Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス) 作:新月
「はい、ゴキッと」
「イダァッ!!? っ〜〜! マスター……何か、やけに手慣れてる気がするのは、気のせいか……?」
「え? 別に普通でしょ? コレぐらい出来て当然だよ、学生なんだから」
「そんな学生普通いねえ。一体どんな学生生活を送ってたら、肩をスムーズにはめ直す技術が身に付くんだ……?」
「え、うーん…………“月に三桁届く位”の脱臼を繰り返してたら、自然とー」
「よーしマスター、今度互いの過去を話し合おうか。主に怪我の方面で」
脱臼して落ちて来たアーチャーの肩をはめ直しながら、そんな普段通りに近い会話を続けていく。
「とりあえず、これで良しっと。……あ。そうだ、双剣」
無事な方の手で外れた肩の部分を擦っているアーチャーを見て、回復したのを確認してほっとした後、僕は放り投げてしまった双剣の事を思い出す。
周りを見渡してみると、それぞれ多少離れた位置に落ちているのが見えた。
僕はそれを回収しようと取りにいき、手に取ろうとするとーーーーーー真っ赤な液体が、手に付いてーーーーーー
「ーーーーーーッ」
「……マスター」
「……大丈夫。大丈夫、だから……」
震えている手で……けれど、しっかり握ってソレを持つ。
「もう……目を、背けないから」
戦うって決めたから。
約束を守ろうって思ったから。
自分で決めた事、だから。
だから、もう目を背けない。
自分のした事を、全部受け止める、から。
そう心の中で呟きながら、その双剣をアーチャーにハイっと渡す。
「……そうか」
彼はただ、一言。
そう言いながら、返されたソレを受け取った。
その時、皮肉屋な彼の顔に一瞬。
まるで息子の成長を喜ぶ、父親のような表情が浮かんでいた。
そうした後、アーチャーは立ち上がり、僕と一緒に歩いていく。
そう、既に壁の向こうに阻まれた、彼らのもとに……
★☆★
「……我々の負け、か」
「……ああ、そっすね。すまねぇな、ダンナ。……アンタを勝たせてやれなかった」
「いや。十分だ、アーチャー。君は、ワシの期待に応えてくれた。……至らなかったのは、わしの責任だ」
壁を挟んだ向こう側で、ダンさん達が話している。
その姿はどちらもボロボロに崩れていきながらも、どこか清々しさが伺えた。
まるで、付き物が落ちたように……大切な宝物が、手に入ったかのように。
「しかし……最後に、最高の戦いを楽しませてもらった。そうだろう、アーチャー」
「は、違いねえ。……ああ、初めてだったよ、敵と向かい合って戦ったのは。なるほど、こいつは気分がいい。騎士道精神っつーのも、中々馬鹿に出来ねーわ」
「何、もとから君は、わしに取って最高の騎士だった。ソレが分かるのは当然だ」
「よせやい。柄じゃねーって言ってんでしょーが。……だがまあ、悪く無い気分だ」
その様子は、敗北者とはとても思えなくて。
まるで旧来の親友が、杯を持って只会話を楽しんでいるようにも見えて。
……けれど、ノイズに黒く浸食されたその体が、否が応にも現実を見せつけて来て。
彼らが、消えていくのがビリビリと感じた。
「しかし、成長したな少年。こうして改めて見ても、また一回り大きくなった。……まるで、孫の成長を早回しに見ているかのようだ」
「ダンさん……」
「最後に君のような若者と立ち会えたことは幸運だった。実に意義のある戦いだったよ。はは、未来ある若者の礎になるのは、これが初めてだ」
笑いながら話す彼の表情は、彼自身が言ったようにまるで孫を見ているおじいさんを連想させた。
そこに、軍人としての厳かな雰囲気は無い。
彼は僕に対して、親しみを持って話しかけている。
「……最後に、年寄りの戯言を聞いてほしい」
けれど、それまでの笑顔を引っ込めて、真剣な眼差しで僕を見つめて来た。
「以前言ったな、少年。君の目は、ハッキリと意思を感じ……同時に、“矛盾を抱えている目”でもある、と。……君はこの戦いを通して強くなった。だが、その矛盾が完全に無くなった訳ではない」
親が子供に言い聞かせるように。
先生が生徒に注意するように。
