Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス)   作:新月

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保健室のデジャブな大騒動

「鉄人!! 補習しーーーーーーーーって、待て!!! 新スキルで壁破って逃げるなっ!!!」

 

 

 

 ★☆★

 

 

 ーーーー吉井明久が、とある事情で“また”GAME OVER表示が出る直前に成りかけ、保健室に運ばれている時。

 

 

「……あーあ、失敗か」

 

 夜の校舎の屋上、とある男がいた。

 その男はフェンスに身を預けるようにして、校舎の下を除きながら独り言を呟いていく。

 

「やっぱ、急な予定変更は無理があったか。まあ当然といえば当然か、思いつきの強引な方法だったし」

 

 そう呟きながら、男は何気なく端末を操作し、ある画面を開く。

 そこには、とあるメールの送信履歴が表示されていた。

 

 

 

 To :ランルーくん

 

 From:全てを見渡す者

 

『光の消えし校舎、貴様の求めし奇跡あり』

 

 

 

「……こーんな中二病の代表みたいな文章で簡単に引っかかってくれるんだから、ちょっと舞台整えるだけで後は楽だと思ったんだけど……全く、想定外な事態おこり過ぎだろ」

 

 実際、今回の作戦はイレギュラーな事態が満載だった。

 この男が立てた策は、黒いランサーを吉井明久に差し向けて倒してもらおうという単純明快な作戦であった。

 予定では、そいつが吉井明久を殺して終了する筈だったのだが……

 途中から白いバーサーカーが乱入、そして姫路瑞希と、吉井明久の対戦者が参戦するという無茶苦茶な状態に陥り、結局時間切れになってしまった。

 

 そう言って端末の電源を切った後、頭をガシガシ掻きながらため息を一つ吐く。

 

「はぁー……セラフの監視システム落とすのに、かなりの魔力を使ったってーのに……ぜーんぶ、無断になっちまった。やっぱ人間、コツコツ綿密な計画を立てて実行していくのが一番ってことか。あ、俺人間じゃねーや」

 

 

 

 あっはっはっはっはっはーーーーーー

 

 

 

「ーーーーま、あのバカ面のガキが、まさかあんな“腕輪”もってるとは気づかなかったからな……」

 

 しばらく高笑いを続けた後、急にそのなりを潜め、その男はそう呟いた。

 

「……っあー! もう、予選の時になーんで泳がそうなんて思っちゃったんだろうなー! あん時に吸収してりゃよかったのに!!」

 

 だが実際、その時の男が“腕輪”の事を知る筈は無かった。

 手持ちにあったデータを照合してみても、吉井明久があの“腕輪の能力”を使った経歴は、一切無かったのだから。

 かなり深いデータベースまで潜り込んで、そこから消去法で予想を立てる事で、やっとその正体にたどり着く事が出来たのだ。

 

 恐らく……いや、”その本質に気づいたなら、誰もがその生涯を引き換えにしても欲しがるような能力に”

 

 

「ったく、何であの能天気馬鹿が、あんな能力持ってんだ? 完全に“宝の持ち腐れ”じゃねーか」

 

 まあいいや。

 そう呟きながら、その男は屋上の出入り口に足を進める。

 

「結果的に、元の状態に戻っただけだ。ならこのまま、元の作戦を進めていくだけだしなー」

 

 

 そう言った男が去った後、屋上はまるで誰もいなかったかのような静けさに戻っていたーーーー

 

 

 

 ★☆★

 

 

 ーーーーそして、しばらくたった保健室では、

 

 

「明久君っ!? 良かった、気がついたんですね!!」

「うう、奏者ぁーっ!! やっと目覚めて余は嬉しいぞぉーっ!!」

「ああー、うん。起きた……起きたから……出来れば、耳元で叫ぶのは止めて欲しい……パート2」

 

 気絶する直前にものすごくデジャブな光景を見た後、これまたデジャブすぎる目覚めを経て、保健室のベットの上で起き上がる僕。

 前回は体全身にダルさが出て来ていたけど、今回は痛み……とりわけ、頭一番がものすごくズキズキして酷い状態だった。

 

 断じて、僕が馬鹿だからという理由では無い。

 

「あはは……それにしても吉井さん、最近よく保健室にきますね。このペースだと、ダントツで保健室利用率トップになりそうです」

「正直取りたくないトップですけどね……」

 

