Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス) 作:新月
新年最初の投稿。
「サムいサムいサムいサムいサムいサムいサムいサムいサムいサムい寒ぅッ!??」
三回戦の決戦場。
そこに降りた僕達を待っていたのは、息も凍るような寒さと、遠くが見えなくなる程の猛吹雪だった。
「ちょっとおっ!? 悪天候ってレベルじゃないよねコレ!? もうちょっとした氷河期だよね!?」
「沈没船、廃墟と続いて、今度は極寒の地か……そういえば、人は体温が34℃になった時点で意識障害が起こり始め、33℃になると筋肉をうまく使えなくなるらしい。凍傷の心配もあるし、この寒さの中このまま外に居続けるのは不味いな」
「何冷静に状況分析してるんですかそこの紅茶! 結構余裕そうですね!」
「というか、何気にそなたの格好一番暖かそうだな!? ずるいぞ、一人だけ!!」
「逆ギレするな! というか、そんな露出だらけの格好している君たちが悪いんだろう!?」
凍えそうな状態の中、いつものようなハイテンションさで会話する僕達。そうでもしないと寒すぎてやってらんない。
けど確かに、僕とアーチャーはまだ露出が少ないからいいとして、セイバーとキャスターの格好は本当に寒そうだ。
防寒具なんて一切持っていないから、このままだと冗談抜きに凍え死ぬ……
しかも、手に持っているヴォーパルの剣が冷たすぎるし……まあ金属製っぽいし。
「ねえ、この剣今は端末に仕舞っといていいかな……正直、持ち手の部分が冷たすぎて普通に凍りそうなんだけど」
「気持ちは分かるが、今は持っていた方がいいだろう。いつあの転移で奇襲をかけられるか分からんし、それがなかったらその怪物には対処出来ん」
「だよね……」
当然の事だけど、そんな事は出来ないよね……手がかじかむのを必死で我慢し、なんとか握り続ける。
「ていうか、こんな場所でありす達は一体どこにいったんだろう?」
「正直、この寒さの中で勝手に自滅してくれていればラッキーなんですけど……」
「さすがにそれは楽観視しすぎだろう、あの二人は瞬間転移が出来る。短時間で長距離を移動出来、もし近くに安全圏があるならすぐにそれを見つけ、避難している可能性が高い」
「そう言えば、前に一緒に戦った時になんかありすが炎とかだしてたっけ……」
「つまり、向こうはいつでも暖をとれるという事ではないか! なら、少なくともあの幼女達は凍死で脱落という事はないのだな……」
いつもの事と言えばそうなんだけど、なんでどの戦いも僕達に不利になるような状況ばっかなんだろう……
幸運が低いせいといえば、それまでなんだけどさあ……
「とにかく、この場を移動した方がいい。もしここで戦闘になったとしたら、我々が完全に不利だ。最低でも、この吹雪を避けられる場所を探そう」
「とはいっても、一体どこにいけばいいのさ! 視界悪すぎて遠くが見えないし、第一そんな都合のいい場所なんて本当にあるかどうか……」
「奏者。いっその事、かまくらでも作ってみるか?」
「なんで大剣構えながらソワソワしてるの!? まさかのスコップ代わりそれ!? ていうか以外と元気そうだね!?」
割とワクワクした表情で言って来たのを見て、実は結構余裕そうに思えた。
ていうか、内心この状況楽しんでる?
