Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス)   作:新月

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最近更新ペースが遅くなってる……


ありすとアリス

「ふー……出来た出来たっと」

 

 家庭科室でおいしいクッキーを作った後、僕は三階の廊下を歩いていた。

 さすがに慣れないお菓子作りで少し失敗したりもしたけど、おおむね満足な出来映えだと思う。

 

「けど、ちょっと予想より少なくなっちゃったか……」

 

「………………」ジー

 

 今手に持っているクッキーの袋を見ながら、うーん……と、唸る。

 途中で何回か失敗したせいでいくらか生地を無駄にしちゃって、あまり多くの量を作る事は出来なかった。

(もちろん失敗した部分は先ほどスタッフがおいしく頂きました、おかげで久々にお腹いっぱいです)

 

「よくて2、3人分って所かな、この量だと……」

 

「……………………」ジー

 

 こんな事なら、もう少しお菓子作りの練習をしておけば良かったと悔やまれる。

 まあ、もともと家事含め、姉さんとかに無理矢理やらされてた状態だから練習も何も無いか……

 けどせっかく作ったのに、これじゃあ到底世話になった人とか全員に配る事は出来そうに無い。

 

「まあ、仕方ないか……今回は全員は諦めて、セイバー達に上げよう。こっちに来てから一番一緒にいるし」

 

「…………………………」ジー

 

 材料をくれた遠坂さんには悪いけど、今度別の品を作ってお返しする事にしよう。

 その時に、今度は姫路さんとかラニにも渡せればいいなあ……

 

「けどまあ、久しぶりのお菓子作りは楽しかったし、また今度作ってみようかな。今度はショートケーキとかいいかも……」

 

「………………………………」ジー

 

「………………」

 

「………………………………………………………………」ジー

 

 

 

 

 …………うん、もういい加減いいよね。

 

 

「……えーと…………どうしたの、かな?」

 

「あっ、バレちゃった」

 

 

 後ろを振り返ると、小さな女の子が驚いた表情になって立っていた。

 その様子は、まるでイタズラがバレた時の子供のようだ。いや、ようだじゃなくて、実際そう?

 いつの間にか僕の後ろを付いて来てたのは分かってたんだけど、向こうから話しかけてくるのかなーって。

 そう思ってずっとこうして待っていたんだけど、何時まで経っても話しかけてこなかったから、自分から話しかける事に切り替えた。

 

「っと……さっきから僕の後ろを付いて来てたけど、どうしたの?」

 

 僕はその場でヨイショッとしゃがみ込み、その子の視線と同じ高さになるようにして、改めて話しかける。

 小さい子に話しかける時は、こうした方が向こうに取って親しみやすくなるって事が分かってるからね、葉月ちゃんとかの会話の経験上。

 ハイそこ、ロリコンとか言わない。

 

 っとそれより、改めてその女の子の容姿を見てみる。

 白い子供用のドレスを着ていて、純真無垢そうな表情をしている。

 そしてその手には、古ぼけた何かの本を持っている。

 まるで童話の中の少女が、本の中から現実に飛び出して来たような印象の子だった。

 

「えっ、と…………」

「うん?」

 

 しばらくすると、その子は何かを言おうとして……

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんは————————“先生”なの?」

 

 

「————————はい?」

 

 

 と、何かよく分からない事を聞いて来た。

 ……え、ホントに何?

 

「先生って……あの、教える人の先生?」

「うん! いっぱいいっぱい、お話ししてくれた人!」

「えー……いや、その。僕は違うし、むしろ教えてもらう側っていうか……」

 

 というか、何で僕に対して先生?

 まるで関連性が分からないんだけど……それに僕、誰かに何かを教えられる程頭言い訳じゃないし。

 

 ……いや、一般常識ならいける……? 

