Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス)   作:新月

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久々の更新で、文字数が何時もより多め。



氷上の競技会

「ウォールブレイク・インパクトッ! ウォールブレイク・インパクトッ!! ウォールブレイク・インパクトォッ!!!」

 

「■■■■■——ッ!!」

 

 氷漬けの城の中、キャスターを担いだまま連続でスキルを壁に放ちながら、僕達は逃げていた。

 城の中はまるで軽い迷路状態で、大小様々な通路があちこちに繋がっている。

 ジャバウォックを振り切る為に、ランダムに右へ左へと通路に入って行き逃げ切ろうとするけど、その度にあの化物は例のごとくスケートの技を披露しながら追ってくる。しかも超早い。

 

「ていうか、何で技披露しながらあんだけスピード出せるのさ!? 向こうなんかおかしく無い!?」

「ご主人様、もっとスピード上げられないんですか!? このままじゃ追いつかれちゃいます!!」

「無理! 正直これが精一杯なんだよ! こっちは壁伝いに行くしか無いし!」

 

 そう、この鬼ごっこは只でさえ僕達が不利だ。

 僕達がこの凍った床を素早く移動する為には、スキルで壁を殴りつけてその反動で動くしか無い。

 そのため移動出来る場所は必然的に壁がある場所だけになるうえに、廊下などでは進む方向に対して背後に壁なんて殆ど存在しない。

 そこを進む為には直線での移動は出来ず、まるでホッケーのように斜めに弾んで移動するしかないので、移動時間にかなりのロスが生じてしまう。

 

 逆に向こうはスケート靴を装備しているため、床が凍っている場所なら自由に移動出来、しかも直線やカーブどちらも対応出来て、移動のロスが殆ど無い。

 完全に、向こうが優位な状態だった。

 

「このままじゃ……何か打つ手は……と、ウォールブレイク・インパクトッ!!」

「……ひらめきましたッ!」

「ホント!? キャスター!」

 

 そう言って、自信満々に言うキャスターの案は……

 

 

 

「【電光石火】と名付けましょう!!」

 

 

「何がっ?!」

「いえ、この移動方法の事を」

 

 激しくどうでもいい事だった。

 

「ホントに何言ってるのさ!? 名前なんてどうでもいいでしょ! 逃げ切る作戦考えてたんじゃないの!?」

「だってご主人様、さっきからインパクトインパクトうるさ過ぎるんですよ!! おかげで作戦考えるのに集中すら出来ないんですよ!!」

「知らないよ!?」

 

 だったら何で技名の方を考えていたの!?

 その力を作戦を考える方に回してよ!!

 

「■■■■■——ッ!!」

 

「ほらあ! 直ぐそこまでジャバウォックが迫って来てるんだから、真面目に考えてよ!」

「あ、もう一ついいですか?」

「何、どうでもいい事なら後に……」

 

 

 

「ぶっちゃけ、酔っちゃったんですけど……」

 

 

「こっちも危機が迫ってたよ!?」

 

 このタイミングでとんでもない告白してきたよこの狐さん!?

 何、まさか乗り物酔い!?

 

「あー……、だめ、ホントにヤバいです……只でさえ後ろ向きで担がれている上に、“うるさ過ぎる声”と”左右に揺れて移動する”ものですから、尋常じゃないです。関係無い事考えて、気紛らわしていたんですけど……うぷっ」

「技名考えてたのもそれが理由!? ていうかちょっと待って、まさか限界!?」

「あー、もう喉まででかかって……」

「まってまって待ってえッ!? それ以上は不味いから! ヒロインの一人としてそれは本格的にマズ————ッ」

 

 そうあーだこーだテンパっているうちに……

 

 

 ——————何故か感じる無重力。

 

 

「「……はい?」」

 

 ……足下に視線を向けてみる。床が無い。

 正確には、下の方に階段が……って、

 

「「飛び出したああああああッ!?」」

 

 よそ見しているうちに、そのままの勢いで階段の所を飛び出してしまっていた!

 完全に予想外の上に、踏ん張りが利かず体が仰け反り、空中で体制を崩す。

 目の前には、踊り場の壁……このままじゃぶつかる!

 手は届かず、間に合わない……!

 

 

「こ、……のぉ————ッ!!!」

 

 

 僕はとっさに足を出し、階段の踊り場の壁に付く瞬間にキックする!!

 ダアンッ!! と激しい音が鳴り響き、そのまま反動で下の段も飛び越えて、下の階の廊下に直接着地した!

 

「ふにゃあっ!?」

「つおっとと……とお!」 

 

 赤い配管工もビックリな壁キックアクションをした後、なんとかうまく着地した!

 体制を崩しかけたけどギリギリ踏みとどまり、そのまままた滑って行く。

 せ、セーフ……何とかうまくいった……

 

「び、ビックリしました……おかげで血の気とともに酔いも少し引きましたよ……」

「それは良かったよ……それにしても、壁の方は凍ってなくてよかったよ。それに、遠坂さんの言葉が無かったら、どうなっていたか……」

「はい? 遠坂さん?」

「『今時のウィザードは“壁キック”は必須スキルよ』って」

「そんな必須スキル存在しませんよ!?」

 

 けど実際役立ったし。

 まさかコレが生かされる機会がくるとはなあ……

 人生何が役立つかホント分からないね、うん。遠坂さん、ありがとう。

 

「■■■■■——ッ!?」

 

「っ!? 今のジャバウォックの声って……」

「あっ!? あいつ後ろの方で倒れています!!」

 

 何!? そう思って首を後ろに向けると、確かにジャバウォックが転んでいた!