「うむ、正直生前ここまで雪が積もってるのはあまり見た事が無くてな。ローマじゃ雪は珍しいし。しかもムーンセルから得た知識で“雪祭り”というものがあるそうではないか! こんな状況じゃなかったなら、余の芸術スキルをフル活用して“雪像”というものにもチャレンジしたい」
「さすがにここでは自重してね……ていうか、今さらっと重要な事言ってなかった?」
主に真名に関する情報を。
セイバーもあっ……という表情をしている。
「そんな事より、あの雪山っぽいのちょっとおかしくありません?」
「いやまあ、そんな事って切り捨てられるような事じゃ無かったかもしれないけど……おかしいって?」
「何て言うか、あの形……ちょっと行ってみましょう!」
「あ、ちょっと!?」
急にキャスターが走り出し、僕達もそれを直ぐに後を追う。
雪に足を取られ、なかなか早く移動は出来なかったけど、視界が悪かっただけで思ったより距離は無く、直ぐに目的の場所に付いた。
「キャスター、一体どうしたの……って、これって」
「はい。間違いありませんね……」
そこで改めてその雪山をみると、上に大量の雪が積もっていただけで、その下には……
「これは……“石で出来た建造物”か?」
「うむ、なんと言うか……随分シンプルな形の小屋みたいだな」
セイバーの言う通り、見た目はおおきな円柱に三角錐の屋根を乗せた、まるで子供の積み木のような形をしていた。
よく見ると、外壁のあまり雪の積もっていないところに、窓らしき穴が空いている。
「ほら、ここから入れそうですよ」
「なら、コレで一応寒さを凌げる場所は確保出来たな」
「あくまでマシ、というレベルだがな。暖房なんて無さそうだぞ……」
「とにかく、さっさと中に入ろうよ。もう手が真っ赤を通り越して真っ青で……」
そう言って、早速僕達はその小屋っぽい所に入って行った。
一応、ありす達が先に入っていないか注意をしながら。けれど、それは杞憂だったみたいだ。
「むう、中も殺風景だな。机も何も無いではないか」
「ドアもありませんし、小屋って訳でも無かったですね」
「まあ強いて言うなら、そこの窓らしき穴から入って来た雪が床に積もってるのと……」
「————いかにも入って下さいと言わんばかりの階段、だな……」
……そう、この円柱の建物の端の床に、謎の地下への階段がポッカリと空いていた。
何処かに繋がっていて風が入って来ているのか、オォー……と不気味な反響がそこから鳴り響いている。
「これは……降りろって事、かな? やっぱり」
「だろうな……このままここで足踏みしているというのも、あまり得策とは言えないだろう」
「あの幼女達も、すでに我等よりも先に降りている可能性も高いしな」
「さて、結局どうしますかご主人様。このままここであの幼女達が来るのを待つか、この何処へ続くか分からない階段を降りて行くか……」
キャスターの質問に、僕は一瞬悩み……
「……降りよう」
前に進む選択をした。
「ここもまだ寒すぎるし、いざありす達と出会って戦ったとしてもこの狭い部屋じゃ碌に動けない。だからって、外の猛吹雪の中でっていうのも辛いしね。だったら、もしかしたらマシな場所があるかもしれない前に進むよ」
まあ、進む先が地下って以上、ここより狭い場所で遭遇する可能性も高いって訳でもあるけど、その時はその時だ。
「なるほど、君の考えはよく分かった」
「うむ、なら決まりだ。準備はよいか?」
「うん。いつでも」
そう言って、僕達は階段の目の前に集まって立った。
僕が先頭で、後ろに三人が固まって並ぶいつもの陣形だ。
ここから先は、何が起こるか分からない……僕は気を引き締めながら、手に持ったヴォーパルの剣を握り直す。
「じゃあ、行くよ!」
そう掛け声を出し、僕は階段へ第一歩を踏み降ろし……
“そのままツルッと足を滑らせた”。
「ヘーーーーえっ?」
一瞬感じる無重力。
気づいた時には既に体は斜めになり、そのまま転びそうになる直前……
「ちょっ?! ご主人様、私の服の裾つか————っ!?」
とっさに握ってしまったのが、キャスターの服だったらしく、
「「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ——————————っっっ!!???」」
そのまま一緒に転げ落ちたぁ————!?
