Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス)   作:新月

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更新が遅れてしまって本当に済みません……
テスト期間と、風邪が同時に襲って来て……

そして、
祝! バカテス最終巻発売!
……なのに、まだ自分は買えてない〜!


お使いイベント

「セイバ〜、キャスタ〜……いい加減出て来てよ〜……」

 

「あ、あはは……」

 

 保健室の扉の前に立ち尽くす事数十分。

 あの日、僕がありすに攫われて、その間なんやかんやあって最終的に何か二人に誤解された後。

 あれ以来、セイバーとキャスターは頑に保健室から出てこようとしなくなってしまった。

 一応、夜眠る際などの為に僕が保健室に出入りするのは自由にしてくれてるけど、二人と一緒に探索に出かけたりはなどは一向にしてくれない。

 常に保健室のベットの中で、掛け布団を深く被ってミノムシ状態だった。

 声をかけても、殆どムゥ〜ッとうなり声しか返してくれないし。

 

「はあ、まいったなあ……あれから三日目だよ。もう猶予期間も少ないのに」

「まあ、乙女心は複雑ですから……私も、もしアーチャーさんが他の女の子に手を出してたらと思うと…………もっと念入りに調教を」ボソッ

 

 最後の桜さんの呟きは聞かなかった事にして、と。

 

 ちなみにアーチャーも、アレ以来目覚めていない“らしい”。

 何でも、強力な精神干渉計のコードキャストを掛けられたとかで、中々意識が回復しない“らしい”。

 今は桜さんが特別な治療法を使って、何とかそのコードキャストを解くのを頑張っている“らしい”。

 

 ……ちなみに。

 

 なぜ僕がらしい、としか言っていないのは、単純に“見ていないからだ”。

 

 実はセイバー達が引きこもったと同時に、アーチャーの姿もあれから一切見ていない。

 桜さんに聞くと、保健室の一番端っこのベットにカーテンを閉めて寝かせているらしいんだけど、何故かこのカーテンが開かない。開くのは桜さんが出入りするときだけだ。

 しかも中からの声が一切聞こえないという不思議。

 詳しく聞こうかと思ったけど、何か僕の心眼(笑)が危険信号を発信しているので気にしない事にした。

 ついでに桜さんがそこから出てくる際、何故か凄く爽やかな顔でツヤツヤだったりするのも、気にしない事にした。

 

 ただ思った事は、もうアーチャーは手遅れなんじゃないかな? と……

 

 うん、話が盛大に逸れてるね。

 それよりセイバーとキャスターだ。

 

「ところで、あの時お二人に何があったんでしょうか? 帰って来た時、お二人ともボロボロでしたし……」

「そうなんだよね……」

 

 セイバーはあの赤いドレスを着ていなかったし、キャスターに至っては重傷を負っていた。

 きっと僕が誘拐されている間に、想像もつかないような出来事が二人に襲いかかったに違いない。

 それを何とか必死に切り抜けて、僕を助けようとして……その直後に、僕がありすを泣かせている場面に出くわした、と。

 うん、最悪だね。もし僕だったら、凹むか相手を殴るね。

 本当に申し訳ない……あー、本気でどうしよう……

 

「しかも、そろそろ行動しないと本当に時間ないしなあ。けど、二人をこのままってのも……」

 

 探索自体は僕一人でも何とかなるかもしれないけど……正直、このまま不仲状態が続くのは気分が重くなる。

 皆と楽しく話している時間が、この聖杯戦争中で僕に取って唯一の楽しみでもあるし。

 

「それなら、探索に向かうついでに、何か仲直りの為のお詫びの品でも探して来たらどうでしょうか? きっとお二人も吉井さんと同じ気持ちだと思いますし、切っ掛け作りにはちょうどいいかと」

「ああー……確かに、それいいかも」

 

 このまま保健室の前にただ立っているより、桜さんの言う通りにしたほうがいいかもしれない。

 それに、僕が探さなきゃ行けない物はもうハッキリしてる。

 

「それじゃあ、僕が見つけるのは仲直りの為の品と……そして、“ヴォーパルの剣”、か」

 

 キャスター達から聞いた、あの巨人と唯一戦う為に必要な物。

 この会話の少ない三日間の中で、その情報だけは確かに僕に伝えてくれた物だった。

 なんだかんだいっても、二人とも僕の事を心配してくれてるのは十分伝わった。

 

「それじゃあ、僕は早速校舎を探索に行って来ます」

「はい。それじゃあ、私は二人を落ち着かせるのと、アーチャーさんの“いろいろな世話”を頑張って置きますね!」

「あはは……よろしくお願いします」

 

 出来れば前半の方を。後半は、まあそこそこで……

 

 そう心の中で思いながら、僕は保健室を後にした……

 

 

 ★☆★

 

 

「さて、と……どこから探しに行こうかな」

 

 階段を上がりながら、今後の予定を大雑把に頭の中で思い浮かべる。

 まあまずは、ヴォーパルの剣って奴の事を調べる為に図書室かな?