 直ぐに立ち上がろうとしているけど、ちょっと手こずっているっぽい。

 

「あいつ、多分スケート靴ですからご主人様みたく壁キックを出来なかったんですよ! それで階段のところで転がり落ちたんです!!」

「ホント!? ラッキー!」

 

 確かにスケート靴じゃ蹴りには向かないだろう!

 いやまあ、人に向けたら普通に痛いけど、壁に対してだと足くじきそうだし!

 

「ご主人様! このまま階段を見つけて下へ下へと逃げ続けて下さい! そうすれば、あの怪物は階段の所で立ち上がりが遅いので私達をすぐには追いかけて来れません!」

 

「分かった! そうと決まれば、このまま逃げ続けて……」

 

 そう希望を見つけたと思った瞬間、

 

 

 

 

「お兄ちゃん、みーつけた♪」

 

 

 

 会いたく無かった二人の声がした。

 

「ありす……ッ!!」

「……お兄ちゃん」

 

 僕達の滑っている進行方向に、立ちはだかるようにありすとアリスが立っていた。

 

「な!? 幼女達が目の前にいるんですか!!」

「なあに、狐のオバさん。文字通り、お荷物さん?」

 

 後ろ向きで担がれているキャスターをみて、クスクスとアリスが笑う。

 折角ジャバウォックから振り切れると思ったのに……!

 

「さあ、お兄ちゃん達。ここであたし達と……」

「くっ……!」

 

 そう言いながら差し出される片手。まるで招待するように。

 それに向かって、僕達は止まる事も出来ず進んで行き……

 

 

 

 

 

 

 ————そのまま二人の横を通り過ぎてしまった。

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 何事も無く通り過ぎてしまい、疑問に思って後ろを振り返って見ようとする。

 あれ、いない?

 

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」

 

 すると何故かまた前方から声が聞こえて来て、視線を戻すとまたそこにありすとアリスが立っていた。

 多分、また例の転移を使って先回りしたんだろう。

 

「全く、話の途中で通り過ぎるなんて、失礼じゃないかしら」

 

 もうっ、とそう言って怒った後、コホンと仕切り直して、

 

 

「さあ、お兄ちゃん達。ここで私達と……」

 

 

 そう言いながら、また差し出される片手。

 それに向かって、僕達は止まる事も出来ず進んで行き……

 

 

 

 

 

 

 ————そのまままた二人の横を通り過ぎてしまった。

 

 

 

 

「「……………………」」

 

「「……………………」」

 

 ……互いに一瞬無言になり。

 

 

「……止まりなさいよお兄ちゃん達ーっ!!」

「お、お兄ちゃん待ってーっ!」

 

「えー……」

 

 また前方に現れたらと思ったら、無茶な事を言われた。

 

「あの幼女達、馬鹿なんですかね?」

 

 肩に担いだキャスターが、呆れたように呟いたのが聞こえた。

 

「ちょ、ちょっと! ホントに止まってよ! こっちがいくら、一瞬で移動出来るからって、お兄ちゃん達が止まらないとこっちも転移し続けるしか無いじゃないっ!!」

「いやー、そう言われても……こっち氷の上を滑ってるから止まる方法ないし」

 

 滑り続けている僕を追走するように、横からアリスが走りながらそう言ってくる。

 全力で走っているようで、その呼吸はもう息切れ状態だった。

 それでも移動スピードは僕達の方が上のようで、段々距離が離されて来たらまた近くに転移して来て、再び追走を繰り返し……って、追“走”?

 

「って、走ってる!? ありす達、氷の上を走ってるの!?」

「はあっはあっ……そ、そうよ、凄いでしょ!」

 

 よく見たら、滑っているのではなく、本当に氷の上を走っている!

 まるで普通の地面の上を走るように、ザッシュザッシュッと音を立てながら軽快に走って……あれ、音?

 

「……ちょっとそこの白い幼女。あなた、それ何履いてます?」

 

「え? これ? えっと……

 

 

 

 “スパイクシューズ”!」

 

 

 

「「そっちか!?」」

 

 確かに良く見たら、ありす達の靴の裏にトゲ付いてる!

 しかも割とがっしりとした靴で、本格的な奴!