「んなっ?!」
「奏者ァーッ!? キャスタァーッ!?」
セイバー達の叫び声を置き去りに、僕達は止まらずに落ちて行った……
★☆★
「ふにゃああああっ!? ご主人様ああああああっ!?」
「まさかの階段凍ってたあ!? 痛っ!? またぶつけたあ!!」
螺旋状になっていた階段を、滑り台を滑るように転がり落ちて行く僕達。
体制を立て直し止まろうにも、階段の全ての表面が凍り付いてしまっているらしく、踏ん張りが利かない。
というか、滑っているとはいえ結局は階段なのだから、段差ですっごい体が痛い!
「イタイイタイイタいッ?! もう体中あちこちぶつけて痛い!!」
「ちょ!? これどこまで続くんですかあ!?」
「分からないよ! って、あれもしかして出口!?」
そうこうしている内に、意外と早く階段の終わりが前に見えて、どこか平らな通路に繋がっているっぽい。
「やー、助かっ……」
そう呟きながら、最後の階段を下りて……
「「って、ここも凍ってた————っ?!」」
そのままさらに平らな通路でうつぶせになって加速した。
これマジで止まらない!?
「これ本当にどこに続いてんですか!? ていうかマジ冷たいです!! 主に胸とか腕とか太ももとか、あと胸!!」
「あー、確かにキャスターのその衣装、そこ凄い露出してるもんねー。ていうか止まってー!?」
一瞬現実逃避しながら、そのまま騒ぎながら滑り続け。
気がついたら、大きめの部屋の中に突入していた。
「あれ、ここは……?」
「ご主人様!? 前、壁ーっ!!」
疑問を挟む暇もなく、その部屋の床も凍っていてそのまま加速し続け。
目の前には、大きな壁ーーッ!?
「ぶつかります————っ!?」
「くッ! キャスター、捕まって!!」
僕はそう言いながら、一緒に滑っていたキャスターを左腕でたぐり寄せ、同時に右腕は大きく振りかぶり……
「ウォールブレイク改造版!! 【ウォールブレイク・インパクト】ッ!!」
そのまま壁を殴りつける!
それはいつもと違い、パァンッ! と軽い破裂音を出した後……
「はあっはあ……」
「と、止まりましたあ……」
僕達の動きが、その場で止まる結果になった……
★☆★
「はー、助かりましたねえ……」
「ホントにね……あのままぶつかってたら、首の骨折れたんじゃない?」
「それはさすがに大げさかもしれませんが……あー、けど私の防御力も一般女性並みに落ちていましたっけ……」
あの時スピードが普通に自動車並みにあったし、いくらサーヴァント並みの体とは言え、そこそこのダメージはあっただろう。
特にキャスターの方は、彼女のいう通り今はステータスダウン中だし、かなりヤバかった筈だ。
「けど良かったですよ、ご主人様の新スキルのおかげで何とか無事で。というか、いつの間に作ってたんですか?」
とりあえず一難さってホッとしたのか、キャスターがさっき疲労したスキルの事を聞いて来た。
あーいや、あれは……
「新しく作ったっていうか……実は、前のウォールブレイクを改造っていうか、“弱体化”? させたものなんだよねえ……」
「はい? 弱体化!?」
僕の言った言葉に、キャスターはおおいに驚いた。
まあそうだよね、普通は強化するもんだよね。
「えっと、さっきのウォールブレイク・インパクトは、その名の通り衝撃を発生させる技なんだ。大きな違いは、あくまで衝撃を出すだけってとこかな」
「あー、だからさっきご主人様が思いっきり殴ったにも関わらず、一切壊れていないと……」
そう言いながらキャスターが視線を向けたのは、さっき僕達がぶつかりそうになった壁。
そこには全く崩れて壊れた様子も無く、奇麗な壁のままだった。
「普通のウォールブレイクより、魔力を使う量が遥かに少ないし、対人戦で怯ませるだけならこれで十分かなって」
ウォールブレイクのまんまだと、壁以外に使う時どうしてもランクが下がっちゃうからさ。
それならダメージ狙いより、吹っ飛ばす効果だけにしぼった方がいいかなと思ったからね。