 桜さんの苦笑しながらのその言葉に、半ば真実になりそうな嫌な予感を感じながらも否定する。

 

『申し訳ありません、ご主人様……私がついていたにも関わらず、“とりあえず大きな物体を投げて扉をぶち破ろう”という、野蛮極まりないセイバーの策を止められなかったばっかりに……』

『君も同類だろう、私のスペースから机と椅子の残骸投げてたし。おかげでマイルームはまたボロボロだ……しかしまあ、セイバーに至っては途中から段々ハイテンションになっていって、もはや自分が何を投げていたのか分かっていない状態だったな。あれ、確か一応自分で作ったマスターもどきだったよな?』

『投げたとき、混乱していたとはいえセイバー自身が“何かよく分からん物体”とか口走ってましたけど』

『それ……作った本人ですら認識出来ない、最悪な作品だったって証明してないか?』

 

 部屋のものすごく隅の方では、霊体化したアーチャーとキャスターが何かヒソヒソと話していた。

 恐らくアーチャーが桜さんから離れていたくて、そこにいるんだろうとは容易に想像はつく。

 その会話の所々に、いくつかツッコミたい部分があったんだけど……まあ、止めておこう。疲れてるし。

 

「って、そう言えばラニは? 僕以外にベットを使ってる人はいないみたいだけど」

 

 改めて保健室の中を見渡してみると、ベットを囲うカーテンは全て全開にされていて、誰も寝ていない事が分かった。

 もちろん、立っている人の中に、ラニの姿は見えない。

 

「ラニさんなら、吉井さんが起きるより三時間程前に目覚めて出て行きました。その時にメンタル、フィジカル、ともに調べましたが、どちらもほぼ全快の状態に戻っていて、問題はありませんでした。後、吉井さんに感謝の言葉を代わりに伝えて欲しい、と」

「そっか……良かった」

 

 話が出来なかったのは残念だけど、とりあえず、ラニの無事が確認出来ただけでも良かったとしよう。

 

「ってー……にしても、いきなり襲って来てなんなのさ、あの黒い奴。……確か、姫路さんの対戦相手……何だよね?」

「はい……彼が私の二回戦の相手、ランサー……串刺し公、【ヴラド三世】です」

「って、え!? 真名分かってるの!?」

「はい、マトリクスはバッチリEXまで埋まってますよ」

 

 姫路さん、さっすがー……

 しっかり準備期間に調べ上げて来てたんだね。

 

「ちなみに、かの“ドラキュラ”のモデルとなった人物でもあると書かれていますね……」

「うわー、イメージピッタリ……しかも実際会ってみてら、完全に狂ってるとしか言いようがない奴だったし」

「そんな奴に襲われるとは、災難だったな奏者よ……余がついていなかったばっかりに……」

『まあ、我々がいてもいなくても同じ結果だったと思うがな……』

『うー……耳が痛いですけど、それが事実ですしね……』

 

 うん……はっきり言うと、多分あの状況は僕達いつものメンバーがいたとしても完全に切り抜ける事は出来なかったと思う……

 ラニも気絶していたし、姫路さんが来てくれなかったら本当に……

 

「ってそういえば姫路さん、よくあの状況でコードキャスト当てられたよね? あの黒い奴、結構な早さで動いてたと思うんだけど?」

 

 あの時はそんなに早くないって思ってたけど……よく考えたら、それは強化された僕から見た視点。

 あの黒い奴もサーヴァントだったし、普通の人から見たらそれでもかなりの素早さに感じる筈だ。

 そんな奴に真横からコードキャストを当てるって……いきなり目の前を横切ってきた鳥を捕まえるような事だと思うんだけど……

 こういっちゃ失礼なんだけど……姫路さんって、そんなに運動神経よかったっけ?

