。あれは大変だった……」
昨日の耐久五時間コースを思い出す。
まさか戦闘する前に疲労困憊になるとは思わなかったあれね……
もしかして、あれ二回戦行ってもやる事になるの?
流石にそれは御免こうむりたいんだけど。
「それでね~……」
そう言いながら、言いずらそうな顔をして……
「……“まだ全員終わってないのよね”……一回戦」
「……マジですか?」
★☆★
「――――と、言う訳で。今日は休みになったみたい」
「……奏者よ。まさか昨日のあれ、まだ並んでいるというのか……?」
話を聞いた後、マイルームに唯一残っていたセイバーにそのまま事情を話した。
その顔は微妙に引きつっていて、あの地味な地獄がまだ続いていたのか、と言いたいような表情だった。
「いや、流石にエレベータ前で待たされるのは無くなったみたい。後から整理券が配られて、それで時間制にして分けてくるようにしたっぽいよ? 二回戦からは、それを初めからやるって言ってた」
「まあ、当然の判断よな……流石にあれを何度もやらされるのは、いくらなんでも精神が保てそうにない」
セイバーの意見に凄く同感。
ただでさえ戦うのは憂鬱なのに、それ以外の要因で精神をガリガリ削られたくない。
「後、ついでに言うと僕達は、比較的早めに決戦場に入れて決着付けられたらしいんだよね」
「五時間で早めだと申すのか!?」
「らしいね……それで今日みたいな休日が出来たんだけど、それだと最後の方に決着がついた人と不公平になるでしょ?」
僕達は二回戦が始める前までに、体を休める期間が出来たけど、最後に決着がついた人は必然的に、その時間が無くなってしまう。
「だから、最低でも最後の組が戦ってから、次の対戦カードが決められるまで必ず休日を一日、入れる事にしたらしいよ。それでもまあ、整理券のくじ運さで長さがバラバラにはなるらしいけど」
「まあ、それ位は当然よな。もうあの長蛇列を並ばなくていいと思うと、気が楽になる」
「そうだね。けどまあ、これからどうしようかな……」
既に気分は二回戦に向かっていたせいで、急に休日と言われてもやる事がすぐに思いつかない。
これが学校にいた頃なら手放しで喜んでいたんだけど……この世界にゲームとか無いし、基本的に時間をつぶせる娯楽とかがあまり無い。
対戦相手も分からないんじゃ、マトリクスを埋める事も出来ないし……さて本当にどうしよう?
「まあ、しょうがないか。この際アリーナに行ってエネミー退治でもしてこようかな。戦闘経験も積みたいし、お金も稼いでおきたいし」
「ッ!?」ビクッ
「それじゃあ、アーチャー達も一緒に……って、そう言えば、アーチャーとキャスター何処に行ったの?」
「い、いやそれは……っ」
確か、さっき僕が掲示板の所に出かける前は、この部屋にいたはずだったんだけど?
すぐ戻ってくるからーって言ったから、てっきり待ってると思ったのに。
って、セイバー? 何か大量に汗掻いてるけど、大丈夫?
「紅茶たちは……そう! つい先ほど、情報収集に行った所だ! 奏者がいない間に、少しでも対戦相手の事を知っておこうと思ってな、などと申しておったぞ!!」
「対戦相手って……たった今、僕がそれを聞きに行って分からなかったのに? それって、ちょっとおかしくない……?」
たとえさっき分かったとしても、二人は僕の口から聞く前に出かけていった。
つまり二人は、対戦相手が一切分からない状態のまま情報収集に行くつもりだったって事だよね?