 

「いいでしょ、これ! アリスが作ってくれたの」

「いや、いいでしょって言うか、何でそっちがスパイクシューズ!? 普通やるとしても逆じゃない!?」

「そうですよ!! そっちは巨人の方で、むしろあなた達がスケート靴でしょう、イメージ的に!! メルヘンさが無くなってますよそれ!?」

「だってありすが……」

 

「あたし、スケート滑った事一度も無いから……」

 

「って、言うから!」

 

 ええー……

 いやまあ、それなら仕方ないっちゃあ、仕方ないけどさ。

 何て言うか、何故か幻想を打ち砕かれた気分……

 

「とにかく、止まりなさいお兄ちゃん達! ここであたし達と遊ぶの!」

「はあ? 嫌に決まってるじゃないですか。このまま逃げ続けさせてもらうに決まってます、遊びたければ後ろの愉快なフィギュアスケーターと一緒にどうぞ」

 

 ハンッとアリスに挑発するキャスター。

 ……けど担がされた状態で言ってかなり格好悪いと思う。

 

「むうーっ! いいわ、そっちがその気なら……」

 

 そう言ってアリスはまた転移して、前方の離れた位置に現れる。

 その右手は大きく上に掲げていて、その先には……!

 

「火の玉!?」

「力づくでも止めるんだから! 火吹きトカゲのフライパンッ!!」

 

 そう唱えて振り下ろし、目の前に大きな炎の塊が襲いかかって来た!

 あれは確か、以前一緒に戦った時に使ってた……!

 

「うわッ!?」

 

 僕はとっさに壁にスキルを放って、紙一重の差でそれを躱す。

 けれど、流石に火の玉だけあって近くを通っただけでかなり熱い!

 直撃したらヤバい。一発目はなんとか回避出来た……けど、

 

「あはは! ほらほら、どんどんいくよー!!」

「くっ! この!!」

 

 まるで弾数の制限などないかのように、さらに大量の炎のスキルを放ってくる!!

 まるで炎のマシンガンだ! 一瞬で辺りを埋め尽くされてしまう!

 何とか隙間を縫って行くように躱しながら、前に進んで行く!

 

「っ追いつい————!」

 

 そして、やっとアリスの立っている場所まで辿り着き、手を伸ばそうとして……

 

「まだだよ♪」

「くあっ!」

 

 また直前で転移されて逃げられた!

 しかも、アリスのいた背後にはまた階段!

 

「くうッ!」

 

 さっきと同じように、そのままのスピードで階段を飛び出し、踊り場の壁を蹴って直接下の階へ飛び移る。

 二回目だったから、今度はさっきより上手く着地出来た。けれど……

 

「無駄よ。もうお兄ちゃん達は、逃げられないわ」

 

 そう、着地した先には、すでにアリスの姿が。

 あの転移がある以上、完全に振り切らない限りどこへ行っても先回りされる!

 

「さあ、お兄ちゃん。終わりよ」

 

 そう言って、さっきと同じように炎を掲げるアリス。

 いつ投げられても避けられるように、準備をして……

 

 

「——ただし、やるのはあたしじゃなくて」

 

「ッ……火吹きトカゲのフライパン!!」

 

「っ! しま……ッ!?」

 

 背後からスキルを放つ声が聞こえて来る!

 アリスに気を取られ過ぎていた、さっきからありすがずっと背後にいたままだ!

 完全に挟み撃ちにされた状態……

 もう直ぐそこまで迫って来てるのが感じられる、避けられない!?

 

「さあ、これで……!」

 

 

 

 

「おや、誰かお忘れじゃありませんか?」

 

 

 

 そう担ぎ上げた彼女の声が聞こえた。

 その直後、ゴオッ!! と炎の塊が何かに遮られたような音が辺りに響く。

 

「キャスター!」

「ふふん♪ ずっと後ろを見ていた私が見逃すと思いますか?」 

 

 そうキャスターが言うと、僕達の周りをキャスターの鏡がクルクルと回った。

 そっか、これで防いだのか! これ盾にもなるんだ!

 

「あんな白いロリッ子のスキルくらい、私の鏡で防ぎきれます。逃げている私達を追いかけるように撃って来てますから、速さも相対的に落ちていますし」

「む〜……!」

 

 得意げになって言うキャスターの言葉に、アリスの方はほっぺを膨らませて悔しそうだった。

 

「……ま、実際防げたのは白い方が威力を押さえ気味にしていた、というのが大きいですが」

「え?」

「……とにかく! 後ろの方からは問題ありません! ご主人様は前方からの黒い方の攻撃だけを集中して下さい!!」

「う、うん! 分かった!!」

「後、一刻も早くこの幼女等を振り切って、迅速に休息を! でないと、私のヒロイン力がそろそろ限界にウップ……」

「うん本気で急ぐね!?」

 

 そうして、僕達は挟み撃ちの状態で攻撃を防ぎ、避けながら城の中を滑り続けて行った……

 

 

 ★☆★

 

 ……一方、セイバー達。

 

「っええーい!! 一体どこまで行ったと言うのだ、奏者達は!!」

「セイバー、あまり大声を出すな。もし敵に聞かれたら、我々の現在位置を知られてしまうぞ」

 

 彼らは今、地下三階……いや、この城で言う最上階から三つ下までやって来ていた。

 立つ事もままならない氷の上を、壁伝いに進んで行く事でなんとかゆっくりと移動出来ている。

 

「む、むう、済まぬ……しかし、このままでは一向に奏者達と合流出来ぬぞ。一刻も早く、この剣を届けなくてはならぬというのに!」

 