 

「あ、いえ。あれは、あの時当てたんじゃなくて、“あらかじめ仕掛けておいたのを発動したんです”」

 

「……え? あらかじめ?」

「む? それはどういう事なのだ?」

 

 姫路さんの言った言葉に、一瞬頭の中が?になった。

 

「えっとですね……まず、あらかじめアリーナの一部の床に、あるコードキャストを待機状態で張っておくんです。すると誰かがその床の上を歩いたら、今度はその人に、仕掛けておいたコードキャストが移ってしまうんです。後は、私が解除コードを発動するだけで、任意にその効果が発動する……という事なんです。例えるなら、相手に静電気を帯電させておいて、私の意思でいつでもそれを放電ーさせ、痺れさせる事ができる状態にする訳ですね」

 

 姫路さんの説明に、僕はなるほど、と感心する。

 コードを発するだけで必ず相手に効果が現れるんなら、わざわざ狙う必要も無かったってことか。

 

「対象に留まらせ、任意に発動可能……口で言うのは簡単ですけど、その術式、結構な応用技術ですね……」

「うん……姫路さん、それも遠坂さんに習った術式なの?」

 

 

 

「え? いえ、“自分で作ったんですけど”……」

 

 

「「「『『作ったぁっ!!?』』」」」

 

「は、はいっ!?」

 

 姫路さんのさらりと言ったその言葉に、彼女以外の全員が驚いた。

 

「ち、ちょ、作ったって!?」

「え、あっ はい!? 言葉通りの、意味ですけど……遠坂さんに習ったいくつかの術式の中に、必ず相手に当てられたらいいのになーって思った奴があったので、その……改造しました」

「改造って……さっきも言ったように、その術式は結構な応用技術です! それなりの日数を掛けないと作れない代物じゃーーーー」

 

 

「あ、“二時間”で出来ました」

 

 

「「「『『二時間ッ!!!??』』」」」

 

「ふぇっ!!?」

 

 続けてさらりといった言葉に、もう驚きどころか驚愕した。

 

「天才だ、天才がおる!!?」

『才能高すぎるってレベルじゃないですよ!? 確かこの間まで素人だったはずですよねえっ!? まだウィザードになって二週間も立ってないんじゃないですか!?』

『お、恐らく、元々素質はあったのだろうな……今まで魔術に触れる機会が無かったから気づかなかっただけで、ウィザードとしての才能はかなりの高レベルなのだろう……まさに、“水を得た魚”と言った所か』

 

 な、なるほど……

 この電脳世界に来て初めて魔術に触れた時に、元々持っていた才能が一気に開花したって訳ね……

 改めて姫路さんが凄い人だって言うのが思い知らされたよ……

 

「そういえば、凛ちゃんに作ったコードキャストを見せた時、何故か小一時間程ほっぺた抓られました……あれは痛かったです」

『そりゃ、まあ……ウィザード初心者の人が、あっさり応用技術を使いこなしてるんですから、妬みはしますよね……』

 

 ほっぺを擦りながらそう呟く姫路さんに向かって、聞こえないけどキャスターがツッコミ。

 確かに、もしこれが雄二とかだったら、僕は三日三晩呪詛を放ち続けていただろう。

 

「ま、まあとにかく、本当にそのコードキャスト凄いよね。あらかじめ仕掛けておかなきゃいけないのはめんどいけど、それさえやったら必ず一瞬だけでも相手の動きを止められるんでしょ?」

 

 ここまでライダーと黒い槍使いを相手をした経験から言うと、本当に勝負は一瞬の隙が命取りになるっていうのが身に染みた。

 任意のタイミングで相手に隙を作れるっていうのは、大きなアドバンテージとなる!!

 

 

「……いえ、それはもう無理です」

 

 ……が、直後姫路さん自身にそれを否定された。

 え? 何で?

 

「さっきも例に出したように、この術は相手に静電気を帯電させているようなものなんです……その時に自分の体を調べたら、簡単にこの術を発見されてしまう。難しいのは待機状態と遠隔操作の部分のみ……解除自体は、簡単に出来てしまうんです。恐らく今回使った事で、向こうもこっちの使って来た策に気づいてしまった筈……つまり、“同じ相手には二度と使えないんです”」

 

「なっ……!?」

 

 つまり……姫路さんは僕を助けるために、自分のアドバンテージを自ら捨てたって事!?

