Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス) 作:新月
オリジナル展開だし、執筆の速度が下がって申し訳ないです……
「こ、のぉっ!!」
目の前の黒い槍使いの攻撃を、必死に木刀で防ぎ続ける。
素早さそのものは、ライダーに比べたら大した事は無い……いや、それでも普通の人のレベルからだとかなり高いけど。
けれど、一撃一撃がかなり重く、その度に両手で武器を持ってやっと耐えきれる程の強さだった。
「ふはは!! 流血の愛を知れえっ!」
「別に知りたくないです、よっと!!」
「ぬうっ!?」
振り下ろしの攻撃を木刀を横に持って防ぎ、そのまま力任せに勢いを付けて押し返す。
一瞬だけひるんだその黒い槍使いは、一度後ろに飛んで下がり、体制を立て直していた。
けれど全く疲れた様子が無く、むしろ余裕な表情でこちらを見てきている。
この人、全然本気を出してきてない……むしろ、完全に舐められてる。
ていうか、何でいきなり関係ない僕たちが襲われてるのさ!?
「バーサーカーッ!! 聞こえないのですか、バーサーカーッ!?」
「っラニ!! サーヴァントとまだ連絡が着かないの!?」
僕の後ろの方で、さっきからラニが片手を頭に当てて目をつむりながら、必死に念話で彼女のサーヴァントを呼び出そうとしていた。
けれどその表情は苦々しく、それを見ただけで確認しなくてもうまくいっていないという事が伝わってくる。
「くっ! 駄目です! 物理的に回線が遮断されたように、一向に繋がりません!! 恐らく校内のシステムダウンにより、マイルームとの繋がりが一時的に無くなってしまったのだと思われます!!」
「セラフの介入は!? 校内の戦闘は禁止されていて、すぐに駆けつけてくれるんじゃないの!?」
「それもシステムダウンにより、探知機能が失われていると思われます!! 同様に端末の電源も落とされ、こちらからセラフ側に知らせる事も不可能です!!」
「完全に孤立状態ってこ、うおわぁっ!?」
「内緒話とは、随分余裕であるな!!」
「吉井さんっ!?」
僕達の話を遮るように、またその大きな槍で振り下ろしてくる。
こいつ、さっきから殆ど振り下ろしの攻撃しかしてきてない!
この狭い廊下じゃ、その長い獲物で薙ぎ払いといった攻撃はやりにくいっていうのは分かる……
けど、それでもこいつ、一回も“突き”の攻撃をまだしてこない!
たしか、前にゲームの知識で知った事がある。
槍使いにとって最強の攻撃方法は、薙ぎ払いや振り下ろしとかじゃなく、最速で一番力が込めて繰り出せる突きだって……
それを全く出してこないって事は、完全に遊ばれてるって事だよね!?
「くっ、やあっ!!」
「ぬん!」
こっちが防いだ状態から切り上げの要領で返し、またもさっきと同じように後ろに下がっていく槍使い。
「ハハハッ!! 活きが良いな、実に結構!」
「あんまりうれしくない褒め言葉だね!!」
今向こうは完全に調子に乗って、こっちを舐めきってる。
何かやるなら、今が一番チャンス……!
けど、だからと言って、こっちに何か策がある訳でも無い……というか、相手の情報が全然無さすぎる!!
どうやって戦ったらいいか、その対抗策が全然立てられない!!
今分かってる事は、こいつは力任せの攻撃ばっかりで、素早さはそれほど無いと言う事……
ライダーの時みたいに接近戦での力の競り合いに引き込んでも、勝てるとは思えないから無理。
敏捷では多分、僕の方が高いんだろうけど……この狭い廊下じゃ、その素早さを全然生かせない!
くそ! 完全に手詰まりだ!!
「せめて、黒金の腕輪があったらまだよかったんだけどね……!!」
「この間渡したのはどうしたのですか!? 修理は完璧だったはずです!!」
「ごめん、没収された!」
「あなたは本当に何をしているんですか!?」
「いろいろあって!! そっちこそ腕輪の複製を持ってるんじゃないの!?」
「端末に入れたままだったので、今は取り出せない状態です!! く、こんな事なら普段から付けておけば良かったと悔やまれます……!!」
そう言ってラニは本当に悔しそうに表情を歪める。
くそ、僕も木刀以外は全然使わないから、殆どの物は端末に入れっぱのままだ!
