Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス) 作:新月
————あれからどれくらい時間が経ったんだろう。
対戦者の確認の為に掲示板を覗きにいった後、そこに表示されていた名前にショックを受けてから、殆ど自分の中の時間の感覚が無くなってしまっていた。
一年。
十年。
百年。
それ位長い時間が過ぎ去ったような気さえしてきた。
「奏者ー……聞こえておらぬのかー……」
けれど実際には、端末の表時を確認してみると、三回戦が始まってから立った“一ヶ月”しか経っていない。
そっか、一ヶ月しか経っていないのか……
そう考えると、何故かとても長かったようで、その実本当はもっと短かったように思えてしまって不思議だ。
「あー、駄目ですねー……完全に放心状態ですねー……」
……ホント、僕はどうしたらいいんだろう。
たった一日しか会っていない、けれどとても親しくなれた双子の女の子。
まるで童話の中の少女のように、純粋に笑っていた。
襲撃された時に、僕の事を助けてくれた。
そんな二人と、殺し合う……?
「むう……やはり、この間の襲撃の事で悩んでいるのか……?」ジャラジャラ
ああ、なんて……最悪な悪夢だ。
頭が痛い……さっきから、変なノイズが響いてくる気さえする。
まるで金属製の物を大量に引きずっているようだ。
うるさい……やめて…………とめて……………ならさないで……ひびかせないで……
イライラする……不快になる……殺意が湧く………………不安になる…………恐怖する……悲しくなる……
何だろう、この音は……もう、訳が分からなくなる。
ああ、本当に————————————————
「奏者? どうしたのだ……? 気分が悪いのか、そうなのかっ?」
「ヤバいな……もしかしたら、左腕の怪我が悪化したのかもしれない。保健室に行って診てもらった方がいい」ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラッ
「その前にその“大量の鎖”と“錠”を何とかしなさい“首輪ワンコ”」
——————休み明け初日から、コレかぁ……
★☆★
「うう……ヤバい、吐きそう……」
「奏者ッ!? 本当に大丈夫なのか!?」
「いかんッ!? さすがにそれは不味い、急いでそこの男子トイレにッ!」ジャラジャラジャラジャラッ
「ゴメンアーチャー、お願い黙ってて……ていうか、近づかないでホントに」
「何でさッ!!?」ジャラッ
「とりあえず鏡を見て来たらどうですか?」
うぁー……本当に気持ち悪くなって来た……
アーチャーの鎖が鳴らす不快な音を長時間聞いていたせいで、もう頭にガンガン響いてきてる……
まるで黒板を爪で引っ掻いたり、発泡スチロールどうしを擦り合わせるような嫌な音を、ずーっと聞かされているような気分だった。
うっ、また吐き気が……
「うむぅ……それにしても、どれほどの量の鎖を繋げておるのだ? さすがにそれは、余もドン引きレベルだぞ……」
セイバーの言う通り、今のアーチャーは何故か全部の鎖が首輪に繋がれており、そこから錠で固定されて後ろに引きずっている状態で、もうかなり所じゃない変質者にしか見えなかった。
ある意味鎖のマントに見えなくも無い……あ、よく見たら所々に鉄球も繋がれていた。
鎖に埋もれていて分からなかったけど。
「ていうか、普通に床で引きずってますよねコレ。まあ、紅茶にどれだけ倒錯的な変態的趣味があろうと、それ自体は人それぞれなので黙殺しておきますが……」
「誰が趣味でやるかッ!! 寧ろ今直ぐ外したい気分なんだがッ!!」
「アーチャー……うるさい、うぷっ……」
駄目だ、このジャラジャラ音早く何とかしないと……
じゃないと、廊下の床がキラキラ補正の入る液体に浸されてしまう最悪の自体になってしまう。
いや、本当にそこまでは出ないけど。元からあまり食べてないし。
「とにかく紅茶、即刻それを外して下さい。ご主人様もそろそろ限界そうですし、見てるこっちも嫌になって来ますから」
「それはもの凄く承知しているのだが……この鎖、やたら頑丈な素材で出来ているらしく、ちょっとやそっとじゃビクともしない程でな……錠も見た目の割には、かなりの高度なプロテクトで組まれているらしく、そこそこの上級ウィザードでないと外せない代物だった……」
「桜よ……あやつ、どれほどの能力を無駄に紅茶に使ったのだ……?」
うん、本当に凄い。斜め上に。
ていうか、そもそも昨日の休み一日に何があったんだろう?