 

「姫路さん、何でそんな事をっ!? そしたら姫路さんが勝つ確率が下がっちゃうんじゃ!?」

 

 僕はつい、そんな言葉を吐いてしまった。

 助けてもらってなんだけど、それで彼女が負ける可能性が高くなってしまったなら、しない方が良かったんじゃ……

 

「後悔は、していません」

 

 ……けど、真っすぐな目ではっきりとそう言って来た時に、僕はもう何も言えなかった。

 

「あの時は、迷わず使ったのが正解だったんです。……少なくても、私にとっては」

「姫路さん……」

「……大丈夫です、まだいくつか策は残ってますし。……それに、今回の事で私も、はっきりと覚悟が出来ましたから……」

 

 最後に、誰にも聞こえないように呟いた声には、何か小さな硬い意思がはっきりと感じられた……

 ……どのみち、この聖杯戦争のルールじゃ、決戦場にいったら誰も手出し出来なくなる。

 今回みたいに学校で襲われるなら別だけど……もう、僕から彼女に出来る事は無いんだろう。

 なら……

 

「……分かった。ありがとう、姫路さん。それと……頑張って」

「はいっ!!」

 

 僕はただ、お礼と、そして応援の言葉を送った。

 

 

「さて、と……それじゃあ、僕達も行かないと。今日が六日目で最終日だし、最後の準備をーーーー」

 

 

 

 

 

「「「『『ーーーーえ?』』」」」

 

 

 

「……いや、え? って、何……?」

 

 

 何故かベットから立ち上がろうとした瞬間、全員に疑問の声を上げられた。

 ……えーと、何で?

 

 

「奏者……そなた、まさか勘違いしておるのか……?」

「いや、勘違いって……何が?」

「……えーっと、ですねー……言いづらいんですけど、実はーーーーー」

 

 

 桜さんが何か言おうとしたとき……

 

 

 廊下の方から、ドドドドドっと音が響いて来た。

 

 

「……って、何? この音?」

『ふむ、何故か嫌な予感が全開なんだが……』

『というか、こっちに近づいて来てません?』

 

 その音が段々大きくなって近づいて来て、ちょうどこの保健室の前まで来たとたん、キキィーッっと急ブレーキを掛けるような音を出す。

 

 ……そして、一瞬の静寂の後、ガラッと扉が開かれーーーー

 

 

 

 

「ーーーー何やってんのよこのハイパァギャラクティカ馬鹿がああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」

 

「危なっ!?』

「いや理不じげごおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおっ!!!??」

 

 

 豪速球で遠坂さんから放たれた何か棒状の物が、とっさに霊体化したセイバーを通り抜けて、僕の額にクリティカルヒット。

 コォオオオオンッ!! と高い音を辺りに響かせながら、その棒状の物は真上にクルクルと上がっていき……

 

 

「〜〜〜〜〜〜っ!!? 一体なぁげぶぉっ!!!??」

 

 痛みで悶絶していた僕の後頭部に、そのままエクストラターン。

 

「お見事! 遠坂選手、十点です!!」

「〜〜〜〜っ!? 〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!?」

『いや桜さん!? これ体操競技とかじゃないから!? と、言ってるっぽいです』

「り、凛ちゃん落ち着いて下さい!?」

「フー……フー……!!」

『ああ、相変わらずの“あばれ凛”だな……』

 

 急な遠坂さんの登場に、保健室は一時混沌の渦となった。

 

「〜〜〜〜って、遠坂さん!? いきなり何してくるのさ!? 僕何もしてない筈だよね!?」

「してるわよ思いっきりっ!! 今投げた物をよくご覧なさい!!」

「今投げた物……って、」

 

 後頭部に当たった後、ベットの横に落ちていた“それ”を拾い上げてみる。

 それは、木製の棒状な物で、思いっきり見覚えのありすぎる、馴染みの品の……

 

 

「これ、“僕の木刀じゃん”!?」

 

「ええ、でしょうねっ!! この戦場の最中で、木刀なんて言うふざけた武器を持ち歩いてるのって、アンタ位よねえ!!?」

 

 そう指をビッと指して来て、遠坂さんは切れ気味に叫びながら言う。

 いや、けど……何で怒ってるのかは、さっぱり分からない。

 

「えっと……これ、どこで見つけたの?」

「決戦場で私の対戦相手が持ってたのよ!! 何か“我が神が持って来た御神木だ”〜とか何とか言っちゃってくれちゃっててね!!」

「対戦相手って……え!? じゃあまさか遠坂さんの対戦相手のサーヴァントって、あの白い怪物の女性!?」

「ええそうよ!! かなり手こずっちゃったし、最後は何かあり得なかったんだけどねっ!!」

 

 あーもうっ!! と、頭の髪をガシガシ掻きながら遠坂さんは続ける。

 

「一昨日の夜に校内で戦闘があったって知って、もう気が気じゃ無かったわよ!! おかげでこっちは戦闘に集中出来なかったじゃない、どーしてくれるのよ!?」

 