「た、対戦相手がはっきりと分からなくとも、あらかじめ生き残った参加者たちを確認しておけば、予習にはなるだろうとも呟いておったぞ!」
「それならなおさら、僕が直接その対戦相手をはっきりさせるために聞きに行ったんだから、それを待った方が効率よくない? 掲示板見に行くだけだったんだから、大して時間は掛からない事は予想ついてた事でしょ?」
「奏者っ!! しつこい男は嫌われるぞっ!!」
「何でさっ!? ていうかいきなり何!?」
いきなりバンッと座っていた場所を叩いて、そんな事を叫ばれた。
あれ、僕なんか間違った事言ったっけ!?
「あーもう!! いいから奏者も余と図書室とかに行くのだ!! 少しでも伝説関係の情報を予習しておけば、役に立つかもしれぬだろう!?」
「まあ、確かにそうだけどさ……その前に、もうお昼だから食堂に行かない? さすがに何か食べないとキツイ……この際、また塩と水だけでも欲し」
「駄目だっ!! “爆発”するっ!!!」
「何が!?」
「“奏者”(の心)が!!」
「僕がっ!!?」
何故食堂に行くだけで僕が爆発!? それとも水と塩!?
全く関連性が分からない!!
何、僕がおかしいの? 話を理解できていない僕がおかしいのっ!?
「ええーい、いいからさっさと行くぞっ!! 今日は禁書な目次のとある本を確かめると決めたのだ!」
「それどこぞの不幸少年が主人公のラノベェッ!? 伝説全く関係なくない!?」
「何を言うか! あれには意外と魔術関係の知識が盛り込まれていて、なかなかの良作だ!! 具体的には今はちょうど新約に入って主人公がやや疑心暗鬼に陥り雷神と呼ばれるものと手を組んでからの続きが待ち遠し」
「結局ただ続き読みたいだけだよねえっ!?」
そんなこんなで、何か様子がおかしいセイバーと無理やり一緒に図書室へ向かう事になった。
ていうか、結局アーチャー達何処さ?
★☆★
拝啓、ご主人様へ。
ご主人様、お元気でしょうか?
と言っても、別れてから三十分も経っていないんですけどね~。
朝見た様子だと、完全とは言い切れませんが、ある程度は立ち直れたと感じられたので、その点では心配は無いかもしれません。
今頃はセイバーに連れられて図書室で一緒に缶詰めにされている頃でしょうか?
暫くあのワガママ皇帝に付き合わされるのは苦痛かもしれませんが、これもご主人様を思ってこそ……
ご主人様なら、その苦痛もきっと耐えきれると信じております。
私の方は、残念ながら快調、とは言い切れない状態です。
何故なら、今私は――――
「アーチャーッ!! 二番テーブル、塩ラーメンとチャーハンのオーダーッ!!」
「承知した!! キャスター、五番テーブルの鮭定食!! 三番テーブルのカレーライスが仕上がった!!」
「あーもうっ!! 回転が追い付かなーいっ!!」
――――何故か学食でウェイトレスをやっています。
あ、あとついでに紅茶はコックやってます。
★☆★
「もう、何で私が配膳作業をしなきゃいけないんですかぁーっ!!」
「キャスターッ!! 叫んでいる暇があるなら体を動かせ!!」
「ふむ、意外と余裕がありそうだな。ならもう少し、君たちのシフトを増やしてみようか。無論、作業が滞ったなら容赦なく減給にするが」
「鬼ですかこのエセマーボー神父っ!?」
「はっはっは。愉快愉快」
こんな状況になったのも、つい先程の事。
マイルームでまったりくつろいでいると、急にこのマーボー神父に呼び出しをくらって、働けと言われたからです。
借金をしている以上、私達にそれを拒否する権利はなく、泣く泣くこの薄給アルバイトをこなす事になってしまいました。
それで、ご主人様が戻ってきたときに誰もいないのは不味いと言う事で、前回決めた二手に分かれる作戦を決行することにしたんです。
その結果私達がアルバイトに、そしてご主人様に付く方があろう事か元凶のセイバーに!