どうせなら、セイバーの買っていた巨大大理石とか出せたら、それを壁にして配置とか出来たのに!!
「うむ。そろそろ止めといこうか?」
「っ!? やばっ!!」
「……っ!! やむを得ません……!」
空気の変わった相手を見て、ラニが何か決心をしたように呟き、僕の方を向いてくる。
「吉井さん! 後一瞬だけ時間を稼いで下さい!! 令呪でサーヴァントを呼び出します!!」
「え、ええ!?」
ラニのその言葉に、僕は多いに驚く。
令呪は聖杯戦争中、たった二回しか使えない重要な切り札。
その手札を、ラニは今ここで使うといったんだ。
「ラニ、それ本気!?」
「ええ、構いません!! 今はこの窮地を抜ける事が最優先です!!」
「そ、そっか、了解!!」
僕はそう返事をし、目の前の敵に向かって構え直す。
僕達のやる事に気づいたのか、目の前の槍使いも目を細め、こっちを睨みつけてくる。
大丈夫……ラニが令呪を使うその一瞬、その一瞬だけ守りきれればいいんだ!
絶対に、防ぎきってみせる!
「令呪を持って告ぐ!! バーサーカーッ!! この場に……」
「むう! させん!」
「守りきる!!」
ラニの詠唱が始まると同時に、槍使いは飛び出し、僕も木刀で防ぐ体制を取ろうと……
「……■■■■■■■■ァァーーーーーーーーッ!!」
直後、声にならない雄叫びが響いた。
「っえ!?」
「ぬうっ!?」
その声に、僕と槍使いは一瞬立ち止まる。
「これは……っ!? まだ私は呼んでいない、これは別のーーーーっ!?」
ラニのその困惑の声の途中、
「ーーーーウァァァァァァッ!!」
開けた窓から、別の白いナニカが入ってきた。
その瞳は狂気に染まり、血のように赤い色をしていて……
普段なら心から美しいと思えそうなその美貌も、そう感じられ無くなってしまう程の殺意を全身から発している!
「何こ、がぁっ!!?」
「吉井さんっ!?」
その白い金髪の女性らしきナニカが、近くにいた僕を片手で振り払うように弾く。
とっさにガードしたにも関わらず、僕はまるでボールのようにバウンドしながら廊下の端まで飛ばされた。
げ、ほ……っ!? 何、こいつ……!? また新しい、別のサーヴァント!?
しかもまるで、僕を近くのハエをたたき落すように……っ!!
こいつ、僕達の筋力を完全に上回ってる!?
やばっ……全身が今ので、悲鳴を上げ始めて……っ!?
「ぬうっ!? 何奴っ!?」
「ハァァァァッ!」
痛む体を無理矢理起こし視線を上げると、先ほど入ってきた白いナニカが、今度は黒い槍使いにその腕を振り下ろしていた。
「な、何ですか……!? このサーヴァント、無差別に私たちを襲って……っ」
「ウアォォッ!」
その白いナニカは今度はラニの方に、振り向き様に手に持っていた何かの物体を、豪速球で投げ飛ばそうとする!
「っ!? コードキャスト・シールド!!」
それに対し、ラニは殆ど反射的に詠唱し、彼女の目の前に半透明の壁が展開された。
けれど、その白いナニカが放った物体は、その壁をパキィンッと甲高い音を上げて壊す!!
「きゃああああっ!!?」
その衝撃を受けきれなかったラニは吹っ飛ばされ、僕の近くまで来て倒れた!
「っラニ!? 大丈夫!?」
「……っ」
っ!? 駄目だ、完全に気絶してる!?