 ……あー、これってもしかしなくても、

 

「……なんやかんや言って、やっぱり心配してくれてたんだ」

『うむ、相変わらず見事なツンデレよな』

「黙れ死ねっ!!」

 

 そう叫びながらガンドの嵐を出してくる遠坂さんの攻撃を避けながら、生暖かい目で見つめーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーって、ちょっと待って。“決戦場”? “一昨日”?」

 

 

 

 何か聞き逃せないワードを言ってたような気がして、僕は静止を呼びかける。

 

 

「はあ、はあ……? 何言ってんのよ……」

 

 と、遠坂さんはガンドを撃つのを止め、呆れたような口調で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はもう七日目、決戦日でしょーが」

 

 

 

 

「……………………………………」

「……明久、くん?」

「…………………七日、目?」

「ええ、七日目」

「…………………決戦、日?」

「決戦日」

「………………………………………………………………………………………………………………」

「……?」

 

 

 

 

 

 

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!??」

 

 

 

 直後、僕の大絶叫が校舎中に響いた。

 

 

「〜〜〜〜っ!? ちょ、ちょっと! どうしたの、よし……」

「今日が七日目!? 最終日、寝過ごしたアアアアアアアアアアアアアアッ!!!??」

 

 遠坂さんの言った言葉に、僕は心の底から絶叫した。

 だって、僕何の準備も出来てないよっ!?

 マトリクスだって、結局ラニから教えてもらう事出来なかったから、全然埋まってないし!?

 

『マスター、一先ず落ち着け!』

「お、落ち着いて下さい明久君!? だ、大丈夫です!! 明久君の試合は“明日”ですから」

「アアアアアアァァァァぁーーーーーー…………え? あし、た……?」

「はい、明日です!!」

 

 姫路さんの追加の情報に、完全に頭が真っ白になってしまった。

 え……と……どういう、事?

 

「ほ、ほら! 一回戦の時、結局一日で全試合終わらなくて、二日目に繰り越しになっちゃったじゃないですか! それで、前回比較的早く決戦が終わった私たちは、今回は後の方になっていて、二日目に設定されてるんです!!」

 

 ……え、と……つまり、

 

「……僕達は今日、決戦じゃ無いって事?」

「そうです」

「………………はぁ〜〜〜〜…………」

 

 ……良かった〜……

 本当に、良かったー……

 

「よ、よく分からないけど何、アンタ全然決戦の準備してなかったって事?」

「恥ずかしながら……じゃあ、こうなったら急いでアリーナに行って、情報収集と特訓を!!」

 

「あ、それ無理です。アリーナは今日立ち入り禁止になっていますから」

 

「なしてぇっ!!?」

「そりゃあそうよ、元々の準備期間は本来昨日までだったんだから。二日目の人の自由が許されているのは、校舎の中だけよ」

『まあそうしないと、さすがに時間の格差が広がってしまいますからねー』

 

 ええーっ!?

 それじゃあ、最後の調整が出来ないじゃないか!?

 

「くそう!? こうなったら、図書室に籠って対戦相手の情報収集だけでもーーーー」

 

 

 

 

 

 

「ーーーー失礼します」

 

 

 え? っと、丁寧なノックオンの後に聞こえた声に、僕達は一瞬立ち止まる。

 そしてその後、ガラッと音を立てて扉を開けて、彼女は入って来た。

 

 

「御機嫌よう、吉井さん。体調はもう問題ないのですか?」

「ラニッ!?」

『出たな痴女っ!!』

 

 遠坂さんが入って来たと思ったら、今度はラニまで!?

 

「あれ? ラニ、何であんたまでここにいるのよ。確か、ついさっき決戦場に入っていかなかったっけ? この時間じゃ、まだ戦ってる最中じゃ……」

「愚問ですね、遠坂凛。単純に、戦闘を開始して二分も立たない内に、決着を付けて来ただけです」

「にふ……っ!?」

 

 ラニのその言葉に、僕達は戦慄する。

 ていうか……何で僕の周りの人って、超優秀なウィザードばっか集まってくるんだろう……?

 

「ここに来たのは、吉井さんにいくつか伝え損ねていた事がありましたので、それを言いに戻って来たのです」

「僕に?」

 

 ……もしかして、それを言うために早く決着を付けて来たのかな?

