Fate/Extra Summon (バカテス*Fate/Extraクロス)   作:新月

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三回戦終了 そして……

 

 

 ……その声は、どちらの物だったのか。

 僕とアリスは、同時にありすに向かって駆け出した。

 けれど————

 

「————ッなん、だよッ!!」

 

 ありすの元に辿り着けたのは、アリスだけ。

 僕の目の前には、例の壁が現れ行く手を阻んだ。

 

「あああぁぁっ! っぅ!?」

「ご主人様!?」

 

 苛立ちを全てぶつけるように、凍った腕のまま拳を振り上げスキルを放とうとする。

 けれど、スキルを放とうとした瞬間、さっき感じた“ブレ”がまた再来し、魔力が乱れる。

 

「そんな、魂そのものが乱れている!? 淀みや汚染ならともかく、こんな現象みたこと————っ」

「あり、すぅッ!!!」

 

 ブレが起こるたびに、意識が薄れかけていく。

 それを跳ね退けるよう、声を張り上げながら壁の向こう側のありす達に呼びかける。

 

「ありすっ! ありす!!」

「……あ……っ……」

 

 アリスが倒れたありすを抱えている。

 けれど、ありすの方は胸から血がドクドクと流れて行き、同時に体の崩壊が始まっていた。

 もう、彼女は長くは、無い。

 

「そっか……終わり、なんだね」

 

 ありすは抱えられたまま、静かにそう言った。

 その声に乗せられた感情は……悲しさや、寂しさ。

 

「なんで……どうして?」

 

 アリスはありすの手を握りながら、そう悲痛な声を上げる。

 ギュッと握りしめられたその手を、決して離さず。

 

「やっと、見つけたのに……あたしだけのありすを、居場所を、幸せを……それだけでよかったのに。ずっとこのままで、ずっとずっと。それだけで、よかったのに……」

 

「……っ」

 

「なんで終わっちゃうの……? どうして、こんな小さな幸せも持ってられないの?

 

 その独白が、胸に突き刺さる。

 その全てを、失わせたのは僕だ。無くさせたのは、僕だ。

 しかも、ただ奪ったんじゃない……今までと違い、僕が直接奪った形じゃなく……

 

 

 ————ありす自身に、その選択を強制させたんだ

 

 

「何が、これ以上戦う必要は無い、だ……!」

 

 思い返せば、ここまでふざけた言葉は無い。

 自分で責任を持とうとせず、ただ彼女達自身に自ら手放すように強制する!

 今更この手がこれ以上汚れる事を惜しくなったのか!?

 

 慎二達の命を奪っておいて! ダンさん達の命を奪っておいてッ!!

 

「ッぅああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 僕はその場で、吠えた。

 自分自身の卑怯さ、最低さ、全てに。怒りを、憎しみを、感情の全てをぶつけるように。

 この選択を、彼女に選ばせた己の存在そのものに————っ!!!

 

「ご主人様、落ち着いて下さい! このままでは、あなた様自身が壊れて————」

 

「……いいんだ、もう」

 

「ありす……?」

「白いちびっ子……?」

 

 ただ静かに、それでも何故かここにいる全員に聞こえるように。

 ありすは小さく、微笑んだ。

 

「うん。お兄ちゃんは、悪く無いよ。だって、あんなに楽しませてくれたもの」

 

「あり、す……」

 

 僕の罪を許すように。この結果を認めるように。

 ありすはただただ、静かな笑顔で微笑んで来た。

 

「あたし、分かってたよ。きっと、何もかもなくなっちゃうって……だって、これは“夢”だから」

 

 夢。それは、戦う前に彼女が言っていた……

 

「本当なら、見る事も出来なかったこのワンダーランド。ここでも最初は一人だったけど、アリスに会って、お兄ちゃん達に会って。楽しさも、幸せも、この手じゃ溢れる位にいっぱいになって。……すごく、嬉しかったんだ」

 

 顔を上げ、思い出すかのようにアリスが言う。

 その表情は、とても嬉しそうに。

 

「この世界は、先生が教えてくれた場所。こんなに幸せな気分になれたのは、みんなに出会えたのは、先生からのプレゼントだったんだ」

 

 彼女の言う先生。

 その言葉を言う度、ありすは何度も懐かしそうに、楽しそうな表情をこぼす。

 

「もう十分過ぎる位、幸せを感じられた……」

 

 だから……そう言って、ありすは僕の方に顔を向け。

 

 

「このプレゼントは、お兄ちゃんに上げるね」

 

 

「え……?」

 

 そんな言葉を、言った。

 プレゼントって、彼女が先生に貰った物を?