くっ、あそこでパーを出していたら……
あ、ちなみに自給“550”PPTです。安すぎです。
「ああっ……この身はご主人様に捧げると誓ったはずなのに、その仕えるべき旦那様に内緒でこのように借金の返済のため、身を削る毎日……」
「毎日というか、今日が初日ではあるがな」
「きっとそのうち、この私の美貌に目が眩んだ下種な権力者たちにこの身を汚され、少年誌ではお見せできない十八歳未満お断りの状態にされてしまう訳ですねっ!! ああ、なんて可哀想な私っ!!」
「いいからさっさと働け」
「ぶー。紅茶が冷たーい」
ちょっと位乗ってくれてもいいじゃないですか。
そうでもなきゃやってられないんですよー、この状況。
「全く、君は配膳だけだからいいだろう。こっちは何十人分もの料理を作らなくてははいけないのだから、かなり疲れるのだぞ」
そう言いながら、アーチャーは中華鍋を片手で返しながら調味料を加えていきました。
その姿は傍から見てもまるで熟練の料理人に見え、いい汗を掻いています。
「……アーチャー。あなたもしかして、この状況楽しんでません?」
「何を馬鹿な事を言っている。これは借金を返すために仕方なくやっている事だろう? そんな事を言ってる暇があるなら体を動かせ」
「……はーい」
「……………………」
ジャッジャッ←(チャーハンを炒めている)
「………………む。すまないが、そこの塩と胡椒をとってくれないか? ああ、それだ」
パッパッ←(塩コショウを掛けている)
「………………ふむ、茹で具合はちょうど良いか。スープの方はどうだ?」
グツグツ←(麺を茹でている)
「………………ああ、カレーライスはそちらでやってくれ。私は天丼をやろう」
ジュージュー←(エビフライを揚げている)
「……………………………………………………………………………………ふう」←(凄く満足げな表情)
「やっぱり楽しんでるでしょうっ!! ねえっ!?」
★☆★
「全くキャスター。仕事中に私語をするのはどうかと思うぞ。黙ってろとは言わないが、もう少し声を小さくするなりなあ……」
「うるさいですよ。普段の様子からまるで想像できないくらいの水を得た魚みたいに活き活きとした表情で料理していたコックさんに言われたくありません」
「コックではない。料理長と呼べ」
「もう黙ってろこの茶坊主!!」
お昼時のピークの時間が過ぎた頃、私達は小休止としてテーブルの一つに座って話していました。
そしてこの紅茶、いつの間にか何故だか今日たった一日で厨房の長にまで成り上がっていやがりました。
うわっ!! その得意げそうな顔が凄くムカつく!
というか借金の話はちゃんと覚えているんですよねえ!?
「安心しろ。私が自分の役割を見失うような男に見えるか?」
「むー……まあ、そうですよね。そこの所はキチンとしている人で」
「今はアルバイトだが、いずれはちゃんとした正雇用で給料をもらい、ゆくゆくは安定したせいか……借金を返済し、料理界の頂て……マスターを優勝に導き」
「いやもうブレまくりでしょうが馬鹿弓兵っ!?」
「ズゴァッ!!?」
思わず鏡を取り出し、目の前の赤い馬鹿に全力で叩きつけましたっ!!
何やってんですかこの茶坊主は!?
もう自分の中でサーヴァントと料理人の境界が曖昧になってんじゃないですか!?