 そう焦る声を出す彼女の手には、明久が落としたヴォーパルの剣がしっかりと握られていた。

 どうやら階段の途中で引っかかっていたのを、彼女達が見つけて拾ったらしい。

 

「こんな時に、端末が二つあれば……!」

「そうだな……元々マスターが持っていた物は壊してしまったし、バイト用のサブ端末は、今はキャスターに預けていた筈だ。連絡が取り合えれば、互いの正確の位置もすぐに把握出来たものの……」

 

 だが、無い物はしょうがない……

 今現在の手持ちで、何とかするしかないのだから。

 

「どのみち、このままの移動速度ではマスター達に追いつけそうにないな……何か策を考えねば、先にマスター達が敵と鉢合わせてしまう。いや、もしかしたらもう既に……」

「不吉な事を言うな! それより、早くその策とやらを考えろ!」

「とは言ってもな……氷の上のせいで動きが制限されているし、壁などを蹴って滑って行こうにも、途中で止まるのが関の山だしな……」

「アーチャー、そなた確か“投影”があったであろう? 魔力不足とは言え、一回は使えるのではないか? それなら、氷の上を動く乗り物などを出せれば……」

「仮に使えたとして、何がある? 正直何を出せばいいのか、すぐには案は浮かばんぞ?」

 

 そう言って、アーチャーとセイバーはうーん……と唸る。

 ここでスケート靴などといった発想がすぐに思い浮かばないのが、ありす達こどもの柔軟な発想力との違いか。

 そうしてアーチャーが達が悩みに悩んだ結果、ふともらした言葉が……

 

「いっその事、“さっきのマスター達みたく途中の階段を転がり落ちてみる”か? うまくいけば、滑り台みたいに勢いがついて、氷の廊下も一気にスイーッと……なんて」

 

 

「そ れ だ」

 

 

「……え?」

 

 

 ★☆★

 

 

「ホラ! ホラホラ! ホラホラホラホラホラホラホラホラァッ!!」

「うあ! 擦った!?」

 

 アリス達の猛攻は、さらに激しくなって行く。

 もう何階この城を降りて行ったんだろう……既に十数階は降りてる気がする。

 そんな思考もする暇もなく、すぐに次の攻撃が迫ってくる!

 

「うえぇ〜……ご主人様、そろそろ本気でヤバいです〜。正直、もう酔いで集中力がガタ落ちで、防ぎきれるかどうかも……」

「頑張ってキャスター! 本気で今は後ろに注意してる余裕無いから!」

 

 もう前のアリスの方しか対応仕切れない!

 そろそろこのジグザグ移動もパターンが読まれて来て、僕が次通るであろう場所にあらかじめ火の玉を出してくるように学習されて来てる!

 このままじゃ……!

 

 

「……あら? そろそろ“ゴール”ね」

「ゴール?」

「ほいっと」

 

 アリスの言葉に疑問を感じる間もなく、一斉に辺り一面が小さな火の海となった!

 

「うなっ!!?」

 

 横に避けるとかそんな次元でなく、こんどは完全に避けるスペースを封じられる!

 このままだと、火の海に突っ込む……!!

 

「こなくそおっ!!」

「うひゃあっ!?」

 

 だったら、上だ!!

 僕はそのままのスピードで、垂直に氷の上でジャンプした!

 真上に対してならあまり滑らないし、キャスターを抱えたままでも十分飛び上がれる!

 

 そのまま僕は小さな火の海も飛び越え————“謎の柵ごと越えてしまった”

 

 その先は、何も無い——

 

「え————な!? しまった!?」

 

 まさか、外? ベランダかテラスか何か、越えちゃった!?

 さっきの一面の炎は、この柵を隠す為のカモフラージュ!?

 駄目だ、落ちる————ッ!!

 

「くッ!! キャスターッ!!」

「はい!?」

「君だけでも、ッらあっ!!」

「は、へ? えええ————ッ?!」

 

 空中で無理矢理後ろに向き直り、肩に担いでいたキャスターをそのままぶん投げる!!

 悲鳴を上げながら彼女は飛んで行き、今飛び越えた柵の向こう側に入ったのが見えた。大丈夫、火はもう消えてる!

 けれど、代わりに僕はそのまま落下して行き……

 

「あああぁぁ——————————……ゴッ?!」

 

 そのまま下の方の床に頭から落ちた。

 

「つ、ぐ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!??」

 

 もうかなりの衝撃だった。正直、めちゃくちゃ痛い。

 まあ、召還獣と融合していたおかげか、普通は即死のダメージだったけどなんとか大丈夫だった。

 でも、やっぱり痛い物は痛く、声にならない悲鳴をしばらく上げてしまったけど。

 

『つう……ご、ご主人様ぁっ!! 大丈夫ですかーッ!?』

 

「な……何とか大丈夫! それより、ここは……」

 

 上の方からキャスターの声が聞こえて来た。

 見上げてみると、柵の所から上半身を出すようにしてこっちを心配そうに見下ろしている。

 良かった、向こうもなんとか無事そう。

 

 ……大体、2〜3階位かな?