 

「……なんでそのプレゼントを、ご主人様に上げるんですか? ご主人様とその先生とやらは、関係無い筈なのでは?」

 

 キャスターが、僕の疑問を変わりに質問してくれた。

 そうだ、僕とありすの言う先生は、何の関係もない————

 

 

 ————本当に?

 

 

「うん、そうだね。一緒に遊んで分かった……お兄ちゃんと先生は、違う」

「ならー……」

「違うけど、どっちも同じ位優しいの。お人好しで、どっちもあたしに沢山の幸せをくれて。……まるで“お日様”みたい」

「お日様……?」

 

 その例え方、どこかで……

 

「……ああ、そっか。お使いの時に、レオを見たありすが言ってたっけ」

 

 ……あれ? 

 けど確か、なんか嫌って言ってたような……

 

「む。違うよお兄ちゃん、全然違う。あの人は“太陽”。お兄ちゃん達とは全く似てないよ」

「え?」

 

 何故か不機嫌気味にありすはそう言って、握られていない方の手を上に伸ばす。

 まるでそこにある何かに届かせるように。

 

「太陽は、近づき過ぎると焼けちゃう。その熱さで、周りに近づいたもの全部を燃やし尽くしちゃう」

 

 けど……そう言って、こんどはその手を僕の方に向ける。

 

「お日様は、どんなに近づいてもただ暖かくて、全てを優しく包み込んでくれるんだ。お兄ちゃん達は、そんな人達」

 

「太陽と、お日様……」

 

「うん。私はそんなお日様が、すっごく大好きで……だから、このプレゼントはお礼でもあるんだ」

 

 そうしてありすは、こんどは祈るような仕草を取った。

 

「先生からあたしにプレゼント、あたしからお兄ちゃんにプレゼント。……そうして幸せを受け継いで行けたら、それはとっても素敵だなって」

「……うん。とっても、素敵だね」

 

 そう答えると、ありすはえへへっと笑う。

 こうしてみても、ただの年相応の女の子にしか見えない。

 

「アリス……ありがとう。あたしと出会ってくれて。あなたがいたから、あたしはすっごく楽しかった」

「ありす……ええ、あたしもすっごく楽しかった。そうね、あなたの先生がいなかったら、あたし達はこうして出会うこともなかった。その事は、感謝しないといけないわね……」

「先生だけじゃないよ。アリスもお兄ちゃんも、狐のお姉ちゃん達もみんながいて、ここまで楽しかったんだから。だれか一人でも欠けてたら、ここまで楽しめなかった」

「ありす……うん、ありがとう」

 

 ありすがアリスにお礼を言う。

 アリスがありすにお礼を言う。

 互いにその頬に、一筋の涙を残しながら。

 

「……そろそろ、お別れだね」

「……うん」

「ねえ、お兄ちゃん。最後に一つ、お願いしていい?」

「……いいよ。何?」

「あたしが眠る時、この本を読み聞かせて欲しいな。先生がよくやってくれてたの」

 

 そう言って出して来たのは、初めてありすと出会った時に、彼女が持っていた本だった。

 ただ、その本はすでにボロボロで、しかも壁の向こう側にある。

 しまった……とありすは呟く。

 

「これじゃあ見れないよね……それに、そういえばお兄ちゃんはバカなお兄ちゃんだから、どのみち読めないか」

「いや……大丈夫」

 

 そう言いながら、僕は背筋を少し伸ばす。

 

「前に、君が読んでくれた部分。あそこだけは、全部覚えてるから」

「本当!? じゃあ、お願い」

「うん。それじゃあ……」

 

 そう言って、僕はスウーッと息を吸って……

 

 

 ★☆★

 

 

 ————とおいむかし。

 

 あたしがまだびょういんでひとりぼっちだったころ。なにもなかったころ。

 

 だれもあたしを見てくれなかった。ひとりだった。いたかった。

 

 だれもあたしを人間として扱ってくれなかった。

 

 ああ、このままひとりぼっちで消えちゃうんだなって……

 

 

 

『————こんにちは』

 

 

 ……そうおもってたときに、だれかがお部屋に入ってきた。

 

 手になにかをもっている……おっきな本?