 文月学園だと、周りが常識欠落しているようなメンツばっかりだったし……

 主に人の不幸を願う元神童とか、姉さんとか、何故か暴力してくる赤いツインテとか、姉さんとか、化学薬品を料理に入れるふわふわピンクとか、姉さんとか、ムッツリとか、姉さんとか、FFF団とか、姉さんとか姉さんとか姉さんとか————————

 

 …………おかしい、何故この題目で連想されまくるのが身内なのだろう。

 

 

「そうなの……? お兄ちゃん、違うの……?」

「あー……うん。僕は先生じゃないよ」

「そう…………じゃあ、お兄ちゃんは……誰?」

 

 僕が先生でない事に少しガッカリした様子で、その表情で今度は僕自身の事を聞いて来た。

 むう、誰って言われても……そういえば、予選の時も似たような質問されたっけ?

 確かそのときの返事は……

 

「うん、僕は吉井明久って言うんだ」

 

 まあ、こう言うしか無いよね。

 他に何言ったらいいのか分からないし。

 

「よしー……あきひ、さ?」

「うん。そう言えば、君の名前は何て言うの?」

「あたし? あたしは【ありす】って言うの」

「ありす? それが君の名前?」

「うん!」

 

 へえー、ありすって言うんだ。

 そういえば、昔読んだ絵本の中にそんな名前の少女が出て来たような……確かタイトルは、“不思議の国のアリス”だっけ?

 なるほど、確かに目の前の少女にはピッタリだと思う。

 ますますお伽話の住人のような印象になってくる。

 

「ところで、僕に話しかけて来たのって、僕が先生だと思ったから?」

「うん。“かくれんぼ”をしている最中に、先生にそっくりなお兄ちゃんを見かけちゃったから、お話ししようと思って」

「ん……? かくれんぼって……誰かと遊んでたの?」

 

 そういえばよく考えてみると、いくら休日とは言え、こんな小さな子が一人で出歩いているのは少しおかしい。

 周りに他の人もいないし…………あ、もしかしてサーヴァントが霊体化して付いているのかな?

 

「うん! 【アリス】と遊んでいたの! 私の大切な、ただ一人のお友達!」

「そっか、ありすちゃんのお友達か。その子は何て言うの?」

「え? “アリス”は“アリス”よ」

「え、いや、“ありす”ちゃんの名前じゃなくて、君のお友達の名前を聞いたつもりなんだけど……」

「うん、だから“アリス”よ」

「ん?」

「え?」

 

 ……んー?

 どうにもなんか、お互いに認識のズレがあるっぽい……?

 

「えーと……ちょっと待って。少し整理させてね……まず、君の名前は“ありす”って言うんだよね?」

「うん」

「で、君のお友達のお名前も……“アリス”?」

「そうよ」

 

 ……えーと、つまり……同じ名前の人が、二人いるって事?

 うわ、何か凄いややこしい!

 

「まさか同じ名前って……凄い偶然だね、その子とお友達なんて。いや、むしろ同じ名前だったから?」

 

 なるほど、それでへーいっしょのおなまえなんだーじゃあなかよくしましょー的な、深く考えない子供のノリで仲良くなっていって————

 

 

「うん! だってアリスはあたし(ありす)だもの!」

「……へ?」

「あたし(ありす)はあたし(アリス)で、あたし(アリス)はあたし(ありす)! やっと出来たあたしの、あたしだけのお友達!」

 

 

 ……この言葉に、理解しかけていた僕の頭が完全にパンクしたのを感じた。

 いや、だってもう意味分からないんだよ!? ありすがアリスで、アリスがありすって、それどっちがどっちで、ていうかもうそれって一緒じゃ————

 

 

「————ハッ!!?」

 

「お兄ちゃん?」

 

 

 ……いや、ある。

 彼女の意味不明な言葉を、完結に……そして、完璧に説明出来る要素が。

 まるで同一人物のような物言い…………加えて、やっと出来たあたしだけのお友達という発言。

 そして、ただ一人のお友達……

 これらの情報から察するに、彼女のいうアリスの正体は————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————————これが、“エア友達”と言うやつか……」

 

 

 

「お兄ちゃん、どうしたのー?」

 

 

 

 

 

 

 その残酷な事実に気づいた瞬間、僕は口元に手を当て嗚咽が出そうになるのを必死に堪える。

 何て事だ……何という、事なんだ……っ

 こんな、こんな小さな女の子が…………まだ葉月ちゃんくらいの年齢の女の子がッ!