「くっ!! 仕方ないだろう!! 君達がいつもハメを外しすぎていてさぁっ!! 俺だってたまには楽になりたいんだよ、幸せになりたいんだよっ!! 正義の味方が幸せになっちゃいけない理由なんて、何処にもないだろうっ!!?」
「何で二回戦始まってすらいないのにいきなり答え得ちゃってんですか錬鉄の英雄っ!? ていうか逆切れ!?」
何かいきなり切れだした馬鹿紅茶にこちらも負けじと突っ込み返します。
暫くすると、流石に互いに疲れてはあっはあっと息切れを起こしてきました。
まあ、そのおかげで少しだけ冷静になりましたけど……
「全く……本当にらしくないですよ。何かあったんですか?」
改めて、目の前の絶賛キャラ崩壊中の紅茶に問いかけます。
まあ、普段私達のやって来た事を考えると、彼にストレスが溜まりまくっているというのは予想は付きますが……
それにしても、いきなり爆発しすぎですよ。
アーチャーの性格から考えても、普段ならただその恨みを嫌味に乗せて吐きまくっている位にしかしないと思いますし。
「ンクッンクッ……ふう。いや、まあその、な……最近、俺ってなんだろうなあ……って、思う事があってな」
「はい?」
目の前のコップに入った水を飲みながら、言いづらそうにそんな事を言ってきました。
何だろうなあって……自分の存在に疑問に思う事があるって事ですか?
全く、何を考えているんだか。
どっかの平行世界で、自分殺しでもするつもりですか?
私に言わせれば、そんな事に思考を裂くなんて無駄の一言に尽きると思いますけどね。
「なんでまたそんな事を考えているんですか?」
「まあ、このステータス欄を改めて確認していたらな……」
そう言ってアーチャーは、ここ最近何か恒例っぽくなってきた、端末を操作してその画面を私に見せてきました。
あ、ちなみにこの端末は、ご主人様が持っているのとは違い、アルバイト用に支給された別物です。
ご主人様の物だと、彼が帰って来た時マイルームに入れませんから。
基本性能は変わらないのですが、待ち受け画面に今現在の稼いだバイト料が表示される仕組みです。
あ、話がそれるところでしたね。
それはともかく……ステータス欄って、アーチャーのですか?
改めて確認と言っても、私達全員全部のステータスがH……いや、紅茶は幸運がJでしたっけ……は、もう承知の事実ですし、そんな事にショックを受けるなんてそれこそ今さら過ぎじゃ……
「いや、見るのはスキルの部分だ」
「はい? スキルって……」
★☆★
■サーヴァント:アーチャー
<スキル>
・ガラクタ王:C
大量のガラクタが自然と身近に集まって、やたら好かれたりするスキル。
具体的には、知り合いの姉にいつの間にか土蔵に大量に運び込まれていたり、積み込まれている場所が近くにあると自分を巻き込む形で崩れてきたりなど。
どこぞのタルソムリエに並ぶ、いわばガラクタソムリエといった所か。
・うっかり:D-
ここぞという所で、大ポカをやらかすスキル。
本来持つはずのないスキルだが、根源に刻まれた赤いアクマとの縁がどんな作用をしたのか否か、何故かその影響を受け所持してしまっている。
具体例を上げれば、アイテムの買い物時に何かやらかすなど。
これは平行世界の彼女からの呪いなのか、それとも……?
・料理人:A++
料理人としての技能を修得していることを表す。
A++ともなると、まず三ツ星は余裕で超えるほどの料理を作ることが出来るほどの実力を持つ。
たとえ摩耗した身でも、この技術だけは失わない、失ってなるものか――――っ
★☆★
「……何これ」
ここまで見た所で私はそれを見るのをやめ、そんな言葉しか出てきませんでした。
まだ続きがあるっぽいですが、これ以上見るのは何か狐耳的に恐ろしさがぴくぴくと感じて無理です。
「……な? 酷いだろう、特に一つ目と二つ目」
「……いや、ちょ……その、えぇー……」
いや、まあ確かに酷いと言えば酷いですが。
三つ目の料理スキルに関しても突っ込み所があるって言うか……何でこれだけ滅茶苦茶高ランク何ですか?