「なるほど。確かにそっちの方が使い勝手がよさそうですねー、それ」
「そうでしょ、そうでしょ」
「しかも、さっきとっさに使ってうまく私達の動き止めるだけの結果……相当精密なコントロールの練習をしたんでしょうねー」
「うんうん。いやー、大変だったよ」
「————何でそんな技を、こんなタイミングで開発したんですか?」
「————っ」
その言葉に、一瞬言葉が詰まる。
「……さっき言ったでしょ。魔力の消費が少ないから、対人戦とかならこっちの方がいいかなって」
「ええ、そうですね。それは本当の事でしょう。……けれど、それ以外にもありますよね、理由。わざわざあのロリッ子達の決戦前に作った」
ジッとこっちを真剣に見つめながら、そう確信するかのように聞いてくるキャスター。
……キャスターの言いたい事は、つまりこう言う事だろう。
僕がこのスキルを作った本当の目的は、ありす達と戦う際に……
「……まあいいです。とりあえず、その事は置いときましょう」
そう切り替えるように言って、ヨイショっと彼女はその場に立ち上がろうとして……そのままズテッと転んだ。
「ふみゃあっ!? いったぁーっ!! 何ですか、もう! まさかここら一体、全面凍ってるんですか!?」
「そう言えば、気になったんだけどさ……ここって、何か変じゃない?」
そう言って、僕は改めてこの部屋を見渡す。
壁に等間隔で掛けられた小さなたいまつのおかげで、部屋の中は明るかった。
気になった点は、ここまでの床が階段含め全部凍っていた事。
そして、よく見ると壁には絵画などが掛けられているなど、結構な装飾が施されている。
思い返してみれば、さっきの平らな通路の部分も似たような物だった。
「確かにそうですね……」
「何ていうかさ、地下にあるにしては以外と明るい雰囲気だし、豪華な感じっていうか……」
「……あ、まさか!」
僕が胸につかえたモヤモヤを表せないうちに、キャスターが尻尾をピーンと伸ばして何かに気づいた。
「もしかして、ここって地下じゃなくて……
————“大きなお城の中”なんじゃないですか?」
「……へ? お城?」
彼女から出たその答えに、一瞬呆けてしまった。
「ええ、多分そうです! この華美な装飾と言い、さっき私達が入って来た小屋の部分が塔の先の所だと考えれば、以外とコレで合ってるんじゃないですか!? 何かお伽話とかに出てくるお城の形って、大体こんな感じですし!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!? だって僕達、上から入って来たんだよ!? そもそもエレベーターから下りたとき、目の前には一面の雪景色しか……」
「ですが、そもそも私達はあの場所の積雪量を把握してませんでした。もしここに地面があるとして、そこから積もった雪の高さが予想より遥かに上だったとしたら……」
「ちょっとした建物だったら、埋まってる……?」
という事は……?
そんな僕の表情に対し、キャスターはええ、と頷き返し、
「今度の決戦の舞台は、“雪に埋もれたお城の中”というわけです。……それも、床が全面凍った」
そう、僕達が戦う舞台の事を説明した。
「はー……またとんでもない舞台だね……」
「本当ですよ。私達が小屋だと思った部分は、実際には氷山の一角ならぬ、“氷城の一角”といった所ですね。石製ですが、あちこち凍ってますし」
あ、それ上手い。……なんて思ってる場合じゃなくて。
「けど、どうしようか? こんな足場じゃ、戦闘どころじゃないよ」
壁にしっかり手を付いて、プルプルと足を振るわせながら立ち上がる僕達。
予想以上にこの氷は滑りやすく、もうちょっとしたスケート場だ。
これなら、やっぱり外で戦った方が良かったかなー……と、早速ちょっと後悔中。
「そうですねー、とりあえず移動はご主人様の新スキルでなんとか出来るとして、まずははぐれたセイバー達と合流が先ですね。……というかご主人様、一つ確認したいんですけ」
——■■■■ッ!!