 まさか脳内にお友達を作る程に酷くなってしまうなんて……っ

 

 無邪気に話しかけてくる彼女の笑顔が、僕には直視出来ない。

 きっと過去に、やたら暴力を振るわれたり、化学薬品が混ざったお弁当を食べさせられたりするような生活を送っていたに違いない……っ

 その現実に耐え切れず、自分に取って理想のお友達の幻想を作ってしまったんだろう……

 

 ああ、そうか……もしかして、彼女が童話の女の子のような雰囲気を出しているのも、その辛い現実から逃げ出そうとする象徴なのかもしれない。

 駄目だ……考えれば考える程、涙が止まらない……っ

 

 

「お兄ちゃん……? 泣いてるの……?」

「うん、ゴメン、ゴメンね……っ、うっ…………あのさ、よかっ、よかったらさ。僕を、君のお友達1号に、してうぅッ、くれない、かな?」

「いちごう? 違うよお兄ちゃん、お兄ちゃんは二人目だよ?」

「ああ、そっか……っ、そうだね、ふだり目だよね……グスっ。うん、それでいいがら、おどもだぢに……グスグスっ」

「お兄ちゃん、大丈夫……? えっと……よしよーし」

 

 ありすのその小さな手で頭を撫でられながら、僕が泣き止むのはそれから三十分後だったという……

 

 

 

 ★☆★

 

 

「————ふう、ゴメンね。迷惑かけちゃった」

「ううん。それより、お兄ちゃんの方は大丈夫なの?」

「うん、僕は元から大丈夫。……そうだよね、本当に悲しいのは君の方なのにね……」

「え? ありすはもう悲しく無いよ、今はアリスがいてくれるから! それにお兄ちゃんもお友達になってくれたし」

「うん……そうだね、うん……っ」

 

 ヤバい、また泣き出しそう。

 彼女の健気さに、もう僕の心は震えまくってます。

 

「そうだ……何かお兄ちゃんに、して欲しい事とかある?」

「して欲しい事?」

「うん、何でもしてあげるよ。鬼ごっこだったり、かくれんぼだったり……あ、そーだ」

 

 そこまで言って、僕は手に持っていたクッキーの袋を持ち上げる。

 

「これ、僕がさっき作ったんだけどさ、よかったら食べる?」

「本当!? それくれるの?」

「うん。ほら、あーん」

 

 袋を開けて、中からクッキーを一つ取り出すと、僕は自然な動作で彼女の口元までそれを運ぶ。

 そして彼女も、その小さな口をめいいっぱい開けて、それをパクリ。

 

「ァーんっ! モグモグ……」

「……どう?」

「んーッ!! 美味しい! お兄ちゃん、これすっごく美味しいよ!」

「そっか、喜んでもらえたようで何よりだよ」

 

 彼女のその嬉しそうな笑顔に、僕自身も救われたような気分になってくる。

 うん、作った甲斐はあった。

 

「それじゃあ、この残りのクッキー全部上げよう」

「え? いいの?」

「うん。元々誰かに上げる予定だったしね」

「わあっ、ありがとうお兄ちゃん!」

 

 彼女の手のひらの上にそっと袋を乗せると、もの凄く嬉しそうな表情でお礼を言って来た。

 結局セイバー達の分も無くなってしまった訳だけど、まあ目の前の可哀想な女の子が笑顔になるんだったら、今回はこっちを優先させてもらおう。セイバー達もきっと分かってくれるさ、うん。

 

「さて、他にもして欲しい事とかある? 今の僕は大抵の事ならやってあげられるよ、気持ち的に」

「じゃあ、うーんと、うーんと……」

 

 そう悩む素振りをしながら、しばらく彼女が考えたのは……

 

「それじゃあ、この絵本を読んで!」

 

 そう言って差し出されたのは、彼女の持っていた古ぼけた本だった。

 それを受け取り、表紙をパッと見た所、何処か外国の本らしかった。

 

「これを読み聞かせて上げればいいの?」

「うん!」

「そっか。分かった、じゃあそこの階段にでも座ろうか」

 