しかも説明の部分に書かれている、失ってなるものか――――って……どんだけ料理に固執してんですか、正義の味方。
もっと残すべきスキルがあるでしょう、千里眼とか。
「……しかもな、キャスター。その一つ目に関する事なんだがな」
「一つ目って……ガラクタ王の事ですか?」
言葉も出無くなった私を見て、アーチャーがテーブルの上に肘をついて手を顎の下で組みながら、そう切り出します。
その姿は、まるで何処かのお偉い社長さんが、今わが社は不況なのだよ……と部下に言いたいような態度です。
「最近、俺はやたらガレキとかの下敷きになってると思わないか?」
「ああ……そう言えば、マイルームの机の残骸とか、一回戦の沈没船とかですね」
あれ、このスキルの影響だったんですね。
たまに気づいたら、いつの間にか下敷きになってるなーとかは思っていましたけど。
「その下敷きになった回数だが……この一週間で何回だと思う?」
「へ? うーん……」
そうですねー……
私が覚えてる回数だと五回位かと思いますけど……
紅茶がここまで落ち込むほどだから、大目に数えて――――
「えーと……7~8回?」
「“17回”だ」
「……うわぁ」
何処かの真祖の姫を殺せるほどの回数に、軽く引きました。
それは、その……えっと、ご愁傷様?
「分かるだろうっ!? サーヴァントとしての役割も果たせず、その上こんなふざけたスキルに振り回され!! しかもこのペースで行くと、最終的には“三ケタ”超えているんだぞっ!? そりゃあ鬱にもなるさ、心はガラスなんだからさあ!! そんな時にやっと活かせれた特技に熱中してもいいだろうっ!?」
「消せばいいじゃないですか。ご主人様のタルスキルみたいに」
「君は馬鹿かっ!? それはあくまで表示の欄から消しただけで、本質的な技能は本人の中に残ったままなんだぞ!! 常に下敷きになり、赤いアクマよろしくうっかりをやらかしまくる!! 俺は一生こんなふざけたスキルと生涯共に共にしなくてはいけないんだあああぁぁぁ―――――――――っ!!
「あー……」
もうコイツ面倒くせえ。
そんな感想が頭に浮かびました。
ていうか、一生って……サーヴァントなんだからあなた一度死んでるでしょう。
あーもう、今のこの茶坊主の相手は疲れます……
まるで酔っ払いを相手にしてるみたいでもう面倒くさ――――
――――“酔っ払い”?
「って、まさかっ!?」
とある予感が頭に浮かび上がり、私は紅茶の飲んでいたコップをバッと強引に奪い取る。
そして中に入っている液体に指をつけ、そのままペロリと。
「って、やっぱりこれ“お酒”じゃないですかぁ――――っ!?」
予想通り、紅茶の中に入っていたのは水なんかではなく、お酒でした。
しかも口に含んだ味から考えると、相当高いアルコール度数の!!
ちょっと、こんな物何処から持ってきて……
「はっはっは」
「って、あなたの仕業かエセマーボー神父――――っ!!!」
何やらかしちゃってくれてんですかっ!?
おかげでうちの紅茶がもう泣き上戸に入っちゃってる所なんですけど!!
「いや、何。仕事をがんばっている君達に、私からのささやかなプレゼントと言った所だ。決して、普段心の奥に隠している負の部分を見れて、楽しめるかもしれないと思った訳ではないぞ」
「思いっきり確信犯でしょうがっ!! ていうかあなた本当に聖職者!?」
「何、安心したまえ。ちゃんとその酒代は、君達の給料から天引きしてある」
「へ――――なぁっ!?」
私は慌てて、すでに腕を組んでテーブルに突っ伏している紅茶の手から端末を奪い取り、ステータス欄を消して待ち受け画面に戻す!
「あ――――っ!!? 私達の稼いだ分が殆ど無くなってます――――っ!?」
さっき確認した時は、4,000ちょいはあった筈なのにっ!?
これじゃあ振り出しに戻っちゃったじゃないですか!?
しかも酔っ払いの追加で最悪だし!!
「はっはっは。ではさらばだ」
「ちょっと待てやコラそこの外道神父――――っ!!!」
私の制止も全く聞き耳持たず、スタコラとその場を去っていく外道。
あの男、散々場を荒らすタネ撒いて自分だけ得して逃げやがった――――!!