彼は僕に対して、忠告をする。
「“迷い”と“覚悟”。相反するその二つの意思が、同時に存在している状態。極めて珍しい例だが……一歩間違えれば、とても危険でもある。小さなコップで、流れ落ちる滝の水を受け止めにいくようなものだ。……それは、謂わば“無謀”だ。受け止め切れない濁流をその身で全て受けようとし、無理を重ね続け……やがてその勢いに耐え切れず……器は、歪んでしまう」
「無謀に、歪み……」
「………………」
後ろに立って静かに見届けていたアーチャーも、僕と同じようにその言葉を深く噛み締めているのが分かった。
彼は、もしかしたらダンさんの言ったような経験をして来たのかもしれない……何となく、そう思った。
「君は、全てを糧に進む事を、覚悟を知っている。だが、君自身の心がそれを受け止めきれるには、まだ早いようだ。……何か、譲れないものは見つかったかね?」
……彼のその問いかけに、僕は目線を逸らさず。
「……約束なら、あります」
友達との……みんなとの、約束。
一緒に勉強しようとか、一緒に帰ろうとか。
そんなありきたりのような……けれど、とても大切な約束が。
「……そうか。なら、わしの心配は杞憂だったようだ」
そこでフッと笑い、また親しみ深い雰囲気に戻った。
「それがあるなら、君の矛盾も自然と無くなっていこう。……いや、違うか。君ならば、むしろその矛盾を抱えたまま、そのまま前に進んでいきそうだ。それでは意味の無い事のように見えるが……君なら何故か、それでも元気で歩いていくように思えるのだ」
「え……?」
ダンさんの言っている事が、すこし分からなかった。
えっと……それはつまり、弱さを持ったままでも前に進んでいきそうって事?
「……なるほど。自分の弱さを塞ぎ、強者となってから前に進んでいくのと。弱さを持ちながら、それでも前に進んでいこうとすること。……どっちが、本当に強いと言えるのか。そう言う事だろう?」
「ああ、概ねそうだな。少年なら、それを分かった上で前に進んでいけるだろう……」
さて、と彼は顔を上げる。
その体は殆ど既に崩壊していて、もう表情も判別しづらくなっていた。
「……そろそろ、別れのときが来たようだ。済まなかったな、アーチャー。わしのわがままにつき合ってもらって」
「なあに、謝る必要なんかねえよ。俺は十分楽しませてもらったからさ。……最期に、どうしても手に入らなかったものを、掴ませてもらったからさ……」
「……そうか。なら、わしにももう、心残りは無い。……ああ、長かった。だが、ようやく……会えそうだ………………アン、ヌ…………――――」
……最後にそう呟き、老兵は消えていく。
その存在は消され、けれど僕達の記憶に刻まれて。
「……ありがとう、ございます」
僕にとって、前に進む為のものを教えてくれた先生のような人に。
教師に心から感謝したのって、もしかしてこれが初めてかも……と、そう心の中で苦笑しながら。
僕は消えた彼に、お礼の言葉を言った。
「……ああ、本当に楽しかったぜ。オタク等とやり合ったの」
ダンさんが消えた後、緑茶が僕達の方に向いてそう言ってくる。
彼の体も、もう長くは無い事は明白だった。
「ああ、ありゃあ俺の生前含め、最高の戦いだったぜ。なんせいろいろ初めての経験だったからな、俺に取っては」
「最高の戦いって……いや、あの。正直、殆ど騙し討ちとハッタリで戦ってたから、何か申し訳ないって言うか……」
「……そうだな。私も、本当の意味で君たちと戦えたとは思えない。結局こっちは、マスター頼みだったしな……」
ダンさんとも話しててずっと思ってた事だったけど……彼らは殊更最高の戦いとか言ってくるけど、正直申し訳なさで一杯だ。
ハッキリ言って、僕達の戦い方の方こそ、騎士道精神からかけ離れていたような……
「はあ? 何いっちゃってんのオタク等は?」
ヤレヤレ……と、不出来な弟を呆れる兄のような感じで僕達を方を見て来た。
「あのな、これは聖杯戦争。サーヴァントとマスターが一緒になって戦う場所なんだよ。一対一じゃない、二対二なんだよ始めから。いやまあオタク等は四人いるけど……とにかく、一人で戦う場所じゃねーんだ」