 

 あたしをみてくれない、いつものおじさん達とはちがう人だった。

 

 

『……あなたは、誰?』

 

『僕? うーん、通りがかりの“先生”かな?』

 

 

 あたしがそう聞くと、その人は少しだけなやんでからそうこたえた。

 

 

『そういう君は? 名前、なんて言うの?』

 

『あたし? あたしは……』

 

 そのしつもんに、あたしは……

 

 

 

 

『————分からないの』

 

 

 

 そう、こたえた。

 

『分からない?』

 

『だって、わすれちゃったんだもの。だれも、あたしのなまえを呼んでくれないから。ずっともう、聞いていないから』

 

 けど、もういいの。

 

 そういって、あたしはまどのそとをみた。

 

『だれもあたしのことみてくれないから、ひつようないの。鳥は鳥で、人は人。あたしはあたし。それで、じゅうぶんだから』

 

『むう。それは困るなあ』

 

『なんであなたが困るの?』

 

『だって、どう君を呼べばいいか分からないじゃないか』

 

 そうだねー……と、その人は言って、気づいたようにその手の本をもちあげる。

 

『そうだ! これを今日、プレゼントの一つとして持って来たんだけど……』

 

 そういって見せてきたその本は、なにかの“えほん”だった。

 

 タイトルは、【Alice in Wonderland】

 

『“不思議の国のアリス”……うん、ちょうどいいかも』

 

 そうつぶやき、あいてる片手をあたしのほうに伸ばしてきて……

 

 

『“ありす”。今日から君の名前は、ありすだ』

 

 

 そういって、あたしのあたまをなでてくれた。

 

 その手は、すっごく暖かかった。

 

 これが、あたしと先生の出会い。

 

 

 ★☆★

 

 

『ん〜、こっち!』

『残念、ハズレ』

『あー!? またババ引いちゃったー……』

 

 あれから数日立って。

 先生は、毎日あたしのびょうしつにきてくれた。

 そのたびに、いろんなあそびどうぐももってくる。

 

『じゃあ次は僕の番ね、っと……うん、こっち。そしてあがりっと』

『もー! なんでー? 先生あたしから絶対ババ引かないよね?』

『ふふん、先生だからさ。ありすの考え何て、お見通しなんだよ』

『ずーるーいー!』

 

 ハハハ、と先生はわらう。

 あたしもそれにつられて、アハハとわらう。

 すっごくたのしい。

 

『さて、次はどうする? 他の遊びもやる? チェスとオセロ……ジグソーパズルもやったから、うーん』

『あれ! すごろくって言うの、やってみたい!』

『すごろくね、よし分かった。ふふーん、驚かないでよ。このすごろくはただのすごろくじゃない、なんと手作り品! オリジナルティーが溢れているんだ!』

『わあー!』

 

 そう言って先生がとってきたのは、大きめの平たい箱に、でっかい文字で【学生ゲーム】って書かれてるものだった。

 いろんな色が使われてて、すっごいカラフル!

 

『さて、さっそくやろうか。コマは……まあ、このお人形でいっか。ありすはこの黒いお人形さん使ってね』

『うん! じゃあ、サイコロ振るね!』

 

 そういって、あたしは思いっきり、けれど遠くまでとんでいかないていどで、サイコロを転がした。

 

『おっ! いきなり6だね』

『うん! えっと、ここから6マスすすんで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……“悪友を生け贄にして、FFF団から逃れる。1マス進む”だって!』

 

 

『4は……“腕十字固めを決められ、ダメージを受ける。2マスもどる”……んん?』

 

 

『こんどは5だ。えっと……あう、“幼馴染にスタンガン食らわされて、檻に入れられる。一回休み”だ……』

 

 

『3……“殺人クッキーの差し入れを断り切れずにいただく。振り出しにもど”ちょいちょいちょいタンマタンマまった』

 

 

 そう言って、先生はなぜか始めたばかりのすごろくを箱につめもどす。

 

 

『やっぱりオリジナルティーとかだめだ。市販のものにしよう市販のもの』

『えー』

『まったくだれだろうねーこんなのつくったの』

 

 早口でそういって全部を箱にもどして、先生はさっさとかたづけようとする。

 その際もちあげたときに、裏に掠れた“pr■d■ce by A K I”の文字が一瞬見えたけど、なんだろう?