あいつ本当に私達に借金返済させるつもりあるんですかっ!?
「くそぉ……俺だってなあ……」
「……あー……」
後に残されたのは、私と完全に酔っぱらっている紅茶のみ。
ていうか、サーヴァントが何で酒で酔うんで――――
あー、そう言えばこの紅茶、風邪引いたんでしたっけ……
「……まあ、いろいろ言いたい事はありますが……」
そうあきれた表情で、私は紅茶に向き直り……
「――――とりあえず、安心はしました。ちゃんと勝ち抜く事は考えているようでしたから」
「……む」
下敷きになる回数が三ケタまで行く。
それは必然的に、この聖杯戦争を最後まで生き残らないと到達できない数字ですから。
自棄酒になっているようで、ちゃんとご主人様を勝たせると言う事は覚えていたみたいですね。
「……まあ、当然だ。昨日の宣言、忘れた訳ではないからな」
そう言ったアーチャーの言葉は、酔っ払いの狂言などではなく、ちゃんと彼自身が心から思っている言葉でした。
自分のやる事が、そこまでちゃんと覚えているなら心配はいらなそうですね。
まあ、ただ彼自身が言ったように、たまには盛大に愚痴りたかったのが、酒の勢いで出ただけなんでしょう。
「全く。さて、とー……残りの仕事、さっさと片付けちゃいましょうか」
「そうだな。だいぶ休憩はした事だし、そろそろ戻るか」
「酔っぱらった状態で、途中でリバースなんかしたりしないで下さいよー」
「あー、ちょっといいかね?」
「む?」
「出たな諸悪の根源!」
そろそろ仕事に戻ろうとした私達を、さっき逃げたはずのエセマーボー神父が急に呼び止めました。
今度は何の用ですか!?
また何かしようものなら、この鏡で頭が高いところから落ちたトマトみたいになるまで殴ってやしましょうか……
「実はこの時間から、君たちの先輩に当たる人物がシフトに入るのでな。この場で紹介しておこうと思ってな」
「……先輩? それってアルバイトのですか?」
「私達より先に入っているとは……? 優秀なマスターならハッキングしてある程度は稼げるし、だとするとそんな技術がないか、私達と同じように借金した奴か?」
そんなセイバーじゃあるまいし、こんな序盤で借金する人なんて普通いないんじゃないんですか?
にしても誰なんでしょうね?
てっきり私達だけかと思っていたんで、ちょっぴり気になってたり。
「……よう」
そんな事を考えていると、私達の前に“全身青タイツ”のいかにも野生といった雰囲気のある変質者があらわ
「ブフォッ!!!??」
「にゃあっ!? きたなぁっ!?」
その男性を見て、いきなりアーチャーがその場で吹き出しました。
ちょっと、いきなりどうしたんですか紅茶!?
「っ……“ランサー”、何でここに……」
「え? 何? お知り合い?」
クラス名を迷いなくいったって事は、紅茶ってこの全身青タイツの変質者と知り合い?
うわー……ひくわー……
「……嬢ちゃんがよ、“宝石買うお金が無くなったから、ちょっとアンタ稼いできなさい”って言って来てよ……」
「ああ、うん。分かった、それだけで状況が分かった。そして君のマスターが誰なのかも速攻で分かった」
何か互いに思う事があったのか、ランサーと呼ばれた方は私がさっきまでいた席に座り、私そっちのけで何か盛り上がっていた。
「しかもよぉ、一定金額以上稼ぐまで帰ってくんなとか言って来てよぉ。そりゃあねえだろ嬢ちゃんよぉ……」
「ああ、大変だったんだなあ。そうだよな、遠坂ってそういうとこ人使い荒いんだよなあ……ほら、君も飲みたまえ。全部愚痴を出した方が気が済むぞ」
「ああ、すまねえな……」
何か傍から見ると、まるで仕事帰りのサラリーマンの飲み会みたいなノリで話してます。
なんか、夫婦仲が倦怠期でうまく行ってなくて、それを相談する部下と上司みたいな感じの。
「ってちょっと待った紅茶ぁっ!? その飲みたまえって出した奴、新しい酒のボトルですよねそれっ!? 何処から取り出し――――」
「はっはっは」
「って、やっぱりあなたですよねえええぇぇぇ―――――っ!!!!!」
「ちなみに先程の倍額だ」
「うにゃああぁぁぁっ!!!?? もう給料がゼロを通り越してマイナスにぃぃぃ――――っ!!!!!」
もうどうすればいいんですかこれっ!?