 そう思いながら、階段を上り終えて二階の廊下に出ようとする。

 

 

「あ……お兄ちゃん」

 

「って、ありす!?」

 

 

 っと、そこでまたありすと出会う。

 この間の誘拐の件もあって、一瞬身構えそうになる。

 

「……?」

 

 ……が、何か微妙に様子がおかしい。何か、俯いてる?

 そう言えば、あの時も何故か泣いていたよね……僕、何もしてない、よね? 多分……

 

「えっ、と……どうしたの、ありす?」

 

 ついそんな声を掛けてしまい、それに反応してありすが顔を上げて僕を見た。

 

「あ、あのね……今日、お兄ちゃんと一緒にいていい?」

「へ?」

 

 ありすのその言葉に、僕は間抜けな声を出してしまった。

 いつもは遊ぼ遊ぼって言ってたのに、今日はただ一緒にいるだけ?

 本当にどうしたんだろう?

 

「えっと……つまり、今日は遊ばずに一緒に行動したいだけって事?」

「うん……ダメ?」

「う、う〜ん……」

 

 正直、こないだの件のせいであまり乗り気になれないのが本音だ。

 しかもこれから僕が探すのは、ありす達の巨人に対抗する為の道具だ。

 対戦相手の目の前で、堂々と対抗策を探しているのをアピールするというのはさすがに……

 

 ……とまあ、こう色々考えた結果。

 

 

「……うん。まあいいよ、一緒に行こうか」

「っ! うん!」

 

 結局、懲りずに彼女といっしょにいる事を選んだ。

 まあ危険なのは重々承知しているけど……何となく、今のありすを放っておけない、と思ったんだ。

 頭ではダメだと思っても、心の奥底では、少しでも一緒にいてあげないと、って……

 

 

「……おや? ごきげんよう。お久しぶりです、吉井さん」

「ん? あ、ラニ!」

 

 ありすと話しているうちに、一階の階段から上がって来たラニに声を掛けられた。

 本当に久しぶりだ。確か、最後に会ったのは二回戦の決戦前日だったっけ?

 

「珍しいね、ラニ。いつもは三階にいるのに」

「いえ、ちょうどさっきお昼ご飯を食べる為に、食堂に行ってたので」

「……? ねえお兄ちゃん。このお姉ちゃんは?」

「あ、そっか。ありすは会った事無いよね」

「初めまして、私はラニ。あなたは……?」

「あたしはありす! よろしくね、お姉ちゃん」

 

 そう元気よく、ありすはラニに自己紹介した。

 うん、さっきより明るくなってるかな?

 

「そうですか。そういえば、この状況の事を指し示す言葉が……確か、ロリコ」

「そ、そういえばさ! 腕輪の件ってどうなったの!? やっぱり、まだ完成してない?」

 

 突然とんでもない事を言おうとしたラニの言葉を、華麗な僕の話術で別の話題にすり替える。

 ふう、危なかった……ナイスだ、僕。

 

「腕輪? 腕輪って?」

「……吉井さん、あなたは相変わらず……」

 

 ……って、あれ? 何か機嫌悪くなってる?

 

「……はあ、まあいいです。材料自体はちょうど今日そろったので、あとは作り上げるだけですね。完成は三回戦決戦日直前、といった所でしょうか」

「そっか。本当にありがとうね」

「いえ。元々あなたの持ち物でしたし、私も十分見返りを既に貰っていますから」

 

 そっか、黒金の腕輪ももうすぐ帰ってくるんだ。

 これは幸先いい。黒金の腕輪のファイヤーウォールのスキルはかなり強力で、多分あの巨人と戦う時にも十分効果あるだろうし……あ、そうだ。

 

「そういえばラニ、ヴォーパルの剣って知ってる?」

「ヴォーパルの剣……ですか?  師から聞いたことがあります。 特定対象にのみ有効な魔術礼装、と……」

「あれ? お兄ちゃん、ヴォーパルの剣を探しているの?」

「うん。どんな物なのか、まったく知らなくてさ」

 

 ラニなら知ってそうかなーって思って聞いたんだけど……あー、やっぱりありすの目の前で聞いたのは不味かったかなあ、と後悔しかけた時、ありすがふふんっと得意げな顔でこっちを見た。

 

「あたしは知ってるよ。ヒントは、それはどこにあるとも知れない架空の剣————さぁ、どうやって見付けたらいいでしょう?」

「え? ど、どこにあるとも……? ていうか、架空って……」

 

 それって、ようは現実に存在しないってことじゃ……?