 

『しまった、市販の物はないや……しょうがない、ちょっと速攻で買ってくるから、待っててね』

『それはいいけど、先生。一つ、聞いていい?』

『ん? 何?』

 

 

 

 

 

 

『なんでいっつも、窓から出入りするの?』

 

『そりゃあ、ちょっと半不法侵入扱いになっていうんなんでもないよ』

 

 

 

 そう言って、先生はあたりまえのように窓からとび降りていった。

 

 その際に、全く実験素材に近づくなとかふざけんな……とか、ボソボソ聞こえた。

 

 ……そういえば、ここって何階だったっけ?

 

 

 そうしてしばらく、時間が経って。

 

『よし、買ってきたよ。じゃあ今度こそやろうか』

『うん!』

『ついでに室内用エアホッケーとかもあったから、こっちも後でやってみよっか』

『わあ、すっごく楽しみ!』

 

 そうしてあたし達は、今日もあそぶ。

 いつまでも、この日常がつづいていく。

 

 ……そう、おもってたんだ。

 

 

 ★☆★

 

 

『……ありす』

 

『ゴメンね、先生……もう、起き上がることもできないんだ』

 

 あたしを悲しそうな表情で、先生が見下ろしてくる。

 あたしの体は、どんどん力が抜けていく。

 もう、手を上げることもできない。

 

『ほんとは、分かってたんだ……いつかこんな日がくるって。先生と出会うまでは、いつもそんなことしかかんがえなくて』

 

 だから……こわい。

 こんなこと、前までは感じなかったのに……

 あたし(ありす)が、消えるのがこわい。

 

『ありす。僕と出会ってからは、楽しかった?』

『うん! すっごく! あたしの為に、たくさんのプレゼントをくれたり、一緒に遊んだり……ただ』

『ただ?』

 

 

 

『先生と、お外で遊べたら……いっぱい走り回れたなら、もっと楽しかったのかな』

 

 

 今までの遊びは、全部このせまいへやの中。

 このそとで、あたしの足で、とおくまで一緒に走れたのなら。

 それはどんなに楽しいことなんだろうなって。

 そんな心のこりが、ひとつだけ。

 

『……』

 

 そんなあたしを見て、先生はあたしのあたまをくしゃっとなでる。

 

 

『————だったら、“夢を見ればいい”』

 

『……夢?』

 

『そう。夢の中なら、君が望めば自由に動ける、どこまでもいける、沢山遊べる。そして……僕以外の友達も、きっと沢山出来る』

 

『友達……?』

 

『うん。ひとりぼっちどころか、もっと沢山の人と』

 

『出来るのかな……?』

 

『出来るよ。だから、いつかその時が……みんなと遊べる時が来たら、心の底から本気でやって、いっぱい楽しんできなよ』

 

 その言葉に、あたしはうんって頷いて……

 気になったことを、聞いた。

 

『ねえ、先生?』

『何?』

『そのみんなの中に、先生は入ってるの?』

『む。うーん、どうだろう? 君が望むなら、僕が現れるかもしれないし、もしかしたらかなり時間が経たないと、会えないかもしれない。はっきりとは、分からないかな』

『じゃあ……

 

 

 

 

 

 

 ————夢の中で出会えたなら、今度はあたしと外であそんでくれる?』

 

 

『————うん。分かった、約束だ』

 

『うん。約束』

 

 

 そう言って、頭をなでていた先生の手は、今度はあたしのほっぺたにあてて。

 

『先生の手、あったかい……まるで、お日様みたい』

 

『そっか。それはよかったよ』

 

 その心地よさが、気持ちよくて。

 

 ……だんだん、眠くなってきて。

 

 

『……ねえ、先生。最後に一つ、お願いしていい?』

『……いいよ。何?』

『あたしが眠る時、また本を読み聞かせて欲しいな。いつもみたいに……』

『分かった。じゃあ、今日の本のタイトルは、“火吹きトカゲのフライパン”だ』

 

 そう言って、先生が絵本を持って、読み上げようとしてくれて。

 

 ————その声が、不思議と二重に聞こえて。

 