倒れたラニを急いで抱きかかえてみると、頭から血を流し、意識が失っている事が確認できた。
幸い心臓は動いていて、死んでいないのは分かったけど、どう見てもすぐには目覚めそうには無かった……
「なんなんだよ、本当に……っ!!」
僕はその言葉を吐きながら、また今度は黒い槍使いに攻撃対象を移した白いナニカを睨みつける。
その二人は、互いに力任せの攻防を繰り広げ、あたりに甲高い音が何度も鳴り響いていた。
「本当に、いきなり襲ってきて……僕達が何したっていうんだよっ!!」
そう叫びながら、僕はふと、ラニの近くに散らばっている何かの破片が目に入った。
これって……さっき白い奴が、ラニに投げてきた……?
何気なく目に入ってきた、その渋い緑色をした破片の一つには……
ーーーー惚れ惚れするような達筆で“緑茶”と書かれていた
「…………………………………………」
……あれ、なんかこの物体、すっごい見覚えがあるんだけど、ていうか……
「…………………………………………」チラッ
チラリと、今まさに黒い槍使いと戦って暴れている白いナニカの方を見る。
……“その後頭部に、よく見たら小さなタンコブが出来ていた”ーーーー
「…………………………………………っ」
ブワッと。
嫌な汗が自分の全身から吹き出すのが感じられた。
……………………“もしかしなくても、当たった?”
そういえば、さっき湯のみが割れる音が聞こえなかったような、いやけどそんなタイミングよく当たる訳、けど僕確か幸運Eだっけでもいくら人に当たったとしても普通湯のみもわれてるんじゃ、あ、底のシールの部分に簡単には割れないセラフ特注品って書いてあるけど悲鳴の一つくらい上げてもおかしくないんじゃそれすら聞こえてこなかったしああけどそのときぼくラニにたいしておおごえでさけびながらつっこんでたっけそっかならそのひめいがかきけされていてもおかしくないかもしれないかけどこれってぼくのせいになるのかなむしろすてちゃったのらにだしこのばあいかのじょのせきにんになっちゃうんじゃいやけどわざとじゃないとおもうしこれはあやまってすむのかどうかすんでほしいけどどうしたら
「ウァァァァァァッ!!」
「ぐうっ!」
その二体の声に、ハッと正気に戻る。
そうだ、今はこんな事考えている場合じゃない!
あの二体が争っている間に、急いでこの状況から脱出しないと!
「……っ! っう〜〜〜〜……!!」
とにかく一緒にこの場から逃げようと、気絶したラニを持ち上げようとした瞬間、体中に半端じゃない激痛が走る。
頑張れば、無理して持ち上げる事は出来そうだけど……その状態じゃ、素早く動く事は出来ない。
しかもこの狭い廊下で、どこぞの怪獣映画を思わせる二体の怪物同士の争いの中を、通り抜けて逃げ切れるとは思えなかった。
ふと、窓から飛び降りるというアイデアが浮かんできた。が、駄目だ。
召還獣と融合して強くなった僕一人なら、三階から飛び降りる事自体は問題ない……と、思う。
けれど、この激痛の状態……しかも、ラニを抱えたままとなると、着地の衝撃で確実に動けなくなる。
その動けない間に、争っていた二人もこちらに気づいて飛び降りて襲ってくる事は容易に予想がつく。
つまり……“今のままじゃ、ラニと二人では助からない”。
「……っ!! 馬鹿か、僕は……っ!!」
思考がそこに至った瞬間、僕は自分自身に心底ムカついた。
そんな考えが、一瞬にでも浮かんだ自分に。
ああ、確かに一人なら逃げ切れるだろうさ。
けど、そのラニはどうなる?