 って、それじゃあ手に入れようが無く無い!?

 

「え〜、それじゃあもうどうしようも……」

「なら、作りだせばいいのでは?」

「「へ?」」

 

 困り果てようとしたとき、ラニがそんな答えを出して来た。

 作るって……そんな簡単に?

 

「一応、私ならそれを練金で作り出す事が可能ですが」

「ホントッ!? お姉ちゃん凄いね!」

 

 キラキラと尊敬の眼差しでラニを見るありす。

 それが本当なら、あっさりこの問題は解決だ。けど……

 

「えっと、ラニ? それじゃあもしかして、それも作ってくれるの? それなら凄くありがたいけど……」

 

 正直、かなりラニに頼り過ぎのような気がする。

 もう貸し1に対して、借り3や4以上は作ってるような感じがする。

 さすがに申し訳ないどころの話じゃないような気がして来たんだけど……

 

「いえ、それくらいの物なら大して負担ではありません。ただ……」

「ただ?」

「それを錬成する為の材料が足りないのです。殆どの物は持っていますが、それも腕輪の複製の為に集めた物ですし……そうなると、さすがに同時に作成、とは……」

 

 なるほど、つまり腕輪か剣……どっちを優先するか選べって事か。

 宝具すら防ぎきれる“盾”か、あの巨人を倒せるかもしれない“矛”。

 まさに矛盾だね。……あれ? なんか微妙に違う?

 まあ、それは置いといて……確実に効果があるって分かってるのは、一度使った事のある腕輪の方だね。

 ヴォーパルの剣の方は、まだ確実に効果があると確証があるわけでもないし、選ぶにはリスクが高いかもしれないけど……

 

 

「……分かった。じゃあ、“ヴォーパルの剣”の方を優先でお願い」

「よろしいのですか?」

「うん。信じたいしね」

「え?」

 

 だって、キャスター達がボロボロになってまで僕に伝えてくれた情報なんだ。

 僕はそれに、賭けてみたい……いや、信じたい。

 

「まあ、分かりました。……しかし、それでもまだ少し、材料が足りないのです」

「その足りないのって、あと何?」

「たとえば、マラカイトなどがあれば……それでもう十分かと」

「マラカイト?」

「別名、孔雀石。緑色をした鉱石の事です。そこまで高価な物ではない筈ですので……」

「そっか、それじゃあそれくらいは僕が用意してくるよ。さすがに頼りっきりってのもどうかと思うし」

「では、お願いします。それでは、また後ほど……」

「お姉ちゃん、バイバイー」

 

 そう言って、ラニは廊下の奥へと進んで行く。

 ありすはそれを片手を大きく振って見送った。

 

「さて、と……マラカイト、ね。購買部とかに、売ってないかな?」

 

 確かあそこ、地獄も沙汰も金次第、とか言ってたし、もしかしたらあるかも。

 ……問題は、その場合僕の手持ちのお金で足りるかどうかなんだけど……ま、まあ後で考えよ!

 

「それじゃあ、行こうかありす」

「うん!」

 

 そう言って、僕達は購買部のある地下に向かって階段を下りて行った……

 

 

 ★☆★

 

 

「さーて、と。購買部に……」

 

 そう呟きながら、地下一階にたどり着いた瞬間、見覚えのあるツインテールが視界に入って来た。

 それに何気なく声を掛けようとし、

 

「あ、遠坂さ————」

 

 

 直後、何故か目の前にガンドが接近。

 

 

「って、またァァァァッ?!!」

 

 それを木刀で真上に弾き飛ばし、それを飛ばした張本人の方に涙目になりながら向く。

 

「現行犯。判決、死刑」

「ふえ? お姉ちゃん?」

 

 そこには指をこっちに構えながら、いつの間にか僕の隣にいた筈のありすを庇うように立っている怒れるツインテール。

 あはは……何かもう、ここがFクラスの気がして来たよ……

 何かこう、誰も話聞かない所が。

 

「……とまあ、冗談は置いといて」

「いや、明らかに殺意の籠った一撃だったよ? 弾いた腕が痺れてるし」

「ヤッホー、吉井君。あなたもお昼ご飯食べに来たの?」

 

 凄い、何事も無かったかのように話を続けてる。

 ダンさんもそうだったけど、これが上級ウィザードの実力……!