「『“深い深い森の中。石で出来たお家の中に、赤いトカゲが住んでいた。ご飯を作ろうと、大きな大きなフライパンをだしました。いざ食べ物を焼こうとすると、あら大変。マッチが切れてしまったわ。困った困ったトカゲさん、すると彼は、ある事を思いつく。マッチが無いなら、自分で火を吹けばいいじゃない!”』」

 

 

 ————ああ

 

 

「ありがとう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————“お兄ちゃん”」

 

 

 

 

 

 

「ありす……っ!」

 

 

 

 そんな泣きそうな顔しないでよ、お兄ちゃん。

 そっか。お兄ちゃんは先生と違って泣き虫さんなんだ。もう、アリスまで。

 

「ありがとう、みんな」

 

 届くかな。このプレゼント。

 届くよね、絶対。

 

 

「……バイバイ。おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 ————また、新しい夢。見られたらいいなあ。

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 ……ありすが、消えた。

 

 僕達の目の前で、アリスの腕の中で、幸せそうな寝顔をしながら。

 残ったのは、彼女が持っていた、ボロボロの本だけだった。

 

「……あたしはありすの童歌

ナーサリーライム

……いつもあたしは誰かの夢」

 

 ありすのいなくなった腕の中を見つめ、アリスがそう呟く。

 彼女も既に、崩壊は大分進んでおり、いつ消滅してもおかしく無かった。

 

「ほんとのあたしは誰も知らない……次の聖杯戦争で呼ばれたとしても、あたしは今のあたしじゃない」

 

 彼女の座ってる場所に、小さなしずくがポツポツと落ちていく。

 

「あたしはもう、アリスになれないし、ありすに会えない……っ!

 

 

 

 

 ありすの夢、終わっちゃったよおぉ————————……」

 

 

 小さなしずくは、大きなしずくへ。

 その嘆きの声は、高く響いて……

 

 

「っ! ご主人様! あれ!?」

「え? あ……」

 

 横で静かに見守っていたキャスターが、何かに気づき指を指す。

 その指し示したものは、アリスの目の前にある……ありすの本。

 

 

「……え?」

 

 

 その本が光りに包まれていき……

 

 光りが収まったそこには、ボロボロだった事実など無かったように、奇麗な本に変わっていた。

 

「あれが、話に聞いていた謎の光り……ですか? 壁の向こうに閉ざされても、それだけは残るという」

 

 

「これ、は……あたしが、ありすに作って上げた……」

 

 そう言って、その本をアリスが持ち上げていき……

 

「そっか……そっかぁ……」

 

 そう何度も、小さく頷きながら、何かに納得していくように。

 

 

 

「————ありすの夢は、まだ終わっていなかったんだ……!」

 

 

 そう声を、上げた。

 

 

「————持っていって! お兄ちゃん!!」

 

 そう言って、アリスは僕達の方に走ってきて、壁ギリギリのところにその本を置いた。

 今までの二人と、同じように。

 

「これは、ありすの夢……ありすからの、あたし達からのプレゼント!!」

 

 彼女は泣きながら、けれど、力強い目で。

 

「あなたが代わりに見てきてよ……ありすが見る筈だった、夢の続きを! あなたがかわりに、紡いできてよ!!」

 

 彼女の望みを、彼女の願いを……

 

「じゃないと、絶対許さないから……あたし達の繋がった夢、断ち切らせたら許さないんだからっ!!」

 

 

 そう、涙ながらの主張を、僕達に伝えた。

 

「……うん、持っていく。絶対、断ち切るもんか……ッ」

「……全く、ご主人様はお人好しですねー。散々迷惑かけられたのに、その相手の“思い”を持っていくなんて……けど、まあー。私も同意見ですけど」

 

「……ありがとう、お兄ちゃん。狐のお姉ちゃん」

 

 そう言って……ここで初めて、アリスがほっとしたような表情をこぼした。

 

 

「お。ようやく目上の物に対してくそ生意気な言葉遣いが直りましたか。いやーやっとですよ、ご主人様ー。しかし、お姉ちゃんですか……うん、悪く無い響き。ムカつくロリッ子共が妹になるっていうのは、まあ面倒くさいですけど? ご主人様と一緒で呼ばれてるっていうのが、ポイント高いですねー。あ!? ご主人様、今それだと私と兄弟で、結婚出来ないんじゃって思いましたね!! 大丈夫です! 私、近親相愛もバッチコーイッですから!! 呪術使えば、もう大抵の問題はナッシィングな状態でし」