 僕はそう言って彼女の手を引きながら階段の場所に移動し、そこで彼女と一緒に横に並んで座り込んだ。

 隣を見るとありすがワクワクした表情でこっちを見て来ている。

 

「お兄ちゃん、早く読んで!」

「はいはい、えーと……」

 

 僕はパラリと表紙をめくり、第1ページを開いて……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディスイズザオールドジャパネーゼモーメントギャラクシーアンドハワイペンタクルスモールジアザーネバーギブアップフレンドモバイルデスティニーテイルホワイトブラックリオデジャネイロメテオグローアップドモアサタンジャストアモーメントクラッシュクインハローエヴリワングーテンダーグニーハオソラシド」

 

「お兄ちゃん、何言ってるの?」

 

 

 うん、僕にも分からない。

 嘘ですゴメンなさい、本当はただ適当な事言ってました。

 

「お兄ちゃん……もしかして、字が読めないの?」

「うぐうッ!!?」

 

 図星を突かれ、もの凄く動揺する。

 い、いや!? 普通の字なら……日本語なら、読めるんだよ!?

 けど、これ、この本どー見ても“外国語”なんだけど!! え、英語? いや、ドイツ……? 

 とにかく知らない言語!! いや表紙見た時点で分かってたんだけどさあッ!!

 けど何でもやって上げるって言った手前、“ゴメンお兄ちゃん読めないや〜てへ☆”な〜んて、言える訳無いじゃん!!

 

「お兄ちゃん……頭が悪いの?」

 

「ズゴアァッ!!?」

 

 そしてその結果がこれだよ!?

 幼い子供特有の、純粋な混じりっけ無しの心からの言葉が、刃となってグサリと僕に刺さる!!

 僕の精神が大きく削られたよ!?

 

 そして次の言葉が……

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんは…………“バカなお兄ちゃん”なの?」

 

 

「カハッーーーー」

 

 

 

 

 三連コンボ、クリティカルヒット!!

 吉井明久、ダウン! 

 ワン、テュー、スリー、KOッ!! カンカンカーン!!

 

 グフッ……まさか、この世界に来てまで、その呼び方をされるとは思わなかったよ……

 

「うぅ……ホント、ゴメンねェ……何でもやるって言ったのに、読み聞かせて上げられなくて……」

「泣かないで、お兄ちゃん。じゃあ、代わりにあたしがお兄ちゃんに読んで上げる!」

「うん、ありがとうね……」

 

 何か致命的に間違っている気がするんだけど、完全に涙目状態になっている僕がその原因に気づく事は出来なかった。

 持っていた絵本をハイっとアリスに返すと、彼女は次のページを開いて僕にも見えるように寄せてくる。

 

「この絵本はいろいろなお話が書かれてるの。例えば、ほらここ。ここは“火吹きトカゲのフライパン”ってお話でね……」

 

 そう切り出して、彼女は声を出して読み進めていく。

 スラスラと、まるでその本の内容を始めから分かっているように。

 

「“深い深い森の中。石で出来たお家の中に、赤いトカゲが住んでいた。ご飯を作ろうと、大きな大きなフライパンをだしました。いざ食べ物を焼こうとすると、あら大変。マッチが切れてしまったわ。困った困ったトカゲさん、すると彼は、ある事を思いつく。マッチが無いなら、自分で火を吹けばいいじゃない!”」

 

 彼女の読み上げたお話に、へえーっと感心する。

 

「よく……読めるね、それ」

 

字が読める点に。

 

「これくらい普通だよ。逆になんでお兄ちゃんが読めないの?」

 

分かりません。

だって、本当に分からないんだもん!

日本語以外読める訳……ていうか、多分Fクラスの皆も読めないと思うよ!? 比較対象がアレだけど!!

というか、むしろ何でありすがどっちもペラペラなの!? そっちの方が驚きだよ!!