まあ、桜さんアーチャーに対してかなりぶっ飛んだような事しているからなあ……まるで雄二の事を追いかける霧島さんみたいに。
「まあとにかく、一度保健室に行った方がよいのではないか? 奏者の怪我も診てもらった方が良いだろうし、どの道行く事には変わりないであろう?」
「そうですね。さすがに紅茶のこの姿もウザいったらありゃしないので、即刻なんとかしてもらわないと……それでは、さっさと参りましょうか」
「うん……」
「うむ、承知した。気をつけて行ってこい」
「って、何であなただけ帰ろうとしていんですかッ!? 一番行かなきゃ行けないのはあなたなんですけど!!」
「嫌だッ!! あの地獄の門を潜るのは二度とゴメンだッ!!」
「地獄!? 何分け分かんない事いってるんですか、ホラさっさと行きますよっ!!」
「嫌だー! 俺はマイルームで掃除してるんだーっ!」
「最早駄々っ子なんですけどっ!? ていうか、完全にいつかのセイバーじゃないですか!? もの凄くキモいんですけどッ!!」
「むっ!? キャスター、貴様今余がコレ並みにキモいと申したか!? 撤回しろ!!」
「いいからあんたら二人とも黙れやコラーッ!!」
「あ……マジで死ぬ……リバース的な意味で……」
そんなこんなで、保健室に付いたのは今から約30分後の事だった……
★☆★
「————というわけで、さっさとアーチャーを解放して下さい」
「えー……折角つけたのに、もう外しちゃうんですか?」
「いや、えーじゃなくて」
さっそく保健室に行った僕達は、単刀直入に本題に入った。
そしたらまあ、案の定というか、予想通りというか、桜さんがゴネ出した。
「いやまあ桜さん? 好きな人をずっと繋いで縛っておきたいお気持ちは分かりますけど、さすがにこれは周りにとってウザ過ぎるので、多少は自重してくれません? やるならせめて、監禁するなりして私達の目の届かない所で」
「そうだぞ桜よ。縛るにしても、あれでは無骨すぎてあまりにも華がない! やるならもっとこう、芸術性をだな……」
「ねえ二人とも? 何か微妙に論点ずれているような気がしない?」
「というかむしろ、悪化してないかそれはッ!?」
比較的今回は真面目な態度をとってたと思ったキャスターだけど、やっぱりいつも通りだった。
セイバーに至っては、ほぼ見当違いの事を言っているし。
「そうですか……てっきりアーチャーさんがそれを気に入って、“あえて外さないでいた”のかと思っていたんですけど……」
……ん?
あれ、おかしくない?
「待て桜よ、それは一体どういう事だ?」
「……え? ちょっと待って下さい? それじゃあ、この茶坊主は自分からこの格好を……?」
「いや違うからっ!!? 何を言ってるんだ桜!! 明らかなデマ情報を流さないでくれるか!?」
そう割と必死な形相で、アーチャーが否定した。
何だ、ただの桜さんの冗談……
「え? だってお渡しした筈ですよね、鍵?」
『……は?』
その言葉に、僕等全員がポカンとした。
「あのー、鍵って……何の?」
「え? あの、だから、アーチャーさんのその鎖に付いた奴の、その鍵です」
「いや、待て待てマテマテ…………オレはそんなの、受け取った覚えなど一切無いぞ!?」
一体どういう事なんだろう?
この様子だと、アーチャーが嘘を付いているようには見えないし……
桜さんが勘違いしている?