彼女は、ただ僕を助けようと来てくれただけだ。
その行動に、何かしら彼女なりの考えがあったとしても、特に何かした訳じゃーーーーーーーーーーう、うんまあ、湯呑みの件は置いとくとして……
……それでも、ここで死んでいく理由にはならない。
……分かってる。
ここで助けたって、この聖杯戦争はトーナメント制である以上、いつかは戦う運命にあるって事は。
いつかラニと、本気で殺し合う日が来てしまう可能性はあるって事は。
ーーーーそれでも、認める事は出来ない。
「だって……理不尽すぎるでしょ……っ」
彼女には彼女なりに、この聖杯戦争に参加した理由があるはずだ……流されるままの、僕と違って。
その為に、僕なんかじゃ思い至る事すら出来やしない努力や準備をしてきたに違いなかった。
それなのに……気を失ったまま、何も知らないまま、このまま死んでいくなんて……
「そういうのが、一番嫌いなんだよ……!!」
精一杯努力してるのに、それが報われないなんて事が。
他人の努力を、あざ笑うかのように摘み取っていく事が。
確かに世界には、そんな話は腐る程あるだろう。
僕だって、頑張ろうとして結果に繋がらなかった事なんて、数えきれない程経験はあった。
まあ、普段の生活があれだから当然と言えばそうかもしれないけど。
けれど、これは違う。絶対に認める訳にはいかない。こんな理不尽は、絶対に。
「ああ、やってやるさ……っ!!」
僕はラニをその場にそっと寝かせ、痛む体を無理矢理動かしながら立ち上がって、木刀を構え直す。
この状況から、必ずラニと一緒に切り抜ける。助かってみせる!
ああそうさ、助かるだけでいいんだ。
勝つ事を考えるな!
負ける事を考えるな!
“戦う事を考えるな”っ!
逃げる事を考えろ!
避ける事を考えろ!
“生き残る事を考えろ”っ!!
ああ、何を考えていたんだろう僕は。
そうさ、元々僕はどういう奴だった?
自分より明らかに力の強い奴に、わざわざ真正面から戦いにいってたっけ?
ちがう、僕は基本逃げていた。
召還獣の戦いの時も。Fクラスのみんなから追われる時も。鉄人の補習に追われる時も。
僕はまず、逃げ切る事を考えていた。
目の前の障害から、避ける事を考えていた。
ああそうだ。この状況、僕が一番得意な場面じゃないか!
他人から見たら、逃げ腰の弱虫に見えるだろうね。
けれど、それが僕なんだ。
意地汚く逃げて、それでも生き残ろうとしているのが僕なんだ。
相手から逃げ、攻撃を避け、卑怯な手段で追いつめて……そして、勝ちを掴みにいくのが、僕。
あはは……こうして振り返ってみると、自分の事なのに凄い最低野郎に感じてくるよ。
けどまあ、今はどうでもいいや。どうせ観察処分者なんて不名誉な称号付けられてる身なんだし。
それに備品とか壁とか校舎とか壊しまくってる時点でまあ、自分でもかなりの問題児だなとーーーー
「ーーーーん? か、べ……“校舎”?」
こんな状況なのに自重気味に浮かんだ言葉に、自分で何か引っかかった。
そこから連鎖的に、僕はラニを、三階の廊下を、窓の外に視線を移していく。
そう言えば、ここって確か……?
「クアァァァァ!」
「どぅわぁっ!!」
「っ!?」
とっさに視線を戻すと、黒い槍使いが白いナニカに殴り飛ばされ、反対の廊下の端まで飛ばされていくのが目に入った!
となると、当然次の行動は……
「ウウゥ……ッ!」
その予想を裏付けるように、その白いナニカはこっちにうなり声を上げながら振り返る。
やっぱり、こっちに来るよね!
……けど、僕はさっきまでとは違い、今度は自分でも驚く程落ち着いていた。
これは多分、“策”が出来たからだ。
いつも通りの、逃げるための、卑怯な策が!
「シャッ!」
その白いナニカは、瞬きする時間も無い程の素早さで、こちらに詰め寄ってくる!!
けれど、その動きは予想できてた!
「ぐうっ!!」
勢い良く振り下ろしてきた腕を木刀で防ぐと、当たりに甲高い金属音が鳴り響く!
って、ぶつかってるの“木刀”と“腕”だよねっ!?
何で“金属音”がでるのさ!?
ガシッ!!
「っ!? しま……っ!?」
と、そんな思考をしていたせいで、その白いナニカにそのまま木刀を掴まれてしまった。
「このっ離せ!!」
「ウガアッ!!」
とっさに引こうとしても、その白いナニカは逆に引っ張り、そのせいで完全にビクともしない!