 

「あー、いや……それより、何か変わったお話だね、それ」

 

 何か、どこかで似たような話……というか、言葉を聞いた事があるような……

 確か、パンが無ければケーキがどおたらこおたら……

 そう素直な感想を返すと、彼女はうんっと嬉しそうな表情をして、

 

「この絵本は、アリスが私に作ってくれたの」

「ーーーーッ、そっか……」

 

 僕はそう、あいまいに返事をして視線をそらす。

 今の僕には、彼女になんて声を掛けたらいいのか、分からなかったんだ。

「こんな所にいたの、ありす」

「あ、アリス」

 でも、このままにしていい筈が無い。

 いつかは、彼女は嫌にでも現実に向き合わなきゃいけない時が来るだろう。

「あまりに見つけてくれないから、逆にこっちから来ちゃったわ」

「ゴメンね、お兄ちゃんとお話ししてたの」

 けれど、それを僕が言ってしまっていいのだろうか?

 僕が今、彼女の幻想を打ち砕いてしまっていいのだろうか?

「お兄ちゃん? もしかして、ありすの探してた先生?」

「ううん、違うって言ってたよ」

 僕にはそれが、正しい事なのか分からない。

 ……いや、もしかしたらただ、僕自身が加害者になるのが嫌なだけなのかもしれない。

「けど、とても似てるわね」

「うん、とっても似てる」

 くそ、自分自身に腹が立つ。

 今更偽善者ぶる何て、何様だ。

「ところで、お兄ちゃんは何を考えてるのかしら?」

「知らない、さっきから黙ったままなの」

 けど、それでも。

 別の心無い誰かに傷つけられてしまうなら、いっそ分かってる僕が……

 

 そう決心して、僕は顔を上げ……

 

 

 

 

「ねえ、ありしぇアレェッ!!? 二人に増えてるぅッ!!?」

 

「あ、気づいたわありす」

「うん、お兄ちゃん気づいたね、アリス」

 

 

 ……いつの間にか、ありすが分裂していた。

 いや、僕自身何言ってるのか、よく理解出来ていないんだぜ……っ!?

 と、とにかく、さっきまで一緒にいた白いありすと……真っ黒なドレスを着た黒い“ありす”が、いつの間にか増えていた。

 

「あ、お兄ちゃんに紹介するね! この子がさっき言った、私のお友達のアリス!」

「初めましてお兄ちゃん。ありすと遊んでくれて嬉しいわ」

 

 全く同じ顔、全く同じ声。

 服の色以外、まるで生き写しのような二人の人物が、目の前に同時にいて話しかけてくる。

 え、な、なんで……? だって、アリスって、ありすのエア友達じゃ……?

 ハッ!? そうか!

 

 

「そうか、僕には“他人のエア友達が見えてしまう”スキルを習得してしまったのか……ッ」

 

「ねえアリス、お兄ちゃんは何をいってるの?」

「そうね。ただ、もの凄く失礼に感じるのだけは確かね」

 

 クっ、なんて事だ……彼女を元の道に戻して上げなきゃ行けないのに、逆に僕が引き込まれてしまった!

 このままじゃ、僕の言葉なんて説得力が無くなってしまう!

 どうすればいい……っ、どうすれば彼女を出来るだけ傷つけずに、真実を教えてあげ

 

「エイッ!」

「いたぁッ!?」

「お目覚めかしら、お兄ちゃん?」

 

 急に襲って来た痛みに対し反射的に視線を向けると、黒い方のアリスが手を腰に当てて目の前に立っていた。

 その様子は、酷くご立腹のようだ。

 

「え、今叩いて……? いや、それより、触れ……?」

「そうよ、私はちゃんとここにいるの」

 

 ……え? という事は……?

 ありすの言っていたアリスって……実在、する?

 

「やっと分かったかしらお兄ちゃん。頭の悪い人ね」

「ゴメンねアリス。お兄ちゃん、バカのお兄ちゃんらしいから」

「バカのお兄ちゃんなの? それなら仕方ないわね」

「うん、仕方ないね」

 

 ステレオモードで幼女に罵倒されまくるのって、もしかして僕が初何じゃないだろうか?