「いえ、確かにお送りした筈ですよ? 一応、AIである私がアドレスを打ち間違えたなんて考えづらいですし」
「……ん? “送った”?」
「はい。アーチャーさんを解放した際に、吉井さんの端末宛にアイテムデータとして添付したメールを送った筈なんですけど……確認、しました?」
「あ……ああー……」
そ、そっかそっかー。
そういう、ことかぁー……………………なん、て、間の悪い……
「ほう、そう言う事であったか」
「ご主人様、最近メールを確認しましたか?」
「い、いや。してなかったけど……」
「そうか……なら、話が早い。早速メールを開いてアイテムデータを取り出してくれ。これでやっと私も解放される……」
「あー……いや、そのー……」
「……む? どうしたのだ奏者?」
いや、さ……もの凄い言いづらいんだけど……
歯切れの悪い言葉を言いながら、僕はポケットに右手を入れ……
「喜んでる所、悪いんだけどさ————
————端末、壊れちゃったっぽいんだよね……」
そうして、ボロボロになった端末を出した。
「な……何ぃ——————————————————————ッ!!?」
「ちょっ!? ご主人様、それマジですかっ!?」
「うむ、端っこの所が少し欠けておるな……」
「う、うわあ……画面の表示がバクだらけ過ぎます……っ!」
そうなんだよ……経過日数なんか普通に一ヶ月経ってて、余裕で一週間超えてるし。
ボーッとしてたせいで、二度見して初めてあれおかしくない? って気づいたんだよ。
さすがにこれは予想外だったようで、みんな驚いていた。
特にアーチャーのショックは甚大っぽい……
「お、おい! マスター、一体何があった!? 今日の朝まで、普通に使ってただろう! よりにもよって、このタイミングでだと!?」
「ゴメン……葛木先生達に襲われた時から、調子が悪くて……それがとうとう限界を迎えた」
「うぅー、余等がいなかった時か……」
「ていうかご主人様、私達と別行動時に襲われ過ぎですよね……まあ、一緒にいたとしても、今の私達じゃ大して役にも立てなかったでしょうけど……」
うん……それにしても、襲撃といい、端末といい、本当に運が無いよね……
これが、幸運最低以下のメンバーの集まりの力か……
「うーん……駄目ですね、完全に殆どのデータが破損しちゃってます。これじゃあメールはおろか、アイテムや礼装すら取り出せないかも……」
「うぇっ!? そうなの!?」
「はい……このままじゃ、電子マネーのやり取りや、マイルームに入る事も……」
「じゃあ、僕達文字通り一文無しの宿無し状態に……ッ!?」
「……あれ、けどそれなら、私達の借金データもおじゃんになったり……?」ヒソヒソ
「あっ! だ、大丈夫です! 金額やルームキー、マトリクスなどの重要データは運営サーバーに問い合わせれば、復元させてくれますから!」
「チッ!」
あれ、キャスター? 何で舌打ち?
「桜、アイテムや礼装の方は……?」
「すみません……そちらの方は、対応してくれないんです。こっちは諦めるしか……」
「そんな……まあ、一番大事な物は偶然出しっ放しだったから、まだ良かったけど……」
手元にあったのは、【白金の腕輪】と【強化スパイク】
そして、【ライダーの銃】と【緑茶の弓】
既に装備しっぱなしだったり、たまたま直前で使ってたおかげで何とかこの四つだけは無事だった。
まさに不幸中の幸いだね……
「おい待てじゃあ、オレの鍵は……!?」
「あ、それは大丈夫です。私が送ったのはコピーで、オリジナルは私が持っていますから」
「本当か!?」
「しかし、コピーとな? 何故、わざわざそんなものを作ったのだ? そのまま送ってもよかったであろうに?」
「え? それはもちろん、機会があったらまた使おうとし何でもありません」
うん、聞かなかった事にしよう。
殆ど言っちゃってたような気もするけど、気にしない気にしない。
「とにかく、新しい端末を支給してもらえるよう問い合わせますから……けど、予備合ったかな……もしかしたら、三回戦終わるくらいになっちゃうかも……」
「むう、長いな……修理は出来ぬのか?」
「やれない事は無いと思いますけど、それも大体同じ位かかりそうですね……」
ていう事は、三回戦が終わるまでは、ずっと端末無し状態ってこと……?
うわあ、買い物や部屋の立ち入りに、殆どの行動が制限されちゃって……
「……あ! でも、マイルームの解除キーだけなら、これで何とかなるんじゃないですか?」
そう言って、キャスターはゴソゴソと袖の中から二つ目の端末を取り出した。
「って、キャスター予備なんか持ってたの!?」
「いえ、これはバイ……いえ、ちょっと拝借を♪」
「拝借ッ!? どこから!?」
キャスター一体何やっちゃってんの!?
ていうかバイ……何!?