 

「いや、僕達はちょっと、探し物を……」

「探し物、ねえ。残念だけど、ロリコンが欲しがるような物は心当たり無いわね」

 

 前言撤回。

 全然何事もあった。

 ……もう僕泣いていい?

 

「あのね! あたし達、マラカイトって言うのを探してるの!」

「マラカイト? それなら私が持ってるけど……ていうか、結局この子誰?」

「あたしはありす! お姉ちゃんは?」

「私? 私は遠坂凛よ、よろしく」

 

 そうやって、仲つつまじそうに自己紹介している白と赤の姉妹。

 いやあ、美少女二人が並ぶと絵になるなあ……

 ……あれ、ちょっと待って、今さらっと重要な事言ってなかった?

 

「ね、ねえ? 今ちょっと……」

「で、どこから攫って来たの? 白状しなさい、今なら罪は軽いわよ」

「もうそれ止めない!? そのネタ引っ張り続けるの止めようよ!」

「大丈夫よ、私はちゃんと分かってるから。プライバシーの権利はちゃんとあるから、うん」

「もう遠坂さんワザとやってるでしょ!? 何、そんなに僕の事嫌い!?」

「っさいわね! 分かってるわよ!! ちょっと今色々あってイラついてるの! こうでもしないと怒りが発散出来ないのよ!!」

「理不尽すぎる理由だった!?」

 

 完全にそれ僕八つ当たりされてるよね!?

 もう泣くよ!? さすがに僕もう泣き出すよ!?

 

「いっとくけど、そのイライラの原因、半分くらいはアンタ関連だから。……で、マラカイトだっけ? 欲しいのって」

「あー、うん。そうなんだけど……」

「よしじゃあ“購買部に売ってるルビーと交換”ね。はい決定、それじゃあね」

「まってまって待ってぇッ!? 話が高速過ぎて付いて行けてないから!」

 

 スタスタと歩き去ろうとする遠坂さんを必死に止める。

 確かに本人の言った通り、かなり虫の居所が悪いらしい。

 

「ていうか本当どうしたのさ遠坂さん、こないだ会った時はそこまでイラついて無かったよね?」

「何か嫌な事でもあったの?」

 

 いやまあ、会った直後はプッツン状態だったけど。

 けどそれでも、その後は普通に戻ってたよね?

 

 

「別に。大した事じゃないわよ、ただ“変な小さな生き物”に大量に襲われただけで」

 

 

「変な小さな生き物?」

「何それ?」

「よく分からないわ。大体この位の大きさで、コスプレした人をデフォルメしたような姿で……とにかく、いろんな種類がいたわ」

「もしかして、動くお人形さん?」

「確かにある意味それっぽかったけど……」

 

 そう言って遠坂さんが片手を水平にして指した大きさは、どこか心当たりがあった。

 その大きさって、なんかつい最近何処かで……

 

「何か私が一人の時に襲われちゃってね。まあ、サーヴァントが霊体化してたから大事は無かったんだけど……けどその際、レアな宝石がいくつか盗まれちゃったのよ……ッ!!」

 

 ダンッ!!と 近くのテーブルを怒り任せに思いっきり叩く遠坂さん。

 とっておきの魔力込めた奴だったのにーッ!! と、そんな叫び声が食堂全体に響き渡った。

 あー……なるほど、それでイラついていたと……

 

「というわけで、大至急代わりの奴を補充しなきゃいけないのよ。だから、ちょうどいいからアンタ買って来なさい。利害の一致って奴よ」

「えー……けど、ルビーって確か500万とか馬鹿げた金額じゃなかったっけ?」

「ありすはよく分からないけど、マラカイトって言うのも、そこまでするものなの?」

 

 いや、ラニがそこまで高い物じゃないって言ってた筈だし、それだったら直接マラカイト買った方が遥かに安く済むと思うけど……

 

「言っておくけど、さっき購買部見たけどマラカイトなんて売ってなかったわよ。まああったとしても、私が先に全部買い占めておくけど」

「鬼だ!? アクマじゃなくて鬼がいるよ!?」

「オニ? アクマ?」

 

 等価交換どころじゃない!