 

「やっぱオバさんでいいわ」

 

「んだとゴラアァッ!!?」

 

「僕もしばらくそう思う」

 

「ご主人様ぁあああっ?!」

 

「く……ふふ…………あははははっ!」

 

 僕達のやりとりをみたアリスが、笑った。

 こころの底から、混じりっけの無い、素の笑顔を。

 

「……ありがとう。やっぱり優しすぎるね、お兄ちゃんは」

 

 しばらくして、呼吸が落ち着いたアリスが僕の顔を見て、そう言ってくる。

 

「この先、お兄ちゃんにとって辛いこと、悲しいこと。もっともっと多く襲いかかってくるかもしれないけど。その優しさのせいで、傷ついてしまうかもしれないけど……」

 

 

 

「……その心、忘れないで。ありすの大好きなお日様の心、ずっと持ち続けて……」

 

 

 そう言った彼女は、小さく笑っていた。

 

「アリス……」

「ていうか、正直言っていいですか?」

 

 アリスがそう言い終わった時、入れ替わるようにキャスターが会話に入ってくる。

 ……あ、嫌な予感。

 

「さっきから、お日様だとか太陽だとか言ってますけどねえ……ぶっちゃけ私、大本が日輪を奉ったもの何ですよ。ぶっっちゃけお日様その物なんですよ!! で、あのいけ好かない御曹司を太陽? ハッ、そんな例え方ありえね〜。てか、認め無〜い。太陽である私が認めません〜。あ、けどご主人様をお日様に例えたのはグッド、ナイスです。それはつまり、ご主人様=私ということ。この結びつきは強固。ノットなんて入りません、てか入れません。数式変形すらさせません! そう、私とご主人様の愛は、永久に燃えるような情熱な」

 

「もう黙っててよ、オバさん」

 

「狐すら取られたッ?!」

 

 ジト目で蔑んだようなにらみで、そう言われるキャスター。

 シリアスブレイカー・堕狐フォックス。

 前にセイバーが、微妙に仕事してないなーとか言ってたけど、ここに来て……

 

「黙って、あたしの願い聞き届けてよ……」

「ハッ、そんなことは百も承知です。わざわざ蒸し返す程でもありません。あなたは私とご主人様を信じてればいいんですよ」

「フフ……ほんとにもう、めんどくさい狐さんだったわ」

 

 お兄ちゃん。アリスにそう呼ばれ……

 

「お兄ちゃん……あたしはここで、消えるけど。あたし達のこと、忘れないで。ありすのことを、忘れないで……」

 

「……うん。絶対、忘れないよ。絶対、忘れるもんか……!」

 

「ふふ……ありがとう。優しい、バカなお兄ちゃん」

 

 

 ……そう言って、アリスは微笑みながら消えていった。

 

 その願いと夢は、確かに繋がったと感じながら。

 

 

「……お日様、か……」

 

 僕はそう、無意識に呟き。

 

「キャスター……本当に、僕はそんな人間なのかな?」

 

「少なくても、私とあの子達はそう思ってますね。確信レベルで。この思い自体は、誰にも否定出来ません。例えご主人様がそう思いましても、決して……」

 

「……そっか。うん、ありがとう」

 

 

 取り払われた壁の向こうに残ったのは、彼女達がくれた“プレゼント”————

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

【アイテムを入手しました】

 

 

 ・キャスターの絵本

 

 ありすが持っていた、古ぼけた絵本。

 持っているだけで、アリスが使っていた炎・氷・風の3種の攻撃スキルが発動可能になる。

 威力は比較的低いが、発動に必要な魔力コストは狐のキャスターが使うのより少なくて済む。

 元々はアリスとなったナーサリーライムが、ありすの自衛を兼ねて作り、彼女に差し上げたもの。

 そのスキル名は、すべてありすが生前“先生”に読み聞かせてもらった絵本のタイトルが元になっている。

 ありすとアリスからプレゼントされた、彼女達の夢の結晶。

 

 

 ――――その心、忘れないで。ありすの大好きなお日様の心、ずっと持ち続けて……

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 

「……っ」

 

「ご主人様!?」

 

 ありすの本を拾った直後、急に目眩がしてふらついて、そのまま尻餅を付いてしまった。

 そんな僕を心配して、キャスターが駆け寄ってくる。

 