「ちょっと見せて下さい。……これは、職員用のサブ端末ですね。メモリの量も参加者の皆さんが使っている物に比べたら少ないですし、残念ながらこれ単体ではマイルームに入れません」
「む? しかし、この間まではそれで普通に開いたぞ? これにも解除キーが入っているのではないのか?」
「それは、吉井さんの持っていた端末にアクセスして一時的に引き出していただけです。データの入っていた方が壊れた以上、そちらではもう作動しません」
「なーんか、面倒くさいシステムですねえ……」
「あまり簡単にコピーすると、セキュリティの意味が無くなってしまうので……」
そう言いながら、桜さんはそのサブ端末をカチカチと操作していく。
それが終わると、今度はそれを僕の方にハイッと渡して来た。
「とりあえず、集めた三回戦のマトリクスデータだけは見えるように設定出来ました。これで最悪、マトリクスシステムだけは使える筈です」
「あ、ありがとう! そっか、マトリクスも見えなくなっちゃうんだった……」
確かにコレが無いとヤバい。
正直今までの戦いだって、殆どこのシステムによるアドバンテージによってギリ生き残れてた状態だったから。
桜さんの気遣いに感謝感謝。
「後の問題は、休憩場所か……」
「さすがに、廊下で寝泊まりするというのは無防備すぎるし、余はいやだ」
「ですねー、落ち着ける場所というのはそれだけで重要ですし……」
「けど、行く場所なんて思いつかないよ……」
一応、姫路さんや遠坂さん、もしくはラニの部屋に泊めてもらうっていうのはあるけど……
女の子のいる部屋に泊めてもらうっていうのもどうかと思うし、第一そこまで世話になってもらう分けにもいかないよね……
うーん……何かいい案は……
「あ。だったら、しばらく保健室に泊まりませんか?」
「へ?」
「む?」
「え?」
「なァッ!!?」
その意外な案に、僕たち全員(約一人除いて)同じ驚きをした。
「え、それいいの? 桜さん」
「はい、構いませんよ」
「しかし、保健室は他の参加者も使うのではないか?」
「そうですねー、それってこの場所を半分私物扱いするようなものですよね?」
確かに、それってヤバいんじゃ……
「それは大丈夫です! 私の役割は聖杯戦争の参加者の健康管理ですから。つまり、この行動は参加者である吉井さん達のサポートという扱いになるので、何の問題もありません」
「へえー、じゃあそれなら……」
「いや待て!? 私は反対だ! ここはマイルームと違って遮断されていないし、会話の情報が筒抜けになるぞ!! セキュリティという点ではあまりに心配すぎる!!」
「ぶっちゃけ、ここ以外も大して変わらないと思いますけどねー」
うん、正直キャスターの言う通りだと思う。
それにこっちならベットとかもあるし、ゆったり出来ると思うんだけどなあ。
「ああ、それなら吉井さん達がいる間だけ、ここを完全に遮断出来ますけど? マイルーム並みのセキュリティなら私の権限で設定出来ますし」
「職権乱用!?」
「あ、そうだ! どうせなら、皆さんの食事も作って差し上げますよ。もちろん、私の手作りの朝昼晩三食です!」
「アーチャー、世話になろうよ」
「うむ、さっさと頷くが良い」
「変な意地張って、私達を困らせないで下さい」
「全員そっちに付いた!? というか、完全に餌付け目的だろ!? オレだって作れるぞソレ!?」
「けど材料買うお金無いし……あれ、桜さんお代って……」
「そんなの入りませんよ。強いて言うなら——————アーチャーさんからの愛、かなぁ……」
「アーチャー、お幸せに。そして爆ぜて」
「うむ、全く持って幸せな奴だ」
「ジャンジャンいちゃついて下さい。私達の見えない所で」
「全員完全に裏切った!?」
当たり前です。
「ま、待て! 運営側の人間が一人の参加者に肩入れしすぎるのはどうかと思うぞ!?」
「アーチャーさん」
そう言って、桜さんはニッコリ笑って、
「世の中、不平等なんですよ?」
止めの言葉を言った。
「————————————っ」
直後、ドシャアッと崩れ落ちた。
論破されたアーチャーの目はまるで死んだ魚のようで、終わった……とブツブツと呟いている。
「それじゃあ、しばらくよろしくお願いします」
「はい! 任せて下さい!」
が、僕達はもうそれを見ていない。
一を切り捨て九を救う……残酷な世の理だった。
「まあ端末や寝床の問題が解決した所で……とりあえず、当初の目的であるアーチャーさんの鍵をくれませんか?」