 僕とラニの貸し借りの差が霞む程じゃないかなコレ!?

 

「まあとにかく頑張りなさい。私は今日、瑞希は既にお弁当食べてるらしいから一人で学食で食べてる予定だから、もし手に入ったらヨロシク〜」

「あ、ちょっとッ!?」

 

 そう言って、遠坂さんはマジで冗談抜きで行ってしまった。

 え、ええ〜……

 

「ちょっとコレ、無理難題過ぎるよ……」

「えっと、図書室の絵本で見た“かぐや姫”ってお話に似たような状況だね!」

 

 ああ、そういえばあったね、そんな場面……

 確か結婚したく無かったかぐや姫が、男達に無理難題言って諦めさせるって言う……

 あれ、もしかして遠坂さん、今回僕達助ける気ゼロ?

 

「うあー……とりあえず、売店いこっか」

「うん、分かった」

 

 

 

 ……とまあ、なんやかんやで売店まで行ってはみたものの……

 

 

 

「いらっしゃいませ!! 地獄の沙汰も金次第。月海原学園購買部へようこそ!」

「この天然ルビーって……」

「はい! 一個五百万PPTになります!」

 

 ですよねー。

 うん、一円足りとも安くなってなかったよ。いや、1PPT?

 

「お兄ちゃん、どうするの? コレ買うの?」

「いやいや、流石に無理だから、この値段だと」

 

 マラカイトの方も、確かに売ってないみたいだし……

 これはもう諦めるしか無い……と、普通は思うだろう。だが、僕はひと味違う!

 僕の華麗な交渉術を見よ!

 

「すみません、これ安くは出来ませんか?」

「申し訳ありません。もうほぼ仕入れ値で売ってるような状態で、これ以上下げる訳には……」

 

 ふむ、まあここまでは予想通り。

 本題は次からだ。

 

「ところで、この天然ルビーってどのくらいの大きさなんですか?」

「そうですねー……。大体直径3センチ程の大きさですかね」

「なるほど。ということは、直径三センチ程の大きさで、五百万PPT程の価値があるってことですよね?」

「まあ、そうですね」

 

 ここだ。

 ここが僕の狙い所だ!

 

「ということはつまり……“その宝石を半分に砕けば、半分の価値に成り下がる”って事ですよね!!」

「え、ええ!? それは……」

「で す よ ね !!」

「は、はい!」

 

 よっしゃあッ!! 

 以前葉月ちゃんのヌイグルミを買った時の失敗から学んで進化した交渉術!!

 あの時はヌイグルミだったから半分にしたらスプラッタな事になるからって無理だったけど、今回は無機物の鉱石!

 宝石は大きさによって価値を変えるって言うから、今回は通用する筈!

 多少問題はある気がするけど、そこは強引な駆け引きでなんとかカバー!!

 なんとかうまくいった!!

 

「なら、さらに半分にすれば、価値もまた半分になる……これを繰り返して、僕の手持ちの金額と同じ位の値段になった時に買えれば問題ない!」

「すっごーい! バカなお兄ちゃん、頭いいー!」

 

 あっはっは! 凄いでしょー!

 だから出来ればバカなお兄ちゃんっていうのは止めて欲しいなー!(割と切実)

 

「え、ええっと……ちなみに、いくらまで出せるのでしょうか?」

「あ、ちょっと待って下さい。確か、代理の端末に残ってるのは……」

 

 

 

 

 

【残金 173 PPT】

 

 

 

 

「このくらいで——」

 

「臓器売ってから出直してこいや」

 

「ええッ!!?」

 

「お兄ちゃん……」

 

 何故か急に口悪くなったんだけど!?

 店員さんのする態度じゃないよコレ!?

 そしてありすも何故かあの時の葉月ちゃんと同じ顔を向けて来てるんだけど!?

 

「え、えっと……あたしからも、少し出して上げよっか?」

「それはちょっと!?」

 

 明らかに小さい子のするような表情じゃない、優しそうな慈愛に満ちた顔で提案してくるありすを止める。

 そんな事したら、僕は幼女に借金する最低なゲス野郎に落ちてしまう!!

 流石にそれならバカと呼ばれた方が何百倍もましだ!