 アハハ、ヤバい泣きそう。

 

「お兄ちゃんもアリスに誤って、ごめんなさいって」

「あー、うん……ごめんなさい」

 

 僕はその場で深く深ーく頭を下げた。

 端から見ると、幼女に頭を下げてる変な奴だと思われるだろう。いや、実際そうだけど。

 それにしても……この二人、本当にそっくりだ。

 実在するんなら、もしかして双子なのかな?

 

「まあいいわ……ところでお兄ちゃん」

「うん?」

 

 そう言うと、アリスは僕に近づいてジーッと見つめて来た。

 え、と……どうしたの?

 

「お兄ちゃんは……“半分だけ、私達と同じ”なんだね」

「へ? 半分?」

 

 半分って……何が半分?

 アリスの言っている意味が、全く分からない。

 

「やっとお友達に慣れそうな人を見つけられたね、ありす」

「うん! ピンクのお姉ちゃんもそっくりだったけど、あの人は本当の意味じゃ違ったし」

 

 ピンクのお姉ちゃん……って、まさか姫路さんの事かな?

 それ以外だと、キャスターかな……でも、キャスターがこの二人と話す接点ってあるのかな?

 もしくは、僕の知らない全く別人……まあ、それはどうでもいいか。

 

 それより、僕と同じって言ってる部分だけど……

 

「あのさ、何が半分同じなの?」

「うん、内緒よ」

「内緒〜」

 

 えー、そこまで言ってそれは無いんじゃないかなあ……

 

「そうね、だったら鬼ごっこしましょう」

「うん! じゃあ、お兄ちゃんが捕まえられたら教えて上げる!」

「え、ちょっ」

「「じゃあ、よーいドン!!」

 

 と、こっちが了承する前に二人はその場から走り出し、階段を駆け下りていった。

 あれ、意外とすばしっこい!?

 

「あ、もう全く……待ってよーっ」

 

 とにかく、考える事は後回しにしよう。

 そう思い、僕は二人を見失わないよう直ぐに階段を駆け下りていく……

 

「「……あ」」

「っと、どうしたの?」

 

 ……が、予想外に早く追いついた。

 二階に降りた所で、二人は何故か固まったように立ち止まっていた。

 

「何か、あっ————————」

 

 そうして、二人の視線の先を見ようとして——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにたくさんの人が倒れていた。

 

 

 

 

 

 

「――――――っ!?」

 

 

 全員が、制服を着ている参加者。

 その体から、大量の血がドクドクと流れ出し、赤い大きな水たまりを作っていた。

 既に僕には分かっている……彼らはもう助からないと。

 

 そして、この光景は何処かで……

 そうだ、予選のとき、中庭の噴水の前で……そこで、文月学園の制服の奴が……っ

 

「……お兄ちゃん、これって……」

「……っ! くるわ、ありす!!」

「ッ! 二人とも、下がって!!」

 

 アリスのその言葉にハッと我に返り、二人の前に出てベルトに挿していた木刀を構える。

 もしアイツなら、近くにいる筈……っ

 何処だ……何処にいる……!!

 

 そう僕は辺りを警戒し続けていると……

 

「ッ! ノイズ……ッ!?」

 

 一瞬僕達の視界にノイズが走る。

 そして、視力が戻った次の瞬間、

 

 

「っな!? ここって……ッ!?」

 

 気がついたら、僕達全員が校舎から別の場所に移動していた。

 周りに古代の化石のような物が浮かんでいて、深海のような場所……

 ここは……まさか、アリーナッ!?

 

「お兄ちゃん、アレッ!!」

 

 何かに気づいたようなありすの声に、僕は彼女が指を挿した方向に向く。

 

 

 

 

 

「————脆弱にも程がある。魔術師とはいえ、ここまで非力では木偶にも劣ろう」

 

 

 

 いつかの例のアイツじゃ、無い。

 けれど、それが安心には全くならない。

 むしろ、目の前のアレの方が、さらに危険————ッ!!

 

 

「鵜をくびり殺すにも飽きた。多少の手ごたえが欲しいところだが……

 

 

 

 小僧、お主はどうかな?」

 

 

 

 

 そう言って、目の前の“敵”は獰猛な笑みを浮かべる。

 二度目のイレギュラーな戦いの、始まりだ——————

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