 そこそこの高さから落ちたらしい、一体この場所は……

 

「何、ここ? 何にも無い……」

 

 辺りを見渡してみても、本当に何も無い、だだっ広い空間だった。

 一応は室内らしいけど、相変わらず床は氷漬けで、壁から壁までの距離も尋常じゃない位かなり遠い。

 まるでちょっとした氷のグラウンドだ。

 

 

「そう、ここがゴールよ。お兄ちゃん」

「あ……っ!!」

 

 いや、あった。

 僕が落ちた場所からみて右の奥の方に、大きめの階段が。

 そしてその端に立つように、ありすとアリスがそこにいた!

 

「ここが最終下層、もう下へ行く階段なんて無いわ。鬼ごっこはここまで……あの子もやっと追いついたみたいだし」

 

 

「■■■■■——ッ!!」

 

「ジャバウォック……ッ!!」

 

 その階段から、一度振り切った巨人がとうとうやって来てしまった。

 相変わらず転がり落ちながらだけど、床に付いたとたんゆっくりと立ち上がろうとする……それがまるで、最後の猶予のように感じられた。

 

「……お兄ちゃん」

「さあ、お兄ちゃん。最後に、怪獣ごっこでもしましょう?」

 

「……ッ」

 

 ヴォーパルの剣も無いまま、逃げ道も無い、壁も少ない。

 完全に、追い詰められた……!

 

「■■■■■■——ッッ!!!」

 

 そして無慈悲に、ジャバウォックの咆哮が当たりに鳴り響く————

 

 

 ★☆★

 

 

「ご主人様ぁーッ!? くっ、このままでは……!」

 

 下の階層で、ジャバウォックが例のスケート靴の移動でご主人様に襲いかかって行く。

 ヴォーパルの剣を持っていない今じゃ、ご主人様に対抗する術はありません。

 とにかく今は、逃げ切るしか無いのに……

 

『■■■■■——ッ!!』

 

『うわあーッ!?』

 

 ご主人様が、あの巨人の拳圧で吹き飛ばされた!

 しかし、氷の床のせいで踏ん張りが利かないのが逆に幸いしたのか、直接拳に当たる前に衝撃波で直ぐ飛ばされてしまうのでダメージはさほど受けてはいなさそう。

 ある意味それは、不幸中の幸いと言えるかもしれないけれど……

 

『クソっ! ウォールブレイク・インパクト!!』

『無駄よ! 回り込みなさい、ジャバウォック!』

 

 そう、それ以外が完全にこっちが不利だった。

 ご主人様の氷の上の移動方法は、あの壁を利用したスキルだけ。

 けれど、こんなだだっ広い部屋じゃ別の壁に辿り着くまで時間がかかる……それまでずっと直線の移動しか出来ない!

 しかも瞬発的な速さならともかく、直線中の移動をしていたら空気抵抗でだんだん遅くなって行ってしまい、あの巨人のスケートですぐに回り込まれてしまう! そしたらまた殴り飛ばされ、その繰り返しです!

 

 文字通り、完全に袋のネズミです……このままじゃ、やられるのは時間の問題!

 

「どうすれば……ッ」

 

 私も直ぐに下へ降りようかと思いましたが、今の私のステータスじゃここから飛び降りたら良くて骨折、最悪……どのみち、無理でしょう。

 向こうの階段から行こうとしても時間がかかるし、その直ぐ近くにあの幼女達が立っている……私だけじゃ対抗出来ない!

 それに、例え今私が下にいったとしても、足手まといにしかならないでしょう。

 ……肝心な時に、役に立てない。その現実に、心が押しつぶされそう……

 

「っ何を弱気になってんですか、私! 今はそれどころじゃないでしょう!!」

 

 ご主人様がとっさに庇ってまで、私を上に残してくれた……なら、ここでしか出来ないサポートをするのが、私の役目!

 けど、それは一体どうすれば……

 

 

 

 

 

 

『アッハッハッハッハっ!! 待たせたな、皆の者!!』

 

 

 

 

 そう絶望しかけた時、私達の“希望”がやって来た。

 

「セ……ッ」

『セイバーッ!?』

 

『えっ!?』

『なッ!?』

 

 ここにいる全員が、彼女の声に振り返る。

 あの階段の上から、私の大切な仲間で、親友の彼女が降りてくる。

 

『奏者ッ! キャスターッ!!』

 

 その手には、希望の剣を携えて————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いだだだだだだだだだぁッ?! 段差が連続して、あがあッ!!?』

 

 

 

 その足下には、紅い紅茶を下敷きにしていた————!!?

 

 

 

 

『『『「って、えええええええええええええええええええッ!!!??」』』』

 

 

 その光景に、私達は全員一人残らず驚愕した。

 だって、完全にアーチャー下敷きですもの、踏まれちゃっていますもの!?

 その状態で、まるでサーファーのように階段を滑り降りて来ちゃってるんですけど!! 

 それももの凄い勢いで!!

 

 

『ちょっと何やってんのさセイバーッ!?』

 

『ふはははは! 聞いて驚け、“サンタクロース大作戦だ”!!』

 

『いや全然意味分からないけど!?』

 

 全く同感です、何故にサンタクロース!?