こっちは両手なのに、向こうは片手一本でこれって……っ!?
「ウガアッ!!」
武器を掴まれ、完全に動けなくなった僕に対し、空いてるもう片方の腕で振り下ろそうとしてくる白いナニカ。
やばっ……仕方ない、少し予定変更だけど……っ!!
「はあっ!!」
「グウッ!?」
押して駄目なら、引いてみろ!
僕は引っ張っていた木刀を、逆に勢いよく押し込むように動かす。
すると、予想通り思いもよらない向きに働いた力に、一瞬だけその白いナニカは怯んだ!
けれど、相変わらず木刀自体は握ったまま……それなら!!
「だあらっしゃあああああっ!!!」
僕はそのまま、木刀ごと白いナニカを“開けた窓から放り投げた”
「ウァァァァァァッアァーーーーーーーーッ!!?」
明らかにさっきまでと声質が違う、驚きの悲鳴を上げて落ちていく白いナニカに目を向けず、僕は素早く窓をピシャリッと閉め、鍵を下ろす!!
直後、ドスンと鈍い音が窓越しに聞こえてきた。
よし、完全に追い出した!!
『ウアォォォォォォッ!!!』
が、さすがサーヴァントと言った所か、その白いナニカは三階の高さにも関わらず、その驚異的な跳躍力でまた窓の所まで飛んでくる!!
そしてその尖った爪の腕で、また三階に入ろうと窓にガンガンと殴りつけてくる!
……が、窓は多少の振動はするものの、一向に壊れる気配は無い。
「無駄だよ。この校舎、意外と頑丈らしいから」
校舎とラニで気づいた。
この場所……僕とラニが、予選の時に初めて出会った場所だ。
その時、始めはラニは外にいたんだけど……直後、校舎全体を強大な爆風が襲いかかったんだった。
多分あれ、ラニが爆弾? かなんかをぶつけて実験したんだろうけど……その時、そんな強い衝撃にも関わらず、“校舎どころか窓ガラス一枚割れなかった”事をついさっき思い出した。
多めに見ても、さっきまでの腕の攻撃は、ラニの放った爆風と同等か、もしくは少し強い位の差しか無かったと思う。
さすがに宝具級の攻撃だと分からないけど……少なくても、“ただの通常攻撃でこの校舎が壊される事は無い”と言い切れる。
つまり……完全に、その白いナニカの脅威は無くなった!
『ウァァァァーーーーーッ!!?』
ガンガン殴っていた白いナニカも、重力には逆らえずまた下に落ちていく。
恐らくまた何回か同じ事を繰り返すんだろうけど……とりあえず、これで白い方は一安心だ。
さて……残る問題は、
「ぐう……っ、む? 先ほどの貴婦人はいなくなったのか?」
遠くでやっと立ち上がった黒い槍使い……っ!
こっちの方が厄介だった。
正直、さっきの白いナニカと潰し合ってくれた方が良かったんだけど……
あの白い方は完全に無差別攻撃だったし、もし今度はこっちに狙いを定めた時に、二人して襲いかかってこられた時には、本当に対処のしようが無かった。
だから、そんな賭けに出るより、確実に一人ずつ退場してもらう作戦にしたんだけど……ちょっと失敗したかもしれない。
この後の作戦は、下に落ちた白いナニカが居なくなるまで、ラニを庇いながらここで攻撃を防ぎ続ける。
そして居なくなった後、再度窓を開けてさっきと同じように黒い槍使いも窓から放り投げる。
その後、ラニを連れて何処かの教室に隠れるなりなんなりして、セラフの復旧が済むまでやり過ごす!