「うん? ああ、そういえばそうであったな、すっかり忘れておった」
「あ、はい。分かりました、ちょっと待って下さい。確か、ここに……」
そう言って、桜さんは薬品棚の引き出しをゴソゴソと探っていく。
「あ、そうだ。桜さん、それが終わったら今度はご主人様の腕も診てもらえます? というかむしろ、さきにこっちをやってもらった方が……」
「ああ、キャスター。それなら————」
「————あれ?」
「む? どうかしたのか桜よ?」
「あはは……いえ、もうちょっとだけ、待ってくれますか?」
そう言った後、えーとっと呟きながら、今度は戸棚の扉を開けてゴソゴソとし、
しばらくしたら今度はベットの方に向かって掛け布団をバッとめくり、
そしたら次は部屋の端に置いてあった段ボールの中身を探って、
その後はまたベットの方に戻ってその下を覗き込んだ。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「……………………………………………………うん」
最終的には、桜さんは僕達の方に戻って来て……
「えっと……………………折角ですし、もう少し、あのままでも」
「無くしたんですね」
「いや、えっと、その……」
「無 く し た ん で す ね」
「あの、その……ハイ」
やや俯きの状態で白状した。
「って、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいッ!!!?? 何やってんのさくらあああああああッ!!?」
さっきまで落ち込んでいたアーチャーが聞き捨てならないと、それはもう全力シャウトした。
端から見てもかなり必死だった。いっそ哀れに思う程に。
「ち、違ッ!? 確かにここに入れた筈なんです! コピーをとった後、無くさないようにーって全部この小箱に入れて、ちゃんとそこの引き出しにーッ!!」
そういう桜さんも必死に言い訳をする。
うーん、嘘を付いているようには見えない……
「むう? 一体どういう事なのだ?」
「つまり……誰かが勝手に保健室から持ち出したって事……?」
「そ、そういえば私、吉井さん達が来る直前に薬の在庫を取りに行ってました……」
「という事は、その間に誰かが勝手に入って盗んだ、という訳ですか?」
まあ、そう言う事、だよね……?
「だが、何でオレの鎖の鍵なんか持って行くんだ!? 普通他の薬やアイテムとかだろう!! というか何でオレばっかあああああああああああああああああああああああッ!!!??」
もう完全に泣きながら叫んでいた。
哀れ、幸運J。ドンマイ。
「なあ桜よ、その鎖は鍵が無いとどうしても外せないのか?」
「外せるには外せますけど……市販の首輪に私の演算処理機能をフルに使ったコードキャストを組み込んだので、最低でも2〜3週間は……」
「どれだけ複雑な魔術!? というかよく出来たなそれ!?」
「それはもう、一回戦の時からコード自体は作っていましたから」
そう言って、エッヘンと胸をはる桜さん。ちょっと可愛かった。
自慢出来る事じゃないけど。
「と、とにかく校舎内で探してみようよ!」
「うむ、仕方が無いな……」
「まあ、面倒ですが行きましょうか」
「くッ! さっさと探して見つけ出し」ジャラジャラ
『アンタは留守番してろっ!!』
あ、凄い奇麗にハモった。
「何でさあっ!?」
「正直また頭痛くなるから」
「うるさい、うざい、じゃまであろう?」
「それじゃ犯人見つけたとしてもすぐにこっちの事気づかれますよ」
「だったら、霊体化すればッ!!」
「あ、すみません。その鎖付けてると霊体化出来ないんですよ」
「無駄に高性能な機能!?」
ホントにね。
「さっさと行きましょう! あ、桜さんはそこのバカを見張ってて下さい! 廊下に出てこられると迷惑なので!」
「はい! 分かりました!」
「いや何だそのピンポイントな人選!? セイバーやキャスターとかでもいいだろう!?」
「それじゃ、行って来まーす!」
「いや、待って、置いてかないでえええええええええええええええええええッ!!?」
一人の英雄の悲鳴をバックサウンドとしながら、僕達三人は勢いよく保健室から飛び出して行った。
決して、逃げるように出た訳じゃない……
★☆★
「————とは言ったものの、どこから探せばいいのか……」
「手がかりゼロですからねえ……」
一階の廊下の会談前。
とりあえずそこで集まった僕達は、作戦会議をしていた。
「とりあえず、三手に分かれよう。一緒に探すより、バラバラになって探す方が効率がいいし」