 

『良いか! サンタクロースは、プレゼントを良い子に届ける為にソリに乗って移動していた! それに習い、余もこの剣を奏者に届ける為にソリに乗ってやって来たのだ!! ほら、二人とも赤いし!』

『いやソリって言うかそれアーチャーッ!?』

『そしてこの状態であれば余は足を滑らせる事も無く、さらに階段の所に行けば、あたかも滑り台を滑るがごとく移動し、そのままの勢いで氷の廊下も移動出来るのだ!! どうだ、凄いであろう!?』

『凄いのは赤いお姉ちゃんの頭の中だと思うわ、別の意味で!』

 

 激しく同感です!! それ完全にアーチャーさんがダメージ受けまくっていますし!!

 しかもここに来る途中、いくつか曲がり角があった筈なんですけどねえ!?

 ていうかよく見たら、アーチャーさんの顔面ボコボコなんですけど!? 

 絶対何度も壁にぶつけていますよねえ!?

 

 

『ズガガガガガ……ッ!!?』

『とにかく奏者! 受け取れえっ!』

 

『えー……まあ、うん』

 

 微妙な顔をしながらも、ご主人様は受け取ろうと両手を前に差し出して待って、それに対しセイバーは剣を渡そうと滑りながら準備しようとして……

 

 

 

 

 

 

『って、ちょ!? 通り過ぎたんだけど!? 行き過ぎ行き過ぎ!!』

 

『アーチャー、何をやっておる!? ブレーキ、早くブレーキぃッ!!!』

『んなもんあるかあああああああああああああああああああッ!!!』

 

 

 

 

 そのままご主人様の横を通り過ぎて行ったぁ——————

 

 あっれー? 何故かすごいデジャブなんですけど? 主につい先ほど。

 

 

『くうッ!! やはりソリはトナカイに引かれなければいけなかったのか! だから先ほど投影で出そうと申したであろう!!』

 

 そういう問題じゃねえ。

 

『そんなもの出せるかあ!! 基本剣系オンリーだ馬鹿者おおおおおおおおおお!!』

『アーチャーッ!? 前、壁ぇっ!!?』

 

『『あああああああああぁぁぁ——————————っ!!!??』』

 

 

 そんなこんなしている内に、馬鹿二人はそう悲鳴を上げながらそのまま突き進んで行き……

 

 ゴンッ!!

 

『『キュウ……ッ』』

 

 っと、仲良く壁にぶつかって気絶しましたとさ♪

 

 

「ってあんたら何しにやって来たんですかあああああああああああああああああああッ!!???」

 

 

 何、漫才ですか、漫才でもやりに来たんですか、笑わせに来たんですか!?

 ええ、それなら笑って上げますよ、心の底から笑って上げますよ! あっはっは!! バーカ!!

 ていうか、ヴォーパルの剣っ!? あっ、セイバー達の直ぐ近くに転がってる!!

 

『あー、もうッ!!』

 

 そう彼女達のアホさに憤りながら、ご主人様はなんとかヴォーパルの剣を回収しようとセイバー達の近くに行こうとする。

 

『させないわよ!』

『■■■■■——ッ!!』

『クソっ!!』

 

 けれどそんな事をロリッ子達が許す筈も無く、直ぐにご主人様はジャバウォックに行く手を阻まれる。

 そして、剣は————

 

『うー、よいしょっと……』

『残念だったわね。これは私達がもらっておくわね』 

 

「あのロリッ子共……ッ!!」

 

 ムカつく事に、例の転移で簡単に先回りされ、あの幼女達に奪われてしまった!

 このままでは、ジャバウォックに対抗する手段が完全に無くなってしまう!

 

『うう〜……アリス、これ凄く重いわ』

『そうねありす。まあ剣だからあたし達には重いわね』

『じゃあ返して、よッ!!』

『嫌よ、っと!』

 

 ご主人様がなんとかジャバウォックの攻撃をかいくぐり、あの幼女達から奪い返そうとしても、また転移ですぐ逃げられてしまう!!

 そしてまたあの巨人に攻撃され……まるで打つ手がありません!!

 

『あはははははははっ!!』

 

 あの黒い幼女の不快な笑い声が、辺りに鳴り響く。

 彼女達に取っては、まるで足下でもがいているアリを踏みつぶすような遊びにしか感じていないんでしょう。

 それが、とてつもなく悔しい……

 このままでは、ご主人様がやられるのは完全に時間の問題でしかない!!

 

「せめて、ご主人様が氷の上でも自由に移動出来るようになれば……」

 

 そうすれば、ご主人様のステータスならなんとでもこの状況を覆せる筈なのに!!

 もしくは剣さえ受け取れていたら!!

 ああもう! この最悪な状況になったのはあのバカコンビのせいでもあるのに、いつまで呑気に寝ているんですか!!

 サンタクロース大作戦とかふざけた事なんか言っちゃって————……

 

 

「————あ、れ……? 何か、引っかかる……?」

 

 

 あの馬鹿コンビ……セイバー達のことを思い返した瞬間、何かが頭の片隅に引っかかりました。

 彼女の言っていた言葉……

 

 

 ————“くうッ!! やはりソリはトナカイに引かれなければいけなかったのか! だから先ほど投影で出そうと申したであろう!!”