……が、作戦だったんだけど……
「うむ、まあいい。これで心置きなく、お前たちの四肢を貫ける!!」
そう……この作戦の前提は、僕が黒い槍使いの攻撃を防ぎ続ける事が出来るという事だった。
けれど、さっきの白いナニカを放り投げる時に、仕方なしに一緒に投げてしまった。
つまり……今の僕には、“攻撃を防ぐ手段が何も無い”。
その状態で、いつ下の白いナニカが居なくなるかも分からない時間の中、ここでラニを守り続けなくてはならなかった。
そのあまりにもハードな状況に、逆に苦笑してきた。
「あーもうっ、本当に腕輪が没収されたのは痛いね……」
この状況から生きて帰れたら、絶対ラニにまたコピーしてもらって譲ってもらおうと固く決意する。
けど、その状況が打破できないからヤバいんだけどね……
くそっ、こっちの打つ手はもう……
……いや、まだある筈だ。
思い出せ、一回戦の最後……決着がついた後の事を。
透明な壁が現れ、慎二達がボロボロに崩れて消えていきそうになっていった時をーーーー
「……っ!!」
まだあの時の事を思い出そうとすると吐き気がする。
この場で胃の中身が全てひっくり返ってしまうような感じだった。
けど、それでも思い出せ。
彼らを助けようとして、我武者らに壁に木刀を、大剣を叩き付け、最後には殴り掛かろうとしてーーーー
「ーーーーっ!!」
気づいたら。
右手の握りこぶしから、あの時の輝きが放っていた。
「で、きた……っ!!」
直感的に分かる。
これが……僕の、僕自身の、新しい力……
あの時、慎二達を助けようとして、役に立たなかった……
けれど、今度は……今度は、ラニを絶対助けるために!!
そう固く決意し、僕は右手を思いっきり引いて構え直す。
「ほうっ!? 右手が光るか!! さぞ美しい……ますます貫かずにはおられぬっ!!」
向こうも何かさらに火がついてしまったようで、槍を一回振り回した後、今度は深く腰を落として構え直す。
あれは……っ! 今度こそ、突きを出してくる!!
あーもう、一番最悪な瞬間に本気を出してきちゃってさぁ!!
多分もう、無傷じゃ済まされない……
確実に体の何処かが貫かれるのが、全身でその予感を感じ取る。
けれど、もうこれしか無い……相打ち覚悟でも、やるしか無いんだ!!
僕はそう決意し、さらに右腕に力を込める。
向こうも確実に打ち取るために、さらに腰を深く、槍を前に出して……
……っ!!
「いざっ!!」
「ハアァーーーーっ!!」
僕と黒い槍使いは同時に前に飛び出す!
互いに必殺の一撃を繰り出そうとーーーー
ズキィッ!!!
「ッ!!?」
力んだ瞬間にまた体に激痛が走り、その一瞬だけ力が抜け、一歩遅れた。
もう既に、目の前まで命を刈り取ろうと近づいて来てーーーー
駄目だ、やられーーーー
「【解放
エーミッタム
!! コードキャスト・delay shock】!!」
「っぬう!!?」
そう死を覚悟した瞬間、相手の動きが一瞬完全に止まった。
「っ!? アアアァァァーーーーーーーーーーっ!!!」
その一瞬の隙を逃さず、全力で拳を相手の鳩尾あたりの所に振るう!!
その漆黒の鎧に当たった瞬間微かな抵抗の後、ひび割れた音が響き渡り、そのまま全力で中身ごと殴りつける!!
「うぎ、ぃっ、オオオオオオォォオォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉっ!!!??」」
一瞬の抵抗の後、その槍使いの体は完全に浮かび、雄叫びを上げながら吹っ飛ばされる!
途中、砕けた鎧の破片が飛んでいる最中に廊下の辺りに音を立てながら飛び散り、槍使いは廊下の端の壁まで飛ばされ、ゴウッとぶつかった衝撃音が響き渡った。
「つ、う……や、やった!?」
確かな手応え。
僕の右手は、相手の鎧の防御すら破り、全力で殴り飛ばす事が出来たとはっきりと感じた。
今の僕の攻撃は、確実にクリーンヒットしたと言い切れる。
「け、けど、今のは……?」
そう、本当なら今の攻撃は通っていなかった。
さっき相手が一瞬止まらなかったなら、逆に僕が死んでいた。
あの場面であの槍使いが躊躇するとは思えない……となると、さっき響いた声の……?