そしてもの凄く楽しそうですねぇ外道マーボーッ!!!
「仕方ねえから売店のカタログを作ったりして、必死に売り上げを上げたりしてボーナスをもらおうと頑張ったりなぁ……っ」
「ほう、成程売り上げを多くすればボーナスが出るのか。なら私も新メニューを作ったりして……ふふふ、腕が鳴る……」
いやもうボーナスとかで挽回できる額じゃないですから!?
そしてまた新しい酒を飲むなあああぁぁぁ――――――っ!!
「もうやだこいつらああああああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!!!!」
★☆★
「ふう……なかなか有意義な一日であったな、奏者よ」
「そうだね、殆どラノベの読破で終わらなければもっと良かったけどね……」
ていうか、何で図書室にあれだけラノベが置いてあったのか不思議すぎる。
棚の一部どころか5~6棚位完全にびっしり詰め込まれていたんだけど。
一応はここ、学園を再現してるんだよね?
「うむ! 何かそう運営側に申請したら、いつの間にか増えていたぞ!」
やっぱり君の仕業かい。
まあ、休日を過ごすという意味なら、確かに楽しかったけどね。
「しかし、近くのNPCに頼む時に、何か言っていたような……確か、の、のべ、ノーベバー……うむ、忘れた!」
「はいはい、もうマイルームの扉を開けるよ」
横で何か開き直ってるセイバーを軽くあしらいながら、端末を操作して扉のロックを解除する。
そう言えば、結局アーチャー達って戻って来てるのかなー?
そんな事を考えながら、扉を開けて
「うごぉ……苦しっ……」←(残骸の下敷き)
「―――――――――――――――――――――」←(ボロボロで床に突っ伏し)
狐と茶坊主がなんか地獄ってる――――っ!?
「ちょっ!? アーチャーッ! キャスター、大丈夫っ!?」
「な、何があったというのだ!?」
とりあえず僕は近くに倒れているキャスターを抱き起す!
アーチャーはセイバーに任せ、いつものように手慣れた感じで発掘作業をさせる。
「――――あ、ご主人、様?」
「あ、気が付いた!?」
抱き起す衝撃のせいなのか、キャスターが目を覚ました。
何か服とかボロボロだし、なんていうか疲労困倍とした表情をしていた。
「あ、うん。キャスター、何があった――――」
「――――――っ」
「えっ! ちょっ!?」
事情を聴こうとすると、いきなりポロポロと泣きだし僕に抱き着いてぇ――――っ!?
「うわあああぁぁぁんっ!! ご主人様ぁ、もう限界なんですうっ!! タマモは、タマモはあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「いや、本当にどうしたのっ!!? ていうか、何、タ――――?」
「あぁーーーーっ!? キャス狐、お主何先駆けしてっ!?」
「ヘブォッ!!!??」
「ちょ――――っ!? セイバーッ!? どかした机急に離すから真下にいたアーチャーの頭に――――っ!?」
……その後、暫くの間マイルームが荒れるに荒れた事を伝えておこう。
結論から言うと、最終的に休まった気のしない休日となった。
最近バカテスキャラが出て無いなー……