 

「分かりました、分かりましたッ!! じゃあ、こっちが代替案出しますから!」

 

 とかやってる内に、何か店員さんが見てられなくなったのかそう言いだした。

 

「あー、それじゃあ“桜さんの手作り弁当”を持って来てくれませんか?」

 

 ……あり? 手作り弁当?

 

「えっと……そんなのでいいの?」

「はい。なんでも、参加者達に配る予定があるそうで。しかし、私はNPCなので貰える訳も無く……どうしても、一度食べてみたいのです!」

 

 あれ、もしかしてこれ、凄いラッキー?

 五百万PPTが、まさかの手作り、しかも比較的仲のいい知り合いのお弁当なんて、凄いイージーモードになってない?

 あれ、僕なんか凄くラック上がってない!?

 

「……本当に、お弁当でいいんですね?」

「ええ、それでOKで——」

 

「ヨッシャ行くよありすッ!!」

「ふええ!? お兄ちゃーんッ!?」

 

 体の横でありすを抱え、そのまま売店を後にもうダッシュ。

 目指すは、スタート地点の保健室……大丈夫、もう何もかもうまくいくさ。

 あいてはあの桜さんだ。何か条件があっても、アーチャー差し出せば問題無しだ。

 イージーモード、万歳。

 

「あはは! お兄ちゃんこれ凄ーい! 揺れてるー!」

 

 そう有頂天気分になりながら高速スキップ移動で、すれ違う人たちに奇異の視線を向けられながらも、真っすぐ保健室に向かって行って……

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

「試作のお弁当なら、瑞希さんに上げてしまいましたよ? なんでも、参考にしたいとかで」

 

 

 

 

 

 

 イージー? 何それ、食えんの?

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

「ふう……早速私も、材料を集めて……」

 

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッ!!!」

 

 

「ひいッ!? あ、明久君、一体どうし」

 

「何も言わずに弁当ちょうだいぃッ!!!」

 

「ぅえっ!? お、お弁当ですか!? な、何で分かって……」

 

「どうしても(購買部の人が)食べたいんだぁッ!!」

 

「あ、明久君……っ! 分かりました、じゃあちょっとだけ待っ」

 

「で、交換条件は!?」

 

「はい?」

 

「交換する物は!? 何が欲しいの!? もう流れ分かってるから!! さあっ!」

 

「こ、交換ですか? えと、そ、それなら、手作り繋がりという事で、明久君の手作り料理が」

 

「僕の手作りね!? 分かったじゃあ材料集めて作ってくるから待っててねじゃあ!!」

 

「あ、明久君く————んっ!? ……行っちゃいました。はっ、こうしちゃいられません! 私も早く準備しないと! けど、明久君の手料理かあ……あう、でもよく考えたらこれ以上は太っちゃうかも……」

 

 

 ★☆★

 

 

 もう半ばヤケクソ状態になり、姫路さんと速攻で約束を取り付け、そこからさらに他の参加者やNPCを巻き込み竜の探索も真っ青なお使いイベントを繰り返して行き……

 

 

 

「レオ————ッ!!」

 

「おや、吉井さんですか。今度は一体どうし」

 

 

 

 

 

 

 

「何も言わずにパンツちょうだいィ——————————ッ!!!」

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 ————しばらくお待ちください————

 

 

 

 

 

「違うんだ……さっきのは違うんだ…………“ツ”が多かっただけで、本当は“パン”なんだ……ブレッドなんだ、噛んじゃったんだ……」

 

「相変わらず、予想の斜め上を行きますねえ」

 

 数十分後。

 暴走状態だった僕は頭を急激に冷やし、廊下の端っこで絶賛後悔中だった。

 ヤバい、すっごい恥ずかしい……ていうか、大声で同性のパンツを欲しがるって……

 

「それで、もう僕は何十人目の交換相手、という訳ですか?」

「うん……というか、ヤケクソ状態だったおかげか、途中の約束が何か微妙にあやふやで……」

「ある意味期待を裏切りませんね、あなたは」

 

 ああ、どうしよう。

 結局誰と誰と誰と……ていうか、何人と約束したっけ?

 

 

「ねえありす、頼んだ人の顔を覚え……って、あれ? ありす?」

 

 質問しようと思って横を見ると、いる筈のありすがいなくなってる。

 あれ? どこいった!?

 

「もしかして、白い服の少女ですか? 彼女なら、あなたがさっき降ろした直後に、フッと消えましたが」

「ええ!?」

 

 また転移したって事? 何で急に!?

 ……って、まさか僕が散々抱え上げて走り回ったから、嫌になって……?