「ーーーー大丈夫ですかッ!? 明久くん!!」
急に聞こえて来た、僕を呼ぶ声。
その発信源の階段の所を見ると、そこにはピンク色の髪をした、見知った女の子……
「ひ、姫路さんっ!!?」
この暗闇の校舎の中、そこに立っていた。
「何でここに!? この時間に校舎に出てたのは、僕達以外にいなかった筈じゃ!?」
「説明は後です!! 今はそっちの黒い方の方を!!」
「ぐ、う……貴様っ!」
姫路さんが指を指した、僕のいる反対側の廊下の奥。
そこで、たった今吹っ飛ばした黒い槍使いが、槍を杖代わりにして立ち上がろうとしていた。
その時に、彼の着ている鎧の前面の部分がポロポロと崩れ落ちていき、もはや鎧の機能を果たせていないことは明白だった。
「むっ? おお、なんと!? まさか貴様までこようとは、桃色の少女よ!!」
「っあなたこそ、ここで何をしてるんですか!? あなたの対戦相手は私です!! 明久君は関係無いはずです!!」
「なッ!!?」
姫路さんのその言葉に、僕は言葉を失う。
あ、あんな気の狂った奴が、姫路さんの対戦相手だって!?
「よもや、この場にこれほどまでの贄が三つもそろうとは!! これも“例の神の啓示”のお力か!!」
「神……?」
「おお、ますます貫かずにはおられぬ、おられぬぞっ!! 貴様ら三人、今この槍で刺し貫きーーーー」
「ーーーーではその前に、その槍をへし折る事としよう」
「っえ!!?」
その声に、先ほどと同じ位驚く。
聞こえたその老人の、しかし力強い声は聞き覚えがあった。
「ダンさん!? 緑の人!?」
「怪我はないか、少年」
「つーか、ようやく旦那の名前覚えたか。けど、俺の方の緑の人ってーのも、止めて欲しいもんだがなあ」
姫路さんの立っているすぐ近くの場所、そこに僕達の対戦相手の二人も立っていた。
「むう、何奴か?」
「何、ただの通りすがりの老人だ」
「そんでもって、その付き添いのハンサムな相方ですよ、っと」
槍使い同様に、僕もその二人の登場に驚いた。
な、なんでこの二人もこんな所に!?
「おじいさん、ありがとうございます。一緒に来てくれて助かりました」
「何、かまわんよお嬢ちゃん。わしもちょうど校舎の異変に気づいた所だったからな」
え!? ちょっ!?
この二人、知り合い!? ていうか、一緒に来たの!?
「つーか、やっぱりさっきの声はアンタだったか。旦那ぁ、だからさっき言ったでしょうが、他の参加者同士で潰し合ってくれるなら、構うこたあ無いって。放っておいたらこのガキが脱落して、楽々二回戦突破だったでしょーに」
「言った筈だアーチャー、彼らとは決戦場で勝敗を付けると。それなのに、こんな形で我らの戦いに横槍を入れようとする輩を放っておける訳が無いだろう」
「へいへい、相変わらす旦那の騎士道精神って奴はご立派っすねえ……」
そう言って、緑の弓兵は大仰に肩をすくめ……
「……ま、なーんかあいつがムカつくってのは、俺も同感っすけどね」
そう言って、はっきりと戦闘の意思を見せ、黒い槍使いの方を向いて構える。
もういつでも戦闘に入っても問題ないといった状態だった。
「つーわけで、もろもろの諸事情でアンタの相手をする事になっちゃった訳だが、どうよ? 正直このまま、帰ってくれる方が俺としては楽なんだけど」
「はっ!! これは異な事を……こんな極上の贄を前にして、貴様ら程度でお預けを食らうと思うか!?」
「あーはいはい。やっぱり無理ですか。っと、それじゃあ、さっさと始めるとしますか」
そう言って、二体のサーヴァントは互いに武器を向け合い……
「ーーーー非常に盛り上がっている所に水を差すようで悪いが、そろそろ時間切れだ」
「「え?」」
「むっ」
「よう」
「ぬうっ!?」
その声が響いた瞬間、暗くなっていた校舎の中に明かりが灯る。
闇の世界から一転、蛍光灯の光で照らされた廊下に、いつの間にか言峰神父が立っていた。
「言峰神父!?」
「ふむ、やれやれ。外部からのシステムダウンの復旧に手こずってしまったため、予想以上に介入が遅くなってしまった」
そうため息をつくように言葉を吐いた後、彼は槍使いの方に向き直る。
「という事で、これ以上の戦闘の続行は即刻処罰の対象とされるが、どうされるか?」
「このまま引き下がれると?」
「一回戦の時から続く違反の数々。次に課される処罰は聖杯戦争の参加権剥奪とされるが、よろしいか?」
「むう……」
一瞬、悩むそぶりを見せた後、
「……承知した。ここは引くとしよう」
そう言って、黒い槍使いは窓から飛び降りて去っていった。
「……ふう、助かっだアッ!?」
そう安堵のため息をつこうとした瞬間、僕は何かに抱きつかれてそのまま倒れ、体に激痛が走る。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」
「良かった……! 本当に、よかった……っ!!」
いだ!?