だからよ……と、
「俺は小僧一人しか戦えないと侮っていた。……ああ、あの時確かにアンタ等は二人で戦ってたんだよ。それを分かっていなかった俺の負けだった……誇れよ、アンタ等は本当に強い。戦った俺が保証する」
「緑茶……」
「だからその緑茶をやめろってーの」
たくっ……と言いながら、気恥ずかしそうに視線をそらす。
緑茶は負けと自分で言いながらも、その表情は穏やかそのものだった。
まるで子供がめいいっぱい遊んだ後のように。
「しかしまあ、本当にいろいろ驚かされたぜ。建物倒したのは言わずもがな、紅い野郎が拳銃使ってくるやら、剣がブーメランみたく襲ってくるやらで、もう驚かなかった時間の方が少ないんじゃねーのって思うくらいだぜ」
「そりゃあもう、アーチャーと一緒に作戦立てまくったからね」
「ああ。いかに君たちの裏を掛けまくれるか……それが我々に残された唯一の道だったからな」
緑茶の惜しみないその賞賛に、僕達は少し得意げになる。
自分たちの力が通じて、なおかつそれが相手に認められるというのは凄く気分がいい。
「とくに驚いたのは、あれだな。小僧が最後に止めを刺してくる時だな。分裂したのも凄かったが、一番感心したのは砂煙の時だったな。まさか自分すら囮にするとはなー。一回目の砂煙で咳き込んだのは、二回目の時の奇襲の為の仕込みだったとは思いもよらなかっーーーー」
「え? いやあれ本気(マジ)だったんだけど」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーは?」
「いやー。あの時冗談抜きで砂煙吸い込んじゃってさー、一回目と二回目どっちも。本当は最後の奇襲のときも、アーチャーが上からコピーを落とすだけで、自分がダメージを受ける予定なんて無かったんだよねー」
「あの時は本気でヒヤッとしたぞ……あ、マスター終わった。と思ったくらいだったんだからな……」
「建物倒した後も、あれだけ砂埃が舞うとは思わなくて、碌に戦える状態じゃ無くなーーーーーーーーって、何で凄く深いため息吐いてるの? 何この世で最低の馬鹿を見るような目でコッチを見てるのッ!?」
さっきまで褒めていたときの表情はどこいったの!?
まるでテンション完全にがた落ちになってるけど!?
「……前言撤回。お前等やっぱ全然駄目だわ。全く強者じゃねえ、俺が保証する」
「何その360°反転した態度ッ!? 移り身早く無い!?」
「マスター。それだと一周して元に戻っているのだが」
「そーゆーとこが駄目なんだよ……」
そして緑茶はうつむいた姿勢のまま呟きだす……
「大体何? 建物ごと壊すってどういう神経してんの? 遠距離で爆弾とか使うならともかく、パンチ? パンチって? 超至近距離じゃねえか。何、自分が巻き添え食らうなんて事考えてなかったの? つまり馬鹿? 馬鹿なのオタク等? そもそも砂煙で咳き込んで対戦相手にタイムとかあり得ねーだろ。何、死にたいの? 死にたいのオタク等? 死にたかったの? アーダメだ、まるで生きてる奴の思考じゃねーもん、死んでんもん脳細胞が。それにあの弾丸なに? あめ玉? あめ玉が落ちて来たの? 空から雨って降って来たっけって思う位いたくなかったんだけど、てゆーか逆に肩とかに当たってマッサージ? マッサージ相手にしてんのって位だったんだけど? 何、ヤル気ある? ヤル気あったのオタク等? 無いよね? 明らかに無かったよね? そうとしか思えなかったもんアンタ等の弱さ? 正直なんで俺負けてんの? ちげーだろ負けてねーだろ絶対敗北じゃねーよ判定がちだよどーかんがえても。オタク等聖杯戦争マジ舐めてるし。しかもツッコミどころ満載だし。もう漫才師でも目指した方がいいんじゃねーの? 多分優勝するよ? オタク等なら絶対優勝するよ? 俺が保証するよ? 騎士道精神に掛けて」
「いやものっそいマシンガントークで駄目だし何だけどッ!? さっきまで褒めてた点片っ端から駄目だししてるんだけどッ!!?」
「そのー、なんだ……ストレスは、溜めるのは良く無い、ぞ?」
全身から負のオーラが吹き出してるのが見えるし!?