 ヤバい……もしそうなら、急いで謝らないと……!! 

 

「しかし、彼女のアレは……やはり……」

「……って、ん? どうしたの、レオ?」

 

 何故か考え込む姿勢をとっているレオ。

 一体どうしたんだろう。

 

「吉井さん。彼女は、確かあなたの対戦相手でしたよね?」

「え、あ、うん……そうだね……」

 

 改めてその事実を聞かされると、気分が重くなる。

 分かってはいる事なんだけど……

 

 

 

「なるほど……なら一つ、情報を。彼女は【サイバーゴースト】ですね」

 

 

 ……? サイバー……? 何?

 

「以前から、参加者の中に異質な存在がまぎれていると噂があったので個人的に調べていましたが、今ので確信しました。彼女が聖杯戦争に紛れ込んだ、サイバーゴーストだと」

「えっと、サイバーゴースト、だっけ? それって、一体……?」

「肉体を持たない精神体……まあ、調べれば簡単に分かりますよ」

 

 ああ、そうそう。っと言って、レオは手持ちの端末を操作する。

 

「そう言えば、パンが欲しいんでしたね。いくつかストックしていましたから、そちらに送っておきます」

「あ、ありがとう……」

 

 そう言って、レオが端末の画面を押した後、僕の端末の方から音が鳴った。

 アイテムが届いた証拠だ。

 

「さて。とりあえず言える事は、あなたの三回戦の相手は今までとは一味違うという事です。では、ご武運を」

 

 そう言って、レオはその場から立ち去って行った。

 その後ろ姿をボーッと見ていると……

 

 

「……お兄ちゃん」

 

「あ、ありす!」

 

 背後から、ありすの声が聞こえて来た。

 振り返ってみると、彼女は少し気分が落ち込んだように立っていた。

 

「どうしたのさ、一体。急にいなくなっちゃってびっくりしたんだけど……」

「私、あの人苦手」

「え?」

 

 何故か急に、そんな事を言いだした。

 その表情は暗く、あまり気分は良く無いようだった。

 

「苦手って……一体どうして?」

 

 

「あの人、何か“太陽みたい”でイヤ」

 

 

「へ? 太陽?」

 

 太陽って……お日様の?

 それならむしろ、何か明るそうな人に見えて、良さそうな例えに聞こえるけど……

 

 

「……何でもない! 行こっ、お兄ちゃん!」

「え? あ……」

 

 そう言ってありすは僕の手を引っ張り、そのまま走り出した。

 僕はそれに付いて行きながらも、頭の中でさっきのレオの言葉の事を考えていた……

 

 

 ★☆★

 

 

 ……とまあ、なんやかんやあって。家庭科室。

 

「何とか無事、料理完成ーッ!!」

「わーっ!」

 

 パチパチッとありすの拍手が鳴り響き、目の前の僕の成果を見て半ば感動を覚える。

 長かった……本当に長かった……

 いや、まだ後姫路さん達が残ってるけど、それでも長かった……ッ!!

 

「すっごく美味しそうだね! これ何て言うの?」

「ん、ああ。これは【パエリア】って言うんだよ」

「パエリア?」

 

 結局作ったのは、僕の好物でもある得意料理にした。

 僕独自のアレンジも加えた、舌を唸らす一品だ。

 

「ヤケクソになってる内に以外と材料が多く集まったから、とりあえず多めに作ったけど正解だったね。姫路さんに渡す分以外も十分あるし」

 

 これなら、そのままセイバーとキャスターにお詫びの品としても十分かもしれない。

 プレゼントとかも、手作りって方が心がこもって伝わりやすいしね。

 まさに一石二鳥。

 

「ありすも食べてみる?」

「うん!」

 

 ほら、あーんっと、スプーンに乗せてありすの口元に運ぶ。

 ありすはいつかの時と同じように口を開けて、パクリっと。

 

「んーッ!! 美味しい! お兄ちゃん、これもすっごく美味しいよ!」

「そっか。よかったよかった」

 

 幸せそうな表情をしているありすをみて、僕も満足する。

 その後、中くらいのお皿を取り出し、そこに作った料理を盛りつけてラップを掛けた。

 

「はい、コレ。どうせなら、アリスの方にも持っていって上げて。お裾分け」

「え? いいの!」

「うん。大丈夫、まだ沢山あるから」

 

 さて。後配る人は、姫路さんとセイバー、キャスター以外に、遠坂さんとラニ……

 って、あー……そう言えばラニってすでに食べてたんだっけ?