「っこの声!?」
「ジャバウォックッ!?」
いつぞやの咆哮が、僕達が入って来た通路から響いて来た!
予想はしていたけど、こんな状況で遭遇する何て!
「■■■■■■■——ッ!!」
以前見たままの巨体が、猛スピードで加速しながら入ってくる!
このままだと、ぶつかる————!
「ご主人様!」
「分かってる! ウォールブレイク・インパクトッ!!」
ジャバウォックがぶつかる前に、キャスターを片手で捕まえてさっきと同じようにスキルを壁に放つ!
そして今度は逆に、僕達がその場から“斜めに”弾き飛ぶように離れて行く。
「ふみゃ! いたた……でも、これで!」
途中で体制を崩しまた倒れたけど、直ぐ部屋の別の壁に当たって止まった。
ジャバウォックの方を見ると、さっきまで僕達がいた所にまだ直進を続けていて加速していく!
今度は、向こうが衝突する! 何も出来ずに、このまま自滅だ!
「■■■■■——ッ!!」
そう思っていたら、ジャバウォックはそう咆哮を上げて……
“クルッとこっちにターンして来た”
「は————? え!?」
「嘘でしょおッ?!」
壁にぶつからずにそのままのスピードでこっちに向かって来た!?
いそいでまたさっきのようにスキルを使ってこの場から離れる!!
が、それでもまた奇麗なターンを描いてこっちを追いかけてくる!?
「どうなってんのさ!? あの巨体で、どうやってあんな動きを……!?」
「っあーッ!? ご主人様、あいつの足ーッ!!」
「え、足? ……んなあッ!?」
キャスターのその言葉に、逃げに徹しながらもチラッとジャバウォックの足下をよく見ると……
「■■——♪」←“スケート靴装備中”
「「ズッル!??」」
まさかのスケート靴!? いつそんなの用意してた!?
ていうか滑れたのアレ!?
「くう! 多分あのロリッ子達の仕業でしょうね、先にここに来て足場が氷付けなのに気づいて、なんらかの能力を用いて作ったんでしょう! 向こうもキャスタークラスだし、道具作成は得意分野の筈です!」
「だからって、何でスケート靴!? (多分)鼻歌歌いながらあの巨体が滑ってるのって、めっちゃシュール何だけど!!」
「あ! 今トリプルアクセルしました! 無駄に上手え!?」
下手なプロよりも上手な滑りを見せながら追ってくるジャバウォック。
ツッコミどころは満載だけど、今はそれは置いておくしか無い!
「そんな事より、ありす達は!! 一緒に来てないの!?」
「いえ、多分あいつだけでしょうね。もっとも、こっちの現在位置がロリ達に知られればすぐに転移してくる可能性はありますが」
「そっか、だったらッ!!」
僕は移動した先にあった壁で止まり、それを背にしてジャバウォックに向き直る。
「今ここで、コイツだけでも倒しておこう! ありす達と合流されたら、さらに厄介な事になる!」
「けど、ご主人様!」
「大丈夫、ちゃんと対策はしてあるでしょ!」
そう、以前はあの圧倒的な存在感に勝算など考えられなかった。
けれど、今の僕なら違うと言いきれる。
このヴォーパルの剣なら、何とかなる筈だって!
そう自分に言い聞かせながら、僕は何も持っていない両手を構える。
「そうだよ、ラニに作ってもらったこれがあれば————————あれ、ば?」
……そこで、ふと違和感。自分の両手を改めて見直す。
「……ご主人様。さっき聞きそびれた事なんですけど、というか先に聞くべき事だったんですけど……
————なんで私を抱えながら、壁を殴れたんですか?」
★☆★
————その頃のセイバー達
「なあ紅茶!? ここにあるのって、ヴォーパルの剣ではないのか!?」
「おいまさかマスターの奴……!?」
★☆★
「落としたあああああああああああああああああああああああっ!!???」
「何やってんですかあああああああああああああああああああっ!!???」
痛恨のミス。
ザ・落とし物★
「だってあんな転び方して、ずっと転がり落ちてたし!! あんな長くて危険な刃物、転がりながら持ち続けられる訳ないでしょ!?」
「どーすんですか!? あの剣無いとあの怪物倒せないでにゃあああああああっ!!? 来たああああああああッ!!」
そうこうしている内に、またジャバウォックがスケーティングして加速して迫ってくる!