「っ……はあ、……大丈夫、だよ。うん、大丈夫……」

「無理をなさらないで下さい……先ほどより落ち着いたとは言え、まだ魂が乱れております。怪我もしてますし、意識がハッキリとしてなさらないんでしょう?」

「うん……」

 

 これがありす達を失ったショックからなのか、それとも何か別の要因なのかは分からない。

 ただ、今はすごく、眠たい気分だ————

 

「安心して下さい。戦いは終わり、後はもう部屋まで戻るだけですから。今の心情は察しますが、それは戻ってから整理しましょう。あのバカ二人を回収したら、すぐにエレベーターまで————」

 

 

 

 

 ————そこまで言った直後。

 

 ズンッ!! と、世界が揺れる。

 

 

 

「ッ!!? 何!?」

 

「わ、分かりません!? この氷の城そのものに、何か大きな衝撃が走ったような————」

 

 なんで……! 戦いはもう、終わった筈でしょ!?

 まだ、何かあるの……!? 

 そう思考していた時……

 

 

 

 ————僕達の周りに現れる、“黒い泥”

 

 

 

「な、何、あれ……? なんか動いてるんだけど……」

 

「わ、分かりませんが……呪い、呪詛、怨念、その他諸々の悪性感情……とりあえず、“あきらかにドロドロとした負の概念をまとめてごった煮にしたような存在”……って感じですね」

 

 とりあえず、一目でヤバいものと分かる通りの物だとは理解した。

 その黒い泥は、何かの生き物なのか脈打っており、すごく不気味だ。

 やがて、それらはバラバラに集まって複数の塊を作り……

 

 

「なあ!? そんな……っ!?」

 

「ご主人様!? あれが何か知って……?」

 

「嘘でしょ……だって、あれじゃまるで……

 

 

 

 

 

 

 ————“召還獣”!?」

 

 

 

 

【国語 “Nightmare”クラス ■■ ■■ 398点】

 

【科学 “Nightmare”クラス ■■ ■■ 254点】

 

【現代社会 “Nightmare”クラス ■■ ■■ 443点】

 

【保険体育 “Nightmare”クラス ■■ ■■ 643点】

 

【数学 “Nightmare”クラス ■■ ■■ 143点】

 

【音楽 “Nightmare”クラス ■■ ■■ 327点】

 

【物理 “Nightmare”クラス ■■ ■■ 285点】

 

 

 

 そこには見知った……かつて文月学園でなんども見た、様々な召還獣が並んでいた。

 

 その体を、赤黒く変色させて。

 

 

「うえっ!? 召還獣って、確かご主人様のいた学園の奴では……!」

 

「そうだよ、けどあれは明らかに異常……ていうか、おかし過ぎるよ!? なんか全体的に変色して、禍々しくなってるし!?」

 

 それに、召還フィールドはともかく、召還者自体が近くにいない。

 遠距離操作は、基本的に出来ない筈なのに……! オートモードって奴?

 それに、あの点数のステータス表示欄だ。

 名前がバグってるし、何より……

 

「“ナイトメア”クラス……? 何それ、僕知らないよそんなクラス!? そんなの見たことも聞いたことも……!?」

 

 ……いや。名前だけなら、一部聞き覚えがある。

 それは、僕がこの月にくる切っ掛けとなった……

 

「確か、【Nightmare servants System】……あのウィルスの仕業!?」

「ウィルスッ!? それは一体……」

「ッ!! 危ない、キャスター下がって!?」

 

 そうして考えているうちに、その黒い召還獣の一体がキャスターに向かって襲いかかろうとする。

 僕は急いで彼女を下がらせ、代わりに前に出て木刀を振り下ろす!!

 

「このッ!!」

 

『……!!』

 

【数学 “Nightmare”クラス ■■ ■■ 0点】

 

 すると、案外もろかったのか、たった一撃でその召還獣の点数は0となり、形が崩れ……

 

 

 ……“その黒い泥が、僕の体に掛かった”

 

 

「っなあッ!?」

 

「ご主人様ッ!!?」

 

 ヤバい。

 触れただけで体中が危険信号を発生させる。この泥は毒だ、危険だ。

 泥に触れた部分から、幾千幾万もの呪詛や怨念が流れ込み、僕の体が、浸食——————

 

 

 

 

「————『【コードキャスト・概念固定】』……えっ?」

 

 

 

 その時。また大きなブレが一瞬起き。

 何故か僕の口が勝手に動いて、知らないコードキャストを発動した。

 そのコードキャストが発動した瞬間、僕とキャスターの体が一瞬光りに包まれる。

 

 

 

「これは、いったつッ!? 熱々あつアツぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅっッ!!!??」

 

「ご主人様ぁッ!?」

 

 疑問に思うのもつかの間、直後泥に掛かった所から火に焼かれたような、ていうかマグマに触れたような熱さがあががガッがガガガガガッ!!!??