 遠坂さんも、食堂でご飯食べて待ってるって……流石に食えないか。

 じゃあ二人の分を桜さんと、一応アーチャーの分として……うん、なんとかなりそうだね。

 

「……お兄ちゃん。本当に、ありがとう」

「ん? どうしたの、改まって?」

 

 料理に使った器具を洗いながら、ありすの声に耳を傾ける。

 流石に包丁とかもあるので、視線はシンクの中だった。

 

「いっぱい、いっぱい。本当に楽しかった」

 

 蛇口から水を流す音が響きながらも、その中で透き通るような声が耳に聞こえてくる。

 

「先生と、お兄ちゃんと……どっちも優しくて、嬉しかった」

 

 カチャカチャと、食器どうしがこすれる音があまり入ってこない。

 ただ、ありすの声が聞こえるだけ。

 

「もうすぐ、最後の日が来る。だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————バ イ バ イ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……? ありす……?」

 

 

 視線を向けると、そこに彼女はいなかった。

 

 まるで、始めから誰もいなかったように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

【オマケ】

 

 

『……おいおい嬢ちゃん。さすがにあれは無かったんじゃないか? ボッタクリにも程があるぜ』

 

「そ、そりゃあ、確かに調子乗りすぎたかな〜っとは思ってるわよ……」

 

 食堂のテーブル。

 そこでちょうど食い終えた凛の嬢ちゃんと、霊体化した俺がさっきの事について話していた。

 

「さすがにあれはただの冗談よ。手に入りませんでしたーって謝りに来たら、その時点で少し位分けて上げるつもりよ」

『だったら始めからそうすりゃいいものの……』

「う、うるさいわね! いいじゃない、アイツも悩みの種の原因の一部だし、少し位謝罪の姿見ても文句ないでしょ!?」

『ぶっちゃけ、その大半が嬢ちゃんから心配しなきゃ殆ど解決な訳なんだが……いや、ワリィ嬢ちゃん言い過ぎたから令呪チラ付かせるのはやめろって』

 

 やれやれ、素直じゃねえなあ……

 

 

「お〜いっ! 遠坂さ〜んッ!」

 

 

『と、噂をすれば、か……』

 

 そうこうしてるうちに、例の坊主がコッチに向かって走って来た。

 

「おそかったじゃない、吉井。それで、ルビーは手に入ったの? まあ、無理だったで」

 

「はい、コレ」

 

「しょ、う…………うん?」

 

 そう言って、坊主が嬢ちゃんに手渡したのは、赤い大粒のキラキラした……って、

 

「……え……え?」

「それじゃあ、マラカイトは?」

「え、あ……はい」

「へー、これが……うん、ありがとう! じゃ、もう行かなきゃ! またねー!」

 

 そう言って、坊主は本当に急いでいたのか慌ただしく走り去って行った。

 後に残ったのは、呆然とした嬢ちゃんと、俺。

 

 ……あ、これヤバい。何か嬢ちゃんがヤバい。具体的に言うと、逆切れという名のダイナマイトの導火線に火がついてる。

 

 

「あー……ランサー君、いるかね?」

 

『って、ゲッ!? 言峰!?』

 

 よりにもよって、このタイミングで最悪な奴が来やがった!?

 急いで霊体化を解き、奴の前に現れる。

 

「おい! 一体何の用事だ!? 出来ればさっさと……」

「いやあ、済まない。至急、君に臨時のバイトに入ってもらいたくてね」

「はあ!? バイト!? シフトは完全休息日の時だけで、猶予期間中はやらないって契約だっただろうが!」

 

 さすがに相手の情報を探る時間を割いてまで、バイトなんかにかまけている程余裕は無い。

 赤い野郎の方も、同じ契約だった筈だ。

 

「実は、先ほど購買部担当のNPCが何故か深刻なバグが発生してしまってね。修復にかなり時間がかかるらしい。すぐに代理に入れる物で、尚かつある程度経験のある者と言えば、君しかいないのだよ」

「バグって、一体何が? ……ん? ちょっと待って、購買部だと!!?」

「では、頼んだぞ!?」

「いやちょっと待て言峰!? ダメだ、俺は今回絶対ダメだ!? やっちゃいけないっておい!? 待て————ハッ!?」

 

 背後から尋常じゃない気配。

 

 恐る恐る、振り返ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「   ア   ハ   ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにはアクマが笑みを浮かべていた。

 

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