崩壊しかけの体と相まって、その怖さは半端ない。
しかも何か、ものっそい大事な事も、どーでもいい事に掛けられたし……
そこまでストレス感じてたって事……?
その原因が主に僕達だとすると……何か、ゴメン……
「大体、紅い野郎が使ってた二丁拳銃だって、多分テメーの持ち物じゃねーんだろ」
「えっ?」
「む? 気づいていたのか?」
「戦闘中は分からなかったがな。こうして改めて近づいてみると、どう見てもアンタはあの銃の専門家って感じじゃねーんだよ。テメーも誰かからの借り物を使ってたって感じなんだよ、戦闘時の事を振り返ってみるとな」
そんな事も分かったの?
つくづくサーヴァントって、本当に凄い存在なんだなあって改めて思う……
「よく気づいたな? ……ああ、確かにコレは借り物だ。正確には、マスターが借りた物を、さらに私が借りていたっと言った所だが」
「うん。これは、一回戦。……ライダーに、戦った後に渡してくれた物だったんだ」
「……はっ。やっぱそうかよ、これで納得がいった」
まるで予想通りだと言わんばかりのその声に、僕とアーチャーは疑問の声を上げた。
「納得って……どういう事さ?」
「単純な話、その二丁拳銃も只の代物じゃ無いって事は、一目見て分かってたからな。どう見ても、サーヴァントレベルの奴しか持ってないような性能。紅い野郎の持ち物じゃないってことは確定として、金髪の赤いのと、ピンクの狐の武器もソレじゃなかった。となると、他のサーヴァントから貰ったってしか思えなかったんだよ」
なるほど……
「ま、どーみてもど素人のアンタ等にゃ、過ぎた代物だ。見た所全然使いこなせてねーし」
「うっ……」
……そうだ、緑茶の言う通りだ。
僕達は彼女から託されたコレを、全然使いこなせていない。
これじゃあ、彼女との約束を果たせていない……
「その様じゃ、次の三回戦あたりで負けそーだな……だからよお、」
そう言って、緑茶は僕達の方を改めて向き直り……
「ーーーーコイツも、持っていけや」
……そう言って、崩壊しかけた彼の右腕が光り。
それが収まると……そこに、は彼の使っていた弓が、元の形で存在していた。
これは……ライダーの時と同じ……?
「え……?」
「ホラ、ここ置いておくぜ」
そう言って、彼は透明な壁ギリギリに、僕達の目の前の地面にそれを置く。
それが当然の行動だと言うように。
「意外だな……今の話の流れで、そんな行動するのか?」
「はあ? だからこそだよ、だってアンタ等全然駄目だし。力持ってねーもん。このままじゃすぐ負けそーだし」
だからよ……と、
「俺の力を貸してやるんだ。そう簡単にくたばんじゃねーぞ」
そう言った彼は、ニッと笑っていた。
「え、けど……使いこなせないって……」
「だろうなー。まあそれは予想しきってる事だし、それでも無いよりはマシじゃねーの? 俺と旦那に勝ったんだ、簡単に死なれちゃ困る。……それに、さっきの戦い。それが楽しかった事は本当だしな、そのお礼だ」
「緑茶……」
「ま、使えるかどーかは知らねーけど。特にそこの紅い野郎に、俺の武器を使えるとは到底思えねーし」
「ほう、言ったな……? ならその軽口、叩けなくなる程酷使するとしよう、その力を」
「は、言ってろ皮肉屋。せいぜいその腕ちぎれる程練習して、ずっとその弓に振り回されてろや」
さて……そう言って、緑茶はボロボロの体で向き直る。
「……ともあれ、アンタ等が最後の相手で良かった。アンタ等や、旦那がいなかったら……どうしても手に入らなかった物が、掴めなかった。……だから、サンキューなーーーー」
……そう最後にお礼を言って、緑の弓兵……いや、騎士は去っていった。
大切な物を、確かに掴んだ事に笑顔を浮かべながら。
取り払われた壁の向こうに残されたのは、彼の残した僕達への“贈り物”ーーーーーー
★☆★
「奏者ーッ!! 大勝利だったな、余は信じておったぞ!!」
「やっぱりご主人様は最強です! まあ、今回私達は寝たきりだったのが申し訳ないですけど……」
「ちょっ、抱きつくのは嬉しいけど、傷に響くからっ」