 

「まず……改めて、あの時のお礼を。あなたがいなかったら、私はあのまま聖杯戦争を脱落していました……本当に感謝します」

「あー、いや……お礼なら、そこにいる姫路さんに言ってよ。ラニが気絶した後、姫路さんが助けに来てくれたから、僕達全員助かったから」

「そうなのですか? では、ミス・瑞希にも感謝を」

「いえ、そんな……明久君があそこまで耐えていてくれたからこそ、間に合った訳ですし……」

「いや、けどあの時は……」

「はいはーい、それくらいにしておきなさい。このままだと、あんたら永遠と会話の無限ループを続けそうだし」

 

 と、そんな遠坂さんの鶴の一声により、一旦会話はリセットされた。

 確かに遠坂さんが止めてくれなかったら、ずっと譲り合いを続けていそうだった……

 

「そして、もう一つ。約束していた、ブラックモア卿のサーヴァントの情報を言いに」

『約束って……そういえば元々、奏者はそれを聞きに行ったのであったな?』

「って、そうだ! それ重要!」

 

 結局あの時邪魔が入ったから、ラニから情報もらえてなくて、今まさにヤバいと思っていた所だ。

 これは本当にありがたい!

 

「ありがとうラニ! それで、あの緑茶サーヴァントの情報って?」

「緑茶……? か、どうかはしりませんが……ブラックモア卿のサーヴァントは、“シャーウッドの森”の英雄……【ロビンフッド】です」

「ふんふん、ロビンふーーーーーーーーへっ?」

 

 僕の間抜けな言葉と同時に、持っていた端末がいきなり鳴りだした。

 いそいで画面を確認すると、対戦相手のステータスのマトリクス欄が、一気にEXにーーーーっ!?

 

「えっ!? ちょっ、真名って……ええぇーっ!!?」

『か、簡単にマトリクスが埋まったな……』

「既に一昨日の時点で、ある程度の情報は星から読み取れていました。あとはここにくる前に、図書室によって少し調べれば、真名までたどり着く事は容易でした」

「いや、容易って……わざわざそこまでして……?」

 

 確かにラニ自身も知りたかったと言ってはいたけど……気絶からやっと起きたばっかで、しかも戦って来たばっかで疲れている筈だ。そんな状態で、早く体を休ませたい筈なのに、わざわざ僕の決戦に間に合うように……?

 ラニ、君は本当に僕の事を思ってーーーー

 

 

 

 

「いえ。本当に全然疲れていなかったので。戦闘も速攻で終わらせましたし、占星術で殆ど分かっていたので、調べるというより、確認の作業に近かったですし。ええ、私の占星術は優秀ですから、ええ」

 

 

 

 ーーあ、何か微妙に違うやコレ。

 これ完全に前言った事をまだ根に持ってるよ。

 だってもの凄いマシンガントークでまくしたててくるんだもの。

 無表情でこっちを見つめながらいってくるんだもの。

 

「……何か言いたい事が?」

「いえ何も」

 

 僕は目を逸らしながらそう言いきる。

 何か最近突っ込んだら面倒くさい事になる事があるって、学習して来たから。

 

 

「っと、そう言えばラニ。重ね重ね悪いんだけど、黒金の腕輪の複製って出来る?」

 

 僕はふと思い出した腕輪の事をラニに訪ねる。

 今回の事件で、やっぱり黒金の腕輪のファイアーウォールは必要だと、改めて思い知らされたからだ。

 あれがあるのと無いのでは、これからの戦いの難易度が段違いだ。

 前にデータのコピーを取っていたと言ってたし、またそれからコピーして譲ってもらえないかなって思ったんだけど……

 

「……残念ですが……結論からいいますと、現時点での腕輪の複製は不可能です」

 

 いつものように、眼鏡をクイッと直しながら、ラニは淡々とした表情でそう言って来た。

 

「そっか……そうだよね、さすがにそこまでは甘えられないよね……」

 

 考えてみれば、当たり前だ。

 既にラニには、かなりの世話をしてもらっている。

 今回の襲撃の時の件は、対戦相手の真名を教えてもらった時点で、既にかなりのお返しをもらっているようなものだ。

 これ以上彼女に要求するのは、さすがに虫がよすぎるだろう。

 