 

「つおあああああっぁぁぁぁッ!!!!」

 

 なんとかして体をガムシャラに動かし、遠心力などでその泥を全部振り払った!

 泥に掛かった所は服が溶け、そしてまるで火傷したようなあとが残った。

 

「何これ!? 熱い、火!? 火属性!? 泥っぽいけど、これマグマ!? コレ!?」

「ご主人様、大丈夫ですか!?」

「だ、だいじょ……ウグッ……」

 

 

 ……駄目だ、ただでさえ立っているのも辛かったのに、今のブレと熱で、もうとっくに限界を越えてしまっている。

 意識ももうままならなくなって……

 

『『『……!』』』

 

「や、バッ……」

 

 

 ふらついた僕を狙うように、複数の召還獣が僕に向かって飛びかかり————

 

 

 

 

 

 

「————奏者から、離れろ」

 

「————おとなしく、泥に戻ってもらおうか」

 

 

 

 

 直後、真横から飛来した物体に全て切り裂かれた。

 

 それは、赤い大剣と、二振りの中国刀……

 

 

「っは。遅すぎますよ、あんたら起きるのが」

 

「セイバー、アーチャー……!!」

 

「待たせたな、奏者よ!」

「やれやれ、起きた直後にこれとは……全く、休む暇もないな」

 

 セイバー、アーチャー。そして、キャスターが。

 僕を庇うようにして、目の前に並んで立っていた。

 

「……で、どうするんですか? この状況」

 

 そのキャスターの言葉に視線をずらすと、そこにはさらに集まってきた多くの召還獣がいた。

 数は、30、40……どんどん増えていく!

 

「ふっ、決まっておろう……“戦略的撤退”とか言う奴だ!!」

「格好良く登場した割に、それですか……」

「だが実際、コイツ等を相手にする必要は無いだろう? ……“明らかな異常事態が起こっているのに、セラフが機能していない”。さっさとマスターを抱えて、エレベーターまで逃げるのが得策だ」

 

 目の前で、3人が作戦を立てているのが聞こえる。

 その声に、何も不安は感じなくて。

 

「でも、逃げるにしてもそう簡単にはいきませんよ。さっき見たかもしれないですけど、こいつらを倒して出た泥に触れたら、ダメージを受けます。あなた達二人の剣じゃ、危険ですよ?」

「ハッ、愚問だぞ、キャスター」

「そうだな。だったら……接近せず、攻撃すればよいのだろう?」

 

 そう言って、三人は端末を操作し……

 

 

「借りるぞ、彼の大海賊よ!!」

 

 セイバーの両手には、クラシックな二丁拳銃が。

 

 

「早速使わせてもらおうか、君の力を」

 

 アーチャーの右腕には、緑の弓が。

 

 

「ぶっちゃけ、今回はこっちのほうがコスパよさそうなんですよねえ……」

 

 キャスターの手には、古ぼけた絵本が。

 

 

 かつて戦った、彼らの思いが。

 それぞれの手に、握られていた。

 

 

「奏者、安心するが良い!! ここからは余等に任せろ!!」

 

「何、ただ逃げるだけなら、弱ってる我々だけでも十分だ」

 

「だからご主人様は、今はゆっくり休んでいて下さい」

 

 

 そう言い切った三人は、とても頼りがいがあって。

 

 

 

「ああ……安心した……」

 

 

 

 その三人の背を見たのを最後に————僕の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

【ステータスが更新されました】

 

 

 ■マスター:吉井明久

 

 

<スキル>

 

 概念固定:-

 

 吉井明久が無意識に発動した謎のスキル。

 効果は不明。

 これを発動した直後に、泥からの浸食がなくなり、代わりに熱さを感じるようになったらしいが……?

 

 




 次回、サーヴァント達による氷の城大脱出。
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