いだだだだっ!!?
姫路さん、痛い! 痛いよ!?
抱きつかれるのは嬉しいけど、今はちょっと、
「う、う……グスッ……ウウッ……」
泣いていた。
姫路さんは、泣きながら僕に抱きついていた。
その顔を見て、一瞬何も言えなくなって。
「……、ごめん……いや、ありがとう、姫路さん」
ただ一言、お礼だけを言った。
★☆★
「いった〜……体中、あちこち痛むよ……」
「明久君、大丈夫ですか?」
「あー、ごめん、肩まで貸してもらっちゃって……」
あの後しばらくして落ち着いた僕達は、話したい事はいろいろあるだろうが今日の所はひとまず休むとしよう、というダンさんの言葉に僕達は同意し、今はマイルームに戻っている所だった。
ちなみに気絶したラニは言峰神父が保健室まで運んでくれるそうで、ダンさん達は念のためあの槍使いと、二人が来る前に去った白いサーヴァントの方も探しておくと言ってこの場にはいなかった。
それで、怪我だらけで碌に動けない僕は、姫路さんが支えてくれて、一緒にマイルームまで向かっている所だった。
「いえ……それより、本当にいいんですか、保健室に行かなくて?」
「うん。確かに行った方がいいんだろうけど、先に無事ってこと伝えておいた方がいいかなと思って」
僕がラニの所に会いにいってから、かなりの時間が経ってしまっている。
多分みんな心配してるだろうし、早めに会いにいった方がいいだろう。
「くす、そうですね。セイバーさんも心配してるでしょうね」
うん。さっきの停電のとき、マイルームの出入りも出来なかったみたいだし、よけい心配してるだろうし。
一刻も早く会いにいって、安心させないとね。
「っと、やっと着いた……」
そんな話をしているうちに、2-Bの扉の前まで来ていた。
「明久君、私が代わりに開けましょうか?」
「いや、大丈夫だよ。それ位できるから」
そう言って、僕は姫路さんと離れ、マイルームの扉の前に端末をかざす。
そしてプシュッと音を立てて、扉が開かれて
ゴウッとよく分からない彫像が飛んできた。
「って危なごがァアアアァァッ!!?」
「明久クーーーーーーーーーーンッ!!!??」
ものすごくデジャブを感じる光景に、そのまま撃沈。
ああ、疲れと怪我のせいで、今回は完全に油断していたよ……
まさか同じネタを二回、いや三回? も使ってくるなんて。
「うむっ!! ようやく扉が開いたぞってそうしゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」
薄れ行く意識の中、赤いドレスの彼女の叫ぶ姿が目に入る。
「奏者ぁっ!? しっかりするのだ! 何があったのだ、誰にやられたのだ!?」
止めは君のせいです。
そう言おうとした瞬間、僕の意識は完全に途切れてしまったーーーーー
一応言っておきますが、明久の幸運もEで本来の最低ランクです。