「いえ、そういう事ではなく……データのコピーそのものは問題ないのですが……単純に、“コピーしたデータを記録するメディアが無い”のです」

「……メディア?」

「情報の記録、伝達、保管などに用いられる物や装置のことよ。身近な例で言うと、CDとか、USBメモリとか、そんな感じね」

「けど、ただデータを記録する物が必要なら、購買などに行って買ってくれば、すぐ手に入ると思いますけど……?」

「えっ!? そんなお金無いよっ!?」

「ちょっと黙ってもらえますか?」

「すいません」

 

 ゴホンっと軽く咳払いをして、ラニは気を取り直して話を続ける。

 

「つまり、データのコピーは出来ても、それを作動するための専用の装置……この場合、腕輪に当たりますね……が、無いのです。一応、作れば問題は無いのですが、その材料自体が今は切らしてしまっていて……」

「なるほど……逆にいえば、材料さえ手に入れば、すぐに作れるってこと?」

「多少の時間はかかりますが、そんなに手間は掛かりませんね」

 

 そっかー……つまり材料を集めてくればいいって事か。

 

「それじゃあ、僕が取って来て……」

「いえ。材料自体はそれほど入手難易度が高い物は殆どありませんので、私が集めておきます。さすがに、二回戦に渡すのは難しいですが……遅くとも、三回戦中には渡せると思います」

「え? けど、そこまでしてもらうのは……」

「問題ありません。そして、これを……」

 

 そう言って、ラニはスッと自分の端末を取り出して、いくつかカチカチと操作する。

 すると、その直後、僕の端末に何かデータが送信されて来た着信音がなった。

 いそいで画面を確認してみると、そこには何かの礼装のデータが表示されている。

 

「これって……“強化スパイク”?」

「はい。移動力強化専用の礼装です。今回の襲撃のお礼と、腕輪の複製が遅れる詫びとして、それを渡します。あなたなら、使いこなせると思いますし」

「え、ちょっ!? 本当にいいって! 真名を教えてもらっただけでも十分ありがたいのに、ここまでしてもらっちゃ、逆に申し訳が立たないっていうか……」

「いえ。ブラックモア卿のサーヴァントの件は、元々の約束の内で、今回の襲撃の事とは関係ありませんでしたから。むしろこっちと腕輪の件がお礼の品ですね。元々購買で売っているような品ですし、大した物じゃありませんから」

 

 いや、それにしたって、なんか貰い過ぎのような……

 

「ふーん……随分お人好しなのね。サービス精神満載な事ですこと」

「凛ちゃんもいい勝負といった所ですけーーーーいふぁい、いふぁいれすふぃんしゃんっ!?」

「うふふー、どの口がいってんのかしらー、瑞希ちゃーん?」

 

 作り笑いを浮かべながら姫路さんの両頬をグイーッと引っ張る遠坂さんを無視して……

 ラニはふむ、と一瞬考える素振りをした後ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、彼(吉井さん)は、私の初めての(会話をした)人ですから」

 

 

 

 

 

「瑞希ー。確か新しいコードキャスト作ったって言ってたわよねー。ちょっとここで試し打ちしてくれない? そこにちょうどいい的があるから」

「はーい。じゃあ通常の五割り増しの威力で試しますねー。確か五〜六個程試したいのがあったんですよー」

「ねえっ!!? 何で二人とも僕の事縄でグルグル巻きにしてるのかな!? そしてこの後の光景が何故か鮮明に予想がつくのは何でだろう!!? てゆーか誰かたす」

『奏者ぁっ!!? 初めてとはどういう事なのだ!? 余を差し置いてそこの痴女と何があったのだ!!? 教えよ、早く教えるのだ!? さもなくば泣くぞ……余は泣くからなっ!!?』

『全く、ご主人様ったら〜。そういえば、私の今発動出来るスキルに、是非使ってみたいのがありまして〜。ほら、この間の教会行く前に見たあれです。さっそく試しますねー』

「わぁー……ラニさんったら、大胆ですねぇ……なら、センパーイ、私たちも……」

『ーーーーーーーーーー』←(心眼の効果が発動したので、しばらく席を外させてもらう byアーチャー)

「駄目だっ!? 味方が一人もいないっ!!」

 

 

 こうして、いつぞや以上に大騒動に陥った保健室が落ち着いたのは、もうその日の日付が変わる頃だったという…………

 




次回から、二回戦の決戦の予定です。
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