帰りのエレベーター内で、セイバーとキャスターが惜しみない賞賛と共に抱きついてくる。
もう二人とも、毒の影響は完全に無くなって、元気に動けるようになっていた。
抱きつくのは凄く嬉しいんだけど、右腕の矢が刺さった傷が痛いため、とりあえず離れてもらう。
うー……怪我が無かったら、喜んで受けれるんだけどなあ……
「しかし、君の木刀が無事に見つかってよかったな。比較的我々のいた場所から近くに埋まっていたのは幸いだった」
「緑茶の宝具の木の枝も飛び散らかっていて、探すの大変が大変だったがな。紛らわしかったぞ……」
「全く。あの緑、負けてなお私達の邪魔をするとか、性格悪すぎです! そのねじれ曲がった精神、最後まで歪みねー」
「ねじれ曲がってるのに歪み無いって、矛盾してないそれ?」
あはは、と僕達の普段通りの会話が続く。
日常の一コマを、心の底から楽しむように。
「けど。やっぱなんやかんやで、この木刀が一番馴染むんだよねー。使いやすいし、それに軽いし……いろんな、意味で……」
回収した自分の木刀を軽く振りながら、そんな事を呟く。
その手に掛かる負荷は、アーチャーから借りた剣より、遥かに軽く感じ……
「……二回戦、終わったな」
「……うん」
アーチャーのその言葉に、僕は静かに答える。
多少自分の顔が俯いているのは自覚があった。
「……大丈夫ですか、ご主人様」
腕の傷……の、事じゃない。
キャスターの聞いているのは、心の方の事だとはすぐに分かった。
「……大丈夫。慣れた訳、じゃないけど…………うん、大丈夫」
一回戦が終わった直後とは違い、今回は比較的心が静かだった。
人の命を奪ったその重み……決して、軽いものじゃないけど。
ダンさん達との戦いで、学んだから……
約束を果たす事。そしてその為に、甘える事なんて許されない事も……
「……だからさ、基本はやっぱこの木刀でいくけど、場合によってはみんなの武器もまた借りる事になるかもしれないけど……いい?」
「奏者……うむ! もちろんだ、思う存分余の剣を使うがよい!!」
「まあ、私もこれからも双剣を貸していく事に、異論は無い」
「もちろんですご主人様!! 私の鏡も盛大に使ってくだ」
「「いや、それは無理だろう」」
「何でですかあッ!?」
「あはは……」
二人からの息のあったツッコミに、キャスターは驚きの声を上げる。
ソレに対して、僕は苦笑するしか無い。
「いや、だって。キャスターの鏡って、何かよく分からん力で浮かんでおろう? 確か老術とかなんとか……」
「妖術ですよ妖術!! 何ですかその年取りそうな術!?」
「まあそれはともかく、そんな物をマスターが操れる訳無いんじゃないか? 物理的に持ったりするならともかく」
アーチャーの言う通り、キャスターの鏡は彼女の力で操って浮かんでいる。
ぶっちゃけウィザード歴二週間ちょいの僕には、どんな感じで動かしているのか想像も出来ないし、その妖術ってやつも多分使いこなせる自信も無いし……
持った状態で戦うと言っても、取っ手とか付いてないから、仮に盾にするとしても、両手持ちじゃないと無理そうだし……ぶっちゃけ邪魔にしかならないと思う……
「大丈夫です! この鏡を操るのは、妖術だけじゃないんです!! 他にも三つあって、その他は既にご主人様は持っています!」
「ふむ、それは?」
それは……と、キャスターは溜めるにためて……
「“愛”と“恋”と“LOVE”です!!」
「バカだろお前」
ていうか、一つしか無いし。
何処かに飛んでいけそうな三大法則っぽい言葉に、アーチャー達はため息を付く。
その様子に何おうッ!? とキャスターはすかさず反論。
「バカって何ですかバカって!? 本当なんですよこれ! ご主人様の私に注ぐ愛が、この鏡を動かせるんです!!」
「そんなんで動かせたら人生誰も苦労はしない。というか、違いが全く分からないというか、結局一つではないかそれ」
「くッ!! さすがドンファン元エロゲ主人公……まるで恋愛の“れ”の字さえ理解していないご様子! 銀河の果てまでぶっ飛ばすぞ☆」
「そうだぞ紅茶!! 愛の力とは偉大なのだぞ!!」