 

「やはりソリは、トナカイに引かれ……“引かれて”?」

 

 

 …………あ。

 

 思いついた。今の私に出来る、最高のサポート。

 

 セイバー、先ほどのバカという言葉は撤回します。

 あなたは、最高の置き土産を残してくれました……ッ!

 

 

 ★☆★

 

 

「……さあ、とうとう追い詰めたわ。お兄ちゃん」

「■■■■■——ッ」

 

「はあっ……はあっ……くッ!!」

 

 部屋のど真ん中。何も無いその中心に、ぽつんと取り残されてしまった。

 氷の足場のせいで、僕だけの力じゃすぐにその場から動けない!

 

「…………」

「今度こそ、お別れね」

 

 ありすは、僕の方を黙ったまま見つめて来ている……

 対してアリスの方は、そう止めの宣告をした。

 

「さあ、振り下ろしの攻撃ならもう避けられないでしょ!!」

「■■■■■■——ッッ!!!」

 

「……っ」

 

 咆哮を上げて近づいたジャバウォックが、僕に止めの一撃を振り下ろそうとする。

 さっきまでとは違い、こんどは衝撃を逃がす場所が無い……完全に詰み。

 そう僕が、覚悟しようとしたとき……

 

 

『ご主人様ぁーッ!!』

 

 

 キャスターのその呼び声と、同時に何かがこっちに飛来して来た。

 あれは……“キャスターの鏡”?

 

『掴んで下さい! パァースッ!!』

 

「へ、えっ?」

 

 もの凄い速さで近づいたソレを、言われた通りとっさに掴み、

 

「うあえええええぇぇぇぇ————————ッ!??」

 

 そのまたもんの凄い勢いでそのまま引っ張られて行った!?

 

「■■■■■——ッ!?」

「嘘っ!?」

 

 体ごと引っ張られたおかげで、その場から僕はいなくなり。

 結果的に、僕はジャバウォックの攻撃を回避する事が出来ていた。

 

『あーはっはっは!! みたか! これが“サンタクロース大作戦・改”ッ!! 自力で氷の上を動けないなら、何かに引っ張られればいいんじゃね? という逆転の発想です!』

 

「サンタクロース大作戦・改ですって……!?」

 

 キャスターのその言葉に、アリスが驚いたように呟く。

 そっか、僕がソリで、この鏡がトナカイ。

 まるでサンタクロースがやって来るように、僕も鏡に引かれて氷の上を移動出来る!!

 

『本来なら人を長時間引き続けるような力は出せないんですが、そこはさっきまで散々苦しめられた氷の上! 滑るおかげで半分以下の力で引っ張れます!! これで条件はそっちのスケートと五分! やっちゃって下さいご主人様!!』

「うんッ! いくよッ!!」

 

 そう掛け声を上げ、同時にキャスターの鏡に引かれてありす達のもとへ向かって行く!!

 

「させない! ジャバウォック、止めなさい!!」

「■■■■■■——ッッ!!!」

 

 アリスの呼び声に、背後からジャバウォックが追いかけてくるのが分かった。

 くっ、やっぱり移動速度は向こうのスケートの方が若干速い! このままじゃ追いつかれる!

 

『だったらこれならどうですか!! ご主人様、壁際に寄せます!!』

「っ! そっか、なるほど!!」

 

 キャスターの考えを理解した瞬間、彼女の行った通り壁際近くまで引かれて行った。

 そこで僕は鏡を離し、壁に向かって斜めに滑って行き……

 

「ウォールブレイク・インパクト!! からのぉ……」

 

 さっきのように壁に向かってスキルを放つ!

 そして、その反動で壁から離れて行ったその先には……

 

「鏡に向かって、インパクトォッ!!」

 

「んなっ!?」

 

 先に回り込んでいたキャスターの鏡に対して、スキルを放つ!!

 インパクトの反動の条件は、殴った相手が自分より重い、つまり“その場所に固定されている場合”!

 キャスターの鏡なら、空中の好きな場所に固定出来る!

 そのまま僕はまた反動で壁に向かって進んで行き、その繰り返し!!

 

「これで、擬似的に廊下の時と同じ状態だ!」

 

 しかも今度のは、壁と壁の広さが自由に調節出来る。つまり、常に最高のタイミングでスキルを発動出来る!

 こっちの方が瞬間的な速さは遥かに上だ!!

 そのままジャバウォックを振り切り、ありす達の方へ向かって行く!

 

「このぉ! 火吹きトカゲのフライパンッ!!」

「無駄だよ!! もうその攻撃は当たらない!!」

 

 近づいた瞬間、アリスがまた例の炎の塊を連続で撃って来たけど、もうそれは通用しない!

 壁伝いの移動を止めてまた鏡を掴み、それに引かれて行きながら炎を避けて行く!!

 キャスターは上の方からみて操作しているから、攻撃の起動がバレバレだ!

 しかもさっきと違い、今度は鏡のおかげで小回りも利いてさらに避けやすい!!

 

「くっ! こうなったら、一旦引いて……」

「きゃあっ!?」

「っ!? ありす!?」

 

 アリス達がまた転移しようとしたとき、ありすの近くに何かが飛来して刺さった!