「うむ、確かにそうだな」
「それじゃあ、セイバーさんは校庭と中庭を探して来て下さい。ご主人様は二階と三階と屋上を。私はこの階と食堂を探して来ます!」
「待てキャスター……貴様今さりげなく余を遠ざけなかったか?」
「気のせいです」
「むう……」
「ほら、そんな事言ってないでさっさと動こう!」
こうしている間にも、多分アーチャーは悲鳴を上げているだろうし。
さすがに可哀想になって来たから、早く何とかして上げないと……
「それじゃあ、二時間後に一回またここに集合ってことで!」
「分かりました! それじゃあまた後で!」
「奏者! 今度は襲われぬよう気をつけるのだぞ!!」
「分かってるよ! じゃあ後で!」
そう言って、僕達は一回散り散りになって解散した……
★☆★
「あー……ここまで手掛かり一切無しって……」
二階の聞き込みと探索を終え、今度は三階で探していたけど、もうそろそろこの階も終わりそうだった。
それなのに、手掛かりの手の字も見つからない……
「もしかして、セイバーかキャスターの方かなあ……」
もし屋上も無かったら、二人の方に移ってみようか……
そう思いながら、階段の方に向かおうとして……
「あっ! バカなお兄ちゃんだーっ!!」
「——っ!」
振り返ると、ありすがいた。
いつもと変わらない、あの真っ白い笑顔で。
僕達の、対戦相手が……立っていた。
「また会ったね、お兄ちゃん!」
「あ、ああ、うんそうだね……」
「……? お兄ちゃん、元気無いの?」
「へ? あ、いや、そんな事はないよー?」
……正直、どんな顔をすればいいのか分からなかった。
この子と、僕は戦わなくちゃいけない……
「……ね、ねえありす。三回戦の事なんだけど……」
「三回戦? それって、お兄ちゃんと遊ぶって奴の事?」
「遊ぶ?」
「うん! だって、あそこに書かれていた名前の人と遊べるんでしょ?」
……っ。
この時点で気づいた。
ありすは、殺し合いをしている自覚は無い。
ただ単純に、本当に遊んでいるつもりなだけなんだって……
「そ、そういえば黒い方のアリスは? 一緒じゃないの?」
「うん。またゲームしているの! 今度はお宝探し!」
「へ、へえ。お宝って?」
「うん、これっ!!」
そう言ってありすが出して来たのは、やや古い小箱だった。
……うん? 小箱?
「……ねえ、ありす? その箱の中身って……?」
「えーとね、なんか小さな鍵がいっぱい入ってた!」
へえーそっかー小さな鍵かーふーん……
……
…………
………………
「それええええええええええッ!!!」
「ふぇっ!? お兄ちゃん急にどうしたの!?」
あ、いけないいけない、驚かせてしまったみたいだ。
「あ、ありす……それ、何処で見つけたの?」
「え? えっとね、さっきお兄ちゃんに会いに行こうとして保健室に行ってね、そしたら誰もいなくてね。それで暇になっていろいろ探してたら、アリスがこれを見つけたんだよ!!」
「そ、そっかー、ふーん」
犯人見つかっちゃったよ……
多分、物珍しくて取ってっちゃったんだろうなあ……
子供の純粋さって疲れるね……
「あ、ありす? それ、お兄ちゃんにくれないかな?」
「うん。やだー!」
「うわーい、天使の微笑みで断られたよ」
もの凄いニッコリ笑顔で言うものだから、強くも言えない……
うーん、どうしよう……
「どうしてもっていうなら、お兄ちゃんも遊んで!」
「遊ぶ?」
「うん!」
そう言って、ありすはちょっと離れてその場で一回転しながらこっちに向き直る。
「ルールは簡単。あたしはこの小さな鍵をあちこちに隠すの。お兄ちゃんとアリスはこれを全部探して、最後にあたしを捕まえられたら勝ち。ね、簡単でしょ!」
なるほど、鬼ごっこと宝探しがミックスしたようなゲームか。
まあ、ここで無理矢理奪うって言うのもどうかと思うし……
「……うん。いいよ、やろう」
「じゃあ、決まりね!」
そう言って、アリスは微笑んで、
「それじゃあ、よーいドン!」
直後、その場から消えた。
「……え?」
……あれ? 僕の見間違い?
確かにそこにありすがいた筈なのに……?
「お兄ちゃん、こっちこっちー!」
「へ?」
声のした方を向くと、僕の後方の離れた位置に、いつの間にかありすがいた。
「え、いや……え?」
いつの間に……!?
「それじゃあ、またねーっ!」
「あ、ちょっ!? ……あー、もうっ」
そう言い残し、ありすはまた消えた。
こうして、僕とありすの変わった追いかけっこが始まった……