「知らないが。というか何故そっちに付いてるセイバー」
「ふーんだ! 茶坊主には一生分からないですよーだ!!」
そうアーチャーに言った後、キャスターは僕の方を向き直る。
「ねえー。ご主人様なら問題ないですよね。一回戦はセイバーの大剣、二回戦はアーチャーの双剣。なら次の三回戦は、当然私の鏡を使ってくれますよね? ね?」
「う、うーん……」
そう言われても……
「しょ、正直……あまり使う機会は無いかな〜って……」
「ガァーンっ!!」
……僕の言葉にキャスターは擬音を声に出す程ショックを受けて、床に鏡を置いてその上でのの字を書き始めていた。
あー、いや、その……何か、ゴメン……
と、言っているうちに、エレベーターがガゴンッと揺れた。
「っと、着いた?」
「らしいな、ホラキャスター。そこでいじけてないで、さっさと降りたまえ」
★☆★
「グスッ……グスッ…………」
「その……本当にゴメン……」
本格的に泣き始めたキャスターを見て、申し訳なさで一杯状態になりながら僕達は保健室に向かっていた。
僕の右腕の傷を、桜さんに治してもらう為だ。
「グスッ……いいんです……どうせ私はピーキーキャラですし。心まで紙装甲ですし。マスターの役に立って無いし……」
「うむぅ……思ったより重傷だな、これは」
普段のハッチャケぶりは何処にいったのかって位、目に見えて落ち込んでいた。
何か時間が立てば立つ程、さらに沈んでいっているような気がする……
「全くキャスター、いつまでそうしているんだ。正直近くでどんよりした雰囲気出され続けるのは周りにとっても迷惑なのだが」
「そうだぞキャスター。ほれ、いつもの破天荒ぶりはどうしたというのだ」
「いいですよね、ちゃんとした活躍があった人たちって。自分の武器をご主人様に使えてもらって……特にアーチャー、今回大活躍だったそうじゃないですか。茶坊主のくせに抜け駆けするなんて」
「別に言う程活躍した訳じゃない。あの状況で自分に出来る事を全てやり切ろうとしただけだ」
「うっわーその言葉がムカつくわー、もう何もかも上から目線にしか感じませんわー」
「はいはい、ほらもう保健室だよ」
とりあえず扉の前まで来た時点で、後ろの不毛な争いを一旦止める。
今度の三回戦の時、何処かでキャスターの鏡を使う機会を何とか作らないとなー……
そう思いながら、保健室の扉をガラガラと開ける。
「あ! 吉井さんお帰りなさい。二回戦、無事突破出来たんですね!」
扉を開けて真っ先に視界に入ったのは、慌ただしく動いている桜さんだった。
その表情は、何か少し困り気味?
「はい。それで、僕の腕の怪我を看てもらおうと思ったんですけど……」
「むう……どうしたというのだ桜よ? 何処か慌ただしいが?」
「私達が出て行った後、何かあったんですか?」
僕達の疑問に、いえ、その〜、と困り気味の表情のまま、こっちに体を向けてきた。
「実は……何故か来なくて……」
「来ないって?」
「今日来る予定の、保健室でのマスター治療用のアイテム一式が何故か届かなくて……」
ーーーーーーアーチャー、それって?
ーーーーーーん? ああ、対ロビンフッド用のアイテムを……
「アーチャーあああああッ!!? あれアーチャー何処行ったッ!!!??」
「ぬうッ!!? いつの間にかあやつの気配が消えておる!?」
「探せええええええええええッ!!! あのバカドンファンを探せええええええええええッ!!!」
……その後マイルームの掃除用具箱に隠れていたアーチャーを見つけるのは、二時間後だったという……
★☆★
【アイテムを入手しました】
・アーチャーの弓
ロビンフッドの持つ、イチイの木から作られた弓。
片手に装着する事が出来、そのまま両手を使わずに矢を射出する事が可能で、ボーガンに近い構造をしている。
魔力によって弓は自動装填され、込める量を多くするとイチイの毒を含んだ矢も射出も可能。
大切な物を手に入れて、そのお礼に彼が貸した物。
――――俺の力を貸してやるんだ。そう簡単にくたばんじゃねーぞ
次回はアルバイター・ランサーの後輩指導。お楽しみに。