 それに驚き、ありすは持っていたヴォーパルの剣もその場に落としてしまう!

 刺さったソレは……“矢”!?

 

『あなた達の考えている事など、お見通しです。ご主人様の方に意識が向き過ぎでしたね。一応私、“いけすかないイケメン”から借りている狙撃手段も持っていたので』

 

 キャスターの方をチラッとみると、その腕には緑の弓!

 端末から出して使ったんだ!

 凄い、さっきまでの不利な状況が嘘なように、全てがこっちに優勢になっていく!!

 

「返してもらうよ、コレ!」

「あっ!?」

 

 アリス達が怯んでいるうちに、落とした剣を拾い上げて離脱する!!

 これで対抗策は取り戻した!!

 

「■■■■■■——ッッ!!!」

「ま、待ちなさいジャバウォック!?」

 

 僕が剣を取り戻した直後に、背後からジャバウォックが追いついて来た!

 けど、もう遅い!

 

「キャスター!」

『はいッ!』

 

 彼女に呼びかけ、僕は引かれていた鏡を前方に投げる。

 そしてその場所で、彼女が鏡を固定……

 

「いくよ。キャスター命名、インパクトの移動を利用した攻撃……!」

 

 片手に剣を構え、もう片方の腕で振り向き様鏡にスキルを放つ。

 そして、一瞬で移動し——

 

 

「電光石火ァッ!!」

 

 

 すれ違い様、一閃。

 

 そして……

 

 

「……■■■■■■——ッッ!??」

 

 

 片足を切り落とされ、倒れる巨人。

 その姿は、ただ切り落とされたダメージだけでなく、体全体がバグッたように“存在がブレていく”

 もうアレは、動かない。

 

「す、ご……!?」

『あの錬金術師、とんでもない物を作ってくれましたね……』

 

 背後で動けなくなったジャバウォックをみて、改めてラニ特製のこの剣の凄さを思い知った。

 まるであの体に通用しなかった攻撃が、バターを切るよりスラリと通っていった。

 見た目は簡単に折れそうなのに、たった一太刀でこんなに効果が……!

 

 

「ジャバウォックが……倒されちゃった……?」

 

 呆然と、今見た光景を信じられないように呟いたありすの声が聞こえた。

 みると、僕とジャバウォックを見比べるようにこっちを見ている。

 

「……ありす、もう君たちの切り札は倒した。……終わりだよ」

「終わり……」

 

 僕のその言葉に、彼女はそう返事するように呟く。

 ……そう、このまま戦い続けても、もう結果は分かっている。

 

 これ以上戦う必要は、もうない————

 

 

 

 

 

 

 

「————まだよ」

 

 

 

 

 

 ……その考えを打ち払うかのような、冷たく、闘志が剥き出しな声が聞こえた。

 黒いアリスが、ユラリとその場に立ち……

 

 

 

「まだ、終わってなんかいないんだからぁッ!!」

 

 

 

 

 

 ————永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)

 

 

 

 

 彼女がそう唱えた瞬間、アリスを中心に辺りが“嫌な感覚”に包まれた!?

 

 

『これは……っ!? あの黒いロリの魔力が上がってる!? さっきまでとは桁違いです!!』

 

「——“冬の野の白き時”」

 

 続けてそう呟いた瞬間、彼女の掲げた手に今度は強烈な風の渦が集まった!!

 炎だけじゃ無かったのか!?

 そして、その腕を“ある場所”に向けて……

 

「■■■■——ッッ!!?」

 

「ジャバウォック!?」

 

 なんと、僕じゃなくジャバウォックに向けて放った!?

 驚く僕達をよそに放たれたその強風は、巨人を包み浮かび上がらせた!

 アリスの腕の動きに合わせ、ジャバウォックはどんどん浮かんで行き、天井近くまでいった!

 

「ジャバウォックは、もう戦えないわ……しばらくは、再召還も出来ない。だから……」

「一体、何を……」

 

 

 

 

 

「————割りなさい、ジャバウォック」

 

 

 

 

 その一言とともに、アリスの腕が勢いよく振り下ろされ、ジャバウォックも落下した!

 僕達の真上ではなく、全く見当違いな所に何故か落とした。

 それを理解する前に、巨人は氷の床に衝突……

 

 轟音とともに、ひび割れる床と、飛び散る破片。

 

 

 

 

 そして…………舞い上がる“水しぶき”

 

 

 

「は————え? なあッ!!?」

 

 目の前の信じられない光景に、素っ頓狂な声を上げて驚愕する。

 巨人が落ちて割った所から、何故か水が出て来たのだ。

 

「何で水が! この城って床が凍ってたんじゃ!?」

『ご主人様!! もしかして、このだだっ広い部屋って……っ!』

「ま、まさか……」

 

 

 

 

 

 

 

『「“巨大な、室内プール”ぅ——————————ッ!!???」』

 

 

 

 

 

 

 凍っていたのは、プールの水! しかも、表面だけ!?

 この立っている場所は、大量の水の上に出来ていた!?

 

 

「さあ、お兄ちゃん……ここからが、本番よ!」

 

 

 ありす達との戦いは、まだ終わらない……

 

 

 

 

 

 

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