こっちもまた壁を殴って離れ急いで逃げ出した!!
「ちょっ!? 真面目にどうしよう!! 流石に真っ正面からアレに勝てる気はしないんだけど!」
「とにかく今は逃げましょう! セイバー達が拾ってくれている事を祈るしか無いです!!」
つまり、セイバー達と合流するまで逃げ続けろって事!?
「とりあえずこの部屋から出ましょう! ここじゃそれほど広く無いし、相手の機動力じゃこのまま攻撃を避け続けるのは無理です!」
「分かった! ゴメンちょっと持ち直すね!」
「ふにゃ!? ちょっ!?」
僕は滑りながらキャスターを左肩に上げ、俵担ぎの要領で持ち上げた。
「すいませんご主人様! いくらなんでも女の子にこれは無いんじゃないでしょうかと申し上げたいんですけど!? どうせならお姫様抱っこで!」
「無茶言わないでよ! これからさらに連続インパクト使わなきゃいけないんだから、せめて片手は自由に使えないと! というか後ろの様子を見ててよ!」
只でさえここから全力で逃げなくてはいけないんだから、一々背後の様子を見続けて何ていられない!
その為にキャスターの頭が後ろを向くように担ぎ上げたんだから!
「それじゃ! 逃げるよ!」
そう言って、僕はまた壁を殴って僕達が入って来た入り口に戻って行く。
その直ぐ後ろの方で、ジャバウォックが僕達の後を追いかけて来たのがスケートの音で分かった。
「ご主人様、向こうの方が早いです! このままじゃ追いつかれます!!」
「何か手は……あ、あそこだ!」
そこで見つけたのは、来る時には気がつかなかった別の通路の道。
よく見たら、こっちよりせまく天井が低い!
「っけえ!」
そうと決まれば、僕は迷いも無くそこに入り込む!
ここなら、あのジャバウォックの大きさじゃ入って来れない筈!
「とりあえず、一安心……」
「うにゃあああああああああああああああッ?!!」
「ど、どうしたの!?」
「じゃ、ジャバウォックが……ッ!!」
まさか、これでも追いかけて来たの!?
確かによく考えたら、立ったままなら入れないだろうけど、ヘッドスライディングとかして低い姿勢になれば……!
「“イナバウアー”で追って来てるんですけど————————ッ!!?」
「何でっ?!」
「■■——♪」
何故にイナバウアー!? うわあ本当にやってるよ!?
しかもフォームめっちゃ奇麗!! それが逆にすっごい不気味だけど!!
「何ですかアレ!? アイツ何がやりたいんですか!? 自分のスケート技術見せ付けたいんですかアレ!?」
「もうあれオリンピック出られるよ! インパクトで十分金メダル取れるよ!! しかもスッゴイ楽しそう!!」
「ふにゃああああああああ!! その格好のまま来んなあああああああああ!!」
……そうして阿鼻叫喚が響く中、凍った城の中での不気味すぎる追いかけっこが始まった……
【ステータスが更新されました】
■マスター:吉井明久
<スキル>
・ウォールブレイク・インパクト:D-
通常ウォールブレイクの改造版、というより弱体化版。
ダメージは一切与えられず、攻撃を受けた相手を吹っ飛ばすだけという技。
代わりに魔力消費量がかなり低くなっている。
ちなみに、殴った相手の方が自分より重かったりした場合、“逆に自分の方が反動で吹っ飛ばされてしまう”ので注意。